消費税増税に反対するブログ

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社会保障の充実を阻む「自己責任論」

国際調査が明らかにした日本の自己責任論

 日本は貧困問題に対して最も「自己責任論」が強い国として知られている。

 アメリカのピュー研究所が2007年、47カ国を対象に行った調査によれば、日本は『国や政府が自力で生活できない人を助けてあげるべきか?』の質問で、「全くそう思う」と回答した人はたったの15%しかいなかったのに対し、「あまりそう思わない」「全くそう思わない」と回答した人は合わせて38%にものぼっている(表3を参照)。

 

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 ここで注目すべきなのは「全くそう思う」の回答者が47カ国中、最下位だった一方で、自由と自己責任の原則を共有するアメリカより10%も「あまりそう思わない」と「全くそう思わない」の回答者が多かったことである。アメリカ社会が自己責任を共有するのは非を認めない国民性だからであって、自分が悪くなくても頭を下げる日本人に対して自己責任が求められるのは酷と言えるだろう。

 先進国の中で自殺率が高いのも、こうした自己責任論と無関係ではないはずだ。

 

 日本で「自己責任論」が高まっているのは、バブル崩壊以降、弱肉強食のアメリカ型資本主義が入り込んできたことや、山一證券北海道拓殖銀行などの破綻によって「潰れる会社は潰れるべし」という不良債権処理が本格的に始まったことも背景には存在するだろう。

 しかし、それでもアメリカより「政府が困っている人を助けてあげる必要はない」と回答した人の割合が多いのは、日本人の潜在意識に自己責任論が存在したということになるが、その一方で日本人は空気を読む国民性でもあるため、日常会話の場面で大っぴらに「貧困は甘えだ」などと悪口を言うことも少なかった。

 

 だが、2000年代に入ってインターネットの電子掲示板やブログが普及すると、状況がだいぶ変わってくる。ネットでは炎上マーケティングに代表されるように、過激な書き込みが却って注目されるということも多い。政治的な話題だと「戦争反対、憲法を守ろう」という理想論より「人権を無視し、憲法を破棄し、戦争できる国を作る」という力強い言葉のほうが注目を集めやすく、それが自己責任論にも発展したのだろう。

 

 例えば、2004年に発生した「イラク日本人人質事件」では、被害者に対してネット上で自己責任論を振りかざす誹謗中傷が溢れた。「プロ2ちゃんねらー」を自称する中宮崇氏は「人質三人とその家族はもともと反自衛隊思想の持ち主であり、共産党プロ市民(やらせ団体)とのつながりが深い」とレッテルを貼っている。

 また、記憶に新しい2015年の「ISIL(過激派組織イスラム国)による日本人拘束事件」でも、読売新聞の調査で犠牲者二人に対して「最終的な責任は本人にある」と答えた人が83%にのぼり、そのうち90%が拘束事件を巡る日本政府の対応を「適切だ」と回答している。つまり、世論の半数以上は「人質の犠牲は自己責任であり、政府はやるだけのことをやった」と考えていることになるだろう。

 

 更に、日本の自己責任論は人質事件だけでなく、格差社会や貧困問題でも持ち出されている。リーマンショックが発生した2008年秋に派遣労働者を中心とした解雇が相次ぎ、東京都千代田区日比谷公園に「年越し派遣村」が誕生したが、これに対してインターネット上では「携帯を持つ金があるなら、食費にまわせよ。贅沢なんだよ。」「食べるものにも事欠いているはずなのに、どうしてタバコが吸えるのか?」などと誹謗中傷の書き込みに溢れた。

 少し考えれば、新しい職場と連絡を取るのに携帯が必要だったり、失業者の中にタバコ依存症の人がいたりと理由が想像できると思うのだが、そうした客観的な意見はほとんどなかったように思う。

 

 

生活保護バッシングに変わったお笑い芸人の騒動

 2012年には、お笑い芸人のA氏の母親が生活保護を受け取っていた問題で、生活保護そのものをバッシングする動きも見られた。1950年に制定された現行の生活保護法では、親族による扶養は絶対要件とされておらず、A氏のケースでも経済的に余裕ができてからは福祉事務所との協議のうえ、母親への仕送りを行っていたという。そのため、厳密に言えば生活保護上の「不正受給」には当てはまらないのである。

 しかし、2012年3月に発足した自民党の「生活保護プロジェクトチーム」では、この問題に便乗して生活保護の給付水準を1割カットし、親族の扶養義務を強化する改正案を与党に戻った2013年1月に閣議決定している。

 A氏を擁護するタレントに対し、ツイッター生活保護を打ち切られて餓死した男性の遺体写真を送り付け「命奪われた人もおんねん。こういう人見てもそういうこと言えるんか。」と非難する人も存在したが、自民党は芸能人だけでなく病気で働けない人まで見捨てる社会保障の削減に踏み切ったと言って良いだろう。

