消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

新型コロナウイルス対策のためにも消費税を5%に減税すべき

名目GDP成長率の落ち込みは8増税時よりも大きい

 2月17日に発表された2019年10-12月期のGDP速報(平成23年基準)によれば、物価の変動を除いた実質GDP成長率は年率マイナス6.3%だった。個別の項目を詳しく見ると落ち込みがもっと酷く、民間最終消費支出は年率マイナス11.0%、民間住宅投資は年率マイナス10.4%、民間企業設備投資は年率マイナス14.1%である。

 

 また、私が気になったのは「持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出」が年率マイナス13.9%も落ち込んでしまったことだ。国民経済計算では個人消費について「民間最終消費支出」「家計最終消費支出」「除く持ち家の帰属家賃」の3つのデータを公表しているが、「家計最終消費支出」とは民間最終消費支出から私立学校、宗教団体、政党、福祉関係のNPOなど営利を目的とせず社会的サービスを提供している民間団体の消費を除いた額で、「除く持ち家の帰属家賃」とは家計最終消費支出から実際には家賃を支払っていない住宅(持ち家など)について、通常の借家と同様のサービスが生産され消費されるものとみなし、市場価格で評価した計算上の架空家賃を除いた額である。

 つまり、民間最終消費支出より国民の個人消費を表す数値に近いデータを知りたい場合、家計最終消費支出から持ち家の帰属家賃を除いた額を見るべきで、この落ち込みが大きいのは消費税増税による個人消費の低迷が日本経済を蝕んでいる何よりの証拠ではないだろうか。

 

 更に、物価の変動を含めた名目GDP成長率を見るともっと酷い。前回消費税を8%に増税した2014年4-6月期は年率0.0%だったのに対し、2019年10-12月期は年率マイナス4.9%と今回のほうが落ち込みは大きいのだ。特に、2019年10-12月期の名目GDP成長率は安倍政権の7年間で最低となってしまった(図22を参照)。

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 2019年のコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合物価指数)が対前年比0.4%の増加だったにも関わらず、同年10-12月期の名目GDP成長率がマイナスになった理由は民間企業設備投資の落ち込みが2014年4-6月期よりも著しかったことが考えられる。

 消費税を8%に増税したときは2012~2013年にかけて景気が回復傾向にあったが、10%増税時は名目GDP成長率が2015年の3.4%から2019年の1.3%まで下落していて、景気の後退局面で消費税を引き上げたからこそ民間企業設備投資の落ち込みが大きかったのではないだろうか。

 

 

個人消費の落ち込みは高齢化ではなく消費税増税が原因

 しかし、消費税を最終的に15~20%まで引き上げたい安倍政権は増税による景気悪化を絶対に認めたくないようである。安倍首相は2月17日の予算委員会で日本経済の現状と展望に関し、「経済対策の効果もあり基調として緩やかな回復が続く」との見解を示した。麻生財務大臣も2019年10-12月期の実質GDPがマイナス成長だったことを受けて、「前回の消費税引き上げ時と比較すると影響が小さい」などと言い訳に終始している。

 だが、景気の先行き予測に使用される景気動向指数(先行指数)は2017年12月の102.1から2019年12月の91.6まで急速に悪化しており、新型コロナウイルスの影響もあって2020年1-3月期のGDP成長率は更に落ち込む可能性が高いだろう。日本経済の現状はとてもじゃないが、緩やかに回復しているとは言えない状況である。

 

 また、自民党片山さつき議員はテレビ朝日のモーニングショーで藤井聡氏と対談した際に、2019年10-12月期の消費の落ち込みについて「台風19号のせいだ」と発言している。しかし、台風は2019年だけでなく毎年起こっているのであって、増税前の同年9月にも台風15号の影響で千葉県を中心に大規模停電が発生した。もし、景気悪化を台風のせいにするのなら9月の時点で消費税10%増税を中止すべきだっただろう。

 片山議員は「少子高齢化の影響で消費が増えづらい状況になっている」とも述べているが、これも少し調べれば嘘であることがわかる。日本は高齢化率が21%を超える「超高齢化社会」に突入したのが2007年だが、それでも家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は2009年1-3月期の223.3兆円から2014年1-3月期の247.7兆円にかけて24.4兆円も増加している。本格的に個人消費が落ち込んだのは消費税が8%に増税された2014年4月以降なのだ(図23を参照)。

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 消費税増税に加え、新型コロナウイルスの影響が深刻な日本経済は今後どうなってしまうだろうか。現状では2020年6月末に消費者に最大5%が還元される補助金事業のキャッシュレス還元が終了して「再増税」となるため、東京五輪を開催しても個人消費はほとんど増えないと予想される。

 そのため、政府は新型コロナウイルスによる経済への悪影響を最小限に抑える目的で遅くても2020年7月から消費税を5%に減税すべきだろう。私は安倍政権を全く支持していないが、消費税引き下げを決定すればそれに伴って解散総選挙に打って出ても良いと思っている。

 

 

<参考資料>

国民経済計算 2019年10-12月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194/gdemenuja.html

「民間最終消費支出」と「家計最終消費支出」の違い

https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/indicator/20130117_006677.pdf

財務省の狂気(前編)

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12447976559.html

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

日本経済、政策効果などで基調として緩やかな回復続く=安倍首相

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200217-00000043-reut-bus_all

経済環境きめ細かく分析し、財政運営に万全期す=麻生財務相

http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN20C01F.html

統計表一覧:景気動向指数 結果

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html

【激論】消費税増税の悪影響を意地でも認めない片山さつき自民党議員

https://www.youtube.com/watch?v=_-AluaqShqw

1995年以降のデフレが国民を貧困化させ、音楽文化まで破壊した

日本国民の二極化が始まった1990年代という時代

 昨年からYoutubeで昔の音楽番組やゲームの動画を見るようになったり、家の物置から子供の頃の写真を出して懐かしくなったりして、改めて1990年代という時代を総括する必要があると感じた。特に、私が生まれた1991年から小学校に入学する1998年までの動画や写真を時系列で見ると良くも悪くも変化の大きい時代だったということが伝わってくる。一言で表現すれば90年代は国民の二極化が始まった時代だと言えるのではないだろうか。

 

 1994年から新宿を中心に路上生活者(ホームレス)の支援活動に取り組んでいる稲葉剛氏は、現在の格差や貧困に繋がる火種がまかれた年として、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件が発生して社会の閉塞感が広がった1995年を挙げている。稲葉氏が炊き出しを始めた1994年12月当時、新宿では路上生活者がまだ200人程度だったが、1995年に入ってからそれが300人、400人と少しずつ増えていったという。

 1995年といえば当時4歳だった私はアパートから両親が建てたマイホームに引っ越した時期であり、自分が恵まれた幼少期を過ごしていた裏側で路上生活者が急増していたのは信じられない話だ。

 

 また、同年10月18日には大阪の道頓堀で路上生活をしている63歳の男性が24歳の若者によって襲撃され亡くなる事件も発生している。その後、襲撃した若者も持病により安定した仕事に就けず社会の中に居場所を見つけられない状態にあり、自分と同じような境遇にある路上生活者を襲撃したということがわかっている。現在まで繋がる若者の貧困と通底する事件だとも言えるだろう。

 

 実際に、稲葉氏の活動だけでなくデータから見てもこの25年間の日本はほとんど経済成長せず貧困層や所得格差だけが拡大していったことがわかる。例えば、名目GDP成長率は1973年から1995年までの22年間では4.30倍(平成2年基準)も増加したのに対し、1995年から2017年までの22年間ではたったの1.07倍(平成23年基準)しか増加していない。

 この間、1世帯当たりの平均所得金額は1995年の659.6万円から2017年の551.6万円まで100万円以上も減少し、所得格差を表すジニ係数当初所得)は1996年の0.441から2017年の0.559まで上昇している。

 

 この他にも生活保護利用者数は戦後、1951年度の204.7万人から1995年度の88.2万人まで減少していたが、その後は2017年度の212.5万人まで増加してしまった。図20では1985~2017年の「1世帯当たりの平均所得金額と生活保護利用者数の推移」を示したが、これを見ると平均所得金額と生活保護利用者数が逆の相関になっていることがわかる。

