消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

増税賛成派の井手英策氏に反論する(後編)

この記事は「増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)」の続編です。

 

国債の発行は日本がデフレを脱却するために必要な政策

 前編では井手英策氏の「主要先進国は経済成長率が低い」「90年代に公共投資を行っても経済成長しなかった」という主張に反論してきたが、彼の嘘はそれだけではない。『幸福の増税論』の中で「僕は財政破綻の恐怖を煽り、人々をおののかせることで増税をせまる財政再建至上主義者ではない」と言っているが、井手氏の他の論文を読めば財務省財政破綻論に洗脳されていることは明らかだろう。

 

 例えば、小沢一郎氏と対談した2019年5月号の中央公論では「日本の財政は破綻しないから、国債をどんどん使うべきだという反緊縮論者がいます。でも、子供たちに膨大な借金とバラマキのシステムを残し、危機が訪れたときにごめんねと謝れば済むのでしょうか」と発言している。つまり、井手氏は国債発行について家計における借金と同一視し、社会保障を充実させる財源は「税金」しかないと勘違いしているようだ。

 しかし、会社においては社債や銀行からの借金は普通に行われていて、会社の多くは社債や融資がなければ新しい投資も研究開発もできなくなる。国債の発行は家計の借金とは異なり、資本主義社会においては至って当たり前に行われているのだ。また、1980~2016年度の「日本の政府と民間の収支バランス」を見ると政府の赤字と民間の黒字が逆の相関になっており、政府が国債を発行して赤字を増やせば、民間の黒字も増加することが明らかである(図5を参照)。

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図5 日本の政府と民間の収支バランス

 

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図6 日本政府の負債残高(左軸、億円)とGDP比率(右軸、%)

 

 また、一般的に財務省が言う国の借金とは「政府の負債」のことで、国民が政府にお金を貸している立場なのである。その上、2013年以降は日銀が金融緩和を行って民間銀行の国債を買い取り、国民に返す必要のある負債は急速に減少しつつある(図6を参照)。2019年6月現在、すでに日本国債の46.5%は政府の子会社である日銀が保有していて、このぶんは政府が返済や利払いを行う必要がないからだ。

 だから、もしリーマンショックのような金融危機が発生して法人税収や所得税収が減った場合、消費税を増税するのではなく国債を発行して社会保障の財源を調達すればいいだろう。国債を躊躇なく発行すれば、それによって国債発行総額が短期的に増加する可能性があったとしても、財政出動による経済効果で成長率が上がり、自然増収が毎年どんどん増えていくのである。

 実際に、『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』の図92にも示した通り、1980年代以降の名目GDP成長率とプライマリーバランスには相関関係があることが確認され、消費税を廃止してもデフレを脱却すれば自然にプライマリーバランスは改善していくのだ。

 

 だが、当然のことながら政府は無限に国債を発行していいわけではなく、インフレ率の調整という部分も大切になってくる。インフレ率は日銀が目標に定めているように、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)が年率2%に達することが一つの目安となるだろう。年率が2%を超えるようなインフレが達成された場合、間違いなく法人税収と所得税収が増加し、国債を発行しなくても税金だけで社会保障費を賄うことが可能になるのである。

 消費税増税に賛成する経済学者は、「日銀が国債を買い支えるとハイパーインフレが起こって日本が破綻する」と言うが、2012年12月から2019年9月まで日銀が381.4兆円もマネタリーベースを増やしたにも関わらず、2019年9月のコアコアCPIは前年比0.3%とインフレすらほとんど発生していない。

 

 ちなみに、ハイパーインフレとは年率1万3000%を超える激しい物価上昇のことで、今年100円だった商品が翌年130万円にまで値上がりする極端なインフレである。歴史的にハイパーインフレが発生した国は第一次世界大戦後のドイツと第二次世界大戦後のハンガリー、21世紀初頭のジンバブエの3つのみで、どのケースも戦争や革命、独裁者の暴挙によって国内の生産設備が壊滅的な被害を受けたことが背景になっている。

 日本のように20年以上デフレが続き、国債の100%が自国通貨建ての国で政府が国債を発行したり、日銀が金融緩和を行ったりするくらいではハイパーインフレが発生するはずもないだろう。国債の発行は子孫に借金を残すどころか、日本がデフレを脱却するために必要な政策なのである。

 

 

野党が選挙で勝てないのは緊縮財政を推進しているから

 更に、井手氏は前述の中央公論の中で「野党には消費税増税に強硬に反対する人がいる。でも、消費税をやめると言っても前回の衆院選では勝てなかった」と言っているが、これも嘘である。

 まず、2017年の衆院選議席の変動数を見ると与党の自民党が0議席と変わらず、公明党が5議席減らしたため、安倍政権にとって決して快勝だった選挙ではないことを前提にしなければならない。野党では立憲民主党が40議席増やした一方で、日本共産党が9議席減らし、希望の党が7議席減らし、日本維新の会が3議席減らし、社民党が0議席と変わらなかった。

 

 確かに同選挙で野党が消費税増税反対を公約に掲げていたことは事実だが、その一方で日本共産党は防衛費の削減を推進し、希望の党は公共事業の削減を推進し、日本維新の会は公務員給与の削減を推進するなど、緊縮財政にとらわれた政党が議席を減らした側面もある。特に、同選挙では北朝鮮のミサイル発射の問題も争点の一つとなっていて、日本共産党は「憲法を守るが、軍事費は増やすべき」と言わなければ勝ち目がなかったように思う。

