消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

古市憲寿氏やイケダハヤト氏など増税賛成派の若手の論客に反論する

若者は幸福だからと言って消費税増税に賛成する古市憲寿

 社会学者の古市憲寿氏が2011年に出版した『絶望の国の幸福な若者たち』という本を読んでいた。この本はバブル崩壊から20年以上不況が続いているというのに、現代の若者の生活満足度や幸福度は上昇しているという矛盾点を取り上げた内容である。例えば、内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、2010年の時点で20代の70.5%が現在の生活に「満足」していると答えている。最新の2019年の調査でもこれが85.8%に増加したので、ますます若者の幸福度が高まっているとも言えるだろう。

 古市氏は本書を出版してから、政府の会議、企業向けの講演、政治家との討論番組など様々な場所に「若者」として呼ばれる機会が増えたという。政府やマスコミはどうやら彼の主張を「若者を代表する意見」だと認識しているようだ。

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 しかし、古市氏が若者は幸福だと考える根拠については大いに問題がある。内閣府の「国民生活選好度調査」(2010年)では「幸福度を判断する際、重視した事項」を聞いているが、そこで15~29歳の若者の60.4%が「友人関係」と答えていて他の世代と比べても突出して高かったという。古市氏は「1990年代以降顕著になったのは、若者たちにとって友人や仲間の存在が増してきたということだ」と述べている。だが、これは私のように中学生の頃に深刻ないじめを受けて同世代の友人がほとんどいない人にとっては何の説得力も持たない理由だろう。また、若者の多くがまるで小中学生のように友人や仲間こそ大切だと考えているなら、身の周りのことに気を取られて政治経済のことに関心を持ちにくくなる問題も生じてしまう。

 日本財団が2019年9~10月に9カ国の18歳を対象に実施した調査によれば、「社会課題について、家族や友人など周りの人と積極的に議論している」と答えた割合は中国が87.7%、インドが83.8%、インドネシアが79.1%、ベトナムが75.3%、イギリスが74.5%、ドイツが73.1%、アメリカが68.4%、韓国が55.0%なのに対し、日本は27.2%程度と欧米・アジアの他の8カ国と比べても著しく低い。10~20代の選挙投票率が低いのは、政治経済のことについて話さない友人関係にも原因がありそうだ。

 

 また、「国民生活に関する世論調査」だけを見て現代の若者の多くが幸福だと判断しても良いのだろうか。例えば、厚労省が発表している2019年の「自殺対策白書」によれば、10歳から39歳の死因の第一位は自殺となっている。こうした状況は国際的に見ても深刻であり、15~34歳の若い世代で死因の第一位が自殺なのは先進国で日本と韓国のみである。つまり、現代の若者は身近な友人たちと幸福を分かち合っている層と、学校のいじめや職場の不安定雇用に苦しめられている層とで二極化していると言えるかもしれない。

 

 その上、古市氏が現代の若者が幸福だと結論付けるのは彼の経歴や世代的な背景が存在するだろう。1985年1月に生まれた古市氏は慶応義塾大学環境情報学部を卒業した後に、東京大学大学院総合文化研究科に入学するエリート街道を歩んできた。2014年度の「東京大学学生生活実態調査」で東大生に家庭の年収を尋ねた結果が掲載されており、それによれば東大生の家庭では年収950万円以上が54.8%を占めている。世帯主が40~50代の一般世帯では22.0%でしかないので、東大生は富裕層の出身者が著しく多いことがわかる。逆に年収350万円未満の低所得者層は一般世帯では24.5%だが、東大生では8.7%しかいない。つまり、古市氏の主張は結局のところ社会的成功者としての若者論だということだろう。

 更に、厚労省の「国民生活基礎調査」によれば、児童のいる世帯の平均所得金額は1985年の539.8万円から1996年の781.6万円まで11年間で240万円以上も増加しており、古市氏が小学生の頃までは子育て世代の収入が上昇していたのだ。そのため、彼はまだ一億総中流社会の面影が残っていた時代に幼少期を過ごしたと言うこともできる。だが、消費税を5%に増税した1997年以降はデフレ不況が長期化し、児童のいる世帯の平均所得金額は2017年に743.6万円まで減少してしまった。

 

 図58では1996年を100とする「児童のいる世帯の平均所得金額と消費者物価指数」の推移を示したが、これを見ると物価はデフレと言われながらも消費税増税の影響でやや上昇しているのに対し、子育て世代の所得は大幅に下落したことがわかる。2020年以降は消費税10%増税新型コロナウイルスの影響で、更に子育て世代の所得が減少してしまうかもしれない。今の子供たちは古市氏が小学生の頃とは明らかに異なる時代を過ごしているのだ。

 むしろ、昭和の管理教育が衰退してから小学校に入学し、SNS上のいじめが深刻になる前に義務教育を修了した1980年代~90年代前半生まれのほうが今の子供たちよりも恵まれていると言えるだろう。

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 古市氏は2013年8月26日から31日にかけて経済財政諮問会議で行われた『消費税率8%への引き上げに関する集中点検会合』で、消費税増税について「海外からアベノミクスとセットで増税が認識されている」と発言している。つまり、「現代の若者は幸福だから国際公約のために増税しても問題ない」と言いたいのだろう。しかし、国際公約とは2011年11月にG20サミットで野田首相(当時)が「日本は2010年代半ばまでに消費税を10%に増税する方針を決めた」と発言したことを根拠にしているのだろうが、当時の世界主要国はユーロ危機の対応に追われていて日本の増税などどうでもいい話である。

 そもそも、消費税を引き上げるかどうかは他国が干渉できない国内の問題であって、このブログで何度も指摘しているように安倍首相は2012年6月のメールマガジンで「名目成長率が3%、実質成長率が2%を目指すというデフレ脱却の条件が満たされなければ消費税増税を行わないことが重要」と述べている。2013年の名目GDP成長率は0.8%、実質GDP成長率は1.4%程度(共に平成17年基準)なので、安倍首相はこの公約通り消費税8%への増税を中止すべきだっただろう。

 

 また、日本では欧米と違って若者が経済格差に反対するデモを起こさないことについて、古市氏は「ブラック企業問題などもあるが、ヨーロッパに比べたら大卒というだけで何とか働き口が見つかる日本は若者に優しい社会である」と述べている。この発言を聞いて古市氏は日本経済の現状が全くわかっていないと思わざるを得なかった。確かに日本は若年失業率の低い国であることは事実だが、その一方で先進国の中で最もデフレが長期化してこの20年間全く賃金が上昇していない。図59では1997年を100とする「主要先進国の賃金推移」を示した。

 古市氏が「若者は幸福だからデモを起こさない」と結論付けて消費税増税に賛成するのは、政治経済に関心を持たずデフレ不況で賃金が上がらない状況に甘んじているだけではないだろうか。私も29歳で今の生活に満足しているが、幸福を感じられない若者を自己責任で見捨てる古市氏の主張にはどうしても賛同できないのである。

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増税の代わりに社会保険料の引き下げを求めるイケダハヤト氏

 また、古市氏と似たような人物にYoutuberのイケダハヤト氏がいる。1986年生まれの彼は早稲田大学政治経済学部を卒業してから半導体メーカーに就職したが、その後はITベンチャーに転職し、現在はブログやYoutubeなどのアフィリエイターとして活動している。イケダ氏は著書『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(講談社、2012年)の中で、「僕の考えでは人的なつながりさえ豊かであれば、お金は少なくても、あるいは全然なくても大丈夫です。わかりやすいところでは、友達とルームシェアをしていれば、家賃や光熱費、食費はだいぶ少なくなります」と述べている。つまり、「日本がいくらデフレ不況に苦しめられていても、身近な友人たちと幸福を分かち合えばいい」という古市氏と同様の考え方をしているのだ。

 

 更に、イケダ氏は「約40年後の2050年には日本の人口は9500万人台になり、その高齢化率は約40%にのぼるそうです。そうした長期のトレンドを鑑みれば、日本人の年収が今まで通り右肩上がりという妄想を抱くほうがクレイジーだと僕は思います」と典型的な『人口減少衰退論』を述べている。しかし、「消費税を廃止するためには経済成長の大切さを認識しよう」の記事でも説明した通り、ウクライナルーマニアなどは日本より人口減少のペースが速いにも関わらず、名目GDPは1998~2018年で20倍以上も増加しているのだ。

 日本のデフレ不況が長期化しているのは人口減少ではなく、1997年以降の自民党が緊縮財政を続けてきたことが原因なのだが、イケダ氏はそれを知らないのだろうか?

 

www.youtube.com

 

 イケダ氏は消費税増税にも賛成していて、Youtubeの動画『消費税ゼロはヤバい!イケハヤが消費税増税に大賛成な理由』を観ると、彼は消費税を大幅に増税する代わりに、現役世代の多大な負担になっている社会保険料を下げるべきだという立場らしい。2017年度の社会保障費用統計によれば、社会保障財源の構成割合は税金を含めた公費負担の35.3%(49.9兆円)よりも社会保険料の50.0%(70.8兆円)のほうが多く、そのうち企業負担に当たる事業主拠出が23.6%(33.4兆円)、個人負担に当たる被保険者拠出が26.4%(37.4兆円)で占められている。

 日本の社会保障制度の半分は税金ではなく社会保険料で成り立っているのであって、「消費税を増税して保険料を下げろ」というイケダ氏の主張は企業の負担を軽減して、そのぶんは増税として低所得者にまで広く負担を求める乱暴な案である。日本では1989年以降、経団連法人税減税の代わりに消費税増税を求めてきたが、「保険料を下げる代わりに増税」という主張もそれと同じようなものではないだろうか。

 

 また、イケダ氏は動画内で「世代間の格差を解消するために消費税増税が必要」と言っている。世代間格差とは、学習院大学教授の鈴木亘氏の試算によれば、将来的に受け取る年金受給総額から、現役時代に納めた年金保険料の総額を引いた差が1940年生まれと2010年生まれで約5900万円もあるという。

 世代間格差を消費税で解決しようとする意見には「消費税を増税すれば、富裕高齢者の消費によって税収が上がり、社会保険料の引き下げや将来的な年金支出を通して貧しい若年層に再分配できる」という思惑が存在するが、そもそも高齢者の多くは若者から搾取するほど金持ちなのだろうか。図60では「全世帯と高齢者世帯の所得金額階級分布」を示したが、これを見ると年収500万円以上は高齢者世帯より全世帯のほうが多いのに対して、年収400万円未満は全世帯より高齢者世帯のほうが多い。つまり、現役世代よりも高齢者のほうが貧困層は多いのだ。

 消費税は所得に関係なく、消費に対して同じ額の税金が掛かる「逆進性」の強い性質を持っているため、富裕高齢者よりも貧しい高齢者へのしわ寄せが大きいだろう。もし、世代間格差を解消させるために富裕高齢者に対して負担を求めるなら、消費税を廃止する前提で相続税を大幅に引き上げたり、金融資産に課税したりするのはどうだろうか。

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 更に、新潟大学教授の藤巻一男氏は2011年、消費税増税に関して20~60代の男女1000名に以下のアンケート調査を実施したが、その中で「消費税の引き上げには反対」と答えた人は20代で32.5%、30代で28.4%、40代で29.1%、50代で25.5%、60代で22.8%と高齢者より若者のほうが割合は高かった。私は2017年2月に『消費税の歴史と問題点を読み解く』という本を出版してから、様々な世代の方に消費税についてどう思っているのか聞くようになったが、明らかに60代以上のほうが増税を容認する人が多いように感じる。

 もし、消費税増税が世代間格差の是正になると国民が実感しているのなら、若者こそ消費税増税に賛成する割合が高くなければならないが、高齢者より若者のほうが増税に反対する人が多い事実について、イケダ氏をはじめとする消費税増税の賛成派はどう感じるだろうか。

 

 また、仮にイケダ氏が言うように社会保険料を引き下げる必要があったとしても、しばらくの間は増税ではなく国債を発行して財源を捻出すれば良いだろう。今は新型コロナウイルスの影響でデフレ不況が深刻なので、政府は例えば景気対策として年間の名目GDP成長率が5%以上に達するまで社会保険料の支払いを免除して財源は国債で賄うという政策を打ち出すことも可能である。イケダ氏は社会保障の財源を捻出する方法が税金と社会保険料しかないと思っているから、「社会保険料引き下げの代わりに消費税増税」という提案になるのだろう。

 

 更に、イケダ氏は「社会保険料引き下げと消費税増税で現役世代の負担を減らせば、経済が良くなって子供を生みやすくなる」と発言しているが、これは消費税の怖さを全く理解していない暴論である。図61では過去60年間(1959~2019年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」を示したが、1970年代後半以降の成長率と出生数の低下には強い相関関係があることがわかる。

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 特に消費税を導入した1989年からは少子化がより深刻になっていて、消費税3%だった1989~1996年は出生数の平均が年間121.5万人なのに対し、消費税5%だった1997~2013年の平均が年間111.3万人、消費税8~10%に引き上げられた2014~2019年の平均が年間95.3万人と増税すればするほど出生数が減少しているのだ。先進国の中で最も公的な教育予算が少なく、毎日消費される食料品にまで8%の税率が適用される日本では20年以上続いたデフレ不況が少子化にも影響しているのではないだろうか。

 若者の代表を装って、子育て世代を苦しめる消費税増税に賛成する古市憲寿氏やイケダハヤト氏は大いに問題があると感じる。

 

 

<参考資料>

古市憲寿 『だから日本はズレている』(新潮社、2014年)

本田由紀 『教育は何を評価してきたのか』(岩波書店、2020年)

片田珠美 『「正義」がゆがめられる時代』(NHK出版、2017年)

三橋貴明 『メディアの大罪』(PHP研究所、2012年)

藤巻一男 『日本人の納税者意識』(税務経理協会、2012年)

 

現在の生活に対する満足度(2019年)

https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-life/zh/z02-1.html

年齢階級別の自殺者数の推移

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/jisatsu/19-2/dl/1-3.pdf

平成30年 国民生活基礎調査の概況

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa18/index.html

国民経済計算 2016年7-9月期 1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163/gdemenuja.html

Earnings and wages Average wages OECD Data

https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm

社会保障費用統計(平成29年度)

http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-h29/fsss_h29.asp

人口動態総覧の年次推移

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai19/dl/h1.pdf

デフレ不況が20年以上続く日本で消費税は不向きな税制

積極財政を装って緊縮財政を進める安倍政権

 安倍政権が発足してから7年半が経って、結局のところアベノミクスって何だったのだろうかと思う。アベノミクスはもともと、「大胆な金融緩和」「機動的な財政政策」「民間企業を呼び起こす成長戦略」という3本の矢で構成されていた。一つ目の金融緩和は日銀が世の中に供給するお金の量を表したマネタリーベースを見ると、2012年12月から2020年5月までに396.3兆円も増加しているので徹底的に進められたと言うことはできるかもしれない。

 しかし、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2020年5月に対前年比0.1%と消費税増税の影響を含めても年率2%のインフレ目標には達しておらず、金融緩和がデフレ脱却に全く寄与していないのが明らかである(図52を参照)。

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 2つ目の財政政策については当初、国土強靭化として公共事業の大盤振る舞いを宣言していたが、実際に安倍政権が財政出動を行っていたのは最初の1年だけであって、公的固定資本形成は2013年10~12月期の27.1兆円から2020年1~3月期の27.0兆円へとほとんど横ばいの状態が続いている(図53を参照)。2013年10月1日に消費税8%への増税を決めてから政府の公共投資を全く増やしていないのが現実なのだ。

 それどころか、安倍政権は2025年のプライマリーバランス黒字化目標のために憲政史上初めて消費税率を2段階も引き上げた戦後最悪の緊縮財政内閣だと言うこともできるだろう。

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 また、安倍政権が本当に2012年当時から積極財政だったのかというのも疑問に思う。安倍首相は2012年6月のメールマガジンで「名目成長率が3%、実質成長率が2%を目指すというデフレ脱却の条件が満たされなければ消費税増税を行わないことが重要」と発言していたが、これは非常にハードルの低い目標である。そもそも消費税とは完全雇用のもとで国民の消費を減らし、消費財を生産していた人手を浮かせてインフレを抑制することが目的の税金であって、年間の名目GDP成長率が10%を超えるような激しいインフレが発生しない限り増税してはいけないからだ。

 つまり、安倍政権は消費税増税を実現させるために、一時的に財政出動を行って少し景気を上向かせておこうと考えていただけではないだろうか。日本が本当にデフレ脱却するためには、消費税の廃止こそが必要だという考えには至らなかったようである。

 

 

法人税を減税しても国内への設備投資は増えない

 3つ目の成長戦略は具体的に言えば法人税減税などの規制緩和だが、消費税増税の代わりに法人税を引き下げて企業に余力が生まれたとしても、利益は需要不足の日本ではなく海外に投資される可能性が高い。

 1996~2019年の23年間で民間企業の設備投資は1.25倍しか増加しなかったのに対し、海外への投資の額を表した対外直接投資は9.50倍も増加している(図54を参照)。海外に拠点を置いて活動する企業の数を表した現地法人企業数も1996年の12657社から2018年の26233社まで増加していて、法人税の高い時代のほうが企業は国内で仕事をしていたのだ。

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 更に、法人税を減税すると企業の経常利益が増加しても法人税収がほとんど増えないという問題も発生する。法人税の基本税率は消費税が導入された1989年度の40.0%から2018年度の23.2%まで減税し、法人税収も1989年度の19.0兆円から2018年度の12.3兆円まで減収しているのだ。それに対し、企業の経常利益は1989年度の38.9兆円から2018年度の83.9兆円まで約2.2倍も増加し、法人税収が減少する一方で経常利益はバブル崩壊後も増え続け過去最高を更新している。

 もし、2018年度の経常利益に1989年当時の税率(40%)が適用された場合、単純比較で法人税収は41.0兆円にものぼっていたことが予想され、これは実際の法人税収より28.7兆円も多かったことになる(図55を参照)。2018年度の消費税収は17.7兆円程度であるため、法人税率を一昔前の水準に戻せば消費税を廃止しても社会保障費を捻出することは可能なのだ。

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 経団連は「法人税増税すると日本から企業が逃げ出す」と言うが、経産省の海外事業活動基本調査(2017年度)では海外に進出する企業に対して移転を決定した際のポイントについて3つまでの複数回答で聞いたところ、法人税が安いなどの「税制、融資等の優遇措置がある」を選択した企業は8.0%と一割にも満たなかった。

 その一方で、企業が海外進出を決定した理由としてトップに挙げたのは「現地の製品需要が旺盛または今後の需要が見込まれる」の68.6%で、法人税を減税するよりも消費税を廃止して個人消費による需要を創出すれば、企業が国内に留まってくれる可能性が高いということだろう。

 また、今後は新型コロナウイルスの影響で景気が悪化して法人税収が減少するのではないかという懸念もあるが、そのときは日銀が目標に定めている年率2%のインフレ目標に達するまで国債を発行して財源を捻出すれば良い。国債を躊躇なく発行すれば、それによって歳出が短期的に増加することがあったとしても財政出動による経済効果で成長率が上がり、自然増収が毎年どんどん増えていくのである。

 

 

