消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

軽減税率よりも消費税を廃止して景気対策を行うべき

緊縮財政を続けている日本で軽減税率は景気対策にならない

 2019年10月から消費税が10%に増税されたのと同時に、酒類と外食を除いた飲食料品に8%の軽減税率が導入された。それによりテイクアウトの食品は税率が変わらないため、増税されても影響が少ないと安心しきっている人が多いのではないだろうか。

 しかし、食品に8%の消費税というのは国際的に見ても高いのが現実である。例えば、財務省のデータによれば「国税収入に占める消費税収の割合」は日本が29.2%なのに対し、イギリスは25.8%、イタリアは27.3%だ。付加価値税が20%のイギリスと22%のイタリアで割合が日本と変わらないのは、イギリスでは食品が非課税で、イタリアでは紅茶やパスタなど生活必需品の軽減税率が4%と安いからだろう。また、菊池英博氏の試算によれば付加価値税が25%のスウェーデンは「国税収入に占める消費税収の割合」が18.5%で、日本より大幅に安くなっている(表13を参照)。

 更に、消費課税に含まれる関税やとん税(外国貿易船の入港に対して課される租税)等を加えると、「国税収入に占める消費課税の割合」は40.8%で、日本はフランスの次に消費税が高い国という見方もできるのだ。

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 それでも消費税増税の賛成派は、北欧などの「高負担・高福祉」の国々では付加価値税が20%を超えていると言うかもしれない。確かに、「消費税の高い国ランキング」を見るとハンガリーは27%、ノルウェークロアチアスウェーデンデンマークは25%、アイスランドフィンランドギリシャは24%となっている。

 だが、こうした付加価値税の高い国々は日本よりはるかに公共事業や社会保障支出を増やしていて、1998~2018年の政府総支出の伸び率はアイスランドが477%、ハンガリーが369%、ノルウェーが307%、クロアチアが236%、フィンランドが201%、スウェーデンが196%、デンマークが174%、ギリシャが153%と大幅に増加したのに対し、日本は98%とやや縮小している。日本では消費税を増税して社会保障に使うどころか歳出削減が進められてきたのだ(図98を参照)。

 

 その影響で1998~2018年の名目GDPの伸び率もアイスランドが467%、ハンガリーが402%、ノルウェーが304%、クロアチアが236%、スウェーデンが228%、フィンランドが193%、デンマークが187%、ギリシャが147%なのに対し、日本は104%と付加価値税が高い国々と比較しても経済成長していないことがわかる。日本の2018年の名目GDPは548.9兆円だが、もし日本が「高負担・高福祉」の国を目指すのであれば、国債発行と財政出動によって20年後の2038年までに名目GDPを1000兆円(2018年の1.82倍)以上に増やしてから、消費税増税の議論を始めるべきではないだろうか。

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正しく消費税増税を批判するためにも新聞に軽減税率は不要

 今回の消費税10%増税にあたって最も軽減税率を推進していたのが公明党である。しかし、公明党はかつて消費税そのものに反対していたことをどれだけの人が知っているだろうか?

 例えば、1986年12月に中曽根政権が選挙公約に違反して後の消費税につながる「売上税」を導入しようとしたが、当時の公明党矢野絢也委員長は売上税への反対意見を表明し、支持母体である創価学会池田大作名誉会長も売上税について「これほどの公約違反はない」と批判していた。

 

 しかし、それから30年が経って今の公明党幹事長である斉藤鉄夫氏は2016年1月の週刊東洋経済で軽減税率について「将来、消費税率は13~15%、ひょっとすると欧州のように20%になっているかもしれない。そのときでも食べ物は8%に据え置かれ、初めて軽減税率の意味が出てくる」と発言している。つまり、今の公明党は「軽減税率を導入する代わりに消費税を20%まで上げろ」と言っていて、自民党以上に増税賛成の立場になっているのだ。

 ちなみに、2016年当時斉藤氏は公明党税制調査会長だったが、2018年に幹事長に就任していて、財務省にすり寄って出世したのではないかと思ってしまう。

 

 また、今回の軽減税率では食品以外にも、定期購読を契約した週2回以上発行される新聞も対象になっている。新聞に軽減税率が適用されたのは「知識に課税せず」という日本新聞協会からの要望があったのだろうが、それなら何故書籍や雑誌にも軽減税率が適用されないのだろうか。

 私が消費税増税の問題を調べるにあたって引用しているのはほとんどが書籍で、新聞に軽減税率が適用されて書籍に軽減税率が適用されないのは、厳しく言えば「愚民化政策」の一つではないかと思っている。新聞の多くは紙面で消費税増税を煽っていて、最近だと特に酷かったのは2019年9月21日に日経新聞が「ニンジンの皮もおいしく! 増税に勝つ食べ切り術」という見出しで消費税10%増税に備えて読者に節約を強要していた記事である。

 

 日経新聞は「経済新聞」を謳っているのに、国民全体が節約に走って個人消費を減らしたら、国民経済計算の「民間最終消費支出」が減少してGDPも縮小するという経済の基礎すらわかっていないのかと呆れてしまう。それに対し、新聞の中で最も消費税増税に批判的な報道をしているのは、『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』の図87にもあるように「消費税収と法人三税の減収額の推移」のグラフを掲載した日本共産党の機関紙であるしんぶん赤旗だ。

 つまり、日本共産党の支持者でないと新聞で消費税増税を批判する記事を目にすることがほとんどないということでもある。

 

 その上、NHK放送文化研究所の調査によれば、平日に新聞(電子版も含む)を読む人は国民全体で1995年の52%から2015年の33%まで減少し、20代に限れば男性は32%から8%、女性は32%から3%に減っている。新聞は現代において食料と同様の「生活必需品」とは言い難いのだ。実際に、2015年12月にYahoo! JAPANが実施した意識調査によれば、新聞にも軽減税率を適用すべきか否かを尋ねて回答を得た約19万票のうち、「すべき」は21.1%だけで「すべきでない」が78.9%にも達した。

 筆者はむしろ正しく消費税増税を批判してもらうためにも、新聞に軽減税率は不要ではないかと思っている。軽減税率という小手先の景気対策を行うくらいなら、消費税そのものを廃止すべきだろう。

 

 

<参考資料>

菊池英博 「政府投資が日本経済を成長させる」 『別冊クライテリオン』(啓文社書房、2018年12月号)

平野貞夫 『消費税国会の攻防 一九八七―八八 平野貞夫 衆議院事務局日記』(千倉書房、2012年)

斎藤貴男 『国民のしつけ方』(集英社インターナショナル、2017年)

 

消費課税(国税)の概要(税目ごとの税収等)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d01.htm

主要国の付加価値税の概要

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.pdf

税制 イタリア 欧州 国・地域別に見る

https://www.jetro.go.jp/world/europe/it/invest_04.html

財政金融統計月報第793号

https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g793/793.htm

世界の消費税が高い国/低い国ランキング

https://www.keigenzeiritsu.info/article/20672

日経「人参の皮も美味しく!増税に勝つ食べ切り術」に批判殺到

https://yuruneto.com/nikkei-ninjin/

2015年 国民生活時間調査

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf

新聞も軽減税率を適用すべき?

https://news.yahoo.co.jp/polls/domestic/20883/result

日本でタブー視されている男性の貧困問題

子育て世代の所得を増やして少子化を改善すべき

 今の日本で疑問に思うのは、「男性の貧困」の問題がタブー視されていないかということである。本を探してみても「女性の貧困」について取り扱った内容は数多くあるが、「男性の貧困」について取り扱った内容はほとんど存在しないように思う。

 しかし、安倍政権が自画自賛する2012~2018年の就業者数の増加についても、その内訳を見ると女性が288万人も増加したのに対し、男性は95万人程度(女性の33%)の増加に留まっている。男性は女性ほど雇用改善の恩恵を受けていないのだ。

 

 この他にも、近年では大卒の就職率が回復する傾向にあるが、それと同時に企業が新卒採用でコミュニケーション能力を異常なまでに求めるようにもなっている。

 経団連の『新卒採用に関するアンケート調査』によれば、採用選考時に「コミュニケーション能力を重視する」と答えた企業の割合は2001年の50.3%から2018年の82.4%まで増加した。企業がコミュニケーション能力に偏重した採用活動を行っているのは、2000年代以降にインターネットの普及で誰でも簡単に不祥事の告発が可能になり、企業がかつてないほど組織のコンプライアンスを重視するようになったからである。

 ちなみに、マイナビが2016年に行った調査で、自分のことをコミュ障(コミュニケーション障害)だと思う男子大学生は54.3%にものぼっている。筆者のように最初から他者とのコミュニケーションが苦手な男性は、どれだけ就職率が改善してもその恩恵を受けられないのが現実なのだ。

 

 また、この20年間で子育て世代の男性が貧困化している問題も存在する。民間給与実態統計調査によれば、35~39歳男性の平均年収は1997年の589.1万円から2017年の517.3万円まで71.8万円(1997年比で12.2%)も減少し、40~44歳男性の平均年収は1997年の644.7万円から2017年の569.2万円まで75.5万円(1997年比で11.7%)も減少している。

 この間、食料を含めた総合物価指数はデフレと言われながらも1997年以降、ほとんど横ばいの状態を続けている。特に、35~39歳男性の平均年収は2014年からやや上昇しているが、それも消費税増税による物価上昇に相殺されてしまった(図93を参照)。

 

