
法人税の高い1980年代のほうが企業は国内で仕事をしていた
産経新聞社とFNNが2025年2月22~23日に実施した合同世論調査で、若年層の政党支持率に異変があった。18~29歳では国民民主党が18.9%でトップとなり、自民党の11.8%を上回った。30代では国民民主党が15.9%、れいわ新選組が14.4%となり、自民党は11.2%で3番手に甘んじた。
30代でれいわ新選組の支持率が高まっている背景を知るには、原田曜平氏の『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(2020年、光文社)を読むとわかりやすいだろう。原田氏は1987~1995年生まれのゆとり世代の特徴について、「失われた20年や100年に一度の金融危機などバブル崩壊後の日本が経済的に弱っていた暗いムードの時代に人生の多くを過ごしてきた世代」だと述べている。確かに1987~1995年生まれは2025年現在に30~38歳で、リーマンショックの影響を受けた世代がれいわ新選組を支持しているとも言えるだろう。
また、30代がれいわ新選組や国民民主党を支持する理由として石破政権は若年層ほど人気がない点も指摘しなければならない。朝日新聞社が2024年8月に実施した全国世論調査で次の自民党総裁に誰が相応しいと思うかについて年代別に質問したところ、30代は小泉進次郎氏が21%、河野太郎氏が12%、石破茂氏が11%、高市早苗氏が11%という結果になった。
30代で石破氏より進次郎氏や河野氏の支持率が高かったのは、小泉純一郎政権(2001~2006年)の時代にデジタルネイティブだった影響も大きいだろう。河野氏は内閣のデジタル大臣を担当する一方で、ツイッターで自身に対して批判的なアカウントを平気でブロックすることが問題にもなった。だが、今の30代は2ちゃんねるや学校裏サイトなどのネットいじめを見てきた世代であり、河野氏のブロック行為についてあまり違和感を覚えないのではないだろうか。そのため、仮に石破政権が辞任して進次郎氏や河野氏、高市氏などが首相になった場合はれいわ新選組や国民民主党を支持している30代の一部が自民党支持になる可能性も考えられる。
その一方で、30代のれいわの支持率が上昇していることを痛烈に批判しているのが消費税増税の賛成派として知られる経済学者の池田信夫氏である。池田氏は「山本太郎代表の指摘するように世帯所得の中央値が下がり、相対的貧困率が上がったことは事実だが、その原因は消費増税ではない。彼も認めるように法人税は下がったので、租税負担率は26.7%で1990年とほぼ同じだ。上がったのは社会保障負担率で、1990年の約10%から今は18.4%になった」と述べている。しかし、山本氏は決して「消費税廃止の代わりに社会保険料を引き上げろ」と言っているわけではなく、財源は所得税や法人税の累進性強化と国債発行である。
また、池田氏はれいわの消費税増税の目的は法人税の減税という主張に対して「法人税は下がったが、法人税収は上がったのだ。もし法人税率が1990年の40%のままだったら、日本の税率は世界最高となり企業は海外に脱出して成長率はマイナスになっただろう」と反論している。だが、国と地方を合わせた法人実効税率は1986年度の52.92%から2022年度の29.74%まで引き下げられた一方で、海外に拠点を置いて活動する企業の数を表した現地法人企業数は1986年度の4213社から2022年度の2万4415社まで5.8倍も増加していて、法人税の高い時代のほうが企業は国内で仕事をしていたのだ(図46を参照)。
更に、池田氏は「法人税収は上がった」と言うが、企業の経常利益は1989年度の38.9兆円から2023年度の106.8兆円まで増加する一方で、国の法人税収は1989年度の19.0兆円から2023年度の15.9兆円まで減少している。もし、2023年度の経常利益に1989年当時の法人税率が適用された場合、単純比較で法人税収は52.1兆円にものぼっていたと予想され、これは2023年度の法人税収である15.9兆円より36.2兆円も多かったことになるだろう(図47を参照)。
池田氏は挙句の果てには「れいわの支持層である若年フリーターは社会保険料を負担していないから、消費税以外の税は知らない」とも言っているが、若年フリーターの多くがれいわを支持しているという根拠を全く示していない。念のため、マーケティング・アナリストの三浦展氏が2020年11月に行った調査によれば、25~34歳の男性は高所得者ほど安倍政権を評価して低所得者ほど評価しない傾向が確認されているが、それがれいわ新選組への支持につながっているかどうかはわからない。仮に若年フリーター全員がれいわを支持すれば国会の議席獲得数は14人どころではないだろう。


日本経済の長期低迷を終わらせるために消費税廃止が必要
また、池田信夫氏は「山本太郎が首相になって消費税を廃止したら何が起こるか。税収は24兆円ぐらい足りなくなるので、その分は国債を発行するしかない。年間約170兆円の国債発行は約200兆円になり、国債は消化できなくなって暴落(金利は上昇)するだろう。それを日銀が買うとマネタリーベースが激増し、激しいインフレが起こる。黒田総裁の時代には日銀が何をしてもインフレにならなかったが、今インフレは加速している。アメリカのように10%近くになってもおかしくない」とも述べている。
しかし、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料とエネルギーを除く総合)は2025年2月に対前年比プラス1.5%と日銀が目標に定めている2%には届いておらず、国債を発行する余地はまだまだあると言えるだろう。また、2018年に6%の消費税を完全に廃止して物品税に近い売上・サービス税(SST)に戻したマレーシアではコアコアCPIが2022年11月に対前年比プラス4.2%まで上昇したが、その後は2025年2月の1.9%に落ち着いている。池田氏の言う「消費税を廃止すると10%近くの激しいインフレが起こる」というのは全く妄想なのだ。
更に、池田氏は「法人税率を23.2%に下げても産業空洞化は止まらない。その原因は人口減少・高齢化だけではなく、国内の生産性が上がらないからだ。それがこの30年の衰退の大きな原因だが、れいわ信者にはわからないだろう」と述べている。池田氏はどうやら日本経済が低迷しているのは生産性向上が足りないからだと言いたいようだ。だが、労働力調査を見ると65歳以上の就業者数は2004年の480万人から2024年の930万人まで20年間で1.94倍も増加していて、働く高齢者が増えている点においては日本の生産性は向上しているとも言える。その一方で、65歳以上の1ヵ月当たりの消費支出(二人以上の世帯)は2004年の25万3627円から2024年の26万5898円まで20年間で1.05倍しか増加していない。日本が長引くデフレに苦しんでいるのは生産性ではなく消費の低迷に原因があるのではないだろうか(図48を参照)。

それに加えて、池田氏は『「強すぎる自民党」の病理 老人支配と日本型ポピュリズム』(PHP研究所、2016年)の中で、「高度成長期には、人口が急速に増える一方で若年層の比率も高まったので、こうした人口ボーナスによって高度成長が実現したが、1990年代以降はその逆に人口オーナス(人口減少と高齢化と労働人口減少)が、日本経済の長期的停滞の最大の原因となっている。『人口が減少しても成長している国はある』という人がいるが、それはヨーロッパの小国や東南アジアの発展途上国で、資本蓄積が進んでいる国だ。日本のように資本蓄積が成熟した大国で労働人口が急速に減少したら、経済が停滞してデフレになるのは当然だ」と典型的な人口減少衰退論を述べている。
だが、ヨーロッパの小国や東南アジアの発展途上国の他に難民を受け入れる前のドイツでも人口が減少していたのだ。ドイツの人口は2002年の8158万人から2011年の8028万人まで0.98倍に減っていたが、名目GDPは2002年の2兆2233.6億ユーロから2011年の2兆7478.1億ユーロまで1.24倍に増加している。その国が経済成長するかどうかは人口の増加率ではなく、政府がどれだけ公共投資を行っているかに左右されるのだ(図49を参照)。

経済評論家の三橋貴明氏はこうした人口減少衰退論が国民に幅広く根付いてしまっていることについて、「太平洋戦争敗北後にGHQが主導した自虐史観を植え付けられた世代を中心に『日本のような国は衰退したほうがいい』という価値観が蔓延しているためではないのか。その種の価値観を持つ国民にとって『日本は人口減少によるデフレで衰退する』と想像をめぐらせることが気持ちいいのではないかと推測する」と述べている。
日本のような国は衰退したほうがいいという価値観は、まさに池田信夫氏のような「自民党は放漫財政だ」と的外れな批判を繰り返している緊縮派の経済学者にこそ蔓延しているのではないだろうか。1990年代から続く日本経済の長期低迷を終わらせるためにもれいわ新選組が主張している通り消費税廃止が必要なのだ。
<参考資料>
三浦展 『大下流国家 「オワコン日本」の現在地』(光文社、2021年)
三橋貴明 『日本「新」社会主義宣言』(徳間書店、2016年)
30代の支持率、自民が3番手に転落 国民民主、れいわの後塵拝す
https://www.sankei.com/article/20250224-EX2SAFB77FJVXONVV4GWKUYMZE/
次の自民党総裁に世論調査で「ふさわしい」上位の6人を分析すると
https://www.asahi.com/articles/ASS8Y0RVQS8YUZPS009M.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E9%87%8E%E5%A4%AA%E9%83%8E
れいわ新選組はなぜ若年フリーターに受けるのか
https://agora-web.jp/archives/250224111548.html
地方法人課税の改革、外形標準課税
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/20140424_26dis34kai4.pdf
法人課税に関する基本的な資料
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/c01.htm
海外事業活動基本調査
https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/index.html
法人企業統計調査
https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/index.htm
一般会計税収の推移
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.pdf
消費者物価指数(CPI) 時系列データ
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00200573&tstat=000001150147
マレーシア コアインフレ率
https://jp.tradingeconomics.com/malaysia/core-inflation-rate
労働力調査 長期時系列データ
https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html
家計調査 家計収支編
ドイツの人口・就業者・失業率の推移
https://ecodb.net/country/DE/imf_persons.html
ドイツのGDPの推移