消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

超人への道さんの「【根拠あり】消費税増税のデメリットに反論!」の記事に反論する

 

プライマリーバランス黒字化目標と自己責任論で社会保障が充実できない

 消費税増税に賛成する内容のブログ記事の一つに「超人への道」の『【根拠あり】消費税増税のデメリットに反論!』というものがある。この記事では『消費税に逆進性が有るとしても問題無い。どの税金にも一長一短が有る。よって、他の税金を組み合わせて全体として税負担が累進的かを判断すれば良い。また、消費税増税で得た税収を社会的弱者の支援に用いれば済む話である。医療、介護、教育、子育て、障がい者福祉などのサービスが充実すれば、低所得者層の負担が軽くなる』と述べている。

 しかし、「消費税増税で得た税収を社会的弱者の支援に回す」ということは考えられない話である。日本の社会保障が充実しないのは税金のせいではなく、プライマリーバランス黒字化目標のせいだからだ。この目標は国の税収を増やすために増税と歳出削減を同時に実施するもので、消費税を5%に増税した1997年に橋本政権が「財政構造改革法」として導入したのが最初になっており、現在の岸田政権もこの目標を堅持している。その影響で『日本の安全保障を強化するためには、消費税引き下げと財政出動を実施するしかない』の記事でも述べたが、主要先進国の2001~2023年にかけての政府支出の伸び率はイギリスが2.96倍、アメリカが2.91倍、カナダが2.50倍、フランスが2.00倍、ドイツが1.95倍なのに対し、日本は1.32倍程度である。

 ちなみに、この記事では『旧民主党が「事業仕分け」を行ったのはご存じだろうか。当時、中学生の私でも知っているくらいに大々的に報道されたが、その割には、歳出の0.5%程度しか削減できなかった』と述べているが、鳩山政権当時の2009年はリーマンショック真っ只中のデフレ不況だったので歳出削減につながる事業仕分けなど行うべきではなかったのだ。

 

 また、社会保障を充実させる名目で消費税を増税しても、その裏側で法人税所得税が減税されている実態がある。1989~2023年度まで日本人が払った消費税は計509.1兆円なのに対し、法人税は国と地方を合わせて税収が29.8兆円であった1989年度と比較すると計316.8兆円減収、所得税は国と地方(住民税)を合わせて税収が38.0兆円であった1991年度と比較すると288.5兆円減収と合わせて605.3兆円も減収していることになる(図84を参照)。

 消費税収のほぼ全てが法人税減税と所得税減税に消えてしまっている現状で、消費税を増税しても社会保障が充実するとは思えないのである。

 

 更に、日本で社会保障が充実しないのは先進国の中で最も貧困問題に対して自己責任論が強いからだとも言えるのだろう。例えばやや古いが、米国のピュー・リサーチセンターが2007年に行った調査によれば、「国や政府が自力で生活できない人を助けてあげるべきか?」の質問で「全くそう思う」と回答した人はスウェーデンが56%、イギリスが53%、ドイツが52%、フランスが49%、カナダが40%、韓国が30%、アメリカが28%なのに対し、日本はたったの15%程度である。

 ピュー・リサーチセンターの調査は既に17年前のものとなっているが、日本の自己責任論は2010年代に入ってから更に増幅している事実を知っている人は少ないだろう。例えば、ベネッセと朝日新聞が4~5年に一度実施している「学校教育に対する保護者の意識調査」によれば、豊かな家庭の子供ほどより良い教育を受けられる傾向があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した小中学生の保護者が2008年の43.9%から2018年の62.3%まで増加した(画像を参照)。

 2008年から2018年にかけては、リーマンショック東日本大震災の発生など社会情勢が大きく変わり、不況や災害によって教育環境の変化を強いられる家庭が多かったことに加え、政府が社会保障の充実を掲げて消費税増税を強行したにも関わらず、教育格差を問題視する声はむしろ弱まっているのだ。

 

 また、日本人の自己責任論は新型コロナウイルスでも改めて浮き彫りになったと言えるだろう。社会心理学者の三浦麻子氏などの研究グループが2021年3月に行った意識調査によれば、「新型コロナウイルスに感染する人は自業自得だと思う」という質問に対して「そう思う」(「非常にそう思う」「ややそう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた人の割合は、アメリカが5.5%、イギリスが2.5%、イタリアが3.0%、中国が3.5%なのに対し、日本は17.3%にものぼったことが明らかになった。

 逆に「全くそう思わない」と答えた人の割合は、アメリカが50.4%、イギリスが71.0%、イタリアが63.5%、中国が64.7%なのに対し、日本は22.3%程度と他国に比べて著しく低くなっている。日本人の自己責任論がここまで増幅したのは学校で政治教育を全く行わず、SNS上での誹謗中傷を放置しているからだろう(図85を参照)。

 

 

消費税を廃止すれば高度経済成長期のような活力のある時代が戻ってくる

 更に、この記事では消費税増税少子化が進むという意見について『増えた税収によって、就学前教育や大学教育の無償化、義務教育の完全無償化が行えば良い。消費税を2%増やせば、保育園・幼稚園が無償化できる。つまり、増税により子作りを控えたり延期したりするとは言えない』と述べている。だが、少子化問題について研究している荒川和久氏は婚姻数と出生数、それと財務省の出している国民負担率について驚くほど強い負の相関があることを指摘している。1995~2022年にかけて婚姻数と出生数が約40%も減少しているのに対し、国民負担率は約40%も増加しているのだ(図86を参照)。

 婚姻数と出生数、国民負担率を合わせてみると2003年頃を始点として、まるで財務省がよく使う「ワニの口」そのものの形である。消費税を増税して教育費に回したとしても、増税によって国民負担が増加すれば少子化は更に進んでしまうだろう。

 

 この記事では『富裕層は節税するのが得意である。しかし、消費からは逃れられない。庶民よりも贅沢な富裕層は多いだろう。法人税や金融資産課税よりも消費税を増税する方が現実的である』とも述べている。しかし、日本で100万ドル(約1億4000万円)以上の投資可能な資産を保有する富裕層は2006年の147万人から2021年の365万人まで2.48倍も増加したのに対して、消費税増税による物価上昇の影響を除いた「実質家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」は2006年の238.1兆円から2021年の231.8兆円まで0.97倍とやや減少している(図87を参照)。

 仮に日本の富裕層が資産の全てを消費に回している場合、家計最終消費支出が富裕層人口と並行して増加してもいいはずだが、実際には富裕層の多くが消費ではなく貯蓄に励んでいるからこそ個人消費がほとんど伸びないのだろう。

 

 日経新聞が2016年2月に公表したデータによれば、消費税が10%に増税されると「年収に占める消費税負担の割合」は年収1500万円以上の世帯では2.0%程度なのに対し、年収200万円未満の世帯では8.9%にものぼると予測している。年収200万円未満と年収1500万円以上で消費税負担の割合が4倍以上も開いていることから、消費税増税低所得者により負担が重いのが現実なのである。

 

 また、この記事では『法人税は日本が「29%」であるのに対して、ハンガリーは「9%」である。法人税を上げれば、お金の有る日本企業は法人税の低い外国に移る』と述べている。だが、経産省の海外事業活動基本調査(2017年度)では、海外に進出する企業に対して移転を決定した際のポイントについて3つまでの複数回答で聞いていて、その中で法人税が安いなどの「税制、融資等の優遇措置がある」を選択した企業は8.0%と一割にも満たなかった。海外に進出する企業の多くは法人税の高さを理由にしているわけではないのだ。

 それに対し、企業が海外進出を決定した理由としてトップに挙げたのは「現地の製品需要が旺盛または今後の需要が見込まれる」の68.6%で、法人税を減税するよりも消費税を廃止して個人消費による需要を創出すれば、企業が国内に留まってくれる可能性が高いということだろう(図88を参照)。

 

 アメリカのバイデン政権は法人税を21%から28%に引き上げて15年間で約2兆5000億ドルの財源を確保し、所得が40万ドルを上回る個人への所得税率引き上げ、遺産税の対象拡大、年間所得100万ドル以上の個人に対するキャピタルゲイン税率の引き上げなどを主張した。また、イギリスでも財務相が予算演説で「2023年に法人税を現行の19%から25%に引き上げる」と約半年ぶりとなる法人税率の引き上げを主張した。フランス下院は大企業が超過利潤から支払う株式の配当金に対する税率を30%から35%に引き上げる修正案を可決した。