消費税廃止を掲げる人物を総理大臣にしよう

 私は消費税についてデフレ不況が20年以上続く日本では不向きな税制なのではないかと考えている。財務省は毎年度の政府予算で歳出が税収を上回って不足額が広がっていく現象を「ワニの口」と呼んでいるのに対して、京都大学教授の藤井聡氏は1997年以降に名目GDPの日米格差が大幅に開いてしまったことを「新ワニの口」と表現している。

 図56では主要先進国の名目GDPの推移を示したが、これを見ると1997~2019年の22年間でカナダが2.53倍、アメリカが2.50倍、イギリスが2.30倍、フランスが1.86倍、ドイツが1.75倍も経済成長したのに対し、日本は22年間でたったの1.04倍しか名目GDPが増加していない。日本の2019年の名目GDPは553.7兆円だが、もし1997年以降の日本がアメリカ並みに経済成長したら名目GDPは今頃1300兆円を超えていたことが予想される(図57を参照)。

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 しかし、国会議員の方々は日本が「衰退途上国」に転落してしまったことについて全く危機感を持っていないのではないかと思えてならない。例えば、自民党石原伸晃元幹事長は6月11日に「消費税ゼロなんてことを言ったらどこかの政党と一緒だ。保守政党は消費税ゼロを言っちゃダメ」などと発言をしている。だが、消費税増税に反対する産経新聞特別記者の田村秀男氏は2018年11月にトランプ大統領の腹心、ミック・マルバニー補佐官代行と対談した際に、彼は保守主義の政策について「税金を使わずに経済を成長させ、人々の生活を楽にすること」と主張したという。

 2019年9月にもアメリカの保守派から「日本では保守を名乗る政治家がなぜ、経済成長を損なう増税を選挙公約にするのか」と聞かれた際に、田村氏は「日本の政治家は伝統を重視すれば保守だと自認するが、経済成長には無関心で社会保障費を補うために増税やむなしという立場になっている」と答えたら、「それは我々の言う保守主義とは関係ないね」と驚かれたらしい。つまり、保守政党だからといって緊縮財政を推進する理由にはならないということだろう。

 

 今年に入ってからは新型コロナウイルスの影響で、ドイツが付加価値税を7~12月の期間限定で現在の19%から16%に引き下げ、食料品などに適用される軽減税率も7%から5%に下げることを決定した。1997~2019年の22年間で1.75倍も経済成長したドイツが付加価値税を減税したのだから、たったの1.04倍しか名目GDPが増えていない日本も景気対策としてそれを見倣って良いのではないだろうか。

 とはいえ、安倍首相や石原元幹事長などの緊縮派では消費税の引き下げは不可能なので、自民党内であれば安藤裕議員のような消費税廃止を掲げている人物を総理大臣にするしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

若田部昌澄 『ネオアベノミクスの論点』(PHP研究所、2015年)

松尾匡 『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、2016年)

菊池英博 『消費税は0%にできる 負担を減らして社会保障を充実させる経済学』(ダイヤモンド社、2009年)

藤井聡 『「10%消費税」が日本経済を破壊する』(晶文社、2018年)

伊藤裕香子 『消費税日記 ~検証 増税786日の攻防~』(プレジデント社、2013年)

田村秀男 「経済成長を無視する空っぽの保守主義」 『表現者クライテリオン』(啓文社書房、2019年11月号)

日本政府はドイツと同様に消費税引き下げを決断すべきである

消費税を減税するドイツと緊縮財政を続ける日本政府

 ドイツのメルケル政権は6月3日に、付加価値税の税率を2020年7~12月の期間限定で現在の19%から16%に引き下げ、食料品などに適用される軽減税率も7%から5%に下げることを発表した。新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ消費や投資の回復を後押しする狙いで、ドイツ政府は追加の国債発行などで必要な資金を調達する見通しである。

 しかし、日本では麻生財務大臣が消費税について「引き下げることは考えていない」と述べ、西村経済再生担当大臣も「消費税は全世代型の社会保障制度に向けた重要な財源として、昨年10月の引き上げは正しい判断だった」という認識を示している。

 

 それどころか、今回の新型コロナウイルスに乗じて更なる消費税増税や歳出削減を推進しているのが東京財団政策研究所の小林慶一郎氏だ。小林氏は「財政が悪化を続けていることが消費者や企業の将来不安を高め、その結果、経済活動が萎縮して経済成長率が低下している可能性がある。財政悪化が経済成長率の低下の原因なら、先に高い経済成長を実現して後で財政再建をするという戦略は成り立たない」と述べている。

 しかし、日本で初めて財政再建を唱えたのは1978年の大平政権であって、1982年9月にも大蔵省が赤字国債を10年で償還する原則をくつがえしたところ、朝日新聞などの大手紙が一斉に「政府財政、サラ金地獄へ」という見出しで財政破綻を煽り始めた。つまり、国民の将来不安が高まったのは高度経済成長期が終焉した70年代後半からだとも言えるだろう。

 だが、個人消費を表した民間最終消費支出(実質値)は1977~1997年の20年間で1.86倍も増加していて、消費税が3%だった90年代半ばまで個人消費は急速に伸びていたのだ。それに対し、1997~2017年の20年間で民間最終消費支出は1.16倍しか増加しておらず、消費税増税こそが経済活動を萎縮させている原因ではないだろうか(図47を参照)。

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 総務省の家計調査を見ても、実質消費指数(2人以上の世帯)は消費税が5%だった最後の月である2014年3月の116.2から最新のデータである2020年4月の86.9まで約6年間で29.3%も下落している(図48を参照)。

 民間最終消費支出も2014年1~3月期の306.2兆円から2020年1~3月期の291.7兆円まで落ち込んでいて、消費税を5%から10%まで増税したことで実質GDPを14.5兆円も押し下げてしまったのだ。これで「消費税引き下げ」を提言できないような政治家や経済学者は、逆に国民を貧困化させたいのではないかと思ってしまう。

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 また、今年度の第2次補正予算案について、野党側はあらかじめ使い道を決めていない予備費が歳出全体の3分の1近くを占めるのは容認できないとして、組み換え動機の提出も視野に予備費の減額を求めていくことになったが、立憲民主党の安住国対委員長は「国民からお預かりをし、将来の子供たちから借りる国債で作るお金を無駄な公共事業など政府が何でも使っても良いという白紙委任は議会としてできない」と事実誤認の発言をしたことが批判されている。

 まず国債発行は単なる政府の貨幣発行で国民が預けているわけではなく、将来世代が国債を返済するということもない。公共事業に関しても政府が行う社会資本整備などの投資の額を表した公的固定資本形成は1996年の46.7兆円から2018年の26.0兆円まで削減され、一人当たりの名目GDPランキングは1996年の3位から2018年の26位へと下落している(図49を参照)。

 

 公共事業は無駄などころか、日本は90年代後半以降に公共事業を削減して貧困化してしまったのだ。最新の2020年1~3月期のデータでも公的固定資本形成は年率マイナス2.2%の落ち込みで、政府は消費税を増税して歳出削減を進めているのが現実のようだ。ドイツをはじめとして先進国の多くが新型コロナウイルス対策として積極財政に転換しているというのに、日本では与党も野党も緊縮財政しか言わないのが非常に残念である。

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デフレ脱却すればプライマリーバランスは改善される

 消費税が増税される理由は、建前では社会保障を充実させるためになっているが、本音ではプライマリーバランス基礎的財政収支、以下PB)を黒字化させるためだろう。PBとは「国の税収」など借金(国債)以外のきちんとした収入から、借金の返済費用(国債費)を除いた政策上必要な支出を除いたもので、これが赤字だと負債はどんどん増えていき、黒字だと税収を少しずつ借金の返済に充てていくことができる。

 1980年代以降のPBの推移を見ていくと、黒字化していたのはバブル期の1985~92年で1993年以降はずっと赤字の状態が続いている。

 

 日本で初めてPB黒字化目標を掲げたのは1997年の橋本政権で、同年11月には「財政赤字の対GDPを毎年3%未満する」「1998年度の公共投資について、1997年度当初予算における公共投資関係費の93%を上回らないようにする」という内容を盛り込んだ財政構造改革法を成立させている。それから数年経った小泉政権でも2006年に「2011年までにPBを黒字化させる」と宣言していたが、2008年にリーマンショックが発生して景気が悪化したことで民主党の鳩山政権はPB黒字化目標の見直しを行った。

 だが、2010年の菅政権は新たに「2020年までにPBを黒字化させる目標」を掲げ、2012年には消費税を増税して社会保障を削減するという「社会保障と税の一体改革」が進められた。外交官の佐藤優氏は片山杜秀氏との対談で、「菅政権は東日本大震災の対応ばかり語られるが、消費税10%への引き上げに言及したりTPPの協議開始を表明したりと、実は極めて重要な決定をいくつもしている。安倍政権のアジェンダは菅政権で作られた」と述べているが、全くその通りだと思う。

 

 現在の安倍政権も「2025年までにPBを黒字化させる」と明言しており、新型コロナウイルスが収束した後に再び消費税を増税する話が出てくるかもしれない。安倍首相は2017年3月の予算委員会で「来年の予算を半額にしてPBを改善すれば、日本経済は死んだような状況になる」と言っていて、PB黒字化目標の弊害を理解しながら進めるのは「日本経済を殺します」と宣言したようなものだろう。安倍首相は今よりはるかに殺人事件が多発していて学生運動エスカレートしていた昭和30年代を「今の時代に忘れられがちな家族の情愛が存在した」と懐古しているため、貧しい時代の日本を取り戻す目的で消費税10%増税やPB黒字化目標などの緊縮財政を推進している部分もあるのかもしれない。

