消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)

主要先進国の中で日本だけが経済成長していない

 消費税増税に賛成しているリベラル派の経済学者に井手英策氏がいる。彼は社会保障の充実を推進する一方で、公共投資や経済成長を否定していて「消費税を増税して景気が悪化しても、社会保障が充実すれば国民は納得するだろう」という考え方らしい。若手経済学者の池戸万作氏は経済成長を否定して、北欧の高負担社会を目指す層を「緊縮リベラル派」と表現しているが、井手氏はその代表的な人物だと言えるかもしれない。

 井手氏が2018年11月に出版した『幸福の増税論 財政はだれのために』を読んでみても、安倍政権が進めているアベノミクスについて「経済を成長させ、所得と貯蓄の増大を目指す路線の雲行きは怪しい」と述べている。しかし、安倍政権が経済成長を重視しているというのは全くの嘘である。なぜなら、2025年のプライマリーバランス黒字化目標のために、憲政史上初めて在任中に消費税率を倍に引き上げたからだ。安倍政権は積極財政どころか「戦後最悪の緊縮財政内閣」と表現しても過言ではないだろう。

 

 また、井手氏は前掲書の中で「先進国は1960年代をピークとして経済成長率がかなり低いところに収縮してきている」と言っているが、主要先進国の1997~2017年の名目GDPの伸び率はカナダが236%、アメリカが228%、スウェーデンが227%、イギリスが216%、デンマークが190%である(図1を参照)。消費税の安いカナダでも、消費税の高いスウェーデンデンマークでも、1980年代から新自由主義を推進してきたアメリカやイギリスでも、経済が停滞しているどころか政府の財政出動によって20年間で2倍近くも名目GDPが増加しているのだ。

 それに対し、日本の名目GDPの伸び率は20年間で102%と全く経済成長していない。日本の名目GDPが増えないのは、このブログで何度も指摘した通り緊縮財政のせいである。

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 更に、井手氏は「90年代に減税と公共投資に明け暮れ、空前の政府債務を生み出したにも関わらず、かつてのような経済成長を実現できなかった」と言っているが、これも嘘である。政府が行う社会資本整備などの投資の額を表した「公的固定資本形成」が戦後のピークだったのは1996年の46.7兆円で、当時の「一人当たりの名目GDPランキング」は日本が3位だった。小渕政権が公共事業関係費を増やして一時的に景気回復していた2000年でもランキングは2位を維持している(図2を参照)。

 

 しかし、2018年の公的固定資本形成は25.2兆円まで削減され、一人当たりの名目GDPランキングは26位へと下落してしまった。つまり、日本の90年代はバブル崩壊と言われながらも政府の公共投資によってかろうじて経済成長していた時代で、本格的に日本経済が衰退したのは2001年の小泉政権が緊縮財政を始めてからなのだ。

 井手氏は90年代の公共投資が「国際的に見て突出した地位にあったことは疑いようのない事実である」と述べているが、地震や台風などの自然災害が頻発する日本で公共投資を削減するのは、「国家的自殺」としか呼びようのない状況ではないだろうか。

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消費税増税のせいで家計最終消費支出が落ち込んだ

 また、井手氏は消費税を8%に増税した2014年4月以降の個人消費の落ち込みについて、増税ではなく2015年6月のチャイナ・ショック(中国株の大暴落)が原因だと主張している。だが、名目GDP成長率を見ると中国は2015年の7.0%から2017年の10.9%まで回復しているのに対し、日本は2015年の3.4%から2017年の1.7%まで下落した。日本経済が停滞しているのは中国のせいではなく、消費税を増税して公共投資を削減してきたからだろう。

 消費税増税による景気悪化を他国のせいにするのは増税賛成派の常套手段で、消費税5%増税のときも当初は1998年6月22日に経済企画庁が、景気が拡張局面から後退局面に移る転換点の「山」を1997年3月と判定し、景気後退が消費税を5%に引き上げた同年4月から始まっていたことを認めたが、麻生政権が消費税10%増税を言い出した2008年頃から「1997年の景気後退は消費税増税ではなくアジア通貨危機が原因」だとするミスリードが行われた。

 

 しかし、1982年以降の「名目家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」の前年からの増加量を示した図3を見ると1997年までは基本的に消費がプラス成長していたのに対し、1997年以降は一気に増加量がゼロ付近をうろつく状況が続いている。つまり、1997年までは着実に成長していた消費が5%増税によって一向に伸びなくなり、むしろ縮小していく傾向となったのである。このことから1997年以降のデフレ不況はアジア通貨危機ではなく、消費税増税が原因だというのがわかるのではないだろうか。

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 更に、井手氏は中央公論2018年1月号の中で「日本の左派が勘違いしているポイントがあって、消費税は貧しい人に重たい税だということを皆さんおっしゃるわけですよね。でも重要な事実を見逃していて、どう考えても貧乏な人よりも金持ちのほうが消費税をたくさん払っていますよね」と言っているが、これも国民経済計算のデータを見ると嘘であることがわかる。

 日本で100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する富裕層は2006年の147万人から2018年の315万人まで2.14倍も増加したのに対して、消費税増税による物価上昇の影響を除いた「実質家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」は2006年の230.7兆円から2018年の237.9兆円までたったの1.03倍しか増加していない(図4を参照)。

 仮に日本の富裕層が資産の全てを消費に回している場合、家計最終消費支出が富裕層人口と並行して増加してもいいはずだが、実際には富裕層の多くが消費ではなく貯蓄に励んでいるからこそ個人消費がほとんど伸びないのだろう。

 

 日経新聞が2016年2月に公表したデータによれば、消費税が10%に増税されると「年収に占める消費税負担の割合」は年収1500万円以上の世帯では2.0%程度なのに対し、年収200万円未満の世帯では8.9%にものぼると予測している。年収200万円未満と年収1500万円以上で消費税負担の割合が4倍以上も開いていることから、消費税増税低所得者により負担が重いのが現実なのである。

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<参考資料>

井手英策 『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波書店、2018年)

     『日本財政 転換の指針』(岩波書店、2013年)

五木寛之、井手英策 「異色対談 85歳の作家が気鋭の財政学者に訊く 日本は本当に貧しくなったのか」 『中央公論』(中央公論新社、2018年1月号)

三橋貴明 『学校では絶対に教えてくれない 僕たちの国家』(TAC出版、2014年)

林直道 『日本経済をどう見るか』(青木書店、1998年)

藤井聡 『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社、2018年)

 

三橋TV第133回【謎の「緊縮リベラル派」を解体しよう】

https://www.youtube.com/watch?v=JLwVMGI1K4M

国民経済計算 2019年4-6月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe192_2/gdemenuja.html

世界の一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング

https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

Nominal GDP forecast(名目GDP成長率予測)

https://data.oecd.org/gdp/nominal-gdp-forecast.htm

World Wealth Report 2019

https://worldwealthreport.com/wp-content/uploads/sites/7/2019/07/World-Wealth-Report-2019-1.pdf

年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は

https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/

 

増税賛成派の井手英策氏に反論する(後編)」に続きます。