 2021年10月にはOECD経済協力開発機構)が多国籍企業による租税逃れを防ぐ国際課税の新ルールについて、世界共通の法人税の最低税率を15%とすることを136ヵ国が最終合意したと発表している。1980年代から2000年代にかけて先進国の間で繰り返されてきた法人税の引き下げ競争が既に終焉を迎えていると言えるだろう。

 

 この記事では最後に『政府が無能で信頼できなくて、増税に反対する気持ちは十分に理解できる。しかし、増税をしないとして代案は有るのか』と述べているが、財源はインフレ期に法人税所得税の累進性を強化して、デフレ期は国債を発行すれば良い。この記事では消費税を廃止したらアメリカのような勤労と倹約による自己責任で将来の不安に備える社会になると言っているが、実際には消費が回復して高度経済成長期からバブル期にかけての活力があって閉塞感の少ない社会に戻るのではないだろうか。

 

 

<参考資料>

山田博文 『国債ビジネスと債務大国日本の危機』(新日本出版社、2023年)

 

Pew Global Attitudes Report October 4, 2007(18、95ページ)

http://www.pewresearch.org/wp-content/uploads/sites/2/2007/10/Pew-Global-Attitudes-Report-October-4-2007-REVISED-UPDATED-5-27-14.pdf

学校教育に対する保護者の意識調査

https://berd.benesse.jp/up_images/research/Hogosya_2018_web_all.pdf

大阪大学大学院人間科学研究科三浦研究室

http://team1mile.com/asarinlab/

少子化のワニの口」国民負担率が増えれば増えるほど、婚姻も出生も激減している30年

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/17313b0cb6121ff927b306d7d3381a38581179ce

World Wealth Report 2022

https://prod.ucwe.capgemini.com/wp-content/uploads/2023/08/WWR-2022.pdf

国民経済計算 2023年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2023/qe234_2/gdemenuja.html

年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は

https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/

海外事業活動基本調査

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/index.html

日本の安全保障を強化するためには、消費税引き下げと財政出動を実施するしかない

国民が物価上昇に困っているにも関わらず防衛増税を目論む経団連

 2024年2月15日に発表された2023年のGDP成長率は、物価の変動を除いた実質がプラス1.9%、物価の変動を含めた名目がプラス5.7%だった。特に、年間の名目GDP成長率が5%を超えるのはバブル末期だった1991年以来のことで、名目から実質を引いたGDPデフレーターは3.8%と1980年以来の高さとなっている。

 その一方で、四半期別の実質GDP成長率は2023年7~9月期が年率マイナス3.3%、同年10~12月期が年率マイナス0.4%と2期連続のマイナス成長だった。2023年10~12月期の実質GDP成長率の内訳を見ると、民間企業設備投資が年率マイナス0.3%、政府最終消費支出が年率マイナス0.5%、家計最終消費支出(帰属家賃を除く)が年率マイナス1.2%、公的固定資本形成が年率マイナス2.8%、民間住宅投資が年率マイナス4.0%と、政府の公共投資と民間企業の住宅投資の落ち込みが実質GDPを押し下げる原因になっている。

 

 しかし、名目GDP成長率がバブル期並みに高くなったとしても好景気を実感している人はほとんどいないだろう。実質の家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は2023年が0.8%なのに対し、バブル期だった1987~1991年の平均は4.5%となっている。バブル期に成長率が上昇していたのは好景気による消費の拡大だが、2023年に成長率が上昇したのは輸出の増加による外需の拡大だと言えるだろう。

 また、家計の消費支出に占める飲食費の割合を「エンゲル係数」と言って、このエンゲル係数は1965年の38.1%から2005年の22.9%まで緩やかに減少していたが、その後は徐々に上昇していき、2023年12月には30.2%と1978年以来の高さになった。消費税増税に加えて、生活必需品の高騰によって趣味や娯楽などにお金を使える人が減っているのだろう。

 

 だが、国民がこれだけコストプッシュインフレに困っている状況にも関わらず、政府は更なる増税を目論んでいる。防衛省は2024年2月19日、防衛政策の企画立案機能の強化に向けた「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」(座長・榊原定征経団連名誉会長)の初会合を省内で開いた。政府は2023年度から5年間の防衛費を計43兆円程度としているが、榊原氏は円安や物価高、人件費高騰などを踏まえ「43兆円の枠の中で求められる防衛力装備の強化が本当にできるのか、現実的な視点で見直す必要がある」と述べ、さらなる増額の可能性に言及した。

 また、「見直しをタブーとせず、現実を踏まえた実効的な水準や国民負担、具体的な財源を本音ベースで議論すべきだ」と言い放ったのである。防衛費増額の財源は歳出改革、決算剰余金の活用、防衛力強化資金、所得税法人税・たばこ税の増税の4つ。積み増しになれば当然、国民はさらなる増税を強いられる可能性が高い。更に、上記4つの増税で財源が足りないと判断された場合は消費税を15~20%まで引き上げてくることも予想されるだろう。

 

 防衛増税に関しては2022年末から議論されていた。同年12月15日、自民党税制調査会は防衛費増額の財源を賄う増税策をめぐって、「復興特別所得税2.1%を所得税1.1%と新たな付加税1%にわけ、徴収時期を2037年以降に延長する」「法人税の納税額に4%から4.5%を一律に上乗せする付加税を課す」「たばこ税を1本3円相当の引き上げを段階的に行う」という3つの増税を組み合わせる案を了承している。

 しかし、私は仮に防衛増税が実施されたとしても、法人税増税については経団連の指示によって1~2年程度で廃止されるのではないかと予想している。実際に、東日本大震災のときも復興財源の確保を目的として2012年から復興特別法人税が導入されたが、2013年12月の与党税制協議会が2014年3月に前倒し廃止することを決定した。個人が負担する復興特別所得税2037年まで25年間も続けられるのに対して、復興特別法人税をたった2年で廃止してしまうのは明らかにおかしな法人優遇だったと言えるだろう。

 

 その上、日本政府としても社会保障より軍事を人質に取ったほうが消費税増税所得税増税は進めやすいと考えているのではないだろうか。実際に、明治時代から昭和初期まで税金は戦費調達のために存在していて、消費税の前身である「物品税」や給料から所得税を控除する「源泉徴収」は第二次世界大戦中の1940年に導入されているからだ。

 それより少し前の1920年代には商工業者に課税されていた「営業税」の大規模な反対運動が起こったが、戦時中の物品税や源泉徴収に対して特に反対運動が起こったという記録は残っていない。「ぜいたくは敵だ!」「欲しがりません勝つまでは」などのスローガンを前にすると、不満を口にすることを委縮してしまう国民性のようである。

 

 戦後でも大平政権(1978~1980年)の「一般消費税構想」に寄与した保守派知識人の集まりであるグループ一九八四年が、著書『日本の自殺』(PHP研究所、1976年)の中で「戦後日本の繁栄は、他方で人々の欲求不満とストレスを増大させ、日本人の精神状態を非常に不安定で無気力、無感動、無責任なものに変質させてしまった」と発言している。

 それから30年が経って、安倍元首相も第一次政権のときに出版した著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で、「戦後の日本は経済を優先させることで、物質的に大きなものを得たが精神的には失ったものも大きかったのではないか」「自主憲法を制定しなかったことで損得が価値判断の重要な基準となり、家族の絆や生まれ育った地域への愛着、国に対する想いが軽視されるようになってしまった」と述べている。

 

 榊原定征氏が防衛費について、「現実を踏まえた実効的な水準や国民負担、具体的な財源を本音ベースで議論すべきだ」と発言したのは、逆に言えば「日本の安全保障が弱体化しているのは国民が甘ったれて増税を受け入れないからだ」と表現することも可能なのである。

 

 

日本の安全保障を強化するためには消費税引き下げと財政出動が必要

 だが、日本の安全保障が弱体化したと言われるのは別に増税していないからではなく、1990年代以降にほとんど経済成長していないことが原因だろう。例えば、日本の名目GDPを国際基準で見ると1981年の1兆2437.9億ドルから1995年の5兆5455.7億ドルまで急速に増加していたが、その後は2023年の4兆2308.6億ドルまで低迷している。

 1995年当時であれば日本の名目GDPアメリカの72.6%、中国の758.6%にものぼっていたため、アメリカにとって日本は安全保障上の重要なパートナーであり、中国にとっては「ラスボス」のような存在だったと言えるだろう。その一方で、2023年の名目GDPアメリカの15.7%、中国の23.9%まで減少しているため、これでは今の日本はアメリカにとってアジアの小さな国、中国にとっては「雑魚キャラ」の一つにしか見なされていなくても仕方がないだろう(図81を参照)。

 

 日本経済を強くして、アメリカや中国との名目GDPとの差を埋めるためにはどうすれば良いだろうか。私が提案したいのは日本の消費税率を3%まで減税することである。1990年代後半以降の自民党が緊縮財政を行わず、消費税が3%のままだったら名目GDPは今頃700兆円を超えていた可能性が高いからだ。

 日本経済はバブル崩壊と言われていた90年代半ばまで着実に成長していて、1989~1996年度の名目家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は年平均で7兆1789億円も増加していた。2022年度の家計最終消費支出は259.5兆円だが、もし消費税が3%のままで家計消費が毎年7兆1789億円も増加したら2022年度は426.7兆円にのぼっていたことが予想される。消費税が3%のままだったら家計最終消費支出は167.2兆円も増加していたのだ。そうなると2022年度の名目GDPは566.5兆円だが、消費税が3%のままだったらGDPは167.2兆円も押し上げられて733.7兆円になっていただろう(図82を参照)。

 

 また、消費税率を3%に減税する他にも日本経済を強くするためには政府支出を増やす必要があるだろう。図83では2001年を100とする「主要先進国の政府支出の推移」を示したが、これを見ると日本は先進国の中で最も政府支出を増やしていない国だと言える。他の先進国を見ると2001~2023年にかけて政府支出の伸び率はイギリスが2.96倍、アメリカが2.91倍、カナダが2.50倍、フランスが2.00倍、ドイツが1.95倍なのに対し、日本は1.32倍程度となっている。

 日本の2001年の名目GDPは531.7兆円だが、2023年までに政府支出を1.32倍増やして名目GDPが591.5兆円になっているので、仮にアメリカの2.91倍並みに政府支出を増やした場合は2023年の名目GDPは1173.8兆円になっていたことが予想される。政府支出をアメリカ並みに増やしたら日本の名目GDPは582.3兆円も増加していたのだ。

 

 日本の消費税を3%に減税して、政府支出をアメリカ並みに増やしたら当然のことながら、アメリカや中国との経済力の差も縮まることになる。先ほど2023年の日本の名目GDPアメリカの15.7%、中国の23.9%まで減少していると説明した。しかし、消費税を3%に減税した場合の名目GDPの増加分167.2兆円と、政府支出をアメリカ並みに増やした場合の名目GDPの増加分582.3兆円を合わせると2023年の日本の名目GDPは1341.0兆円と1.98倍にのぼっていたことが予想される。そうなると、国際基準で見た日本の名目GDPは2023年に4兆2308.6億ドルなので、消費税を3%に減税して政府支出をアメリカ並みに増やしたら名目GDPは1.98倍も増加して8兆3960.2億ドルとなり、アメリカの31.2%、中国の47.4%まで差が縮まったことが予想される。

 日本の安全保障を強化するためには「防衛増税」ではなく、消費税引き下げと財政出動を実施して日本国内の経済を強くするしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

森永卓郎 『消費税は下げられる』(角川新書、2017年)

北野弘久・湖東京至 『消費税革命 ゼロパーセントへの提言』(こうち書房、1994年)

 

国民経済計算 2023年10-12月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2023/qe234/gdemenuja.html

家計調査(家計収支編) 時系列データ(二人以上の世帯)

https://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/index.html

忍び寄る「防衛増税」拡大…有識者会議で「43兆円から積み増し」提言相次ぐ仰天

https://news.yahoo.co.jp/articles/8c4bb17242a9468d57e376f2941585913e71fd80

自民税調 防衛増税案 了承 実施時期は来年議論に先送り

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/93421.html

【番外編】2024年のアメリカ大統領選挙で考えたいトランプとカルト宗教との関係

 

トランプが多くの黒人票を獲得すれば大統領に復帰する可能性は高まる

 2024年11月5日に予定されているアメリカ大統領選挙に向けた共和党の候補指名争いで、東部ニューハンプシャー州予備選の投票が同年1月23日に終了した。直前の世論調査ドナルド・トランプ前大統領が優勢で、ニッキー・ヘイリー元国連大使が迫っていたが、開票結果はトランプが54.6%、ヘイリーが43.1%でトランプが勝利した。

 日本人から見て2020年の大統領選で負け、熱烈な支持者が2021年1月に米議会議事堂を襲撃する事件まで起こしたトランプが再び大統領を目指している光景は不思議に感じるだろう。しかし、トランプは今も共和党の中で最大の支持率を誇り、議会襲撃を扇動した件でトランプに責任があるとした共和党の議員は2名を残して全て予備選で消えてしまった。2022年6月のエコノミストによる世論調査では、共和党支持者の75%、全体では4割が選挙に不正があったと信じている。共和党はトランプの個人崇拝党になってしまったのだ。

 

 また、今回の大統領選でトランプは歴代の共和党候補の誰よりも多くの黒人票を獲得する可能性があるという。ブルームバーグが全米規模および激戦州での世論調査結果を精査したところ、共和党の予備選でトップを走るトランプは現時点で、黒人票の14~30%を確保している。ピュー・リサーチセンターによると、前回2020年の大統領選では約8%なので驚異的な伸びであり、票数に換算すれば共和党候補として歴代最多となる見込みだ。

 米政治専門サイトのポリティコが引用した全米黒人地位向上協会(NAACP)の推計によると、1960年の大統領選挙では約500万のアフリカ系アメリカ人が投票に行き、その32%が共和党候補のリチャード・ニクソンに票を入れていた。なお国税調査の数字を見ると当時の黒人は総人口の10.8%を占め、実数では1941万8190人だったが、今は13.6%で4693万6733人と予想されている。更に、黒人の投票率は統計会社スタティスタによると、データが入手可能となった最も古い1964年の選挙では58.5%で、前回2020年は58.7%とほとんど変わっていない。そうであれば、今回のトランプが黒人票の13%以上を獲得すれば、投票数では1960年のニクソン以降で最高、実数では史上最多となっている。

 

 民主党現職のジョー・バイデンはどうか。ピュー・リサーチセンターによれば、前回2020年には黒人票の92%を獲得し、これがジョージアペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンといった激戦州での勝利につながった。ジョージア州では黒人票の88%を集め、1万1779票の僅差ながらもトランプに勝っている。だが昨年末の時点で、バイデンは黒人の支持をかなり失っていた。ブルームバーグ・ニューズとモーニングコンサルトによる合同世論調査によれば、2023年10~12月には激戦7州で黒人有権者の支持者が7%も低下し、61%になっていた。その一方で、黒人のトランプ支持率は25%前後で安定的に推移している。

 仮にトランプが激戦州でバイデンより多くの黒人票を獲得すれば、彼が大統領に復帰する可能性は高まると言えるだろう。

 

 

バイデンはトランプの過激な思想や危険な取り巻きを容赦なく批判するべき

 バイデン大統領の支持率が上がらずトランプに劣勢を続けているのは、バイデン自身の気の弱さが露呈しているからだとも言えるだろう。例えば2022年6月、コメディアンのジミー・キンメルは自分のトーク番組にバイデンを招いて、「共和党がルールを守らないのに、どうして優等生のやり方を続けるんですか?」といら立ちを直接ぶつけた。「大統領令を出せばいいじゃないですか。トランプなんかハロウィンのキャンディみたいに乱発していましたよ」とも発言している。バイデンは「トランプの真似はしたくないんだよ」とおっとり答えた。キンメルに「何であなたは怒鳴らないんですか?何で、そんなに楽観的なんですか?」と激しく煽られてもバイデンは好々爺の笑顔を崩さなかった。

 

 バイデン政権では完全失業率が2021年1月の6.3%から2023年11月の3.7%まで改善し、総合の消費者物価指数も2021年1月の1.4%から2022年6月の9.1%まで上昇していたものの、その後は2023年11月の3.1%に落ち着いている。この指標だけを見ると、短期経済は上手くいっているように感じるだろう(図80を参照)。

 しかし、ペンシルベニア州立大学のメアリー・フランシス・ペリー教授は「インフレ率は下がったが、今でも黒人男性は食料など生活必需品の価格高止まりに不満を抱いている」「中小企業の経営者にも、トランプ政権時代のほうが連邦政府からの融資を受けやすかったという人がいる」と発言している。かつての「黒人の命も大事だ」というブラック・ライヴズ・マターのような運動も風化し、今はその反動もあるという。

 

 バイデン政権がもっと有権者に示す必要があるのは、トランプが再び大統領になったらアメリカの政治や人々の暮らしにどのような変化が起こるのかを頭ではなく感覚的に理解してもらうことだ。例えば、ゴールデンタイムに第2次トランプ政権のアメリカを描いたCMを流す。そのネタは極右団体「プロジェクト2025」がたっぷりと提供してくれる。まず、1807年に定められた反乱法に基づき、選挙結果に異議を唱える抗議行動は一切鎮圧される。トランプが日頃から「犯罪まみれの悪の巣窟」と呼ぶ都市には米軍が派遣されるだろう。2020年の大統領選ではトランプ自身が選挙結果に異議を唱えたにも関わらず、彼が選挙に勝ったら逆に反政府デモを規制してくることが予想されるようだ。

 人工妊娠中絶を受ける権利の否定も、バイデン政権が繰り返し批判するべき「トランプのアメリカ」である。トランプが共和党寄りの判事を複数指名したことにより、連邦最高裁では現在9人の判事のうち6人が共和党寄りとなっている。彼らが2022年に中絶を受ける権利は憲法が認める人権と認定した「ロー対ウェード判決」を破棄して以来、共和党が優勢の州では中絶を厳しく制限または禁止する州法が次々と誕生している。人工妊娠中絶は、有権者の投票行動を大きく左右する争点であることが証明されている。2022年に「ロー対ウェード判決」が破棄されて以来、中絶が直接争点になった選挙で民主党は全勝しているからだ。

 バイデン政権はトランプを暴君として描く方法も見直す必要がある。彼らによるトランプの描写は「支離滅裂な過激派のリーダー」であることを十分強調していない。トランプの物忘れや勘違いをあざ笑うのではなく、トランプの過激な思想や危険な取り巻きを容赦なく批判するべきである。

 

 

統一教会との関係にあるトランプが新自由主義に反対する可能性はほとんどない

 また、今回の大統領選で考えたいのはトランプとカルト宗教との関係だ。心理学者で統一教会の元信者でもあるスティーブン・ハッサンは2015年、大統領選挙への出馬を決めたトランプの政治集会で、支持者たちが対立候補ヒラリー・クリントンのことを「あの女をムショにぶち込め!」と熱狂的にシュプレヒコールするのを見て、既視感(デジャブ)に襲われた。「それは私が統一教会の信者だった頃に見たものとそっくりだった」と発言している。

 

 ハッサンはトランプと文鮮明の共通点を探し始めると数え切れなかった。それをまとめた著書の『トランプというカルト』は、トランプがこんなにも支持者から熱狂的に信じられ続ける理由を解き明かす。トランプは政治家ではなく、カルトの教祖として考えるべきなのだと。「私が信者だった頃、教祖に対する疑念を抱くことは何度かあった」とハッサンは言う。教団はその疑念こそが悪魔のささやきだと教えている。教団を批判するメディアは全て嘘だと決めつけ、絶対に見るなと命じるのは全てカルトの基本である。トランプも主流メディアの報道をフェイクニュースと呼び、見ないよう聞かないように言った。支持者たちは情報を自ら遮断し、トランプと彼の支持者の言葉にしか触れなくなる。そこでシャワーのように浴びせられるのは教祖への賛美と敵への誹謗中傷だ。

 トランプは自己賛美中毒で、「私はイケメンすぎて容姿を批判されない」「私はハンサムだと思わないか?」「私は任期2年で歴代のどんな大統領よりも多くを成し遂げた」と聴衆に同意を要求した。文鮮明も「私は戦略の天才だ。韓国やアメリカの政府は私から学んでいる」「私はイエス・キリストの10倍偉大だ」とトランプと似たような発言をしている。しかし、彼らの自己賛美にはまるで根拠がない。2人とも戦争で戦った経験はないし、トランプはコロナ対策で失敗し、史上最悪の犠牲者を出した大統領だ。だが、信者は彼らの自己賛美を信じ、教祖の自己愛は信者へと拡大される。私たちは教祖の偉大さを知る選ばれし者なのだと。そんな支持者をトランプは「美しい人々」と讃えていた。

 

 そもそも2016年の大統領選でトランプが勝利したのは、アメリカの政治を動かす上位1%の富裕層から政治献金を受け取らない反エスタブリッシュメントの候補者で、彼のビジネスで得た収入のみで選挙活動を行っていた背景が存在する。そのため、TPPからの離脱や関税の引き上げなど新自由主義に反対する政策を打ち出すことが可能だった。

 だが、一度大統領を経験してすっかりエスタブリッシュメントとなり、統一教会と蜜月関係にある現在のトランプが2016年当時と同様に新自由主義に反対してくれる可能性はほとんどないと言えるだろう。トランプは2022年8月に統一教会が開催した安倍元首相の追悼セレモニーで「特に世界平和に大きな貢献をしてくれたドクタームーン(韓鶴子氏)に感謝する。素晴らしい女性だ」とビデオメッセージを寄せた。統一教会は第二次安倍政権の時代に強硬にTPPを推進しており、新自由主義には賛成の宗教団体だと言うことができるだろう。

 

 トランプと統一教会の関係は2016年11月に安倍元首相と直接会談した頃から指摘されていた。当時、安倍政権はTPPに賛成しており、国務長官時代にTPPの旗振り役を務めていたヒラリー・クリントンと会談していた。そのため、2016年の大統領選までトランプとのパイプを築くことができなかった。そこで、歴史的に共和党と親密な関係のある統一教会が動き出したというわけである。

 同年11月17日、統一教会NGO「天宙平和連合」は世界各地で「世界平和国会議員連合」を創設し、参議院議員会館で同議員連合の創設集会が開かれた。同集会には安倍政権の閣僚5人を含む60人の自民党国会議員が出席したという。同日、ニューヨークで行われた安倍元首相とトランプの直接会談については「トランプ陣営とのパイプを持っていなかった安倍が国際勝共連合の幹部に電話で取次ぎを依頼し、統一教会韓鶴子総裁を経由してトランプの女婿につながり、その手配で実現した」との情報も出ている。

 

 アメリカでの統一教会の被害は文鮮明韓鶴子の7男の文亨進が2015年に設立したサンクチュアリ教会(世界平和統一聖殿)に代表される。サンクチュアリ教会は銃規制に反対する最右翼の新興宗教団体で、銃を持った信者が集結する合同結婚式を開催した際には周辺の学校が全て休校になる騒ぎである。信者の子供たちにも早くから銃の打ち方を教え、その子供が銃で家族を殺害未遂する事件まで起きている。文亨進はトランプの熱狂的な支持者で、2021年1月の米議会襲撃事件にも参加していた。トランプと統一教会の関係はネオナチや白人至上主義団体との関係以上に追及されるべき問題である。

 こうした過激な宗教団体とのパイプを持つトランプが再び大統領に戻るのは、同盟国の日本としても非常にリスクではないだろうか。投票は11月だが、日本人としても早くからアメリカの大統領選に注目すべきである。

 

 

<参考資料>

町山智浩アメリカがカルトに乗っ取られた! 中絶禁止、銃は野放し、暴走する政教分離』(文藝春秋、2022年)

塚田穂高 編著 『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房、2017年)

ケイト・プラマー 『今度のトランプは黒人票で勝つ』「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス、2024年1月30日号)

デービッド・ファリス 『バイデンがトランプを止めるには』「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス、2024年2月6日号)

 

