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アメリカ大統領選挙2020 バイデン新政権の課題とトランプ大統領の功罪

※この記事は2020年12月8日に更新されました。

 

深刻なコロナ不況からの回復がバイデン新政権の課題

 2020年11月3日に実施されたアメリカ大統領選は、最終的に306人の選挙人を獲得した民主党ジョー・バイデンが勝利した。バイデン氏は「分断ではなく結束を目指す大統領になる」と述べて国民の融和を訴え、当選が確定すれば2021年1月に第46代大統領に就任して民主党が4年ぶりに政権を奪還することになる。その一方で、トランプ大統領は選挙で不正が行われたとして法廷闘争を続ける姿勢を示し、2024年の大統領選に再出馬する可能性も示唆していて今後の対応や支持者の動向が焦点になっている。

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 アメリカの次期大統領であるジョー・バイデンとは一体どのような人物だろうか。バイデン氏は1942年にペンシルベニア州アイルランド系移民の家庭に生まれ、父親の事業の失敗から一時は経済的に厳しい環境も経験した。父親の収入が安定するとカトリック系の私立高校に進み、デラウェア大学を卒業している。高校と大学ではフットボールの名選手として知られていたようだ。

 連邦上院議員に当選した直後に妻と娘が死亡するという悲劇を経て、民主党の重鎮として存在感を高めていたバイデン氏は1987年に大統領選への立候補を表明した。しかし、演説がイギリス労働党党首のコピーであると報道され批判が集まったことで選挙戦から離脱した。バイデン氏は2008年の大統領選にも出馬し、ヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ氏などと争ったが早い段階で離脱を迫られた。

 

 今回の大統領選では2019年4月に出馬を表明したが、予備選が始まる前の候補者間でのテレビ討論会でバイデン氏はよろめいた。民主党の候補者の一人であるカマラ・ハリス氏がバイデンの人種問題に関する過去の言動を批判したからだ。1960年代からアメリカでは貧しい地区と豊かな地区の子供たちを同じ学校で学ばせるための努力が行われてきたが、バイデン氏はこれに反対した過去があった。

 当時は人種問題についての社会通念も今とは違っていた背景があるにも関わらず、バイデン氏はこの批判に反論することができなかった。その影響でハリス氏はバイデンから副大統領候補に選出された。

 

 バイデン氏が大統領になったらどのような経済政策が展開されるだろうか。まず貿易政策では恐らくオバマ時代の自由貿易と比べ、保護貿易寄りになるのではないかと思われる。自由貿易の結果として、中西部にあった多くの工場が海外に移転してブルーカラー層の失業につながったからだ。バイデン氏の勝利が確定してから早速、日本のマスコミは「TPP復帰論」を報じ始めたが、実際にTPP復帰には慎重な立場を示していてブルーカラー層の支持を失わせないためには保護貿易に舵を取るしかなくなっているのが現実のようだ。

 また、税制政策では「富裕層を優遇する税制は必要ない」と述べ、所得税最高税率を37%から39.6%に引き上げるほか、トランプ氏が35%から21%に下げた法人税を28%まで戻すことを公約に掲げている。トランプ陣営は「バイデンの増税によって回復しつつある経済や株式市場は崩壊するだろう」と批判したが、あくまでもバイデン氏の増税は富裕層を対象にしているのであって多くの低所得者や中間層にとっては何も関係がないのだ。

 むしろ、所得税最高税率を引き上げると企業経営者たちの中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考え、従業員の給料も上昇しやすくなって経済的なメリットが大きいのである。

 

 更に、民主党の候補者たちにとって最大の課題は医療保険であり、バイデン氏はオバマ時代に成立した医療保険制度(オバマケア)を引き継いで、この制度から落ちこぼれている人々を救済する新たな制度の創設を訴えている。

 特に2020年の新型コロナウイルス以降、民主党バーニー・サンダース上院議員などが提唱している国民皆保険制度について支持する声が高まっており、調査会社のモーニングコンサルトと米政治専門紙のポリティコが3月27~29日にかけて実施した世論調査によれば回答者の55%が国民皆保険制度を評価している。コロナ感染による経済的負担を目の当たりにして、国民皆保険社会主義だとして反対してきたアメリカ人も心を動かされ始めたようだ。

 

 その一方で、バイデン新政権には課題も多い。アメリカの民主党はかつて労働組合を有力な支持母体とした政党で、炭鉱夫や自動車の組立工などラストベルトの労働者にも支えられていた。しかし、今の民主党は労働者たちの苦しい生活を直視することよりもLGBTや人種差別の問題などばかりに目を向けていて、そうしたマイノリティの問題にポリティカル・コレクトネス的な見地から関心を寄せる都市部のインテリたちとも密接に結びつくようになったと指摘されている。

 バイデン新政権はLGBTや人種差別の問題だけでなく、2016年の大統領選でトランプ氏に投票したプアホワイト(白人の低所得者層)を経済政策によって救済できるかどうかが課題になってくるだろう。

 

 

2024年の大統領選でトランプが再選される可能性

 また、今回の大統領選では敗北したトランプ氏の動向にも目が離せない。米政治専門紙ポリティコなどが11月24日に公表した世論調査で、2024年の大統領選の候補としてトランプ氏が共和党支持者の中で53%の支持を集めて首位となり、選挙後も依然として圧倒的な人気を保っているからだ。