 

 そもそも、芸能人は売れない下積み時代に苦労した人が多く、貧困家庭の出身であることをネタにしたバラエティ番組も存在するくらいである。貧困の世代間連鎖が固定化されつつある現代の日本社会では、学歴関係なしに貧困から抜け出す方法が限られており、その数少ない道の一つが芸能人になって売れるという選択肢ではないだろうか。

 政治家の中にも、舛添元都知事三原じゅん子参議院議員は、身内に生活保護受給者がいたことが発覚しているため、自民党もA氏を批判できる立場にないはずだ。

 

 また、生活保護バッシングを主導していたのが「保守派」や「愛国者」と呼ばれる部類の人々だったのも特筆すべき事項だ。

 A氏の問題を追及していた片山さつき議員は、2012年7月1日に行われた自身の応援デモで「働かない人ではなく、働けない人を守りたい」「正直者が報われる社会にしなければならない」と発言したが、その一方で城繁幸氏や赤木智弘氏との対談で「かつての日本にはあった『生活保護を受けるなんて、となり近所に恥ずかしい』といった価値観が徐々に失われつつある」とも語っており、真面目に働きたい生活保護受給者に対しても偏見を抱いているのが本音だろう。

 

 片山議員の他にも、今の保守政治家や言論人には貧困問題を根性論で語り、社会保障の削減を推進する人物が少なくない。

 安倍首相と親交の深い評論家の金美齢氏は、片山議員への批判に対して「単なる妬みに過ぎない」と言い張り、年間自殺者が2~3万人近くいることも「社会の在り方の問題ではなく、日本人は人間として衰弱しているのではないか」と発言している。

 

 金氏と同様に、安倍首相と親しい作家の百田尚樹氏は「現代の日本は、歴史上最も格差の少ない社会」だと発言し、「格差を問題にする評論家の多くは格差社会の勝ち組」とも語っている。

 しかし、安倍首相が消費税増税の延期を決定する際に、スティグリッツ教授やクルーグマン教授の意見を参考にしたことからも分かるように、ある程度有名な人物が格差社会を批判しないと説得力がないだろう。

 

 この他にも、元都知事石原慎太郎氏は作家の雨宮処凛さんとの対談で、2007年に問題となったネットカフェ難民について、アフリカの難民を引き合いに出し「もっと苦しい人たちがいるんだから黙ってろ」と切り捨てた。その後、「ネットカフェは1500円だが山谷に行けば200円、300円で泊まれる宿がいっぱいある」と発言し、問題になっている。

 石原の友人である元航空幕僚長田母神俊雄氏も、2010年の講演会で「最低賃金法があると経営者の自由裁量が奪われ、これでは国際競争に勝てるわけがない」と発言し、デフレ下に安い賃金で多くの人材を雇うワークシェアリングを推進している。愛国心が大好きなはずの田母神氏が何故、国際競争力に拘るのか不思議なのだが。

 

 保守系政治団体維新政党・新風も「福祉を重視する人々は決まって憲法25条を持ち出すが、生活保護受給者は勤労の義務(憲法27条)と納税の義務憲法30条)を果たしていない」「『国に頼らず、他人に迷惑をかけずに生きていこう』という誇りを持った国民こそが国を支える」と述べている。

 しかし、ここには「生活保護を受給しながら働いている人」や「消費税などの税金を滞納して生活保護を受けざるを得なくなった人」も存在するという事実が置き去りになっていないだろうか。また、普段は国家の枠組みを大切にしている保守の人々が何故、社会保障の問題になると「国に頼るな!」といった根性論や自己責任論をむき出しにするのか疑問に思ってしまう。

 財務省が言う「消費税を上げなければ日本が破綻する」という主張と、保守派が言う「生活保護受給者が増加すれば日本が破綻する」という主張に同じような胡散臭さを感じるのは私だけだろうか。

 

 

ネット右翼の醜い生活保護バッシング

 更に、インターネット上では生活保護を「ナマポ(生保の音読み)」と呼び、「日本にいる在日韓国人の多くが生活保護を受給している」というデマが蔓延した。2014年の衆院選では、これを鵜呑みにした次世代の党(現・日本のこころを大切にする党)が「外国人の生活保護受給者は日本の約8倍」という強引な動画を作成して大幅に議席を減らしている。しかし、実際に生活保護受給者の97%は日本人であって、ネット上の受けを狙った次世代の党こそ間違いなのだ。

 そもそも、こうしたインターネット上で過激な書き込みを行う「ネット右翼」と呼ばれる人々は、一昔前まで「底辺の若者が右傾化した結果」と言われていたが、若手保守論客の古谷経衡氏の調査によれば、ネット右翼の平均年齢は38.15歳(2013年当時)と中年層が多く、平均年収も451万円でミドルクラスが中心だと分析している。

