「官民格差」が広がった理由
国会で消費税増税の議論になると「消費税を引き上げる前に、徹底した無駄の削減を行うべき」と主張する者が少なくない。自民党の一部や、民進党・おおさか維新の会の議員が特に当てはまるだろう。
「無駄の削減」として必ず槍玉に挙げられるのは国家公務員給与の削減だ。実際に、2012~13年度は、東日本大震災の復興財源を捻出するための特例措置として手当を含めた給与の総額から平均7.8%が引き下げられている。日本の政治家の多くは、財源を捻出する方法が「消費税増税」と「社会保障や公務員給与の削減」の2つしかないと思っているようで呆れてしまう。
しかし、公務員と民間企業の「官民格差」が広がったのは、公務員の給与を決める人事院勧告のせいではなく企業が内部留保をため込んでいるからだ。内部留保が少なかった1990年代前半までは、国家公務員と民間企業に勤める男性の平均年収はほとんど変わらなかったのである(図7を参照)。
高校生や大学生の就職希望先ランキングで常に「国家公務員」と「地方公務員」が上位に来ているのも、民間企業が内部留保を活用して賃上げすることをせず、業績が悪化すれば整理解雇やコスト削減を行うことばかり必死になっているからこそ、安定した公務員が人気なのではないか。
日本の公務員人件費は少ない
その上、公務員の多くは中間層で、仮に給与を3割カットしても歳出削減できるのは年間1兆円程度に過ぎない。日本の公務員・公的部門職員の人件費はOECD加盟国の中でも最低で、決して財政を圧迫している原因ではないのだ(図8を参照)。
民進党の江田憲司代表代行は「国家公務員の人件費を2割削減すれば、10年間で10兆円の財源が生まれる」と自慢そうに語っているが、それなら法人税引き上げによる増収のほうがよっぽど期待できるだろう。ちなみに、民進党が選挙で自民党に勝てないのもこうした公務員に対する偏見を持っているからではないだろうか。
今の公務員バッシングの多くは、政治家や官僚に対する不満をそのまま公務員全体にぶつけている印象を受け、インターネット上では「民間企業は給与も上がらずサービス残業が当たり前なんだから、週休2日でボーナスも貰える公務員は有り難く思え」などの誹謗中傷も見られる。サービス残業は明らかに労働基準法違反なので会社に抗議すべきだろうが、それを公務員バッシングにすり替えるのは理解に苦しむところだ。
また、政治家の「身を切る改革」としてよく挙げられる議員定数の削減にも注意が必要である。日本の「人口100万人あたりの国会議員数」は5.63人(2015年)で、世界188カ国中、168位と下から数えたほうが早い。これ以上、国会議員の数が減らされれば官僚支配が強まり、少数派の意見が排除され自民党や民進党といった議席数の多い政党が有利になるだろう。
本当に身を切る改革を行うなら、まず先に総理大臣のボーナスや政党交付金から削減したほうが良いと感じる。
更に言えば、日本は中曽根内閣が土光臨調の「増税なき財政再建」を裏切って売上税を導入しようとした時代から「小さな政府派」が消費税増税に大きく関わっているのだ。「身を切る改革」という政治家のパフォーマンスに騙されることなく、消費税より先に法人税を引き上げて、社会保障を充実させていくべきではないだろうか。
<参考資料>
武田知弘 『税金は金持ちから取れ』(金曜日、2012年)
公務員給与の削減終了 わずか2年、「身を切る姿勢」はどこにいった
http://www.j-cast.com/2013/11/30190381.html?p=all
公務員白書
http://www.jinji.go.jp/hakusho/
国家公務員のボーナスを知る(2015年)
https://kyuuryou.com/w37-2015.html
https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm
世界・人口100万人あたりの国会議員数ランキング