消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

れいわ新選組は消費税廃止の他に「移民受け入れ反対」を掲げるべき

れいわ新選組の消費税廃止は極めて現実的な経済政策である

 次の衆院選は早ければ2020年のうちに行われると予想されているが、そこで気になるのが消費税廃止を掲げたれいわ新選組がどれほどの議席を獲得できるのかということである。

 山本太郎氏は衆院選での戦い方について「野党が消費税5%に減税することを目的にまとまるのであれば協力するが、それが不可能なら独自で候補者を100人擁立する」と発言している。しかし、立憲民主党と国民民主党はれいわ新選組の消費税引き下げに協力することに消極的で、合流に向けた話し合いも混乱しているようだ。そうなると、山本氏は独自で衆院選を戦うことになるが、個人的には自民党の強い小選挙区で候補者を立てる必要はないと思う。

 筆者は群馬県に住んでいるが、衆院選では毎回小渕優子氏が当選を続けていて、れいわ新選組が候補者を擁立しても残念ながら勝てないだろう。

 

 2019年の参院選における都道府県別のれいわ新選組の得票率を多い順に見ると、1位から10位は東京都、沖縄県、神奈川県、埼玉県、千葉県、京都府山梨県福井県高知県宮城県となっていて、逆に直近10年間(2010~2019年)における都道府県別の自民党の得票率を少ない順に見ると、1位から10位は大阪府沖縄県、長野県、兵庫県京都府、北海道、埼玉県、東京都、岩手県、愛知県となっている(表2を参照)。

 まずはこうしたれいわ新選組が強く、自民党が弱い地域から攻めていく必要があるのではないだろうか。

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 また、安倍政権の熱烈な支持者が集まるツイッターYoutubeのコメント欄では「れいわ新選組の消費税廃止は非現実的だ」との書き込みを多く見かける。だが、法人税率を80年代の水準に戻してデフレ期の国債発行を認めれば消費税廃止は極めて現実的な経済政策なのだ。

 『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』でも述べた通り、企業の経常利益は1989年度の38.9兆円から2018年度の83.9兆円まで約2.2倍も増加し、法人税収が減少する一方で経常利益はバブル崩壊後も増え続けて過去最高を更新している。2018年度の経常利益に1989年当時の税率(40%)が適用された場合、単純比較で法人税収は41.0兆円にものぼったことが予想され、これは2018年度の法人税収と消費税収を合わせた30.0兆円よりも多い。

 

 それでも、消費税増税を推進する財務省は「法人税所得税は景気に左右されやすい」と言うが、リーマンショックのような金融危機が発生して法人税収や所得税収が減った場合、消費税を増税するのではなく国債を発行して社会保障の財源を調達すればいいだろう。

 消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2018年度に対前年比0.2%程度と日銀が定めている年率2%のインフレ目標には達していないが、それでも公債発行額は2009年度の52.0兆円から2018年度の34.4兆円まで削減されている(図15を参照)。

 安倍政権は公債発行額の減少をアベノミクスの成果として挙げているが、デフレ脱却していないにも関わらず緊縮財政を強行したことを自画自賛するのは何とも情けない話だろう。年率2%のインフレ目標に達していないデフレ不況のときはむしろ国債発行で歳出を増やしたほうが早期に景気回復して税収も増加するのだ。

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 2018年には高度経済成長期の日本に憧れたマレーシアのマハティール首相が6%の消費税を完全に廃止して「物品税」に近い売上・サービス税(SST)に戻した。一部の政治家やメディアはマレーシアが消費税を廃止したことを失敗だと批判しているが、2019年4~6月期の実質GDP成長率は日本が前年同期比で1.0%程度の増加なのに対し、マレーシアは4.9%も増加している。両国ほぼ同様にGDPの6割を占める個人消費に関しても日本が前年同期比で0.7%程度の増加なのに対し、マレーシアは7.8%の増加にのぼっている。

 日本とマレーシアの成長率を単純比較できるわけではないが、マレーシアの経済も米中貿易戦争の影響を受けていたり、外国人労働者の増加で自国民の給料が上がりにくくなっていたり、様々なマイナス要因を抱えた中で健闘しているほうだと言える。消費税廃止に個人消費を増やす効果があるのは明らかで、マレーシアにできたことが日本にできないはずもないだろう。

 

 

外国人労働者とインバウンドに依存しない経済を目指すべき

 更に、れいわ新選組は現在8つの緊急政策を掲げているが、それに「移民受け入れ反対」を付け加えるべきだと思う。在留外国人数は2012年12月の203.4万人から2019年6月の282.9万人まで安倍政権の6年半で79.5万人も増加し、外国人労働者数は2012年の68.2万人から2019年の165.9万人まで7年間で97.7万人も増加している(図16を参照)。

 その影響もあって、1993年の29万8646人から2014年の5万9061人へと減少していた不法残留者数は2019年に7万9013人まで増加してしまった。技能実習生の失踪者数も2014年の4847人から2018年の9052人まで増加している。しかし、与党も野党もこの状況を全く憂慮せず、れいわ新選組も政府の移民受け入れ政策に対してまだまだ批判が弱いと感じる。

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 2019年12月2日に和歌山市で行われた街頭演説で19歳の若者から「外国人の生活保護を廃止したり、国費留学生制度の予算を日本人に回したりすれば国民の生活はもっと豊かになるのではないか」と質問された際に、山本氏は「日本人か外国人か国籍でわけて支援を行うかどうかを判断するのは危険なことだと思う」と回答した。こうした答え方も間違ってはいないが、外国人で生活保護を利用する方がいるのは企業が技能実習制度を悪用して低賃金で外国人労働者を雇っている実態があるからだろう。

 外国人の生活保護利用者を減らしたいのであれば、政府の移民受け入れ政策を制限して技能実習制度を廃止し、2019年の時点で166万人もいる外国人労働者数を20~30万人程度まで縮小すべきではないだろうか。

 

 また、安倍政権が外国人ビザを大幅に緩和してきた影響で、訪日外国人数も2012年の835.8万人から2019年の3188.2万人まで7年間で2300万人以上も増加し、そのうち中国人観光客が959.4万人と全体の約3割を占めている。図17では2003~2019年の中国人観光客の推移を示した。

 訪日外国人の増加は一見良いことのように感じるが、逆に海外へ出国する日本人の数は2012年の1849.1万人から2019年の2008.1万人まで7年間で159万人しか増加しておらず、長引くデフレ不況による日本人の旅行離れを尻目に政府は外国人観光客を呼び込んで日本国内の消費を回復させようと必死になっているのだ。

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 その上、政府があまりにもインバウンド(外国人観光客による日本国内での消費)に依存すると国際情勢に振り回されることにもなりかねない。2020年に入ってからは中国で新型コロナウイルスの流行が拡大し、1月31日の時点で感染者数は1万1859人、死者数は259人にものぼってしまった。日本国内でも感染者数は20人に増加していて、今後もこの数は増えていく可能性が高いだろう。

 中国政府は同月27日から国民の海外旅行を禁止し、日本でも新型コロナウイルスの感染者を入国拒否することを発表したが、インバウンドに依存した経済への影響を懸念して中国人の入国禁止まで踏み込むのに躊躇している。

 

 そのため、れいわ新選組衆院選に向けて消費税廃止で日本国民の消費を喚起させることに加え、外国人ビザの規制を強化して「インバウンドに依存しない経済」を目指すよう改めて政策を発表すべきではないだろうか。

 例えば、消費税を導入する以前の1980年代は訪日外国人数が300万人未満だったにも関わらず、1980~1989年の名目GDP成長率(平成2年基準)の平均は6.1%と、2010~2018年平均(平成23年基準)の1.2%より約5倍も高かった。インバウンドとして無理に外国人観光客を呼び込まなくても消費税廃止と財政出動で経済成長は可能なのだ。

 

 2020年2月上旬現在、衆議院の解散風は吹いていないが、安倍政権は野党がまとまっていないうちに解散総選挙を狙っていることは確実である。次の衆院選ではさすがにれいわ新選組が単独で政権交代を起こすことは難しいので、まずは20議席以上獲得するのを目指して自民党幹部に「消費税を5%に戻さないと政権を失う恐れがある」と危機感を抱かせることを目標にすべきではないだろうか。