 

 保守や右派層に、生活に困っている人が少ないのは私が参加している消費税増税反対デモで、ネット右翼的な人を見かけないことからも実感できる。インターネットで自己責任論が増幅しやすいのも、ネット上で政治的な議論を行っているのが生活に余裕のある層だからではないだろうか。

 ネット右翼が全体の3%に過ぎない外国人の生活保護を非難する理由には間違いなく、「生活保護受給者はどうせ在日がほとんどだろう」という思い込みが存在するからだと言える。実際に、お笑い芸人の生活保護騒動でもA氏が韓国語の本を出版している程度の理由で「日本人ではない」などの誹謗中傷が見られた。私も生活保護の受給資格は日本国籍を有する者に限定すべきだと考えているが、ネット右翼の事実に基づかない批判を許すことはできないだろう。

 

 また、週刊誌やニュース番組などでは、生活保護について「不正受給」ばかりがクローズアップされ、真面目に生活している受給者が圧倒的だという事実を報道した番組はほとんど存在しないように思う。

 例えば、2011年1月21日のテレビ朝日の番組で、生活保護を受給しながらカラオケに行って遊んでいる30代無職男性の様子が放送された。私は当時、この番組を見て「働く意欲のないニート生活保護を受給できるなんて許せない」と思ったものだが、それから数年経って実際に生活保護の受給者数名に話を聞いたところ「仕事を見つけて、収入が得られるまで遊ぶのも我慢している」という方がほとんどで、私自身も生活保護に偏見を抱いていたということを実感した。

 

 インターネット上で生活保護をバッシングしている人々も、実際に受給者に会って話を聞いているわけではなく、前述の番組のような「生活保護を受給して遊んでいる一部の人」を見て、受給者全員を「国家に庇護された怠け者」扱いしているのだろう。ネット右翼は、よく「マスコミの偏向報道を許さない」などと言うが、生活保護に関してはお笑い芸人の騒動に便乗してマスコミと同様にバッシングを行っていたのは皮肉な話である。

 実際に生活保護を受けている女性は、「ネット上の批判の中には『生活保護受給者はカップラーメンを食べるのも贅沢である。なぜ節約を考えるなら、何食も入っている安い袋麺にしないのか』というのもあります。心が痛みました。ネットの書き込みに恐怖して、病気が悪化してしまうこともある。生活保護を受けたくて受けているわけではなく、早く自立したいと思っているので、なおさら焦ってしまう」と述べている。

 カップラーメンは決して贅沢品ではなく、コンビニでも安く買える品物だ。バッシングしている側は自分が恵まれた暮らしをしているくせに、生活保護受給者に対してカップラーメンすら食べてはいけない生活を強要するのは無責任ではないだろうか。生活保護プロジェクトチーム座長の世耕弘成議員は「生活保護受給者の人権は制約されてもやむを得ない」と発言して問題になったが、ネット上で同様の書き込みが多く見られることから、生活保護に対する差別的意識は自民党だけの問題ではないだろう。

 

 日本で社会保障が充実しないのは消費税が安いからではなく、自己責任論が蔓延しているからなのである。

 

 

<参考資料>

雨宮処凛 『命が踏みにじられる国で、声を上げ続けるということ』(創出版、2014年)

伊藤周平 『消費税が社会保障を破壊する』(角川書店、2016年)

稲葉剛 『生活保護から考える』(岩波書店、2013年)

金美齢曽野綾子 『この世の偽善 人生の基本を忘れた日本人』(PHP研究所、2013年)

国民行動京都委員会 『日本の決断 これが日本を滅亡から救う道だ』(洛風書房、2013年)

津田大介香山リカ安田浩一 他 『安倍政権のネット戦略』(創出版、2013年)

中宮崇 「独善と偽善で世論をミスリードするTV報道の害毒」 『正論』(産経新聞社編、2004年6月号)

百田尚樹 『大放言』(新潮社、2015年)

藤田孝典 『貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社、2016年)

古谷経衡 『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト、2014年)

和田秀樹 『この国の冷たさの正体』(朝日新聞出版、2016年)

 

Pew Global Attitudes Report October 4, 2007(18、95ページ)

http://www.pewresearch.org/wp-content/uploads/sites/2/2007/10/Pew-Global-Attitudes-Report-October-4-2007-REVISED-UPDATED-5-27-14.pdf

自己責任論の本家は安倍首相だった!? 人質事件被害者に救出費用を請求する発言も

http://lite-ra.com/2015/02/post-853.html

本当に生活保護を受けるべきは誰か 『Voice』 2012年8月号

http://ironna.jp/article/507

総選挙「唯一の敗者」とは?「次世代の党」壊滅の意味とその分析

http://bylines.news.yahoo.co.jp/furuyatsunehira/20141215-00041509/