 1997~2017年の20年間で子育て世代の男性の収入がこれだけ落ち込んだのは、橋本政権以降の緊縮財政によって給与が下落するデフレ不況が長期化していることが原因だろう。男性の平均初婚年齢(2017年)は31.1歳なので、35~44歳はちょうど小中学生の子供がいる世代になる。日本は戦後長らくの間、夫が妻子を養う家族モデルを築いてきたので、子育て世代の男性の貧困化はもっと社会問題の一つとして議論しても良いように思う。

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 収入が増えないデフレ不況は世代間格差までも広げている。例えばバブル期以前の1982年に大卒で入社した1959年度生まれの男性と、1987年に大卒で入社した1964年度生まれの男性は22歳から42歳までの20年間で年収が2.5~2.8倍も増加していた。この世代であればまだ「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という高度経済成長期の家族モデルを形成することができたかもしれない。

 それに対し、バブル崩壊後の1992年に大卒で入社した1969年度生まれの男性と、1997年に大卒で入社した1974年度生まれの男性は22歳から42歳までの20年間で年収が1.8~1.9倍程度しか増加していない。この世代に入ると運良く高収入になれた男性を除いて、夫の所得だけで妻子を養うことは非常に難しいと言えるだろう(図94を参照)。

 その影響もあって、50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示す生涯未婚率(男性)は、1990年の5.57%から2015年の23.37%まで上昇している。バブルの頃だと50歳男性は20人に1人しか未婚者がいなかったのに対し、現在では50歳男性の4人に1人が結婚できない時代になっているのだ。

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 図95を見ると過去60年間(1958~2018年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」も強い相関関係が見られ、日本で少子化が進んだのは富裕層減税や国営企業の民営化、消費税導入、労働者派遣法の施行など中曽根政権以降の小さな政府というデフレ促進策によって名目GDP成長率が下がり、子育て世代の収入が減少したからではないだろうか。

 1980年代はまだインフレの時代だったので小さな政府を進めても経済に悪影響を与えることは少なかったが、1990年代のバブル崩壊後にデフレ不況が深刻化する中で消費税増税や歳出削減を断行してしまったのは問題だった。

 

 今回の消費税10%増税で安倍政権は幼稚園、保育所認定こども園を利用する3歳から5歳児クラスの子供たちの利用料を無償化するなど小手先の対策を取ったが、こうした幼児教育の無償化は消費税を引き上げなくても富裕層増税国債発行で実現可能だろう。

 今では子育てにお金が掛かるだけでなく結婚式もビジネス化しており、挙式・披露宴の費用は全国平均で357.5万円にものぼっていて、これは35~39歳男性の平均年収の約7割に相当する。2015年の出生動向基本調査によれば、「1年以内に結婚することになった場合、何か障害になることがあるか」という質問に男性回答者の68.3%が「障害がある」と回答し、そのうち43.3%が「結婚資金」を理由に挙げている。

 

 政府が本当に少子化を改善させたいのであれば、むしろ消費税を廃止して個人消費による需要を創出し、子育て世代の所得を増やして年間の名目GDP成長率が5%を超えるような経済状況を続けるべきではないだろうか。日本が1970~80年代のような安定的に経済成長していた時代に戻れば、生涯未婚率が低下して出生数も増加すると考えられる。

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年収100万円以下の男性貧困層が増加した理由

 更に、子育て世代だけでなく高齢男性の貧困も深刻な問題だ。前述の民間給与実態統計調査によれば、年収100万円以下で働く男性貧困層は2018年に過去40年間で最多の97万1000人にのぼっている(図96を参照)。女性の年収100万円以下が2016年の330.9万人から2018年の312.7万人へとやや減少しているのに対し、男性の年収100万円以下は昨年に引き続き過去40年間で最多を更新していて低所得者の増加がより深刻になっていることがわかる。

 男性貧困層の年齢分布は公表されていないため、筆者は当初年収100万円以下の増加について子育て世代の男性の貧困化が原因だと考えていた。だが、2012~2018年にかけて25歳から64歳までの男性の就業者数は合計で98万人減少しているのに対し、65歳以上の男性は147万人も増加している(図97を参照)。つまり、男性貧困層が急速に増加しつつある背景には低賃金で働かされている高齢男性の実態が存在するようだ。

 

 ちなみに、15~19歳男性は12万人増加、20~24歳男性は34万人増加しているが、この世代だとまだ親と同居している人も多く、一人暮らしの大学生でも親からの仕送りを貰っている割合は70.3%である。それに対し、単身高齢者は子供に負担をかけたくないという理由で仕送りを断っている人が多く、子供からの仕送りを貰っている人は1.4%程度に過ぎない。高齢者が年金だけで生活できず家族からの支援も受けられない場合、生活保護を利用するか働かざるを得ないだろう。

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 特に単身の高齢男性は女性よりも孤立しやすい傾向にあり、2015年の高齢社会白書によれば「一緒にいてほっとする人がいない」は単身女性が27.2%なのに対し、男性は51.4%、「ちょっとした用事を頼める人がいない」は単身女性が11.8%なのに対し、男性は32.2%、「看護や世話を頼みたい相手がいない」は単身女性が21.5%なのに対し、男性は35.0%にものぼっている。

 現在どの程度幸せと感じるかを「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として『8点以上』と答えた割合も、単身女性が43.6%にのぼっていたのに対し、男性は22.7%と女性の約半分となっている。高度経済成長期からバブル期にかけて長時間労働にもめげず、一生懸命に家族や社会を支えてきた男性高齢者の老後には寂しい風が吹いているようだ。

 私がツイッターで安倍政権の熱烈な支持者に年収100万円以下で働く男性貧困層が増加していることについてどう思うか聞いてみたところ、「アベノミクスが成果を上げて、高齢者が定年後に仕事を得やすくなったから年収100万円以下が増えた」と反論してきた。しかし、老骨にムチ打って低賃金で働く高齢者が増加した状況をアベノミクスの成果だと言って良いのだろうか。

 

 この他にも、年収100万円以下で働く男性貧困層が増加した理由について小泉政権以降の自民党が進めてきた公共事業の削減があるように思う。

 例えば、『「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待』でも述べた通り、1998年の小渕政権は国債発行を財源に公共事業関係費を過去最高の14.9兆円まで増やして、年収100万円以下の男性貧困層を1998年の66万9019人から2000年の49万9517人まで減らしたが、図96を見るとその後は公共事業を削減して男性貧困層が増加していることがわかる。労働力調査によれば建設業で働く従業員は1950年代以降、一貫して8割以上が男性なので政府の公共事業関係費が男性の所得にも影響しやすいのだろう。

 

 また、近年では建設業の人手不足と高齢化が社会問題の一つにもなっている。2012年の時点で全産業の55歳以上の労働者の割合は28.7%なのに対し、建設業は33.6%にものぼっている。逆に29歳以下の労働者の割合は全産業が16.6%なのに対し、建設業は11.1%に低下している(画像を参照)。

 この状況を鑑みて安倍政権は2013年から公共工事の設計労務単価を引き上げたが、2018年度の公共事業関係費は7.6兆円と1998年度の51%程度に過ぎず、人手不足の解消にはつながっていない。建設業の許可業者数も1999年度の60万980社から2018年度の46万8311社まで減少している。

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 その影響もあって日本は世界有数の自然災害大国であるにも関わらず、災害が発生した際の復旧・復興に遅れが生じている。2011年の東日本大震災だけでなく、今年発生した台風15号台風19号でも関東を中心に停電や断水が相次いだ。2012~2018年の6年間で男性の就業者数は3622万人から3717万人まで95万人増加したのに対し、建設業は433万人から421万人へと12万人減少し、電気・ガス・熱供給・水道業も28万人から24万人へと4万人減少していて、建設業や水道業の人手不足がライフラインの復旧に遅れが生じる原因にもなっている。

 

 建設業の人手不足を解消するためには公共工事の設計労務単価を増やすだけでなく、れいわ新選組が提言しているように政府が補償して最低賃金を1500円まで引き上げる必要があるのではないだろうか。実際に建設業ではないが、ファッション通販のZOZOが今年5月に時給1300円のアルバイトを募集したところ、たった1日で2000人を超える応募者が殺到したという。

 やはり今の日本で問題になっている人手不足は、少子化や人口減少によるものではなく「賃金不足」こそが最大の原因だと考えて良いだろう。早期の災害復興を果たすためにも年収100万円以下の男性貧困層を減らすためにも、公共事業の拡大と建設業の賃金引き上げは急務である。

 

 

<参考資料>

齊藤祐作 『発達障害者の才能をつぶすな!』(幻冬舎、2016年)

雨宮紫苑 『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮社、2018年)

藤田孝典 『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新聞出版、2016年)

三橋貴明 『移民亡国論 日本人のための日本国が消える』(徳間書店、2014年)

 

2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果

https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf

自分のことを「コミュ障」だと自覚している男子大学生は約5割

https://www.excite.co.jp/news/article/Mycom_freshers__gmd_articles_44447/

人口動態調査 - e-Stat 政府統計の総合窓口

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450011&tstat=000001028897

自由?それとも寂しそう?データから見えてきた「生涯独身」のリアル

https://www.axa.co.jp/100-year-life/health/20190522/

幼児教育・保育の無償化 子ども・子育て本部

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/musyouka/index.html

結婚費用の項目と相場 親ごころゼクシィ

https://zexy.net/contents/oya/money/kiso.html

第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)

http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/report15html/NFS15R_html02.html

平成30年分 民間給与実態統計調査

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/pdf/001.pdf

大学生アルバイトの金銭感覚調査

https://resemom.jp/article/2017/08/16/39850.html

親への仕送りの平均額は?親の老後資金について考える

https://fp-moneydoctor.com/news/knowledge/remittance_to_the_parent/

平成27年高齢社会白書(全体版)

