消費税は貧しい高齢者へのしわ寄せが大きい
増税賛成派は「消費税は子供からお年寄りまで税金を徴収できるから、世代間格差の是正に効果的だ」と主張する。
世代間格差とは、学習院大学教授の鈴木亘氏の試算によれば、将来的に受け取る年金受給総額から、現役時代に納めた年金保険料の総額を引いた差が1940年生まれと2010年生まれで約5900万円もあるという。
年金受給格差を消費税で解決しようとする意見には「消費税を増税すれば、富裕高齢者の消費によって税収が上がり、将来的な年金支出を通して貧しい若年層に再分配できる」という思惑が存在するが、そもそも高齢者の多くは若者から搾取するほど金持ちなのだろうか。
厚労省の「平成27年 国民生活基礎調査の概況」によれば、65歳以上の高齢者世帯の所得金額は150~200万円の割合が14.8%と最も多く、50万円未満も2.1%存在する。その一方で、1000万円以上は1.9%存在し、高齢者世帯の格差が広がっていることがわかるだろう(図13を参照)。
金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(2015年)でも、金融資産を持っていない人は20代で36.4%、70歳以上で28.6%なのに対し、金融資産を3000万円以上持っている人は20代では存在しない一方で、70歳以上では15.5%も存在していて、高齢世代の格差は若者よりも深刻で貧困層と富裕層の二極化が進んでいると言える(表7を参照)。
『消費税収の86%が法人税減税に消えている』でも説明した通り、消費税は所得に関係なく、消費に対して同じ額の税金が掛かる「逆進性」の強い性質を持っているため、富裕高齢者より貧しい高齢者へのしわ寄せが大きいだろう。
若者のほうが消費税増税に反対する人が多い
新潟大学教授の藤巻一男氏は2011年、消費税増税に関して20~60代の男女1000名に以下のアンケート調査を実施した(図14を参照)。
この調査によれば、「消費税の引き上げはやむを得ない」とする回答1~3の合計は20代で63.2%、30代で65.4%、40代で65.6%、50代で70.3%、60代で72.0%と年齢が上がるごとに割合が高まっていくのがわかる。
それに対し、「消費税の引き上げには反対」とする回答4は20代で32.5%、30代で28.4%、40代で29.1%、50代で25.5%、60代で22.8%と高齢者より若者のほうが反対の割合が高いのである。
藤巻氏の調査の他にも、インターネットの調査サイト『しらべぇ』が2016年6月に、全国18歳~70代の男女有権者2070名に対して「税金の無駄を見直せば、消費税を増税しても良いか?」と質問を行った(図15を参照)。
この調査でも、「消費税を増税しても良い」と答えた人の割合は、18歳~20代で男性が45.5%、女性が47.6%なのに対し、70代では男性が78.2%、女性が70.3%と若者より高齢者のほうが消費税増税に賛成する人が多いのだ。実際に、消費税引き上げを推進する政治家の多くが60歳以上であることからも、増税に賛成する高齢者の姿が想像できるだろう。
仮に、消費税増税が世代間格差の是正になると国民が実感しているのなら、若者こそ消費税増税に賛成する割合が高くなければならないが、高齢者より若者のほうが増税に反対する人が多い事実について、消費税増税の賛成派はどう感じるだろうか。
何故、若者の多くが消費税増税に反対するのか?
若者の多くが消費税増税に反対する理由は、高齢者より今の政治に対する不信感が強いからだろう。東京大学の谷口将紀研究室では2009年に、朝日新聞との共同調査で年齢別に「あなたは国の政治をどれくらい信頼しているか?」と質問を行った(図16を参照)。
国の政治を全く信頼していない割合は、20代で34%、30代で32%、40代で24%、50代で23%、60代で17%、70歳以上で15%と年齢が上がるごとに低下しているのがわかる。
消費税の財源のほとんどは法人税減税の穴埋めに消えているが、政治への信頼が高ければ国会議員が「消費税増税分を全額、社会保障に使う」と発言しても、それを信じてしまうだろう。逆に、政治に対する不信感が強ければ、消費税増税と法人税減税が同時期に実施されている事実を知らなくても、国民に負担増を求める政治家の発言は信用できないだろう。
また、当然のことながら高齢者より若者のほうが長く生きるため、そのぶん税金を払う期間も長い。日本では「消費税引き下げ」の議論が起こったことがないので、一度増税したら税率が下がらない消費税は若者にとって大きな負担ではないだろうか。
<参考資料>
木村雅文 編著 『現代を生きる若者たち』(学文社、2013年)
藤巻一男 『日本人の納税者意識』(税務経理協会、2012年)
世代間格差という幻想に若者はもっと怒った方が良い
http://blog.livedoor.jp/midwhite/archives/7607061.html
平成27年 国民生活基礎調査
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa15/dl/06.pdf
家計の金融行動に関する世論調査
https://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/yoron2015fut/
「税の無駄なくなれば消費増税OK」が6割 世代格差も判明