共和党 候補者選び第2戦 ニューハンプシャー州 トランプ氏勝利

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240124/k10014332371000.html

OECD Inflation(CPI)

https://data.oecd.org/price/inflation-cpi.htm

OECD Unemployment rate

https://data.oecd.org/unemp/unemployment-rate.htm

カルト集団と過激な信仰 エピソード5 世界平和統一聖殿

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08FBKMBKM/

消費税廃止を実現させるためには、安倍派の議員を首相にしてはいけない

警戒すべきなのは岸田首相が辞任した後の新政権

 2023年12月8日に発表された同年7~9月期のGDP成長率は物価の変動を除いた実質が年率マイナス2.9%、物価の変動を含めた名目が年率プラスマイナス0%だった。今回のGDP統計で気になったのは、個人消費を表す家計最終消費支出(帰属家賃を除く)が名目は年率プラス2.1%だったのに対し、実質は年率マイナス0.7%に落ち込んでしまったことだ。実質消費がマイナス成長だったのにも関わらず名目消費がプラスに転じたのは、総合の消費者物価指数が2023年7~9月の平均で対前年比3.2%、食料の物価が2023年7~9月の平均で対前年比8.8%まで上昇している影響が大きいだろう。

 インフレーションには大きくわけて2種類があり、1つ目は現在起こっている原材料費の急激な上昇により引き起こされるコストプッシュインフレ。2つ目は高度経済成長期やバブル期に起こった景気の拡大に伴って消費の伸びが生産に追いつかなくなるために生じるデマンドプルインフレ。コストプッシュインフレは給与が下がるデフレーションと同様に国民を貧困化させるものである。

 

 日本生協連の「節約と値上げ」の意識についてのアンケート調査(2023年5月)によれば、値上がりの影響について「とても感じる」「やや感じる」と回答した人の合計が95.1%になり、全世代で値上げによる家計の負担を実感している結果となった。節約を「強く意識している」「ある程度意識している」と回答した割合は全体で93.3%だった。特に20代で「ある程度意識している」と回答した人が2022年11月の54.8%から2023年5月の69.2%まで増加している(図77を参照)。

 家庭での節約は「ふだんの食事(食料品・菓子・飲料・テイクアウト)」と回答した人が60.9%にものぼっていて、「外食」の49.5%よりも多かった。

 

 その影響もあってJNNの2023年11月4~5日の世論調査で、デフレに後戻りしないための一時的措置として何が一番良いか聞いたところ、「現金給付」が9%、「所得税や住民税の減税」が10%、「社会保険料の引き下げ」が15%、「給与所得控除などの拡大」が18%なのに対し、「消費税の減税」が41%と他の項目と比べても圧倒的に多かった。また、時事通信の同年11月10~13日の世論調査で消費税引き下げの賛否を尋ねたところ、「賛成」が57.7%、「反対」が22.3%であり、自民党支持者の間でも「賛成」が48.2%にのぼった。

 それにも関わらず、2023年10月からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されたことに加え、将来的に消費税を15~20%まで引き上げようとする姿勢を崩さないことから岸田首相に対して「増税メガネ」という不名誉なあだ名がつけられている。しかし、私が警戒しているのは岸田首相が辞任した後の新政権である。首相が変わって内閣支持率が跳ね上がれば消費税増税の話も前に進みやすくなるからだ。

 

 

消費税増税に反対して政治活動が封じ込められた

 このブログで何度か紹介している三浦展氏の『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』について、読んでいて新しい発見をしたので指摘しておきたい。本書の170ページには、内閣府の社会意識に関する世論調査で、「国や社会のことにもっと目を向けるべきだ」(社会志向)という意見と、「個人生活の充実をもっと充実すべきだ」(個人志向)という意見のどちらに近いか聞いた質問の推移が書かれている。

 時系列で見ると1985~2009年までは概ね「社会志向」が増える傾向にあったが、東日本大震災が発生した2011年以降は「社会志向」が減って「個人志向」が増えている。また、調査方法はやや異なるが、コロナ前の2020年1月調査では社会志向が44.8%、個人志向が41.1%とほぼ同率になっていたのに対し、コロナ後の2021年12月調査では社会志向が58.1%、個人志向が40.3%、2022年12月調査では社会志向が58.4%、個人志向が39.9%と近年は「社会志向」が増える傾向が復活してきた(図78を参照)。

 

 三浦氏は2011年の東日本大震災以降、マスメディアなどで「つながり」「絆」という言葉が流行してそれらをテーマにした番組が多く作られたが、逆に視聴者のほうはメディアがあまりにつながりを強調するのでそれらに飽きてしまったのかもしれない。あるいは下流化した生活の中で社会や他人のことなど構っていられない、自分のことだけで精一杯だという人が増えたのかもしれないと指摘している。

 私は東日本大震災以降に「社会志向」が減少した理由について、2010年代の日本が全体主義化していたことも無関係ではないと思っている。私は2005~2009年にかけて2ちゃんねるYahoo!知恵袋を見ていたのだが、当時の自民党政権を擁護する書き込みはほとんどなく自分もよく政府批判をしていた。震災以降の2011年でも大学の英語の授業で民主党の野田政権を批判するスピーチを行っていた。

 

 しかし、2013年になって就職対策講座の自己PRで「都内で定期的に行われている消費税増税の反対デモに参加している」と書いたら『就職に関わる書類でデモの参加を書くことは適切ではない』との添削が返ってきたことがあった。私はそれが納得いかなくて大学の教授に話すと、「心理学の学生が政治に関心を持つ必要はない」「君の身に危険が及ぶからやめなさい」と言われてしまった。

 だが、今振り返ると就職対策講座の担当者や大学の教授は私が政治活動をしていることではなくて消費税増税に反対していることが気に入らなかったのだろうと思うのが正直なところである。実際に、2013年8月に経済財政諮問会議で行われた『消費税率8%への引き上げに関する集中点検会合』で、当時28歳の古市憲寿氏が「海外からアベノミクスとセットで増税が認識されている」と消費税増税に賛成する発言をしている。古市氏は東京大学大学院の上野千鶴子ゼミでピースボートの研究をしており、自民党とは全く無関係な人物である。このことから、私が逆に就職対策講座の自己PRで「北欧型の高負担社会に憧れている」「消費税を20~30%まで増税すべきだと考えている」と書いたら企業から「是非ともウチに来てください」と言われただろう。

 

 

新聞社が消費税増税の景気悪化から目を逸らした

 大学の就職対策講座だけでなく、SNS上でもYahoo!知恵袋で2012年6月に「私は消費税増税反対デモに参加すべきでしょうか」と質問した際に『デモに参加して消費税に反対する方々はかなり先の見える方々だと思います』などと非常に肯定的な回答が並んでいた。当時は野田政権が自民党公明党と共に「消費税増税法案」を可決しようとしていた時期である。

 しかし、それから2年が経って第二次安倍政権になってからの2014年6月に特定秘密保護法について「消費税増税反対デモや原発反対デモに参加するだけでスパイやテロリスト扱いされませんか?」と質問した際に『そういったデモの多くは左翼の暴力集団が主導しているからデモに参加しておいて、監視対象になるのは嫌だというのはムシが良すぎる』との開き直りにも似た回答が存在した。

 

 今まで私が参加してきた消費税増税反対デモや原発反対デモは全て安全に実施されてきたものだが、民主党政権下(2009~2012年)で行われたデモが良くて安倍政権下(2013~2020年)で行われたデモがダメだというなら民主党政権の時代のほうがよっぽど民主主義が機能していたと言わざるを得ないのではないだろうか。実際に当時は消費税や原発だけでなく、自民党支持者の間でも尖閣諸島中国漁船衝突事件(2010年)やフジテレビの韓流ブーム(2011年)に対して抗議デモが繰り広げられていたのである。

 更に、自民党が消費税増税を推進している姿勢は昔から変わらないのだが、現在の岸田首相が「増税メガネ」と批判されているのも、近年になって社会志向の意見が増加してきたことと無関係ではないだろう。

 

 また、国民経済計算によれば、増税による物価上昇の影響を除いた実質家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は消費税を5%に増税した1997年度はマイナス1.6%だったのに対し、消費税を8%に増税した2014年度はマイナス3.1%だった(図79を参照)。つまり、橋本政権(1996~98年)の増税よりも安倍政権の増税のほうが消費の落ち込みが深刻だったのだ。その上、2014年度はリーマンショック新型コロナウイルスのような経済危機は発生していない。

 

 しかし、橋本政権は増税翌年の1998年に辞任したのに対し、安倍政権は増税してから6年後の2020年まで内閣を続けていた。この違いは安倍政権下で1997年の山一證券北海道拓殖銀行のような金融機関の大規模倒産が起こらなかったことも大きいが、私は新聞社が消費税増税による景気悪化の問題から目を逸らすように誘導していたことも原因の一つとして挙げられると思う。

