消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

消費税を廃止するためには若者バッシングを止める必要がある

10代の人工妊娠中絶率の減少まで草食系男子のせいにする岩室紳也

 2023年8月15日に発表された同年4~6月期のGDP成長率は物価の変動を除いた実質が年率プラス6.0%、物価の変動を含めた名目が年率プラス12.0%だった。名目GDP成長率が年率プラス10%以上の高い数値を記録するのは2020年7~9月期以来のことである。

 しかし、家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は実質が年率マイナス2.6%、名目が年率マイナス0.9%と個人消費は逆にマイナスとなってしまった。他の項目を見ると、名目民間企業設備投資が年率プラス3.2%、名目民間住宅投資が年率プラス6.5%、名目公的固定資本形成が年率プラス8.3%であるため、住宅投資や公共投資の伸びが個人消費の落ち込みをカバーした形になっている。

 ちなみに、実質と名目でGDP成長率に6.0ポイントもの差があるのは、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料とエネルギーを除く総合)が2023年6月に対前年比2.6%まで上昇している影響が大きいだろう。

 

 だが、日本政府は個人消費が落ち込んでいる状況でも相変わらず消費税を欧州並みの15~20%まで引き上げることに賛成し、自民党議員の多くは日経平均株価が3万円を超えているのを理由にこれ以上の景気対策は必要ないと考えている。

 最近でもフランスを視察した松川るい議員が2016年に「日本の消費税の負担割合が、諸外国と比べてむしろ低いほうではないかと私は思っております。スウェーデンデンマークノルウェーが25%、フランスでも19.6%、ドイツは19%なわけです」「消費税引き上げを着実に実施しなければならない」と発言していたことが物議を醸した。

 『2010年代以降に若者の自殺が増加した原因について検証する』の記事でも述べた通り、フランスでは世代間の格差が深刻で北アフリカ系の17歳の少年を警官が射殺した事件をめぐって若者が暴動を起こしている状況なのだ。自民党景気対策として消費税を廃止することに否定的なのは、日本やフランスなど比較的成長率の低い先進国で若者が自分の将来に希望を持てない状況に無関心だからではないだろうか。

 

 こうした「若者論」を語るとき、好んで用いられるエピソードがある。『近頃の若者はけしからん』と書かれた出土品が何千年も前の遺跡から発掘されたというものだ。舞台はメソポタミアだったり、エジプトだったりバリエーションは様々なのだが、一度は耳にしたことのある人も多いのではないだろうか。

 昭和の時代でも、1970年代の終わり頃から普及したウォークマンの愛用者と未体験者の間で不毛な議論が起こった「ウォークマン論争」の中で、明らかに若者バッシングを煽るような内容の投書が確認できる。毎日新聞の1980年2月6日付朝刊「読者の目」では、34歳の男性が『昨年の暮れあたりからよく見かける風俗に、ヘッドホンをつけたまま街頭をカッポする若い男女がいる。彼らはあのヘッドホンで何を聞いているのだろうか。話によるとわけのわからない騒音的な音楽を聞いているとのこと。私はあの音楽がわからぬ人間ですから何も言う資格がないが、どうも気になって仕方がない。特に二人連れでヘッドホンをつけた男女がいるが、あんなものをつけていたら会話もできないだろう』と述べている。今となっては信じられない話だが、1980年当時は30代になれば自分が若者とは異なる価値観を身につけた世代なのだと認識する時代だったのだ。

 しかし、超高齢化社会と言われる現代の日本では若者を否定することが多数派の意見となってしまっているように感じる。例えば、2000年代の2ちゃんねるではゆとり世代(1987~1995年生まれ)に対するバッシングが酷かったのに対し、ゆとり世代の当事者がそれに反論してスレッドが荒れることも多かった。だが、最近では2ちゃんねるYahoo!ニュースのコメント欄でZ世代(主に2000年生まれ以降)が叩かれても誰も反論してこない状況になっている。