 れいわ新選組は国民の生活を底上げするだけでなく、反グローバリズムの政策を掲げて戦後の一億総中流社会を取り戻す保守左派の政党を目指してほしい。

 

 

<参考資料>

山本太郎 「『政界の風雲児』本気の政策論文 『消費税ゼロ』で日本は甦る」(文藝春秋、2020年2月号)

 

2019年参議院比例代表:れいわ新選組得票率

https://todo-ran.com/t/kiji/24044

自由民主党得票率(直近10年平均)

https://todo-ran.com/t/kiji/18427

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.pdf

令和元年6月末現在における在留外国人数について

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00083.html

「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09109.html

本邦における不法残留者数について(令和元年7月1日現在)

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00084.html

失踪技能実習生数(49ページを参照)

http://www.moj.go.jp/content/001290906.pdf

山本太郎 街頭記者会見 和歌山市 2019年12月2日(32:31~)

https://www.youtube.com/watch?v=uwSmRZkU2Ug

国籍/月別 訪日外客数(2003年~2019年)

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_visitor_arrivals.pdf

2019年の日本人出国者数総計、初の2000万人突破

https://www.travelvoice.jp/20200117-144729

2019年-2020年中国武漢における肺炎の流行

https://ja.wikipedia.org/wiki/2019%E5%B9%B4-2020%E5%B9%B4%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%AD%A6%E6%BC%A2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%82%BA%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%B5%81%E8%A1%8C

消費税を廃止するためには経済成長の大切さを認識しよう

人口が減少している国でも経済成長は可能

 日本の消費税は1989年4月に税率3%で導入され、1997年4月に5%、2014年4月に8%、2019年10月に10%へと引き上げられ、増税するたびに景気を悪化させている。2019年10月の「実質家計消費」は前年比マイナス5.1%と、消費税が8%に増税された2014年4月の前年比マイナス4.6%よりも悪化し、中小企業の景況感を表す「中小企業DI」も2019年10~12月期はマイナス21.1と、マイナス20を下回ったのは8%増税時の2014年4~6月期以来(マイナス23.2)のことである。

 また、2019年11月には「景気動向指数(先行指数)」が90.9とリーマンショック真っ只中だった2009年11月の90.5に匹敵するほどまで落ち込んでしまった。

 

 しかし、日本では消費税の廃止を求めるデモがほとんど起こっておらず、香港やフランスのような反政府運動に発展する気配が全く感じられない。その理由は政治に無関心な人が多いだけでなく、「日本のような人口が減少する国ではもう経済成長できない」という勘違いが国民の間で広く共有されているからではないだろうか。

 例えば、財務官僚の森信茂樹氏は著書『消費税、常識のウソ』(朝日新聞出版、2012年)の中で「経済の成長は、基本的に労働人口の増加と生産性の向上によるものです。したがって、人口減少=経済成長の減速です。成熟した我が国の経済を考える場合、名目成長で4~5%を想定することはないものねだりと言えましょう」と述べている。

 こうした人口減少衰退論は森信氏だけでなく、私が様々な方と政治の話をしていて消費税増税の反対派でも「日本は人口が減少しているからもう経済成長できないよね」と言う人が多いように思う。

 

 だが、世界では日本より人口が減少している国はいくらでも存在し、1998~2018年の人口増加率はリトアニアがマイナス20.8%、ラトビアがマイナス20.2%、ウクライナがマイナス15.2%、ブルガリアがマイナス13.7%、ルーマニアがマイナス13.5%、ジョージアがマイナス13.1%、クロアチアがマイナス9.1%、アルバニアがマイナス8.3%、ベラルーシがマイナス5.6%、エストニアがマイナス5.0%なのに対し、日本はプラス0.1%とほとんど横ばいになっている(図11を参照)。

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 その一方で、1998~2018年の名目GDPの伸び率はウクライナが3354%、ルーマニアが2501%、ジョージアが818%、エストニアが512%、ラトビアが490%、ブルガリアが463%、アルバニアが423%、リトアニアが346%、クロアチアが236%と大なり小なり差があるものの、日本の104%よりもはるかに経済成長していることがわかる。

 更に、1998~2018年の政府総支出の伸び率はウクライナが3775%、ルーマニアが2321%、ジョージアが1238%、エストニアが510%、ラトビアが498%、ブルガリアが466%、アルバニアが336%、リトアニアが313%、クロアチアが224%なのに対し、日本は98%である(図12を参照)。

 ベラルーシは2001年以降のデータしか公表されていないが、それでも2001~2018年の名目GDPの伸び率は7068%、政府総支出の伸び率は6073%となっている。

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 諸外国と比べて日本だけが経済成長できないのは人口が減少しているからではなく、政府の公共投資を削減してきたからだということは「増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)」の中でも指摘したが、その他にも消費税が日本経済を蝕んでいるという現実があるのではないだろうか。

 過去60年間のGDPを見ると、昭和後期の1959~1988年では名目GDP成長率の平均が12.5%、実質GDP成長率の平均が6.8%と高かったのに対し、平成の1989~2018年では名目GDP成長率の平均が1.0%、実質GDP成長率の平均が1.2%と大幅に下落している。つまり、物品税の時代と比べて消費税を導入してからの30年間は名目では10分の1以下、実質では5分の1以下しか成長していないのだ(図13を参照)。

 「人口が減少する国ではもう経済成長できない」という通説は、「消費税のせいで日本は経済成長できない」という現実から目を逸らすために唱えられている部分もあるだろう。

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経済成長が人々の心を豊かにしている

 また、昔から言われている通説に、「物質的な豊かさを追求すると人々の心が貧しくなる」というものがある。

 古くは1970年代に論争を巻き起こし、大平内閣(1978~1980年)の「一般消費税構想」にも寄与した保守派知識人の集まりであるグループ一九八四年が、著書『日本の自殺』(PHP研究所、1976年)の中で「戦後日本の繁栄は、他方で人々の欲求不満とストレスを増大させ、日本人の精神状態を非常に不安定で無気力、無感動、無責任なものに変質させてしまった」と発言している。

 それから30年が経って、安倍首相も第一次政権のときに出版した著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で、「戦後の日本は経済を優先させることで、物質的に大きなものを得たが精神的には失ったものも大きかったのではないか」「自主憲法を制定しなかったことで損得が価値判断の重要な基準となり、家族の絆や生まれ育った地域への愛着、国に対する想いが軽視されるようになってしまった」と述べている。

 

 しかし、実際に戦後の名目GDPは1955年の8.4兆円(平成2年基準)から2018年の513.9兆円(平成17年基準)まで60倍以上も増加したのに対し、他殺による死亡者数は1955年の2119人から2018年の272人まで減少している。つまり、戦後の経済成長は殺人事件の件数を減らし、人々の心を豊かにしたというのが事実なのだ(図14を参照)。

 最近では、「家族間殺人が増加している」という報道をよく目にするが、増えているのはあくまでも殺人事件全体に占める割合であって、未遂を含めた家族間殺人の件数は2008年の558件から2018年の418件まで減少しているのである。

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 更に、作家の曽野綾子氏は自伝本『この世に恋して』(ワック、2012年)の中で「今、日本人はお坊ちゃま、お嬢ちゃまの集団になっています。貧困の中で生きるアフリカの人々のほうが、物質的に恵まれた社会に暮らす私たちよりも人間として豊かなのかもしれません」と経済成長を真っ向から否定した主張をしている。

 彼女は2013年に安倍政権が発足した教育再生実行会議の有識者メンバーに選任されたことから、2018年度から始まった道徳の教科化に関しても「今の子供たちは物質的に豊かになって甘やかされているから道徳教育の強化が必要」という俗流若者論が背景に存在することは確実だろう。

 

 だが、2019年に国連が発表した世界の幸福度ランキングを見ると1~5位はフィンランドデンマークノルウェーアイスランド、オランダと福祉や教育が充実している欧州の国々が上位に並び、6位のスイスも一人当たりの名目GDPランキングがルクセンブルクに次いで第2位だ。7~10位のスウェーデンニュージーランド、カナダ、オーストリアも1998~2018年の20年間で名目GDPが2倍近く成長している国々である(表1を参照)。

 その一方で、ランキング下位には南スーダン中央アフリカ共和国アフガニスタンなど物質的に貧しく戦争や紛争が絶えない発展途上国が並んでいて、「アフリカの国々のほうが人間として豊か」という曽野綾子氏の主張は全くのデタラメだろう。ちなみに、日本の幸福度ランキングは58位と高くないが、これも1998年から20年以上デフレ不況が続いて経済成長していないことが原因だと考えられる。

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 しかし、一体どれほどの日本人が「戦後の経済成長によって人々の心が豊かになり、治安も大幅に改善した」という事実を共有しているだろうか。例えば、2017年2月にSF作家の山本弘氏が大阪府箕面市の中学生に実施したアンケート調査では『50年前に比べて、日本の少年犯罪は大幅に増えている』という質問に「信じている」「やや信じている」と回答した生徒は合わせて57.4%にものぼったのに対し、「信じない」「やや疑っている」と回答した生徒は合わせて10.1%しかいなかったという。

 実際に、未成年の検挙人数は1983年の26万1634人から2018年の3万458人(少年人口比では10万人当たり1413.5人から269.6人)まで減少したにも関わらず、長年マスコミが「日本の治安は悪化している」というデマを流し続けている影響で、少年犯罪が凶悪化していると勘違いする中学生が多いのかもしれない。

 

 この誤解を解くためには、中学や高校の授業で前述の図14のグラフを提示して「経済成長が人々の心を豊かにしている」という事実を教えるべきではないだろうか。学校教育では常に政治的中立性が議論の対象となっているが、日本の治安が大幅に改善したという事実を教えることに全く問題はないだろう。消費税を廃止する世論を盛り上げるためには、経済成長の大切さを国民に広く共有してもらう必要があると言える。

 

 

<参考資料>

アベ・ショックが始まった(前編)

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12555242525.html

中小企業庁 中小企業景況調査報告書

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keikyo/index.htm

統計表一覧 景気動向指数 結果

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html

図録 他殺による死亡者数の推移

https://honkawa2.sakura.ne.jp/2776.html

平成30年の刑法犯に関する統計資料

https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/H30/h30keihouhantoukeisiryou.pdf

世界幸福度ランキング2019

https://yorozu-do.com/happiness-ranking/

中学生の6割は「月は西からのぼる」と信じている。(2)

http://hirorin.otaden.jp/e439925.html

犯罪白書 令和元年版 少年による刑法犯

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_2_2_1_1.html

安倍政権の消費税増税を容認する高橋洋一氏に対する批判

安倍政権を擁護するために意図的なデマを流す高橋氏

 前回前々回のブログでは消費税増税に賛成するリベラル派の井手英策氏を批判してきたが、逆に安倍政権下の増税を容認する右派の経済学者に高橋洋一氏がいる。彼は財務省出身として初めて国の資産と負債を表したバランスシートを作成した人物で、野田前政権に対しては「財務省の傀儡政権で、大増税内閣である」と厳しく批判していた。しかし、安倍政権になってからは大きく変節し、意図的なデマを流すようになったと思う。

 

 経済素人でもわかる高橋氏の代表的なデマは「民主党政権が年間自殺者を安倍政権より3000人以上も増やした」というものである。実際のところ自殺者は民主党政権でも2009年の30707人から2012年の26433人まで減少していて、第一次安倍政権だった2007年でも30827人と民主党政権よりも多かったのだ。一般的に自殺は女性より男性に多いと言われているが、過去30年間の男性の自殺死亡率と完全失業率の推移を見ると1998年に自殺率が悪化し、2010年から失業率の低下と共に自殺率が改善しているのがわかるだろう(図7を参照)。

 本当に自殺者を増やしたのは消費税5%増税などの緊縮財政を断行した1996~98年の橋本政権で、安倍政権が経済政策によって自殺者を減らしたことを評価するなら、「民主党政権でも年間自殺者は減少していた」と言わなければならない。

 

 だが、高橋氏は「消費税増税は野田前総理が決めたこと。ただでさえ政権与党時代に経済を立て直せなかった民主党が、自ら行った増税決定のせいで進まない経済回復を批判するというのはブーメランになってしまう」と述べていて、安倍政権で自殺者が減ったのは良くて、民主党政権で自殺者が減ったのは認めないというのが本音のようだ。ちなみに、最終的に消費税8%増税を決定したのは野田前首相ではなく2013年10月1日の安倍首相で、消費税10%増税を決定したのも2016年6月1日の安倍首相である。

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 また、高橋氏は安倍政権が強行した消費税10%への増税について「2019年4月30日に平成が終わると新時代の門出で消費増税になる公算が大きい」と述べていた。つまり、現在の彼は完全に消費税増税を容認してしまっているのだ。高橋氏は10%増税の対策について「食料品や新聞に限定されている軽減税率の対象を全ての品目に拡大すべき」と言っているが、増税から3ヵ月以上が経ってもそうした議論は一切行われていないどころか、IMFが「2030年までに消費税を15%に引き上げろ」と要求しても日本政府の関係者が誰一人として批判しない異常事態になっている。

 

 更に、彼は増税に向けた景気対策について「2019年度予算で積極財政策を取り、同時に一層の金融緩和を行うことによって景気をデフレ脱却どころか加熱気味にする必要がある」と述べていたが、安倍政権が公的固定資本形成(政府の公共投資)を増やしていたのは2012年10-12月期の24.1兆円から2013年10-12月期の27.1兆円までの最初の1年だけであって、その後は2019年7-9月期の26.9兆円と横ばいの状態が続いている。アベノミクス第二の矢である「機動的な財政出動」は全く放たれておらず、2025年のプライマリーバランス黒字化目標を破棄しない限り、積極財政を取ることは難しいのである。

 

 また、日銀が世の中に供給しているお金の量を表すマネタリーベースは2012年12月から2019年11月までに388.1兆円も増加したが、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2019年11月に前年比0.5%程度と、消費税増税の影響を含めても年率2%のインフレ目標には達していない(図8を参照)。安倍政権はデフレ脱却どころか景気後退局面で消費税10%への増税を強行してしまったのだ。

 金融緩和を行えば日本はデフレ脱却できると主張していた高橋氏は、自身の間違いについて謝罪すべきではないだろうか。

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減税研究会の講師に高橋氏を呼んだのは間違いだった

 更に、今年1月8日に発表された2019年11月の実質賃金は「現金給与総額」が前年比マイナス0.9%、「きまって支給する給与」が前年比マイナス0.5%だった。10月から始まった幼児教育無償化の影響で教育費の物価が下がり、消費税を8%に増税した2014年4月の「きまって支給する給与」が前年比マイナス4.1%には及ばなかったものの、これで消費税増税による実質賃金の低下が安倍政権で2回も繰り返されたことになる。図9では2011年11月から2019年11月までの「きまって支給する給与」の推移を示した。

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 しかし、実質賃金の低下について「就業者数が増えたことによる成果」だと言ってはばからないのが高橋洋一氏だ。彼は2019年1月に発覚した毎月勤労統計調査の不正問題でも「人手不足がさらに進み、経済成長が本格化するときに実質賃金が上昇するから問題ない」と的外れな言い訳に終始していた。

 だが、実際に「就業者数と実質賃金指数の推移」を見ると消費税が3%だった1990~96年は就業者数も実質賃金も上昇していたのに対し、5%に増税された1997年から共に下落が始まり、8%増税後の2014年以降は「就業者数が増加したにも関わらず実質賃金が減少する」という状況が発生している(図10を参照)。実質賃金が低下したのは消費税増税が原因であって、高橋氏のような「実質賃金の低下は問題ない」と擁護する経済評論家は全員、増税賛成派だと断定しても構わないだろう。

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 2019年11月28日、れいわ新選組山本太郎代表と野党統一会派に参加する馬淵澄夫議員が開催する「消費税減税研究会」の講師に高橋洋一氏が招かれた。これに対して、立憲民主党の石垣のり子議員が「レイシズムファシズムに加担するような人物を講師に呼ぶ研究会には参加できません」と厳しく批判したことが物議を醸している。

 石垣氏も「なぜ高橋洋一ファシズムなのか?」という説明が足りなかったが、残念ながら彼はそう批判されても仕方ない発言を繰り返しているのが現実だ。その代表的なのは2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件について「韓国では全く報道されていない」とデマを流していたことである。

 

 実際にはKBSや朝鮮日報が事件を報道していたのはもちろんのこと、駐日韓国大使館・韓国文化院もツイッターで「京都アニメーションスタジオ防火事件(原文ママ)により、多くの人命被害が発生したことに対し、謹んでお見舞いの言葉を申し上げます」と哀悼の意を示しており、30人以上もの死者を出した事件で韓国批判に終始していた高橋氏は言論人として非常に恥ずかしいように思う。

 私は今まで何冊も高橋氏の著書を読んでいるが、第二次安倍政権が発足する2012年以前は財政破綻論を否定したり消費税増税を批判したりする主張が中心で、日韓問題についてはほとんど言及していなかった。彼が安倍政権になってから韓国批判を始めたのは、消費税増税による景気悪化から目を逸らす目的もあるのではないだろうか。

 

 また、前述の通り現在の高橋氏は消費税増税を容認していて、いくら専門性があるとは言っても消費税の廃止を目指す山本太郎氏の「減税研究会」には相応しくない人物だったと思う。

 立憲民主党は2019年10月25日に他党や他会派が主催する勉強会へ参加する際に党の許可を取ることを通達し、山本氏が立ち上げた「減税研究会」への参加を抑制したが、消費税増税を容認する高橋洋一氏を講師に呼んだことでますます野党議員が「減税研究会」に参加しづらくなってしまったのではないだろうか。私はれいわ新選組を支持しているが、今回に限って山本太郎氏の判断は間違っていたように感じる。

 財政破綻論を煽って消費税増税を推進する財務省も許せないが、それ以上に安倍政権の増税を容認する経済評論家も罪深いだろう。

 

 

<参考資料>

高橋洋一財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社、2011年)

     『数字・データ・統計的に正しい日本の針路』(講談社、2016年)

     『これが世界と日本経済の真実だ』(悟空出版、2016年)

     『米中貿易戦争で日本は果実を得る』(悟空出版、2018年)

     『この数字がわかるだけで日本の未来が読める』(KADOKAWA、2019年)

 

人口動態調査 e-Stat 政府統計の総合窓口

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450011&tstat=000001028897

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

日本の消費税、2030年までに15%に IMFが報告書

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52565870V21C19A1EA1000/

国民経済計算 2019年7-9月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe193_2/gdemenuja.html

マネタリーベース : 日本銀行 Bank of Japan

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/index.htm/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

毎月勤労統計調査 令和元年11月分結果速報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r01/0111p/0111p.html

実質賃金があぶりだす「アベノミクスの正しさ」

https://www.j-cast.com/2019/02/14350345.html?p=all

立民・石垣氏が山本太郎氏の減税研究会を欠席

https://www.sankei.com/politics/news/191128/plt1911280035-n1.html

高橋洋一京アニ放火事件を韓国ヘイトデマに利用した

http://datsuaikokukarutonosusume.blog.jp/archives/1075271035.html

増税賛成派の井手英策氏に反論する(後編)

この記事は「増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)」の続編です。

 

国債の発行は日本がデフレを脱却するために必要な政策

 前編では井手英策氏の「主要先進国は経済成長率が低い」「90年代に公共投資を行っても経済成長しなかった」という主張に反論してきたが、彼の嘘はそれだけではない。『幸福の増税論』の中で「僕は財政破綻の恐怖を煽り、人々をおののかせることで増税をせまる財政再建至上主義者ではない」と言っているが、井手氏の他の論文を読めば財務省財政破綻論に洗脳されていることは明らかだろう。

 

 例えば、小沢一郎氏と対談した2019年5月号の中央公論では「日本の財政は破綻しないから、国債をどんどん使うべきだという反緊縮論者がいます。でも、子供たちに膨大な借金とバラマキのシステムを残し、危機が訪れたときにごめんねと謝れば済むのでしょうか」と発言している。つまり、井手氏は国債発行について家計における借金と同一視し、社会保障を充実させる財源は「税金」しかないと勘違いしているようだ。

 しかし、会社においては社債や銀行からの借金は普通に行われていて、会社の多くは社債や融資がなければ新しい投資も研究開発もできなくなる。国債の発行は家計の借金とは異なり、資本主義社会においては至って当たり前に行われているのだ。また、1980~2016年度の「日本の政府と民間の収支バランス」を見ると政府の赤字と民間の黒字が逆の相関になっており、政府が国債を発行して赤字を増やせば、民間の黒字も増加することが明らかである(図5を参照)。

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図5 日本の政府と民間の収支バランス

 

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図6 日本政府の負債残高(左軸、億円)とGDP比率(右軸、%)

 

 また、一般的に財務省が言う国の借金とは「政府の負債」のことで、国民が政府にお金を貸している立場なのである。その上、2013年以降は日銀が金融緩和を行って民間銀行の国債を買い取り、国民に返す必要のある負債は急速に減少しつつある(図6を参照)。2019年6月現在、すでに日本国債の46.5%は政府の子会社である日銀が保有していて、このぶんは政府が返済や利払いを行う必要がないからだ。

 だから、もしリーマンショックのような金融危機が発生して法人税収や所得税収が減った場合、消費税を増税するのではなく国債を発行して社会保障の財源を調達すればいいだろう。国債を躊躇なく発行すれば、それによって国債発行総額が短期的に増加する可能性があったとしても、財政出動による経済効果で成長率が上がり、自然増収が毎年どんどん増えていくのである。

 実際に、『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』の図92にも示した通り、1980年代以降の名目GDP成長率とプライマリーバランスには相関関係があることが確認され、消費税を廃止してもデフレを脱却すれば自然にプライマリーバランスは改善していくのだ。

 

 だが、当然のことながら政府は無限に国債を発行していいわけではなく、インフレ率の調整という部分も大切になってくる。インフレ率は日銀が目標に定めているように、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)が年率2%に達することが一つの目安となるだろう。年率が2%を超えるようなインフレが達成された場合、間違いなく法人税収と所得税収が増加し、国債を発行しなくても税金だけで社会保障費を賄うことが可能になるのである。

 消費税増税に賛成する経済学者は、「日銀が国債を買い支えるとハイパーインフレが起こって日本が破綻する」と言うが、2012年12月から2019年9月まで日銀が381.4兆円もマネタリーベースを増やしたにも関わらず、2019年9月のコアコアCPIは前年比0.3%とインフレすらほとんど発生していない。

 

 ちなみに、ハイパーインフレとは年率1万3000%を超える激しい物価上昇のことで、今年100円だった商品が翌年130万円にまで値上がりする極端なインフレである。歴史的にハイパーインフレが発生した国は第一次世界大戦後のドイツと第二次世界大戦後のハンガリー、21世紀初頭のジンバブエの3つのみで、どのケースも戦争や革命、独裁者の暴挙によって国内の生産設備が壊滅的な被害を受けたことが背景になっている。

 日本のように20年以上デフレが続き、国債の100%が自国通貨建ての国で政府が国債を発行したり、日銀が金融緩和を行ったりするくらいではハイパーインフレが発生するはずもないだろう。国債の発行は子孫に借金を残すどころか、日本がデフレを脱却するために必要な政策なのである。

 

 

野党が選挙で勝てないのは緊縮財政を推進しているから

 更に、井手氏は前述の中央公論の中で「野党には消費税増税に強硬に反対する人がいる。でも、消費税をやめると言っても前回の衆院選では勝てなかった」と言っているが、これも嘘である。

 まず、2017年の衆院選議席の変動数を見ると与党の自民党が0議席と変わらず、公明党が5議席減らしたため、安倍政権にとって決して快勝だった選挙ではないことを前提にしなければならない。野党では立憲民主党が40議席増やした一方で、日本共産党が9議席減らし、希望の党が7議席減らし、日本維新の会が3議席減らし、社民党が0議席と変わらなかった。

 

 確かに同選挙で野党が消費税増税反対を公約に掲げていたことは事実だが、その一方で日本共産党は防衛費の削減を推進し、希望の党は公共事業の削減を推進し、日本維新の会は公務員給与の削減を推進するなど、緊縮財政にとらわれた政党が議席を減らした側面もある。特に、同選挙では北朝鮮のミサイル発射の問題も争点の一つとなっていて、日本共産党は「憲法を守るが、軍事費は増やすべき」と言わなければ勝ち目がなかったように思う。

 それに対し、議席を大幅に増やした立憲民主党長時間労働の規制、最低賃金の引き上げ、保育士・介護職員の待遇改善、正社員の雇用を増やす企業への支援、児童手当・高校等授業料無償化ともに所得制限の廃止、所得税相続税、金融課税をはじめ再分配機能の強化など、「消費税廃止」を除けばれいわ新選組と変わらない反緊縮的な政策を掲げていたことを知らない人は多いだろう。つまり、2017年の衆院選は国民の所得を引き上げる政策を提示した野党と、歳出削減を主張した野党の明暗をわけた選挙でもあったのだ。

 

 また、2019年の参院選では意外だと思われるかもしれないが、与党の自民党は9議席も減らして勝利したとは言えない結果となっている。それでも敗北するまでに至らなかったのは連立を組んでいる公明党が3議席増やしたからだが、これが自民党の単独政権だったらとっくに安倍政権は退陣していただろう。

 例えば、公明党と連立を組む前の1998年の参院選では消費税5%増税後の景気悪化に批判が高まって自民党が8議席減らし、当時の橋本政権は総辞職している。90年代の自民党から見れば9議席減らした2019年の参院選は「敗北」であり、本来なら安倍首相は消費税8%増税後に景気を悪化させた責任を取らなければならない立場である。

 しかし、参院選議席を減らしたにも関わらず安倍政権の退陣論が浮上しないのは、自民党そのものが弱体化して「私が総理大臣をやりたい」という意欲のある政治家が一人も存在しないからである。自民党の中にも安藤裕議員など一部では消費税増税に反対する議員もいるが、彼らが「消費税廃止」を掲げて総裁選に出馬しない限り、本音としては増税を容認していると批判されても仕方がないだろう。

 

 その一方で、野党は「消費税廃止」を掲げたれいわ新選組が設立から3ヵ月しか経っていないにも関わらず2議席を獲得する結果となっている。参院選におけるれいわ新選組の報道は現在と違って批判的なものが多く、2019年5月18日放送の『胸いっぱいサミット』の中では「消費税廃止」や「政府が補償して最低賃金を1500円に引き上げ」などの政策について、千原せいじ氏が「そんなの無理じゃないですか」と発言し、岸博幸氏が「政治家の中で一番許しがたい」とこき下ろしている。こうしたマスコミのネガティブキャンペーンにも負けず、参院選後に政党要件を満たして諸派から国政政党となったことは大きいのではないだろうか。

 ちなみに、れいわ新選組は2019年の参院選比例代表で228.0万票獲得したのに対し、立憲民主党比例代表の得票数を2017年の衆院選の1108.5万票から2019年の参院選の791.8万票まで減らしてしまう。このことから、2017年の衆院選だけでなく2019年の参院選も消費税廃止を掲げた野党と、それに批判的だった野党の明暗をわけた選挙だったことになる。つまり、野党が選挙で勝てないのは井手氏が言うように消費税増税に反対しているからではなく、むしろ公共事業や軍事費を否定して緊縮財政を推進しているからだろう。

 

 2019年10月30日、れいわ新選組山本太郎元議員と野党統一会派に参加する馬淵澄夫国交相が消費税5%への引き下げを求める「消費税減税研究会」の初会合を開いた。しかし、現職の国会議員の参加者22人のうち、立憲民主党は山本氏の消費税廃止論に同調する石垣のりこ議員など3人に留まり、逢坂誠二政務調査会長蓮舫参院幹事長から「行くな圧力が掛かっている」と証言する議員も少なくないという。立憲民主党が消費税引き下げを求める会合への参加に圧力を掛ける理由は、経済ブレーンに井手英策氏などの増税賛成派を迎えていることも原因の一つではないだろうか。

 筆者は井手氏について社会保障の充実を推進するリベラルではなく、むしろ経団連の奴隷になって消費税率を15~20%まで引き上げようとする安倍政権の手先だと思っている。野党に求められるのは高負担社会でも経済成長の否定でもなく、消費税を廃止して国民の所得を引き上げる政策を提示することだろう。

 

 

<参考資料>

井手英策 『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波書店、2018年)

小沢一郎、井手英策 「国民生活を守るための社会保障増税の時機 ドブ板も厭わぬ覚悟で挑め 政権を勝ち取る野党共闘構想」 『中央公論』(中央公論新社、2019年5月号)

藤井聡 『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社、2018年)

三橋貴明財務省が日本を滅ぼす』(小学館、2017年)

     『世界でいちばん!日本経済の実力』(海竜社、2011年)

 

日本の政府と民間の収支バランス

https://twitter.com/key_tracker/status/1156819116973408261

三橋貴明】「国の借金」プロパガンダを打破せよ!

https://38news.jp/economy/12281

国債等の保有者別内訳

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

マネタリーベース 時系列データ・注釈等

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/index.htm/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

第48回(2017年)衆議院議員総選挙

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC48%E5%9B%9E%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E7%B7%8F%E9%81%B8%E6%8C%99

第25回(2019年)参議院議員通常選挙

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC25%E5%9B%9E%E5%8F%82%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%80%9A%E5%B8%B8%E9%81%B8%E6%8C%99

枝野幸男 国民との約束

https://www.edano.gr.jp/manifesto.html

【有害番組】「平成のダメ政治家ランク」に山本太郎議員

https://yuruneto.com/dameseijika/

れいわの勢力拡大に怯える立民 「消費税減税研究会」への参加警戒

https://www.sankei.com/politics/news/191030/plt1910300024-n1.html

立民が“圧力” れいわ山本代表「消費税減税」会合に行くな

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/263910

 

増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)

主要先進国の中で日本だけが経済成長していない

 消費税増税に賛成しているリベラル派の経済学者に井手英策氏がいる。彼は社会保障の充実を推進する一方で、公共投資や経済成長を否定していて「消費税を増税して景気が悪化しても、社会保障が充実すれば国民は納得するだろう」という考え方らしい。若手経済学者の池戸万作氏は経済成長を否定して、北欧の高負担社会を目指す層を「緊縮リベラル派」と表現しているが、井手氏はその代表的な人物だと言えるかもしれない。

 井手氏が2018年11月に出版した『幸福の増税論 財政はだれのために』を読んでみても、安倍政権が進めているアベノミクスについて「経済を成長させ、所得と貯蓄の増大を目指す路線の雲行きは怪しい」と述べている。しかし、安倍政権が経済成長を重視しているというのは全くの嘘である。なぜなら、2025年のプライマリーバランス黒字化目標のために、憲政史上初めて在任中に消費税率を倍に引き上げたからだ。安倍政権は積極財政どころか「戦後最悪の緊縮財政内閣」と表現しても過言ではないだろう。

 

 また、井手氏は前掲書の中で「先進国は1960年代をピークとして経済成長率がかなり低いところに収縮してきている」と言っているが、主要先進国の1997~2017年の名目GDPの伸び率はカナダが236%、アメリカが228%、スウェーデンが227%、イギリスが216%、デンマークが190%である(図1を参照)。消費税の安いカナダでも、消費税の高いスウェーデンデンマークでも、1980年代から新自由主義を推進してきたアメリカやイギリスでも、経済が停滞しているどころか政府の財政出動によって20年間で2倍近くも名目GDPが増加しているのだ。

 それに対し、日本の名目GDPの伸び率は20年間で102%と全く経済成長していない。日本の名目GDPが増えないのは、このブログで何度も指摘した通り緊縮財政のせいである。

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 更に、井手氏は「90年代に減税と公共投資に明け暮れ、空前の政府債務を生み出したにも関わらず、かつてのような経済成長を実現できなかった」と言っているが、これも嘘である。政府が行う社会資本整備などの投資の額を表した「公的固定資本形成」が戦後のピークだったのは1996年の46.7兆円で、当時の「一人当たりの名目GDPランキング」は日本が3位だった。小渕政権が公共事業関係費を増やして一時的に景気回復していた2000年でもランキングは2位を維持している(図2を参照)。

 

 しかし、2018年の公的固定資本形成は25.2兆円まで削減され、一人当たりの名目GDPランキングは26位へと下落してしまった。つまり、日本の90年代はバブル崩壊と言われながらも政府の公共投資によってかろうじて経済成長していた時代で、本格的に日本経済が衰退したのは2001年の小泉政権が緊縮財政を始めてからなのだ。

 井手氏は90年代の公共投資が「国際的に見て突出した地位にあったことは疑いようのない事実である」と述べているが、地震や台風などの自然災害が頻発する日本で公共投資を削減するのは、「国家的自殺」としか呼びようのない状況ではないだろうか。

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消費税増税のせいで家計最終消費支出が落ち込んだ

 また、井手氏は消費税を8%に増税した2014年4月以降の個人消費の落ち込みについて、増税ではなく2015年6月のチャイナ・ショック(中国株の大暴落)が原因だと主張している。だが、名目GDP成長率を見ると中国は2015年の7.0%から2017年の10.9%まで回復しているのに対し、日本は2015年の3.4%から2017年の1.7%まで下落した。日本経済が停滞しているのは中国のせいではなく、消費税を増税して公共投資を削減してきたからだろう。

 消費税増税による景気悪化を他国のせいにするのは増税賛成派の常套手段で、消費税5%増税のときも当初は1998年6月22日に経済企画庁が、景気が拡張局面から後退局面に移る転換点の「山」を1997年3月と判定し、景気後退が消費税を5%に引き上げた同年4月から始まっていたことを認めたが、麻生政権が消費税10%増税を言い出した2008年頃から「1997年の景気後退は消費税増税ではなくアジア通貨危機が原因」だとするミスリードが行われた。

 

 しかし、1982年以降の「名目家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」の前年からの増加量を示した図3を見ると1997年までは基本的に消費がプラス成長していたのに対し、1997年以降は一気に増加量がゼロ付近をうろつく状況が続いている。つまり、1997年までは着実に成長していた消費が5%増税によって一向に伸びなくなり、むしろ縮小していく傾向となったのである。このことから1997年以降のデフレ不況はアジア通貨危機ではなく、消費税増税が原因だというのがわかるのではないだろうか。

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 更に、井手氏は中央公論2018年1月号の中で「日本の左派が勘違いしているポイントがあって、消費税は貧しい人に重たい税だということを皆さんおっしゃるわけですよね。でも重要な事実を見逃していて、どう考えても貧乏な人よりも金持ちのほうが消費税をたくさん払っていますよね」と言っているが、これも国民経済計算のデータを見ると嘘であることがわかる。

 日本で100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する富裕層は2006年の147万人から2018年の315万人まで2.14倍も増加したのに対して、消費税増税による物価上昇の影響を除いた「実質家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」は2006年の230.7兆円から2018年の237.9兆円までたったの1.03倍しか増加していない(図4を参照)。

 仮に日本の富裕層が資産の全てを消費に回している場合、家計最終消費支出が富裕層人口と並行して増加してもいいはずだが、実際には富裕層の多くが消費ではなく貯蓄に励んでいるからこそ個人消費がほとんど伸びないのだろう。

 

 日経新聞が2016年2月に公表したデータによれば、消費税が10%に増税されると「年収に占める消費税負担の割合」は年収1500万円以上の世帯では2.0%程度なのに対し、年収200万円未満の世帯では8.9%にものぼると予測している。年収200万円未満と年収1500万円以上で消費税負担の割合が4倍以上も開いていることから、消費税増税低所得者により負担が重いのが現実なのである。

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<参考資料>

井手英策 『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波書店、2018年)

     『日本財政 転換の指針』(岩波書店、2013年)

五木寛之、井手英策 「異色対談 85歳の作家が気鋭の財政学者に訊く 日本は本当に貧しくなったのか」 『中央公論』(中央公論新社、2018年1月号)

三橋貴明 『学校では絶対に教えてくれない 僕たちの国家』(TAC出版、2014年)

林直道 『日本経済をどう見るか』(青木書店、1998年)

藤井聡 『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社、2018年)

 

三橋TV第133回【謎の「緊縮リベラル派」を解体しよう】

https://www.youtube.com/watch?v=JLwVMGI1K4M

国民経済計算 2019年4-6月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe192_2/gdemenuja.html

世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング

https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

Nominal GDP forecast(名目GDP成長率予測)

https://data.oecd.org/gdp/nominal-gdp-forecast.htm

World Wealth Report 2019

https://worldwealthreport.com/wp-content/uploads/sites/7/2019/07/World-Wealth-Report-2019-1.pdf

年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は

https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/

 

増税賛成派の井手英策氏に反論する(後編)」に続きます。

軽減税率よりも消費税を廃止して景気対策を行うべき

緊縮財政を続けている日本で軽減税率は景気対策にならない

 2019年10月から消費税が10%に増税されたのと同時に、酒類と外食を除いた飲食料品に8%の軽減税率が導入された。それによりテイクアウトの食品は税率が変わらないため、増税されても影響が少ないと安心しきっている人が多いのではないだろうか。

 しかし、食品に8%の消費税というのは国際的に見ても高いのが現実である。例えば、財務省のデータによれば「国税収入に占める消費税収の割合」は日本が29.2%なのに対し、イギリスは25.8%、イタリアは27.3%だ。付加価値税が20%のイギリスと22%のイタリアで割合が日本と変わらないのは、イギリスでは食品が非課税で、イタリアでは紅茶やパスタなど生活必需品の軽減税率が4%と安いからだろう。また、菊池英博氏の試算によれば付加価値税が25%のスウェーデンは「国税収入に占める消費税収の割合」が18.5%で、日本より大幅に安くなっている(表13を参照)。

 更に、消費課税に含まれる関税やとん税(外国貿易船の入港に対して課される租税)等を加えると、「国税収入に占める消費課税の割合」は40.8%で、日本はフランスの次に消費税が高い国という見方もできるのだ。

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 それでも消費税増税の賛成派は、北欧などの「高負担・高福祉」の国々では付加価値税が20%を超えていると言うかもしれない。確かに、「消費税の高い国ランキング」を見るとハンガリーは27%、ノルウェークロアチアスウェーデンデンマークは25%、アイスランドフィンランドギリシャは24%となっている。

 だが、こうした付加価値税の高い国々は日本よりはるかに公共事業や社会保障支出を増やしていて、1998~2018年の政府総支出の伸び率はアイスランドが477%、ハンガリーが369%、ノルウェーが307%、クロアチアが236%、フィンランドが201%、スウェーデンが196%、デンマークが174%、ギリシャが153%と大幅に増加したのに対し、日本は98%とやや縮小している。日本では消費税を増税して社会保障に使うどころか歳出削減が進められてきたのだ(図98を参照)。

 

 その影響で1998~2018年の名目GDPの伸び率もアイスランドが467%、ハンガリーが402%、ノルウェーが304%、クロアチアが236%、スウェーデンが228%、フィンランドが193%、デンマークが187%、ギリシャが147%なのに対し、日本は104%と付加価値税が高い国々と比較しても経済成長していないことがわかる。日本の2018年の名目GDPは548.9兆円だが、もし日本が「高負担・高福祉」の国を目指すのであれば、国債発行と財政出動によって20年後の2038年までに名目GDPを1000兆円(2018年の1.82倍)以上に増やしてから、消費税増税の議論を始めるべきではないだろうか。

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正しく消費税増税を批判するためにも新聞に軽減税率は不要

 今回の消費税10%増税にあたって最も軽減税率を推進していたのが公明党である。しかし、公明党はかつて消費税そのものに反対していたことをどれだけの人が知っているだろうか?