 例えば、自民党の支持者が愛読している産経新聞は2014年4月1日の朝刊から慰安婦問題をテーマにした「歴史戦」というシリーズ記事を開始している。歴史戦とはわかりやすく言えば、中国や韓国による歴史問題に関連した日本政府への批判を「不当な攻撃」だと捉え、日本人は黙ってそれを受け入れるのではなく、中国や韓国を相手に「歴史を武器にした戦いを受けて立つべきだ」という考え方である。だが、産経新聞は特別記者の田村秀男氏が2014年2月に『消費増税の黒いシナリオ』という増税を批判する内容の本を出版しており同年4月から景気が悪化することはわかっていたのだ。産経新聞が消費税8%になった当日から歴史戦なるシリーズを始めたのは偶然ではなく、消費税15~20%への増税が議論されるときも産経新聞は新たな「歴史戦」を煽ってくるだろう。

 

 2023年12月に入ってから自民党最大派閥の「清和政策研究会」(安倍派)が政治資金パーティー収入の一部を裏金化していたとみられる問題で岸田政権が追及を受けている。しかし、それ以上に問題なのは安倍政権下で熱狂的な支持者が政治とは無関係の国民までSNS上で監視し、消費税増税など自民党の政策に反対していたとしても安倍政権に対する批判が封じ込められていた事実ではないだろうか。消費税廃止を実現させるためには、岸田政権が辞任した後に安倍派の議員を首相にしてはいけないと思っている。

 

 

<参考資料>

山崎雅弘 『歴史戦と思想戦 歴史問題の読み解き方』(集英社、2019年)

 

国民経済計算 2023年7-9月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2023/qe233_2/gdemenuja.html

消費者物価指数(CPI) 時系列データ

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200573&tstat=000001150147

「節約と値上げ」の意識についてのアンケート調査

https://jccu.coop/info/newsrelease/2023/20230727_02.html

【速報】望ましい経済対策は「消費税の減税」41% JNN世論調査

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/818859?display=1

消費減税「賛成」6割 「反対」は2割―時事世論調査

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023111600808&g=pol

社会意識に関する世論調査(令和4年12月調査)

https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-shakai/

安倍派3人に5千万円超~4千万円超 最大規模の裏金か パー券収入

https://www.asahi.com/articles/ASRD96533RD9UTIL010.html

消費税増税の背景には戦後の経済成長を否定する思想がある

岸田政権は衆院選の後に消費税を15~20%まで引き上げることを想定している

 2023年10月3日、自民党世耕弘成参議院幹事長は政府がまとめる新たな経済対策について法人税所得税の減税も検討の対象になり得るという考えを示した。また、同年10月23日には岸田首相が所信表明演説で「国民への還元」として、急激な物価高に賃上げが追いつかない現状を踏まえ、負担を緩和するための一時的な措置として、所得税の減税を念頭に「近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会での早急な検討を指示する」と述べた。

 

 今の時期に法人税所得税の減税が議論されるのはいくつかの理由があるのだが、まず一つ目に経団連が「俺たちの税金を安くしてくれ」と政府に求めているからだと言って良いだろう。そして二つ目に早ければ2023年12月の解散総選挙を狙った経済政策を打ち出しているのではないかと思っている。

 実際に第二次安倍政権以降に行われた衆院選は2012年、2014年、2017年、2021年といずれも10~12月に実施され、全体の選挙投票率も60%未満と有権者の約半分が棄権している実態がある。年末の慌ただしい時期に国政選挙が行われると国民の多くが無関心になりやすく、特に北海道や東北の地域では雪の影響で投票に行きづらくなるのだろう。

 更に、1980年代以降は法人税所得税を減税するための財源として消費税増税が進められてきた。岸田政権としては次の衆院選の後に、所得税減税や防衛増税を口実に消費税を15~20%まで引き上げることを想定しているのかもしれない。

 

 増税賛成派が言う消費税引き上げのメリットの一つとして、「法人税収や所得税収は景気に左右されやすいが、消費税収は経済状況に関係なく安定した財源」というものがある。確かに、財務省の一般会計税収の推移を見ると、法人税収は1989年度の19.0兆円、所得税収は1991年度の26.7兆円とバブル期にピークを迎えてその後は減少し、2022年度の法人税収が13.8兆円、所得税収が22.0兆円になっている。

 だが、法人企業統計と民間給与実態統計調査によれば、企業の経常利益は1989年度の38.9兆円から2022年度の95.3兆円まで約2.4倍も増加し、年収2000万円以上の富裕層は1991年の13.8万人から2022年の30.0万人まで約2.2倍も増加している。つまり、法人税収や所得税収が減少する一方で、企業収益や富裕層人口はバブル崩壊後も増え続け過去最高を更新しているのだ。

 

 1989年当時、法人税の基本税率は40%だったが2018年には23.2%まで引き下げられ、所得税も1991年当時は課税所得が2000万円を超えれば50%の最高税率が適用されたが、2015年以降は課税所得が4000万円以上でやっと45%の最高税率が適用されるまでに変化してきた。

 仮に、税率を当時の状態に戻せば2022年度の法人税収は最大で46.5兆円、所得税収は最大で58.0兆円にのぼっていたことが予想され、消費税を廃止しても社会保障費を捻出するのが可能になるだろう(図74~75を参照)。

 

 

 経団連などは「法人税増税すると日本から企業が逃げ出す」と言うが、海外に進出する企業の多くは安価な労働力の確保を求めているのが実情で、経産省の海外事業活動基本調査(2017年度)でも、海外進出を決定した際のポイントについて企業に3つまでの複数回答で聞いたところ、法人税が安いなどの「税制、融資等の優遇措置がある」を選択した企業は8.0%と一割にも満たなかった。

 

 その一方で、企業が海外進出を決定した理由としてトップに挙げたのは「現地の製品需要が旺盛または今後の需要が見込まれる」の68.6%だった。つまり、法人税を減税するよりも消費税を廃止して個人消費による需要を創出すれば、企業が国内に留まってくれる可能性が高いということだろう。

 ちなみに、海外事業活動基本調査では2018年以降に企業が海外進出を決定した際のポイントについて公表しておらず、企業が海外に進出するのは法人税の高さが原因ではないことを知られると困るから2018年以降に調査項目を変えたのではないかと疑ってしまう。

 

 もし、企業の国外流出を防ぎたいのであれば、法人税減税よりも海外に進出する企業に対して課税を行うべきである。前述の海外事業活動基本調査によれば、海外に拠点を置いて活動する企業の数を表した現地法人企業数は1989年度の6362社から2021年度の2万5325社まで約4.0倍も増加していて、法人税の高い時代のほうが企業は国内で仕事をしていたのだ。

 

 所得税については2015年に最高税率が40%から45%に引き上げられたが、これについても経団連は「富裕層の海外流出を招いて日本経済の活力が失われる」と批判している。しかし、ワールド・ウェルス・レポートによれば日本で100万ドル(約1億4000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2014年の245.2万人から2021年の365.2万人まで約120万人も増加しており、所得税増税しても富裕層が海外に逃げるという事態は発生していないのだ。

 むしろ、所得税最高税率を引き上げると企業経営者たちの中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考え、従業員の給料も上昇しやすくなって経済的なメリットが大きいのである。岸田政権は富裕層にしか恩恵がない所得税減税よりも、国民全員に恩恵がある消費税廃止を実施すべきだろう。

 

 

「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は岸田降ろしの一環にしか見えない

 消費税という税金はなぜ増税が繰り返されるのか?一般的な理由は直間比率の是正だったり、財政再建だったり、社会保障のためだったりと時代によって変わるのだが、これらは全て後付けされた理由に過ぎず、消費税は戦後日本の弱体化を狙った税金だという事実には多くの人が気付いていないだろう。

 例えば、大平正芳政権(1978~1980年)の「一般消費税構想」に寄与した保守派知識人の集まりであるグループ一九八四年は著書「日本の自殺」の中で『戦後日本の繁栄は、他方で人々の欲求不満とストレスを増大させ、日本人の精神状態を非常に不安定で無気力、無感動、無責任なものに変質させてしまった』と発言し、2014年に消費税を8%、2019年に10%に増税した安倍晋三元首相は著書「美しい国へ」の中で『戦後の日本は経済を優先させることで、物質的に大きなものを得たが精神的には失ったものも大きかったのではないか』と発言している。つまり、消費税増税の背景には戦後の経済成長を否定する思想があるのだ(画像を参照)。