 しかし、日本でツイッターYahoo!ニュースのコメント欄を見ていると自民党の熱烈な支持者がトランプ大統領を持てはやしているように感じられる。私は2016年に「消費税の歴史と問題点を読み解く」という本を執筆していて大統領選のことも調べていたのだが、当時は安倍首相がヒラリー・クリントン氏と会談したこともあってクリントンを支持する書き込みのほうが圧倒的に多かった。しかし、大統領選後に安倍首相とトランプ氏が親密関係をアピールするようになってからはトランプを高く評価する自民党支持者が急増したのである。

 彼らがトランプを支持する理由は、政策よりもバイデンが大統領になると日本政府と新たな関係を築かなければならないという部分があるだろう。本来の保守ならば、誰がアメリカ大統領になっても日本の国益を追求すべきなのだが、自民党の熱烈な支持者は日本政府が常にアメリカ大統領の顔色を窺っていないと気が済まないようだ。トランプ大統領自身も選挙から約1ヵ月が経ってバイデン政権への移行を認めているにも関わらず、未だに不正選挙だの言い訳している日本の自称保守派は非常に情けなく思う。

 

 とはいえ、日本でトランプを支持している著名人の中で気になっている人物もいる。それは90年代からヒップホップMCとして活動するKダブシャイン氏だ。彼は2020年4月に星野源さんのコラボ動画「うちで踊ろう」に安倍首相(当時)が便乗した際に「ちゃんと歌で政権批判しないから、こういう利用のされ方するんだよ。ポップシンガーの宿命」と批判したことが話題にもなった。

 Kダブシャイン氏がトランプ大統領を支持する理由は、彼がマイノリティのために様々な政策を行っているからだという。例えば、カニエ・ウェストの妻であるキム・カーダシアン氏が働きかけた暴力を伴わない犯罪で投獄された受刑者たちを早期に釈放することを目的とした「ファースト・ステップ・アクト」に署名したり、政治家のはじめ多くの黒人エリートを輩出している歴史的黒人大学(HBCU)のために多額の予算を確保したりした。こうした政策を受けて黒人の中には民主党支持をやめてトランプ支持に乗り換える人が増え、彼らの動きはイギリスが欧州連合から離脱したブレグジットにちなんでBLEXIT(Black Exit)と呼ばれている。

 

 私はトランプ大統領が選挙で勝てなかった理由は新型コロナウイルス対策の予算がまだまだ不足していたことにあると思う。そもそも、アメリカ経済がコロナ前まで好調だったのはトランプ氏がオバマ政権以上に財政出動を行っていたからである。2016~2020年にかけての政府総支出は日本が203.4兆円から253.3兆円まで1.25倍程度の増加なのに対して、アメリカは6兆6487億ドルから9兆8185億ドルまで1.48倍も増加しているのだ(図83を参照)。

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 共和党を熱烈に支持している幸福実現党などは、トランプ政権が法人税所得税を減税したからアメリカ経済が回復したと言っているが、それなら法人税減税を繰り返しているにも関わらずデフレ不況が長らく続いている日本はどうなってしまうのだろうか。

 日本の場合、経団連の要求によって法人税を減税する一方でプライマリーバランス黒字化目標など緊縮財政は維持しており、景気対策として減税や財政出動を推進するトランプ政権とはむしろ対照的だと言えるだろう。景気回復のためには法人税所得税を減税するよりも、財政出動を行ったほうが効果が大きいのは明らかである。

 

 しかし、アメリカの完全失業率は2020年4月の14.7%から2020年11月の6.7%まで7ヵ月連続で改善しているものの、コロナ前である2020年2月の3.5%と比べると高止まりした状況が続いている。

 景気悪化が大統領選を左右したのは今回に限った話ではなく、民主党ビル・クリントンが現職のジョージ・H・W・ブッシュに勝った1992年の大統領選でもアメリカの失業率が1989年の5.3%から1992年の7.5%まで悪化していた(図84を参照)。その点、今回の大統領選は深刻なコロナ不況の真っ只中に実施されたため、現職のトランプ氏にとって非常に不利な選挙だったと言えるだろう。

 トランプ氏は大統領を辞めてもアメリカの政治に影響を与え続けるのは確実で、バイデン新政権が4年間で経済を立て直すことができなければ2024年の大統領選でトランプ氏が再選されるかもしれない。今後も不透明さが続くアメリカの政治の動向について注目していきたいと思う。

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<参考資料>

高橋和夫 『最終決戦 トランプvs民主党』(ワニブックス、2020年)

小川寛大 「南北戦争を知らずして、アメリカを語るなかれ」 『月刊日本』(ケイアンドケイプレス、2020年12月号)

Kダブシャイン 「それでも私はトランプを支持する」(同上)

 

バイデン前副大統領が勝利宣言「分断ではなく結束を」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201108/k10012700691000.html

TPP復帰に慎重 不透明感漂うバイデン氏の通商政策

https://www.nishinippon.co.jp/item/n/662750/

増税所得再分配のバイデンVS減税テコに成長狙うトランプ

https://www.tokyo-np.co.jp/article/53529

コロナ危機でアメリカ版「国民皆保険」への支持が急上昇

https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-92970.php

トランプ氏の人気は衰えず…4年後の米大統領選、共和党候補として首位の支持53%

https://www.yomiuri.co.jp/world/uspresident2020/20201125-OYT1T50239/

米11月の失業率6.7% コロナ感染急拡大 雇用の回復ペース鈍化

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201204/k10012747301000.html