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 安倍政権の熱烈な支持者たちは生活保護利用者数の増加について「日本人の勤労意欲が低下したからだ」などと言うだろうが、統計数理研究所が5年ごとに実施している日本人の国民性調査で「いくらお金があっても、仕事がなければ人生はつまらない」という考え方に賛成する割合は1983年が77%、1988年が75%、1993年が75%、1998年が76%、2003年が71%、2008年が76%、2013年が72%と30年間一貫して7割を超えていて、日本人の勤労意欲が落ちているわけではないのだ。

 

 更に、1995年は日経連が『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』として非正規雇用派遣労働者を大幅に増やす提言を行った年でもある。自民党はこの提言に従って1999年12月に労働者派遣法を改正し、それまで専門26業務に限定されていた「ポジティブリスト方式」を港湾運送、建築、警備、医療、製造業など以外は原則自由化するという「ネガティブリスト方式」に変えている。

 その後も労働者派遣法は2004年3月に製造業での採用が解禁され、2015年10月からは専門26業務の枠組みを廃止して企業が人さえ変えれば同一事業所の派遣使用期間をいくらでも延長できるようになった。この結果、非正規雇用の割合は1995年の20.9%から2018年の37.9%まで上昇し、主に20~40代の労働環境が悪化して少子化の原因の一つにもなっていることが明らかだろう。

 

 1995年から2018年にかけて食料を含めた総合物価指数(CPI)はデフレと言われながらも3.8%上昇しているが、40~44歳男性の平均年収は1995年の626.9万円から2018年の580.6万円まで46.3万円(1995年比で7.4%)も減少し、45~49歳男性の平均年収は1995年の687.1万円から2018年の635.2万円まで51.9万円(1995年比で7.6%)も減少している。

 その影響もあって、50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示す生涯未婚率(男性)は1995年の8.99%から2015年の23.37%まで上昇し、現在の40代男性は所得に余裕があり結婚して子育てに励んでいる人と不安定雇用に苦しめられて結婚できない人が二極化しているのではないだろうか。

 

 

1990年代にCDが爆発的に売れていた本当の理由

 その一方で、1995年といえば日本の音楽史においてCDシングルのミリオンセラー数が過去最多だった年として記録されている。この年は累計売上が248.9万枚にものぼったDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」をはじめとしてミリオンセラーが28曲も生まれている。これだけCDが爆発的に売れたのは、日本の1990年代が一億総中流社会の面影が残っていた最後の時代だからという部分もあるのではないだろうか。

 

 今年2月21日に発表された2019年の実質賃金は「現金給与総額」が前年比マイナス0.9%、「きまって支給する給与」が前年比マイナス0.8%だった。1990年から2019年までの実質賃金を長期時系列データで見ると、戦後最も高かった1997年と比べて2019年の実質賃金は14.2%も減少している。

 音楽好きな自分として気になっているのは、労働者の実質賃金とCDやDVDなどの売上を示した音楽ソフトの生産金額に強い相関関係が見られることだ(図21を参照)。1990年から1997年までは実質賃金と音楽ソフトの売上が共に上昇していたが、2000年以降に実質賃金が低下して音楽ソフトの売上も減少するという状況が発生している。この20年のデフレ不況は国民を貧困化させるだけでなく、音楽文化まで破壊してしまったようである。

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 5ちゃんねる(旧:2ちゃんねる)やYoutubeのコメント欄などでは「1980~90年代の音楽は素晴らしかったが、最近はいい曲が少ない」という書き込みが多い。そうしたコメントを見る度に「貴方が最近の音楽を聴かず嫌いしているだけなのでは?」と思うのだが、それでも何故昔の音楽のほうが良いと感じる人が多いのかについては考察しなければならない。

 私が思うのは1980~90年代当時、法人税所得税最高税率が今より高かったことにより、売れているミュージシャンやレコード会社にも納税を通して社会貢献させていたからこそ、国民の多くがCDを買うなど音楽にお金を使う余裕があって次々と大ヒット曲を生み出せていたのではないだろうか。

 例えば、90年代に一世を風靡した音楽プロデューサーの小室哲哉氏は1997年に推定所得が約23億円でその50.9%に当たる11億7000万円を納税したという。当時の所得税と住民税を合わせた最高税率は65%で、自身の収入の半分以上を国と地方に納税していたのは誇るべきことである。

 

 しかし、それから所得税と住民税の最高税率はCDの売上が減少し始めた1999年から50%に減税され、2007年には所得税最高税率が37%から40%に引き上げられたのに対し、住民税の最高税率は13%から10%に減税され、どれだけ所得を稼いでも一律の税率しか徴収されないフラット税制が適用されている。

 2015年には格差社会に対する批判から所得税と住民税の最高税率が50%から55%に引き上げられたが、それでも高所得者に65%以上の税率を徴収していた1980~90年代と比べたら累進課税が緩和された状況が続いていると言えるだろう。

 

 エイベックス代表取締役会長の松浦勝人氏は2013年8月に自身のFacebookで2015年から所得税と住民税の最高税率が55%に引き上げられることについて「この国はあえていうなら富裕層に良いことは何もない。こんなことをしていたら富裕層はどんどん日本から離れていくだろう」と批判したが、彼は2000年代以降に何故CDが売れなくなったのか真剣に考察したことがないのだなと思わざるを得なかった。

 ちなみに、国税庁の調査によれば年収1000万円以上の高所得者は2014年の199.5万人から2018年の248.8万人まで49.3万人増加し、ワールド・ウェルス・レポートによれば100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2014年の245.2万人から2018年の315.1万人まで69.9万人も増加していて、所得税最高税率を引き上げても富裕層が海外に逃げるという事態は発生していないのだ。松浦氏は日本の所得税が高いと嘆く前にもっと経済の勉強をすべきではないだろうか。

 

 最近ではYoutubeなどの動画サイトやSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスの再生回数でミュージシャンが収入を得る時代になっているが、こうした「音楽を無料や低価格で楽しむ」という価値観が蔓延しているのは1995年以降に日本のデフレ不況が長期化していることも原因の一つだろう。

 20~40代が趣味にお金を使えるようになり、将来的に結婚してマイホームを建てられるほどの所得を得るためには消費税廃止と財政出動が必要で、その財源として法人税所得税最高税率を引き上げてデフレ期の国債発行を認めるしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

稲葉剛 『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版、2016年)

伊藤周平 『消費税が社会保障を破壊する』(角川書店、2016年)

醍醐聰 『消費増税の大罪 会計学者が明かす財源の代案』(柏書房、2012年)

森岡孝二 『雇用身分社会』(岩波書店、2015年)

 

国民経済計算 2019年10-12月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194/gdemenuja.html

平成30年 国民生活基礎調査

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450061&kikan=00450&tstat=000001129675&cycle=7&tclass1=000001130605&result_page=1

平成29年 所得再分配調査報告書

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/96-1/h29hou.pdf

平成29年度 被保護者調査

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450312&tstat=000001125455&cycle=8&tclass1=000001125456&result_page=1

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

2020年度人口統計資料集

http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2020.asp?chap=0

1995年(平成7年)ヒット曲ランキング

https://nendai-ryuukou.com/1990/song/1995.html

毎月勤労統計調査 令和元年分結果確報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r01/01cr/01cr.html

音楽ソフト 種類別生産金額推移

https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_m.html

小室哲哉Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%AE%A4%E5%93%B2%E5%93%89

所得税の税率の推移(イメージ図)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/033.htm

松浦勝人氏「富裕層は日本にいなくなっても仕方ない」に批判相次ぐ

https://www.huffingtonpost.jp/2013/08/13/masato_matsuura_n_3738948.html

World Wealth Report 2019

https://worldwealthreport.com/wp-content/uploads/sites/7/2019/07/World-Wealth-Report-2019-1.pdf