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2015/html/zenbun/index.html

当面の建設人材不足対策 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000035515-att/2r9852000003554q.pdf

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/page/content/001304347.pdf

建設業許可業者数調査の結果について

https://www.mlit.go.jp/common/001288296.pdf

ZOZO「時給1300円」バイトに応募殺到 3日で募集終了

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/15/news059.html

れいわ新選組は保守左派の政党を目指すべき

れいわ新選組以外の野党も「消費税廃止」を掲げよう

 安倍首相は参院選公示を翌日に控えた7月3日の党首討論会で、「自民党改憲議席を3分の2取ると言ったことは今まで一度もない。与野党で3分の2の合意を得られる努力を重ねていきたい」と発言し、日本維新の会や国民民主党の名を挙げながら憲法改正の国会発議を目指す考えを強調した。

 2020年の新憲法制定に意欲を見せる安倍首相がこのタイミングで維新と国民民主に呼びかけたのは消費税10%増税を控えた悪条件の中、7月21日に実施された参院選で与党をはじめとする改憲勢力が国会発議に必要な3分の2を確保することが難しいと見越していたからに他ならない。

 

 だが、国民民主党の玉木代表は8月20日立憲民主党の枝野代表と衆参両院で統一会派を結成することを合意し、最近では山本太郎氏の人気に目をつけてれいわ新選組との合流説も浮上しているという。玉木代表は経済評論家の三橋貴明氏との対談の中で、小泉政権以降の自民党が進めてきた構造改革を批判し、「食料の安全保障を憲法に明記すべき」と発言していて安倍政権が目指す新自由主義的な改憲とは方向性が違うというのが本音だろう。

 もし、国民民主党立憲民主党がれいわ新選組と合流したいのであれば、「将来的な消費税の廃止」を掲げることを最低条件とすべきである。

 

 その一方で、日本維新の会は次の衆院選までに与党入りする可能性が高いのではないかと見ている。維新はもともと政治の既得権益を打破する目的として設立され、2012年の衆院選では消費税増税原発再稼働に反対していたが、2015年5月に大阪都構想住民投票が否決されると急速に自民党にすり寄るようになったと感じる。

 維新の松井代表は自民党について「既得権益を守る側」としているが、安倍政権は大きな政府によって中間層の所得を分厚くした1970~80年代の「古き良き自民党」を捨て、TPPや法人税減税、農協改革、高度プロフェッショナル制度の導入など日本維新の会が推進してきた「岩盤規制の解体」を次々に実現している。政策面では既に維新も安倍政権の一部となりつつあるのだ。

 

 また、今年の参院選で維新は3議席増やしたものの、持ち前の「身を切る改革」というスローガンが説得力を失っているように感じる。

 その理由はれいわ新選組山本太郎氏が「身を切る改革」と称して特定枠を使い、自身よりALS患者の舩後靖彦氏と重度障害者の木村英子氏の当選を優先させたことが大きいだろう。松井代表は舩後氏と木村氏が議員活動で利用する介護支援について「原資は税金。国会議員だけ特別扱いするのか」と批判していたが、先に「身を切る改革」を使われてしまったことに対する危機感の表れでもあるのではないだろうか。

 維新が自民党に媚びずに大阪以外でも支持を拡大させるためには、従来の「身を切る改革」という主張を控えて山本太郎氏と同様に消費税廃止を掲げるしかないと思っている。

 

 

ネット上に溢れた安倍信者の「山本太郎バッシング」に反論する

 参院選から1ヵ月半が過ぎてやっとれいわ新選組がマスコミに取り上げられるようになったが、その一方でツイッターなどでは安倍信者自民党ネットサポーターズクラブ)による「山本太郎バッシング」も多く見かけるようになってきた。

 安倍信者山本太郎氏を叩く際に決まって2008年の『たかじんのそこまで言って委員会』で「竹島は韓国にあげたら良い」と発言したことを取り上げるが、実際には韓国の実力行使に対して何も行動を起こさない日本政府にハッパをかけようという趣旨だったのに、番組でカットされて竹島の不法占拠を容認するかのような発言に編集されたという話である。

 それに、山本氏の他にも堀江貴文氏が「尖閣諸島を中国にあげちゃえば」と発言し、みのもんた氏も「ロシアは北方領土を買ったらどうか」と発言しているが、安倍信者がこれについて批判した書き込みをほとんど見たことがないように思う。山本氏の竹島発言だけ叩くのは、安倍政権の代わりになる勢力の台頭が嫌だからというのが本音なのだろう。

 

 また、安倍信者山本太郎氏が中核派や逮捕歴のある活動家から支援されていることを批判するが、山本氏が直接的に中核派と関わっているわけではなく勝手に応援されたというだけの話だろう。

 例えば、安倍首相は2006年に統一教会の関連団体「天宙平和連合」に祝電を送り、国際勝共連合が発行している雑誌『世界思想』の2013年3月号と9月号では「強靭な国・日本」「救国ロードマップ」というタイトルで表紙を飾っているが、山本氏が中核派から支援されていることが問題なら総理大臣を約7年もやっているような人物が、霊感商法合同結婚式で散々日本人を騙してきた犯罪組織の統一教会から支援されていることも十分問題にならないだろうか。

 しかし、この点をツイッター安倍信者に指摘すると、必ず反論しないで逃げるかブロックされてしまう。どうも山本太郎氏を叩いている人にとって、安倍首相と統一教会の関係について批判されると都合が悪いようだ。

 

 更に、れいわ新選組が消費税廃止を掲げて、ALS患者や重度障害者の方を当選させたことにどのような関係があるのかと疑問に思っている人も多いかもしれない。だが、障害者の平均月収は一般の方よりも低く、2018年5月のデータでは常用労働者の「きまって支給する給与」が26.3万円なのに対し、身体障害者が21.5万円(常用労働者の81.7%)、知的障害者が11.7万円(44.5%)、精神障害者が12.5万円(47.5%)、発達障害者が12.7万円(48.3%)程度である。知的障害者精神障害者の給与が低いのは、高度かつ付加価値の大きい仕事をこなすことが難しいからだと言われている。

 消費税は所得に関係なく、消費に対して同じ額の税金を支払わなければならないため、障害者の方々により負担が重いのだ。舩後靖彦議員と木村英子議員には、是非ともこの点について国会で追及してほしいと思う。

 

 

れいわ新選組は政府の移民受け入れ政策をもっと批判すべき

 また、れいわ新選組は政府の移民受け入れ政策についてもっと批判すべきである。在留外国人数は民主党政権だった2009~12年に218.6万人から203.4万人まで15.2万人減少していたのに対して、最新の2018年末のデータでは273.1万人と安倍政権の6年間で69.7万人も増加していることがわかるだろう(図84を参照)。

 外国人労働者数も民主党政権時代の2009~12年では56.3万人から68.2万人まで年平均3.97万人程度の増加に留まっていたのに対し、安倍政権では2018年の146.0万人へと年平均12.97万人も増えており、明らかに増加のペースが速くなっているのだ。その影響もあって、既に日本は「世界第4位の移民大国」と呼ばれるまでに変貌しつつある。

 今年4月からは外国人が原発作業員などの単純労働を目的に入国することが可能になり、日本の大学を卒業した留学生の就職条件も緩和された。このままのペースで増加が続けば、2028年には在留外国人が380万人、外国人労働者が270万人にも達してしまうだろう。

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 しかし、この急速な日本の移民国家化を保守もリベラルもほとんど批判していないように思う。私が安倍信者自民党の移民受け入れ政策についてどう思っているのか聞くと「外国人労働者が増えると日本の国益を損なうというロジックがわからない」「外国人労働者を批判する奴は大した努力もせずに、無能の自分を責めることもなく全てを政治の責任にしている愚か者」などと言い訳をしてくる。

 つまり、彼らの本質は移民受け入れを容認する左翼で、「低賃金を我慢できない日本人が悪い」という自己責任論を国民に強要したいようである。

 

 更に、共同通信が2018年11月に行った調査によれば、外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正について賛成する割合が60代以上は37.9%程度だったのに対し、40~50代は54.9%、30代以下は66.3%と若年層ほど高いことが明らかになっている。若者は保守化どころかむしろ移民受け入れに賛成し、「左傾化」しているのが現実なのだ。28歳の私としてはこの状況を憂慮すべき事態だと思う。

 今年の参院選で全体の投票率が48.80%と有権者の半分以上が選挙に行かなかったのも、「消費税を10%に増税して生活が苦しくなっても自分には関係ない」「外国人労働者を受け入れて日本人の雇用が奪われても自分には関係ない」という政治に無関心な国民意識の表れではないだろうか。

 

 この状況を変えるためには、山本太郎氏が演説の中で日本人の給与を上げたくない経団連が安い労働力としての移民を大量に呼び込もうとしている実態を暴いて、外国人労働者の受け入れに疑問を感じている保守層にも積極的にアピールしていく必要があると思っている。れいわ新選組大きな政府によって中間層の所得を分厚くした1970~80年代の自民党のような「保守左派」の政党を目指すべきである。

 

 

<参考資料>

氷川清太郎 「自民・公明+維新+国民民主 悲願の憲法改正にくすぶる"大連立"」 『財界』(財界研究所、2019年8月6日)

齊藤祐作 『発達障害者の才能をつぶすな!』(幻冬舎、2016年)

出井康博 『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(KADOKAWA、2019年)

上毛新聞 『外国人就労の拡大賛成51%』(2018年11月5日)

 

