消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

麻生財務大臣などコロナ不況を根性論で語る自称保守派に対する批判

定額給付金や消費税減税を否定する麻生財務大臣

 安倍首相は4月16日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急経済対策として、国民1人当たり10万円の現金を一律給付するため、2020年度の補正予算案を組み替えることを決定した。しかし、この期に及んでも現金の一律給付に懐疑的なのが財務大臣麻生太郎氏である。彼は17日の記者会見で「手を上げた方に1人10万円ということになる」と述べ、申請に基づいて給付する自己申告制になるとの見方を示した。つまり、「愛国心のある人は給付を辞退しろ」と言いたいのだろう。

 

 また、麻生氏はリーマンショック後の2009年3月に実施した「定額給付金」(全国民に1万2000円、若年者と高齢者は2万円を配布)について、今年4月1日の参院決算委員会で「国民に受けなかった。二度と同じ失敗はしたくない」と否定する発言をしている。だが、国民経済計算によれば2009年4-6月期の実質GDP成長率は年率8.7%とリーマンショックの中でも高い数値を示していて、次にこの水準を超えたのは東日本大震災からの復興が始まった2011年7-9月期の年率10.3%である(図31を参照)。

 2009年4-6月期の実質GDPの内訳を見ると民間企業設備投資が年率マイナス11.8%、民間住宅投資がマイナス34.8%だったのに対し、家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は年率プラス5.0%にのぼっている。2009年4-6月期のGDPを下支えしたのは国民の個人消費であって、当時の定額給付金や休日高速道路料金の大幅引き下げなど矢継ぎ早な経済対策が一定の成果を上げたのではないだろうか。

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 麻生氏が言う「失敗だった」というのは2009年の衆院選自民党が大敗したことなのだろうが、それは定額給付金ではなくデフレ不況下に消費税増税行政改革などを断行しようとしたからである。1979年の大平内閣から消費税に関わった政権は必ず選挙で負けていて、最近でも2019年の参院選自民党は9議席も減らしている。麻生氏が現金の一律給付を否定するために首相時代の政策まで失敗だったと言い張るのは、彼自身が2009年当時より政治家として劣化してしまったからなのかもしれない。

 今回の現金給付はコロナウイルスの感染拡大を防止するための生活支援策であって、経済対策とは異なり国民に自粛を強制させるなら所得補償を行うのが当然のことである。

 

 更に、麻生氏は4月13日に感染拡大を受けた経済対策として消費税の減税を求める声があることについて「今の段階で消費税を引き下げることは考えていない」と述べ、2025年度までに国の収入と支出の釣り合い状態を表すプライマリーバランス基礎的財政収支、以下PB)を黒字化させる目標についても「今回、借入金が増えるのでPBが悪くなるが、この目標を放棄するという考えはない」と発言した。

 『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』の記事でも書いた通り、1980年代以降の名目GDP成長率とPBは相関関係があることが確認され、コロナウイルスの影響で経済成長率が落ち込んだらPBを強引に改善させるために、今後消費税を15~20%まで引き上げる話が出てくるかもしれない。

 

 その上、麻生氏は「国の借金(政府の負債)を返していくという姿勢がなければ、マーケットでとたんに日本の国債が売りを浴びせられかねない」とも言ったが、消費税10%増税の時期が2015年10月から2019年10月に変更されても国債が暴落するような事態は発生しなかった。

 麻生氏は自民党幹事長時代の2008年8月に、国・地方を合わせた財政赤字に関して「800兆円の借金があって大変だという話が出回っているが、あれは総負債だ。総負債と、(資産を含めた)純負債を取り違えるかのごとき話は、不必要に世の中の不安をあおっている」と政府の負債は問題ないと発言しており、幹事長から財務大臣に出世して真逆の主張をするのは卑怯である。

 

 

安倍政権を擁護するために根性論を煽る自称保守派

 しかし、こうした経済の現状認識が全くできておらず、主張をどんどん変える麻生氏を必死で擁護しているのが高須克弥氏をはじめとする安倍政権の熱烈な支持者たちだ。高須氏は4月12日、コロナウイルスによる休業などで生活が困難になった人々が「国民全員に現金給付を」と声を上げ、安倍首相や麻生氏の私邸など高級住宅街を歩くデモを決行したことに対して、「みんなが一丸となって我慢しているときに、わがまま言って邪魔するのは非常に悪いことです」とツイッターで述べた。

 

 だが、高須氏は2019年1月の夕刊フジの記事で「消費税を50%くらいにして、それ以外の税は一切無しにすべき」と発言しており、積極財政を求める声を黙らせるために現金給付を求めるデモを非難したのではないかと思ってしまう。私は2012年から消費税増税反対のデモに参加しているが、いよいよ増税に反対すると安倍政権の支持者から「非国民」扱いされる時代が来てしまったようだ。

 麻生氏のような政治家や高須氏のような著名人が「国に頼らずコロナ不況を乗り越えろ」と根性論に基づく発言をしているのを見る度に、どうしても戦時中の「欲しがりません勝つまでは」「ぜいたくは敵だ!」といったスローガンを連想してしまう。

 

 また、今回のコロナウイルスでは自称保守の劣化も改めて浮き彫りにしたように感じる。例えば、産経新聞編集委員宮本雅史氏は若者が外出制限を守らずに行動し、他人に感染させるリスクを考えていないとして「義務を軽視、自分さえ良ければいいという間違った個人主義を注入し続けてきた戦後教育の末路を見る思いだ」と極論を述べている。

 しかし、クロス・マーケティングが3月27~29日にかけて「現在、どんな行動を実行できているか」と各年代の男女に聞いたところ、「商業施設への買い物」と答えた人が60代の男性で42.8%、女性で42.0%にのぼったのに対し、20代の男性で25.6%、女性で26.8%と高齢者よりも若者のほうが外出自粛に積極的な結果が出た。結局のところ、産経新聞コロナウイルスに便乗して根拠なく若者へのバッシングを煽りたいだけだろう。

 

 その上、宮本氏は国民に過剰な自粛を強制したら、経済的に困窮する人も多くなるという事実をわかって前述の発言をしているのか。家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は2014年1-3月期の247.7兆円から2019年10-12月期の231.5兆円まで5年半で16.2兆円も減少していて、個人消費コロナウイルス以前から著しく落ち込んでいるのだ(図32を参照)。これが更にゴールドマン・サックスの予想通り、実質GDPが25%も減少したら2020年4-6月期の家計最終消費支出は173.6兆円まで落ち込んで日本は後進国に逆戻りすることが確実となるだろう。

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 2011年の東日本大震災のときは元航空幕僚長田母神俊雄氏が「自粛が長期間続いてはどんどん景気が悪くなり、震災復興にさえ悪影響が出てくる」と発言し、政府が過剰な自粛を求めていたことを批判する動きもあった。だが、今回のコロナウイルスでは自称保守派が安倍政権を擁護するために根性論を煽り、仕事などでやむを得ず外出する人まで政府に協力しない非国民であるかのように誹謗中傷しているのが非常に残念である。

 日本がコロナウイルスから早期に復興するために政府はPB黒字化目標を破棄して消費税の廃止を決断し、イギリスが実施しているように休業要請に協力してくれた企業に対して従業員の給与を8割以上補償すべきだろう。

 

 

<参考資料>

上念司 『デフレと円高の何が「悪」か』(光文社、2010年)

田母神俊雄 『ほんとうは強い日本』(PHP研究所、2011年)

 

首相、令和2年度補正予算案の組み換え指示

https://www.sankei.com/politics/news/200416/plt2004160032-n1.html

麻生氏「手あげたら10万円」 給付は自己申告との見方

https://www.asahi.com/articles/ASN4K4CF2N4KULFA00P.html

麻生氏「同じ失敗したくない」 現金給付、一律では実施せず

https://www.jiji.com/jc/article?k=2020040101191&g=eco

国民経済計算 2019年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194_2/gdemenuja.html

麻生財務相「消費税引き下げ 考えていない」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200413/k10012383901000.html

高須院長 安倍首相私邸付近での「金を出せ!」デモに怒り

https://news.nifty.com/article/entame/showbizd/12278-628322/

軽減税率なんて混乱のもとだよ 消費増税の問題点

https://www.zakzak.co.jp/soc/news/190108/soc1901080008-n1.html

【喝!日本】なぜ若者はコロナ感染に“無関心”?

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/200407/dom2004070003-n1.html

新型コロナで外出自粛でも「買い物・旅行」、60代が最も活発

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2004/03/news098.html

新型コロナの補償は英国を見習え!

https://www.youtube.com/watch?v=pNulzxJunhc

今こそ消費税を減税して政府のインバウンド依存を見直そう

この期に及んでも消費税引き下げに否定的な日本政府

 国際金融グループのゴールドマン・サックスは4月7日の安倍首相による緊急事態宣言を受けて、2020年4~6月期の実質GDP成長率が前期比年率マイナス25%と、データをさかのぼれる1955年以降で最大の落ち込みになるとの見方を示した。政府の緊急経済対策は事業規模が108.2兆円、財政支出が39.5兆円の規模となったが、ゴールドマン・サックスではGDPに直接計上される「真水」の部分は計14兆円程度と見積もっている。

 その一方で、関西大学新型コロナウイルスの影響でロックダウン(都市封鎖)が実施された場合、日本全体の損失額は2年間で約63兆円にのぼると分析していて、14兆円の真水の経済対策では国民の損失をカバーできないと言えるだろう。

 

 安倍首相は4月7日の記者会見で「この2ヵ月で私たちの暮らしは一変しました。楽しみにしていたライブが中止になった。友達との飲み会が取りやめになった。皆さんのこうした行動によって多くの命が確実に救われています」と発言したが、ライブや飲み会が中止になることで経済的な損失を被る人も多いという事実をわかって言っているのだろうか。国民に自粛を強制するのであれば、所得に関係なく休業補償を行うのが当然のことである。

 しかし、政府の緊急経済対策は残念ながら、所得に関係なく国民に一律の現金給付を行うというものではなかった。給付の対象となるのは世帯主の月収(2020年2~6月の任意の月)がコロナウイルス発生前と比べて半分以上に減少し、かつ年間ベースに引き直すと個人住民税の均等割非課税水準(単身世帯だと月収8.3万円以下)となる低所得者に限定されている。つまり、生活保護水準まで給与が減らないと補償の対象にならないということだろう。その上、現金給付に所得制限を設けると対象になる国民と対象にならない国民が分断することにもなりかねない。

 国の定める消費税が存在せず、自己責任社会のイメージが強いアメリカでも結婚している家庭では2019年の収入が2000万円以上じゃない限り現金給付の対象となり、コロナウイルスのせいで仕事をなくした人に対しては通常の失業手当に加えて600ドル(約6万5000円)が支給されるという。コロナウイルスに対する各国政府の補償を見ると、やはり日本は先進国の中で最悪の緊縮財政国家なんだなと思わざるを得ない。

 

 また、政府はこの期に及んでも消費税引き下げに否定的なのが呆れてしまう。日本経済はコロナウイルス発生前から深刻な不況に突入していて、2019年10~12月期の名目GDP成長率は年率マイナス5.8%と前回消費税を8%に増税した2014年4~6月期の年率プラス0.1%よりも悪化している。日本の鉱業・製造業の活動状況を表す鉱工業指数も2014年4月が前年比プラス1.9%だったのに対し、2019年10月は前年比マイナス7.0%まで落ち込んでしまった。卸売業と小売業を合わせた商業販売額も2014年4月が前年比マイナス3.4%だったのに対し、2019年10月は前年比マイナス8.7%に下落している。

 前回の増税より今回の増税のほうが明らかに経済への悪影響が大きかったにも関わらず、2020年2月まで月例経済報告で「景気は緩やかに回復している」と楽観視して何も景気対策を取らないのは戦時中の「大本営発表」と変わらないのではないだろうか。

 

 その上、2018年度の国と地方を合わせた消費税収は22.3兆円だが、これを日本の総人口(1億2644万人)で割ると1人当たり年間17.6万円も消費税を支払っていることになる。日経新聞が2016年2月に公表したデータによれば、消費税が10%に増税されると「年収に占める消費税負担の割合」は年収1500万円以上の世帯では2.0%程度なのに対し、年収200万円未満の世帯では8.9%にものぼると予測している(図29を参照)。年収200万円未満と年収1500万円以上で消費税負担の割合が4倍以上も開いていることから、消費税引き下げは低所得者にとって現金給付と同じくらい経済効果が大きいだろう。

 もし、安倍政権がここで消費税引き下げを決断できなければ、将来的に日本は「2019~2020年の消費税10%増税新型コロナウイルスによって衰退途上国に入った」と言われるかもしれない。

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急速な移民受け入れ政策やインバウンド依存を見直すべき

 更に、日本で新型コロナウイルスの感染が拡大したのは安倍政権の急速な移民受け入れ政策やインバウンド依存にも原因があるのではないだろうか。

 2019年に在留外国人数が293.3万人、外国人労働者数が165.9万人となって共に過去最高を更新した。外国人数は特に安倍政権になってから急増していて、在留外国人は2012年の203.4万人から7年間で89.9万人、外国人労働者は2012年の68.2万人から7年間で97.6万人も増加している(図30を参照)。ちなみに、在日中国人は2012年の65.3万人から2019年の81.4万人まで7年間で16.1万人も増加した。

 安倍首相は海外のスピーチで「もはや国境は国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」「国を開くことが私の中に流れる一貫した哲学でした」「一定の条件を満たせば、世界最速級のスピードで永住権を獲得することができる国になります」と地球市民的な発言を繰り返しており、保守どころか戦後最も左寄りの政権と言っても過言ではないだろう。

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 しかし、日本の「自称保守派」は移民受け入れに賛成する人物が多いのが非常に残念である。例えば、元東京都知事石原慎太郎氏は「このまま人口が減少すれば国力の低下は必至です。労働力確保のためにも移民を積極的に受け入れるべきだ」と発言している。また、安倍政権を熱烈に支持している櫻井よしこ氏は「日本が政治難民や優秀な人材を受け入れることや、アジア諸国の人材を育成することも私は大賛成だ」と述べた上で、「外国から来た人にも皇室の歴史、それを支える宗教観や文化を受け入れてもらうことが必要」と発言している。つまり、低賃金や長時間労働に苦しんでいる外国人労働者にも日本社会への忠誠を強制させろと言いたいようである。

 

 更に、移民反対派の中でも全く的外れな批判に終始しているのが元警視庁刑事の坂東忠信氏だ。彼は企業が移民を受け入れざるを得なくなった理由について「ゆとり教育で心が折れやすい若者が増えた」と主張している。坂東氏は元刑事ということもあり、警察学校のようなブラック企業の研修に耐えられない人が悪いと言いたいようだ。だが、2012年12月には大阪市立桜宮高校でバスケ部のキャプテンだった生徒が顧問から過酷な体罰を受け自殺した事件も発生しており、体育会系の部活動では今でも根強くスパルタ教育が残っているのが現実だろう。

 その上、未成年の検挙人数は2003年の16万5973人から2018年の3万458人(少年人口比では10万人当たり1265.4人から269.6人)まで4分の1以下に減少していて、若者はどんどん優秀になってきている。企業が率先して外国人労働者を受け入れているのは、単に日本人の給与を上げたくないからではないだろうか。

 

 櫻井氏や坂東氏をはじめとする自称保守派は新型コロナウイルスを「武漢肺炎」などと呼んでいるが、こうした反中を煽る名称をあえて使うのは政府が2020年1月までインバウンドとして中国人観光客を大量に受け入れていた事実から目を逸らす目的もあるのかもしれない。

 実際に、中国人観光客は2012年の142.5万人から2019年の959.4万人まで7年間で800万人以上も増加し、安倍首相は在日中国大使館のホームページで「春節に際して、オリンピック・パラリンピック等の機会を通じて、更に多くの中国の皆様が訪日されることを楽しみにしています。その際、ぜひ東京以外の場所にも足を運び、その土地ならではの日本らしさを感じて頂ければ幸いです」という春節祝辞を1月30日まで掲載していた。訪日外国人数を見ても2020年1月に日本へ入国した中国人は92万4800人と前年比22.6%増加となっており、安倍政権はコロナウイルスの感染拡大が深刻になる3月上旬まで中国人の入国禁止を決断できなかったようだ。

 しかし、この状況を批判しているのは経済評論家の三橋貴明氏くらいで、保守もリベラルも安倍政権のインバウンド依存に懸念を示さないのは異常だろう。コロナウイルスの収束後に日本経済を復興させるためには、外国人労働者や観光客の受け入れをやめて消費税引き下げと財政出動GDPの約6割を占める日本国民の消費を増やすしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

田村秀男 「アベノミクスの失敗 貧乏神がささやく景気堅調の嘘」 『表現者クライテリオン』(啓文社書房、2020年3月号)

坂東忠信 『亡国の移民政策 ~外国人労働者受入れ拡大で日本が消える~』(啓文社書房、2018年)

 

日本の4-6月期GDP予想、マイナス25%に下方修正

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-08/Q8G3FGDWX2PU01?srnd=cojp-v2

新型コロナ、ロックダウンの経済的損失は約63兆円

https://resemom.jp/article/2020/04/06/55669.html

令和2年4月7日 安倍内閣総理大臣記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0407kaiken.html

安倍政権の緊縮執念と「事業規模」の欺瞞

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12587691526.html

自民議員まで怒り沸騰の「1世帯30万円給付」のハードルの高さ

https://www.j-cast.com/kaisha/2020/04/08383896.html

鉱工業指数 統計表一覧(データダウンロード)

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/iip/b2015_result-2.html

商業動態統計速報 2020年2月分

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result/pdf/202002S.pdf

平成26年(2014年) 商業動態統計年報

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result/h26_2.html

月例経済報告 2020年2月

https://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2020/0220getsurei/main.pdf

消費税と法人3税の減収額の推移

http://nam-students.blogspot.com/2018/11/2018111.html

人口推計(2018年(平成30年)10月1日現在)

http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2018np/pdf/gaiyou.pdf

年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は

https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/

19年末の在留外国人数、最多の293万人

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57318840X20C20A3EA3000/

「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09109.html

労働力確保のため移民の積極的な受け入れをと石原慎太郎

https://www.news-postseven.com/archives/20140603_255518.html

「粗にして雑、移民国家の自民党案」

https://yoshiko-sakurai.jp/2008/09/04/752

櫻井よしこ氏 ヘイトスピーチは日本人の誇りの欠如が原因

https://www.news-postseven.com/archives/20140523_255470.html

国籍/月別 訪日外客数(2003年~2020年)

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_visitor_arrivals.pdf

 

 

ーー追記ーー

 この記事を投稿した後、4月16日の午後に安倍首相が公明党の山口代表に今年度の補正予算案を組み替え、所得制限を設けずに現金10万円の一律給付を実現する考えを伝えました。

 ただし、コロナ対策の予算を増やすことに反対している財務省が現金の一律給付に抵抗を示してくることが予想されるため、今後も動向を注視していきたいと思います。

公共事業を削減し、少子化を独身女性のせいにした森喜朗の大罪

森政権から始まったこの20年間の日本政治の劣化

 昨年6月28日の記事(「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待)では小渕首相の功罪について書いたが、その次に首相になったのが森喜朗氏である。森政権が発足してからちょうど今年の4月5日で20年となる。

 森元首相は現在、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長を務めていることもあり、首相時代を知らない世代にとってもニュース番組などでよく見かける人物かもしれない。しかし、公共事業費を増やして一時的に景気回復させた小渕政権に対して、日本政治の劣化が始まったのは森政権からであって在任日数が387日の短命内閣でもその責任は非常に重いと思っている。

 

 森政権ではたびたび失言が問題になったが、その中で最も有名なのは2000年5月15日に神道政治連盟国会議員の懇談会で「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国」と発言したことだろう。だが、森首相はそれに続いて「我々の子供の社会から考えてみますと、やはり鎮守の森というものがあって、お宮を中心とした地域社会というものを構成していきたい。私が今、小渕総理の後を受けて、こういう立場になって教育改革を進めようという教育改革国民会議というものをこうして致しておりますが、少年犯罪がこうしておる状況にアピールをしようと、テーマを造ったわけですが、はっきりいって役所側で作ったものでみんな大変ご批判が出ました」とも述べている。

 当時は同年5月3日に発生した17歳の少年による西鉄バスジャック事件の直後で、森首相は「お宮を中心とした地域社会を失ったから、こうした少年犯罪が発生する」と言いたかったようである。

 

 しかし、未成年の検挙人数が最も多かったのは1983年の26万1634人(少年人口比では10万人当たり1413.5人)で、90年代後半から00年代前半にかけて少年犯罪が一時的に増加したのはバブル崩壊後の不況で若年失業率が大幅に悪化したことが原因なのだ(図25を参照)。私はむしろ有名な「神の国」発言よりも、少年犯罪の発生を雇用の問題ではなく地域社会のせいにした発言のほうがよっぽど問題だと思っている。

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 また、森元首相は少年犯罪の発生を地域社会のせいにしただけでなく、2000年以降に公共事業が削減される原因を作ったことでも罪深い人物である。

 2000年当時の日本社会では「公共事業を増やしても景気対策にならない」という誤解が広まっていて、森政権は公共事業が社会的にどれだけの貢献が可能なのかについて分析する「費用便益分析」を導入した。だが、日本の道路事業における費用便益分析は、便益について「走行時間の短縮」「走行費用の減少」「交通事故の減少」の3つしか定義されておらず、欧州で分析されている雇用の創出など幅広い社会的な好影響は便益に含まれていなかった。特に、2000年当時の15~19歳の完全失業率は12.1%と非常に高く、若者の雇用対策としても公共事業の拡大は有効だったにも関わらずである。

 

 結果的にその後の日本では徹底した緊縮財政が進められ、公共事業関係費は1998年度の14.9兆円から2018年度の7.6兆円まで半分程度に削減された。この間、若年失業率は改善されたものの、一人当たりの名目GDPランキングは2000年の2位から2018年の26位まで低下している(図26を参照)。公共事業は景気対策にならないどころか、日本は公共事業を削減してますます貧困化してしまったのである。

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 更に、森元首相は自身の失言や公共事業が削減される原因を作ったことに対して、全く謝罪しないまま東京オリンピック組織委員会の会長を続けていることも問題だろう。例えば、1996~1998年に首相を務めた橋本龍太郎氏は在任中に消費税を増税して景気を悪化させたことについて「私は1997~98年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も経済問題で自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くお詫びしたい」と謝罪した。

 しかし、森元首相にそうした姿勢はほとんど見られず、『文藝春秋 2020年3月号』のインタビューでは「安倍さんに続けてもらうことが、最も国益に適う」と自民党総裁の任期が切れる2021年9月以降も安倍首相の続投を支持しているのだ。森元首相にとっては今の安倍政権を応援することで、自分がまだ総理大臣を続けているつもりになっているのかもしれない。だが、2025年のプライマリーバランス黒字化目標のために、憲政史上初めて在任中に消費税率を倍に引き上げた「戦後最悪の緊縮財政内閣」である安倍政権が国益に適うと思っている時点で、森元首相がいかに視野の狭い政治家なのかわかるだろう。

 

 この他にも、首相在任中の2000年6月20日には「無党派層自民党に投票してくれないだろうから、投票日に寝ていてくれればいいのだが」と発言しているが、その後日本の政治はどうなっただろうか。

 衆院選における20代の選挙投票率は1967年の66.69%から2000年の38.35%まで大幅に低下して当時から若者の政治離れが問題になっていたが、直近の2017年の衆院選でも20代の投票率は33.85%と状況が全く改善されていない。また、森政権以降の20年間、日本の総理大臣は「1年で辞める首相」と「5年以上続ける首相」に在任期間が二極化し、ほぼ全ての政権が消費税増税や歳出削減などの緊縮財政を推進してきた。その「最初」となった森政権の罪は非常に重いのである。

 デフレ不況に苦しむ今の日本に必要なのは、『日本列島改造論』を提唱した田中角栄元首相(1972~1974年)のような積極財政を推進する政権だろう。

 

 

独身女性ではなくデフレ不況こそが少子化の原因

 更に、森氏は首相を辞任した後の2003年6月26日にも「子供を一人もつくらない女性が、自由を謳歌して、楽しんで年を取って税金で面倒みなさいというのはおかしい」と発言したことが問題になったが、この発言は様々な意味で誤解に満ち溢れていると言えるだろう。

 2017年度の社会保障費用統計によれば、社会保障財源の構成割合は「社会保険料」が50.0%なのに対し、「公費負担」は35.3%程度で日本の社会保障制度の半分は税金ではなく国民の社会保険料で成り立っているのだ。つまり、独身女性であっても保険料を通して社会保障費を負担しているのであって、『税金で面倒をみている』というのは明らかな嘘になる。

 

 その上、図27を見ると過去60年間(1959~2019年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」は強い相関関係を示しており、最近でも名目GDP成長率(平成23年基準)が2015年の3.4%から2019年の1.2%に下落し、出生数も2015年の100.6万人から2019年の86.4万人まで減少してしまった。2020年は新型コロナウイルス東京五輪延期の影響でマイナス成長となる可能性が高く、出生数の減少にも繋がりかねない状況だろう。

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 しかし、この「名目GDP成長率と出生数の推移」は私が作ったオリジナルのグラフであり、少子化について研究している専門家の間でもデフレ不況がより少子化を加速させている現実について全く共有されていないのが残念である。

 例えば、社会学者の山田昌弘氏は2015年から始まった所得税増税について「現役世代に負担をより押し付けるものである」と厳しく批判しているが、実際にこの増税は課税所得4000万円以上の富裕層の最高税率が40%から45%に引き上げられるもので、多くの低所得者や中間層にとっては何も関係がないのだ。山田氏が本当に現役世代のことを考えるなら所得税よりも消費税増税こそ批判すべきだろう。先進国の中で最も公的な教育予算が少なく、毎日消費される食料品にまで8%の税率が適用される日本では消費税が現役世代にとって重い負担になっている可能性が高いからである。

 

 また、大学生のときに家族心理学の教授と少子化の問題について議論していて、当時私は経済評論家の三橋貴明氏の影響を受けていたので、「長引くデフレ不況が少子化の原因ではないだろうか」と発言したら、その教授から「不況と少子化の問題は因果関係が認められていない」と即座に否定された。彼は家族の助け合い義務を強制する自民党改憲案に反対する一方で、「財政再建のために消費税増税は必要」と言っていて、リベラル派の間でも経済的な観点から少子化問題を語ることがタブー視されているように感じる。

 

 更に、デフレ不況が少子化の原因だと認めたくないのは政権側も同じだろう。安倍首相は著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で「従来の少子化対策についての議論を見て感じることは、子供を育てることの喜び、家族を持つことの素晴らしさといった視点が抜け落ちていたのではないか、ということだ。私の中では、子供を産み育てることの損得を超えた価値を忘れてはならないという意識が更に強くなってきている」と述べている。つまり、安倍首相は日本で少子化が進んだのは若者が「家族を持つことの素晴らしさ」を失って、結婚や子育てをしなくなったことが原因だと言いたいようである。

 森元首相や安倍首相の他にも、2007年1月には柳澤伯夫厚労相(当時)が「15~50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と発言し、2018年5月には自民党加藤寛治議員が「女性に必ず3人以上子供を産み育てていただきたい」「結婚しなければ子供が生まれず人様の税金で老人ホームに行くことになる」と発言している。この20年間の日本政治はデフレ不況が国民を貧困化させるという現実から目を逸らして、少子化を結婚しない女性や若者のせいにしてきたと言えるだろう。

 

 だが、日本で少子化が進んだのは独身女性のせいではなく、富裕層減税や国営企業の民営化、消費税導入、労働者派遣法の施行など中曽根政権以降の小さな政府というデフレ促進策によって子育て世代の収入が大幅に減少したからである。1980年代はまだインフレの時代だったので小さな政府を進めても経済に悪影響を与えることは少なかったが、1990年代のバブル崩壊後にデフレ不況が深刻化する中で消費税増税や歳出削減を断行してしまったのは問題だった。

 特に、2000~2018年にかけて子育て世代に当たる35~39歳男性の平均年収は2000年の580.2万円から2018年の527.6万円まで52.6万円(2000年比で9.1%)も減少し、40~44歳男性の平均年収は2000年の634.5万円から2018年の580.6万円まで53.9万円(2000年比で8.5%)も減少している。図28では2000年を100とする「35~44歳男性の平均年収と消費者物価指数」の推移を示した。

 

 もし、森元首相をはじめとする政治家の方々が少子化を女性や若者のせいにするのではなく、バブル崩壊後に夫が妻子を養える経済状況ではなくなったことを認識して消費税引き下げや労働規制の強化、公共事業の拡大など反緊縮的な政策を進めてくれたら、子育て世代の収入が増加して年間の出生数が100万人未満に落ち込むことはなかったのではないだろうか。デフレ不況と少子化の関係についてはもっと研究されても良いと思う。

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<参考資料>

三橋貴明 『歴代総理の経済政策力』(イースト・プレス、2011年)

飯島裕子 『ルポ 貧困女子』(岩波書店、2016年)

山田昌弘 『なぜ日本は若者に冷酷なのか』(東洋経済新報社、2013年)

 

神の国発言 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E3%81%AE%E5%9B%BD%E7%99%BA%E8%A8%80

少年による刑法犯

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_2_2_1_1.html

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/page/content/001324440.pdf

一人当たりの名目GDPランキング

https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

森喜朗が語る“首相4選論”

https://bunshun.jp/articles/-/33786

「日本は天皇を中心とした神の国

https://www.jiji.com/jc/d4?p=gaf928-jlp00869659&d=d4_int

国政選挙の年代別投票率の推移について

https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

社会保障費用統計(平成29年度)

http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-h29/fsss_h29.asp

国民経済計算 2019年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194_2/gdemenuja.html

令和元年 人口動態統計の年間推計

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei19/index.html

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

不登校、ひきこもりと発達障害の関係

今回の記事では消費税と異なる話題になってしまうことをお詫び申し上げます。

 

「子供が不登校になる原因の大半はいじめ」だという嘘

 2019年5月から不登校の小学生Youtuber「少年革命家ゆたぼん」が話題になっている。現在11歳の彼が不登校になったのは小学3年生の頃で、いじめよりも宿題を強制する学校に疑問を抱き、「周りの子がロボットに見えたこと」を理由に挙げている。これだけの情報だと彼が怠けているように見えるが、私も実は中学生のときに不登校だったので彼を批判できる立場にないと思っている。

 

 私は2004年に小学校を卒業するまで成績が良く、中学は英語教育に力を入れているキリスト教の私立に進学したが、その中学は非常に荒れた学校で教員の間でも「いじめはいじめられる奴が悪い」という意識が蔓延しており、いじめの相談をしても話を聞いてもらえず中学2年生の3学期から不登校になることを選んだ。

 しかし、私が不登校になったのはいじめを受けていただけでなく「成績不振で授業についていけなくなったこと」も原因である。特に、不登校になる直前は主要5教科全てのテストで赤点になってしまい追試を受けるために学校へ行っていたようなもので、宿題も夜一晩中起きてないと仕上がらない量を出されてとても授業にはついていけないと思ってしまった。

 

 また、不登校になった3つ目の理由は「インターネット依存症になったこと」である。中学2年生だった当時、ドラマ『電車男』の影響で2ちゃんねるを見始めたのだが、そこで自分の好きな歌手が酷い誹謗中傷を受けていてどうしても許せなかった。学校で授業を受けていても、ネット上での誹謗中傷が頭から離れなくて勉強に集中できる状況ではなかった。いじめ以外の理由で不登校になったという意味では私もゆたぼん君と同じなのかもしれない。

 中学を卒業した後は全日制と通信制の高校に4年間通って、いじめや不登校の問題を研究するために心理学科の大学に進学し、21歳だった2012年からは経済にも関心を持って消費税増税を批判するようになった。

 

 私が許せないのは不登校でYoutuberをしているゆたぼん君ではなく、彼を誹謗中傷している大人たちのほうである。例えば、『炎上商法で1億円稼いだ男の成功法則』(宝島社、2019年)の著書があるプロレスラーでYoutuberのシバター氏はゆたぼん君について「勉強やいじめなど理不尽なことを耐えるのが学校というもの」とこき下ろしている。しかし、不登校が学校の理不尽なことから逃げているように見えるのは、シバター氏が学生時代に挫折した経験がないからだろう。

 他には元不登校を名乗ってゆたぼん君を批判しているYoutuberもいるが、はっきり言って「俺の不登校は正しいが、あいつの不登校は間違ってる」と言い訳しているようにしか感じなかった。ゆたぼん君が不登校になった理由はいじめではないと言うが、いい大人が11歳の子を総じてバッシングする姿は完全な「いじめ」に他ならないのではないだろうか。

 

 2018年に実施された文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、中学生が不登校になった理由について「いじめ」と「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が合わせて28.8%程度で、「家庭生活に起因」は30.9%、「学業不振」は24.0%といじめ以外の理由も多くなっている(表3を参照)。

 更に、小学生が不登校になった理由は「いじめ」と「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が合わせて22.5%程度で、「家庭生活に起因」は55.5%、「学業不振」は15.2%と中学生よりも家庭生活に起因する不登校の割合が多い。

 私は中学生の頃だけでなく小学2年生のときもいじめられていたのだが、当時は算数が得意で成績が良く、家庭環境も良好で「学校に行きたくない」と思ったことはほとんどなかった。不登校になる原因はいじめだけではないことは自身の経験からもよくわかる。

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 しかし、不登校を経験したことがない世間一般の人々は不登校になる原因の大半はいじめだと勘違いしていないだろうか。実際に、私も親戚の方に中学生の頃に不登校だったことを話したら即座に「いじめられていたの?」と聞かれて回答に詰まったことがある。ゆたぼん君が「宿題がやりたくなかったから不登校になった」という理由で批判されたのも、成績不振やネット依存が原因で不登校になったケースに対しては甘えだと自己責任で見捨てている部分があるからだろう。

 

 いじめの問題を研究している社会学者の内藤朝雄氏は「クスクス笑いやシカトに代表されるコミュニケーション型のいじめは、クラスのような学級制度がなくなることによってその多くは行う余地を失う」「学級制度自体は他の国も数多く存在するが、日本ほど一つの空間に同じ集団が朝から夕方まで押し込められる例は珍しい」と述べている。

 他にも不登校の子供たちを学校に復帰させる支援を行っている水野達朗氏は、「不登校の子供たちの多くは、親や教師に反抗的な態度を取っていても『本当は学校に行きたい』と思っている」「訪問カウンセリングを行うことによって不登校の子供たちを勇気づけ、親への家庭教育を支援して学校へは専門家の立場で情報共有を行うことによって不登校の解決に繋げていく必要がある」と述べている。

 ゆたぼん君を批判するYoutuberの動画を見ていても、彼らのように「どうしたらいじめや不登校を減らすことができるか」といった考察をする人は残念ながらほとんど存在しなかった。このことからYoutuberはいかに他人を誹謗中傷する炎上商法で再生回数を稼いでいる人が多いのかわかるのではないだろうか。Youtuberのほとんどはコミュニケーションが得意で、学生時代に深刻ないじめを受けた経験を持つ人が少ないのだろうなと思えてならない。

 

 

障害者の給与を一般労働者と同程度まで引き上げるべき

 また、私は2019年8月から県内の発達障害者支援センターに通うようになり、そこで受けたテストで「自閉症スペクトラムの傾向が強い」と診断された。自閉症スペクトラムとは、これまで「自閉性障害」「アスペルガー障害」「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれていたものが、2013年にDSM精神障害の診断と統計マニュアル)の第五版の診断基準変更によって統合された名称で、主に対人関係の障害やコミュニケーションの障害、パターン化した興味や活動といった3つの特徴を持つとされている。

 私が「自分は周囲の子と違う」と感じ始めたのは小学2年生のときにいじめっ子から「お前は特殊学級に行け」と馬鹿にされたことがきっかけだが、3年生のときの担任がとても良い先生で小学校を卒業するまでは自分が発達障害だと認識することはなかった。しかし、中学に入ってから再びいじめを受けて、そのことを心療内科の先生に相談すると「君はアスペルガー障害の可能性がある」と言われそこで初めて自分が周囲の子と違う理由を知ることができた。

 

 「自分は発達障害かもしれない」と思ったことは22歳でコンビニのアルバイトをしていたときもあった。2013年12月にお客さんから「急いでくれ」と言われて慌てて対応していたら「お前は態度が悪い。このコンビニの教育はどうなっているんだ?」とクレームを入れられてしまった。

 店長からは厳しく叱られずに「大丈夫だから」と励まされたのだが、お客さんからコンビニの教育を疑われたのはそれだけ自分の接客が下手だったということだろう。今でも当時のことを思い出すと非常に怖くなる。コンビニのアルバイトは大学の授業が忙しくなったということもあり翌月の2014年1月に辞めて、それから接客の仕事を全く行っていないのは言うまでもない。

 

 しかし、この10~20年で発達障害の研究が進められてきた一方で、企業が新卒採用で学生のコミュニケーション能力を異常なまでに求め、発達障害の傾向を持つ人を徹底的に排除しようとしている。経団連の『新卒採用に関するアンケート調査』によれば、採用選考時に「コミュニケーション能力を重視する」と答えた企業の割合は2001年の50.3%から2019年の82.4%まで増加した。

 企業がコミュニケーション能力に偏重した採用活動を行っているのは、2000年代以降にインターネットの普及で誰でも簡単に不祥事の告発が可能になり、企業がかつてないほど組織のコンプライアンスを重視するようになったからである。また、長引くデフレ不況の影響で日本企業全体が余裕を失い、コミュニケーションが苦手で発達障害の傾向を持つ学生をふるい落としている部分もあるだろう。

 

 労働力調査を見ても、2001~2019年にかけて女性の就業者数は363万人増加したのに対し、男性の就業者数は逆に50万人も減少している。図24では2001年を100とする男性就業者と女性就業者の増加率を示した。自閉症スペクトラムは圧倒的に男性のほうが多い一方で、女性の平均年収は男性の約半分程度である。つまり、今の企業はコミュニケーション能力が高く低賃金で働いてくれる人を求めているとも言えるかもしれない。

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 日本社会が過剰にコミュニケーション能力を求めるようになると、発達障害の傾向を持つ人が就労できずにニートやひきこもりへと追い込まれることにもなりかねない。私が発達障害者支援センターに通っていて「自閉症スペクトラムの傾向が強い」と診断されたのは納得したのだが、障害者枠で就労することを強く勧められたのは違和感を覚えた。一度、障害者枠で働く道を選ぶと高度な国家資格を持っていない限り、どんなに経験を積んでも賃金が時給1000円を超えることがないのを知っていたからである。

 

 2018年5月のデータでは常用労働者の「きまって支給する給与」が26.3万円なのに対し、身体障害者が21.5万円(常用労働者の81.7%)、知的障害者が11.7万円(44.5%)、精神障害者が12.5万円(47.5%)、発達障害者が12.7万円(48.3%)程度である。更に、福祉作業所に在籍する障害者は2016年の調査で98.1%が年収200万円未満のワーキングプアになっていて、生涯未婚率(50歳までに一度も結婚したことがない人の割合)は男性で96.0%、女性で95.4%にものぼっている。

 知的障害者精神障害者の給与が低いのは高度かつ付加価値の大きい仕事をこなすことが難しいからだと言われているが、こうした障害者に対する給与差別こそが発達障害の傾向を持つ人を就労から遠ざけてはいないだろうか。

 

 また、高度経済成長期の1955年であれば個人経営の事業を営んでいる自営業主は1028万人と全体の25%を占めていたが、2019年になると自営業主は531万人と全体の8%程度まで減少してしまっている。発達障害の傾向を持つ人は企業のような集団生活を強いる職場が苦手なので、自営業主の衰退はますます発達障害者の就労機会を奪っているということでもある。高度経済成長期の時代と比べて自営業主の割合が大幅に減少しているのは長年、政府が個人事業主への所得補償を怠ってきたからだろう。

 自民党片山さつき議員は著書『正直者にやる気をなくさせる!?福祉依存のインモラル』(オークラ出版、2012年)の中で「自由と権利ばかり主張する日本国憲法のせいで、ニートとひきこもりが急増した」と述べているが、これはコミュニケーションが苦手で働けない人を自己責任で見捨てる暴論ではないだろうか。発達障害者をニートやひきこもりに追い込まないためには、政府が率先して障害者枠の給与を一般労働者と同程度まで引き上げるしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

内藤朝雄 『“いじめ学”の時代』(柏書房、2007年)

水野達朗 『無理して学校へ行かなくていい、は本当か』(PHP研究所、2015年)

池上正樹 『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』(講談社、2014年)

齊藤祐作 『発達障害者の才能をつぶすな!』(幻冬舎、2016年)

 

YouTuber目指す大半の子が知らない厳しい現実

https://toyokeizai.net/articles/-/281468

2つの統計から見る不登校の現状ときっかけ・原因【2019年8月更新】

https://www.tsuushinsei-navi.com/futoukou/toukei.php

2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果

https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

毎月勤労統計調査 平成30年5月分結果確報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/30/3005r/3005r.html

平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05390.html

新型コロナウイルス対策のためにも消費税を5%に減税すべき

名目GDP成長率の落ち込みは8増税時よりも大きい

 2月17日に発表された2019年10-12月期のGDP速報(平成23年基準)によれば、物価の変動を除いた実質GDP成長率は年率マイナス6.3%だった。個別の項目を詳しく見ると落ち込みがもっと酷く、民間最終消費支出は年率マイナス11.0%、民間住宅投資は年率マイナス10.4%、民間企業設備投資は年率マイナス14.1%である。

 

 また、私が気になったのは「持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出」が年率マイナス13.9%も落ち込んでしまったことだ。国民経済計算では個人消費について「民間最終消費支出」「家計最終消費支出」「除く持ち家の帰属家賃」の3つのデータを公表しているが、「家計最終消費支出」とは民間最終消費支出から私立学校、宗教団体、政党、福祉関係のNPOなど営利を目的とせず社会的サービスを提供している民間団体の消費を除いた額で、「除く持ち家の帰属家賃」とは家計最終消費支出から実際には家賃を支払っていない住宅(持ち家など)について、通常の借家と同様のサービスが生産され消費されるものとみなし、市場価格で評価した計算上の架空家賃を除いた額である。

 つまり、民間最終消費支出より国民の個人消費を表す数値に近いデータを知りたい場合、家計最終消費支出から持ち家の帰属家賃を除いた額を見るべきで、この落ち込みが大きいのは消費税増税による個人消費の低迷が日本経済を蝕んでいる何よりの証拠ではないだろうか。

 

 更に、物価の変動を含めた名目GDP成長率を見るともっと酷い。前回消費税を8%に増税した2014年4-6月期は年率0.0%だったのに対し、2019年10-12月期は年率マイナス4.9%と今回のほうが落ち込みは大きいのだ。特に、2019年10-12月期の名目GDP成長率は安倍政権の7年間で最低となってしまった(図22を参照)。

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 2019年のコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合物価指数)が対前年比0.4%の増加だったにも関わらず、同年10-12月期の名目GDP成長率がマイナスになった理由は民間企業設備投資の落ち込みが2014年4-6月期よりも著しかったことが考えられる。

 消費税を8%に増税したときは2012~2013年にかけて景気が回復傾向にあったが、10%増税時は名目GDP成長率が2015年の3.4%から2019年の1.3%まで下落していて、景気の後退局面で消費税を引き上げたからこそ民間企業設備投資の落ち込みが大きかったのではないだろうか。

 

 

個人消費の落ち込みは高齢化ではなく消費税増税が原因

 しかし、消費税を最終的に15~20%まで引き上げたい安倍政権は増税による景気悪化を絶対に認めたくないようである。安倍首相は2月17日の予算委員会で日本経済の現状と展望に関し、「経済対策の効果もあり基調として緩やかな回復が続く」との見解を示した。麻生財務大臣も2019年10-12月期の実質GDPがマイナス成長だったことを受けて、「前回の消費税引き上げ時と比較すると影響が小さい」などと言い訳に終始している。

 だが、景気の先行き予測に使用される景気動向指数(先行指数)は2017年12月の102.1から2019年12月の91.6まで急速に悪化しており、新型コロナウイルスの影響もあって2020年1-3月期のGDP成長率は更に落ち込む可能性が高いだろう。日本経済の現状はとてもじゃないが、緩やかに回復しているとは言えない状況である。

 

 また、自民党片山さつき議員はテレビ朝日のモーニングショーで藤井聡氏と対談した際に、2019年10-12月期の消費の落ち込みについて「台風19号のせいだ」と発言している。しかし、台風は2019年だけでなく毎年起こっているのであって、増税前の同年9月にも台風15号の影響で千葉県を中心に大規模停電が発生した。もし、景気悪化を台風のせいにするのなら9月の時点で消費税10%増税を中止すべきだっただろう。

 片山議員は「少子高齢化の影響で消費が増えづらい状況になっている」とも述べているが、これも少し調べれば嘘であることがわかる。日本は高齢化率が21%を超える「超高齢化社会」に突入したのが2007年だが、それでも家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は2009年1-3月期の223.3兆円から2014年1-3月期の247.7兆円にかけて24.4兆円も増加している。本格的に個人消費が落ち込んだのは消費税が8%に増税された2014年4月以降なのだ(図23を参照)。

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 消費税増税に加え、新型コロナウイルスの影響が深刻な日本経済は今後どうなってしまうだろうか。現状では2020年6月末に消費者に最大5%が還元される補助金事業のキャッシュレス還元が終了して「再増税」となるため、東京五輪を開催しても個人消費はほとんど増えないと予想される。

 そのため、政府は新型コロナウイルスによる経済への悪影響を最小限に抑える目的で遅くても2020年7月から消費税を5%に減税すべきだろう。私は安倍政権を全く支持していないが、消費税引き下げを決定すればそれに伴って解散総選挙に打って出ても良いと思っている。

 

 

<参考資料>

国民経済計算 2019年10-12月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194/gdemenuja.html

「民間最終消費支出」と「家計最終消費支出」の違い

https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/indicator/20130117_006677.pdf

財務省の狂気(前編)

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12447976559.html

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

日本経済、政策効果などで基調として緩やかな回復続く=安倍首相

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200217-00000043-reut-bus_all

経済環境きめ細かく分析し、財政運営に万全期す=麻生財務相

http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN20C01F.html

統計表一覧:景気動向指数 結果

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html

【激論】消費税増税の悪影響を意地でも認めない片山さつき自民党議員

https://www.youtube.com/watch?v=_-AluaqShqw

1995年以降のデフレが国民を貧困化させ、音楽文化まで破壊した

日本国民の二極化が始まった1990年代という時代

 昨年からYoutubeで昔の音楽番組やゲームの動画を見るようになったり、家の物置から子供の頃の写真を出して懐かしくなったりして、改めて1990年代という時代を総括する必要があると感じた。特に、私が生まれた1991年から小学校に入学する1998年までの動画や写真を時系列で見ると良くも悪くも変化の大きい時代だったということが伝わってくる。一言で表現すれば90年代は国民の二極化が始まった時代だと言えるのではないだろうか。

 

 1994年から新宿を中心に路上生活者(ホームレス)の支援活動に取り組んでいる稲葉剛氏は、現在の格差や貧困に繋がる火種がまかれた年として、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件が発生して社会の閉塞感が広がった1995年を挙げている。稲葉氏が炊き出しを始めた1994年12月当時、新宿では路上生活者がまだ200人程度だったが、1995年に入ってからそれが300人、400人と少しずつ増えていったという。

 1995年といえば当時4歳だった私はアパートから両親が建てたマイホームに引っ越した時期であり、自分が恵まれた幼少期を過ごしていた裏側で路上生活者が急増していたのは信じられない話だ。

 

 また、同年10月18日には大阪の道頓堀で路上生活をしている63歳の男性が24歳の若者によって襲撃され亡くなる事件も発生している。その後、襲撃した若者も持病により安定した仕事に就けず社会の中に居場所を見つけられない状態にあり、自分と同じような境遇にある路上生活者を襲撃したということがわかっている。現在まで繋がる若者の貧困と通底する事件だとも言えるだろう。

 

 実際に、稲葉氏の活動だけでなくデータから見てもこの25年間の日本はほとんど経済成長せず貧困層や所得格差だけが拡大していったことがわかる。例えば、名目GDP成長率は1973年から1995年までの22年間では4.30倍(平成2年基準)も増加したのに対し、1995年から2017年までの22年間ではたったの1.07倍(平成23年基準)しか増加していない。

 この間、1世帯当たりの平均所得金額は1995年の659.6万円から2017年の551.6万円まで100万円以上も減少し、所得格差を表すジニ係数当初所得)は1996年の0.441から2017年の0.559まで上昇している。

 

 この他にも生活保護利用者数は戦後、1951年度の204.7万人から1995年度の88.2万人まで減少していたが、その後は2017年度の212.5万人まで増加してしまった。図20では1985~2017年の「1世帯当たりの平均所得金額と生活保護利用者数の推移」を示したが、これを見ると平均所得金額と生活保護利用者数が逆の相関になっていることがわかる。

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 安倍政権の熱烈な支持者たちは生活保護利用者数の増加について「日本人の勤労意欲が低下したからだ」などと言うだろうが、統計数理研究所が5年ごとに実施している日本人の国民性調査で「いくらお金があっても、仕事がなければ人生はつまらない」という考え方に賛成する割合は1983年が77%、1988年が75%、1993年が75%、1998年が76%、2003年が71%、2008年が76%、2013年が72%と30年間一貫して7割を超えていて、日本人の勤労意欲が落ちているわけではないのだ。

 

 更に、1995年は日経連が『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』として非正規雇用派遣労働者を大幅に増やす提言を行った年でもある。自民党はこの提言に従って1999年12月に労働者派遣法を改正し、それまで専門26業務に限定されていた「ポジティブリスト方式」を港湾運送、建築、警備、医療、製造業など以外は原則自由化するという「ネガティブリスト方式」に変えている。

 その後も労働者派遣法は2004年3月に製造業での採用が解禁され、2015年10月からは専門26業務の枠組みを廃止して企業が人さえ変えれば同一事業所の派遣使用期間をいくらでも延長できるようになった。この結果、非正規雇用の割合は1995年の20.9%から2018年の37.9%まで上昇し、主に20~40代の労働環境が悪化して少子化の原因の一つにもなっていることが明らかだろう。

 

 1995年から2018年にかけて食料を含めた総合物価指数(CPI)はデフレと言われながらも3.8%上昇しているが、40~44歳男性の平均年収は1995年の626.9万円から2018年の580.6万円まで46.3万円(1995年比で7.4%)も減少し、45~49歳男性の平均年収は1995年の687.1万円から2018年の635.2万円まで51.9万円(1995年比で7.6%)も減少している。

 その影響もあって、50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示す生涯未婚率(男性)は1995年の8.99%から2015年の23.37%まで上昇し、現在の40代男性は所得に余裕があり結婚して子育てに励んでいる人と不安定雇用に苦しめられて結婚できない人が二極化しているのではないだろうか。

 

 

1990年代にCDが爆発的に売れていた本当の理由

 その一方で、1995年といえば日本の音楽史においてCDシングルのミリオンセラー数が過去最多だった年として記録されている。この年は累計売上が248.9万枚にものぼったDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」をはじめとしてミリオンセラーが28曲も生まれている。これだけCDが爆発的に売れたのは、日本の1990年代が一億総中流社会の面影が残っていた最後の時代だからという部分もあるのではないだろうか。

 

 今年2月21日に発表された2019年の実質賃金は「現金給与総額」が前年比マイナス0.9%、「きまって支給する給与」が前年比マイナス0.8%だった。1990年から2019年までの実質賃金を長期時系列データで見ると、戦後最も高かった1997年と比べて2019年の実質賃金は14.2%も減少している。

 音楽好きな自分として気になっているのは、労働者の実質賃金とCDやDVDなどの売上を示した音楽ソフトの生産金額に強い相関関係が見られることだ(図21を参照)。1990年から1997年までは実質賃金と音楽ソフトの売上が共に上昇していたが、2000年以降に実質賃金が低下して音楽ソフトの売上も減少するという状況が発生している。この20年のデフレ不況は国民を貧困化させるだけでなく、音楽文化まで破壊してしまったようである。

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 5ちゃんねる(旧:2ちゃんねる)やYoutubeのコメント欄などでは「1980~90年代の音楽は素晴らしかったが、最近はいい曲が少ない」という書き込みが多い。そうしたコメントを見る度に「貴方が最近の音楽を聴かず嫌いしているだけなのでは?」と思うのだが、それでも何故昔の音楽のほうが良いと感じる人が多いのかについては考察しなければならない。

 私が思うのは1980~90年代当時、法人税所得税最高税率が今より高かったことにより、売れているミュージシャンやレコード会社にも納税を通して社会貢献させていたからこそ、国民の多くがCDを買うなど音楽にお金を使う余裕があって次々と大ヒット曲を生み出せていたのではないだろうか。

 例えば、90年代に一世を風靡した音楽プロデューサーの小室哲哉氏は1997年に推定所得が約23億円でその50.9%に当たる11億7000万円を納税したという。当時の所得税と住民税を合わせた最高税率は65%で、自身の収入の半分以上を国と地方に納税していたのは誇るべきことである。

 

 しかし、それから所得税と住民税の最高税率はCDの売上が減少し始めた1999年から50%に減税され、2007年には所得税最高税率が37%から40%に引き上げられたのに対し、住民税の最高税率は13%から10%に減税され、どれだけ所得を稼いでも一律の税率しか徴収されないフラット税制が適用されている。

 2015年には格差社会に対する批判から所得税と住民税の最高税率が50%から55%に引き上げられたが、それでも高所得者に65%以上の税率を徴収していた1980~90年代と比べたら累進課税が緩和された状況が続いていると言えるだろう。

 

 エイベックス代表取締役会長の松浦勝人氏は2013年8月に自身のFacebookで2015年から所得税と住民税の最高税率が55%に引き上げられることについて「この国はあえていうなら富裕層に良いことは何もない。こんなことをしていたら富裕層はどんどん日本から離れていくだろう」と批判したが、彼は2000年代以降に何故CDが売れなくなったのか真剣に考察したことがないのだなと思わざるを得なかった。

 ちなみに、国税庁の調査によれば年収1000万円以上の高所得者は2014年の199.5万人から2018年の248.8万人まで49.3万人増加し、ワールド・ウェルス・レポートによれば100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2014年の245.2万人から2018年の315.1万人まで69.9万人も増加していて、所得税最高税率を引き上げても富裕層が海外に逃げるという事態は発生していないのだ。松浦氏は日本の所得税が高いと嘆く前にもっと経済の勉強をすべきではないだろうか。

 

 最近ではYoutubeなどの動画サイトやSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスの再生回数でミュージシャンが収入を得る時代になっているが、こうした「音楽を無料や低価格で楽しむ」という価値観が蔓延しているのは1995年以降に日本のデフレ不況が長期化していることも原因の一つだろう。

 20~40代が趣味にお金を使えるようになり、将来的に結婚してマイホームを建てられるほどの所得を得るためには消費税廃止と財政出動が必要で、その財源として法人税所得税最高税率を引き上げてデフレ期の国債発行を認めるしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

稲葉剛 『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版、2016年)

伊藤周平 『消費税が社会保障を破壊する』(角川書店、2016年)

醍醐聰 『消費増税の大罪 会計学者が明かす財源の代案』(柏書房、2012年)

森岡孝二 『雇用身分社会』(岩波書店、2015年)

 

国民経済計算 2019年10-12月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194/gdemenuja.html

平成30年 国民生活基礎調査

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450061&kikan=00450&tstat=000001129675&cycle=7&tclass1=000001130605&result_page=1

平成29年 所得再分配調査報告書

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/96-1/h29hou.pdf

平成29年度 被保護者調査

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450312&tstat=000001125455&cycle=8&tclass1=000001125456&result_page=1

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

2020年度人口統計資料集

http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2020.asp?chap=0

1995年(平成7年)ヒット曲ランキング

https://nendai-ryuukou.com/1990/song/1995.html

毎月勤労統計調査 令和元年分結果確報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r01/01cr/01cr.html

音楽ソフト 種類別生産金額推移

https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_m.html

小室哲哉Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%AE%A4%E5%93%B2%E5%93%89

所得税の税率の推移(イメージ図)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/033.htm

松浦勝人氏「富裕層は日本にいなくなっても仕方ない」に批判相次ぐ

https://www.huffingtonpost.jp/2013/08/13/masato_matsuura_n_3738948.html

World Wealth Report 2019

https://worldwealthreport.com/wp-content/uploads/sites/7/2019/07/World-Wealth-Report-2019-1.pdf

ベーシックインカムを消費税増税の口実にしてはいけない

スイスが国民投票ベーシックインカムを否決した理由

 近年、社会保障の分野で話題になっている制度に「ベーシックインカム」がある。ベーシックインカムとは、「最低限所得保障」の一種で生活できる最低限の金額を定期的に支給するというものだ。この制度は年金、雇用保険生活保護などの代わりに、国民全員に一律の金額を支給することで社会保障制度を簡素化し、行政コストを大幅に削減できるという特徴を持っている。

 日本でも2010年6月から2011年9月まで当時の民主党政権が「子ども手当」として15歳までの子供に月額1万3000円を支給していたが、これは子育て世代を対象にしたベーシックインカムの一つと見なすことができる。ベーシックインカムの問題点で一般的に言われるのは、政府が国民に対して無条件にお金をバラ撒いたら、勤労意欲がなくなって働かない人が増加するのではないかという批判である。

 

 社会実験としてベーシックインカムの導入が成功した代表的な国にフィンランドがある。フィンランドでは2017年1月から2018年12月まで無作為抽出した2000人の失業者に対し、他の収入源があるかどうかや積極的に仕事を探しているかどうかに関わらず、毎月560ユーロ(約7万1000円)を支払うベーシックインカムの試験運用を行った。

