消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

2010年代以降に若者の自殺が増加した原因について検証する

消費税を8%に増税した2014年以降に20歳未満の自殺者が増加している

 2023年6月27日にパリ郊外で北アフリカ系の17歳の少年を警官が射殺した事件をめぐり、フランス各地で抗議行動が起きて暴動に発展した。暴動は商店や自動車の破壊などで10億ユーロ(約1550億円)以上の損失を出したとみられ3400人以上が逮捕された。フランスでは、人種をめぐる不平等や経済的な格差についての議論が再燃する一方で世代間の格差も表面化しつつある。マクロン大統領は6月30日にデモや暴動に参加している10代の若者に対して「彼らが夜の路上に出ないようにするのは親の責任であって政府の仕事ではない」と主張し、翌日の記者会見では暴動で逮捕された者の3分の1はとても若いと指摘した上で「彼らの中にはゲームの中毒者もいるようだ」と責任転嫁した。

 こうしたニュースを見て「若者の暴動が起きていない日本は幸せだ」と思った人も多いかもしれない。しかし、日本ではフランスと異なる形で若者の問題が表面化していると言うこともできるだろう。実際に、厚労省が発表している2022年版の「自殺対策白書」によれば、日本の10歳から39歳までの死因の第一位は自殺となっている。こうした状況は国際的に見ても深刻であり、10~20代で死因の第一位が自殺なのは日本と韓国のみである。韓国で若者の自殺が多いのは明らかに兵役制度や受験戦争が原因だが、日本で若者の自殺が多いのは学校や職場が「事実上の兵役制度」になっているからだろう。

 

 また、近年では高齢者の自殺が減少する一方で若者の自殺は増加しているのだ。人口比で見た20歳未満の自殺率は1979年の10万人当たり2.57人から1991年の1.43人に減少し、バブル崩壊後の1998年には2.68人まで再び増加するが、その後は消費税が5%だった最後の年である2013年の2.44人まで横ばいで推移していた。それがここ10年で急速に増加して最新の2022年は3.99人になっている(図58を参照)。

 それに対し、人口比で見た60歳以上の自殺率は1998年の10万人当たり40.73人から2022年の18.88人まで24年間で半分以下に減少している。近年自殺者が減ったと言われるのは、明らかに高齢者の自殺者数が減少したことが理由だろう。

 

 消費税増税の賛成派は「消費税を5%に増税した1997年以降は自殺者が増加したが、8%に増税した2014年以降は自殺者が増加していない」と言っているが、実際には20歳未満に限れば2014年以降も自殺者が増加しているのだ。

 若者の自殺が増加したことについて新型コロナウイルスの感染拡大に原因を求める向きもあるだろうが、今回は主にそれ以外の理由を考察したいと思う。

 

 

国が経済成長していないと若者は自分の将来に希望を持てなくなる

 2010年代以降に若者の自殺が増加した原因について、長引くデフレーションの影響は避けて通れないだろう。例えば、内閣府が2013年に日本及び6つの国(アメリカ、スウェーデン、イギリス、韓国、ドイツ、フランス)における13~29歳までの若者を対象に、共通の質問項目を用いて実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(以下、若者調査)がある。

 この調査結果の中で、「あなたは自分の将来について明るい希望を持っていますか」という質問に対して、「希望がある」と回答した割合はアメリカが56%、スウェーデンが52%、イギリスが44%、韓国が42%、ドイツが27%、フランスが24%だったのに対し、日本は12%と著しく少なかった。その一方で、「どちらかといえば希望がない」と「希望がない」の合計はアメリカが9%、スウェーデンが9%、イギリスが10%、韓国が14%、ドイツが18%、フランスが17%だったのに対し、日本は38%と突出して多くなっている。

 若者調査で対象となった7ヵ国の過去20年間(2003~2023年)の名目GDPの伸び率を調べると、アメリカが2.34倍、スウェーデンが2.34倍、イギリスが2.06倍、韓国が2.68倍、ドイツが1.83倍、フランスが1.69倍なのに対し、日本は1.12倍程度である(図59を参照)。このことから、先進国の中で日本だけ自分の将来に希望を持つ若者が少ないのは長引くデフレーションの影響で低成長が続いていることが原因だと言えるだろう。国の経済成長がほとんどない状態で、若者が自分の将来に明るい希望を持てないとしたら自殺者が増加するのは当然のことである。

 