 日本政府が本当にPBを改善させたいのであれば、「2025年までに黒字化させる」といった期限を定めるのではなく、消費税引き下げと財政出動によって名目GDP成長率を高める政策を打ち出すべきだろう。実際に、1980年代以降の名目GDP成長率とPBには相関関係があることが確認され、消費税を引き下げてもデフレを解消すれば税収が増加して自然にPBは改善していくのだ(図50を参照)。

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 逆にPB黒字化目標を設定して失敗したのが2010年代に世界を騒がせたギリシャである。下記の図51にはギリシャの実質GDPとPBの推移を示した。この図を見ると実質GDPとPBが逆の相関になっていることがわかる。

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 ギリシャは2008年までは経済が順調に拡大していたが、リーマンショックで状況が一変して2009年にはGDPが大きく下落した。そしてPBは一気に悪化し、GDPの1割程度の赤字となってしまった。ギリシャ政府はこの問題を乗り切るためにIMF等に融資を依頼したが、それと引き替えに増税と歳出カットによる緊縮財政を展開することを約束させられてしまう。

 その結果、ギリシャは2013年にめでたくPB黒字化目標を達成するが、徹底的な緊縮財政のあおりを受けてGDPは4分の1も減少してしまった。完全失業率は平均で26%以上、若年層に至っては60%以上となり、2015年には返済期限が来たことで実質的に破綻してしまうことになったのである。

 つまり、経済危機に陥った国に対して無理やりPB黒字化目標を押し付けてしまえば、危機が悪化して景気は低迷、実質的な経済破綻状態となってしまうのが現実だろう。日本も直ちに「PBを2025年までに黒字化させる」という目標を破棄して、消費税を5%に戻すことを決断すべきである。

 

 

<参考資料>

三橋貴明 『世界でいちばん!日本経済の実力』(海竜社、2011年)

森信茂樹 『消費税、常識のウソ』(朝日新聞出版、2012年)

小泉俊明民主党大崩壊 国民を欺き続けた1000日』(双葉社、2012年)

藤井聡 『プライマリー・バランス亡国論』(扶桑社、2017年)

適菜収 『もう、きみには頼まない』(ベストセラーズ、2018年)

 

ドイツ、コロナ対策で消費減税 景気対策16兆円規模

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59955790U0A600C2MM0000/

消費税率を引き下げることは考えていない=麻生財務相

https://news.livedoor.com/article/detail/18383115/

経済再生相「去年の消費税率引き上げ 正しい判断だった」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200608/k10012462331000.html

日本政府の莫大な借金こそ「失われた30年」の真犯人だ

https://news.yahoo.co.jp/articles/00230ae6e57d0968beb9eeffcaae4230b85c7104

国民経済計算 昭和30年1-3月期~平成13年1-3月期

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2001/qe011/gdemenuja.html

国民経済計算 2020年1-3月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2020/qe201_2/gdemenuja.html

家計調査(家計収支編) 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/index.html

古臭い、現在の日本に不要な政治家

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12601712484.html

一人当たりの名目GDP(USドル)ランキング

https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

日本の基礎的財政収支の推移

https://ecodb.net/country/JP/imf_ggxcnl.html

ギリシャの実質GDP(自国通貨)の推移

https://ecodb.net/country/GR/imf_gdp.html

ギリシャ基礎的財政収支の推移

https://ecodb.net/country/GR/imf_ggxcnl.html

消費税3%減税と公務員増加で名目GDP700兆円を目指そう

消費税が3%なら名目GDPは700兆円を超えていた

 内閣府が5月18日に発表したGDP速報値によれば、物価変動の影響を含めた2020年1~3月期の名目GDP成長率は年率マイナス3.1%の落ち込みだった。個別の項目を見ると、民間最終消費支出が年率マイナス3.6%、家計最終消費支出(帰属家賃を除く)が年率マイナス4.8%、民間企業設備投資が年率マイナス3.8%、民間住宅投資が年率マイナス16.9%と個人消費より住宅投資の下落が大きい結果となった。

 しかし、2019年10~12月期の名目GDP成長率は年率マイナス6.0%、家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は年率マイナス11.4%だったので、新型コロナウイルスよりも消費税増税の影響のほうが大きかったと言うこともできるだろう。

 

 安倍政権は2015年9月24日に「アベノミクス新三本の矢」を発表し、希望を生み出す強い経済として2020年までに名目GDPを600兆円にする目標を掲げた。だが、日本経済研究センターによれば2020年度の名目GDP成長率はマイナス7.3%に落ち込むと予想していて、この目標が達成されることはないと思われる。そもそも日本の名目GDPは90年代後半以降の自民党が緊縮財政を行わず、消費税が3%のままだったら今頃700兆円を超えていた可能性が高いことは経済学者もなかなか指摘しないのではないだろうか。

 日本経済はバブル崩壊と言われていた90年代半ばまで着実に成長していて、1989~1996年度の家計最終消費支出(帰属家賃を除く)は年平均で7兆1528億円も増加していた。2019年度の家計最終消費支出は245.9兆円だが、もし消費税が3%のままで家計消費が毎年7兆1528億円も増加したら2019年度は403.7兆円にのぼっていたことが予想される。そうなると2019年度の名目GDPは552.1兆円だが、消費税が3%のままだったらGDPは157.8兆円も押し上げられて709.9兆円になっていただろう(図39を参照)。

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 また、「消費税増税後の景気悪化から逃げ続ける安倍政権」の記事でも説明した通り、安倍政権ではGDPの算出方法を平成17年基準から平成23年基準に変更した際に、研究開発費とは関係ない「その他」の部分を大幅に加算したことが問題になっている。平成23年基準で2019年の名目GDPは553.7兆円と安倍政権以前に過去最高だった1997年の534.1兆円を超えているが、平成17年基準では520.5兆円とまだ1997年の523.2兆円を超えていない(図40を参照)。

 安倍政権は名目GDPを33兆円もかさ上げした以上、GDPの目標値を600兆円から630兆円に再設定すべきではないだろうか。

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 最近では「先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは起こらない」「インフレ率を調整しながら、財政赤字を拡大して経済を成長させていく」という考え方をMMT(現代貨幣理論)と呼ぶが、もし2000年代までにMMTの考え方が一般化していたら消費税10%増税はなく、デフレ不況が20年以上続くこともなかっただろう。MMTの考え方は全く正しいが、消費税増税が決定されてから台頭するのでは「時すでに遅し」というのが現実である。

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化してから早くも3ヵ月が経とうとしているが、安倍政権は未だに消費税引き下げを決断できずにいる。政府が消費税引き下げを決定しないのであれば野党が言うしかない。野党は消費税を3%に減税して、2030年までに名目GDPを700兆円にする独自の経済目標を発表すべきではないだろうか。安藤裕氏や玉木雄一郎氏のような消費税減税に言及する国会議員がもっと増えることを願うばかりである。

 

 

公務員人件費を増やせば名目GDPも増加する

 2019年5月に設立した新政党の「オリーブの木」の代表を務める黒川敦彦氏がれいわ新選組の公務員を増やす政策を痛烈に批判した動画が今年2月に話題になった。黒川氏は2017年の衆院選で無所属として出馬した際に山本太郎氏と共闘しており、私も2018年4月に上野で行われた政治イベントで彼と会ったことがある。安倍政権を鋭く批判していた頃の黒川氏を知っているからこそ、「オリーブの木」の最近の動画を見ていて変節ぶりが非常に残念に思う。

 黒川氏は「世界と比べて日本の公務員給与が異常に高いのにこれ以上公務員を増やすとか正気か?」と述べているが、問題にすべきなのは公務員の給与が高いことではなく1997年以降に民間企業の平均年収が減少してきていることだろう。また、黒川氏は「国民の平均所得が440.7万円なのに対し、東京都の公務員は752.6万円、国家公務員は911.1万円、地方公務員は881.8万円」とデータを示しているが、正しいのは「国民の平均所得」だけで後の公務員給与は少し調べれば嘘であることがわかる。

 

 人事院の公務員白書によれば、2018年の国家公務員の平均月収は41万7230円なのでこれに12を掛けると500万6760円、管理職を除く行政職員の期末・勤勉手当は136万2600円なので合計636万9360円と黒川氏が示したデータより100万円以上も少ない。その上、バブル期の1989年には国家公務員の平均年収(458.3万円)よりも民間企業に勤める男性の平均年収(492.8万円)のほうが多かった。

 この間、資本金10億円以上の大企業の内部留保は1989年の99兆円から2018年の369兆円まで3.7倍も増加していて、公務員と民間企業の「官民格差」が広がったのは公務員の給与を決める人事院勧告のせいではなく、デフレ不況が長期化して企業が内部留保をため込んでいるからである(図41を参照)。高校生や大学生の就職希望先ランキングで常に「国家公務員」と「地方公務員」が上位に来ているのも、民間企業が内部留保を活用して賃上げすることをせず、業績が悪化すれば整理解雇やコスト削減を行うことばかり必死になっているからこそ、安定した公務員が人気なのではないか。

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 更に、政府が公務員数を増やして失業者や低所得者を雇えば、GDPの構成要素の一つである「政府最終消費支出」が増加して国の経済成長にも繋がる。政府最終消費支出とは、医療費・介護費の政府負担分や公務員給与の支払いなどを表した額である。国民経済計算を見ると、名目GDPに占める政府最終消費支出の割合はリーマンショック東日本大震災が発生した2008~2011年の時期に増えていて、デフレ不況のときは公務員人件費が景気の下支えをしているのだ(図42を参照)。

 公務員・公的部門職員の人件費(2014年)は高負担・高福祉のデンマークで16.6%、フィンランドで14.2%、小さな政府を志向するアメリカで9.9%、イギリスで9.4%なのに対し、日本は6.0%とOECD加盟国の中でも最低である。特に今後は新型コロナウイルスの影響で大量の失業者が生まれると予想され、日本が景気対策として公務員人件費を増やす余地はまだまだあるだろう。

