消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

2015年の「アベノミクス新三本の矢」を8年経って検証する

消費税が5%のままだったら名目GDPは646.0兆円になっていた

 2015年9月24日、当時の安倍政権は「アベノミクス新三本の矢」を発表し、2020年までに希望を生み出す強い経済として名目GDP600兆円、夢を紡ぐ子育て支援として出生率1.8、安心につながる社会保障として介護離職ゼロを達成する目標を掲げていた。それから8年が経って、「アベノミクス新三本の矢」について十分に検証する時期に来ていると言えるだろう。

 

 2023年9月8日に発表された同年4~6月期のGDP成長率の改定値は、物価の変動を除いた実質が年率プラス4.8%、物価の変動を含めた名目が年率プラス11.4%に下方修正された。また、家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は実質が年率マイナス3.2%、名目が年率マイナス1.5%と速報値より更に悪化してしまった。

 しかし、日本の名目GDPは最新のデータで589.5兆円となっていて、安倍政権が当初目標に掲げていた600兆円まであと10兆円余りになっている。消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料とエネルギーを除く総合物価指数)は2023年7月に対前年比プラス2.7%まで上昇しているため、このままインフレが続いて名目GDPが実際に600兆円を超えたら自民党の幹部は次の衆院選に向けて「遅ればせながら安倍政権の目標が達成された」と自画自賛し、2020年までに達成できなかった理由を新型コロナウイルスのせいにしてくることが予想されるだろう。

 

 だが、安倍政権以降の自民党が緊縮財政を行わず消費税が5%のままだったら、新型コロナウイルスが感染拡大する前に名目GDPは600兆円を超えていた可能性が高いことは自民党に批判的な評論家もなかなか指摘しないのではないだろうか。

 例えば、名目家計最終消費支出(帰属家賃を除く)の推移を見ると、東日本大震災が発生した2011年1~3月期の225.7兆円から消費税が8%に増税される直前の2014年1~3月期の248.2兆円まで3年間で22.5兆円も増加した。2014年4月以降もこれと同じペースで消費の増加が続いていたら、家計最終消費支出はコロナ前の2020年1~3月期に293.2兆円、最新の2023年4~6月期に317.6兆円までのぼっていたことが予想される。

 

 そうなると実際のところ、2020年1~3月期に名目GDPは554.1兆円、家計最終消費支出は246.3兆円、2023年4~6月期に名目GDPは589.5兆円、家計最終消費支出は261.1兆円だが、消費税が5%のままだったら名目GDPは2020年1~3月期に46.9兆円も押し上げられて601.1兆円となり、2023年4~6月期に56.6兆円も押し上げられて646.0兆円となっていただろう。安倍政権が目標に掲げていた「名目GDP600兆円」は消費税増税がなければコロナ前に達成されていたのだ(図66を参照)。

 

 「消費税を5%に引き下げたら財政再建はどうするんだ?」と心配する人も多いかもしれない。しかし、国際的な財政再建の定義は「政府の負債対GDP比率の減少」であり、消費税を引き下げて個人消費が伸びることで、名目GDPが増加すれば政府の負債が増えても財政再建は可能なのだ。

 財務省によれば2022年6月末時点で国債と借入金、政府短期証券を合計した政府の負債は1276.3兆円で対GDP比率は216.5%となっているが、もし消費税が5%のままで2023年4~6月期の名目GDPが646.0兆円だったら「政府の負債対GDP比率」は197.6%まで縮小したことになる。消費税増税の反対派は「消費税引き下げこそが財政再建への道」という運動を展開することも必要だろう。

 

 

日本と韓国は共通してGDP成長率の低迷と少子化に深い関係がある

 厚労省は2023年6月2日に前年の2022年の人口動態統計を発表した。出生数は2021年より約4万人少ない77万747人、女性1人当たりの子供の数を示した「合計特殊出生率」は1.26と2005年に並び過去最低となった。アベノミクス新三本の矢の2つ目では「夢を紡ぐ子育て支援」として出生率1.8を掲げていたが、ますます目標から遠ざかる一方である。

 

 今回の記事は私が日本の少子化問題に興味を持ったきっかけについて書きたいと思う。私が初めて子供の数が減って高齢者の数が増える「少子高齢化」という言葉を知ったのは2003年当時、小学6年生の社会科の授業で習ってからである。しかし、少子化の解決策が主に2つしか示されていなかったことに関しては疑問に感じざるを得なかった。

 まず1つ目は「少子化の原因は女性の社会進出だから女性の就業率を下げるべきだ」というもので、これは現在でも日本会議統一教会が同様の主張をしている。次に2つ目は「少子化の原因は子育てにお金が掛かることだから消費税を欧州並みの15~20%まで引き上げて社会保障を充実させるべきだ」というもので、こちらは岸田政権が言っている「異次元の少子化対策を行う財源として消費税増税が必要」という主張に通じる部分がある。

 

 前者に関しては女性の就業率が1992年の49.6%から2003年の45.9%まで下がって、出生数が1992年の120.9万人から2003年の112.4万人まで減少しているので少子化と女性の就業率は全く無関係なこと、後者に関しては消費税が2013年の5%から2022年の10%まで引き上げられ、出生数が2013年の103.0万人から2022年の77.1万人まで減少しているので増税しても逆効果なことがわかる。

 

 私は今まで『消費税を廃止するためには若者バッシングを止める必要がある』などの記事で、日本の「名目GDP成長率と出生数の推移」に強い相関関係があることを示してきたが、日本以外に韓国でも「GDP合計特殊出生率の推移」に相関関係があるのを発見した。ちなみに韓国では出生数のデータが見つからなかったため、出生率のほうで比較することにする。

 韓国では1960年代から「漢江の奇跡」と呼ばれる高度成長が始まり出生率も1971年に4.54あったが、その後は成長率の低迷と共に下がっていき2021年の出生率は0.81しかない。図67では過去50年間(1971~2021年)の「韓国の名目GDP成長率と出生率」の推移を示したが、この2つの相関係数を確認すると83.2%と比較的高い数値が表れている。日本と韓国で共通して名目GDP成長率の低迷と少子化に深い関係があるのは、どちらも若者向けのセーフティネットが脆弱な国だからだろう。

 

 特に日本のデフレ不況が始まった1997年に韓国ではアジア通貨危機が発生し、IMFの管理下のもとで金融機関のリストラや労働市場の改革など過酷な新自由主義的政策が進められ、その影響で若者が貧困化して出生率が大幅に低下したとされる。日本の少子化を改善させるためには消費税廃止や財政出動などの経済対策を実施するだけでなく、こうした日本以外の少子化が深刻な国を研究して理解する必要があるだろう。

 

 

「新時代の日本的経営」が男性の介護離職者を増やしてしまった

 アベノミクス新三本の矢の3つ目では「安心につながる社会保障」として介護離職ゼロが掲げられていたが、これについても本当に目標が達成されているのだろうか。

 厚労省の雇用動向調査によれば、介護や看護を理由に離職した人は1993年の2万6500人から2005年の7万4300人まで増加してその後やや減少するが、2015年には9万1000人まで再び増加し、最新の2021年でも9万5200人と高止まりした状況が続いている。2000年代の中で2005年の介護離職者が突出して多いのは、翌年の2006年に始まった「改正介護保険法」で要介護者への在宅サービスが大幅に制限されることを予想し、駆け込みで介護離職する人が続出したためだと考えられる。

 

 1993年からの約30年間で介護離職者がここまで増加したのは、男性で介護離職する人が増えたことも原因の一つとして挙げられるだろう。男性の介護離職者は1993年当時に2700人程度だったが、2021年には2万4000人まで8.9倍も増加している。これは女性の1993年の2万3800人から2021年の7万1200人までの3.0倍増加と比較しても驚異的なスピードである。全体の介護離職者に占める男性の割合は1993年の10.2%から2017年の38.5%まで上昇し、最新の2021年には25.2%となっている(図68を参照)。

 

 男性の介護離職者が増加したのは、今まで夫の親が要介護状態になったとしても「夫ではなく、妻がその親の面倒を見るのが当たり前」という風潮があり、それが約30年間かけて薄くなってきたと言うこともできるだろう。しかし、その一方で男性の雇用劣化の影響も見過ごすことができない。男性介護離職者の4割は40~50代の働き盛りの世代で占められているが、国税庁のデータによれば40~44歳男性の平均年収は1997年の644.7万円から2021年の584.3万円まで60万円、45~49歳男性は1997年の694.5万円から2021年の629.5万円まで65万円、50~54歳男性は1997年の736.6万円から2021年の663.6万円まで73万円も減少している。

 経団連は90年代後半から「新時代の『日本的経営』 挑戦すべき方向とその具体策」として非正規雇用や派遣労働を増やす政策を進めてきたが、その結果として男性の介護離職者が増加してしまったのではないだろうか。そのため、政府が本当に介護離職ゼロを達成するには、長年にわたって続いてきた自民党経団連の関係を断ち切る必要もあるのかもしれない。

 

 また、男性で親の介護が必要となった場合に「介護を理由に休職すると人事評価でマイナスになるのでは」といった懸念を持つ人が多く、そこで休職ではなく退職というやむを得ない決断をしてしまうようである。40~50代の年齢で退職してしまうと再び仕事に復帰することは非常に難しく、介護者が離職しなくても済むような介護制度や介護施設を早期に充実させることが重要だと言えるだろう。

 

 

<参考資料>

小泉俊明民主党大崩壊! 国民を欺き続けた1000日』(双葉社、2012年)

和田秀樹 『テレビの金持ち目線 「生活保護」を叩いて得をするのは誰か』(ベストセラーズ、2012年)

久原穏 『「働き方改革」の嘘 誰が得をして、誰が苦しむのか』(集英社、2018年)

 

アベノミクス「新3本の矢」を読み解く

https://www.nikkei.com/article/DGXZZO92034300U5A920C1000000/

国民経済計算 2023年4-6月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2023/qe232_2/gdemenuja.html

消費者物価指数(CPI) 時系列データ

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200573&tstat=000001150147

国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(令和5年6月末現在)

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/202306.html

出生率1.26で過去最低、出生数77万747人

https://resemom.jp/article/2023/06/06/72417.html

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

Fertility rate, total (births per woman) - Korea, Rep.

https://data.worldbank.org/indicator/SP.DYN.TFRT.IN?locations=KR

OECD Nominal GDP forecast

https://data.oecd.org/gdp/nominal-gdp-forecast.htm

雇用動向調査 年次別推移

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450073&tstat=000001012468

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm