消費税増税に反対するブログ

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公共事業を削減し、少子化を独身女性のせいにした森喜朗の大罪

森政権から始まったこの20年間の日本政治の劣化

 昨年6月28日の記事(「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待)では小渕首相の功罪について書いたが、その次に首相になったのが森喜朗氏である。森政権が発足してからちょうど今年の4月5日で20年となる。

 森元首相は現在、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長を務めていることもあり、首相時代を知らない世代にとってもニュース番組などでよく見かける人物かもしれない。しかし、公共事業費を増やして一時的に景気回復させた小渕政権に対して、日本政治の劣化が始まったのは森政権からであって在任日数が387日の短命内閣でもその責任は非常に重いと思っている。

 

 森政権ではたびたび失言が問題になったが、その中で最も有名なのは2000年5月15日に神道政治連盟国会議員の懇談会で「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国」と発言したことだろう。だが、森首相はそれに続いて「我々の子供の社会から考えてみますと、やはり鎮守の森というものがあって、お宮を中心とした地域社会というものを構成していきたい。私が今、小渕総理の後を受けて、こういう立場になって教育改革を進めようという教育改革国民会議というものをこうして致しておりますが、少年犯罪がこうしておる状況にアピールをしようと、テーマを造ったわけですが、はっきりいって役所側で作ったものでみんな大変ご批判が出ました」とも述べている。

 当時は同年5月3日に発生した17歳の少年による西鉄バスジャック事件の直後で、森首相は「お宮を中心とした地域社会を失ったから、こうした少年犯罪が発生する」と言いたかったようである。

 

 しかし、未成年の検挙人数が最も多かったのは1983年の26万1634人(少年人口比では10万人当たり1413.5人)で、90年代後半から00年代前半にかけて少年犯罪が一時的に増加したのはバブル崩壊後の不況で若年失業率が大幅に悪化したことが原因なのだ(図25を参照)。私はむしろ有名な「神の国」発言よりも、少年犯罪の発生を雇用の問題ではなく地域社会のせいにした発言のほうがよっぽど問題だと思っている。

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 また、森元首相は少年犯罪の発生を地域社会のせいにしただけでなく、2000年以降に公共事業が削減される原因を作ったことでも罪深い人物である。

 2000年当時の日本社会では「公共事業を増やしても景気対策にならない」という誤解が広まっていて、森政権は公共事業が社会的にどれだけの貢献が可能なのかについて分析する「費用便益分析」を導入した。だが、日本の道路事業における費用便益分析は、便益について「走行時間の短縮」「走行費用の減少」「交通事故の減少」の3つしか定義されておらず、欧州で分析されている雇用の創出など幅広い社会的な好影響は便益に含まれていなかった。特に、2000年当時の15~19歳の完全失業率は12.1%と非常に高く、若者の雇用対策としても公共事業の拡大は有効だったにも関わらずである。

 

 結果的にその後の日本では徹底した緊縮財政が進められ、公共事業関係費は1998年度の14.9兆円から2018年度の7.6兆円まで半分程度に削減された。この間、若年失業率は改善されたものの、一人当たりの名目GDPランキングは2000年の2位から2018年の26位まで低下している(図26を参照)。公共事業は景気対策にならないどころか、日本は公共事業を削減してますます貧困化してしまったのである。

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 更に、森元首相は自身の失言や公共事業が削減される原因を作ったことに対して、全く謝罪しないまま東京オリンピック組織委員会の会長を続けていることも問題だろう。例えば、1996~1998年に首相を務めた橋本龍太郎氏は在任中に消費税を増税して景気を悪化させたことについて「私は1997~98年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も経済問題で自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くお詫びしたい」と謝罪した。

 しかし、森元首相にそうした姿勢はほとんど見られず、『文藝春秋 2020年3月号』のインタビューでは「安倍さんに続けてもらうことが、最も国益に適う」と自民党総裁の任期が切れる2021年9月以降も安倍首相の続投を支持しているのだ。森元首相にとっては今の安倍政権を応援することで、自分がまだ総理大臣を続けているつもりになっているのかもしれない。だが、2025年のプライマリーバランス黒字化目標のために、憲政史上初めて在任中に消費税率を倍に引き上げた「戦後最悪の緊縮財政内閣」である安倍政権が国益に適うと思っている時点で、森元首相がいかに視野の狭い政治家なのかわかるだろう。

 

 この他にも、首相在任中の2000年6月20日には「無党派層自民党に投票してくれないだろうから、投票日に寝ていてくれればいいのだが」と発言しているが、その後日本の政治はどうなっただろうか。

 衆院選における20代の選挙投票率は1967年の66.69%から2000年の38.35%まで大幅に低下して当時から若者の政治離れが問題になっていたが、直近の2017年の衆院選でも20代の投票率は33.85%と状況が全く改善されていない。また、森政権以降の20年間、日本の総理大臣は「1年で辞める首相」と「5年以上続ける首相」に在任期間が二極化し、ほぼ全ての政権が消費税増税や歳出削減などの緊縮財政を推進してきた。その「最初」となった森政権の罪は非常に重いのである。

 デフレ不況に苦しむ今の日本に必要なのは、『日本列島改造論』を提唱した田中角栄元首相(1972~1974年)のような積極財政を推進する政権だろう。

 

 

独身女性ではなくデフレ不況こそが少子化の原因

 更に、森氏は首相を辞任した後の2003年6月26日にも「子供を一人もつくらない女性が、自由を謳歌して、楽しんで年を取って税金で面倒みなさいというのはおかしい」と発言したことが問題になったが、この発言は様々な意味で誤解に満ち溢れていると言えるだろう。

 2017年度の社会保障費用統計によれば、社会保障財源の構成割合は「社会保険料」が50.0%なのに対し、「公費負担」は35.3%程度で日本の社会保障制度の半分は税金ではなく国民の社会保険料で成り立っているのだ。つまり、独身女性であっても保険料を通して社会保障費を負担しているのであって、『税金で面倒をみている』というのは明らかな嘘になる。

 

 その上、図27を見ると過去60年間(1959~2019年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」は強い相関関係を示しており、最近でも名目GDP成長率(平成23年基準)が2015年の3.4%から2019年の1.2%に下落し、出生数も2015年の100.6万人から2019年の86.4万人まで減少してしまった。2020年は新型コロナウイルス東京五輪延期の影響でマイナス成長となる可能性が高く、出生数の減少にも繋がりかねない状況だろう。

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 しかし、この「名目GDP成長率と出生数の推移」は私が作ったオリジナルのグラフであり、少子化について研究している専門家の間でもデフレ不況がより少子化を加速させている現実について全く共有されていないのが残念である。

 例えば、社会学者の山田昌弘氏は2015年から始まった所得税増税について「現役世代に負担をより押し付けるものである」と厳しく批判しているが、実際にこの増税は課税所得4000万円以上の富裕層の最高税率が40%から45%に引き上げられるもので、多くの低所得者や中間層にとっては何も関係がないのだ。山田氏が本当に現役世代のことを考えるなら所得税よりも消費税増税こそ批判すべきだろう。先進国の中で最も公的な教育予算が少なく、毎日消費される食料品にまで8%の税率が適用される日本では消費税が現役世代にとって重い負担になっている可能性が高いからである。

 

 また、大学生のときに家族心理学の教授と少子化の問題について議論していて、当時私は経済評論家の三橋貴明氏の影響を受けていたので、「長引くデフレ不況が少子化の原因ではないだろうか」と発言したら、その教授から「不況と少子化の問題は因果関係が認められていない」と即座に否定された。彼は家族の助け合い義務を強制する自民党改憲案に反対する一方で、「財政再建のために消費税増税は必要」と言っていて、リベラル派の間でも経済的な観点から少子化問題を語ることがタブー視されているように感じる。

 

 更に、デフレ不況が少子化の原因だと認めたくないのは政権側も同じだろう。安倍首相は著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で「従来の少子化対策についての議論を見て感じることは、子供を育てることの喜び、家族を持つことの素晴らしさといった視点が抜け落ちていたのではないか、ということだ。私の中では、子供を産み育てることの損得を超えた価値を忘れてはならないという意識が更に強くなってきている」と述べている。つまり、安倍首相は日本で少子化が進んだのは若者が「家族を持つことの素晴らしさ」を失って、結婚や子育てをしなくなったことが原因だと言いたいようである。

 森元首相や安倍首相の他にも、2007年1月には柳澤伯夫厚労相(当時)が「15~50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と発言し、2018年5月には自民党加藤寛治議員が「女性に必ず3人以上子供を産み育てていただきたい」「結婚しなければ子供が生まれず人様の税金で老人ホームに行くことになる」と発言している。この20年間の日本政治はデフレ不況が国民を貧困化させるという現実から目を逸らして、少子化を結婚しない女性や若者のせいにしてきたと言えるだろう。

 

 だが、日本で少子化が進んだのは独身女性のせいではなく、富裕層減税や国営企業の民営化、消費税導入、労働者派遣法の施行など中曽根政権以降の小さな政府というデフレ促進策によって子育て世代の収入が大幅に減少したからである。1980年代はまだインフレの時代だったので小さな政府を進めても経済に悪影響を与えることは少なかったが、1990年代のバブル崩壊後にデフレ不況が深刻化する中で消費税増税や歳出削減を断行してしまったのは問題だった。

 特に、2000~2018年にかけて子育て世代に当たる35~39歳男性の平均年収は2000年の580.2万円から2018年の527.6万円まで52.6万円(2000年比で9.1%)も減少し、40~44歳男性の平均年収は2000年の634.5万円から2018年の580.6万円まで53.9万円(2000年比で8.5%)も減少している。図28では2000年を100とする「35~44歳男性の平均年収と消費者物価指数」の推移を示した。

 

 もし、森元首相をはじめとする政治家の方々が少子化を女性や若者のせいにするのではなく、バブル崩壊後に夫が妻子を養える経済状況ではなくなったことを認識して消費税引き下げや労働規制の強化、公共事業の拡大など反緊縮的な政策を進めてくれたら、子育て世代の収入が増加して年間の出生数が100万人未満に落ち込むことはなかったのではないだろうか。デフレ不況と少子化の関係についてはもっと研究されても良いと思う。

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<参考資料>

三橋貴明 『歴代総理の経済政策力』(イースト・プレス、2011年)

飯島裕子 『ルポ 貧困女子』(岩波書店、2016年)

山田昌弘 『なぜ日本は若者に冷酷なのか』(東洋経済新報社、2013年)

 

神の国発言 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E3%81%AE%E5%9B%BD%E7%99%BA%E8%A8%80

少年による刑法犯

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_2_2_1_1.html

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/page/content/001324440.pdf

一人当たりの名目GDPランキング

https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

森喜朗が語る“首相4選論”

https://bunshun.jp/articles/-/33786

「日本は天皇を中心とした神の国

https://www.jiji.com/jc/d4?p=gaf928-jlp00869659&d=d4_int

国政選挙の年代別投票率の推移について

https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

社会保障費用統計(平成29年度)

http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-h29/fsss_h29.asp

国民経済計算 2019年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194_2/gdemenuja.html

令和元年 人口動態統計の年間推計

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei19/index.html

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm