※この記事は2019年9月14日に更新されました。
国税滞納のうち57.3%が消費税で占められている
消費税が10%に増税されるまで残り2週間余りとなってしまったが、今こそ「消費税は国税の中で最も滞納の割合が多い」という事実について知るべきではないだろうか。「消費税になぜ滞納金が発生するのか?」については、消費税という税制の仕組みを理解する必要がある。
私たちが買い物をするとき、レジでお金を支払っているため、消費税を納めているのは消費者だと思っている方も多いだろう。だが、これは大きな誤解で、実際に消費税を納める義務があるのは事業者だ。事業者は、決算や確定申告の際に、一定の計算による消費税額を国などに納付する義務があり、そこで消費税を販売価格に上乗せ(転嫁)することが認められている。
しかし、販売価格に上乗せされた消費税を、モノを買うときに消費者が負担するのは事業者が値引きしていない場合で、中小・零細企業の中には少しでも商品を安く売るために、消費税を価格に転嫁できないこともあり、結果的に自腹を切って納税する例が少なくない。その影響もあって消費税は国税の中で最も滞納額が大きく、2018年度に発生した消費税の滞納税額は3521億円と、国税全体の滞納額(6143億円)における57.3%を占めている。
消費税は法人税や所得税と違って、年間売上高が1000万円以上の場合、事業者が赤字でも納税しなければならず、滞納税額が減らないのはそれだけ消費税を納められない企業が多いからである。消費税は事業者が預かる「間接税」ではなく、事業者が納める「直接税」と言ったほうが正しいだろう。
国税の新規発生滞納税額は1992年度の1兆8903億円をピークに減少しているが、これは主に所得税、法人税、相続税の滞納が減ったからで、消費税だけは依然として滞納額が多いのだ(図85~86を参照)。ちなみに、図85を見ると「消費税の滞納額も1998年から減少しているのでは?」と思うかもしれないが、国税全体に占める滞納額の割合は1990年度の11.1%から2018年度の57.3%まで増加している。
更に、消費税の滞納額は1996年から98年度、2013年から15年度へと税率が引き上げられた時期に増えており、2019~20年度は10%増税の影響で消費税を納められない事業者が増加するのは明白である。
消費税という税制に欠陥があるから滞納が発生する
だが、国税庁は消費税の滞納が増えているのを問題視するどころか、「自営業者=脱税」のイメージを作ることに必死だ。
例えば、少し古いが1999年11月25日には前年の1998年に消費税の新規発生滞納税額が過去最多になったことを受けて、「消費税は消費者からの預り金的な性格を有する税であるという趣旨の広報活動を更に徹底する必要がある」という通知を出している。税金の問題に関心を持っている方なら、一度は「消費税は消費者からの預り金」という言葉を聞いたことがあるだろう。
国税庁が子ども向けに広報活動を行っている税の学習コーナーでも、『消費税を通して私たちも納税している』という明らかな間違いを教えている。前述の通り、消費税を納税するのは消費者ではなく事業者であって、子どもたちが『消費税を通して私たちも納税している』という誤解を持つことは、逆に言えば「消費税を納められない事業者は悪質業者」と偏見を助長することにもつながりかねない。
国税庁だけでなくマスコミでも、2001年5月18日の産経新聞で「消費税は私たち庶民が少しでも日本の社会が住みよい、安定した姿になりますようにとの願いから必死に納めているものです。その義務を果たさず、納税すべきお金を他に使うのは最も悪質な脱税行為と言っても過言ではありません。どうして新聞はもっと大きく報道して国民に詳しく知らせないのですか? 政治を先頭に消費税滞納の根絶方法を早急に確立することが急務だと思います」と読者から怒りの声を掲載し、「自営業者=脱税」のイメージを作るキャンペーンを展開している。
2008年4月16日の衆議院財務金融委員会でも、民主党の下条みつ議員が滞納された国税の徴収を急げとの趣旨で「釈迦に説法ですけれども、源泉所得税とか消費税というのはいわば中小零細事業主の一時預り金でございますよね。税金を払うのにも、目の前に来ることを先に優先して、お客さんが払った消費税や従業員から取った源泉部分を国に払わない。まず手前の自分のところで処理してしまう。この結果、こういう滞納連鎖が起きていると私は思います」と税金滞納者をけん制した。
国会では消費税引き上げについて「増税したら景気が悪くなる」という反対意見はあっても、「滞納金が多いから」という反対意見は聞いたことがない。最近ではやっと山本太郎元議員が演説の中で国税滞納の約6割が消費税で占められていることを指摘してくれたが、もし政治家の方々が「消費税は国税の中で最も滞納税額が多い」という事実を知らずに増税するかどうかの議論を行っているとしたら、あまりにも勉強不足ではないだろうか。
この他にも、国税庁は過去にタレントを起用したポスターで消費税の滞納者を非難したこともあるが、そもそも消費税の滞納額が国税全体の半数以上を占めているのは、どの事業者も売上に対して一律の額が徴収される「消費税」という税制に欠陥があるからだろう。
消費税増税を批判する際は、景気の問題だけでなく滞納の問題についても取り上げていく必要があると感じる。
地方の消費税を安くして「地方創生」を実現しよう
安倍政権が進める経済政策の一つに地方創生がある。地方創生とは、東京一極集中を是正して地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的にしている。
2014年には、元岩手県知事の増田寛也氏が「何も対策を取らなければ、2040年までに全国896の自治体が消滅してしまう可能性がある」というレポートをまとめた『地方消滅―東京一極集中が招く人口急減』(中央公論新社)がベストセラーになった。
その一方で、政府が進めている地方創生は必要なインフラ整備を放棄し、「各地方は自助努力せよ。成功しているところは地方交付税を厚くし、上手くいかないところは自己責任」と、各地域の競争を煽っているだけなのではないかという批判も存在する。
しかし、私が注目しているのは「地方ほど消費税を滞納する割合が高い」という問題だ。各地域の国税局別に滞納額の割合(2017年度)を見ると東京が1.60%なのに対し、金沢が2.01%、広島が2.29%、名古屋が2.37%、大阪が2.41%、高松が2.63%、関東信越が3.01%、仙台が3.47%、福岡が3.52%、札幌が3.53%、熊本が3.67%、沖縄が3.76%と地方ほど割合が高くなることがわかるだろう(表12を参照)。
消費税10%増税は政府が進めている地方創生にも大きく反する愚策なのである。
地方のほうが消費税を滞納する割合が多いのは、東京などの都市部よりも経済的なハンデが大きいことが原因だろう。例えば、雇用者に占める非正規雇用の割合(2017年)は東京都が32.6%なのに対し、滞納の割合が最も多い沖縄県では41.3%だ。都道府県別の平均年収(2018年)も東京都が622万2900円なのに対し、沖縄県は369万4800円(東京都の59.4%)と宮崎県の365万5300円(58.7%)に次いで少ない。子どもの貧困率(2012年)も東京都が10.3%なのに対し、沖縄県は37.5%となっている。
更に、沖縄は全国の米軍専用基地のうち74%を負担してもらっている問題を忘れてはならない。だが、「沖縄の経済は米軍基地に依存している」というのも事実ではなく、県民総所得に占める基地関連収入の割合はアメリカ統治下だった1965年の30.4%から2015年の5.3%まで低下している。今後、沖縄が米軍基地に依存しない経済を築くためには、県民総所得を拡大させてこの比率を更に引き下げる必要があるだろう。
そのためにも政府は消費税率を都道府県別にわけて、東京都は5%、沖縄県は0%、それ以外の地域は3%とすべきだと思っている。地方の消費税が東京より安くなれば、各地域の税負担が減って本当の地方創生が実現するのではないだろうか。
<参考資料>
小澤善哉 『図解 ひとめでわかる消費税のしくみ』(東洋経済新報社、2013年)
醍醐聰 『消費増税の大罪 会計学者が明かす財源の代案』(柏書房、2012年)
行政監察情報 『滞納防止策の改善求める 消費税滞納額増で国税庁に意見表示』(官庁通信社、1999年)
大久保潤、篠原章 『沖縄の不都合な真実』(新潮社、2015年)
国税庁 統計情報
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/index.htm
平成30年度租税滞納状況について
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/sozei_taino/index.htm
暮らしを支える税を学ぼう
https://www.youtube.com/watch?v=AM8Um27CW4Y
砂漠で金を稼げと言うのか?「地方を見捨てた」山本幸三地方創生大臣
http://www.mag2.com/p/money/274082/2
平成29年就業構造基本調査 主要統計表(都道府県)
平成30年賃金構造基本統計調査 都道府県別
子育て貧困世帯 20年で倍 39都道府県で10%以上
https://mainichi.jp/articles/20160218/k00/00m/040/108000c
米軍基地と沖縄経済について
https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/kikaku/yokuaru-beigunkichiandokinawakeizai.html