 ちなみに、日本以外でも経済成長率の低いドイツやフランスは「希望がない」の回答者が多くなっている。若者調査では13~29歳の年齢について、更に細かく中学・高校期の13~17歳、大学・就職開始期の18~24歳、成人期の25~29歳の3つにわけて調査を行っているが、13~17歳の「どちらかといえば希望がない」と「希望がない」の合計はアメリカが4%、スウェーデンが6%、イギリスが6%、韓国が14%、ドイツが11%、フランスが12%、日本が26%と、日本以外の国ではいずれも自分の将来に希望を持てない中学生や高校生は少なかった。

 それに対し、25~29歳の「どちらかといえば希望がない」と「希望がない」の合計は比較的成長率の高いアメリカが11%、スウェーデンが11%、イギリスが11%、韓国が13%とほとんど増加していないのに対し、比較的成長率の低いドイツが21%、フランスが22%、日本が45%と増加している。国が経済成長していないと、大人になるにつれて閉塞感が広がり自分の将来に希望を持てなくなるのだろう。

 

 

若者の自殺を減らすためには今からでも道徳の教科化を中止すべき

 また、若者の自殺が増加した原因について長引くデフレーションの他にも、2018年度から小学校、2019年度から中学校で始まった道徳の教科化を挙げる必要があるように思う。道徳教育とは一見すると、子供たちのいじめや自殺を防ぐために行われているように感じるが実態は違うのだ。

 少し古いが、2003年に文部科学省が実施した『道徳教育推進状況調査』がある。この中で、「道徳の時間を『楽しい』あるいは『ためになる』と感じている児童生徒がどの程度いると思うか」と各学校に対して質問したところ、小学1~2年生は「ほぼ全員」と回答した学校が43.4%だったのに対し、中学3年生になると「ほぼ全員」と回答した学校が7.6%まで減少している(図60を参照)。学年が上がって思春期に差し掛かる年齢になると、道徳に対して冷めた見方をする傾向があるようだ。

 

 小学6年生の複数の道徳教科書に採録されている「星野君の二塁打」という物語がある。この中で、星野君の少年野球チームは隣町のチームと1点を追いかける試合をしていた。最終回の7回裏、チャンスで星野君の打席になったとき監督はバントの指示を出す。しかし、その命令に納得できないままにバッターボックスに入った星野君は、絶好球が来たのでバントのサインを無視して強振し、二塁打を打ってチームを逆転勝利に導いた。だが、翌日の練習に集まったところで監督は選手に次のことを告げる。いくら結果が良かったとはいえ、チームで決めた作戦であるバントのサインを破った星野君は「チームの作戦として決めたことを絶対に従わなければならない」という規則を破ったことになる。そういう者を大会に出すわけにはいかないと。

 教師や子供たちはこの物語を素直に読めば集団の中での規律は重要だという教訓を引き出すのであろうが、それを強調すれば監督の命令に従うことが大事だという話に発展し、更に上司や政府の指示には従わなければならないという話にも広がるだろう。また、教室では教師が限られた時間の中で求められている価値観にまとめようとしがちで、生徒からの異なる意見が排除されたり、クラスの同調圧力で少数意見を発信しようとしたりする特定の子供のいじめにつながることも懸念される。

 しかし、道徳の教科化に反対していた人もまさか教科化を実施してからの5年間で20歳未満の自殺者が増加することまでは想像していなかっただろう。文部科学省は道徳を教科化した理由について「いじめなどの現実の問題に対応できていない」と説明しているが、実際には道徳の教科化が子供たちのいじめや自殺を促してしまっているのだ。

 若者の自殺を減らすためには、消費税廃止や財政出動など名目GDPを高める政策を実施すると共に道徳の教科化を今からでも中止すべきだろう。

 

 

<参考資料>

鈴木賢志 『日本の若者はなぜ希望を持てないのか 日本と主要6カ国の国際比較』(草思社、2015年)

大倉幸宏 『「昔はよかった」と言うけれど 戦前のマナー・モラルから考える』(新評論、2013年)

山口二郎 『民主主義は終わるのか 瀬戸際に立つ日本』(岩波書店、2019年)

市民セクター政策機構 『学校がゆがめる子どもの心 「道徳」教科化の問題点』(ほんの木、2019年)

 

郊外の若者に渦巻く怒り フランスには「人種差別と戦う勇気」が必要

https://www.asahi.com/articles/ASR7B6VYBR76UHBI037.html

「大暴動は若者の親とSNSとTVゲームのせい」――仏政府の責任転嫁

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/eabbfd0d5f46c3aacb1b8157d9ddd873ce3319eb

令和4年版自殺対策白書

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsuhakusyo2022.html

令和4年中における自殺の状況

https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R05/R4jisatsunojoukyou.pdf

人口推計 長期時系列データ

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200524&tstat=000000090001

「道徳」の評価はどうなる??

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/05/25/1379579_001.pdf