消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

公共事業を削減し、少子化を独身女性のせいにした森喜朗の大罪

森政権から始まったこの20年間の日本政治の劣化

 昨年6月28日の記事(「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待)では小渕首相の功罪について書いたが、その次に首相になったのが森喜朗氏である。森政権が発足してからちょうど今年の4月5日で20年となる。

 森元首相は現在、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長を務めていることもあり、首相時代を知らない世代にとってもニュース番組などでよく見かける人物かもしれない。しかし、公共事業費を増やして一時的に景気回復させた小渕政権に対して、日本政治の劣化が始まったのは森政権からであって在任日数が387日の短命内閣でもその責任は非常に重いと思っている。

 

 森政権ではたびたび失言が問題になったが、その中で最も有名なのは2000年5月15日に神道政治連盟国会議員の懇談会で「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国」と発言したことだろう。だが、森首相はそれに続いて「我々の子供の社会から考えてみますと、やはり鎮守の森というものがあって、お宮を中心とした地域社会というものを構成していきたい。私が今、小渕総理の後を受けて、こういう立場になって教育改革を進めようという教育改革国民会議というものをこうして致しておりますが、少年犯罪がこうしておる状況にアピールをしようと、テーマを造ったわけですが、はっきりいって役所側で作ったものでみんな大変ご批判が出ました」とも述べている。

 当時は同年5月3日に発生した17歳の少年による西鉄バスジャック事件の直後で、森首相は「お宮を中心とした地域社会を失ったから、こうした少年犯罪が発生する」と言いたかったようである。

 

 しかし、未成年の検挙人数が最も多かったのは1983年の26万1634人(少年人口比では10万人当たり1413.5人)で、90年代後半から00年代前半にかけて少年犯罪が一時的に増加したのはバブル崩壊後の不況で若年失業率が大幅に悪化したことが原因なのだ(図25を参照)。私はむしろ有名な「神の国」発言よりも、少年犯罪の発生を雇用の問題ではなく地域社会のせいにした発言のほうがよっぽど問題だと思っている。

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 また、森元首相は少年犯罪の発生を地域社会のせいにしただけでなく、2000年以降に公共事業が削減される原因を作ったことでも罪深い人物である。

 2000年当時の日本社会では「公共事業を増やしても景気対策にならない」という誤解が広まっていて、森政権は公共事業が社会的にどれだけの貢献が可能なのかについて分析する「費用便益分析」を導入した。だが、日本の道路事業における費用便益分析は、便益について「走行時間の短縮」「走行費用の減少」「交通事故の減少」の3つしか定義されておらず、欧州で分析されている雇用の創出など幅広い社会的な好影響は便益に含まれていなかった。特に、2000年当時の15~19歳の完全失業率は12.1%と非常に高く、若者の雇用対策としても公共事業の拡大は有効だったにも関わらずである。

 

 結果的にその後の日本では徹底した緊縮財政が進められ、公共事業関係費は1998年度の14.9兆円から2018年度の7.6兆円まで半分程度に削減された。この間、若年失業率は改善されたものの、一人当たりの名目GDPランキングは2000年の2位から2018年の26位まで低下している(図26を参照)。公共事業は景気対策にならないどころか、日本は公共事業を削減してますます貧困化してしまったのである。

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 更に、森元首相は自身の失言や公共事業が削減される原因を作ったことに対して、全く謝罪しないまま東京オリンピック組織委員会の会長を続けていることも問題だろう。例えば、1996~1998年に首相を務めた橋本龍太郎氏は在任中に消費税を増税して景気を悪化させたことについて「私は1997~98年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も経済問題で自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くお詫びしたい」と謝罪した。

 しかし、森元首相にそうした姿勢はほとんど見られず、『文藝春秋 2020年3月号』のインタビューでは「安倍さんに続けてもらうことが、最も国益に適う」と自民党総裁の任期が切れる2021年9月以降も安倍首相の続投を支持しているのだ。森元首相にとっては今の安倍政権を応援することで、自分がまだ総理大臣を続けているつもりになっているのかもしれない。だが、2025年のプライマリーバランス黒字化目標のために、憲政史上初めて在任中に消費税率を倍に引き上げた「戦後最悪の緊縮財政内閣」である安倍政権が国益に適うと思っている時点で、森元首相がいかに視野の狭い政治家なのかわかるだろう。

 

 この他にも、首相在任中の2000年6月20日には「無党派層自民党に投票してくれないだろうから、投票日に寝ていてくれればいいのだが」と発言しているが、その後日本の政治はどうなっただろうか。

 衆院選における20代の選挙投票率は1967年の66.69%から2000年の38.35%まで大幅に低下して当時から若者の政治離れが問題になっていたが、直近の2017年の衆院選でも20代の投票率は33.85%と状況が全く改善されていない。また、森政権以降の20年間、日本の総理大臣は「1年で辞める首相」と「5年以上続ける首相」に在任期間が二極化し、ほぼ全ての政権が消費税増税や歳出削減などの緊縮財政を推進してきた。その「最初」となった森政権の罪は非常に重いのである。