 私は32歳ともう若くない年齢に差し掛かっているが、今の10代のほうが自分よりはるかに優秀だと感じる一方で、逆に60代以上の世代と意見が対立することが多い。今は30代でも政治的には子供扱いされる年齢なのだなと思うのが正直な感想である。

 

 現代の日本で若者をバッシングしている代表的な評論家に岩室紳也氏という人物がいる。彼は日本泌尿器科学会に所属する性感染症の医師で、中学や高校などでエイズ予防と性教育の学校講演を年間100回ほど行っているという。しかし、2013年に日本評論社から出版した『イマドキ男子をタフに育てる本』を読んでいて疑問に感じる部分が多いと思った。

 岩室氏は本書の中で1998年以降に男性の自殺者が急増したことについて「内閣府の調査では、自殺した人たちの一定割合が経済的に苦しい状況だったことはわかっています。でも、同じような苦しい状況の中、死を選ぶ人と頑張って生き抜く人がいます。そこに着目した私は、自殺が増えた原因にはもっと他の要因があるに違いないと考えました」と述べている。だが、1971~2021年の男性の自殺死亡率と完全失業率相関係数92.1%と高い数値が表れていて、自殺の大きな原因が収入の減少や生活苦にあるという内閣府の調査は間違っていない。そもそも、バブル崩壊後も消費税が3%だった1996年までは、個人消費や民間企業の平均年収が増えていて自殺者は少なかったのだ。

 

 更に、岩室氏は「近年、10代の人工妊娠中絶率は減少の一途をたどっています。また、同じ時期の34歳以下の性感染症クラミジア、淋菌感染症ヘルペス)も減少しています。この原因は、草食系男子や絶食系男子と言われるようにセックスを求めなくなった若い男子の増加が考えられます」とも述べている。岩室氏は性感染症の医師であるにも関わらず、10代の人工妊娠中絶が減少しているのを悪いことだと捉えているようである。

 しかし、1971~2021年の未成年の中絶実施率と15~19歳女性失業率の相関係数91.4%とこちらも高い数値が表れていて、2001年以降に中絶が減少したのは若年失業率が改善してきたことが理由のようだ。私からすれば岩室氏はもっとデータを見る必要があると感じる(図61~62を参照)。

 

 

 

年収200万円未満の25~34歳の男性が安倍政権を評価しなかった理由

 また、若者バッシングを煽っているのは政府の側も同じだろう。安倍晋三元首相は2006年に文藝春秋から『美しい国へ』という本を出版したが、その中で疑問に思っているのが「大学の入学時期を原則9月にあらため、高校卒業後に大学の合格決定があったら、それからの3ヵ月間をボランティア活動にあてる必要がある」と主張している内容である。「大学の9月入学」は新型コロナウイルスの感染拡大が問題となっていた2020年5月にも議論されていたのが記憶に新しいだろう。

 安倍元首相は日本の子供たちの問題は学力よりもモラルの低下だと述べており、その根拠として日本青少年研究所が2004年に日本・アメリカ・中国の高校生を対象に行った『高校生の学習意識と日常生活』という調査で、「若いときは将来のことを思い悩むより、そのときを大いに楽しむべきだ」と考えている生徒が中国は19.5%、アメリカは39.7%なのに対し、日本は50.7%にものぼっていたことを挙げている。

 

 だが、1994~2004年の10年間で名目GDPは中国が3.33倍、アメリカが1.68倍も増えたのに対し、日本はたったの1.04倍しか増加していない(図63を参照)。中国の高校生が今を大いに楽しむより将来のことを考えているのは経済成長が著しいからであって、逆に日本で今を楽しむ高校生が多いのはバブル崩壊後の長引くデフレ不況で将来に悲観的になっていることの裏返しではないだろうか。

 実際に、『高校生の学習意識と日常生活』の8年後に行われた『高校生の生活意識と留学に関する調査』(2012年)によれば、「自国の経済は持続的に発展するだろう」という質問に「とてもそう思う」と答えた生徒は中国が39.7%、アメリカが15.4%だったのに対し、日本は3.9%しかいなかった。それを「モラルが低下してボランティア精神が欠如しているから」と結論づけるのは、『美しい国へ』の本文にもあるようにいかにも昭和30年代のような貧しい時代の日本を懐古して、消費税を10%まで増税した安倍元首相らしいなと思えてならない。