 例えば、1986年12月に中曽根政権が選挙公約に違反して後の消費税につながる「売上税」を導入しようとしたが、当時の公明党矢野絢也委員長は売上税への反対意見を表明し、支持母体である創価学会池田大作名誉会長も売上税について「これほどの公約違反はない」と批判していた。

 

 しかし、それから30年が経って今の公明党幹事長である斉藤鉄夫氏は2016年1月の週刊東洋経済で軽減税率について「将来、消費税率は13~15%、ひょっとすると欧州のように20%になっているかもしれない。そのときでも食べ物は8%に据え置かれ、初めて軽減税率の意味が出てくる」と発言している。つまり、今の公明党は「軽減税率を導入する代わりに消費税を20%まで上げろ」と言っていて、自民党以上に増税賛成の立場になっているのだ。

 ちなみに、2016年当時斉藤氏は公明党税制調査会長だったが、2018年に幹事長に就任していて、財務省にすり寄って出世したのではないかと思ってしまう。

 

 また、今回の軽減税率では食品以外にも、定期購読を契約した週2回以上発行される新聞も対象になっている。新聞に軽減税率が適用されたのは「知識に課税せず」という日本新聞協会からの要望があったのだろうが、それなら何故書籍や雑誌にも軽減税率が適用されないのだろうか。

 私が消費税増税の問題を調べるにあたって引用しているのはほとんどが書籍で、新聞に軽減税率が適用されて書籍に軽減税率が適用されないのは、厳しく言えば「愚民化政策」の一つではないかと思っている。新聞の多くは紙面で消費税増税を煽っていて、最近だと特に酷かったのは2019年9月21日に日経新聞が「ニンジンの皮もおいしく! 増税に勝つ食べ切り術」という見出しで消費税10%増税に備えて読者に節約を強要していた記事である。

 

 日経新聞は「経済新聞」を謳っているのに、国民全体が節約に走って個人消費を減らしたら、国民経済計算の「民間最終消費支出」が減少してGDPも縮小するという経済の基礎すらわかっていないのかと呆れてしまう。それに対し、新聞の中で最も消費税増税に批判的な報道をしているのは、『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』の図87にもあるように「消費税収と法人三税の減収額の推移」のグラフを掲載した日本共産党の機関紙であるしんぶん赤旗だ。

 つまり、日本共産党の支持者でないと新聞で消費税増税を批判する記事を目にすることがほとんどないということでもある。

 

 その上、NHK放送文化研究所の調査によれば、平日に新聞(電子版も含む)を読む人は国民全体で1995年の52%から2015年の33%まで減少し、20代に限れば男性は32%から8%、女性は32%から3%に減っている。新聞は現代において食料と同様の「生活必需品」とは言い難いのだ。実際に、2015年12月にYahoo! JAPANが実施した意識調査によれば、新聞にも軽減税率を適用すべきか否かを尋ねて回答を得た約19万票のうち、「すべき」は21.1%だけで「すべきでない」が78.9%にも達した。

 筆者はむしろ正しく消費税増税を批判してもらうためにも、新聞に軽減税率は不要ではないかと思っている。軽減税率という小手先の景気対策を行うくらいなら、消費税そのものを廃止すべきだろう。

 

 

<参考資料>

菊池英博 「政府投資が日本経済を成長させる」 『別冊クライテリオン』(啓文社書房、2018年12月号)

平野貞夫 『消費税国会の攻防 一九八七―八八 平野貞夫 衆議院事務局日記』(千倉書房、2012年)

斎藤貴男 『国民のしつけ方』(集英社インターナショナル、2017年)

 

消費課税(国税)の概要(税目ごとの税収等)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d01.htm

主要国の付加価値税の概要

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.pdf

税制 イタリア 欧州 国・地域別に見る

https://www.jetro.go.jp/world/europe/it/invest_04.html

財政金融統計月報第793号

https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g793/793.htm

世界の消費税が高い国/低い国ランキング

https://www.keigenzeiritsu.info/article/20672

日経「人参の皮も美味しく!増税に勝つ食べ切り術」に批判殺到

https://yuruneto.com/nikkei-ninjin/

2015年 国民生活時間調査

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf

新聞も軽減税率を適用すべき?

https://news.yahoo.co.jp/polls/domestic/20883/result

日本でタブー視されている男性の貧困問題

子育て世代の所得を増やして少子化を改善すべき

 今の日本で疑問に思うのは、「男性の貧困」の問題がタブー視されていないかということである。本を探してみても「女性の貧困」について取り扱った内容は数多くあるが、「男性の貧困」について取り扱った内容はほとんど存在しないように思う。

 しかし、安倍政権が自画自賛する2012~2018年の就業者数の増加についても、その内訳を見ると女性が288万人も増加したのに対し、男性は95万人程度(女性の33%)の増加に留まっている。男性は女性ほど雇用改善の恩恵を受けていないのだ。

 

 この他にも、近年では大卒の就職率が回復する傾向にあるが、それと同時に企業が新卒採用でコミュニケーション能力を異常なまでに求めるようにもなっている。

 経団連の『新卒採用に関するアンケート調査』によれば、採用選考時に「コミュニケーション能力を重視する」と答えた企業の割合は2001年の50.3%から2018年の82.4%まで増加した。企業がコミュニケーション能力に偏重した採用活動を行っているのは、2000年代以降にインターネットの普及で誰でも簡単に不祥事の告発が可能になり、企業がかつてないほど組織のコンプライアンスを重視するようになったからである。

 ちなみに、マイナビが2016年に行った調査で、自分のことをコミュ障(コミュニケーション障害)だと思う男子大学生は54.3%にものぼっている。筆者のように最初から他者とのコミュニケーションが苦手な男性は、どれだけ就職率が改善してもその恩恵を受けられないのが現実なのだ。

 

 また、この20年間で子育て世代の男性が貧困化している問題も存在する。民間給与実態統計調査によれば、35~39歳男性の平均年収は1997年の589.1万円から2017年の517.3万円まで71.8万円(1997年比で12.2%)も減少し、40~44歳男性の平均年収は1997年の644.7万円から2017年の569.2万円まで75.5万円(1997年比で11.7%)も減少している。

 この間、食料を含めた総合物価指数はデフレと言われながらも1997年以降、ほとんど横ばいの状態を続けている。特に、35~39歳男性の平均年収は2014年からやや上昇しているが、それも消費税増税による物価上昇に相殺されてしまった(図93を参照)。

 

 1997~2017年の20年間で子育て世代の男性の収入がこれだけ落ち込んだのは、橋本政権以降の緊縮財政によって給与が下落するデフレ不況が長期化していることが原因だろう。男性の平均初婚年齢(2017年)は31.1歳なので、35~44歳はちょうど小中学生の子供がいる世代になる。日本は戦後長らくの間、夫が妻子を養う家族モデルを築いてきたので、子育て世代の男性の貧困化はもっと社会問題の一つとして議論しても良いように思う。

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 収入が増えないデフレ不況は世代間格差までも広げている。例えばバブル期以前の1982年に大卒で入社した1959年度生まれの男性と、1987年に大卒で入社した1964年度生まれの男性は22歳から42歳までの20年間で年収が2.5~2.8倍も増加していた。この世代であればまだ「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という高度経済成長期の家族モデルを形成することができたかもしれない。

 それに対し、バブル崩壊後の1992年に大卒で入社した1969年度生まれの男性と、1997年に大卒で入社した1974年度生まれの男性は22歳から42歳までの20年間で年収が1.8~1.9倍程度しか増加していない。この世代に入ると運良く高収入になれた男性を除いて、夫の所得だけで妻子を養うことは非常に難しいと言えるだろう(図94を参照)。

 その影響もあって、50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示す生涯未婚率(男性)は、1990年の5.57%から2015年の23.37%まで上昇している。バブルの頃だと50歳男性は20人に1人しか未婚者がいなかったのに対し、現在では50歳男性の4人に1人が結婚できない時代になっているのだ。

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 図95を見ると過去60年間(1958~2018年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」も強い相関関係が見られ、日本で少子化が進んだのは富裕層減税や国営企業の民営化、消費税導入、労働者派遣法の施行など中曽根政権以降の小さな政府というデフレ促進策によって名目GDP成長率が下がり、子育て世代の収入が減少したからではないだろうか。

 1980年代はまだインフレの時代だったので小さな政府を進めても経済に悪影響を与えることは少なかったが、1990年代のバブル崩壊後にデフレ不況が深刻化する中で消費税増税や歳出削減を断行してしまったのは問題だった。