ベーシックインカムを消費税増税の口実にしてはいけない

スイスが国民投票ベーシックインカムを否決した理由

 近年、社会保障の分野で話題になっている制度に「ベーシックインカム」がある。ベーシックインカムとは、「最低限所得保障」の一種で生活できる最低限の金額を定期的に支給するというものだ。この制度は年金、雇用保険生活保護などの代わりに、国民全員に一律の金額を支給することで社会保障制度を簡素化し、行政コストを大幅に削減できるという特徴を持っている。

 日本でも2010年6月から2011年9月まで当時の民主党政権が「子ども手当」として15歳までの子供に月額1万3000円を支給していたが、これは子育て世代を対象にしたベーシックインカムの一つと見なすことができる。ベーシックインカムの問題点で一般的に言われるのは、政府が国民に対して無条件にお金をバラ撒いたら、勤労意欲がなくなって働かない人が増加するのではないかという批判である。

 

 社会実験としてベーシックインカムの導入が成功した代表的な国にフィンランドがある。フィンランドでは2017年1月から2018年12月まで無作為抽出した2000人の失業者に対し、他の収入源があるかどうかや積極的に仕事を探しているかどうかに関わらず、毎月560ユーロ(約7万1000円)を支払うベーシックインカムの試験運用を行った。

 その結果、幸福度について「健康状態が良い」と回答した割合はベーシックインカムを受給していないグループが46%なのに対し、受給したグループが55%、「かなり強いストレスを感じたことがある」と回答した割合はベーシックインカムを受給していないグループが25%なのに対し、受給したグループが17%とベーシックインカムが幸福度や健康状態に良い影響を与えることが示された。

 また、ベーシックインカムの受給者の雇用状況に関して、受給していないグループの勤務日数は平均で年間49.25日なのに対し、受給したグループは平均49.64日と特に大きな差は見られなかった。ベーシックインカムを導入すると人々の勤労意欲がなくなるという懸念について、今回の結果では良くも悪くも人がすぐには変わらないことが示されている。

 

 その一方で、スイスでは2016年6月5日に成人には2500スイスフラン(約27万円)、未成年には625スイスフラン(約6万8000円)を毎月支給するベーシックインカムの是非を問う国民投票が実施されたが、賛成は23.1%だったのに対し、反対は76.9%と圧倒的多数で否決されている。

 イギリスの経済学者でベーシックインカムを推進しているガイ・スタンディング氏はスイスの国民投票が否決された理由について「ベーシックインカムが導入されると、低所得国からの移民の大量流入を招く」という不安を反対派が煽ったからだと指摘している。

 

 だが、それ以上にスイスとフィンランドの税制や経済状況に違いが大きいことも原因の一つになっているように思う。スイスの付加価値税は8.0%(2016年当時)と欧州の中でも低いのに対し、フィンランド付加価値税は24%と高負担高福祉の国の一つになっており、完全失業率もスイスの3.3%よりも、フィンランドの8.8%(いずれも2016年の数値)のほうが圧倒的に高い。

 つまり、仮にスイスでベーシックインカムが導入されたら、フィンランド並みに付加価値税を引き上げて景気を悪化させ、完全失業率の高い不安定な社会を受容しなければならないという危機感から国民投票に反対する人が多かったのではないだろうか。

 

 更に、2019年1月からはチューリッヒ州のライナウ村で25歳以上の人に毎月2500スイスフラン(約27万円)を支給するベーシックインカムが試験的に導入される予定だったが、目標としていた600万スイスフラン(約6億4000万円)以上の資金調達が間に合わず計画を断念している。

 ベーシックインカムの導入を呼び掛けた映画監督のレベッカ・パニアン氏は「なぜライナウの村民だけにお金を出すのか理解できない人が多かった」とコメントを発表し、プロジェクトの目的をしっかりと周知する必要があったと反省している。スイスでは2018年1月に付加価値税を8.0%から7.7%に引き下げており、どうやらベーシックインカムを導入するよりも減税したほうが景気対策や雇用創出に繋がると考えている国民が多いようだ。

 

 図18では1981~2019年のフィンランド、スイス、日本における完全失業率の推移を示したが、これを見る限り日本はスイスと同様に比較的失業率が低く、消費税増税を財源にベーシックインカムを導入するよりも政府が財政出動して最低賃金を大幅に引き上げたほうが国民所得の向上に繋がるとも言えるだろう。

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ベーシックインカムと引き換えに経済成長を犠牲にするな

 しかし、日本ではベーシックインカムの導入が消費税増税の新たな口実にされようとしているのが残念である。例えば、2016年4月10日放送の『そこまで言って委員会NP』では、堀江貴文氏が「消費税を20%くらいに引き上げることを前提として、国民に毎月8万円を支給するベーシックインカムを導入したらどうか」と提案し、司会の辛坊治郎氏は「いっそのこと消費税を30%にして、毎月10万円支給すべき」と極論を述べている。

 だが、前述のガイ・スタンディング氏はベーシックインカムの財源について「所得税最高税率を引き上げるべき」と言っていて、海外では消費税ではなく富裕層の資産に課税してベーシックインカムの財源にする意見が一般的となりつつあるのだ。

 

 また、堀江貴文氏はベーシックインカムを貧困対策ではなく、消費税増税の新たな口実だとしか思っていないことは過去の発言からよくわかる。2019年10月には、女性が多く集まる電子掲示板の『ガールズちゃんねる』で手取り14万円のアラフォー会社員が「何も贅沢できない日本終わってますよね?」と嘆く書き込みに対して、堀江氏はツイッターで「日本が終わってんじゃなくてお前が終わってんだよ」と自己責任論を強要した。

 国税庁民間給与実態統計調査によれば、2018年の平均年収は女性が293.1万円と男性(545.0万円)の53.8%程度に過ぎず、アラフォー会社員が女性なら男女の賃金格差を象徴する書き込みだとも言える。そうした背景を理解せず自己責任論を押し付ける堀江氏は実業家としてあまりにも視野が狭すぎるのではないだろうか。

 

 ベーシックインカムの導入を消費税増税の新たな口実にしているのは堀江貴文氏だけではない。不登校やひきこもりの人々を支援している古山明男氏は著書『ベーシック・インカムのある暮らし』の中で消費税を13%まで引き上げて、月額8万円のベーシックインカムを導入することを提案している。

 古山氏は消費税について「景気の変動に対して税収が安定している」と述べているが、それは逆に言えば不況でも失業者や赤字企業から容赦なく取り立てる欠点を持っていて、税金の基本原則である景気の自動安定装置(ビルトイン・スタビライザー)が機能しない特徴もあるのではないだろうか。

 更に、古山氏は「現在、所得格差が大きくなっていくことを嘆きながら、その原因である大企業や金持ちを優遇しなければならないという奇妙な構図ができている」とも言うが、それは消費税ではなく法人税所得税最高税率を引き上げることで対応できるだろう。

 

 また、経済評論家の波頭亮氏は著書『AIとBIはいかに人間を変えるのか』の中で、古山氏と同様に月額8万円のベーシックインカムを導入する代わりに、消費税を15%まで引き上げることを提案している。

 波頭氏は「消費税増税による物価上昇と個人消費の低下については、過去に増税した際の実績を見ればさほど懸念する必要はないだろう」と述べているが、国民経済計算を見ると「家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」の落ち込みはリーマンショックが発生した2008年度の6.3兆円より消費税を8%に増税した2014年度の8.0兆円のほうが大きい(図19を参照)。リーマンショックよりも深刻な個人消費の落ち込みが発生したにも関わらず、「世の中で懸念されているほど消費の低下は招かない」と言い切ってしまう波頭氏は浅はかではないだろうか。

 2018年度の実質GDP総額は533.7兆円だが、もし安倍政権が消費税増税を中止して税率が5%のままだったらとっくに家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)が250兆円を超えて実質GDPは550兆円以上にも達していただろう。

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 堀江貴文氏、古山明男氏、波頭亮氏にしても消費税増税を財源にベーシックインカムを推進している論客に共通するのは「ベーシックインカムを導入するんだから、消費税を増税して生活が苦しくなるくらい我慢しろ」という思い上がった態度ではないだろうか。

