消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

三浦展氏の『大下流国家』から見るコロナ禍でも消費税引き下げが実施されない理由

 

生活満足度が上昇しているのに若者の自殺が増加する矛盾

 三浦展氏の『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』(光文社、2021年)を読んでいた。著者は世代や消費社会などの研究を踏まえて時代を予測し、新しい社会デザインを提案している評論家である。三浦氏は日経新聞が2021年3月3日に投稿した北川和徳氏のコラム『森氏の失言と日本の停滞』の中で、国際体操連盟の渡辺守成会長がアフリカのある国でソニーSONY)の携帯電話を使っていたら、子供たちがロゴを見て「ソノイは中国のメーカーか韓国のメーカーか」と尋ねてきた話を紹介して「どうやら日本がオワコン(終わったコンテンツ)化しつつある」と述べている。

 

 本書の中で特に気になったのは68~69ページに掲載された「国民の生活満足度」の推移だ。この調査は内閣府が1963年からほぼ毎年行っている『国民生活に関する世論調査』によって、「現在の生活に対して満足しているかどうか」を質問したもので1992年以降は「満足している」「まあ満足している」「どちらともいえない」「やや不満だ」「不満だ」「わからない」の6つが選択肢となっている。

 三浦氏は好景気だった高度経済成長期やバブル期に不満が拡大したのに対し、2003年から2019年にかけて「満足」の割合が58.2%から73.8%まで増加して、「不満」の割合が39.6%から25.0%まで減少したことについて、「この10年で給料は上がらないが物価も下がったので生活はそれなりに安定したというデフレ定着の時代になった」と述べている。

 図37では「不満」の割合と持ち家の帰属家賃を除く総合物価指数、完全失業率の推移を示したが、このグラフを見ると1974年はインフレが悪化して不満が高まった時代、2003年は失業率が悪化して不満が高まった時代、2021年は新型コロナウイルスが感染拡大して不満が高まった時代だと言えるかもしれない。

 

 しかし、2003年から2019年にかけては不満が減少しただけで政府が何も経済対策を行う必要はなかったということにはならないだろう。例えば、2003年は自殺者数が3万4427人と戦後最も多かった時代だが、その一方で全体の自殺者数に占める20歳未満の割合は1979年の4.27%から2002年の1.56%まで減少している。

 実際に私は2002~2003年に小学5~6年生で、生活満足度がこんなに低かったのが信じられないほど楽しい日々を過ごしていた。当時はイラク戦争や長崎男児誘拐殺人事件など世知辛いニュースが続いていた一方で、バラエティ番組や音楽番組は今よりはるかに面白かったことを覚えている。

 

 また、2002~2003年が楽しかったと感じるのは当時の小学校が戦後最も授業時間の少ない時代だったことも理由の一つなのかもしれない。小学校6年間の総授業時数は1961年に5821コマだったが2002年には5367コマまで削減され、これは2020年の5785コマと比べても400コマ以上少ないのだ。確かに当時高学年だった私は基本的に勉強を学習塾でしていたので、学校は好きな女の子に会うために行っていたようなものだった。

 1980年代~90年代前半生まれは一般的にゆとり世代と呼ばれるが、昭和の管理教育が衰退してから小学校に入学し、SNS上のいじめが深刻になる前に義務教育を修了したという意味で、戦後最も恵まれた子供時代を過ごした世代だと言えるかもしれない。

 精神科医和田秀樹氏は「1980年代まで子供時代は受験戦争などが激しくて大人になってからは終身雇用でのんびりしていたのに対し、今は学校で競争原理を否定しながら卒業したら過酷な競争に嫌でも放り込まれる『子供天国・大人地獄』の社会だ」と述べているが、それは2022年の現在ではなく中高年層の自殺が多くて若者の自殺が少なかった2000年代前半にこそ当てはまるだろう。

 

 しかし、1980年代以降に減少していた全体の自殺者数に占める20歳未満の割合は逆に2002年の1.56%から2021年の3.57%まで増加してしまう。更に、人口比で見た20歳未満の自殺率もバブル期だった1991年の10万人当たり1.43人から2021年の10万人当たり3.68人まで増加している(図38を参照)。

 三浦氏は2003年から2019年にかけて「年齢別に見ると20~30代男性の不満の減少が顕著である」と述べているが、若年層の不満が減少する一方で20歳未満の自殺が増加しているのは、現代の若者が身近な友人たちと幸福を分かち合っている層と学校のいじめや職場の不安定雇用に苦しめられている層とで二極化しているからではないだろうか。

 特に教育関係者は道徳の授業が教科化され、新型コロナウイルスの感染拡大も長引く中で若者の自殺が増加している現状についてもっと危機感を持つべきである。

 

 

