消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

完全失業率と大卒就職率が改善した理由

完全失業率が改善したのは総人口が減少したから

 内閣府が2月14日に発表した2017年10-12月期のGDP速報値は、インフレの影響を除いた実質の年率換算で0.5%のプラス成長だったが、インフレを含めた名目では年率0.1%のマイナス成長となった。

 しかし、消費税増税の悪影響を認めたくないマスコミは相変わらず、「バブル期から約28年ぶりに8四半期連続のプラス成長」「雇用環境が改善して、着実に経済成長が進んだ」と景気回復を強調している。実質GDPで見れば、それこそ安倍政権の成長率(2013年1-3月期~2017年10-12月期の年率平均1.42%)より民主党政権の成長率(2009年10-12月期~2012年10-12月期の年率平均1.70%)のほうが高かったのが現実なのだ。

 

 金融緩和も財政出動も行わなかった民主党政権の成長率が高い理由は、間違いなく消費税がまだ5%で安倍政権より個人消費の伸びが良かったことが影響しているだろう。

 国民経済計算の民間最終消費支出を見ると、リーマンショックから安倍政権初期までの4年半(2008年10-12月期~2013年4-6月期)では約20.9兆円も増加していたのに対し、その後の4年半(2013年4-6月期~2017年10-12月期)では消費税増税の影響があって約1.0兆円程度の増加に留まっている(図52を参照)。

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 また、安倍首相は国会答弁などで口を開けば、「アベノミクスが成果を上げて、名目GDPが過去最高になった」と自画自賛するが、『消費税増税が少子高齢化を加速させる』でも指摘した通り、その成長率も安倍政権の前半(2013年1-3月期~2015年4-6月期)では年率平均3.15%にのぼっていたのに対し、安倍政権の後半(2015年7-9月期~2017年10-12月期)では年率平均1.25%まで下落してしまった。

 2017年には、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)の数値が前年比マイナス0.1%となっており、個人消費の著しい落ち込みによるデフレ不況への逆戻りは明らかだろう。

 

 更に、アベノミクスを評価する経済学者は「有効求人倍率が回復し、就業者数が増加している」と持てはやすが、就業者数が増えても1人当たりの実労働時間は2006年の月150.9時間から2016年の月143.7時間まで減少しており、延べ総労働時間はリーマンショック以前の水準に回復していない(図53を参照)。

 年収100万円以下で働く貧困層も2016年には421.9万人と80年代以降で最多を更新し、アベノミクスで雇用が改善したように見えるのはワークシェアリングが進んだ結果なのだ。

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 その上、完全失業率の低下についても景気回復より2010年以降の人口減少による影響が大きいだろう。図54を見ると失業率は2008年10月の3.8%から2009年7月の5.5%までは悪化していたものの、それ以降は人口減少と並行して緩やかに改善しているのがわかる。

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 「人口が減少して失業率も改善する」という現象はドイツやロシアでも発生していて、難民を受け入れる前のドイツでは2005~2011年に人口が8134万人から8028万人へと約106万人減っていたが、失業率は11.0%から5.9%まで低下した。ロシアでも1998~2017年に人口が1億4739万人から1億4338万人へと約401万人減ったが、失業率は13.3%から5.5%まで低下している。

 リーマンショック翌年である2009年の実質GDP成長率はドイツがマイナス5.6%、ロシアがマイナス7.8%と、金融危機の当事国だったアメリカのマイナス2.8%よりも悪化しており、決して好景気が失業率改善の主因ではないようだ。

 

 

大卒就職率の上昇は景気ではなく教育の成果

 ところで、2017年春に大学を卒業した学生の就職率は97.6%(昨年4月1日現在)となり、統計を取り始めた1997年卒から過去最高を更新した。大学就職率は2011年卒の91.0%から緩やかに回復を続けていて、2016年の参院選では公明党の山口代表が「アベノミクスが成果を上げて、大学生の就職率が過去最高になった」と宣伝材料にもしている。しかし、大学就職率の上昇は本当に景気回復が最大の理由なのだろうか?

 

 実際に、安倍政権の後半になって名目GDP成長率が落ち込んでいることに加え、休廃業・解散した企業の数は2000年の1万6110社から2017年の2万8142社まで増加している。この他にも、企業の経常利益は過去最高だが内部留保も400兆円を超えており、法人税や賃上げなどを通して企業が政府と従業員に利益を還元しているとは言い難い。

 また、毎年90%を超えている就職率にも「参考にする大学のサンプル数が限られている」「4月まで内定が取れず、翌年に持ち越した学生は就職希望者に含まれない」といったカラクリが存在し、必ずしも大学の就職状況を示した数字ではない。

 

 それでも、大卒就職率が上昇した理由について私は景気よりも教育の成果が大きいと思っている。例えば、図55では1968~2016年における未成年の検挙人員(少年人口比)と15~19歳の完全失業率の推移を示した。

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 このグラフを見ると60年代後半から80年代前半までは「若年失業率が低く、少年犯罪が多発していた時代」だったが、1987年以降は若年失業率と検挙人員が強い相関関係を表すようになり、特にバブル崩壊後の90年代後半から00年前半にかけては「若年失業率が大幅に悪化し、少年犯罪が微増した時代」と言える。

 90年代後半に未成年の検挙人員が微増したのは神戸連続児童殺傷事件(通称:酒鬼薔薇事件)の発生で、当時の警察庁が少年犯罪の取り締まりを強化した影響も大きいが、事件から5年後の2002年には若年失業率が12.8%と戦後最悪を記録しており、経済状況の悪化と少年犯罪の一時的な増加は無関係ではないだろう。

 本当に非難されるべきなのはまだ若年失業率が低く、一億総中流社会が根付いていたにも関わらず少年犯罪の多かった80年代以前である。当時は全国各地の中学や高校で校内暴力が大きな社会問題となり、1984年には臨時教育審議会が落ちこぼれを減らすために、授業時間を削減して全体のハードルを下げることを目的とした「ゆとり教育」を提唱している。

 

 それに対し、現代では「人口減少によって若年失業率が改善し、少年犯罪も減少する時代」に入りつつある。若者がどんどん優秀になっているのは少年犯罪の減少だけでなく、OECDが3年ごとに実施している生徒の学習到達度調査(PISA)の推移を見てもよくわかるだろう。

 PISAは、世界各国の15歳の子供(日本では高校1年生)を対象に「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3科目を調査する形式を取っているが、その中でも「数学的リテラシー」の順位は2006年の10位から2015年の5位、「科学的リテラシー」の順位は2006年の6位から2015年の2位まで上昇した。

 

 これについて、マスコミでは「脱ゆとり教育の成果」だとする意見と、「総合的な学習の時間が功を奏した結果」だとする意見に分かれているが、どちらにしろ日本の子供たちの学力が回復していることは事実だろう。

 近年では将棋や卓球、フィギュアスケートなどで10~20代の選手が活躍し、バラエティでも様々な分野の天才キッズたちを特集する番組が増えている。こうした傾向は私が小中学生だった2000年代でもなかったように思う。

 

 嘉悦大学教授の高橋洋一氏は『安倍政権になってから就職率が高まり、今では就職に苦労していない。正直言って学生のレベルは同じであるが、政策によってこれほどの差があるとは驚きだ』と述べているが、変わったのは経済状況ではなく学生の側ではないだろうか。

 2007年の第一次安倍政権ではゆとり教育の見直しとして、小学校の総授業時数を278時間、中学校の総授業時数を105時間増加させることを決定し、2009年度から前倒しで実施された。

 

 80年代の中曽根改革から進められたゆとり教育によって学力格差が深刻化していた日本で、公教育の総授業時数を増やしたのは全体の学力の底上げに繋がった可能性が高く、現在の大学生は初期の脱ゆとり世代に含まれると言って良い。

 大卒の就職率が改善したことをどうしても安倍政権の功績にしたいのであれば、アベノミクスではなく第一次政権でゆとり教育を見直したことこそ評価されるべきだろう。

 

 

<参考資料>

池上彰池上彰の「日本の教育」がよくわかる本』(PHP研究所、2014年)

 

GDP実質年0.5%成長、消費・投資けん引 10~12月

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2687698014022018MM0000/

国民経済計算 2017年10-12月期 1次速報値

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2017/qe174/gdemenuja.html

なぜ給料は上がらない? 安倍政権が主張する「雇用改善」の嘘と本当

http://www.mag2.com/p/money/333216

ドイツの人口・就業者・失業率の推移

http://ecodb.net/country/DE/imf_persons.html

ロシアの人口・就業者・失業率の推移

http://ecodb.net/country/RU/imf_persons.html

2017年3月卒大学生の就職内定率、過去最高の97.6%に

https://news.mynavi.jp/article/20170519-a164/

2017年「休廃業・解散企業」動向調査

http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180115_01.html

図録 学力の国際比較(OECDPISA調査)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3940.html

若者の「自民党支持増」はなぜか。左派系メディアにかわって教えよう

http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/224976e8b4732ee9effd3ec98ef49173

ゆとり教育 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B1%E3%82%86%E3%81%A8%E3%82%8A%E6%95%99%E8%82%B2