「消費税になぜ滞納金が発生するのか?」については、消費税という税制の仕組みを理解する必要がある。
私たちが買い物をするとき、レジでお金を支払っているため、消費税を納めているのは消費者だと思っている方も多いだろう。だが、これは大きな誤解で、実際に消費税を納める義務があるのは事業者だ。事業者は、決算や確定申告の際に、一定の計算による消費税額を国などに納付する義務があり、そこで消費税を販売価格に上乗せ(転嫁)することが認められている。
しかし、販売価格に上乗せされた消費税を、モノを買うときに消費者が負担するのは事業者が値引きしていない場合で、中小・零細企業の中には少しでも商品を安く売るために、消費税を価格に転嫁できないこともあり、結果的に自腹を切って納税する例が少なくない。
このことから、消費税は事業者が預かる「間接税」ではなく、事業者が納める「直接税」と言ったほうが正しいだろう。消費税は法人税や所得税と違って、年間売上高が1000万円以上の場合、事業者が赤字でも納税しなければならず、滞納税額が減らないのはそれだけ消費税を納められない企業が多いからである。
国税の新規発生滞納税額は1992年度の1兆8903億円をピークに減少しているが、これは主に所得税、法人税、相続税の滞納が減ったからで、消費税だけは依然として滞納額が多いのだ(図10~11)。ちなみに、図10を見ると「消費税の滞納額も1998年から減少しているのでは?」と思うかもしれないが、国税全体に占める滞納額の割合は1990年度の11.1%から2014年度の55.7%まで増加している。
更に、消費税の滞納額は1996年から98年度、2013年から14年度へと税率が引き上げられた時期に増えており、増税の影響で消費税を納められない事業者が増加するのは明白である。
だが、大手メディアは消費税の滞納が増えているのを問題視するどころか、「自営業者=脱税」のイメージを作ることに必死だ。
例えば、少し古いが2001年5月18日の産経新聞では「消費税は私たち庶民が少しでも日本の社会が住みよい、安定した姿になりますようにとの願いから必死に納めているものです。その義務を果たさず、納税すべきお金を他に使うのは最も悪質な脱税行為と言っても過言ではありません。どうして新聞はもっと大きく報道して国民に詳しく知らせないのですか? 政治を先頭に消費税滞納の根絶方法を早急に確立することが急務だと思います」と読者から怒りの声が寄せられている。
2008年4月16日の衆議院財務金融委員会でも、民主党の下条みつ議員が滞納された国税の徴収を急げとの趣旨で「釈迦に説法ですけれども、源泉所得税とか消費税というのはいわば中小零細事業主の一時預り金でございますよね。税金を払うのにも、目の前に来ることを先に優先して、お客さんが払った消費税や従業員から取った源泉部分を国に払わない。まず手前の自分のところで処理してしまう。この結果、こういう滞納連鎖が起きていると私は思います」と税金滞納者をけん制している。
国会では消費税引き上げについて「増税したら景気が悪くなる」という反対意見はあっても、「滞納金が多いから」という反対意見は聞いたことがない。もし、国会議員の方々が「消費税は国税の中で最も滞納税額が多い」という事実を知らずに増税するかどうかの議論を行っているとしたら、あまりにも勉強不足ではないだろうか。
この他にも、国税庁は過去にタレントを起用したポスターで消費税の滞納者を非難したこともあるが、そもそも消費税の滞納額が国税全体の半数以上を占めているのは、どの事業者も売上に対して一律の額が徴収される「消費税」という税制に欠陥があるからだろう。
消費税増税を批判する際は、景気の問題だけでなく滞納の問題についても取り上げていく必要があると感じる。
<参考資料>
小澤善哉 『図解 ひとめでわかる消費税のしくみ』(東洋経済新報社、2013年)
醍醐聰 『消費増税の大罪 会計学者が明かす財源の代案』(柏書房、2012年)
国税庁 統計情報