消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待

公共事業を増やして一時的に景気回復させた小渕政権

 今年4月30日、1989年1月8日から続いた「平成」という時代が終了した。日本の政治を振り返るとこの30年間で竹下政権から安倍政権まで17人の首相が移り変わってきたが、その中で最もマシだったのは「平成おじさん」でも有名な1998~2000年の小渕政権だったように思う(写真を参照)。当時、自分は小学1~3年生で初めてリアルタイムで覚えている総理大臣でもある。

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 平成不況の真っ只中に実施された1998年7月の参院選では自民党が敗北し、その責任を取って橋本首相が辞任する。7月30日に就任した小渕首相は当初「冷めたピザ」「凡人」と批判されていたが、橋本政権が1997年11月に制定した「財政構造改革法」を凍結し、国債発行を財源に1998年度の公共事業関係費を過去最高の14.9兆円まで増やした。小渕首相は大胆な経済政策を実行することで「私は世界一の借金王」と自嘲していたが、消費税増税後のデフレ不況に苦しむ1998年当時の日本にとって国債発行と公共事業の拡大は正しい政策だったと言えるだろう。

 

 実際に小渕政権の支持率は1998年11月の20%から1999年8月の53%まで上昇し、実質GDP成長率も1998年のマイナス1.1%から2000年のプラス2.8%まで回復している。90年代は不況と言われながらも、政府の公共事業によってかろうじて経済成長していた時代なのだ。

 また、バブル崩壊後に増加していた年収100万円以下の男性貧困層の数も1998年の66万9019人から2000年の49万9517人へと減っている(図78を参照)。労働力調査によれば建設業で働く従業員は1950年代以降、一貫して8割以上が男性なので政府の公共事業関係費が男性の所得にも影響しやすいのだろう。

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 しかし、小渕首相が脳梗塞で辞任してから2000年4月に就任した森政権は財務省の緊縮路線に戻り、2001~06年の小泉政権では公共事業が大幅に削減された。小泉首相の「古い自民党をぶっ壊す」というスローガンは、政府の公共事業や社会保障支出によって分厚い中間層を生み出してきた高度経済成長期の自民党を破壊することに他ならなかったのである。

 安倍政権も当初は国土強靭化として公共事業を推進していたが、実際に2017年度の公共事業関係費は7.0兆円と1998年の半分程度に過ぎず、その影響もあって「世界の一人当たりの名目GDPランキング」が2000年の2位から2017年の25位まで下落している。平成は緊縮財政のせいで、日本が「先進国」から「衰退途上国」に転落してしまった時代なのだ。

 更に、2017年には年収100万円以下の男性貧困層が94万8835人まで増加し、1978年以降の過去40年間で最多となっている。安倍首相は「アベノミクスが成果を上げて、就業者数が過去最高になった」と自画自賛するが、賃金関係なく就業者数だけ増やしてワークシェアリングを進めてきたのが現実だろう。一定の収入を得ないと結婚できない20~30代男性にとって、年収100万円程度では失業しているのと同じことである。

 

 また、小泉政権以降の自民党が公共事業を削減してきたことで、高度経済成長期に作られた道路や橋などがどんどん老朽化しつつある。アメリカでは1930年代のニューディール政策で作られたインフラが80年代に老朽化した問題を抱えていたが、新自由主義を推進しながら財政出動を続けて1996~2012年の公的固定資本形成を1.93倍も増加したのだ。

 日本でも2012年12月に笹子トンネルの崩落事故が発生しているが、高度経済成長期から50年以上も経過して1996~2012年の公的固定資本形成を0.47倍に縮小したにも関わらず、大規模なインフラの崩壊が相次がないのは奇跡的だとしか言い様がないだろう。「平成」が終わって「令和」の時代に入った今だからこそ、政府は公共事業費を過去最高に増やして一時的に景気回復させた小渕政権を再評価すべきである。

 

 

富裕層減税と労働規制の緩和が少子化を加速させた

 だが、小渕政権には功績だけでなく「罪」の部分も大きい。具体的な例を挙げるとしたら所得税法人税を大幅に減税し、労働者派遣法を改正してしまったことだろう。富裕層に対する減税と労働規制の緩和を行うことによって、90年代まで続いていた戦後の一億総中流社会を崩壊させてしまった。

 所得税の累進性が最も高かったのは1974~83年で中曽根政権の時代から徐々に引き下げられ、1995~98年には課税所得が3000万円以上の富裕層に対して50%の最高税率が適用されていたが、小渕政権はそれを1999年に課税所得が1800万円を超えればどれだけ稼いでも37%の最高税率しか適用されないように減税したのである。

 

 所得税の累進性が高いと企業経営者の中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考えて従業員の給料も上昇しやすくなるが、最高税率の引き下げはそのプロセスを壊すことになってしまう。実際に、労働者の平均月収は1998年の36.6万円から2018年の32.4万円まで下がり、1ヵ月では4.2万円程度だが年間にすると50.4万円にもなって減少額が大きいことがわかるだろう(図79を参照)。

 特に娯楽・文化では小渕政権だった1998年に音楽ソフトの売上が6075億円とピークを迎えて2018年には2403億円まで落ち込んでいるが、これはCDからダウンロードや定額制ストリーミングの時代に移行しただけでなく、20~30代の所得が減少して娯楽に使えるお金が減ったことも大きいのではないだろうか。デフレ不況は国民を貧困化させるだけでなく、音楽文化まで破壊してしまうようである。

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 80~90年代に所得税が減税されてきた理由は主に「富裕層の消費を促して経済を活性化させる」というトリクルダウン理論が言われていたが、日本で100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2005年の141万人から2017年の316万人まで2.24倍も増加したのに対して、家計最終消費支出は2005年の274.5兆円から2017年の290.8兆円までたったの1.06倍しか増加していない(図80を参照)。

 家計最終消費支出とは、「民間最終消費支出」から私立学校、宗教団体、政党、福祉関係のNPOなど営利を目的とせず社会的サービスを提供している民間団体の消費を除いた額で、より家計の個人消費を表す数値に近いと言える。これが増加していないのは、富裕層の資産が増えても国民全体の消費は伸びないことの証左ではないだろうか。

 小渕首相はケインズ経済学に基づいて減税と公共事業の拡大を進めたのだろうが、減税するのなら所得税法人税よりも消費税を1997年以前の3%に戻すべきであった。そうすれば仮に小泉政権以降の自民党が歳出削減しても、個人消費が回復して一人当たりの名目GDPランキングが25位まで落ち込むことはなかっただろう。

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 また、小渕政権は1999年12月に労働者派遣法を改正し、それまで専門26業務に限定されていた「ポジティブリスト方式」を港湾運送、建築、警備、医療、製造業など以外は原則自由化するという「ネガティブリスト方式」に変えてしまった。派遣業務の拡大は1995年に日経連が発表した『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』に基づくもので、従業員を「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3つのタイプにわけ、雇用柔軟型として非正規雇用派遣労働者を大幅に増やす提言を行っている。

 小渕政権の後も労働者派遣法は2004年に製造業での採用が解禁され、2015年からは専門26業務の枠組みを廃止して企業が人さえ変えれば同一事業所の派遣使用期間をいくらでも延長できるようになった。その影響で非正規雇用の割合は1998年の23.6%から2018年の37.9%まで上昇し、主に20~30代の労働環境が悪化して少子化の原因の一つにもなっていることが明らかである。

 

 

与党も野党もれいわ新選組の経済政策を見倣うべき

 小渕氏の死後、森政権から安倍政権までほとんどの内閣が緊縮財政を続けて野党でも公共事業を推進する政党が少ないが、その中で私は参議院議員山本太郎氏が結成した「れいわ新選組」に期待している。2013年の参院選で当選したときに山本氏はイロモノ扱いされていたが、最近では安倍首相と仲が良かった経済評論家の三橋貴明氏と対談するなど脱原発以外にも経済政策で支持を伸ばしている。

 れいわ新選組は消費税廃止、公共事業の拡大、公務員の増加、奨学金の返済免除、一次産業戸別所得補償、所得税法人税の累進性強化、政府が補償して最低賃金を引き上げるなど戦後の福祉型資本主義を取り戻す真っ当な政策を掲げた真の保守政党で、原発即時禁止や米軍基地建設の中止を除けば、高度経済成長期の自民党がやっていたこととほとんど同じではないだろうか。

 公共事業を増やして景気回復させた一方で、富裕層減税と労働規制の緩和を行って一億総中流社会を崩壊させた小渕政権の「功績」と「反省」を踏まえた政党でもあると言える。

 

 政府はれいわ新選組の政策を参考にまずは消費税10%への増税を中止し、将来的に物品税制度に戻していくべきである。国民経済計算を見ると昭和後期の1959~1988年では名目GDP成長率の平均が12.4%、実質GDP成長率の平均が6.6%と高かったのに対し、平成の1989~2018年では名目GDP成長率の平均が1.1%、実質GDP成長率の平均が1.3%と大幅に下落しており、物品税の時代と比べて消費税を導入してからの30年間は名目では10分の1以下、実質では5分の1以下しか成長していないのだ。

 海外では2006~08年にカナダとイギリスが付加価値税を引き下げていたが、2018年にはスイスでも8%から7.7%に引き下げ、マレーシアは6%の消費税を完全に廃止して「物品税」に近い売上・サービス税(SST)に戻している。深刻なデフレ不況であるにも関わらず、たった5年間で消費税率を倍にする日本がいかに時代に逆行しているのかわかるだろう。

 

 この他にも前述の通り、建設業の賃金を引き上げて公共事業費を増やし、災害に備えて老朽化した道路や橋などを修復する必要がある。1998~2018年の政府総支出の伸び率は新興国の中国、カタール、インドで多いのはもちろんのこと、イギリスが239%、カナダが220%、スウェーデンが196%、フランスが184%、ドイツが154%と先進国でも当たり前に政府の公共投資で経済成長を続けているのに、日本では98%と1998年より政府総支出が少なく緊縮財政がデフレ不況の長期化に繋がっていることが明らかである。

 アメリカは2001年以降のデータしか公表していないが、それでも211%となっている(図81を参照)。

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 更に、れいわ新選組は「政府が補償して最低賃金を1500円まで引き上げる」と言っていて、これも日本がデフレ脱却するために必要な政策だろう。日本の最低賃金は年々上昇しているが、欧米と比較すると80年代から新自由主義を推進してきたアメリカでもワシントン州が12ドル(1320円)、イギリスでも25歳以上が8.21ポンド(1150円)なのに対し、東京は985円(いずれも2019年4月現在)とまだまだ安い。

 最近ではアメリカの連邦最低賃金を15ドル(1650円)まで引き上げる公約を掲げたバーニー・サンダース氏や、イギリスの最低賃金を10ポンド(1400円)まで引き上げる公約を掲げたジェレミー・コービン氏が若年層から支持を集めており、日本の「最低賃金1500円」も決して非現実的な政策ではないことがわかるだろう。

 安倍政権の熱烈な支持者たちは「韓国は最低賃金を引き上げて失業率を悪化させた」と言うが、韓国では最低賃金を上げても政府の中小企業支援策が圧倒的に足りなかったから経済が停滞しているのが現実で、最低賃金の引き上げそのものを否定するのは悪質な印象操作である。

 

 財政出動最低賃金引き上げの財源として、れいわ新選組は年率2%のインフレ目標に達するまで国債発行を続けると言っている。ただ、年率2%程度では本当に日本がデフレ脱却したとは言えず、できれば年間の名目GDP成長率が5%を超える経済状況になるまで国債発行を続けても良いと思う。名目成長率が5%を超えたら20~30代の所得も増加して、間違いなく少子化が改善するだろう。

 これから始まる「令和」は反緊縮に転じて1998年から続くデフレ不況を終わらせる時代にしなければならない。そのためにも山本太郎氏の経済政策を与党も野党も見倣うべきである。

 

 

<参考資料>

小此木潔 『消費税をどうするか 再分配と負担の視点から』(岩波書店、2009年)

塩田潮 『内閣総理大臣の日本経済』(日本経済新聞出版社、2015年)

植草一秀 『日本経済復活の条件』(ビジネス社、2016年)

藤井聡 『公共事業が日本を救う』(文藝春秋、2010年)

全労連・労働総研編 『2016年国民春闘白書・データブック』(学習の友社、2015年)

森岡孝二 『雇用身分社会』(岩波書店、2015年)

萩原伸次郎 訳著 『バーニー・サンダース自伝』(大月書店、2016年)

松尾匡 『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、2016年)

 

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/common/001270879.pdf

政治意識月例調査 1998年

https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/political/1998.html

国民経済計算 2019年1-3月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe191_2/gdemenuja.html

民間給与実態統計調査 長期時系列データ

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

世界の一人当たりの名目GDPランキング

https://ecodb.net/ranking/old/imf_ngdpdpc_2017.html

公共投資水準の国際比較

https://www.sato-nobuaki.jp/report/2017/20170529-002.pdf

所得税 最高税率の推移

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E#%E7%A8%8E%E7%8E%87%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB

労働政策研究・研修機構 図1 賃金

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0401.html

日本のレコード産業 2019

https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2019.pdf

World Wealth Report  Compare the data on a global scale

https://www.worldwealthreport.com/hnwi-market-expands

「民間最終消費支出」と「家計最終消費支出」の違い

https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/indicator/20130117_006677.pdf

れいわ新選組 今日本に必要な緊急政策

https://www.reiwa-shinsengumi.com/policy/

マレーシアの売上・サービス税(SST

https://kabu-yutai.com/2018/12/08/post-7610/

各国の最低賃金(2019年6月20日更新)

http://ww1.tiki.ne.jp/~happy-n/sub100.html