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コロナ増税という緊縮の流れを作ってはいけない

 元大阪府知事橋下徹氏は4月21日に自身のツイッターで、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた政府の10万円一律給付について「給料がびた一文減らない国会議員、地方議員、公務員は受け取り禁止となぜルール化しないのか」と訴え、その上で「それでも受け取ったら詐欺にあたる、懲戒処分になると宣言すればいいだけなのに」と政府の方針に疑問を呈した。これに呼応するかのように、菅官房長官は自身が給付金を受け取るかどうかを問われた際に「常識的には申請をしないと思う」と述べている。しかし、菅氏が給付金を受け取られないと、そのぶん財政支出や消費が減って国民の所得も増えなくなる。国民が所得減少に苦しんでいる以上、申請しない、あるいは預金するという選択肢は政治家の場合、あり得ないのではないだろうか。

 また、広島県の湯崎知事は休業した事業者に支給する支援金の財源に、国から県の職員に給付される10万円の活用を検討していることを明らかにしたが、これは明確な私有財産権の侵害だろう。地方公務員は総職員数が2005年の304.2万人から2016年の273.7万人まで11年間で30.5万人減少したのに対し、臨時・非常勤の職員数は2005年の45.6万人から2016年の64.3万人まで11年間で18.7万人も増加している(図43を参照)。広島県知事はこうした不安定な働き方を強いられている非正規公務員の給付金までも奪おうとするのだろうか。地方交付税の総額は2000年の21.4兆円から2019年の16.2兆円まで減少していて、休業補償を行うなら職員の給付金を活用するのではなく政府に地方交付税の増額を求めるべきだろう(図44を参照)。

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 更に、地方自治体が「身を切る改革」というスローガンのもとで公務員の給与を削減すると、他の自治体にも同調圧力が及んで最終的に「コロナ増税」という緊縮の流れが出来上がってしまうかもしれない。実際に、2011年の東日本大震災のときも復興財源を捻出するために2012~13年度に手当を含めた公務員給与が平均7.8%削減され、「社会保障と税の一体改革」として消費税増税法人税減税が同時に実施されたのである。

 前述の橋下徹氏は報道番組などで「国が財政破綻する覚悟で休業補償を行うべき」と事実に基づかない発言を繰り返していることから、新型コロナウイルスが収束した後に消費税増税や公務員給与の削減を煽ってくることは確実だろう。だが、すでに日本国債の46.8%は政府の子会社である日銀が所有していて、このぶんは政府が返済や利払いを行う必要はなく2010年代以降に日本の財政は急速に健全化しているのだ。政府が新型コロナウイルス対策として休業補償を行ったとしても、後で増税や歳出削減などを通して返済する必要は全くないのである。

 むしろ、日本が本当にデフレを脱却するためには消費税引き下げと公務員人件費の拡大を同時に実施すべきだろう。

 

 

<参考資料>

明石順平 『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル、2017年)

藤井聡MMTによる令和「新」経済論 現代貨幣理論の真実』(晶文社、2019年)

三橋貴明 『世界でいちばん!日本経済の実力』(海竜社、2011年)

全労連・労働総研編 『2019年国民春闘白書・データブック』(学習の友社、2018年)

 

国民経済計算 2020年1-3月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2020/qe201/gdemenuja.html

アベノミクス「新3本の矢」を読み解く

https://www.nikkei.com/article/DGXZZO92034300U5A920C1000000/

徐々に経済再開も、20年度マイナス7%成長

https://www.jcer.or.jp/economic-forecast/20200518-2.html

公務員の給与が高い。解説と改革案。

https://www.youtube.com/watch?v=wrSOyOUx1ig

平成30年度 公務員給与の実態調査

https://www.jinji.go.jp/hakusho/h30/1-3-03-1-3.html

国家公務員のボーナスを知る(2018年)

https://kyuuryou.com/w37-2018.html

2年間で9兆円増えた内部留保 法人企業統計より

https://blog.goo.ne.jp/saitamajitiken/e/8000dbb09afad1d324ccc60eb999fc00

大企業現金・預金66.6兆円 バブル期超え過去最高

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik19/2019-09-25/2019092501_02_1.html

橋下徹氏の10万円給付「公務員は受け取り禁止」提案

https://www.excite.co.jp/news/article/Real_Live_200019157/

ピンハネ税により、現金給付は実は9万円

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12591463740.html

地方公共団体の総職員数の推移

https://www.soumu.go.jp/main_content/000608426.pdf

地方公務員の臨時・非常勤職員調査結果

https://www.soumu.go.jp/main_content/000476494.pdf

地方交付税等総額(当初)の推移

https://www.soumu.go.jp/main_content/000671432.pdf

橋下徹氏の財政破綻発言!】国民の命or財政破綻

https://www.youtube.com/watch?v=MxfvjV-JNhw

国債等の保有者別内訳(令和元年12月末速報)

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

戦後最も左寄りの安倍政権を未だに擁護する自称保守派

緊急事態条項と安倍4選に警戒しなければならない

 新型コロナウイルスの感染拡大に乗じて、自民党内で憲法に緊急事態条項を創設すべきだという議論が出ている。もともと緊急事態条項の創設は、2012年4月に発表された自民党改憲案の98条で「内閣総理大臣は我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは法律の定めるところにより、閣議にかけて緊急事態の宣言を発することができる」と定めているもので、自民党は「東日本大震災における政府の対応の反省も踏まえて、緊急事態に対処するための仕組みを憲法上明確に規定しました」と説明している。

 しかし、安倍政権が緊急事態条項を創設したい理由は災害対応と別の部分にあるのではないかと思えてならない。自民党改憲案99条の4項では「緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところによりその宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる」と定めており、半永久的に政権を維持できる可能性があるからだ。

 

 その上、自民党の総裁任期についても更に延長されるのではないかという懸念もある。もともと自民党総裁の任期は2016年10月に「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長されたが、そのときに任期を区切らず多選制限を撤廃する無制限論まで出たという。また、麻生財務大臣文藝春秋の2020年1月号のインタビューで「安倍首相は憲法改正をやるなら、総裁4選を辞さない覚悟が求められる」と発言したことが波紋を呼んだ。麻生氏は2019年12月10日の記者会見でも「憲法改正を推進していた岸信介は次の池田勇人がやってくれると思っていたが、池田さんは総理になった途端、経済を優先して憲法改正を取り下げてしまった。安倍首相はその二の舞になってほしくない」と発言している。

 だが、総理大臣が改憲より経済を優先することの何が悪いのだろうかと思う。岸信介氏が首相を務めていた1957~1960年の名目GDP成長率は年平均14.2%だったのに対し、池田勇人氏が首相を務めていた1961~1964年の名目GDP成長率は年平均16.5%へと上昇している。池田政権は所得倍増計画を打ち出して高度経済成長を加速させたのだが、それを「憲法改正を取り下げた」と否定するのはさすがプライマリーバランス黒字化目標のために消費税を10%まで引き上げた麻生氏らしいなと皮肉の一つも言いたくなってしまう。

 また麻生氏だけでなく、甘利税調会長も2019年11月に「安倍首相の任期が来たから皆さんさよならで済むのか。他国からちょっと待ってよ、シンゾーがいなくなったらどうなんだという声が出たときにどうするか」と発言し、二階幹事長も2020年3月に「安倍首相は政策もしっかり持っており、国際的にも信用がある。今は続投させることが大事ではないか」と発言している。自民党内からこれだけ安倍首相の総裁4選を支持する声が続出しているのは、将来的に消費税を15~20%まで増税する際に首相が変わると引き上げ時期が延期されてしまうのではないかという懸念が存在するからではないだろうか。

 

 特に、安倍政権では在任中に消費税率を2段階も引き上げたことにより経済成長率が著しく落ち込んでいる。インフレを除いた実質GDP成長率は民主党政権(2009年10-12月期~2012年10-12月期)の時代に年率平均1.68%だったのに対し、安倍政権(2013年1-3月期~2019年10-12月期)では年率平均0.94%まで下落した(図37を参照)。2019年の参院選では自民党が9議席も減らして勝利したとは言えない結果になっているにも関わらず、党内で安倍政権の退陣論が浮上しないのは自民党そのものが弱体化して「私が総理大臣をやりたい」という意欲のある政治家が一人もいないからだろう。

 京都大学教授の藤井聡氏は表現者クライテリオン2019年11月号の中で「今は誰が総理になっても状況が悪化してしまうから、政権を1年交代にするくらいがちょうどいいんじゃないか」と述べている。だが、今の日本に必要なのは首相の任期をどうするかといった議論よりも、安藤裕氏や山本太郎氏など消費税廃止を掲げて、改憲より経済成長を優先する人物を総理大臣にすることだと思う。

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自称保守派は安倍首相を個人崇拝する共産主義者

 更に、安倍政権が戦後最悪の内閣になりつつあるというのに、「正論」「WiLL」「Hanada」などに執筆している自称保守派は未だに安倍首相を擁護することに躍起になっている。例えば、自称保守派は長年憲法9条の改正に賛成してきたが、最近では安倍政権の改憲なら何でも良いと思っているようだ。

 憲法改正を推進しているのは決して安倍首相だけでなく、民主党政権にも鳩山元首相や野田元首相など改憲派の議員は多く存在したが、当時の自称保守派は政権を自民党に戻すことに必死で憲法改正についてはほとんど言及していなかった。つまり、彼らは安倍首相以外の改憲は絶対に認めず、今の野党に対しては「指一本、憲法には触れさせない」というのが本音ではないだろうか。

 

 保守論壇の大御所と崇められていた上智大学名誉教授の渡部昇一氏は阪神淡路大震災東日本大震災のときに首相が村山富市氏や菅直人氏だったことを「左翼政権への怒り」だと表現していたが、ならば2020年の新型コロナウイルスでも消費税増税や移民受け入れ、国営事業の民営化など村山政権や菅政権以上に急進的な改革を進める安倍首相に対して「“極左”政権への怒り」だと表現する保守言論人が一人くらい現れても良いはずだ。

 しかし、安倍政権の熱烈な支持者として知られる評論家の小川榮太郎氏はHanadaの2020年5月号で『安倍総理の判断でイベント自粛と休校要請という「先手」を打ったことで、EU諸国のような感染の急拡大は起こらず、結果として市民生活の制限も緩やかなレベルに留まっている』と相変わらず政権を擁護する記事を出している。

 だが、実際には安倍政権が国賓で来日する予定だった習近平に配慮して、3月5日まで中国人の入国禁止を決断できなかったから日本で1万6000人以上も感染者が増加したのではないだろうか。小川氏をはじめとする自称保守派は普段、中国政府を叩いているくせに安倍政権がインバウンドに依存して2019年に中国人観光客を959万人も呼び込んだことは全く批判しないようだ。

 

 それどころか自称保守派は安倍政権を批判する意見に対して「中国共産党工作員だ」と陰謀論を唱えることに必死になっている。安倍政権が手下である黒川弘務・東京高検検事長検事総長に据えるため、後付けで定年延長を合法化しようと企む「検察庁法改正案」についても政治評論家の加藤清隆氏は「どう考えても150万とか200万とか(の抗議するハッシュタグのツイート数)が事実ならば、裏で糸を引いている奴がいるのだろう。もしかしたら、中国とつながっているかも知れない。そういう怖さを今ひしひしと感じている。中国はなりふり構わず、日本を取りに来ている。呼応する日本人がいかに多いか」と暴論を述べている。

 安倍首相は「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」と地球市民的な発言を繰り返して外国人労働者を大量に受け入れ、大学の入学時期まで中国人留学生に合わせて9月に変えようとしているにも関わらず、自称保守派にとっては安倍政権が中国と戦っているように感じるみたいだ。

 

 この他にも2014年に私がツイッター入管法改正に反対していたら、安倍政権を熱烈に支持する経済評論家の上念司氏から「移民受け入れ反対の背後には中国共産党がいる」「東南アジアの国々に日本ファンが増えると中国共産党が困る」と陰謀論を述べられた。しかし、1993年の29万8646人から2014年の5万9061人へと減少していた不法残留者数は入管法が改正されてから増加し、2020年には8万2892人にものぼっている(図38を参照)。安倍政権の移民受け入れ政策は明らかに失敗だったにも関わらず、上念氏は未だに「移民に反対する奴は中国共産党工作員」とでも言うのだろうか。「WiLL」や「Hanada」などに執筆している自称保守派は、結局のところ安倍首相を個人崇拝する共産主義者なのではないかと思ってしまう。私は安倍政権以上に、それを熱烈に支持する人々こそ許せないのである。

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<参考資料>

梓澤和幸、澤藤統一郎、岩上安身 『前夜 日本国憲法自民党改憲案を読み解く』(現代書館、2013年)

山本太郎雨宮処凛 『僕にもできた! 国会議員』(筑摩書房、2019年)

中島岳志藤井聡、柴山桂太、浜崎洋介、川端祐一郎 「特集座談会 安倍晋三「器」論 それは如何なる器なのか?」 『表現者クライテリオン』(啓文社書房、2019年11月号)

古市憲寿 『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社、2011年)

 

緊急事態条項改憲 危機に便乗した議論許されぬ

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik20/2020-04-16/2020041601_05_1.html

自民党が党総裁任期の議論スタート 延長に異論出ず、無期限論も

https://www.sankei.com/politics/news/160920/plt1609200036-n1.html

麻生太郎副総理79歳が「安倍4選の可能性」に初めて言及

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191209-00018094-bunshun-pol

麻生氏「安倍4選」に言及ノーカット

https://www.youtube.com/watch?v=zLrl1rHzyGk

四半期別GDP速報 昭和30年1-3月期~平成13年1-3月期

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2001/qe011/gdemenuja.html

安倍総理の総裁任期 甘利氏「4期目もあり得る」

https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000168934.html

自民二階氏 安倍首相の4期目に期待示す

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/32433.html

国民経済計算 2019年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194_2/gdemenuja.html

コロナ感染拡大も安倍応援団の“極右”は別世界!

https://lite-ra.com/2020/04/post-5383.html

国籍/月別 訪日外客数(2003年~2020年)

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_visitor_arrivals.pdf

安倍応援団が「#検察庁法改正案に抗議します」に「中国の陰謀」「テレビ局が黒幕」とトンデモバッシング!

https://lite-ra.com/2020/05/post-5418.html

本邦における不法残留者数について(令和2年1月1日現在)

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00004.html

消費税に反対する自民党議員とコロナ増税の布石を打つ著名人

日本国民を貧困化させる安倍政権を批判すべき

 アメリカ商務省は4月29日、2020年1~3月期の実質GDP成長率が年率マイナス4.8%に落ち込んだと発表した。アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるためにロックダウン(都市封鎖)を実施しており、経済活動が制限されたことが響いた結果となっている。

 しかし、それ以上に深刻なのが日本経済であり、消費税10%増税の影響を受けた2019年10~12月期の実質GDP成長率は年率マイナス7.1%の落ち込みである。アメリカの2020年1~3月期と比較すると、コロナウイルスよりも消費税増税の影響のほうがより深刻だということがわかる。

 

 OECDの調査でもアメリカの2020年1~3月期の実質GDP成長率がマイナス1.22%程度なのに対し、日本の2019年10~12月期の実質GDP成長率はマイナス1.81%となっている(図36を参照)。更に、今年7月からは消費者に最大5%が還元される補助金事業のキャッシュレス還元が終了して「再増税」となり、コンビニやAmazonなどの売上が減少して個人消費が落ち込みコロナウイルスからの復興も遅れる可能性が高いだろう。

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 そこで重要になってくるのが消費税の廃止や引き下げを求める自民党議員の存在である。3月30日、安藤裕議員が代表を務める「日本の未来を考える勉強会」と青山繁晴議員が代表を務める「日本の尊厳と国益を護る会」が共同で記者会見を行った。安藤氏は「これまで消費税を5%に減税すべきだと主張してきたが、新型コロナウイルスによる事態を受け、今年6月から一気に0%にして徹底的に国民の生活を支えるという強いメッセージを出すべきだ」と述べており、消費税廃止の他にも休業補償や粗利補償を提言している。粗利補償とは、売上から商品などの仕入原価を差し引いた残りの利益を補償する景気対策である。

 安藤氏が本当に消費税廃止や粗利補償を実現したいと思うのであれば、是非とも2021年の自民党総裁選に出馬すべきだろう。

 

 その一方で、青山氏は「税率を5%に戻すべきだが、消費税そのものの存在意義は否定しない」と述べ、「安倍首相も将来的な消費減税を全部否定されているとは思わない」「私たちは抵抗勢力ではなく、消費税について柔軟な考えを持っている安倍首相の背中を押すという減税勢力」と中途半端な発言に終始していて、つまり「消費税増税には反対だが、安倍首相の支持はやめない」という立場なのだろう。

 しかし、安倍首相は2012年6月のメールマガジンで「名目成長率が3%、実質成長率が2%を目指すというデフレ脱却の条件が満たされなければ消費税増税を行わないことが重要」と発言していたにも関わらず、2019年の名目GDP成長率が1.2%、実質GDP成長率が0.7%とデフレ脱却の目標に届かないまま消費税10%増税を行ってしまった。青山氏が本当に消費税引き下げを提言するのであれば、公約に違反して増税を強行した安倍首相の辞任を求めて安藤氏を総理大臣にするくらいの覚悟を持つべきではないだろうか。

 

 消費税増税に反対する人なら一度は「何故、安倍首相は景気を悪化させる増税を二回も行ったのか?」と疑問に思ったことがあるだろう。だが、私はむしろ経済成長を否定して貧しい時代の日本を取り戻すためにこそ安倍首相は消費税増税を強行したのではないかと思えてならない。

 安倍首相の著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)を読むと、昭和30年代を舞台にした映画「ALWAYS 三丁目の夕日」について「今の時代に忘れられがちな家族の情愛が世代を超えて見るものに訴えかけてきた」と高く評価している箇所に気付かれるだろう。しかし、昭和30年代は決して映画のように華やかではなく今よりはるかに殺人事件が多発していて学生運動エスカレートしていた時代である。

 青山氏をはじめとする安倍政権の支持者はよく「安倍さんは本当は消費税増税に反対している」「財務省の圧力によって増税反対が言い出せないだけなんだ」と言い訳するが、実際には昭和30年代のような日本中がまだ貧しかった時代を懐古しているからこそ、消費税増税や移民受け入れなど日本国民を貧困化させる愚策を次々と実行するのだろう。

 

 また、安倍政権を熱烈に支持する「保守ブログ」や「愛国ブログ」を見ると、必ずと言っていいほど『昔の日本人は誇り高かったが、今の日本人は情けない民族になってしまった』などと現代の日本を誹謗中傷する書き込みに溢れている。

 以前、私がツイッターで安倍政権の支持者に「消費税増税で景気を悪化させた安倍首相が辞任しないと日本経済が崩壊する」と言ったら、その人は「あなたと違って私は皇室の男系継承と国防に重きを置いている」と反論してきた。国防を重視する人が韓国の慰安婦に対して10億円も拠出して、北方領土までロシアに売り渡そうとする安倍政権を支持しているのは笑ってしまうが、どうも戦後日本が嫌いな勢力にとって「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」などと地球市民的な発言を繰り返し、消費税増税で国民を貧困化させる安倍首相が救世主に見えるのだろうなと思う。

 自民党内から消費税に批判的な意見が出てくるのは良い傾向だが、消費税を廃止するためには自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)のような「安倍首相のやることに何でも賛成している人々」に対しても積極的に批判していく必要があるだろう。

 

 

コロナ増税ではなく国債発行で財源を捻出しよう

 だが、消費税廃止を求める機運が高まっている一方で、最近では著名人から「コロナ増税」の布石を作ろうとする発言が相次いでいる。元国会議員でタレントの杉村太蔵氏は4月26日のサンデージャポンで「欧州は手厚い補償があるといった報道が見られますけど、例えばドイツなんか消費税19%ですね。イギリスも20%が消費税なんです。日頃、国民が負担しているんですね」と税率の違いを指摘し、まるで「手厚い補償を行うために日本の消費税をもっと引き上げろ」と言いたいようである。

 しかし、ドイツの軽減税率は7%と日本の8%よりも安く、今年7月からは臨時休業で大きな損害を被っている飲食業界に対して1年間、消費税を19%から7%に引き下げることを決定した。イギリスでも食料品が非課税で、「国税収入に占める消費税収の割合」は26.2%と日本の29.2%よりも安くなっている(表4を参照)。日本の消費税は国際的に見るとむしろ高いほうなのである。

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 また、「消費税を35%まで引き上げないと社会保障費を賄えない」と発言する池上彰氏は今回のコロナウイルスでも「現金の一律給付で増えるだろう国の借金を増税によって返さなければならない」と言っている。政治経済に関心が高くない人は池上氏の番組を通して、財務省プロパガンダを信じ込んでしまうのではないだろうか。

 だが、一般的に財務省が言う国の借金とは「政府の負債」のことで、国民が政府にお金を貸している立場なのである。その上、2013年以降は日銀が金融緩和を行って民間銀行の国債を買い取り、国民に返す必要のある負債は急速に減少しつつある。2019年12月現在、すでに日本国債の46.8%は政府の子会社である日銀が所有していて、このぶんは政府が返済や利払いを行う必要はないのだ。財務省は消費税を増税させる口実を作るために、「国の借金を増税して返さなければならない」という嘘を煽っているに過ぎないのである。

 

 更に、普段政治的なことを言わなくても、今回のコロナウイルスで休業補償や景気対策を求める声を暗に封じ込めるかのような発言をする著名人も存在する。

 シンガーソングライターの山下達郎氏は4月12日、パーソナリティを務めるラジオ番組でコロナウイルスについて「今、政治的対立を一時休戦して、いかにこのウイルスと戦うかを世界中のみんなで助け合って考えなければならないときです。何でも反対、何でも批判の政治的プロパガンダはお休みにしませんか?責任追及や糾弾はこのウイルスが収束してからいくらでもすればいいと思います」と発言したことが話題になった。しかし、ハーバード大学の研究チームはコロナウイルスを収束させるためには外出自粛などの措置を2022年まで継続する必要があると発表しており、それまで感染拡大が続いて消費税廃止などの景気対策を実施しなかったら日本は後進国に逆戻りすることが確実となるだろう。

 

 また、日本でこれだけ感染者が増加したのは安倍政権が国賓で来日する予定だった習近平に配慮して、3月5日まで中国人の入国禁止を決断できなかったからである。実際に日本よりも中国との距離が近い台湾では1月22日に武漢との団体旅行の往来を止め、2月6日には中国全土からの入国を禁止して感染者数は5月5日の時点で438人に留まっている。だが、大御所ミュージシャンの山下達郎氏がインバウンドに依存した日本政府の対応が遅れてコロナウイルスの感染者が増加した事実を知らないわけがないだろう。

 

 私は山下氏が「今は政府を批判するな」と発言した背景には、自民党内で消費税廃止を求める声が高まっていることも無関係ではないと思っている。消費税を廃止するとなるとその代わりの財源として「法人税増税」は経団連が反対するので、財務省所得税最高税率引き上げを求めてくる可能性が高い。そうなると山下氏のような著名人が猛反発してくることが予想される。

 特に山下氏は所得税の累進性が今よりはるかに高かった時代から活躍していて、1980年に「RIDE ON TIME」をヒットさせたときの最高税率所得税と住民税を合わせて93%にものぼっている。これだけ最高税率が高いと流行の移り変わりが激しいミュージシャンにとっては痛手だろう。

 

 しかし、今年1~3月期と4~6月期のGDPはマイナス成長になることが確実なので、しばらくの間は法人税所得税最高税率を引き上げなくても国債を発行して財源を捻出すれば良いのである。消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2020年3月に前年比0.3%程度と、消費税増税の影響を含めても年率2%のインフレ目標には達しておらず、コロナウイルス景気対策として国債を発行することはまだまだ可能だろう。国債を躊躇なく発行すれば、それによって歳出が短期的に増加することがあったとしても財政出動による経済効果で成長率が上がり、自然増収が毎年どんどん増えていくのである。

 安倍政権は自民党の安藤裕議員やれいわ新選組山本太郎代表が提言している消費税廃止と真水100兆円の景気対策を実行すれば、日本経済は7~9月期からプラス成長して急速に回復していくだろう。

 

 

<参考資料>

アメリカ経済、第1四半期は4.8%縮小 2008年以来の落ち込み

https://www.bbc.com/japanese/52481978

国民経済計算 2019年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194_2/gdemenuja.html

OECD Quarterly GDP

https://data.oecd.org/gdp/quarterly-gdp.htm

【緊急】今こそ消費税大幅減税を!「減税勢力」総結集!

https://www.youtube.com/watch?v=pAOEZ-ntv9M

「6月に消費税0%」で令和の恐慌を防ぐ

https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200401/pol/00m/010/002000c

【緊急事態企画★クラブ編vol.2】#粗利補償

https://www.youtube.com/watch?v=_juDEcAsvMk

杉村太蔵、欧州並みの補償を求める声を一蹴

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200426-00010012-encount-ent

ドイツ、1兆円超のコロナ追加対策を発表

https://www.afpbb.com/articles/-/3280017

財政金融統計月報第806号(2019年6月号)

https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g806/806.html

国債等の保有者別内訳(令和元年12月末速報)

https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/appendix/breakdown.pdf

山下達郎、コロナめぐる言説に「冷静さと寛容さ」訴え

https://www.agara.co.jp/article/56527

新型コロナウイルス流行収束へ外出自粛 2022年まで継続必要

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200416-04160001-sph-soci

今さら!水際、中国全土を対象 習近平国賓来日延期と抱き合わせ

https://news.yahoo.co.jp/byline/endohomare/20200306-00166399/

中国と密接な台湾は、なぜ感染者が50人規模にとどまっているのか?

https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/062200025/031200012/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

亀井静香氏は消費税廃止を掲げて国政に復帰すべきだ

2001年、亀井氏が総理大臣に就任すべきだった

 私は基本的に山本太郎氏を応援しているが、ベテラン政治家の中で支持しているのが運輸大臣建設大臣国民新党代表などを歴任した亀井静香氏である。亀井氏は2017年に衆議院議員を引退してしまったが、現在でも保守の立場から消費税増税やTPPなどの新自由主義政策を批判していて、分厚い中間層を築き上げてきた古き良き時代の自民党を象徴する人物だと言えるだろう。

 

 亀井氏が最も総理大臣になれる可能性があったのは、森首相の辞任を受けて実施された2001年4月24日の自民党総裁選だろう。この総裁選では麻生太郎橋本龍太郎亀井静香小泉純一郎の4人が立候補し、当初は首相在任中に消費税を増税して景気を悪化させたことを謝罪した橋本氏が優勢だったが、最終的に小泉氏が当選した理由については森永卓郎著の『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書、2018年)に詳しく書かれている。

 

 森永氏は2001年当時、テレビ朝日の報道番組「ニュースステーション」のコメンテーターを務めていて、総裁選の直前には同番組で候補者を一堂に集めて生放送の政策討論をしてもらうという企画を立てた。しかし、番組では亀井氏がこともあろうにニュースステーションの司会をしていた久米宏氏に対する批判から始めてしまい、それが小泉を除く3候補の間ではとても受けた。彼らはテレビ朝日のスタンスがいかに間違っていて、自民党が正しい政策を採っているかということで盛り上がってしまったのだ。その一方で、小泉氏は番組の最後に「こんなくだらない内輪もめばかりしているから、自民党はダメなんだ。自民党をぶっ壊す。構造改革だ!」と叫んだ。

 それから泡沫候補と呼ばれていた小泉氏の人気はうなぎのぼりとなり、総裁選でも地方票141票のうち123票を獲得する圧倒的な勝利を手にしている。内閣支持率も森政権の末期だった2001年4月の7%から小泉政権が始まった同年5月の81%まで大幅に上昇した。

 

 だが、小泉首相のスローガンだった「痛みを伴う改革」とは、結局のところ低所得者に痛みを強いるだけで終わったと言えるだろう。正規雇用数は2001年の3640万人から2006年の3415万人まで225万人も減少したのに対し、非正規雇用数は2001年の1360万人から2006年の1678万人まで318万人も増加してしまった。

 民間企業の平均年収も2001年の454万円から2006年の435万円まで19万円減少したのに対し、年収200万円以下で働くワーキングプア層は2001年の862万人から2006年の1023万人まで161万人も増加している。図33では1984年から2018年にかけての正規雇用数とワーキングプア層の推移を示した。

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 小さな政府で財政再建を目指す小泉政権は、1998年度にピークの14.9兆円だった公共事業関係費を2001年度の11.4兆円から2006年度の7.8兆円まで削減した。それにも関わらず、俗に「国の借金」と言われる国債や借入金、政府短期証券を合わせた政府の負債は2001年の582.5兆円から2006年の832.3兆円へと約250兆円も増加し、名目GDPは2001年の523.0兆円から2006年の526.9兆円まで約4兆円しか増加しなかったため、「政府の負債残高対GDP比率」が大幅に増加して小さな政府による財政再建は失敗に終わったと言えるだろう。

 

 更に、2005年の衆院選では亀井氏など郵政民営化に反対する議員を「抵抗勢力」と呼び、自民党から排除したことも問題になった。亀井氏は同選挙で刺客として送り込まれた堀江貴文氏について「彼は優秀な青年なんだろうが、今の時代の風潮に染まり楽して儲けようとした典型だ。まさに現代社会が産んだ申し子と言えるね」と述べている。堀江氏は後に「ベーシックインカムを導入する代わりに消費税を20%まで引き上げろ」と発言し、貧困問題について自己責任論を強要する発言を繰り返していることから、亀井氏が自身の実力と経験を生かして堀江氏を落選させたことは大きかったのではないだろうか。

 もし、2001年の総裁選で小泉氏の代わりに積極財政を推進する亀井氏が総理大臣になっていたら、名目GDPや民間企業の平均年収が増加して日本経済はもっとマシな状況だったのではないかと思ってしまう。

 

 

自然と共存しながら公共事業を進めていく亀井氏

 また、私が亀井氏を支持する理由として保守の立場から原発に反対していることも大きい。亀井氏は著書『晋三よ! 国滅ぼしたもうことなかれ』(メディア・パル、2014年)の中で「脱原発は子供だってわかる理屈」として『原発はひとたび事故を起こすと、人の手ではどうしようもないことは福島の事故で実証済みだ。東日本大震災から3年半以上が過ぎたが、福島第一原発放射性物質を出し続け、海や山、川、大地を汚染している。半減期が何十年という放射性物質がまき散らされ、ただちに健康への被害がなくても癌や白血病などを将来的に発病させる危険性は高い』と述べている。

 この本から更に6年が経過して、東日本大震災福島第一原発事故が発生してから今年で9年となったが、震災の記憶が風化して国政選挙では原発の是非について全く議論されなくなってしまった。今年は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、3月11日に予定していた政府主催の追悼式も中止されている。

 

 だが、震災から9年が経っても福島第一原発事故は決して収束などしておらず、原発の下請け労働者は現在でも被曝しながら大変危険な作業に従事している。2019年4月には、東京電力外国人労働者廃炉作業の続く福島第一原発の現場に受け入れる方針を明らかにしたことが問題にもなった。

 厚労省は日本語が不慣れな外国人労働者放射性物質の残る現場で働くことは労災事故につながりかねないとして受け入れ方針の見直しを促したが、そもそも原発の作業員に外国人がいることは今に始まった問題ではなく、1977年にも敦賀原発で約60名の黒人労働者が働かされていたことが国会でも追及されている。昔から原発外国人労働者が切っても切れない関係なのは、日本人だったら被曝の基準値を大幅に超える違法労働として問題になってしまうからだろう。

 

 更に、経産省は「経済のために原発の再稼働が必要だ」と言っているが、東日本大震災が発生した2011年にはアメリカでも景気が回復していたのに対し、日本では福島第一原発事故の影響で再びマイナス成長に戻っていて、原発は事故を起こせば日本経済にも大きな悪影響を与えてしまうのである。特に、県民経済計算を見ると2011年度の名目GDP成長率(平成17年基準)は岩手県がプラス1.7%、宮城県がマイナス2.7%なのに対し、福島県はマイナス9.9%と被災地の中でも落ち込みが大きいことがわかる(図34を参照)。

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 しかし、政府は福島第一原発事故の被災者に対して十分な補償を行ったと言えるだろうか?例えば、2017年3月には避難指示が出ていない区域から避難した「自主避難者」への住宅の無償提供が打ち切られている。自主避難者と聞くと、「自分で勝手に逃げただけでしょ」と思われるかもしれないが、実際には子供の被曝を心配して福島から避難した親御さんも多いのである。安倍政権は「社会保障を全世代型に変える」と言うなら、まずは原発事故避難者への支援をもっと充実させて、二度と悲惨な事故を起こさないよう日本全国の原発廃炉にしていくべきだろう。

 

 だが、震災後に脱原発を掲げた小泉純一郎氏をはじめとして、「原発に反対している者は公共事業にも反対している」とイメージを持っている人も多いのではないだろうか。逆に、国土強靭化を推進する経済評論家の三橋貴明氏や藤井聡氏などは原発賛成派でもある。

 しかしその点、亀井氏は『スーパーゼネコンを通すような大物の公共事業ではなく、小さなものでいいから地方の小さな建設会社が受注できるようなものに対して金を出せばいい』と述べ、電線の地中化や公園の緑地化などを推進しているのだ。自然と共存しながら公共事業を進めていく亀井氏は、首相在任中に緊縮財政を推進した小泉氏とは一線を画していると言えるだろう。

 

 

「日本のマハティール」となって消費税を廃止すべき

 だが、そんな亀井氏の中でもいくつか疑問に思う主張が存在する。例えば、『月刊日本2020年4月号』の中で新型コロナウイルスについて「安倍首相は全国の小中学校と高校、特別支援学校に臨時休校を要請したが、あの程度ではどうしようもない。学校を休校にするというなら、大学も休校にすればいい。場合によっては地下鉄だって止めればいい。そうすれば人の動きは一気になくなるよ。新幹線も止めればいい。『そんなことをすると生活が不便になる』と言う人がいるけども、昔の日本人は新幹線も飛行機もなく生活していたんだ。人類を滅ぼしかねないウイルスが襲ってきているときに、悠長なことは言っていられないんですよ」と発言した。

 

 しかし、私が心配しているのは過剰な自粛によって経済的に困窮する人が増加して、コロナウイルスが収束した後に日本経済が大きく衰退してしまう可能性である。確かに戦後復興期の日本は新幹線がなくても成り立っていたのかもしれないが、その一方で少年犯罪が非常に多くて未成年の殺人件数は2016年が54人(少年人口比10万人当たり0.47人)なのに対し、1951年は448人(少年人口比10万人当たり2.55人)にのぼっている。

 図35では1936年から2016年にかけての「1人当たりの実質GDP(米国ドル)と10万人当たりの未成年の殺人犯検挙人数」の推移を示したが、これを見ると1970年代以降に実質GDPが増加して治安も大幅に改善されていったことがわかる。コロナウイルスの感染拡大を防止するのと引き換えに、日本を後進国に戻すようなことがあってはならないのだ。高度経済成長期を過ごしてきた元警察官僚の亀井氏もその点については熟知しているだろう。

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 また、亀井氏は前述の『晋三よ! 国滅ぼしたもうことなかれ』の中で、20~30代の若い人たち無党派層が増えていることについて「小泉改革で日本をむちゃくちゃにしたことも無駄ではなかったと言えるな」と述べているが、2017年の衆院選では若年層ほど自民党に投票した割合が高いという調査もある。

 外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正についても、共同通信が2018年11月に行った調査によれば賛成の割合は60代以上が37.9%程度だったのに対し、40~50代は54.9%、30代以下は66.3%と若年層ほど高く、「左傾化した若者」が移民受け入れを推進する安倍政権を支持しているのが現実なのだ。保守もリベラルも新自由主義に反対する者は、「日本が不況から抜け出せないのは改革が足りないからだ」と勘違いした人がまだまだ多い状況をもっと憂慮すべきではないだろうか。

 

 最近では山本太郎氏だけでなく、自民党内でも安藤裕氏など消費税廃止を掲げる議員が増えてきた。だが、山本氏の政治経験はまだ6年(2013~2019年)、安藤氏の政治経験はまだ7年半(2012年~)なので総理大臣になるには早いという意見もあるだろう。そこで私は政治経験が38年(1979~2017年)の亀井氏を総理大臣にして、山本氏や安藤氏を厚労相財務相として入閣させることを提案したい。

 亀井氏は衆議院議員を引退してしまって年齢的に厳しいかもしれないが、2018年にはマレーシアで92歳のマハティール氏が消費税廃止を掲げて再び首相に就任した。日本でも82歳の森喜朗氏が東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長を務めており、日本維新の会片山虎之助氏は84歳で参議院議員を続けている。83歳の亀井氏も国会議員に復帰して消費税廃止に尽力することはまだ可能だろう。亀井氏は新自由主義に反対する保守の政治家として「日本のマハティール」になってほしいと思っている。

 

 

<参考資料>

堀江邦夫 『原発ジプシー 増補改訂版 ―被曝下請け労働者の記録』(現代書館、2011年)

雨宮処凛 『一億総貧困時代』(集英社インターナショナル、2017年)

亀井静香安倍総理、日本を死滅させるつもりか」 『月刊日本』(ケイアンドケイプレス、2020年4月号)

 

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

民間給与実態統計調査

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/page/content/001324440.pdf

過去の国債及び借入金並びに政府保証債務現在高

https://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/9850043/www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/data.htm

国民経済計算 2019年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194_2/gdemenuja.html

3・11追悼式 政府中止 被災3県でも中止・縮小相次ぐ

https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202003/CK2020030702000157.html

福島原発の特定技能外国人就労「極めて慎重な検討」要請

https://www.asahi.com/articles/ASM5P6F9HM5PULFA020.html

県民経済計算(平成13年度~平成26年度)

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kenmin/files/contents/main_h26.html

令和元年版 犯罪白書

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/mokuji.html

少年犯罪データベース 少年による殺人統計

http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Satujin.htm

人口推計の結果の概要

https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html

Maddison Project Database 2018

https://www.rug.nl/ggdc/historicaldevelopment/maddison/releases/maddison-project-database-2018