 

 2023年10月4日、自民党の若手議員らによる「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は新たな経済対策を巡って、岸田政権に対し10%の消費税率を時限的に5%に引き下げる検討を行うよう求めることを柱とする提言を決定した。同団体に所属する中村裕之氏は「本当に今、物価高に苦しんでいる生活者の皆さんに減税の実感が伝わるような形を取っていただきたい」と発言している。しかし、積極財政を推進しながら期間限定の消費税5%減税に留まっているのは、消費税廃止を掲げたら安藤裕氏のように次の衆院選で公認を取り消される恐れがあるからだろう。

 また、同団体に所属する議員の主張を調べてみると多くが安倍政権の時代まで消費税増税に賛成していたことがわかる。中村裕之氏、石川昭政氏、黄川田仁志氏、青山周平氏、城内実氏は2014年と2017年の衆院選で「消費税を10%に引き上げることに賛成」と回答し、中西哲氏は2015年にブログで「日経平均株価が2万円を超えているから消費税を増税しても景気は悪化していない」と書いている。日経平均株価とは東京証券取引所第一部に上場する約1700社のうち、日本経済新聞社が選定した225銘柄を対象に算出される株価のことで日本経済全体を表す指標ではないのだ。

 

 当時の安倍政権は「若者の雇用環境を大幅に改善させた」と自画自賛していたが、2012~2020年の就業者数を性別で見ると女性が310万人増加したのに対し、男性は87万人程度(女性の28.1%)の増加に留まっていて女性ほど雇用改善の恩恵を受けていないのだ。その上、男性の中でも2012~2020年にかけて65歳以上の就業者数は173万人増加しているのに対し、現役世代に当たる25~44歳の就業者数は合計で215万人も減少してしまった(図76を参照)。現役世代の男性の雇用が悪化しているのに、日経平均株価の上昇を理由に好景気を演出するのは消費税増税に賛成していると言われても仕方がないだろう。

 

 しかし、こうした「隠れ増税派」を露骨に擁護しているのが経済評論家の三橋貴明氏である。彼は「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が新たな経済対策を発表した翌日の2023年10月5日のブログで『何度も書いていますが、わたくしは日本の緊縮財政転換のために全ての可能性にベットしているのです』と述べている。

 だが、三橋氏は消費税廃止を掲げるれいわ新選組に関して2021年10月に「原発に反対しているから支持できない」とはっきり批判している。彼が『全ての可能性にベットしている』という表現を使うのは自民党の安倍派議員に対してだけのようだ。

 

 また、三橋氏は同団体が「本当に提言を実行したいと思うなら、やる気のない岸田自民党から分かれて新党を立ち上げてやってみろ」と批判を浴びたことに関しても『本気で提言を実行したいならば、与党である自民党の多数派を取らなければならないんだよ。新党を立ち上げたところで、国会における少数派になれば何もできない』と言い訳している。

 仮に自民党増税反対派が一斉に離党したら岸田政権にとっても相当なプレッシャーになると思うのだが、三橋氏が積極財政を推進しながら安倍政権の時代まで増税を容認していた政治家を支持するのは、プライマリーバランス黒字化目標さえ破棄できれば消費税が15~20%になっても構わないというのが本音だからではないだろうか。

 

 正直に言って、今のままでは「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の提言は岸田降ろしの一環にしか見えず、自民党の中で安倍元首相に近い人物が首相になれば彼らはまた増税賛成に戻ってしまうのではないかと思っている。自民党の積極財政派や三橋貴明氏が今やるべきなのは、消費税が戦後日本の弱体化を狙って増税された税金なのだということを認め、安倍元首相や麻生太郎氏もそれに加担してきた事実を批判することだろう。

 

 

<参考資料>

自民 世耕氏 新たな経済対策“法人・所得税減税も検討対象”

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231003/k10014214231000.html

岸田首相が所信表明演説 所得税減税を念頭に具体策検討の意向

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231023/k10014234331000.html

一般会計税収の推移

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.pdf

法人企業統計 令和4年度年次別調査

https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/r4.pdf

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

法人税率の推移

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/082.pdf

所得税の税率構造

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/b02_1.pdf

海外事業活動基本調査

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/index.html

World Wealth Report 2022

https://prod.ucwe.capgemini.com/wp-content/uploads/2023/08/WWR-2022.pdf

令和五年十月四日 責任ある積極財政を推進する議員連盟

http://mtdata.jp/20231005.pdf

景気回復(中西哲氏のブログ)

https://nakanishi-satoshi.hatenablog.com/entry/2015/06/26/210903

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

自民党「積極財政議連」が「消費税減税」を提言した

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12823246651.html

れいわ新選組の経済政策とエネルギー政策

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民主制のルール

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インボイス制度の影響を受けるのは個人事業主だけではない

還付金で消費税の納税を免れている輸出大企業

 2023年10月1日から導入されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)で、これまで免税だった年間売上1000万円以下の事業者も消費税を納めるべきかどうか議論の対象になっている。しかし、本当の意味で消費税の納税を免れているのは「輸出還付金」の制度を活用している大企業だという事実を知っている人はそれほど多くないだろう。

 

 「輸出還付金」とは企業の売り上げのうち、海外への輸出では消費税を取れないので、そのぶんの仕入れ原価に掛かる消費税を国から還付してもらえる仕組みのことを言う。国が支払った輸出還付金は大企業が下請け企業に支払い、下請け企業は消費税として国に納める流れになっているため、本来は誰も得したり損したりするわけではない。だが、問題は大企業と中小企業の間に圧倒的な力関係が存在することである。大企業はコストカットという形で、下請け企業に消費税分の負担を実質的に押し付けているケースが非常に多く、負担を他に押し付けられない中小企業は、自腹を切って税金を納めるしかない。

 輸出還付金の額は消費税が上がれば上がるほど増加し、静岡大学元教授の湖東京至氏の推算によれば、日本を代表する製造業10社の還付金額の合計は、消費税が8%だった2018年の1兆632億円から10%に増税された2020年の1兆2442億円へと、2年間で1.17倍も増えている(画像を参照)。仮に、消費税が15%に引き上げられたらこの10社だけでも還付金の額は1兆7000~8000億円に達するかもしれない。こうした背景を見ると、輸出還付金の実態は中小企業から大企業への所得移転であり、消費税増税は大企業と中小企業の力関係を強め、経済格差をますます広げてしまうのではないだろうか。

 

 その一方で、消費税増税の賛成派は「輸出還付金の制度は消費税を導入しているどこの国でも存在する」と強弁している。実際に、輸出還付金は初めて付加価値税(消費税)を導入したフランスで輸出企業のルノー補助金を支給するために編み出された経緯があるからだ。しかし、本当の問題は消費税増税によって一部の人々が得をするという事実である。輸出企業は円高か円安かで会社の業績が左右されやすく、巨額の消費税還付がどれだけおいしいかは言うまでもない。

 経団連の歴代会長はほとんど全員が消費税増税法人税減税に賛成しているが、彼らはトヨタやキャノン、住友化学東レ日立製作所など有名企業のトップを務めてきた方々だ。財界の幹部が輸出還付金の額を増やすために、政府に消費税増税を求めている国が一体、日本以外のどこにあるというのだろうか。

 

 

インボイス制度の導入によって電気代が上昇する

 また、消費税のインボイス制度が2023年10月1日から始まったのに伴い、毎月の電気代が値上がりすることも知らない人は多いだろう。インボイス制度によって新たに発生する電力会社の負担分を電気代に上乗せして補うため、結果的に消費者にしわ寄せがいくことになる。新たな負担は、一般家庭の太陽光パネルなどで発電された電気を買い取る「固定価格買い取り制度」(FIT)によって生じる。

 これまでは納税額を少なくする消費税の「仕入れ税額控除」という仕組みにより、電気を発電事業者から買い取るときに支払う消費税と、消費者に電気を売るときに受け取る消費税は相殺されているとみなし、電力会社は納税する必要がなかった。しかし、インボイス制度開始後は相殺するにはインボイスが必要になる。発電事業者である一般家庭などの多くは免税事業者に当たるため、電力会社はインボイスを受け取れない。経産省の試算によると、各電力会社が仕入れ税額控除できないことで消費税の負担が年間58億円も発生するという。

