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【番外編】2024年のアメリカ大統領選挙で考えたいトランプとカルト宗教との関係

 

トランプが多くの黒人票を獲得すれば大統領に復帰する可能性は高まる

 2024年11月5日に予定されているアメリカ大統領選挙に向けた共和党の候補指名争いで、東部ニューハンプシャー州予備選の投票が同年1月23日に終了した。直前の世論調査ドナルド・トランプ前大統領が優勢で、ニッキー・ヘイリー元国連大使が迫っていたが、開票結果はトランプが54.6%、ヘイリーが43.1%でトランプが勝利した。

 日本人から見て2020年の大統領選で負け、熱烈な支持者が2021年1月に米議会議事堂を襲撃する事件まで起こしたトランプが再び大統領を目指している光景は不思議に感じるだろう。しかし、トランプは今も共和党の中で最大の支持率を誇り、議会襲撃を扇動した件でトランプに責任があるとした共和党の議員は2名を残して全て予備選で消えてしまった。2022年6月のエコノミストによる世論調査では、共和党支持者の75%、全体では4割が選挙に不正があったと信じている。共和党はトランプの個人崇拝党になってしまったのだ。

 

 また、今回の大統領選でトランプは歴代の共和党候補の誰よりも多くの黒人票を獲得する可能性があるという。ブルームバーグが全米規模および激戦州での世論調査結果を精査したところ、共和党の予備選でトップを走るトランプは現時点で、黒人票の14~30%を確保している。ピュー・リサーチセンターによると、前回2020年の大統領選では約8%なので驚異的な伸びであり、票数に換算すれば共和党候補として歴代最多となる見込みだ。

 米政治専門サイトのポリティコが引用した全米黒人地位向上協会(NAACP)の推計によると、1960年の大統領選挙では約500万のアフリカ系アメリカ人が投票に行き、その32%が共和党候補のリチャード・ニクソンに票を入れていた。なお国税調査の数字を見ると当時の黒人は総人口の10.8%を占め、実数では1941万8190人だったが、今は13.6%で4693万6733人と予想されている。更に、黒人の投票率は統計会社スタティスタによると、データが入手可能となった最も古い1964年の選挙では58.5%で、前回2020年は58.7%とほとんど変わっていない。そうであれば、今回のトランプが黒人票の13%以上を獲得すれば、投票数では1960年のニクソン以降で最高、実数では史上最多となっている。

 

 民主党現職のジョー・バイデンはどうか。ピュー・リサーチセンターによれば、前回2020年には黒人票の92%を獲得し、これがジョージアペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシンといった激戦州での勝利につながった。ジョージア州では黒人票の88%を集め、1万1779票の僅差ながらもトランプに勝っている。だが昨年末の時点で、バイデンは黒人の支持をかなり失っていた。ブルームバーグ・ニューズとモーニングコンサルトによる合同世論調査によれば、2023年10~12月には激戦7州で黒人有権者の支持者が7%も低下し、61%になっていた。その一方で、黒人のトランプ支持率は25%前後で安定的に推移している。

 仮にトランプが激戦州でバイデンより多くの黒人票を獲得すれば、彼が大統領に復帰する可能性は高まると言えるだろう。

 

 

バイデンはトランプの過激な思想や危険な取り巻きを容赦なく批判するべき

 バイデン大統領の支持率が上がらずトランプに劣勢を続けているのは、バイデン自身の気の弱さが露呈しているからだとも言えるだろう。例えば2022年6月、コメディアンのジミー・キンメルは自分のトーク番組にバイデンを招いて、「共和党がルールを守らないのに、どうして優等生のやり方を続けるんですか?」といら立ちを直接ぶつけた。「大統領令を出せばいいじゃないですか。トランプなんかハロウィンのキャンディみたいに乱発していましたよ」とも発言している。バイデンは「トランプの真似はしたくないんだよ」とおっとり答えた。キンメルに「何であなたは怒鳴らないんですか?何で、そんなに楽観的なんですか?」と激しく煽られてもバイデンは好々爺の笑顔を崩さなかった。

 

 バイデン政権では完全失業率が2021年1月の6.3%から2023年11月の3.7%まで改善し、総合の消費者物価指数も2021年1月の1.4%から2022年6月の9.1%まで上昇していたものの、その後は2023年11月の3.1%に落ち着いている。この指標だけを見ると、短期経済は上手くいっているように感じるだろう(図80を参照)。