コロナ禍でも有権者の多くが消費税の問題に無関心な理由

 また、三浦氏の本を読むと日本でコロナ不況が深刻になっているにも関わらず消費税引き下げが実施されない理由もわかるような気がする。

 『大下流国家』の172ページには、NHK放送文化研究所が1973年から5年ごとに行っている日本人の意識調査で「権利についての知識」の時系列データが掲載されている。この質問では「リストにはいろいろな事柄が並んでいますが、この中で憲法によって義務ではなく国民の権利と決められているのはどれだと思いますか。いくつでも挙げてください(複数回答)」と聞いている。

 

 私が気になったのはグラフの中で「思っていることを世間に発表する」が1973年の49.4%から2018年の29.8%、「労働組合をつくる」が1973年の39.4%から2018年の17.5%まで減少した一方で、「税金を納める」は1973年の33.9%から2018年の43.8%まで増加したことである(表4を参照)。

 税金を納めることは憲法30条に定められた国民の義務だが、これだけ権利だと勘違いする人が増加してしまった背景には自民党に批判的な労働組合の間でも税金に対する関心が薄らいだことと無関係ではないだろう。

 

 例えば、私は2012年から消費税増税に反対する活動をしているが、2013年末には首相官邸前で特定秘密保護法の反対デモが行われたときは数千人を超える人々が集まっていた。そこで私はいつものように増税反対のスピーチをしようとしていたら、デモの主催者から「今日は消費税について話すのを控えてください」と言われたことを覚えている。

 当時の私はまだ大学生だったので主催者に反発することはできなかったが、今振り返ってみれば反政府運動をしている人々にとっても消費税増税は関心の薄いテーマだったのではないだろうか。

 

 これは消費税が導入された1989年当時に都内で消費税反対を訴えるダンプカーが走り、地方の商店街でも「弱い者いじめの竹下消費税断固反対」という看板が掲げられていた約30年前の状況との大きな違いである。コロナ禍で50ヵ国以上が消費税引き下げを実施しているというのに、日本では中小企業や個人事業主が加盟する労働組合民主商工会くらいしか消費税増税に反対するデモをやっていないのは異常だろう。

 

 更に、『大下流国家』の94ページには同じくNHK放送文化研究所の意識調査で、「人によって生活の目標もいろいろですが、リストのように分けるとあなたの生活目標に一番近いのはどれですか」との質問の回答が時系列で掲載されている。この質問では「その日その日を、自由に楽しく過ごす(快志向)」「身近な人たちと、なごやかな毎日を送る(愛志向)」「しっかりと計画を立てて、豊かな生活を築く(利志向)」「みんなと力を合わせて、世の中を良くする(正志向)」の4つの選択肢を提示している。

 三浦氏は特に選択肢の中で、「みんなと力を合わせて、世の中を良くする(正志向)」の回答者が1973年の13.8%から2018年の4.2%まで減少していることに注目した(表5を参照)。

 

 正志向が年を経て減少してきた理由は、若い世代ほど「正志向」が弱まったためか、それとも全年齢で減ったためか検証したいと思い、データを年齢別に経年で見ようとNHK放送文化研究所に連絡したが、データは公開できないと断られたのでNHKブックス現代日本人の意識構造」の各年度版で概観した。

 これによると16~29歳の正志向は1973年の6%から2018年の3%なのに対し、30~59歳は同じく1973年の16%から2018年の3%、60歳以上は1973年の23%から2018年の6%と若者より中高年層の世代で減り方が大きい。

 三浦氏は中高年層の意識が変化した理由について、1973年の中高年層は戦争の苦労を知っている世代なのに対し、2018年の中高年層は戦争の苦労を知らない世代(=戦後の豊かな社会しか知らない世代)であるから、こうした中高年層の正志向の衰退が近年の政治家や官僚の不祥事を招いていると言うこともできるかもしれないと考察している。

 

 2022年の参院選における年代別投票率を見ても20代が33.99%、30代が44.80%、40代が50.76%、50代が57.33%、60代が65.69%、70代以上が55.72%と中高年層のほうが高いため、消費税を引き下げて景気を回復させようという流れにならないのも政治的な影響力が大きい世代の正志向が衰退しているからだろう。

 私は三浦氏の本を読んでただ消費税増税を批判するだけでなく、コロナ禍でも有権者の多くが消費税の問題に関心を持っていない理由についてもっと着目する必要があると感じた。

 

 

<参考資料>

和田秀樹 「この国の冷たさの正体」(朝日新聞出版、2016年)

 

森氏の失言と日本の停滞

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO69594650S1A300C2UU8000/

現在の生活に対する満足度

https://survey.gov-online.go.jp/r03/r03-life/2-1.html

令和3年中における自殺の状況

https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R04/R3jisatsunojoukyou.pdf

学習指導要領 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E7%BF%92%E6%8C%87%E5%B0%8E%E8%A6%81%E9%A0%98

人口推計 統計表一覧

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200524&tstat=000000090001

第10回 「日本人の意識」調査(2018)

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20190107_1.pdf

特集:消費税の歴史 - 時事通信フォト

https://www.jijiphoto.jp/ext/news/sp/010/

消費税減税50カ国・地域 コロナ禍の支援

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-12-27/2020122701_02_1.html

国政選挙における年代別投票率について

https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/