 

 消費者物価指数によれば、電気料金は消費税が8%だった最後の月である2019年9月から2023年1月までに28.3%も上昇していた。その後は同年2月から政府の電気料金の負担軽減策が始まり、8月までに33.1%安くなって2019年9月と比較してもマイナス4.8%となっている。だが、2023年10月から電気料金の負担軽減策が1kWhあたり7円から3.5円まで半額に引き下げられてしまい、インボイス制度の導入と負担軽減策の緩和によって再び電気料金が上昇することが懸念される(図73を参照)。

 

 しかし、ツイッターなどで自民党支持者の書き込みを見ていても「電気料金が高いのは原発を再稼働していないからだ」と言いながらインボイス制度で電気代が上がることには反対していないようだ。特に、元財務官僚の高橋洋一氏は「インボイス制度に反対しているのは共産党の関係者だけ」などと言っている。だが、インボイス制度に反対しているのは日本共産党だけでなく、安倍政権を支持していた経済評論家の三橋貴明氏や藤井聡氏もいるのだ。

 高橋氏は文藝春秋の2020年2月号にれいわ新選組代表の山本太郎氏の論文「『消費税ゼロ』で日本は甦る」が掲載されたことについても、「文藝春秋はいつから共産党の機関紙になったのか」と根拠のない発言をしている。彼はどうやら自分と上司の竹中平蔵以外の人間が全員、日本共産党の関係者に見えるようだ。インボイス制度に中止させるためには、高橋氏のような自称保守派のプロパガンダに騙されないことも重要になってくるだろう。

 

 

<参考資料>

安部芳裕 『世界超恐慌の正体』(晋遊舎、2012年)

森永卓郎大貧民 2015年日本経済大破局』(アーク出版、2012年)

 

輸出大企業に消費税1.2兆円超還付 税率10%で1810億円増大

https://www.zenshoren.or.jp/2021/11/01/post-12885

三橋貴明】消費税の輸出還付金の真相

https://38news.jp/economy/24005

電気代がインボイス制度導入で10月に値上がり

https://www.tokyo-np.co.jp/article/270876

消費者物価指数(CPI) 時系列データ

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200573&tstat=000001150147

2023年10月、電気料金の政府補助額が半額に。影響まとめ

https://blog.eco-megane.jp/2023%e5%b9%b410%e6%9c%88%e9%9b%bb%e6%b0%97%e6%96%99%e9%87%91%e5%bd%b1%e9%9f%bf%e3%81%be%e3%81%a8%e3%82%81/

今の自民党が昭和の自民党の政策を否定するインボイス制度

インボイス制度の内容が理解できないために具体的な対策が取れない

 2023年10月1日からとうとう消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されてしまった。その一方で、同年9月29日にはインボイス制度の中止・延期を求める団体「インボイス制度を考えるフリーランスの会」が衆議院会館を訪れ、54万筆を超えるオンライン署名を岸田首相の秘書官に手渡すなど反対運動も非常に盛り上がっている。

 一般社団法人労災センター共済会が9月28日に公表した「一人親方インボイス制度に関する実態調査」によると、免税事業者である一人親方の約半数が「インボイス制度への対応準備ができていない」と回答した。10月1日からのインボイス制度開始に向けて、対応の準備ができているかについて、21.8%が「できている」、15.8%が「ややできている」と回答した一方で、22.8%が「あまりできていない」、23.8%が「全くできていない」と答えている。準備ができていない理由(複数回答)については、「十分に理解していないため、具体的な対応策を練ることができないから」(38.3%)が最も多く、次いで「まだ今後の体制を決められていないから」(31.9%)、「自身に合っている選択が分からないから」(29.8%)となっている(図72を参照)。

 

 インボイス制度に対して危機感があるかどうかの問いでは、33.7%が「非常に感じる」、35.6%が「やや感じる」と回答。具体的には、「免税事業者のままだと仕事が減る可能性がある」が51.4%で最多となった。インボイスが発行できないと、取引先がその消費税分を代わりに負担することになるため、それを理由に取引停止になることを懸念している。他に「手続きなどの事務作業が増える」(41.4%)、「インボイス制度についてよく理解できていない」(34.3%)が上位となった。

 10月1日以降に課税事業者になるかどうかについては、34.7%が「課税事業者になる」が、30.7%が「免税事業者のままでいる」と回答した。課税事業者になる理由については、82.9%が「既存の取引先に継続してもらいたいから」と答えている。一方、免税事業者のままでいる理由については、「納税額を増やしたくないから」(48.4%)、「個人取引が多いから」(48.4%)、「納税のための事務作業が増えるのを防ぎたいから」(22.6%)、「発行する請求書が複雑になるのを防ぎたいから」(16.1%)の順に多かった。

 これらの結果について労災センター共済会は、「インボイス制度が開始される中、インボイス制度についてよくわからないという声が多く聞かれる。具体的な対策を進めるためにも、一人親方の活動をサポートする機関に相談するなど、早急な対応が必要だ」と述べている。特に、政治経済に無関心な人にとっては未だにインボイス制度について詳しく説明できないというのが本音だろう。

 

 

今の自民党は昭和の自民党と違って中小企業の味方になってくれない

 インボイス制度をわかりやすく説明すると、例えば貴方が文化祭の出店でお菓子を売っている高校生だとする。その文化祭に仕事の関係で高校の見学に来た会社員の人がいた。その人にお菓子を売る場合、高校生がインボイスに登録していないのに対して会社員がインボイスに登録していたら、買ったお菓子は経費で落とすことができず自腹で払わないといけなくなる。つまり、インボイス制度が導入された2023年10月1日以降、会社員でもインボイスを出せるか出せないかでサービスや商品を選ぶことになるだろう。

 その一方で、ツイッターまとめサイトではインボイス制度について「今まで納めずに益税として貰っていた消費税をちゃんと払いましょうねというだけなんですよ」と説明されている。しかし、消費税に免税制度を導入したのは他ならぬ自民党の竹下政権なのだ。もともと、消費税は1970~80年代にかけて大平政権や中曽根政権が導入しようとしたときに中小企業の根強い反対があったため、1989年の竹下政権は年間売上高3000万円以下の事業者は消費税を納めなくてもいいという特例措置を設けた。当時の自民党はまだ中小企業に対する配慮がある政党だったのだ。

 

 だが、それから15年が経って2004年に小泉政権は免税業者の年間売上を3000万円から1000万円以下に縮小している。小泉政権は「在任中に消費税を引き上げない」という公約を掲げていたが、実際には免税業者を縮小することで年間売上1000~3000万円の事業者に対して増税を行ったと言えるだろう。そして、3000万円から1000万円以下に縮小された免税業者をほとんど廃止しようとしているのが今回のインボイス制度である。つまり、インボイス制度の導入は今の自民党が昭和の自民党の政策を否定していることになる(表10を参照)。

 

 自民党の中でも積極財政的な経済政策提言を取りまとめていた元衆議院議員の安藤裕氏が、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化していた2020年4月に粗利補償をしないと中小企業が潰れると訴えたところ、自民党幹部から「これで持たない会社は潰すから」と言われたことを打ち明けた。また、同年5月3日には元自民党国会対策委員長逢沢一郎氏が「ゾンビ企業は市場から退場です。新時代創造だね」と発言している。少なくとも、今の自民党は昭和の自民党と違って中小・零細企業の所得を引き上げてくれる政党ではないことを頭に入れておいたほうが良いだろう。

 インボイス制度中止の運動を更に盛り上げるためには、無党派層だけでなく自民党支持者の方々にもインボイス反対の署名にご協力していただく必要があると思っている。

 

 

<参考資料>

小此木潔 『消費税をどうするか 再分配と負担の視点から』(岩波書店、2009年)

松尾匡 『左翼の逆襲 社会破壊に屈しないための経済学』(講談社、2020年)

 

インボイス制度反対の署名54万筆、政府へ手渡し実現

https://www.oricon.co.jp/news/2296704/full/

一人親方インボイス対応 進まない理由は説明不足か?

https://www.s-housing.jp/archives/326681