 もし、日本でベーシックインカムを導入するのであれば、消費税ではなく法人税所得税最高税率を引き上げてデフレ期の国債発行を認めることで財源を捻出すべきである。少なくとも、ベーシックインカムを引き換えに経済成長を犠牲にしてはならないし、消費税増税の新たな口実にしてもいけないと思う。

 

 

<参考資料>

和田秀樹 『「依存症」社会』(祥伝社、2013年)

橘木俊詔 『貧困大国ニッポンの課題』(人文書院、2015年)

ガイ・スタンディング 『ベーシックインカムへの道』(プレジデント社、2018年)

 

フィンランドベーシックインカムの調査結果を発表

https://ideasforgood.jp/2019/03/06/finland-basic-income-result/

ベーシックインカム - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%A0

スイスの人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/CH/imf_persons.html

フィンランドの人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/FI/imf_persons.html

日本の人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/JP/imf_persons.html

ベーシックインカム試験導入、断念へ

https://swissjoho.com/archives/39836

VATの標準税率を7.7%に引き下げ(スイス)

https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/01/648855c7091a2197.html

堀江貴文が語るベーシックインカム

https://www.youtube.com/watch?v=LvzQqv1XGCM

堀江貴文が“手取り14万円”に「お前が終わってんだよ」でまた無知を晒す

https://www.excite.co.jp/news/article/Litera_litera_9974/

平成30年分民間給与実態統計調査結果について

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/minkan/index.htm

れいわ新選組は消費税廃止の他に「移民受け入れ反対」を掲げるべき

れいわ新選組の消費税廃止は極めて現実的な経済政策である

 次の衆院選は早ければ2020年のうちに行われると予想されているが、そこで気になるのが消費税廃止を掲げたれいわ新選組がどれほどの議席を獲得できるのかということである。

 山本太郎氏は衆院選での戦い方について「野党が消費税5%に減税することを目的にまとまるのであれば協力するが、それが不可能なら独自で候補者を100人擁立する」と発言している。しかし、立憲民主党と国民民主党はれいわ新選組の消費税引き下げに協力することに消極的で、合流に向けた話し合いも混乱しているようだ。そうなると、山本氏は独自で衆院選を戦うことになるが、個人的には自民党の強い小選挙区で候補者を立てる必要はないと思う。

 筆者は群馬県に住んでいるが、衆院選では毎回小渕優子氏が当選を続けていて、れいわ新選組が候補者を擁立しても残念ながら勝てないだろう。

 

 2019年の参院選における都道府県別のれいわ新選組の得票率を多い順に見ると、1位から10位は東京都、沖縄県、神奈川県、埼玉県、千葉県、京都府山梨県福井県高知県宮城県となっていて、逆に直近10年間(2010~2019年)における都道府県別の自民党の得票率を少ない順に見ると、1位から10位は大阪府沖縄県、長野県、兵庫県京都府、北海道、埼玉県、東京都、岩手県、愛知県となっている(表2を参照)。

 まずはこうしたれいわ新選組が強く、自民党が弱い地域から攻めていく必要があるのではないだろうか。

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 また、安倍政権の熱烈な支持者が集まるツイッターYoutubeのコメント欄では「れいわ新選組の消費税廃止は非現実的だ」との書き込みを多く見かける。だが、法人税率を80年代の水準に戻してデフレ期の国債発行を認めれば消費税廃止は極めて現実的な経済政策なのだ。

 『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』でも述べた通り、企業の経常利益は1989年度の38.9兆円から2018年度の83.9兆円まで約2.2倍も増加し、法人税収が減少する一方で経常利益はバブル崩壊後も増え続けて過去最高を更新している。2018年度の経常利益に1989年当時の税率(40%)が適用された場合、単純比較で法人税収は41.0兆円にものぼったことが予想され、これは2018年度の法人税収と消費税収を合わせた30.0兆円よりも多い。

 

 それでも、消費税増税を推進する財務省は「法人税所得税は景気に左右されやすい」と言うが、リーマンショックのような金融危機が発生して法人税収や所得税収が減った場合、消費税を増税するのではなく国債を発行して社会保障の財源を調達すればいいだろう。

 消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2018年度に対前年比0.2%程度と日銀が定めている年率2%のインフレ目標には達していないが、それでも公債発行額は2009年度の52.0兆円から2018年度の34.4兆円まで削減されている(図15を参照)。

 安倍政権は公債発行額の減少をアベノミクスの成果として挙げているが、デフレ脱却していないにも関わらず緊縮財政を強行したことを自画自賛するのは何とも情けない話だろう。年率2%のインフレ目標に達していないデフレ不況のときはむしろ国債発行で歳出を増やしたほうが早期に景気回復して税収も増加するのだ。

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 2018年には高度経済成長期の日本に憧れたマレーシアのマハティール首相が6%の消費税を完全に廃止して「物品税」に近い売上・サービス税(SST)に戻した。一部の政治家やメディアはマレーシアが消費税を廃止したことを失敗だと批判しているが、2019年4~6月期の実質GDP成長率は日本が前年同期比で1.0%程度の増加なのに対し、マレーシアは4.9%も増加している。両国ほぼ同様にGDPの6割を占める個人消費に関しても日本が前年同期比で0.7%程度の増加なのに対し、マレーシアは7.8%の増加にのぼっている。

 日本とマレーシアの成長率を単純比較できるわけではないが、マレーシアの経済も米中貿易戦争の影響を受けていたり、外国人労働者の増加で自国民の給料が上がりにくくなっていたり、様々なマイナス要因を抱えた中で健闘しているほうだと言える。消費税廃止に個人消費を増やす効果があるのは明らかで、マレーシアにできたことが日本にできないはずもないだろう。

 

 

外国人労働者とインバウンドに依存しない経済を目指すべき

 更に、れいわ新選組は現在8つの緊急政策を掲げているが、それに「移民受け入れ反対」を付け加えるべきだと思う。在留外国人数は2012年12月の203.4万人から2019年6月の282.9万人まで安倍政権の6年半で79.5万人も増加し、外国人労働者数は2012年の68.2万人から2019年の165.9万人まで7年間で97.7万人も増加している(図16を参照)。

 その影響もあって、1993年の29万8646人から2014年の5万9061人へと減少していた不法残留者数は2019年に7万9013人まで増加してしまった。技能実習生の失踪者数も2014年の4847人から2018年の9052人まで増加している。しかし、与党も野党もこの状況を全く憂慮せず、れいわ新選組も政府の移民受け入れ政策に対してまだまだ批判が弱いと感じる。

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 2019年12月2日に和歌山市で行われた街頭演説で19歳の若者から「外国人の生活保護を廃止したり、国費留学生制度の予算を日本人に回したりすれば国民の生活はもっと豊かになるのではないか」と質問された際に、山本氏は「日本人か外国人か国籍でわけて支援を行うかどうかを判断するのは危険なことだと思う」と回答した。こうした答え方も間違ってはいないが、外国人で生活保護を利用する方がいるのは企業が技能実習制度を悪用して低賃金で外国人労働者を雇っている実態があるからだろう。

 外国人の生活保護利用者を減らしたいのであれば、政府の移民受け入れ政策を制限して技能実習制度を廃止し、2019年の時点で166万人もいる外国人労働者数を20~30万人程度まで縮小すべきではないだろうか。

 

 また、安倍政権が外国人ビザを大幅に緩和してきた影響で、訪日外国人数も2012年の835.8万人から2019年の3188.2万人まで7年間で2300万人以上も増加し、そのうち中国人観光客が959.4万人と全体の約3割を占めている。図17では2003~2019年の中国人観光客の推移を示した。

 訪日外国人の増加は一見良いことのように感じるが、逆に海外へ出国する日本人の数は2012年の1849.1万人から2019年の2008.1万人まで7年間で159万人しか増加しておらず、長引くデフレ不況による日本人の旅行離れを尻目に政府は外国人観光客を呼び込んで日本国内の消費を回復させようと必死になっているのだ。