立憲と国民が統一会派「ゆるいグループ」で勢力拡大

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201908200001066.html

国民民主党とれいわ新選組に合流説 玉木雄一郎氏、小沢一郎氏、山本太郎氏が会談か

https://news.nifty.com/article/domestic/government/12151-378730/

三橋貴明×玉木雄一郎構造改革って考え方が古いよね

https://www.youtube.com/watch?v=PcUrphzuXuw

れいわ2議員の公費負担 介護支援「拡大」の議論活発化

https://www.sankei.com/life/news/190803/lif1908030021-n1.html

山本太郎、「竹島は韓国にあげたらよい!」発言の真意を告白

https://news.livedoor.com/article/detail/6377900/

毎月勤労統計調査 平成30年5月分結果確報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/30/3005r/3005r.html

平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05390.html

図録▽外国人数の推移(国籍別)

https://honkawa2.sakura.ne.jp/1180.html

図録▽外国人労働者数の推移

https://honkawa2.sakura.ne.jp/3820.html

参院選投票率48.80%、24年ぶり50%割る

https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20190722-OYT1T50220/

安倍首相が消費税増税を延期しなかった理由

リーマンショックよりも大きかった消費税増税による景気悪化

 7月21日に実施された参院選自民党公明党の与党が77議席から71議席に減らした一方で、野党の立憲民主党が9議席から17議席に増やし、私が支持していたれいわ新選組はALS患者の舩後靖彦氏と重度障がい者の木村英子氏が特定枠を使って当選することができた。しかし、肝心の山本太郎氏が落選したことで次の衆院選まで国会で消費税廃止の議論が行われず、今年10月1日からの消費税10%への増税はほぼ確定してしまったと言えるだろう。

 

 安倍政権や財務省は消費税引き上げを既定路線にしているが、そもそも増税は安倍政権の公約違反だったことをどれだけの人が知っているだろうか?

 安倍首相は2012年6月のメールマガジンで、当時の野田政権が「社会保障・税一体改革関連法案」を衆議院で可決させたことを批判し、「名目成長率が3%、実質成長率が2%を目指すというデフレ脱却の条件が満たされなければ消費税増税を行わないことが重要」と述べていたのだ。

 

 だが、2018年の名目GDP成長率は0.7%、実質GDP成長率は0.8%とデフレ脱却の目標には届いておらず、2014年4月の消費税増税から5年が経ってむしろ経済成長率が落ち込んでいるのが現実なのだ。本来なら安倍首相は「デフレ逆戻り」を理由に、消費税増税の中止を決断すべきだっただろう。そもそも消費税とは完全雇用のもとで国民の消費を減らし、消費財を生産していた人手を浮かせてインフレを抑制することが目的の税金であって、年間の名目GDP成長率が10%を超えるような激しいインフレが発生しない限り増税してはいけないのだ。

 

 デフレ脱却を掲げる安倍政権がデフレを更に加速させてしまう消費税増税を強行する理由は「デフレは貨幣現象」という誤解があるように思う。「デフレは貨幣現象」とは、デフレの原因はマネタリーベース(世の中に供給しているお金の量)の不足なので、日銀が金融緩和を続けていれば消費税増税してもデフレ脱却できるという考え方である。

 だが、マネタリーベースの推移を見ると2012年12月の130.5兆円から2019年6月の510.1兆円まで安倍政権で3.9倍も増加したが、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2019年6月に前年比0.3%程度と年率2%のインフレ目標には達していない(図82を参照)。

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 日銀が異次元の金融緩和を行ってもデフレを脱却できないのは、デフレの原因がマネタリーベースではなく「総需要の不足」だからであって、2014年以降に消費税増税公共投資の削減など緊縮財政が実行されている以上、デフレ不況が継続するのは当然のことだろう。

 しかし、この事実を安倍首相の熱狂的な支持者である経済評論家の上念司氏に指摘したら「2009~12年にマイナスだった物価がプラス転換しているから問題ない」と言い訳してきた。つまり、上念氏にとっての「デフレ脱却」とはコアコアCPIが前年比プラスになる程度のものらしい。この定義ならリーマンショック直前の2008年6~10月もインフレだったことになる。どうやら彼は「日銀がマネタリーベースさえ増やしてくれれば、年率2%の物価上昇率を達成しなくても構わない」とデフレを容認しているのが本音なのだろう。

 

 更に、安倍首相は馬鹿の一つ覚えのように「リーマンショック級の経済危機が発生しない限り消費税を10%に引き上げる」と繰り返している。しかし、国民経済計算の家計最終消費支出はリーマンショックが発生した2008年度には5.7兆円程度の落ち込みだったが、消費税を8%に増税した2014年度は7.3兆円の落ち込みにものぼっている。つまり、「リーマンショック級の経済危機」はすでに消費税増税によって発生していたのだ(図83を参照)。

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 2018年度の実質GDP総額は535.5兆円だが、もし安倍政権が消費税増税を中止して税率が5%のままだったらとっくに家計最終消費支出が300兆円を超えて実質GDPは550兆円以上にも達していただろう。その上、安倍首相にとって「リーマンショック級の経済危機」とは、アメリカで金融危機が発生して日経平均株価が暴落する状況なのかもしれないが、そうなってから消費税増税を中止するのでは手遅れだと言わざるを得ない。

 2008~13年度は消費税がまだ5%だったことで家計消費が回復していたが、8%に増税した2014年4月以降は著しく家計消費が落ち込んでおり、この状況で金融危機が発生したらリーマンショックよりも深刻なデフレ不況になるのは言うまでもないだろう。

 

 

増税を中止するためには経団連の言いなりにならない政権が必要

 また、私がツイッターなどで「安倍首相は消費税増税を中止すべき」と批判すると、必ずと言っていいほど自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)の関係者と思われるユーザーから「増税民主党政権が決めたことだ。安倍さんとは関係ない」という反論が返ってくる。

 自民党ネットサポーターズクラブとは、2010年に発足した安倍首相の熱狂的な支持者が集まる組織で、2017年時点の会員数は約1万9000人にものぼっている。しかし、消費税が10%に増税されるまでの経緯を振り返るとこれは非常に無理のある言い訳だ。

 

 まず、最初に消費税増税を言い出したのは2008年10月の麻生政権で、初めて「10%案」を出したのも2010年6月の谷垣総裁だった。野田政権の「社会保障と税の一体改革」についても自民党公明党が合意している。

 安倍首相は2012年のメールマガジンで「デフレ脱却するまで増税は行わない」と発言していたが、その公約を反故にして消費税8%増税を決定した2013年10月1日の記者会見で『社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために、財源の確保は待ったなしです。だからこそ昨年、消費税を引き上げる法律に私たち自由民主党公明党は賛成をいたしました』と発言したのである。

 

 更に、自民党の熱狂的な支持者は「野田政権が消費税増税国際公約にしたから、安倍首相はそれに従って増税を進めただけ」と言っているがこれも全くの嘘だろう。国際公約は2011年11月にG20サミットで野田首相が「日本は2010年代半ばまでに消費税を10%に増税する方針を決めた」と発言したことを根拠にしているが、当時の世界主要国はユーロ危機の対応に追われていて日本の増税などどうでもいい話である。

 そもそも消費税を引き上げるかどうかは他国が干渉できない国内の問題であって、G20サミットに関係なく安倍首相は6年半の政権の中でいくらでも増税を中止するチャンスがあっただろう。自民党信者は「安倍政権の消費税引き上げならOK」というのが本音だからこそ、増税民主党政権のせいにするのである。

 

 また、「安倍首相は憲法改正を何としてでも実現させるために選挙直前になって消費税増税の延期を発表する可能性が高い」という言説を聞いたことがある方も多いだろう。これは自民党信者だけでなく、リベラル派と言われている森永卓郎氏や荻原博子氏も同様の主張をしていた。

 しかし、自民党改憲案の内容を見ると「憲法改正のための増税延期」は全くのデマであることがわかる。自民党改憲案83条には「財政の健全性は、法律の定めるところにより確保されなければならない」という財政規律条項が新設されており、これが成立すれば消費税増税に反対して社会保障の充実を求めることも憲法違反になってしまうからである。

 憲法改正に批判的な森永氏や荻原氏が自民党改憲案の財政規律条項を指摘せずに「憲法改正のための増税延期」を煽っていたのは、彼らが本音として消費税増税を容認しているからではないだろうか。

 

 その上、今の安倍首相は憲法改正よりも経団連の言うことを聞いて、どれだけ政権を長く続けられるかのほうが重要だと考えているように感じられる。実際に、2014年の衆院選と2016年の参院選で消費税引き上げを延期したのも、経団連榊原定征前会長がそれほど増税に積極的でなかったのも理由の一つとして挙げられるだろう。

 榊原氏は安倍首相が増税延期を発表した2016年6月1日に「日本経済を再びデフレに戻さない、経済再生を最優先するという安倍総理の揺るぎのない強い決意を示されたものと理解する」と発言していた。つまり、榊原氏が増税延期を許したからこそ、安倍政権は選挙対策として消費税10%引き上げの時期を変更したのである。

 

 だが、現在の経団連会長である中西宏明氏は榊原前会長より増税に積極的なように感じられる。安倍首相が2018年10月15日の臨時閣議で消費税を10%に増税する方針を表明したことを受けて、中西氏は「今回の安倍総理の引き上げ表明を歓迎する」「前年の衆議院選挙の結果により、国民の信任はすでに得ていると理解している」とのコメントを発表している。

 経団連会長は「財界総理」とも呼ばれているように1980年代以降、政府の経済政策に大きな影響を与えてきた存在である。例えば、TPPに関しては2010年に経団連会長が御手洗冨士夫氏から米倉弘昌氏に変わって急に「参加すべき」という話が浮上し始めた。米倉氏は「日本はTPPに参加しないと世界の孤児になる」と発言するほど強力なTPP推進派だった。この10年間は安倍政権も民主党政権も自ら経団連の奴隷になるような政治を続けてきたのである。

 

 2018年にスイスが付加価値税を引き下げ、マレーシアが消費税を廃止して物品税に近い「売上・サービス税」に戻したことは『「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待』の記事でも述べたが、今年4月には中国でも増値税率(消費税)を製造業などの業種で16%から13%に、交通運輸業や建築業などの業種で10%から9%に引き下げている。

 それに比べて在任中に消費税を2段階も引き上げ、税率を倍にする安倍首相はやっていることが中国共産党以下ではないだろうか。戦後最悪の緊縮財政を強行する安倍政権を止めるためには、財政再建より経済成長を重視して将来的な消費税の廃止を目指し、財務省経団連の言いなりにならない政権を確立する必要があると考えている。

 

 

<参考資料>

三橋貴明 『2014年 世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』(徳間書店、2013年)

     『メディアの大罪』(PHP研究所、2012年)

清水真人 『消費税 政と官との「十年戦争」』(新潮社、2013年)

片岡剛士 『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬舎、2014年)

荻原博子 『安倍政権は消費税を上げられない』(ベストセラーズ、2018年)

 

参院選当選者確定…与党、改選議席から6減らす

https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20190722-OYT1T50215/

マネタリーベース : 日本銀行 Bank of Japan

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/index.htm/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

消費増税、首相「リーマン級なければ方針変わりない」

https://www.sankei.com/politics/news/190509/plt1905090016-n1.html

自民公認サポーター組織 会員数1万9000人で「宣伝戦」

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20171018/k00/00m/010/172000c

平成25年10月1日 安倍内閣総理大臣記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/1001kaiken.html

憲法改正草案 第83条(財政の基本原則)

http://tcoj.blog.fc2.com/blog-entry-83.html

消費増税再延期に関する榊原会長コメント

https://www.keidanren.or.jp/speech/comment/2016/0601.html

2019年10月に消費税10%、経団連会長「安倍総理の引き上げ表明を歓迎」

https://news.mynavi.jp/article/20181016-707774/

全人代で2019年も増値税率引き下げの方針を発表

https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/03/a4d31dcc440fb3bf.html

「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待

公共事業を増やして一時的に景気回復させた小渕政権

 今年4月30日、1989年1月8日から続いた「平成」という時代が終了した。日本の政治を振り返るとこの30年間で竹下政権から安倍政権まで17人の首相が移り変わってきたが、その中で最もマシだったのは「平成おじさん」でも有名な1998~2000年の小渕政権だったように思う(写真を参照)。当時、自分は小学1~3年生で初めてリアルタイムで覚えている総理大臣でもある。

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 平成不況の真っ只中に実施された1998年7月の参院選では自民党が敗北し、その責任を取って橋本首相が辞任する。7月30日に就任した小渕首相は当初「冷めたピザ」「凡人」と批判されていたが、橋本政権が1997年11月に制定した「財政構造改革法」を凍結し、国債発行を財源に1998年度の公共事業関係費を過去最高の14.9兆円まで増やした。小渕首相は大胆な経済政策を実行することで「私は世界一の借金王」と自嘲していたが、消費税増税後のデフレ不況に苦しむ1998年当時の日本にとって国債発行と公共事業の拡大は正しい政策だったと言えるだろう。

 

 実際に小渕政権の支持率は1998年11月の20%から1999年8月の53%まで上昇し、実質GDP成長率も1998年のマイナス1.1%から2000年のプラス2.8%まで回復している。90年代は不況と言われながらも、政府の公共事業によってかろうじて経済成長していた時代なのだ。

 また、バブル崩壊後に増加していた年収100万円以下の男性貧困層の数も1998年の66万9019人から2000年の49万9517人へと減っている(図78を参照)。労働力調査によれば建設業で働く従業員は1950年代以降、一貫して8割以上が男性なので政府の公共事業関係費が男性の所得にも影響しやすいのだろう。

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 しかし、小渕首相が脳梗塞で辞任してから2000年4月に就任した森政権は財務省の緊縮路線に戻り、2001~06年の小泉政権では公共事業が大幅に削減された。小泉首相の「古い自民党をぶっ壊す」というスローガンは、政府の公共事業や社会保障支出によって分厚い中間層を生み出してきた高度経済成長期の自民党を破壊することに他ならなかったのである。

 安倍政権も当初は国土強靭化として公共事業を推進していたが、実際に2017年度の公共事業関係費は7.0兆円と1998年の半分程度に過ぎず、その影響もあって「世界の一人当たりの名目GDPランキング」が2000年の2位から2017年の25位まで下落している。平成は緊縮財政のせいで、日本が「先進国」から「衰退途上国」に転落してしまった時代なのだ。

 更に、2017年には年収100万円以下の男性貧困層が94万8835人まで増加し、1978年以降の過去40年間で最多となっている。安倍首相は「アベノミクスが成果を上げて、就業者数が過去最高になった」と自画自賛するが、賃金関係なく就業者数だけ増やしてワークシェアリングを進めてきたのが現実だろう。一定の収入を得ないと結婚できない20~30代男性にとって、年収100万円程度では失業しているのと同じことである。

 

 また、小泉政権以降の自民党が公共事業を削減してきたことで、高度経済成長期に作られた道路や橋などがどんどん老朽化しつつある。アメリカでは1930年代のニューディール政策で作られたインフラが80年代に老朽化した問題を抱えていたが、新自由主義を推進しながら財政出動を続けて1996~2012年の公的固定資本形成を1.93倍も増加したのだ。

 日本でも2012年12月に笹子トンネルの崩落事故が発生しているが、高度経済成長期から50年以上も経過して1996~2012年の公的固定資本形成を0.47倍に縮小したにも関わらず、大規模なインフラの崩壊が相次がないのは奇跡的だとしか言い様がないだろう。「平成」が終わって「令和」の時代に入った今だからこそ、政府は公共事業費を過去最高に増やして一時的に景気回復させた小渕政権を再評価すべきである。

 

 

富裕層減税と労働規制の緩和が少子化を加速させた

 だが、小渕政権には功績だけでなく「罪」の部分も大きい。具体的な例を挙げるとしたら所得税法人税を大幅に減税し、労働者派遣法を改正してしまったことだろう。富裕層に対する減税と労働規制の緩和を行うことによって、90年代まで続いていた戦後の一億総中流社会を崩壊させてしまった。

 所得税の累進性が最も高かったのは1974~83年で中曽根政権の時代から徐々に引き下げられ、1995~98年には課税所得が3000万円以上の富裕層に対して50%の最高税率が適用されていたが、小渕政権はそれを1999年に課税所得が1800万円を超えればどれだけ稼いでも37%の最高税率しか適用されないように減税したのである。

 

 所得税の累進性が高いと企業経営者の中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考えて従業員の給料も上昇しやすくなるが、最高税率の引き下げはそのプロセスを壊すことになってしまう。実際に、労働者の平均月収は1998年の36.6万円から2018年の32.4万円まで下がり、1ヵ月では4.2万円程度だが年間にすると50.4万円にもなって減少額が大きいことがわかるだろう(図79を参照)。

 特に娯楽・文化では小渕政権だった1998年に音楽ソフトの売上が6075億円とピークを迎えて2018年には2403億円まで落ち込んでいるが、これはCDからダウンロードや定額制ストリーミングの時代に移行しただけでなく、20~30代の所得が減少して娯楽に使えるお金が減ったことも大きいのではないだろうか。デフレ不況は国民を貧困化させるだけでなく、音楽文化まで破壊してしまうようである。

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 80~90年代に所得税が減税されてきた理由は主に「富裕層の消費を促して経済を活性化させる」というトリクルダウン理論が言われていたが、日本で100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2005年の141万人から2017年の316万人まで2.24倍も増加したのに対して、家計最終消費支出は2005年の274.5兆円から2017年の290.8兆円までたったの1.06倍しか増加していない(図80を参照)。

 家計最終消費支出とは、「民間最終消費支出」から私立学校、宗教団体、政党、福祉関係のNPOなど営利を目的とせず社会的サービスを提供している民間団体の消費を除いた額で、より家計の個人消費を表す数値に近いと言える。これが増加していないのは、富裕層の資産が増えても国民全体の消費は伸びないことの証左ではないだろうか。

 小渕首相はケインズ経済学に基づいて減税と公共事業の拡大を進めたのだろうが、減税するのなら所得税法人税よりも消費税を1997年以前の3%に戻すべきであった。そうすれば仮に小泉政権以降の自民党が歳出削減しても、個人消費が回復して一人当たりの名目GDPランキングが25位まで落ち込むことはなかっただろう。

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 また、小渕政権は1999年12月に労働者派遣法を改正し、それまで専門26業務に限定されていた「ポジティブリスト方式」を港湾運送、建築、警備、医療、製造業など以外は原則自由化するという「ネガティブリスト方式」に変えてしまった。派遣業務の拡大は1995年に日経連が発表した『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』に基づくもので、従業員を「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3つのタイプにわけ、雇用柔軟型として非正規雇用派遣労働者を大幅に増やす提言を行っている。

 小渕政権の後も労働者派遣法は2004年に製造業での採用が解禁され、2015年からは専門26業務の枠組みを廃止して企業が人さえ変えれば同一事業所の派遣使用期間をいくらでも延長できるようになった。その影響で非正規雇用の割合は1998年の23.6%から2018年の37.9%まで上昇し、主に20~30代の労働環境が悪化して少子化の原因の一つにもなっていることが明らかである。