 

 今回の消費税10%増税で安倍政権は幼稚園、保育所認定こども園を利用する3歳から5歳児クラスの子供たちの利用料を無償化するなど小手先の対策を取ったが、こうした幼児教育の無償化は消費税を引き上げなくても富裕層増税国債発行で実現可能だろう。

 今では子育てにお金が掛かるだけでなく結婚式もビジネス化しており、挙式・披露宴の費用は全国平均で357.5万円にものぼっていて、これは35~39歳男性の平均年収の約7割に相当する。2015年の出生動向基本調査によれば、「1年以内に結婚することになった場合、何か障害になることがあるか」という質問に男性回答者の68.3%が「障害がある」と回答し、そのうち43.3%が「結婚資金」を理由に挙げている。

 

 政府が本当に少子化を改善させたいのであれば、むしろ消費税を廃止して個人消費による需要を創出し、子育て世代の所得を増やして年間の名目GDP成長率が5%を超えるような経済状況を続けるべきではないだろうか。日本が1970~80年代のような安定的に経済成長していた時代に戻れば、生涯未婚率が低下して出生数も増加すると考えられる。

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年収100万円以下の男性貧困層が増加した理由

 更に、子育て世代だけでなく高齢男性の貧困も深刻な問題だ。前述の民間給与実態統計調査によれば、年収100万円以下で働く男性貧困層は2018年に過去40年間で最多の97万1000人にのぼっている(図96を参照)。女性の年収100万円以下が2016年の330.9万人から2018年の312.7万人へとやや減少しているのに対し、男性の年収100万円以下は昨年に引き続き過去40年間で最多を更新していて低所得者の増加がより深刻になっていることがわかる。

 男性貧困層の年齢分布は公表されていないため、筆者は当初年収100万円以下の増加について子育て世代の男性の貧困化が原因だと考えていた。だが、2012~2018年にかけて25歳から64歳までの男性の就業者数は合計で98万人減少しているのに対し、65歳以上の男性は147万人も増加している(図97を参照)。つまり、男性貧困層が急速に増加しつつある背景には低賃金で働かされている高齢男性の実態が存在するようだ。

 

 ちなみに、15~19歳男性は12万人増加、20~24歳男性は34万人増加しているが、この世代だとまだ親と同居している人も多く、一人暮らしの大学生でも親からの仕送りを貰っている割合は70.3%である。それに対し、単身高齢者は子供に負担をかけたくないという理由で仕送りを断っている人が多く、子供からの仕送りを貰っている人は1.4%程度に過ぎない。高齢者が年金だけで生活できず家族からの支援も受けられない場合、生活保護を利用するか働かざるを得ないだろう。

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 特に単身の高齢男性は女性よりも孤立しやすい傾向にあり、2015年の高齢社会白書によれば「一緒にいてほっとする人がいない」は単身女性が27.2%なのに対し、男性は51.4%、「ちょっとした用事を頼める人がいない」は単身女性が11.8%なのに対し、男性は32.2%、「看護や世話を頼みたい相手がいない」は単身女性が21.5%なのに対し、男性は35.0%にものぼっている。

 現在どの程度幸せと感じるかを「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として『8点以上』と答えた割合も、単身女性が43.6%にのぼっていたのに対し、男性は22.7%と女性の約半分となっている。高度経済成長期からバブル期にかけて長時間労働にもめげず、一生懸命に家族や社会を支えてきた男性高齢者の老後には寂しい風が吹いているようだ。

 私がツイッターで安倍政権の熱烈な支持者に年収100万円以下で働く男性貧困層が増加していることについてどう思うか聞いてみたところ、「アベノミクスが成果を上げて、高齢者が定年後に仕事を得やすくなったから年収100万円以下が増えた」と反論してきた。しかし、老骨にムチ打って低賃金で働く高齢者が増加した状況をアベノミクスの成果だと言って良いのだろうか。

 

 この他にも、年収100万円以下で働く男性貧困層が増加した理由について小泉政権以降の自民党が進めてきた公共事業の削減があるように思う。

 例えば、『「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待』でも述べた通り、1998年の小渕政権は国債発行を財源に公共事業関係費を過去最高の14.9兆円まで増やして、年収100万円以下の男性貧困層を1998年の66万9019人から2000年の49万9517人まで減らしたが、図96を見るとその後は公共事業を削減して男性貧困層が増加していることがわかる。労働力調査によれば建設業で働く従業員は1950年代以降、一貫して8割以上が男性なので政府の公共事業関係費が男性の所得にも影響しやすいのだろう。

 

 また、近年では建設業の人手不足と高齢化が社会問題の一つにもなっている。2012年の時点で全産業の55歳以上の労働者の割合は28.7%なのに対し、建設業は33.6%にものぼっている。逆に29歳以下の労働者の割合は全産業が16.6%なのに対し、建設業は11.1%に低下している(画像を参照)。

 この状況を鑑みて安倍政権は2013年から公共工事の設計労務単価を引き上げたが、2018年度の公共事業関係費は7.6兆円と1998年度の51%程度に過ぎず、人手不足の解消にはつながっていない。建設業の許可業者数も1999年度の60万980社から2018年度の46万8311社まで減少している。

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 その影響もあって日本は世界有数の自然災害大国であるにも関わらず、災害が発生した際の復旧・復興に遅れが生じている。2011年の東日本大震災だけでなく、今年発生した台風15号台風19号でも関東を中心に停電や断水が相次いだ。2012~2018年の6年間で男性の就業者数は3622万人から3717万人まで95万人増加したのに対し、建設業は433万人から421万人へと12万人減少し、電気・ガス・熱供給・水道業も28万人から24万人へと4万人減少していて、建設業や水道業の人手不足がライフラインの復旧に遅れが生じる原因にもなっている。

 

 建設業の人手不足を解消するためには公共工事の設計労務単価を増やすだけでなく、れいわ新選組が提言しているように政府が補償して最低賃金を1500円まで引き上げる必要があるのではないだろうか。実際に建設業ではないが、ファッション通販のZOZOが今年5月に時給1300円のアルバイトを募集したところ、たった1日で2000人を超える応募者が殺到したという。

 やはり今の日本で問題になっている人手不足は、少子化や人口減少によるものではなく「賃金不足」こそが最大の原因だと考えて良いだろう。早期の災害復興を果たすためにも年収100万円以下の男性貧困層を減らすためにも、公共事業の拡大と建設業の賃金引き上げは急務である。

 

 

<参考資料>

齊藤祐作 『発達障害者の才能をつぶすな!』(幻冬舎、2016年)

雨宮紫苑 『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮社、2018年)

藤田孝典 『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新聞出版、2016年)

三橋貴明 『移民亡国論 日本人のための日本国が消える』(徳間書店、2014年)

 

2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果

https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf

自分のことを「コミュ障」だと自覚している男子大学生は約5割

https://www.excite.co.jp/news/article/Mycom_freshers__gmd_articles_44447/

人口動態調査 - e-Stat 政府統計の総合窓口

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450011&tstat=000001028897

自由?それとも寂しそう?データから見えてきた「生涯独身」のリアル

https://www.axa.co.jp/100-year-life/health/20190522/

幼児教育・保育の無償化 子ども・子育て本部

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/musyouka/index.html

結婚費用の項目と相場 親ごころゼクシィ

https://zexy.net/contents/oya/money/kiso.html

第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)

http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/report15html/NFS15R_html02.html

平成30年分 民間給与実態統計調査

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/pdf/001.pdf

大学生アルバイトの金銭感覚調査

https://resemom.jp/article/2017/08/16/39850.html

親への仕送りの平均額は?親の老後資金について考える

https://fp-moneydoctor.com/news/knowledge/remittance_to_the_parent/

平成27年高齢社会白書(全体版)

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2015/html/zenbun/index.html

当面の建設人材不足対策 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000035515-att/2r9852000003554q.pdf

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/page/content/001304347.pdf

建設業許可業者数調査の結果について

https://www.mlit.go.jp/common/001288296.pdf

ZOZO「時給1300円」バイトに応募殺到 3日で募集終了

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/15/news059.html