 しかし、ペンシルベニア州立大学のメアリー・フランシス・ペリー教授は「インフレ率は下がったが、今でも黒人男性は食料など生活必需品の価格高止まりに不満を抱いている」「中小企業の経営者にも、トランプ政権時代のほうが連邦政府からの融資を受けやすかったという人がいる」と発言している。かつての「黒人の命も大事だ」というブラック・ライヴズ・マターのような運動も風化し、今はその反動もあるという。

 

 バイデン政権がもっと有権者に示す必要があるのは、トランプが再び大統領になったらアメリカの政治や人々の暮らしにどのような変化が起こるのかを頭ではなく感覚的に理解してもらうことだ。例えば、ゴールデンタイムに第2次トランプ政権のアメリカを描いたCMを流す。そのネタは極右団体「プロジェクト2025」がたっぷりと提供してくれる。まず、1807年に定められた反乱法に基づき、選挙結果に異議を唱える抗議行動は一切鎮圧される。トランプが日頃から「犯罪まみれの悪の巣窟」と呼ぶ都市には米軍が派遣されるだろう。2020年の大統領選ではトランプ自身が選挙結果に異議を唱えたにも関わらず、彼が選挙に勝ったら逆に反政府デモを規制してくることが予想されるようだ。

 人工妊娠中絶を受ける権利の否定も、バイデン政権が繰り返し批判するべき「トランプのアメリカ」である。トランプが共和党寄りの判事を複数指名したことにより、連邦最高裁では現在9人の判事のうち6人が共和党寄りとなっている。彼らが2022年に中絶を受ける権利は憲法が認める人権と認定した「ロー対ウェード判決」を破棄して以来、共和党が優勢の州では中絶を厳しく制限または禁止する州法が次々と誕生している。人工妊娠中絶は、有権者の投票行動を大きく左右する争点であることが証明されている。2022年に「ロー対ウェード判決」が破棄されて以来、中絶が直接争点になった選挙で民主党は全勝しているからだ。

 バイデン政権はトランプを暴君として描く方法も見直す必要がある。彼らによるトランプの描写は「支離滅裂な過激派のリーダー」であることを十分強調していない。トランプの物忘れや勘違いをあざ笑うのではなく、トランプの過激な思想や危険な取り巻きを容赦なく批判するべきである。

 

 

統一教会との関係にあるトランプが新自由主義に反対する可能性はほとんどない

 また、今回の大統領選で考えたいのはトランプとカルト宗教との関係だ。心理学者で統一教会の元信者でもあるスティーブン・ハッサンは2015年、大統領選挙への出馬を決めたトランプの政治集会で、支持者たちが対立候補ヒラリー・クリントンのことを「あの女をムショにぶち込め!」と熱狂的にシュプレヒコールするのを見て、既視感(デジャブ)に襲われた。「それは私が統一教会の信者だった頃に見たものとそっくりだった」と発言している。

 

 ハッサンはトランプと文鮮明の共通点を探し始めると数え切れなかった。それをまとめた著書の『トランプというカルト』は、トランプがこんなにも支持者から熱狂的に信じられ続ける理由を解き明かす。トランプは政治家ではなく、カルトの教祖として考えるべきなのだと。「私が信者だった頃、教祖に対する疑念を抱くことは何度かあった」とハッサンは言う。教団はその疑念こそが悪魔のささやきだと教えている。教団を批判するメディアは全て嘘だと決めつけ、絶対に見るなと命じるのは全てカルトの基本である。トランプも主流メディアの報道をフェイクニュースと呼び、見ないよう聞かないように言った。支持者たちは情報を自ら遮断し、トランプと彼の支持者の言葉にしか触れなくなる。そこでシャワーのように浴びせられるのは教祖への賛美と敵への誹謗中傷だ。