 

 

与党も野党もれいわ新選組の経済政策を見倣うべき

 小渕氏の死後、森政権から安倍政権までほとんどの内閣が緊縮財政を続けて野党でも公共事業を推進する政党が少ないが、その中で私は参議院議員山本太郎氏が結成した「れいわ新選組」に期待している。2013年の参院選で当選したときに山本氏はイロモノ扱いされていたが、最近では安倍首相と仲が良かった経済評論家の三橋貴明氏と対談するなど脱原発以外にも経済政策で支持を伸ばしている。

 れいわ新選組は消費税廃止、公共事業の拡大、公務員の増加、奨学金の返済免除、一次産業戸別所得補償、所得税法人税の累進性強化、政府が補償して最低賃金を引き上げるなど戦後の福祉型資本主義を取り戻す真っ当な政策を掲げた真の保守政党で、原発即時禁止や米軍基地建設の中止を除けば、高度経済成長期の自民党がやっていたこととほとんど同じではないだろうか。

 公共事業を増やして景気回復させた一方で、富裕層減税と労働規制の緩和を行って一億総中流社会を崩壊させた小渕政権の「功績」と「反省」を踏まえた政党でもあると言える。

 

 政府はれいわ新選組の政策を参考にまずは消費税10%への増税を中止し、将来的に物品税制度に戻していくべきである。国民経済計算を見ると昭和後期の1959~1988年では名目GDP成長率の平均が12.4%、実質GDP成長率の平均が6.6%と高かったのに対し、平成の1989~2018年では名目GDP成長率の平均が1.1%、実質GDP成長率の平均が1.3%と大幅に下落しており、物品税の時代と比べて消費税を導入してからの30年間は名目では10分の1以下、実質では5分の1以下しか成長していないのだ。

 海外では2006~08年にカナダとイギリスが付加価値税を引き下げていたが、2018年にはスイスでも8%から7.7%に引き下げ、マレーシアは6%の消費税を完全に廃止して「物品税」に近い売上・サービス税(SST)に戻している。深刻なデフレ不況であるにも関わらず、たった5年間で消費税率を倍にする日本がいかに時代に逆行しているのかわかるだろう。

 

 この他にも前述の通り、建設業の賃金を引き上げて公共事業費を増やし、災害に備えて老朽化した道路や橋などを修復する必要がある。1998~2018年の政府総支出の伸び率は新興国の中国、カタール、インドで多いのはもちろんのこと、イギリスが239%、カナダが220%、スウェーデンが196%、フランスが184%、ドイツが154%と先進国でも当たり前に政府の公共投資で経済成長を続けているのに、日本では98%と1998年より政府総支出が少なく緊縮財政がデフレ不況の長期化に繋がっていることが明らかである。

 アメリカは2001年以降のデータしか公表していないが、それでも211%となっている(図81を参照)。

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 更に、れいわ新選組は「政府が補償して最低賃金を1500円まで引き上げる」と言っていて、これも日本がデフレ脱却するために必要な政策だろう。日本の最低賃金は年々上昇しているが、欧米と比較すると80年代から新自由主義を推進してきたアメリカでもワシントン州が12ドル(1320円)、イギリスでも25歳以上が8.21ポンド(1150円)なのに対し、東京は985円(いずれも2019年4月現在)とまだまだ安い。

 最近ではアメリカの連邦最低賃金を15ドル(1650円)まで引き上げる公約を掲げたバーニー・サンダース氏や、イギリスの最低賃金を10ポンド(1400円)まで引き上げる公約を掲げたジェレミー・コービン氏が若年層から支持を集めており、日本の「最低賃金1500円」も決して非現実的な政策ではないことがわかるだろう。

 安倍政権の熱烈な支持者たちは「韓国は最低賃金を引き上げて失業率を悪化させた」と言うが、韓国では最低賃金を上げても政府の中小企業支援策が圧倒的に足りなかったから経済が停滞しているのが現実で、最低賃金の引き上げそのものを否定するのは悪質な印象操作である。

 

 財政出動最低賃金引き上げの財源として、れいわ新選組は年率2%のインフレ目標に達するまで国債発行を続けると言っている。ただ、年率2%程度では本当に日本がデフレ脱却したとは言えず、できれば年間の名目GDP成長率が5%を超える経済状況になるまで国債発行を続けても良いと思う。名目成長率が5%を超えたら20~30代の所得も増加して、間違いなく少子化が改善するだろう。

 これから始まる「令和」は反緊縮に転じて1998年から続くデフレ不況を終わらせる時代にしなければならない。そのためにも山本太郎氏の経済政策を与党も野党も見倣うべきである。

 

 

<参考資料>

小此木潔 『消費税をどうするか 再分配と負担の視点から』(岩波書店、2009年)

塩田潮 『内閣総理大臣の日本経済』(日本経済新聞出版社、2015年)

植草一秀 『日本経済復活の条件』(ビジネス社、2016年)

藤井聡 『公共事業が日本を救う』(文藝春秋、2010年)

全労連・労働総研編 『2016年国民春闘白書・データブック』(学習の友社、2015年)

森岡孝二 『雇用身分社会』(岩波書店、2015年)

萩原伸次郎 訳著 『バーニー・サンダース自伝』(大月書店、2016年)

松尾匡 『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、2016年)

 

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/common/001270879.pdf

政治意識月例調査 1998年

https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/political/1998.html

国民経済計算 2019年1-3月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe191_2/gdemenuja.html

民間給与実態統計調査 長期時系列データ

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

世界の一人当たりの名目GDPランキング

https://ecodb.net/ranking/old/imf_ngdpdpc_2017.html

公共投資水準の国際比較

https://www.sato-nobuaki.jp/report/2017/20170529-002.pdf

所得税 最高税率の推移

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E#%E7%A8%8E%E7%8E%87%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB

労働政策研究・研修機構 図1 賃金

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0401.html

日本のレコード産業 2019

https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2019.pdf

World Wealth Report  Compare the data on a global scale

https://www.worldwealthreport.com/hnwi-market-expands

「民間最終消費支出」と「家計最終消費支出」の違い

https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/indicator/20130117_006677.pdf

れいわ新選組 今日本に必要な緊急政策

https://www.reiwa-shinsengumi.com/policy/

マレーシアの売上・サービス税(SST

https://kabu-yutai.com/2018/12/08/post-7610/

各国の最低賃金(2019年6月20日更新)

http://ww1.tiki.ne.jp/~happy-n/sub100.html

消費税増税後の景気悪化から逃げ続ける安倍政権

就業者数ではなく消費税増税の影響で下落する実質賃金

 賃金や労働時間を調べる厚労省の「毎月勤労統計調査」で、統計法に反する不適切な調査が長年行われていたことが今年1月に発覚した。2018年1月に調査対象となる企業群のサンプルを半数近く入れ替え、同年6月には名目賃金の伸び率が前年同月比で3.3%増加と1997年1月以来の高い水準にのぼっていたことが報道された。

 しかし、名目賃金から物価の変動を除いた実質賃金は2014年に消費税増税の影響で「現金給与総額」が前年比マイナス2.8%、「きまって支給する給与」が前年比マイナス3.2%となっており、その後も低迷した状態が続いている。

 

 経済学者のミルトン・フリードマンは消費と所得の関係について、「消費者の消費は恒常的だと考える所得に比例する」と主張している。例えば、農家に代表される「所得が不安定な人々」は預金や保険を増やさざるを得ない。つまり、所得から消費に回す割合を減らすため消費性向が下がる。

 逆に、公務員に代表されるように安定的な所得を「恒常的」に得られることが確定しているならば消費性向は上昇する。恒常的な所得を拡大することこそが、国内における「消費」という需要を最大化する道なのだ。毎月勤労統計調査では「現金給与総額」と「きまって支給する給与」をそれぞれ公表しているが、実質賃金の「きまって支給する給与」がフリードマンの言う「恒常的な所得」に最も近いだろう。

 

 2011年2月から2019年2月までの「きまって支給する給与」の推移を見ると、消費税を8%に増税した2014年4月から大幅に下落したことがわかる(図72を参照)。

 実質賃金は「生産の量」に大きく左右され、例えば販売数が1年で10個から9個へと減った場合に実質賃金は前年比10%落ち込んでしまう。消費税増税で家計消費が減少したことが実質賃金下落の原因なのである。

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 それでも、高橋洋一氏など安倍政権下の消費税増税を容認する経済学者は実質賃金の下落について「就業者数が増えたことによる成果」だと強弁し、政治ブログなどを見ていても「給料の安い労働者を解雇してデフレにすれば実質賃金は上がる」などとデタラメなことを書いている人が多い。

 だが、図73の「就業者数と実質賃金指数の推移」を見ると消費税が3%だった1990~96年は就業者数も実質賃金も上昇していたのに対し、5%に増税された1997年から共に下落が始まり、8%増税後の2014年以降は「就業者数が増加したにも関わらず実質賃金が減少する」という状況が発生している。

 消費税を3~5%に減税すれば就業者数が増加しても実質賃金は上昇するし、逆に消費税を10%に増税すれば更に実質賃金が下落して国民が貧困化してしまうだろう。

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緊縮財政を隠すためにかさ上げされた名目GDP

 安倍政権は「毎月勤労統計調査」の改ざんだけでなく、国民経済計算の名目GDPも大幅にかさ上げしている。内閣府は2016年12月にGDPの算出方法を変更し、研究開発費などを加えて1994年以降のGDPを旧基準の「平成17年基準」から新基準の「平成23年基準」に改定して公表した。

 しかし、実際の名目GDPを見てみると1994年は平成17年基準が495.7兆円、平成23年基準が501.5兆円とたったの5.8兆円しか増加していないのに対して、2015年は平成17年基準が499.3兆円、平成23年基準が531.3兆円と実に32.0兆円もかさ上げされているのだ。1994年と2015年でこれだけ差があるのは算出方法を変更した際に、研究開発費とは関係ない「その他」の部分を大幅に加算したからだと言われている。1994年なら「その他」の部分はマイナス7.8兆円だったのに対し、2015年は逆にプラス7.5兆円も増えてしまった。

 

 平成23年基準の名目GDPは2018年で548.9兆円と、1997年の534.1兆円を超えていて過去最高を更新しているが、平成17年基準では最後に公表された2015年の名目GDPが499.3兆円だったので、これに平成23年基準の名目GDP成長率(2016年の0.9%、2017年の1.7%、2018年の0.7%)を掛けると2018年の名目GDPは515.9兆円程度にしかならず、まだ1997年の523.2兆円を超えていない(図74を参照)。

 「アベノミクスが成果を上げて、名目GDPが過去最高になった」と自画自賛する安倍首相の発言は全くの嘘なのである。

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 更に、かさ上げされた平成23年基準でも安倍政権が始まった2013年1-3月期から2018年10-12月期までの年率換算の名目GDP成長率を見ると、安倍政権前期に当たる2013~14年の成長率は年率平均2.44%、安倍政権中期に当たる2015~16年の成長率は年率平均1.94%、安倍政権後期に当たる2017~18年の成長率は年率平均1.21%と、政権後半になるほど成長率が下落してデフレ不況に逆戻りしていることがわかる(図75を参照)。

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 名目GDP成長率が下落したのは消費税増税による景気悪化に加え、政府の公共投資(公的固定資本形成)を削減したことも原因だと思われる。安倍政権は当初「機動的な財政政策」として公共事業の大盤振る舞いを宣言していたが、実際に公的固定資本形成(実質値)が増加していたのは2012年10-12月期の24.1兆円から2013年10-12月期の27.1兆円までの最初の1年だけであって、その後は2018年10-12月期の24.5兆円へと減少している。

 安倍首相がアベノミクス自画自賛すればするほど増税後の景気対策は遅れ、財政も緊縮的になってきているのが現実のようだ。「日銀が金融緩和だけしていればデフレを脱却できる」という勘違いはやめて、消費税引き下げと財政出動に踏み切るべきではないだろうか。

 

 

本当に「悪夢のような時代」なのは2014年4月以降

 また、安倍首相は2月10日の自民党大会で、2007年の参院選での敗北に触れる中で「悪夢のような民主党政権が誕生した。あの時代に戻すわけにはいかない」と演説した。

 ツイッターなどを見ていると民主党政権の時代を不当に貶めるのが自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)の常套手段なので安倍首相は熱狂的な支持者に向けたリップサービスとして上記の発言をしたのだろうが、民主党政権の時代は消費税がまだ5%で今より家計消費の伸びが良かったから中小企業の景況感も回復していたのが現実なのだ。

 

 実際に、2011年3月の東日本大震災から数ヵ月経った仙台ではブランド品のルイ・ヴィトンや高級車のメルセデス・ベンツが急に売れ始めたことが報告されている。あれだけ大規模な災害が起こると生命保険会社や損害保険会社は世間からの批判を恐れて、本来なら地震保険に加入していなければ免責される事案でも申請を受け付け、その審査が下りて多額の保険金が支払われたタイミングで高級品が売れたのだという。

 民主党政権の時代も決して好景気だったとは言えないが、消費税が今より安かったことでリーマンショック東日本大震災からの回復が早かった側面も存在するのではないだろうか。

 

 家計最終消費支出を見ても2008年10-12月期の272.7兆円から2013年10-12月期の292.7兆円まで5年間で20.0兆円も増加していたのに対して、2018年10-12月期には292.8兆円へと5年間でたったの0.1兆円しか増えていない。中小企業の景況感を表す「中小企業DI」も2008年10-12月期のマイナス42.0から2013年10-12月期のマイナス13.8まで回復していたが、その後は横ばいに推移していて2018年10-12月期もマイナス13.8と変わらない(図76を参照)。消費税増税から5年が経っても未だに2014年1-3月期のマイナス11.1を上回った時期がないのだ。

 総務省が公表している家計消費水準の実質的な向上分を示す「消費水準指数」も東日本大震災後の2011年4月から2014年3月まで回復していたが、2014年4月以降は消費税増税の影響で大幅に下落してしまった(図77を参照)。

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 この間、日本の総人口が減少して介護の人手不足が深刻化したことにより、完全失業率が2011年4月の4.7%から2018年12月の2.4%まで改善するという好条件にも関わらず、増税後に消費がこれだけ落ち込んでしまったのだ。

 安倍政権が統計データを改ざんしたり、旧民主党へのネガティブキャンペーンを煽ったりするのも結局のところ「消費税増税による景気悪化」から目を逸らすためである。本当に「悪夢のような時代」なのは民主党政権ではなく2014年4月以降で、消費税増税がいかに日本経済を苦しめているのかわかるだろう。

 

 

<参考資料>

吉田啓志「発覚した厚労省『毎月勤労統計』の『偽装』は『政権への忖度』の声も 『アベノミクスは失敗』の評価恐れるか」 『週刊金曜日』(金曜日、2019年1月25日)

三橋貴明 『日本「新」社会主義宣言 「構造改革」をやめれば再び高度経済成長がもたらされる』(徳間書店、2016年)

明石順平 『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル、2017年)

和田秀樹 『経営者の大罪 なぜ日本経済が活性化しないのか』(祥伝社、2012年)

 

厚労省、統計発表見直しへ 賃金上昇率過大「補整はせず」

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/politics/article/453411/

6月の名目賃金確報値3.3%増、速報値から縮小 毎月勤労統計

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL22H74_S8A820C1000000/

毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html

増税サポーター 安倍晋三

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12442619730.html

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

国民経済計算 2016年7-9月期 1次速報値(平成17年基準)

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163/gdemenuja.html

国民経済計算 2018年10-12月期 2次速報値(平成23年基準)

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2018/qe184_2/gdemenuja.html

『悪夢のような民主党政権』発言からにじみ出た『バラ色の自民党』意識

https://bunshun.jp/articles/-/10861

中小企業景況調査報告書 結果の概要

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keikyo/index.htm

家計調査(家計収支編) 過去に作成していた結果表

https://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/index2.html#level

日本の自己責任論をどう向き合うべきか?

著名人と政府与党の支持者が拡散させる自己責任論

 ベネッセと朝日新聞が4~5年に一度実施している「学校教育に対する保護者の意識調査」によれば、豊かな家庭の子供ほどより良い教育を受けられる傾向があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した小中学生の保護者が2008年の43.9%から2018年の62.3%まで増加した(画像を参照)。

 『社会保障の充実を阻む「自己責任論」』でも述べた通り、日本はもともと先進国の中で最も貧困問題に対して自己責任論が強く、2007年に行われた国際調査でも「政府が自力で生活できない人を助けてあげるべきか?」の質問で、「全くそう思う」と回答した人はたったの15%と47カ国の中で最も少なかったが、その傾向がこの10年間だけでも更に強まっているようだ。

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 それを象徴するかのように、著名人が自己責任論を思わせるような発言を行った場合におけるインターネット上の反応もこの10年間で変化してきた。例えば2006~07年なら人材派遣会社ザ・アール奥谷禮子氏が過労死について「自己管理の問題。他人の責任にするのは問題」「労働組合が労働者を甘やかしている」と発言したことに対し、Yahoo!知恵袋では「ザ・アールの女社長って悪魔ですか?人類の敵ですか?」といった批判の書き込みも多く見られた。

 その一方で、2016年にはフリーアナウンサーの長谷川豊氏がブログで「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」と暴言を吐いた際に、内容は賛否両論になったがコメント欄では「よくぞ言ってくれました」「透析患者は本当に自業自得です」と彼を擁護する書き込みが多かった。

 過労死を自己責任扱いした奥谷氏の発言も決して擁護できないが、「殺せ」などの言葉を使っている以上、長谷川氏の暴言のほうがもっと許しがたい内容なのは言うまでもない。それでも2006年の奥谷氏が批判され、2016年の長谷川氏に同情が集まった背景には近年の自己責任論の高まりが存在するのではないだろうか。

 

 また、2018年には長谷川氏に触発されたのか、ツイッターで落語家の桂春蝶氏が「世界中が憧れるこの日本で貧困問題などを宣う方々は余程強欲か、世の中にウケたいだけ。この国での貧困は絶対的に自分のせいなのだ」と言ったり、高須クリニック院長の高須克弥氏が「甘ったれるな若者!年寄りは君たちくらいの年齢のときはモーレツに働いたんだよ。働きながら君たちを育てたのだ」と言ったり、ZOZOの田端信太郎氏が「過労死には本人の責任もある。なぜならば物理的な拘束はなく、使用者側に殺意もないから。使用者の過失責任はあるかもしれないが、本人の責任もゼロではないというのが私の見解です」と言うなど、自己責任論や若者バッシングを思わせる著名人の発言が相次いだ。

 

 更に、『新・日本の階級社会』などの著書がある橋本健二氏が2016年に行った調査によれば、「貧困になったのは努力しなかったからだ」と「努力しさえすれば、誰でも豊かになることができる」という設問に「そう思う」と回答した人を支持政党別に見ると、民進党が20.5%、公明党が21.5%、共産党が15.2%、支持政党なしが20.3%なのに対し、自民党が34.1%と政権与党の支持者ほど自己責任論に肯定的な傾向が見られた(図70を参照)。

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 自民党も表向きでは「消費税を増税して社会保障を充実させる」と言っているが、残念ながら安倍政権の支持者が国内の経済格差や社会保障の問題に関心を持っている可能性は低いだろう。例えば、国税庁民間給与実態統計調査では2017年に年収100万円以下で働く男性貧困層の数が過去40年間で最多の94.9万人となっており、1984年の49.8万人から約1.9倍も増加しているが、この事実をアベノミクスの成果ばかり強調する安倍信者に指摘すると、必ず「給料が上がらないのは努力が足りないからだ」といった反論が返ってくる。

 彼らは小泉政権以降の自民党が公共事業の削減や労働規制の緩和を進めて子育て世代の男性を貧困化させてきた現実を認めたくないからこそ、経済格差を個人の問題にして自己責任論で片付けようとするのではないだろうか。

 

 その他にも、昨年10月にシリアで拘束されていた安田純平氏が解放されたとき、安倍政権の熱烈な支持者たちがツイッターなどで自己責任論を振りかざして彼を誹謗中傷する書き込みで溢れた。

 安倍信者によるジャーナリストへの誹謗中傷は安田氏だけでなく、ISIL(過激派組織イスラム国)に殺害された後藤健二氏についても在日認定し、元航空幕僚長田母神俊雄氏は「イスラム国に拉致されている後藤さんとその母親の石堂順子さんは姓が違いますが、どうなっているのでしょうか。ネットでは在日の方で通名を使っているからだという情報が流れていますが、真偽のほどはわかりません。マスコミにも後藤健二さんの経歴などを調べてほしいと思います」と暴言を吐いていた。

 しかし、後藤氏は映像の中で日本のパスポートを提示していたため、田母神氏が安倍信者のデマを鵜呑みにしたに過ぎないのである。

 

 自己責任社会のイメージが強いアメリカでも2014年にジャーナリスト2人がISILに殺害されたが、率先してリスクを負って取材に赴いた記者を賞賛する声が数多く上がり、アジアプレス・インターナショナル大阪事務所代表の石丸次郎氏が調べた限りでは2人を貶めたり、迷惑だと批判したりする意見は皆無であったという。アメリカは1970年代のベトナム戦争でジャーナリストが撮影した写真によって反戦世論を高めた歴史があり、紛争地に行って命懸けで情報を手に入れようとする戦場ジャーナリズムに対する国民の理解が深いのだろう。

 その一方で、日本では田母神氏のように自らネット上のデマを拡散し、自己責任論を煽る著名人が少なくないのは残念な限りである。

 

 

自己責任論の蔓延を食い止めるには政治教育が必要

 国民の間で自己責任論が幅広く蔓延している以上、自民党が本当に日本の社会保障を全世代型に変えたいのであれば、消費税を増税する前に教育を通して国民の社会保障に対する知識を高めていく必要があるだろう。しかし、安倍政権は中学生や高校生に政治教育を行うことに対して否定的だ。

 2015年6月には山口県の県立高校で、安全保障関連法案についてクラスを8つのグループにわけてそれぞれの主張をまとめ、グループごとの主張に対して高校生が賛否を投じるという実践が行われたが、この授業の取材記事を読んだ自民党県議会議員が「政治的中立性が問われる現場にふさわしいものか疑問を感じる。県教委としてどういう認識なのか」と抗議し、教育長が「法案への賛否を問う形になり、配慮が不足していた。指導が不十分だった」と謝罪している。

 選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられた裏側で、地方議会が政治的中立性を理由に高校の授業で時事問題を扱うことを制止していたのだ。

 

 それに対し、国税庁が全国の中学生と高校生を対象に毎年実施している「税の作文」では、『ヨーロッパと比べて日本の消費税はまだまだ安い』『高齢化が深刻な日本では消費税を上げないと財政が破綻する』など、明らかに財務省増税推進論をコピーしたような内容の作文ばかりが入賞する。

 ヨーロッパの消費税が高く感じるのは標準税率を比較しているからであって、食料品に軽減税率が適用されていない日本は「国税収入に占める消費税収の割合」が27.9%と、イギリスの25.8%、イタリアの27.3%と比べても変わらないし、政府資産(2017年度、670.5兆円)が名目GDP(547.4兆円)を超えている日本が財政危機というのは全くの嘘で、国債も9割以上が国内で消化されているので日銀が民間銀行の国債を買い取れば財政再建は進むのである。

 

 更に税の作文を読んでいると、『消費税を通して私たちも納税している』という明らかに不適切な表現が散見されることを疑問に思う。私たちが買い物をするとき、レジでお金を支払っているため、消費税を納めているのは消費者だと勘違いしている方も多いだろうが、実際に消費税を納める義務があるのは事業者で、レジで払っているのは事業者が販売価格に上乗せ(転嫁)したぶんの消費税額である。

 しかし、販売価格に上乗せされた消費税を、モノを買うときに消費者が負担するのは事業者が値引きしていない場合で、中小・零細企業の中には少しでも商品を安く売るために、消費税を価格に転嫁できないこともあり、結果的に自腹を切って納税する例が少なくない。その影響もあって消費税は国税の中で最も滞納額が大きく、2017年度に発生した消費税の滞納税額は3633億円と、国税全体の滞納額(6155億円)における59.0%を占めている(図71を参照)。

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 消費税は法人税所得税と違って、年間売上高が1000万円以上の場合、事業者が赤字でも納税しなければならず、滞納税額が減らないのはそれだけ消費税を納められない企業が多いからだろう。『消費税を通して私たちも納税している』という誤解を持つことは、逆に言えば「消費税を納められない事業者は自己責任」と偏見を助長することにもつながりかねない。

 こうした消費税の問題点を無視して一方的に増税賛成派の主張を子供に押し付ける「税の作文」は、それこそ政治的中立性に反する偏向教育だと言えるし、2018年度の20万通を超える応募の中で消費税増税に反対する内容の作品を掲載しないのは不当な差別である。10~20代の自民党支持率が高いのも、国税庁が税の作文を通して消費税増税に賛成する若者を増やしていることと無関係ではないのかもしれない。

 

 高負担・高福祉の国として有名なスウェーデンでは、小学校の社会科の教科書で貧困や格差の問題に焦点が当てられており、収入が低くて生活が苦しい家庭には生活保護が支払われることまで詳しく説明されている。その他にもデンマークでは、小学校から模擬選挙によって政治の理解を深め、近所に建設される道路に関して賛成か反対か議論する授業も行われるという。

 その影響もあって国政選挙の投票率スウェーデンが87.18%(2018年)、デンマークが85.80%(2015年)と日本の53.68%(2017年)よりもはるかに高いのである。スウェーデンデンマークが高福祉で成り立っているのは付加価値税が高いだけでなく、国民が常に政治や社会保障の問題に関心を向けていることも理由の一つとして挙げられるだろう。

 アメリカでも、4年に一回の大統領選の度に将来有権者となる子供や若者を対象にした「Mock election」「Kids Vote」と呼ばれる模擬選挙が行われ、民主主義が成熟した先進国では当たり前に政治教育が行われているのだ。

 

 そもそも政治教育の中立性を気にしている人々は、2018年度から教科化が始まった道徳教育に関しても「偏向」する可能性があると思わないのだろうか?例を挙げるとしたら、2000年代に話題となった「もったいない運動」だろう。

 もったいない運動は、2004年にノーベル平和賞を受賞したケニア環境保護活動家であるワンガリ・マータイ氏が日本語の「もったいない」という言葉を知って感銘を受けるエピソードから始まっているが、日本国民全員がもったいない精神を持って個人消費を減らしたらGDPの「民間最終消費支出」も減少して日本経済が疲弊してしまうことになる。

 また、2006年には滋賀県知事の嘉田由紀子氏がもったいない運動を用いて財政健全化を口実に東海道新幹線の新駅建設やダム建設の中止を進めたが、これもGDPの「公的固定資本形成」を減らして地方経済の衰退に拍車をかける結果となってしまう。道徳教育のメッセージが間違って子供たちに伝わらないようにするためにも、やはり政治教育と道徳教育は並行して実施する必要があるだろう。

 

 

<参考資料>

菊池英博 『そして、日本の富は略奪される』(ダイヤモンド社、2014年)

危険地報道を考えるジャーナリストの会・編 『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社、2015年)

林大介 『「18歳選挙権」で社会はどう変わるか』(集英社、2016年)

鈴木賢志 訳著 『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む』(新評論、2016年)

ケンジ・ステファン・スズキ 『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』(角川SSコミュニケーションズ、2010年)

 

学校教育に対する保護者の意識調査

https://berd.benesse.jp/up_images/research/Hogosya_2018_web_all.pdf

平成30年度「税に関する高校生の作文」

https://www.nta.go.jp/taxes/kids/sakubun/koko/h30/index.htm

財政金融統計月報第793号

https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g793/793.htm

平成29年度「国の財務書類」等を作成しました

https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2017/20190129houdouhappyou.html

平成29年度 国税徴収、国税滞納

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/chousyu2017/pdf/17-18_tainokanpu.pdf

2018年スウェーデン総選挙の結果は?

https://tatsumarutimes.com/archives/21651

デンマークの選挙での投票率について

https://www.sra-dk.com/voter-turnout-rate/

もったいない – Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84