消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

新型コロナウイルスの感染者に対する自己責任論が日本人を苦しめている

「他人に迷惑をかけるな」は日本人の美点ではなく恥である

 社会心理学者の三浦麻子氏などの研究グループが今年3~4月に行った意識調査によれば、「新型コロナウイルスに感染する人は自業自得だと思う」という質問に対して「そう思う」(「非常にそう思う」「ややそう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた人の割合は、アメリカが1.0%、イギリスが1.5%、イタリアが2.5%、中国が4.8%なのに対し、日本は11.5%にものぼったことが明らかになった。逆に「全くそう思わない」と答えた人の割合は、アメリカが72.5%、イギリスが78.6%、イタリアが75.6%、中国が61.2%なのに対し、日本は29.3%程度である(図68を参照)。

 『社会保障の充実を阻む「自己責任論」』の記事でも述べた通り、日本はもともと先進国の中で最も貧困問題に対して自己責任論が強く、2007年に行われた国際調査でも「政府が自力で生活できない人を助けてあげるべきか?」の質問で、「全くそう思う」と回答した人はたったの15%と47カ国の中で最も少なかったが、今回の新型コロナウイルスでも改めて日本人の自己責任論が浮き彫りになったと言えるだろう。

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 群馬県内で発行されている上毛新聞(7月30日)には読者の声として、77歳の高齢者のこんな一文が掲載されていた。「他人に迷惑をかけるな―。小学校の時、父や母からよく言われたことが、今でも頭の片隅に残っている。今から約70年も前のことである。当時のクラスの仲間たちも親などを通して、身に付いていた言葉のような気がする。新型コロナウイルスの感染者が7月29日、全国で1000人を超え、危機感を覚え、不安を感じている。最近、感染者の割合は若者が圧倒的に多いことに驚かされる。テレビニュースで『うつっても軽くて済むから』と平然と語る若者の言葉には、重症化しやすい年寄りへの配慮はなく、他者へ感染させないという気遣いさえも感じられないように思える。自分の小遣いをはたいてマスクを寄贈した少女や水害地における高校生のボランティアの話など、他人のために役立とうとする立派な若者も多い半面、自分さえ良ければと考える若者も多いと推測される。日本の将来を担う若者をはじめ、全世代が『他人に迷惑をかけない』をモットーとする日本人の美点を思い起こし、実生活に生かすことがコロナから日本を救う一つの方途だと信じてやまない」。

 

 しかし、この一文には安倍政権が国賓で来日する予定だった習近平に配慮して、3月上旬まで中国人の入国禁止を決断できずに日本で新型コロナウイルスの感染者を5万人以上も増やしたという政治的な背景が全く感じられない。また、この高齢者は「昔の日本人は他人に迷惑をかけないという規範意識を持っていた」とでも言いたいようだが、実際に殺人事件で亡くなった人は2019年が293人なのに対し、高度経済成長期の1955年は2119人にものぼっている。

 図69では1955年以降の名目GDPと他殺による死亡者数の推移を示したが、これを見ると殺人事件の多さから経済的に貧しかった昔の日本人のほうがよっぽど他人に迷惑をかけていたことがわかる。その上、前述の高齢者は水害地でボランティアをする高校生を「他人のために役立とうとする立派な若者」と言うが、ボランティアは給与が全く発生しない「タダ働き」である。そうした国家や地域のために無償労働を行う若者を賞賛しているのは非常に問題だろう。

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 私が様々な方と政治についての会話をしていて感じるのは、消費税引き下げやデフレ期の国債発行に反対するのは圧倒的に60代以上が多いということだ。マスコミが長年、「国の借金で日本が破綻する」というデマを流し続けている影響で、積極財政に拒否反応を示す高齢者が非常に多いのである。90年代以降の日本の政治を振り返ってみても、1930~50年代生まれの政治家や官僚が消費税増税や歳出削減、労働規制の緩和といった新自由主義政策を進めてきた結果、子育て世代が貧困化して少子化が加速する原因にもなっている。今の高齢者世代がこの20~30年間の日本を衰退させてきたのに、国のトップを批判せず「今の若者は自分さえ良ければと考える奴が多い」とバッシングを煽るのは身勝手ではないだろうか。

 更に、最近では地方を中心に新型コロナウイルスの感染者を誹謗中傷する事件が相次いでいるが、これらは「コロナの感染者は他人に迷惑をかけている」という勘違いが招いた犯罪だと推測できる。前述の高齢者は「他人に迷惑をかけるなという日本人の美点を思い起こす必要がある」と述べているが、むしろ「他人に迷惑をかけてはいけない」という意識が日本人を苦しめ、先進国の中でも自殺率の高い社会を形成していると言えるだろう。「他人に迷惑をかけるな」は日本人の美点ではなく「恥」という意識を持つべきである。

 

 

戦後日本を否定して道徳の教科化を煽る自称保守派を許すな

 8月28日、安倍首相が辞任する意向を表明した。だが、そもそも消費税を10%に増税して外国人労働者を大量に受け入れ、公文書まで改ざんした安倍政権が約8年も続いてしまったのは何故だろうか。それは75年間平和を守って、経済成長を続けてきた戦後日本を破壊したい勢力が幅を利かせてきたことも原因の一つだと私は考えている。