 デフレ不況に苦しむ今の日本に必要なのは、『日本列島改造論』を提唱した田中角栄元首相(1972~1974年)のような積極財政を推進する政権だろう。

 

 

独身女性ではなくデフレ不況こそが少子化の原因

 更に、森氏は首相を辞任した後の2003年6月26日にも「子供を一人もつくらない女性が、自由を謳歌して、楽しんで年を取って税金で面倒みなさいというのはおかしい」と発言したことが問題になったが、この発言は様々な意味で誤解に満ち溢れていると言えるだろう。

 2017年度の社会保障費用統計によれば、社会保障財源の構成割合は「社会保険料」が50.0%なのに対し、「公費負担」は35.3%程度で日本の社会保障制度の半分は税金ではなく国民の社会保険料で成り立っているのだ。つまり、独身女性であっても保険料を通して社会保障費を負担しているのであって、『税金で面倒をみている』というのは明らかな嘘になる。

 

 その上、図27を見ると過去60年間(1959~2019年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」は強い相関関係を示しており、最近でも名目GDP成長率(平成23年基準)が2015年の3.4%から2019年の1.2%に下落し、出生数も2015年の100.6万人から2019年の86.4万人まで減少してしまった。2020年は新型コロナウイルス東京五輪延期の影響でマイナス成長となる可能性が高く、出生数の減少にも繋がりかねない状況だろう。

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 しかし、この「名目GDP成長率と出生数の推移」は私が作ったオリジナルのグラフであり、少子化について研究している専門家の間でもデフレ不況がより少子化を加速させている現実について全く共有されていないのが残念である。

 例えば、社会学者の山田昌弘氏は2015年から始まった所得税増税について「現役世代に負担をより押し付けるものである」と厳しく批判しているが、実際にこの増税は課税所得4000万円以上の富裕層の最高税率が40%から45%に引き上げられるもので、多くの低所得者や中間層にとっては何も関係がないのだ。山田氏が本当に現役世代のことを考えるなら所得税よりも消費税増税こそ批判すべきだろう。先進国の中で最も公的な教育予算が少なく、毎日消費される食料品にまで8%の税率が適用される日本では消費税が現役世代にとって重い負担になっている可能性が高いからである。

 

 また、大学生のときに家族心理学の教授と少子化の問題について議論していて、当時私は経済評論家の三橋貴明氏の影響を受けていたので、「長引くデフレ不況が少子化の原因ではないだろうか」と発言したら、その教授から「不況と少子化の問題は因果関係が認められていない」と即座に否定された。彼は家族の助け合い義務を強制する自民党改憲案に反対する一方で、「財政再建のために消費税増税は必要」と言っていて、リベラル派の間でも経済的な観点から少子化問題を語ることがタブー視されているように感じる。

 

 更に、デフレ不況が少子化の原因だと認めたくないのは政権側も同じだろう。安倍首相は著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で「従来の少子化対策についての議論を見て感じることは、子供を育てることの喜び、家族を持つことの素晴らしさといった視点が抜け落ちていたのではないか、ということだ。私の中では、子供を産み育てることの損得を超えた価値を忘れてはならないという意識が更に強くなってきている」と述べている。つまり、安倍首相は日本で少子化が進んだのは若者が「家族を持つことの素晴らしさ」を失って、結婚や子育てをしなくなったことが原因だと言いたいようである。

 森元首相や安倍首相の他にも、2007年1月には柳澤伯夫厚労相(当時)が「15~50歳の女性の数は決まっている。産む機械、装置の数は決まっているから、あとは一人頭で頑張ってもらうしかない」と発言し、2018年5月には自民党加藤寛治議員が「女性に必ず3人以上子供を産み育てていただきたい」「結婚しなければ子供が生まれず人様の税金で老人ホームに行くことになる」と発言している。この20年間の日本政治はデフレ不況が国民を貧困化させるという現実から目を逸らして、少子化を結婚しない女性や若者のせいにしてきたと言えるだろう。

 

 だが、日本で少子化が進んだのは独身女性のせいではなく、富裕層減税や国営企業の民営化、消費税導入、労働者派遣法の施行など中曽根政権以降の小さな政府というデフレ促進策によって子育て世代の収入が大幅に減少したからである。1980年代はまだインフレの時代だったので小さな政府を進めても経済に悪影響を与えることは少なかったが、1990年代のバブル崩壊後にデフレ不況が深刻化する中で消費税増税や歳出削減を断行してしまったのは問題だった。

 特に、2000~2018年にかけて子育て世代に当たる35~39歳男性の平均年収は2000年の580.2万円から2018年の527.6万円まで52.6万円(2000年比で9.1%)も減少し、40~44歳男性の平均年収は2000年の634.5万円から2018年の580.6万円まで53.9万円(2000年比で8.5%)も減少している。図28では2000年を100とする「35~44歳男性の平均年収と消費者物価指数」の推移を示した。

 