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 その上、政府があまりにもインバウンド(外国人観光客による日本国内での消費)に依存すると国際情勢に振り回されることにもなりかねない。2020年に入ってからは中国で新型コロナウイルスの流行が拡大し、1月31日の時点で感染者数は1万1859人、死者数は259人にものぼってしまった。日本国内でも感染者数は20人に増加していて、今後もこの数は増えていく可能性が高いだろう。

 中国政府は同月27日から国民の海外旅行を禁止し、日本でも新型コロナウイルスの感染者を入国拒否することを発表したが、インバウンドに依存した経済への影響を懸念して中国人の入国禁止まで踏み込むのに躊躇している。

 

 そのため、れいわ新選組衆院選に向けて消費税廃止で日本国民の消費を喚起させることに加え、外国人ビザの規制を強化して「インバウンドに依存しない経済」を目指すよう改めて政策を発表すべきではないだろうか。

 例えば、消費税を導入する以前の1980年代は訪日外国人数が300万人未満だったにも関わらず、1980~1989年の名目GDP成長率(平成2年基準)の平均は6.1%と、2010~2018年平均(平成23年基準)の1.2%より約5倍も高かった。インバウンドとして無理に外国人観光客を呼び込まなくても消費税廃止と財政出動で経済成長は可能なのだ。

 

 2020年2月上旬現在、衆議院の解散風は吹いていないが、安倍政権は野党がまとまっていないうちに解散総選挙を狙っていることは確実である。次の衆院選ではさすがにれいわ新選組が単独で政権交代を起こすことは難しいので、まずは20議席以上獲得するのを目指して自民党幹部に「消費税を5%に戻さないと政権を失う恐れがある」と危機感を抱かせることを目標にすべきではないだろうか。

 れいわ新選組は国民の生活を底上げするだけでなく、反グローバリズムの政策を掲げて戦後の一億総中流社会を取り戻す保守左派の政党を目指してほしい。

 

 

<参考資料>

山本太郎 「『政界の風雲児』本気の政策論文 『消費税ゼロ』で日本は甦る」(文藝春秋、2020年2月号)

 

2019年参議院比例代表:れいわ新選組得票率

https://todo-ran.com/t/kiji/24044

自由民主党得票率(直近10年平均)

https://todo-ran.com/t/kiji/18427

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.pdf

令和元年6月末現在における在留外国人数について

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00083.html

「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09109.html

本邦における不法残留者数について(令和元年7月1日現在)

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00084.html

失踪技能実習生数(49ページを参照)

http://www.moj.go.jp/content/001290906.pdf

山本太郎 街頭記者会見 和歌山市 2019年12月2日(32:31~)

https://www.youtube.com/watch?v=uwSmRZkU2Ug

国籍/月別 訪日外客数(2003年~2019年)

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_visitor_arrivals.pdf

2019年の日本人出国者数総計、初の2000万人突破

https://www.travelvoice.jp/20200117-144729

2019年-2020年中国武漢における肺炎の流行

https://ja.wikipedia.org/wiki/2019%E5%B9%B4-2020%E5%B9%B4%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%AD%A6%E6%BC%A2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%82%BA%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%B5%81%E8%A1%8C

消費税を廃止するためには経済成長の大切さを認識しよう

人口が減少している国でも経済成長は可能

 日本の消費税は1989年4月に税率3%で導入され、1997年4月に5%、2014年4月に8%、2019年10月に10%へと引き上げられ、増税するたびに景気を悪化させている。2019年10月の「実質家計消費」は前年比マイナス5.1%と、消費税が8%に増税された2014年4月の前年比マイナス4.6%よりも悪化し、中小企業の景況感を表す「中小企業DI」も2019年10~12月期はマイナス21.1と、マイナス20を下回ったのは8%増税時の2014年4~6月期以来(マイナス23.2)のことである。

 また、2019年11月には「景気動向指数(先行指数)」が90.9とリーマンショック真っ只中だった2009年11月の90.5に匹敵するほどまで落ち込んでしまった。

 

 しかし、日本では消費税の廃止を求めるデモがほとんど起こっておらず、香港やフランスのような反政府運動に発展する気配が全く感じられない。その理由は政治に無関心な人が多いだけでなく、「日本のような人口が減少する国ではもう経済成長できない」という勘違いが国民の間で広く共有されているからではないだろうか。

 例えば、財務官僚の森信茂樹氏は著書『消費税、常識のウソ』(朝日新聞出版、2012年)の中で「経済の成長は、基本的に労働人口の増加と生産性の向上によるものです。したがって、人口減少=経済成長の減速です。成熟した我が国の経済を考える場合、名目成長で4~5%を想定することはないものねだりと言えましょう」と述べている。

 こうした人口減少衰退論は森信氏だけでなく、私が様々な方と政治の話をしていて消費税増税の反対派でも「日本は人口が減少しているからもう経済成長できないよね」と言う人が多いように思う。

 

 だが、世界では日本より人口が減少している国はいくらでも存在し、1998~2018年の人口増加率はリトアニアがマイナス20.8%、ラトビアがマイナス20.2%、ウクライナがマイナス15.2%、ブルガリアがマイナス13.7%、ルーマニアがマイナス13.5%、ジョージアがマイナス13.1%、クロアチアがマイナス9.1%、アルバニアがマイナス8.3%、ベラルーシがマイナス5.6%、エストニアがマイナス5.0%なのに対し、日本はプラス0.1%とほとんど横ばいになっている(図11を参照)。

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 その一方で、1998~2018年の名目GDPの伸び率はウクライナが3354%、ルーマニアが2501%、ジョージアが818%、エストニアが512%、ラトビアが490%、ブルガリアが463%、アルバニアが423%、リトアニアが346%、クロアチアが236%と大なり小なり差があるものの、日本の104%よりもはるかに経済成長していることがわかる。

 更に、1998~2018年の政府総支出の伸び率はウクライナが3775%、ルーマニアが2321%、ジョージアが1238%、エストニアが510%、ラトビアが498%、ブルガリアが466%、アルバニアが336%、リトアニアが313%、クロアチアが224%なのに対し、日本は98%である(図12を参照)。

 ベラルーシは2001年以降のデータしか公表されていないが、それでも2001~2018年の名目GDPの伸び率は7068%、政府総支出の伸び率は6073%となっている。

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 諸外国と比べて日本だけが経済成長できないのは人口が減少しているからではなく、政府の公共投資を削減してきたからだということは「増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)」の中でも指摘したが、その他にも消費税が日本経済を蝕んでいるという現実があるのではないだろうか。

 過去60年間のGDPを見ると、昭和後期の1959~1988年では名目GDP成長率の平均が12.5%、実質GDP成長率の平均が6.8%と高かったのに対し、平成の1989~2018年では名目GDP成長率の平均が1.0%、実質GDP成長率の平均が1.2%と大幅に下落している。つまり、物品税の時代と比べて消費税を導入してからの30年間は名目では10分の1以下、実質では5分の1以下しか成長していないのだ(図13を参照)。

 「人口が減少する国ではもう経済成長できない」という通説は、「消費税のせいで日本は経済成長できない」という現実から目を逸らすために唱えられている部分もあるだろう。

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経済成長が人々の心を豊かにしている

 また、昔から言われている通説に、「物質的な豊かさを追求すると人々の心が貧しくなる」というものがある。

 古くは1970年代に論争を巻き起こし、大平内閣(1978~1980年)の「一般消費税構想」にも寄与した保守派知識人の集まりであるグループ一九八四年が、著書『日本の自殺』(PHP研究所、1976年)の中で「戦後日本の繁栄は、他方で人々の欲求不満とストレスを増大させ、日本人の精神状態を非常に不安定で無気力、無感動、無責任なものに変質させてしまった」と発言している。

 それから30年が経って、安倍首相も第一次政権のときに出版した著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で、「戦後の日本は経済を優先させることで、物質的に大きなものを得たが精神的には失ったものも大きかったのではないか」「自主憲法を制定しなかったことで損得が価値判断の重要な基準となり、家族の絆や生まれ育った地域への愛着、国に対する想いが軽視されるようになってしまった」と述べている。