 例えば、道徳の教科化を推進してきた教育学者の貝塚茂樹氏は典型的な「戦後日本が嫌いな言論人」である。彼は『13歳からの道徳教科書』(扶桑社、2012年)という学生向けに書かれた本の中で、いきなり「日本が溶解していく」と述べ、その理由として「日本の歴史の中で今ほど家族や社会の結びつきが希薄になった時代はないでしょう」と発言している。しかし、実際には統計数理研究所が実施している日本の国民性調査で「一番大切なものは家族」と答えた割合は1958年の12%から2013年の44%まで増加していて、高度経済成長期より現代のほうが家族の絆は強まっているのだ(図70を参照)。

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 また、貝塚氏は「日本では毎年3万人を超える人が自らの命を絶っており、自殺大国とさえ言われています。それどころか、近年では『身元不明の死者』などの国の統計上では分類されない新たな死が急増しています。こうした傾向は1960年代からの高度経済成長が進む中で顕著となり、家族や地域社会の共同体が徐々に解体されていったことが原因です」と、まるで経済成長と引き替えに日本人の心が貧しくなったから自殺や不審死が増加したと言いたいようである。だが、自殺は完全失業率が改善すれば自然に減少することが明らかになっており、共同体や道徳教育の問題ではないだろう。

 貝塚氏をはじめとする自称保守派は、2011年の東日本大震災で日本人の冷静さや規律正しさが海外から評価されたことについて「戦前の教育勅語のおかげ」だと賞賛する一方で、略奪や風評被害が一部で発生したことについては「戦後の日本が道徳教育を蔑ろにしてきたせいだ」と批判している。つまり、都合の良いことは戦前の日本人の功績で、都合の悪いことは戦後の日本人のせいにしたいわけだ。貝塚氏は「今の日本は『道徳教育が大切だ』という当然のことを口にするのも躊躇しなければならない不気味な社会になっている」と述べているが、問題なのは道徳教育を推進することではなく彼のように戦後日本を否定して道徳の教科化を煽ることだろう。

 もちろん私自身も今の日本に危機感を感じていないわけではない。だが、それは国民のモラルが低下したからではなく、90年代以降の自民党が緊縮財政を続けて子育て世代を貧困化させてきたからである。しかし、貝塚氏がそうした政治家や官僚の「道徳心の欠如」を批判したことは一度もない。戦後日本が嫌いな勢力にとっては、むしろ日本人が貧しくなったほうが好都合だからだ。

 

 更に、道徳の教科化や憲法の家族条項を推進している自称保守派が戦後日本を否定する理由としてよく挙げるのは「家族間殺人が増加している」という言説である。例えば、統一教会(世界平和統一家庭連合)の徳野英治会長は「殺人事件の53.5%(2013年)が親族間のものである。家族とはなんぞやを考えていかねばならない」と発言している。

 この他にも、リベラル派として知られる元NHKアナウンサーの下重暁子氏も「家族間の殺人事件は2003年までの過去25年間、全殺人事件の40%前後で推移してきたが、2004年には45.5%に上昇。それからの10年間では10ポイント近く上がり、2013年には53.5%にまで増えているのだ」と述べている。「家族間殺人が増加している」という言説を煽るとき、必ず「件数」ではなく「パーセンテージ」で見るのが特徴のようだ。しかし、実際に未遂を含めた家族間殺人の件数は2008年の558件をピークに、2018年の418件へと減少している。家族間殺人は増加するどころかむしろ減っているのだ(図71を参照)。

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 消費税を10%に増税した2019年10-12月期から新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令された2020年4-6月期まで実質GDPが3期連続でマイナス成長を続けているにも関わらず、国民の側から消費税引き下げを求める世論が盛り上がらないのはこうした「国民のモラルが低下している」「家族間殺人が増加している」というデマを鵜呑みにして、高齢者を中心に経済成長が人間の心を貧しくすると勘違いした人が多いからではないだろうか。

 私は消費税に反対するだけでなく、コロナの感染者に対して自己責任論を強要したり、戦後日本を否定して道徳の教科化を推進したりする者に対しても厳しく批判していくつもりである。

 

 

<参考資料>

塚田穂高 編著 『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房、2017年)

下重暁子 『家族という病2』(幻冬舎、2016年)

 

「感染は自業自得」「東京人はさっさと帰れ」日本人はどうしてコロナで他人を攻撃するのか?

https://news.yahoo.co.jp/articles/99c0eee9608e7bd063d2aac5f8b06a5647ac17fb

「コロナ感染は自業自得」日本は11%、米英の10倍 阪大教授など調査

https://www.yomiuri.co.jp/national/20200629-OYT1T50107/

他殺による死亡者数の推移 社会実情データ図録

http://honkawa2.sakura.ne.jp/2776.html

あなたにとって一番大切と思うものはなんですか

https://www.ism.ac.jp/kokuminsei/table/data/html/ss2/2_7/2_7_all.htm

殺人事件における被害者と被疑者の関係の推移

https://norman-2.hatenadiary.org/entry/20080806/1218016776

平成30年の刑法犯に関する統計資料

https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/H30/h30keihouhantoukeisiryou.pdf