 

 その一方で、自民党の熱烈な支持者が安倍政権を崇めるときによく言うのは「若者は自民党を支持している」という主張である。しかし、マーケティング・アナリストの三浦展氏による調査ではこれにはカラクリがあることが明らかになっている。

 三浦氏が2021年に光文社から出版した『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』の136~137ページには、男女・年齢・年収別に見た安倍政権の評価(2020年11月時点)について詳しく書かれており、全体では「評価する」が9.6%、「まあ評価する」が30.6%、「どちらでもない」が28.0%、「あまり評価しない」が15.7%、「評価しない」が16.1%だった。男女別では「評価する」が男性13%、女性6%、「評価しない合計」が男性32%、女性32%と差はほとんどなく、「どちらでもない」が男性23%、女性34%だった。

 

 年齢別に見ると25~34歳男性は年収が上がるほど安倍政権の評価が高まる傾向が強く、年収200万円未満は「評価する合計」が31%程度なのに対し、年収600万円以上は60%にものぼっている(図64を参照)。これは45~54歳男性の年収600万円以上が49%、25~34歳女性の年収600万円以上が43%だったのと比較しても突出して高いことがわかるだろう。

 25~34歳男性の年収600万円以上が安倍政権を評価していたことについて、三浦氏は若くて年収の高い男性ほど社会全体の論調を内面化して実力主義新自由主義的な価値観を身につけている可能性があるからだと考察している。

 

 私は25~34歳男性が高所得者ほど安倍政権を評価して低所得者ほど評価しなかった理由は、1990年代以降の自民党低所得の男性は結婚したくてもできない現実から目を背けてきたことも原因の一つだと思っている。

 実際に、安倍元首相は前述の『美しい国へ』の中で「従来の少子化対策についての議論を見て感じることは、子供を育てることの喜び、家族を持つことの素晴らしさといった視点が抜け落ちていたのではないか、ということだ。私の中では、子供を産み育てることの損得を超えた価値を忘れてはならないという意識が更に強くなってきている」と述べている。つまり、安倍元首相は日本で少子化が進んだのは若者が「家族を持つことの素晴らしさ」を失って、結婚や子育てをしなくなったことが原因だと言いたいようである。

 

 だが、図65では過去60年間(1962~2022年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」を示したが、この2つの相関係数を確認すると87.3%と高い数値が表れている。つまり、日本で少子化が進んだのは1990年代のバブル崩壊後にデフレ不況が深刻化する中で消費税増税や歳出削減などを行って子育て世代の収入が減少したからなのである。

 それにも関わらず、政府が消費税廃止や現金給付などの景気対策を実施しないのは、自民党の幹部や岩室紳也氏のように若者バッシングをすることしか能がない中高年層が多いからだろう。消費税を廃止するためには、高齢化社会の中でエスカレートしてきた若者バッシングを止める必要もあると感じられる。

 

 

<参考資料>

古市憲寿 『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年)

南信長 『1979年の奇跡』(文藝春秋、2019年)

岩室紳也 『イマドキ男子をタフに育てる本』(日本評論社、2013年)

安倍晋三美しい国へ』(文藝春秋、2006年)

日本青少年研究所 『高校生の生活意識と留学に関する調査報告書』(日本青少年研究所、2012年)

三浦展 『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』(光文社、2021年)

 

国民経済計算 2023年4-6月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2023/qe232/gdemenuja.html

消費者物価指数(CPI) 時系列データ

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200573&tstat=000001150147

「国民をバカにするパリ視察」松川るい持論は「フランスでも消費税は19.6%」

https://news.yahoo.co.jp/articles/f422a1bb1971fe62b6d6b311a2c2b5df2457b919

人口動態調査

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450011&tstat=000001028897

衛生行政報告例

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450027&tstat=000001031469