 それに対し、議席を大幅に増やした立憲民主党長時間労働の規制、最低賃金の引き上げ、保育士・介護職員の待遇改善、正社員の雇用を増やす企業への支援、児童手当・高校等授業料無償化ともに所得制限の廃止、所得税相続税、金融課税をはじめ再分配機能の強化など、「消費税廃止」を除けばれいわ新選組と変わらない反緊縮的な政策を掲げていたことを知らない人は多いだろう。つまり、2017年の衆院選は国民の所得を引き上げる政策を提示した野党と、歳出削減を主張した野党の明暗をわけた選挙でもあったのだ。

 

 また、2019年の参院選では意外だと思われるかもしれないが、与党の自民党は9議席も減らして勝利したとは言えない結果となっている。それでも敗北するまでに至らなかったのは連立を組んでいる公明党が3議席増やしたからだが、これが自民党の単独政権だったらとっくに安倍政権は退陣していただろう。

 例えば、公明党と連立を組む前の1998年の参院選では消費税5%増税後の景気悪化に批判が高まって自民党が8議席減らし、当時の橋本政権は総辞職している。90年代の自民党から見れば9議席減らした2019年の参院選は「敗北」であり、本来なら安倍首相は消費税8%増税後に景気を悪化させた責任を取らなければならない立場である。

 しかし、参院選議席を減らしたにも関わらず安倍政権の退陣論が浮上しないのは、自民党そのものが弱体化して「私が総理大臣をやりたい」という意欲のある政治家が一人も存在しないからである。自民党の中にも安藤裕議員など一部では消費税増税に反対する議員もいるが、彼らが「消費税廃止」を掲げて総裁選に出馬しない限り、本音としては増税を容認していると批判されても仕方がないだろう。

 

 その一方で、野党は「消費税廃止」を掲げたれいわ新選組が設立から3ヵ月しか経っていないにも関わらず2議席を獲得する結果となっている。参院選におけるれいわ新選組の報道は現在と違って批判的なものが多く、2019年5月18日放送の『胸いっぱいサミット』の中では「消費税廃止」や「政府が補償して最低賃金を1500円に引き上げ」などの政策について、千原せいじ氏が「そんなの無理じゃないですか」と発言し、岸博幸氏が「政治家の中で一番許しがたい」とこき下ろしている。こうしたマスコミのネガティブキャンペーンにも負けず、参院選後に政党要件を満たして諸派から国政政党となったことは大きいのではないだろうか。

 ちなみに、れいわ新選組は2019年の参院選比例代表で228.0万票獲得したのに対し、立憲民主党比例代表の得票数を2017年の衆院選の1108.5万票から2019年の参院選の791.8万票まで減らしてしまう。このことから、2017年の衆院選だけでなく2019年の参院選も消費税廃止を掲げた野党と、それに批判的だった野党の明暗をわけた選挙だったことになる。つまり、野党が選挙で勝てないのは井手氏が言うように消費税増税に反対しているからではなく、むしろ公共事業や軍事費を否定して緊縮財政を推進しているからだろう。

 

 2019年10月30日、れいわ新選組山本太郎元議員と野党統一会派に参加する馬淵澄夫国交相が消費税5%への引き下げを求める「消費税減税研究会」の初会合を開いた。しかし、現職の国会議員の参加者22人のうち、立憲民主党は山本氏の消費税廃止論に同調する石垣のりこ議員など3人に留まり、逢坂誠二政務調査会長蓮舫参院幹事長から「行くな圧力が掛かっている」と証言する議員も少なくないという。立憲民主党が消費税引き下げを求める会合への参加に圧力を掛ける理由は、経済ブレーンに井手英策氏などの増税賛成派を迎えていることも原因の一つではないだろうか。

 筆者は井手氏について社会保障の充実を推進するリベラルではなく、むしろ経団連の奴隷になって消費税率を15~20%まで引き上げようとする安倍政権の手先だと思っている。野党に求められるのは高負担社会でも経済成長の否定でもなく、消費税を廃止して国民の所得を引き上げる政策を提示することだろう。

 

 

<参考資料>

井手英策 『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波書店、2018年)

小沢一郎、井手英策 「国民生活を守るための社会保障増税の時機 ドブ板も厭わぬ覚悟で挑め 政権を勝ち取る野党共闘構想」 『中央公論』(中央公論新社、2019年5月号)

藤井聡 『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社、2018年)

三橋貴明財務省が日本を滅ぼす』(小学館、2017年)

     『世界でいちばん!日本経済の実力』(海竜社、2011年)

 

日本の政府と民間の収支バランス

https://twitter.com/key_tracker/status/1156819116973408261

三橋貴明】「国の借金」プロパガンダを打破せよ!

https://38news.jp/economy/12281

国債等の保有者別内訳

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

マネタリーベース 時系列データ・注釈等

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/index.htm/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

第48回(2017年)衆議院議員総選挙

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC48%E5%9B%9E%E8%A1%86%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E7%B7%8F%E9%81%B8%E6%8C%99

第25回(2019年)参議院議員通常選挙

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC25%E5%9B%9E%E5%8F%82%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%80%9A%E5%B8%B8%E9%81%B8%E6%8C%99

枝野幸男 国民との約束

https://www.edano.gr.jp/manifesto.html

【有害番組】「平成のダメ政治家ランク」に山本太郎議員

https://yuruneto.com/dameseijika/

れいわの勢力拡大に怯える立民 「消費税減税研究会」への参加警戒

https://www.sankei.com/politics/news/191030/plt1910300024-n1.html

立民が“圧力” れいわ山本代表「消費税減税」会合に行くな

https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/263910