 トランプは自己賛美中毒で、「私はイケメンすぎて容姿を批判されない」「私はハンサムだと思わないか?」「私は任期2年で歴代のどんな大統領よりも多くを成し遂げた」と聴衆に同意を要求した。文鮮明も「私は戦略の天才だ。韓国やアメリカの政府は私から学んでいる」「私はイエス・キリストの10倍偉大だ」とトランプと似たような発言をしている。しかし、彼らの自己賛美にはまるで根拠がない。2人とも戦争で戦った経験はないし、トランプはコロナ対策で失敗し、史上最悪の犠牲者を出した大統領だ。だが、信者は彼らの自己賛美を信じ、教祖の自己愛は信者へと拡大される。私たちは教祖の偉大さを知る選ばれし者なのだと。そんな支持者をトランプは「美しい人々」と讃えていた。

 

 そもそも2016年の大統領選でトランプが勝利したのは、アメリカの政治を動かす上位1%の富裕層から政治献金を受け取らない反エスタブリッシュメントの候補者で、彼のビジネスで得た収入のみで選挙活動を行っていた背景が存在する。そのため、TPPからの離脱や関税の引き上げなど新自由主義に反対する政策を打ち出すことが可能だった。

 だが、一度大統領を経験してすっかりエスタブリッシュメントとなり、統一教会と蜜月関係にある現在のトランプが2016年当時と同様に新自由主義に反対してくれる可能性はほとんどないと言えるだろう。トランプは2022年8月に統一教会が開催した安倍元首相の追悼セレモニーで「特に世界平和に大きな貢献をしてくれたドクタームーン(韓鶴子氏)に感謝する。素晴らしい女性だ」とビデオメッセージを寄せた。統一教会は第二次安倍政権の時代に強硬にTPPを推進しており、新自由主義には賛成の宗教団体だと言うことができるだろう。

 

 トランプと統一教会の関係は2016年11月に安倍元首相と直接会談した頃から指摘されていた。当時、安倍政権はTPPに賛成しており、国務長官時代にTPPの旗振り役を務めていたヒラリー・クリントンと会談していた。そのため、2016年の大統領選までトランプとのパイプを築くことができなかった。そこで、歴史的に共和党と親密な関係のある統一教会が動き出したというわけである。

 同年11月17日、統一教会NGO「天宙平和連合」は世界各地で「世界平和国会議員連合」を創設し、参議院議員会館で同議員連合の創設集会が開かれた。同集会には安倍政権の閣僚5人を含む60人の自民党国会議員が出席したという。同日、ニューヨークで行われた安倍元首相とトランプの直接会談については「トランプ陣営とのパイプを持っていなかった安倍が国際勝共連合の幹部に電話で取次ぎを依頼し、統一教会韓鶴子総裁を経由してトランプの女婿につながり、その手配で実現した」との情報も出ている。

 

 アメリカでの統一教会の被害は文鮮明韓鶴子の7男の文亨進が2015年に設立したサンクチュアリ教会(世界平和統一聖殿)に代表される。サンクチュアリ教会は銃規制に反対する最右翼の新興宗教団体で、銃を持った信者が集結する合同結婚式を開催した際には周辺の学校が全て休校になる騒ぎである。信者の子供たちにも早くから銃の打ち方を教え、その子供が銃で家族を殺害未遂する事件まで起きている。文亨進はトランプの熱狂的な支持者で、2021年1月の米議会襲撃事件にも参加していた。トランプと統一教会の関係はネオナチや白人至上主義団体との関係以上に追及されるべき問題である。

 こうした過激な宗教団体とのパイプを持つトランプが再び大統領に戻るのは、同盟国の日本としても非常にリスクではないだろうか。投票は11月だが、日本人としても早くからアメリカの大統領選に注目すべきである。

 

 

<参考資料>

町山智浩アメリカがカルトに乗っ取られた! 中絶禁止、銃は野放し、暴走する政教分離』(文藝春秋、2022年)

塚田穂高 編著 『徹底検証 日本の右傾化』(筑摩書房、2017年)

ケイト・プラマー 『今度のトランプは黒人票で勝つ』「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス、2024年1月30日号)

デービッド・ファリス 『バイデンがトランプを止めるには』「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス、2024年2月6日号)

 

共和党 候補者選び第2戦 ニューハンプシャー州 トランプ氏勝利

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240124/k10014332371000.html

OECD Inflation(CPI)

https://data.oecd.org/price/inflation-cpi.htm

OECD Unemployment rate

https://data.oecd.org/unemp/unemployment-rate.htm

カルト集団と過激な信仰 エピソード5 世界平和統一聖殿

https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08FBKMBKM/