 

 しかし、実際に戦後の名目GDPは1955年の8.4兆円(平成2年基準)から2018年の513.9兆円(平成17年基準)まで60倍以上も増加したのに対し、他殺による死亡者数は1955年の2119人から2018年の272人まで減少している。つまり、戦後の経済成長は殺人事件の件数を減らし、人々の心を豊かにしたというのが事実なのだ(図14を参照)。

 最近では、「家族間殺人が増加している」という報道をよく目にするが、増えているのはあくまでも殺人事件全体に占める割合であって、未遂を含めた家族間殺人の件数は2008年の558件から2018年の418件まで減少しているのである。

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 更に、作家の曽野綾子氏は自伝本『この世に恋して』(ワック、2012年)の中で「今、日本人はお坊ちゃま、お嬢ちゃまの集団になっています。貧困の中で生きるアフリカの人々のほうが、物質的に恵まれた社会に暮らす私たちよりも人間として豊かなのかもしれません」と経済成長を真っ向から否定した主張をしている。

 彼女は2013年に安倍政権が発足した教育再生実行会議の有識者メンバーに選任されたことから、2018年度から始まった道徳の教科化に関しても「今の子供たちは物質的に豊かになって甘やかされているから道徳教育の強化が必要」という俗流若者論が背景に存在することは確実だろう。

 

 だが、2019年に国連が発表した世界の幸福度ランキングを見ると1~5位はフィンランドデンマークノルウェーアイスランド、オランダと福祉や教育が充実している欧州の国々が上位に並び、6位のスイスも一人当たりの名目GDPランキングがルクセンブルクに次いで第2位だ。7~10位のスウェーデンニュージーランド、カナダ、オーストリアも1998~2018年の20年間で名目GDPが2倍近く成長している国々である(表1を参照)。

 その一方で、ランキング下位には南スーダン中央アフリカ共和国アフガニスタンなど物質的に貧しく戦争や紛争が絶えない発展途上国が並んでいて、「アフリカの国々のほうが人間として豊か」という曽野綾子氏の主張は全くのデタラメだろう。ちなみに、日本の幸福度ランキングは58位と高くないが、これも1998年から20年以上デフレ不況が続いて経済成長していないことが原因だと考えられる。

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 しかし、一体どれほどの日本人が「戦後の経済成長によって人々の心が豊かになり、治安も大幅に改善した」という事実を共有しているだろうか。例えば、2017年2月にSF作家の山本弘氏が大阪府箕面市の中学生に実施したアンケート調査では『50年前に比べて、日本の少年犯罪は大幅に増えている』という質問に「信じている」「やや信じている」と回答した生徒は合わせて57.4%にものぼったのに対し、「信じない」「やや疑っている」と回答した生徒は合わせて10.1%しかいなかったという。

 実際に、未成年の検挙人数は1983年の26万1634人から2018年の3万458人(少年人口比では10万人当たり1413.5人から269.6人)まで減少したにも関わらず、長年マスコミが「日本の治安は悪化している」というデマを流し続けている影響で、少年犯罪が凶悪化していると勘違いする中学生が多いのかもしれない。

 

 この誤解を解くためには、中学や高校の授業で前述の図14のグラフを提示して「経済成長が人々の心を豊かにしている」という事実を教えるべきではないだろうか。学校教育では常に政治的中立性が議論の対象となっているが、日本の治安が大幅に改善したという事実を教えることに全く問題はないだろう。消費税を廃止する世論を盛り上げるためには、経済成長の大切さを国民に広く共有してもらう必要があると言える。

 

 

<参考資料>

アベ・ショックが始まった(前編)

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12555242525.html

中小企業庁 中小企業景況調査報告書

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keikyo/index.htm

統計表一覧 景気動向指数 結果

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html

図録 他殺による死亡者数の推移

https://honkawa2.sakura.ne.jp/2776.html

平成30年の刑法犯に関する統計資料

https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/H30/h30keihouhantoukeisiryou.pdf

世界幸福度ランキング2019

https://yorozu-do.com/happiness-ranking/

中学生の6割は「月は西からのぼる」と信じている。(2)

http://hirorin.otaden.jp/e439925.html

犯罪白書 令和元年版 少年による刑法犯

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_2_2_1_1.html

安倍政権の消費税増税を容認する高橋洋一氏に対する批判

安倍政権を擁護するために意図的なデマを流す高橋氏

 前回前々回のブログでは消費税増税に賛成するリベラル派の井手英策氏を批判してきたが、逆に安倍政権下の増税を容認する右派の経済学者に高橋洋一氏がいる。彼は財務省出身として初めて国の資産と負債を表したバランスシートを作成した人物で、野田前政権に対しては「財務省の傀儡政権で、大増税内閣である」と厳しく批判していた。しかし、安倍政権になってからは大きく変節し、意図的なデマを流すようになったと思う。

 

 経済素人でもわかる高橋氏の代表的なデマは「民主党政権が年間自殺者を安倍政権より3000人以上も増やした」というものである。実際のところ自殺者は民主党政権でも2009年の30707人から2012年の26433人まで減少していて、第一次安倍政権だった2007年でも30827人と民主党政権よりも多かったのだ。一般的に自殺は女性より男性に多いと言われているが、過去30年間の男性の自殺死亡率と完全失業率の推移を見ると1998年に自殺率が悪化し、2010年から失業率の低下と共に自殺率が改善しているのがわかるだろう(図7を参照)。

 本当に自殺者を増やしたのは消費税5%増税などの緊縮財政を断行した1996~98年の橋本政権で、安倍政権が経済政策によって自殺者を減らしたことを評価するなら、「民主党政権でも年間自殺者は減少していた」と言わなければならない。

 

 だが、高橋氏は「消費税増税は野田前総理が決めたこと。ただでさえ政権与党時代に経済を立て直せなかった民主党が、自ら行った増税決定のせいで進まない経済回復を批判するというのはブーメランになってしまう」と述べていて、安倍政権で自殺者が減ったのは良くて、民主党政権で自殺者が減ったのは認めないというのが本音のようだ。ちなみに、最終的に消費税8%増税を決定したのは野田前首相ではなく2013年10月1日の安倍首相で、消費税10%増税を決定したのも2016年6月1日の安倍首相である。

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 また、高橋氏は安倍政権が強行した消費税10%への増税について「2019年4月30日に平成が終わると新時代の門出で消費増税になる公算が大きい」と述べていた。つまり、現在の彼は完全に消費税増税を容認してしまっているのだ。高橋氏は10%増税の対策について「食料品や新聞に限定されている軽減税率の対象を全ての品目に拡大すべき」と言っているが、増税から3ヵ月以上が経ってもそうした議論は一切行われていないどころか、IMFが「2030年までに消費税を15%に引き上げろ」と要求しても日本政府の関係者が誰一人として批判しない異常事態になっている。

 

 更に、彼は増税に向けた景気対策について「2019年度予算で積極財政策を取り、同時に一層の金融緩和を行うことによって景気をデフレ脱却どころか加熱気味にする必要がある」と述べていたが、安倍政権が公的固定資本形成(政府の公共投資)を増やしていたのは2012年10-12月期の24.1兆円から2013年10-12月期の27.1兆円までの最初の1年だけであって、その後は2019年7-9月期の26.9兆円と横ばいの状態が続いている。アベノミクス第二の矢である「機動的な財政出動」は全く放たれておらず、2025年のプライマリーバランス黒字化目標を破棄しない限り、積極財政を取ることは難しいのである。

 

 また、日銀が世の中に供給しているお金の量を表すマネタリーベースは2012年12月から2019年11月までに388.1兆円も増加したが、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2019年11月に前年比0.5%程度と、消費税増税の影響を含めても年率2%のインフレ目標には達していない(図8を参照)。安倍政権はデフレ脱却どころか景気後退局面で消費税10%への増税を強行してしまったのだ。

 金融緩和を行えば日本はデフレ脱却できると主張していた高橋氏は、自身の間違いについて謝罪すべきではないだろうか。

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減税研究会の講師に高橋氏を呼んだのは間違いだった

 更に、今年1月8日に発表された2019年11月の実質賃金は「現金給与総額」が前年比マイナス0.9%、「きまって支給する給与」が前年比マイナス0.5%だった。10月から始まった幼児教育無償化の影響で教育費の物価が下がり、消費税を8%に増税した2014年4月の「きまって支給する給与」が前年比マイナス4.1%には及ばなかったものの、これで消費税増税による実質賃金の低下が安倍政権で2回も繰り返されたことになる。図9では2011年11月から2019年11月までの「きまって支給する給与」の推移を示した。

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 しかし、実質賃金の低下について「就業者数が増えたことによる成果」だと言ってはばからないのが高橋洋一氏だ。彼は2019年1月に発覚した毎月勤労統計調査の不正問題でも「人手不足がさらに進み、経済成長が本格化するときに実質賃金が上昇するから問題ない」と的外れな言い訳に終始していた。

 だが、実際に「就業者数と実質賃金指数の推移」を見ると消費税が3%だった1990~96年は就業者数も実質賃金も上昇していたのに対し、5%に増税された1997年から共に下落が始まり、8%増税後の2014年以降は「就業者数が増加したにも関わらず実質賃金が減少する」という状況が発生している(図10を参照)。実質賃金が低下したのは消費税増税が原因であって、高橋氏のような「実質賃金の低下は問題ない」と擁護する経済評論家は全員、増税賛成派だと断定しても構わないだろう。

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 2019年11月28日、れいわ新選組山本太郎代表と野党統一会派に参加する馬淵澄夫議員が開催する「消費税減税研究会」の講師に高橋洋一氏が招かれた。これに対して、立憲民主党の石垣のり子議員が「レイシズムファシズムに加担するような人物を講師に呼ぶ研究会には参加できません」と厳しく批判したことが物議を醸している。

 石垣氏も「なぜ高橋洋一ファシズムなのか?」という説明が足りなかったが、残念ながら彼はそう批判されても仕方ない発言を繰り返しているのが現実だ。その代表的なのは2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件について「韓国では全く報道されていない」とデマを流していたことである。

 

 実際にはKBSや朝鮮日報が事件を報道していたのはもちろんのこと、駐日韓国大使館・韓国文化院もツイッターで「京都アニメーションスタジオ防火事件(原文ママ)により、多くの人命被害が発生したことに対し、謹んでお見舞いの言葉を申し上げます」と哀悼の意を示しており、30人以上もの死者を出した事件で韓国批判に終始していた高橋氏は言論人として非常に恥ずかしいように思う。

 私は今まで何冊も高橋氏の著書を読んでいるが、第二次安倍政権が発足する2012年以前は財政破綻論を否定したり消費税増税を批判したりする主張が中心で、日韓問題についてはほとんど言及していなかった。彼が安倍政権になってから韓国批判を始めたのは、消費税増税による景気悪化から目を逸らす目的もあるのではないだろうか。

 

 また、前述の通り現在の高橋氏は消費税増税を容認していて、いくら専門性があるとは言っても消費税の廃止を目指す山本太郎氏の「減税研究会」には相応しくない人物だったと思う。

 立憲民主党は2019年10月25日に他党や他会派が主催する勉強会へ参加する際に党の許可を取ることを通達し、山本氏が立ち上げた「減税研究会」への参加を抑制したが、消費税増税を容認する高橋洋一氏を講師に呼んだことでますます野党議員が「減税研究会」に参加しづらくなってしまったのではないだろうか。私はれいわ新選組を支持しているが、今回に限って山本太郎氏の判断は間違っていたように感じる。

 財政破綻論を煽って消費税増税を推進する財務省も許せないが、それ以上に安倍政権の増税を容認する経済評論家も罪深いだろう。

 

 

<参考資料>

高橋洋一財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社、2011年)

     『数字・データ・統計的に正しい日本の針路』(講談社、2016年)

     『これが世界と日本経済の真実だ』(悟空出版、2016年)

     『米中貿易戦争で日本は果実を得る』(悟空出版、2018年)

     『この数字がわかるだけで日本の未来が読める』(KADOKAWA、2019年)

 

人口動態調査 e-Stat 政府統計の総合窓口

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450011&tstat=000001028897

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

日本の消費税、2030年までに15%に IMFが報告書

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52565870V21C19A1EA1000/

国民経済計算 2019年7-9月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe193_2/gdemenuja.html

マネタリーベース : 日本銀行 Bank of Japan

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/index.htm/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

毎月勤労統計調査 令和元年11月分結果速報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r01/0111p/0111p.html

実質賃金があぶりだす「アベノミクスの正しさ」

https://www.j-cast.com/2019/02/14350345.html?p=all

立民・石垣氏が山本太郎氏の減税研究会を欠席

https://www.sankei.com/politics/news/191128/plt1911280035-n1.html

高橋洋一京アニ放火事件を韓国ヘイトデマに利用した

http://datsuaikokukarutonosusume.blog.jp/archives/1075271035.html

増税賛成派の井手英策氏に反論する(後編)

この記事は「増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)」の続編です。

 

国債の発行は日本がデフレを脱却するために必要な政策

 前編では井手英策氏の「主要先進国は経済成長率が低い」「90年代に公共投資を行っても経済成長しなかった」という主張に反論してきたが、彼の嘘はそれだけではない。『幸福の増税論』の中で「僕は財政破綻の恐怖を煽り、人々をおののかせることで増税をせまる財政再建至上主義者ではない」と言っているが、井手氏の他の論文を読めば財務省財政破綻論に洗脳されていることは明らかだろう。

 

 例えば、小沢一郎氏と対談した2019年5月号の中央公論では「日本の財政は破綻しないから、国債をどんどん使うべきだという反緊縮論者がいます。でも、子供たちに膨大な借金とバラマキのシステムを残し、危機が訪れたときにごめんねと謝れば済むのでしょうか」と発言している。つまり、井手氏は国債発行について家計における借金と同一視し、社会保障を充実させる財源は「税金」しかないと勘違いしているようだ。

 しかし、会社においては社債や銀行からの借金は普通に行われていて、会社の多くは社債や融資がなければ新しい投資も研究開発もできなくなる。国債の発行は家計の借金とは異なり、資本主義社会においては至って当たり前に行われているのだ。また、1980~2016年度の「日本の政府と民間の収支バランス」を見ると政府の赤字と民間の黒字が逆の相関になっており、政府が国債を発行して赤字を増やせば、民間の黒字も増加することが明らかである(図5を参照)。

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図5 日本の政府と民間の収支バランス

 

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図6 日本政府の負債残高(左軸、億円)とGDP比率(右軸、%)

 

 また、一般的に財務省が言う国の借金とは「政府の負債」のことで、国民が政府にお金を貸している立場なのである。その上、2013年以降は日銀が金融緩和を行って民間銀行の国債を買い取り、国民に返す必要のある負債は急速に減少しつつある(図6を参照)。2019年6月現在、すでに日本国債の46.5%は政府の子会社である日銀が保有していて、このぶんは政府が返済や利払いを行う必要がないからだ。

 だから、もしリーマンショックのような金融危機が発生して法人税収や所得税収が減った場合、消費税を増税するのではなく国債を発行して社会保障の財源を調達すればいいだろう。国債を躊躇なく発行すれば、それによって国債発行総額が短期的に増加する可能性があったとしても、財政出動による経済効果で成長率が上がり、自然増収が毎年どんどん増えていくのである。

 実際に、『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』の図92にも示した通り、1980年代以降の名目GDP成長率とプライマリーバランスには相関関係があることが確認され、消費税を廃止してもデフレを脱却すれば自然にプライマリーバランスは改善していくのだ。

 

 だが、当然のことながら政府は無限に国債を発行していいわけではなく、インフレ率の調整という部分も大切になってくる。インフレ率は日銀が目標に定めているように、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)が年率2%に達することが一つの目安となるだろう。年率が2%を超えるようなインフレが達成された場合、間違いなく法人税収と所得税収が増加し、国債を発行しなくても税金だけで社会保障費を賄うことが可能になるのである。

 消費税増税に賛成する経済学者は、「日銀が国債を買い支えるとハイパーインフレが起こって日本が破綻する」と言うが、2012年12月から2019年9月まで日銀が381.4兆円もマネタリーベースを増やしたにも関わらず、2019年9月のコアコアCPIは前年比0.3%とインフレすらほとんど発生していない。

 

 ちなみに、ハイパーインフレとは年率1万3000%を超える激しい物価上昇のことで、今年100円だった商品が翌年130万円にまで値上がりする極端なインフレである。歴史的にハイパーインフレが発生した国は第一次世界大戦後のドイツと第二次世界大戦後のハンガリー、21世紀初頭のジンバブエの3つのみで、どのケースも戦争や革命、独裁者の暴挙によって国内の生産設備が壊滅的な被害を受けたことが背景になっている。

 日本のように20年以上デフレが続き、国債の100%が自国通貨建ての国で政府が国債を発行したり、日銀が金融緩和を行ったりするくらいではハイパーインフレが発生するはずもないだろう。国債の発行は子孫に借金を残すどころか、日本がデフレを脱却するために必要な政策なのである。

 

 

野党が選挙で勝てないのは緊縮財政を推進しているから

 更に、井手氏は前述の中央公論の中で「野党には消費税増税に強硬に反対する人がいる。でも、消費税をやめると言っても前回の衆院選では勝てなかった」と言っているが、これも嘘である。

 まず、2017年の衆院選議席の変動数を見ると与党の自民党が0議席と変わらず、公明党が5議席減らしたため、安倍政権にとって決して快勝だった選挙ではないことを前提にしなければならない。野党では立憲民主党が40議席増やした一方で、日本共産党が9議席減らし、希望の党が7議席減らし、日本維新の会が3議席減らし、社民党が0議席と変わらなかった。

 

 確かに同選挙で野党が消費税増税反対を公約に掲げていたことは事実だが、その一方で日本共産党は防衛費の削減を推進し、希望の党は公共事業の削減を推進し、日本維新の会は公務員給与の削減を推進するなど、緊縮財政にとらわれた政党が議席を減らした側面もある。特に、同選挙では北朝鮮のミサイル発射の問題も争点の一つとなっていて、日本共産党は「憲法を守るが、軍事費は増やすべき」と言わなければ勝ち目がなかったように思う。

 それに対し、議席を大幅に増やした立憲民主党長時間労働の規制、最低賃金の引き上げ、保育士・介護職員の待遇改善、正社員の雇用を増やす企業への支援、児童手当・高校等授業料無償化ともに所得制限の廃止、所得税相続税、金融課税をはじめ再分配機能の強化など、「消費税廃止」を除けばれいわ新選組と変わらない反緊縮的な政策を掲げていたことを知らない人は多いだろう。つまり、2017年の衆院選は国民の所得を引き上げる政策を提示した野党と、歳出削減を主張した野党の明暗をわけた選挙でもあったのだ。

 

 また、2019年の参院選では意外だと思われるかもしれないが、与党の自民党は9議席も減らして勝利したとは言えない結果となっている。それでも敗北するまでに至らなかったのは連立を組んでいる公明党が3議席増やしたからだが、これが自民党の単独政権だったらとっくに安倍政権は退陣していただろう。

 例えば、公明党と連立を組む前の1998年の参院選では消費税5%増税後の景気悪化に批判が高まって自民党が8議席減らし、当時の橋本政権は総辞職している。90年代の自民党から見れば9議席減らした2019年の参院選は「敗北」であり、本来なら安倍首相は消費税8%増税後に景気を悪化させた責任を取らなければならない立場である。

 しかし、参院選議席を減らしたにも関わらず安倍政権の退陣論が浮上しないのは、自民党そのものが弱体化して「私が総理大臣をやりたい」という意欲のある政治家が一人も存在しないからである。自民党の中にも安藤裕議員など一部では消費税増税に反対する議員もいるが、彼らが「消費税廃止」を掲げて総裁選に出馬しない限り、本音としては増税を容認していると批判されても仕方がないだろう。

 

 その一方で、野党は「消費税廃止」を掲げたれいわ新選組が設立から3ヵ月しか経っていないにも関わらず2議席を獲得する結果となっている。参院選におけるれいわ新選組の報道は現在と違って批判的なものが多く、2019年5月18日放送の『胸いっぱいサミット』の中では「消費税廃止」や「政府が補償して最低賃金を1500円に引き上げ」などの政策について、千原せいじ氏が「そんなの無理じゃないですか」と発言し、岸博幸氏が「政治家の中で一番許しがたい」とこき下ろしている。こうしたマスコミのネガティブキャンペーンにも負けず、参院選後に政党要件を満たして諸派から国政政党となったことは大きいのではないだろうか。

 ちなみに、れいわ新選組は2019年の参院選比例代表で228.0万票獲得したのに対し、立憲民主党比例代表の得票数を2017年の衆院選の1108.5万票から2019年の参院選の791.8万票まで減らしてしまう。このことから、2017年の衆院選だけでなく2019年の参院選も消費税廃止を掲げた野党と、それに批判的だった野党の明暗をわけた選挙だったことになる。つまり、野党が選挙で勝てないのは井手氏が言うように消費税増税に反対しているからではなく、むしろ公共事業や軍事費を否定して緊縮財政を推進しているからだろう。

 

 2019年10月30日、れいわ新選組山本太郎元議員と野党統一会派に参加する馬淵澄夫国交相が消費税5%への引き下げを求める「消費税減税研究会」の初会合を開いた。しかし、現職の国会議員の参加者22人のうち、立憲民主党は山本氏の消費税廃止論に同調する石垣のりこ議員など3人に留まり、逢坂誠二政務調査会長蓮舫参院幹事長から「行くな圧力が掛かっている」と証言する議員も少なくないという。立憲民主党が消費税引き下げを求める会合への参加に圧力を掛ける理由は、経済ブレーンに井手英策氏などの増税賛成派を迎えていることも原因の一つではないだろうか。

 筆者は井手氏について社会保障の充実を推進するリベラルではなく、むしろ経団連の奴隷になって消費税率を15~20%まで引き上げようとする安倍政権の手先だと思っている。野党に求められるのは高負担社会でも経済成長の否定でもなく、消費税を廃止して国民の所得を引き上げる政策を提示することだろう。

 

 

<参考資料>

井手英策 『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波書店、2018年)

小沢一郎、井手英策 「国民生活を守るための社会保障増税の時機 ドブ板も厭わぬ覚悟で挑め 政権を勝ち取る野党共闘構想」 『中央公論』(中央公論新社、2019年5月号)

藤井聡 『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社、2018年)

三橋貴明財務省が日本を滅ぼす』(小学館、2017年)

     『世界でいちばん!日本経済の実力』(海竜社、2011年)

 

日本の政府と民間の収支バランス

https://twitter.com/key_tracker/status/1156819116973408261

三橋貴明】「国の借金」プロパガンダを打破せよ!

https://38news.jp/economy/12281

国債等の保有者別内訳

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

マネタリーベース 時系列データ・注釈等

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/index.htm/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

第48回(2017年)衆議院議員総選挙

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC48%E5%9B%9E%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E7%B7%8F%E9%81%B8%E6%8C%99

第25回(2019年)参議院議員通常選挙

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC25%E5%9B%9E%E5%8F%82%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%80%9A%E5%B8%B8%E9%81%B8%E6%8C%99

枝野幸男 国民との約束

https://www.edano.gr.jp/manifesto.html

【有害番組】「平成のダメ政治家ランク」に山本太郎議員

https://yuruneto.com/dameseijika/

れいわの勢力拡大に怯える立民 「消費税減税研究会」への参加警戒

https://www.sankei.com/politics/news/191030/plt1910300024-n1.html

立民が“圧力” れいわ山本代表「消費税減税」会合に行くな

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/263910