 その結果、幸福度について「健康状態が良い」と回答した割合はベーシックインカムを受給していないグループが46%なのに対し、受給したグループが55%、「かなり強いストレスを感じたことがある」と回答した割合はベーシックインカムを受給していないグループが25%なのに対し、受給したグループが17%とベーシックインカムが幸福度や健康状態に良い影響を与えることが示された。

 また、ベーシックインカムの受給者の雇用状況に関して、受給していないグループの勤務日数は平均で年間49.25日なのに対し、受給したグループは平均49.64日と特に大きな差は見られなかった。ベーシックインカムを導入すると人々の勤労意欲がなくなるという懸念について、今回の結果では良くも悪くも人がすぐには変わらないことが示されている。

 

 その一方で、スイスでは2016年6月5日に成人には2500スイスフラン(約27万円)、未成年には625スイスフラン(約6万8000円)を毎月支給するベーシックインカムの是非を問う国民投票が実施されたが、賛成は23.1%だったのに対し、反対は76.9%と圧倒的多数で否決されている。

 イギリスの経済学者でベーシックインカムを推進しているガイ・スタンディング氏はスイスの国民投票が否決された理由について「ベーシックインカムが導入されると、低所得国からの移民の大量流入を招く」という不安を反対派が煽ったからだと指摘している。

 

 だが、それ以上にスイスとフィンランドの税制や経済状況に違いが大きいことも原因の一つになっているように思う。スイスの付加価値税は8.0%(2016年当時)と欧州の中でも低いのに対し、フィンランド付加価値税は24%と高負担高福祉の国の一つになっており、完全失業率もスイスの3.3%よりも、フィンランドの8.8%(いずれも2016年の数値)のほうが圧倒的に高い。

 つまり、仮にスイスでベーシックインカムが導入されたら、フィンランド並みに付加価値税を引き上げて景気を悪化させ、完全失業率の高い不安定な社会を受容しなければならないという危機感から国民投票に反対する人が多かったのではないだろうか。

 

 更に、2019年1月からはチューリッヒ州のライナウ村で25歳以上の人に毎月2500スイスフラン(約27万円)を支給するベーシックインカムが試験的に導入される予定だったが、目標としていた600万スイスフラン(約6億4000万円)以上の資金調達が間に合わず計画を断念している。

 ベーシックインカムの導入を呼び掛けた映画監督のレベッカ・パニアン氏は「なぜライナウの村民だけにお金を出すのか理解できない人が多かった」とコメントを発表し、プロジェクトの目的をしっかりと周知する必要があったと反省している。スイスでは2018年1月に付加価値税を8.0%から7.7%に引き下げており、どうやらベーシックインカムを導入するよりも減税したほうが景気対策や雇用創出に繋がると考えている国民が多いようだ。

 

 図18では1981~2019年のフィンランド、スイス、日本における完全失業率の推移を示したが、これを見る限り日本はスイスと同様に比較的失業率が低く、消費税増税を財源にベーシックインカムを導入するよりも政府が財政出動して最低賃金を大幅に引き上げたほうが国民所得の向上に繋がるとも言えるだろう。

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ベーシックインカムと引き換えに経済成長を犠牲にするな

 しかし、日本ではベーシックインカムの導入が消費税増税の新たな口実にされようとしているのが残念である。例えば、2016年4月10日放送の『そこまで言って委員会NP』では、堀江貴文氏が「消費税を20%くらいに引き上げることを前提として、国民に毎月8万円を支給するベーシックインカムを導入したらどうか」と提案し、司会の辛坊治郎氏は「いっそのこと消費税を30%にして、毎月10万円支給すべき」と極論を述べている。

 だが、前述のガイ・スタンディング氏はベーシックインカムの財源について「所得税最高税率を引き上げるべき」と言っていて、海外では消費税ではなく富裕層の資産に課税してベーシックインカムの財源にする意見が一般的となりつつあるのだ。

 

 また、堀江貴文氏はベーシックインカムを貧困対策ではなく、消費税増税の新たな口実だとしか思っていないことは過去の発言からよくわかる。2019年10月には、女性が多く集まる電子掲示板の『ガールズちゃんねる』で手取り14万円のアラフォー会社員が「何も贅沢できない日本終わってますよね?」と嘆く書き込みに対して、堀江氏はツイッターで「日本が終わってんじゃなくてお前が終わってんだよ」と自己責任論を強要した。

 国税庁民間給与実態統計調査によれば、2018年の平均年収は女性が293.1万円と男性(545.0万円)の53.8%程度に過ぎず、アラフォー会社員が女性なら男女の賃金格差を象徴する書き込みだとも言える。そうした背景を理解せず自己責任論を押し付ける堀江氏は実業家としてあまりにも視野が狭すぎるのではないだろうか。

 

 ベーシックインカムの導入を消費税増税の新たな口実にしているのは堀江貴文氏だけではない。不登校やひきこもりの人々を支援している古山明男氏は著書『ベーシック・インカムのある暮らし』の中で消費税を13%まで引き上げて、月額8万円のベーシックインカムを導入することを提案している。

 古山氏は消費税について「景気の変動に対して税収が安定している」と述べているが、それは逆に言えば不況でも失業者や赤字企業から容赦なく取り立てる欠点を持っていて、税金の基本原則である景気の自動安定装置(ビルトイン・スタビライザー)が機能しない特徴もあるのではないだろうか。

 更に、古山氏は「現在、所得格差が大きくなっていくことを嘆きながら、その原因である大企業や金持ちを優遇しなければならないという奇妙な構図ができている」とも言うが、それは消費税ではなく法人税所得税最高税率を引き上げることで対応できるだろう。

 

 また、経済評論家の波頭亮氏は著書『AIとBIはいかに人間を変えるのか』の中で、古山氏と同様に月額8万円のベーシックインカムを導入する代わりに、消費税を15%まで引き上げることを提案している。

 波頭氏は「消費税増税による物価上昇と個人消費の低下については、過去に増税した際の実績を見ればさほど懸念する必要はないだろう」と述べているが、国民経済計算を見ると「家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」の落ち込みはリーマンショックが発生した2008年度の6.3兆円より消費税を8%に増税した2014年度の8.0兆円のほうが大きい(図19を参照)。リーマンショックよりも深刻な個人消費の落ち込みが発生したにも関わらず、「世の中で懸念されているほど消費の低下は招かない」と言い切ってしまう波頭氏は浅はかではないだろうか。

 2018年度の実質GDP総額は533.7兆円だが、もし安倍政権が消費税増税を中止して税率が5%のままだったらとっくに家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)が250兆円を超えて実質GDPは550兆円以上にも達していただろう。

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 堀江貴文氏、古山明男氏、波頭亮氏にしても消費税増税を財源にベーシックインカムを推進している論客に共通するのは「ベーシックインカムを導入するんだから、消費税を増税して生活が苦しくなるくらい我慢しろ」という思い上がった態度ではないだろうか。

 もし、日本でベーシックインカムを導入するのであれば、消費税ではなく法人税所得税最高税率を引き上げてデフレ期の国債発行を認めることで財源を捻出すべきである。少なくとも、ベーシックインカムを引き換えに経済成長を犠牲にしてはならないし、消費税増税の新たな口実にしてもいけないと思う。

 

 

<参考資料>

和田秀樹 『「依存症」社会』(祥伝社、2013年)

橘木俊詔 『貧困大国ニッポンの課題』(人文書院、2015年)

ガイ・スタンディング 『ベーシックインカムへの道』(プレジデント社、2018年)

 

フィンランドベーシックインカムの調査結果を発表

https://ideasforgood.jp/2019/03/06/finland-basic-income-result/

ベーシックインカム - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%A0

スイスの人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/CH/imf_persons.html

フィンランドの人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/FI/imf_persons.html

日本の人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/JP/imf_persons.html

ベーシックインカム試験導入、断念へ

https://swissjoho.com/archives/39836

VATの標準税率を7.7%に引き下げ(スイス)

https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/01/648855c7091a2197.html

堀江貴文が語るベーシックインカム

https://www.youtube.com/watch?v=LvzQqv1XGCM

堀江貴文が“手取り14万円”に「お前が終わってんだよ」でまた無知を晒す

https://www.excite.co.jp/news/article/Litera_litera_9974/

平成30年分民間給与実態統計調査結果について

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/minkan/index.htm