緊縮財政を続けている日本で軽減税率は景気対策にならない
2019年10月から消費税が10%に増税されたのと同時に、酒類と外食を除いた飲食料品に8%の軽減税率が導入された。それによりテイクアウトの食品は税率が変わらないため、増税されても影響が少ないと安心しきっている人が多いのではないだろうか。
しかし、食品に8%の消費税というのは国際的に見ても高いのが現実である。例えば、財務省のデータによれば「国税収入に占める消費税収の割合」は日本が29.2%なのに対し、イギリスは25.8%、イタリアは27.3%だ。付加価値税が20%のイギリスと22%のイタリアで割合が日本と変わらないのは、イギリスでは食品が非課税で、イタリアでは紅茶やパスタなど生活必需品の軽減税率が4%と安いからだろう。また、菊池英博氏の試算によれば付加価値税が25%のスウェーデンは「国税収入に占める消費税収の割合」が18.5%で、日本より大幅に安くなっている(表13を参照)。
更に、消費課税に含まれる関税やとん税(外国貿易船の入港に対して課される租税)等を加えると、「国税収入に占める消費課税の割合」は40.8%で、日本はフランスの次に消費税が高い国という見方もできるのだ。
それでも消費税増税の賛成派は、北欧などの「高負担・高福祉」の国々では付加価値税が20%を超えていると言うかもしれない。確かに、「消費税の高い国ランキング」を見るとハンガリーは27%、ノルウェー、クロアチア、スウェーデン、デンマークは25%、アイスランド、フィンランド、ギリシャは24%となっている。
だが、こうした付加価値税の高い国々は日本よりはるかに公共事業や社会保障支出を増やしていて、1998~2018年の政府総支出の伸び率はアイスランドが477%、ハンガリーが369%、ノルウェーが307%、クロアチアが236%、フィンランドが201%、スウェーデンが196%、デンマークが174%、ギリシャが153%と大幅に増加したのに対し、日本は98%とやや縮小している。日本では消費税を増税して社会保障に使うどころか歳出削減が進められてきたのだ(図98を参照)。
その影響で1998~2018年の名目GDPの伸び率もアイスランドが467%、ハンガリーが402%、ノルウェーが304%、クロアチアが236%、スウェーデンが228%、フィンランドが193%、デンマークが187%、ギリシャが147%なのに対し、日本は104%と付加価値税が高い国々と比較しても経済成長していないことがわかる。日本の2018年の名目GDPは548.9兆円だが、もし日本が「高負担・高福祉」の国を目指すのであれば、国債発行と財政出動によって20年後の2038年までに名目GDPを1000兆円(2018年の1.82倍)以上に増やしてから、消費税増税の議論を始めるべきではないだろうか。
正しく消費税増税を批判するためにも新聞に軽減税率は不要
今回の消費税10%増税にあたって最も軽減税率を推進していたのが公明党である。しかし、公明党はかつて消費税そのものに反対していたことをどれだけの人が知っているだろうか?
例えば、1986年12月に中曽根政権が選挙公約に違反して後の消費税につながる「売上税」を導入しようとしたが、当時の公明党の矢野絢也委員長は売上税への反対意見を表明し、支持母体である創価学会の池田大作名誉会長も売上税について「これほどの公約違反はない」と批判していた。
しかし、それから30年が経って今の公明党幹事長である斉藤鉄夫氏は2016年1月の週刊東洋経済で軽減税率について「将来、消費税率は13~15%、ひょっとすると欧州のように20%になっているかもしれない。そのときでも食べ物は8%に据え置かれ、初めて軽減税率の意味が出てくる」と発言している。つまり、今の公明党は「軽減税率を導入する代わりに消費税を20%まで上げろ」と言っていて、自民党以上に増税賛成の立場になっているのだ。
ちなみに、2016年当時斉藤氏は公明党の税制調査会長だったが、2018年に幹事長に就任していて、財務省にすり寄って出世したのではないかと思ってしまう。
また、今回の軽減税率では食品以外にも、定期購読を契約した週2回以上発行される新聞も対象になっている。新聞に軽減税率が適用されたのは「知識に課税せず」という日本新聞協会からの要望があったのだろうが、それなら何故書籍や雑誌にも軽減税率が適用されないのだろうか。
私が消費税増税の問題を調べるにあたって引用しているのはほとんどが書籍で、新聞に軽減税率が適用されて書籍に軽減税率が適用されないのは、厳しく言えば「愚民化政策」の一つではないかと思っている。新聞の多くは紙面で消費税増税を煽っていて、最近だと特に酷かったのは2019年9月21日に日経新聞が「ニンジンの皮もおいしく! 増税に勝つ食べ切り術」という見出しで消費税10%増税に備えて読者に節約を強要していた記事である。
日経新聞は「経済新聞」を謳っているのに、国民全体が節約に走って個人消費を減らしたら、国民経済計算の「民間最終消費支出」が減少してGDPも縮小するという経済の基礎すらわかっていないのかと呆れてしまう。それに対し、新聞の中で最も消費税増税に批判的な報道をしているのは、『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』の図87にもあるように「消費税収と法人三税の減収額の推移」のグラフを掲載した日本共産党の機関紙であるしんぶん赤旗だ。
つまり、日本共産党の支持者でないと新聞で消費税増税を批判する記事を目にすることがほとんどないということでもある。
その上、NHK放送文化研究所の調査によれば、平日に新聞(電子版も含む)を読む人は国民全体で1995年の52%から2015年の33%まで減少し、20代に限れば男性は32%から8%、女性は32%から3%に減っている。新聞は現代において食料と同様の「生活必需品」とは言い難いのだ。実際に、2015年12月にYahoo! JAPANが実施した意識調査によれば、新聞にも軽減税率を適用すべきか否かを尋ねて回答を得た約19万票のうち、「すべき」は21.1%だけで「すべきでない」が78.9%にも達した。
筆者はむしろ正しく消費税増税を批判してもらうためにも、新聞に軽減税率は不要ではないかと思っている。軽減税率という小手先の景気対策を行うくらいなら、消費税そのものを廃止すべきだろう。
<参考資料>
菊池英博 「政府投資が日本経済を成長させる」 『別冊クライテリオン』(啓文社書房、2018年12月号)
平野貞夫 『消費税国会の攻防 一九八七―八八 平野貞夫 衆議院事務局日記』(千倉書房、2012年)
斎藤貴男 『国民のしつけ方』(集英社インターナショナル、2017年)
消費課税(国税)の概要(税目ごとの税収等)
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d01.htm
主要国の付加価値税の概要
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.pdf
税制 イタリア 欧州 国・地域別に見る
https://www.jetro.go.jp/world/europe/it/invest_04.html
財政金融統計月報第793号
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g793/793.htm
世界の消費税が高い国/低い国ランキング
https://www.keigenzeiritsu.info/article/20672
日経「人参の皮も美味しく!増税に勝つ食べ切り術」に批判殺到
https://yuruneto.com/nikkei-ninjin/
2015年 国民生活時間調査
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf
新聞も軽減税率を適用すべき?