 もし、森元首相をはじめとする政治家の方々が少子化を女性や若者のせいにするのではなく、バブル崩壊後に夫が妻子を養える経済状況ではなくなったことを認識して消費税引き下げや労働規制の強化、公共事業の拡大など反緊縮的な政策を進めてくれたら、子育て世代の収入が増加して年間の出生数が100万人未満に落ち込むことはなかったのではないだろうか。デフレ不況と少子化の関係についてはもっと研究されても良いと思う。

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<参考資料>

三橋貴明 『歴代総理の経済政策力』(イースト・プレス、2011年)

飯島裕子 『ルポ 貧困女子』(岩波書店、2016年)

山田昌弘 『なぜ日本は若者に冷酷なのか』(東洋経済新報社、2013年)

 

神の国発言 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E3%81%AE%E5%9B%BD%E7%99%BA%E8%A8%80

少年による刑法犯

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_2_2_1_1.html

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/page/content/001324440.pdf

一人当たりの名目GDPランキング

https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

森喜朗が語る“首相4選論”

https://bunshun.jp/articles/-/33786

「日本は天皇を中心とした神の国

https://www.jiji.com/jc/d4?p=gaf928-jlp00869659&d=d4_int

国政選挙の年代別投票率の推移について

https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

社会保障費用統計(平成29年度)

http://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-h29/fsss_h29.asp

国民経済計算 2019年10-12月期2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194_2/gdemenuja.html

令和元年 人口動態統計の年間推計

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suikei19/index.html

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

不登校、ひきこもりと発達障害の関係

今回の記事では消費税と異なる話題になってしまうことをお詫び申し上げます。

 

「子供が不登校になる原因の大半はいじめ」だという嘘

 2019年5月から不登校の小学生Youtuber「少年革命家ゆたぼん」が話題になっている。現在11歳の彼が不登校になったのは小学3年生の頃で、いじめよりも宿題を強制する学校に疑問を抱き、「周りの子がロボットに見えたこと」を理由に挙げている。これだけの情報だと彼が怠けているように見えるが、私も実は中学生のときに不登校だったので彼を批判できる立場にないと思っている。

 

 私は2004年に小学校を卒業するまで成績が良く、中学は英語教育に力を入れているキリスト教の私立に進学したが、その中学は非常に荒れた学校で教員の間でも「いじめはいじめられる奴が悪い」という意識が蔓延しており、いじめの相談をしても話を聞いてもらえず中学2年生の3学期から不登校になることを選んだ。

 しかし、私が不登校になったのはいじめを受けていただけでなく「成績不振で授業についていけなくなったこと」も原因である。特に、不登校になる直前は主要5教科全てのテストで赤点になってしまい追試を受けるために学校へ行っていたようなもので、宿題も夜一晩中起きてないと仕上がらない量を出されてとても授業にはついていけないと思ってしまった。

 

 また、不登校になった3つ目の理由は「インターネット依存症になったこと」である。中学2年生だった当時、ドラマ『電車男』の影響で2ちゃんねるを見始めたのだが、そこで自分の好きな歌手が酷い誹謗中傷を受けていてどうしても許せなかった。学校で授業を受けていても、ネット上での誹謗中傷が頭から離れなくて勉強に集中できる状況ではなかった。いじめ以外の理由で不登校になったという意味では私もゆたぼん君と同じなのかもしれない。

 中学を卒業した後は全日制と通信制の高校に4年間通って、いじめや不登校の問題を研究するために心理学科の大学に進学し、21歳だった2012年からは経済にも関心を持って消費税増税を批判するようになった。

 

 私が許せないのは不登校でYoutuberをしているゆたぼん君ではなく、彼を誹謗中傷している大人たちのほうである。例えば、『炎上商法で1億円稼いだ男の成功法則』(宝島社、2019年)の著書があるプロレスラーでYoutuberのシバター氏はゆたぼん君について「勉強やいじめなど理不尽なことを耐えるのが学校というもの」とこき下ろしている。しかし、不登校が学校の理不尽なことから逃げているように見えるのは、シバター氏が学生時代に挫折した経験がないからだろう。

 他には元不登校を名乗ってゆたぼん君を批判しているYoutuberもいるが、はっきり言って「俺の不登校は正しいが、あいつの不登校は間違ってる」と言い訳しているようにしか感じなかった。ゆたぼん君が不登校になった理由はいじめではないと言うが、いい大人が11歳の子を総じてバッシングする姿は完全な「いじめ」に他ならないのではないだろうか。

 

 2018年に実施された文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、中学生が不登校になった理由について「いじめ」と「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が合わせて28.8%程度で、「家庭生活に起因」は30.9%、「学業不振」は24.0%といじめ以外の理由も多くなっている(表3を参照)。

 更に、小学生が不登校になった理由は「いじめ」と「いじめを除く友人関係をめぐる問題」が合わせて22.5%程度で、「家庭生活に起因」は55.5%、「学業不振」は15.2%と中学生よりも家庭生活に起因する不登校の割合が多い。

 私は中学生の頃だけでなく小学2年生のときもいじめられていたのだが、当時は算数が得意で成績が良く、家庭環境も良好で「学校に行きたくない」と思ったことはほとんどなかった。不登校になる原因はいじめだけではないことは自身の経験からもよくわかる。

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 しかし、不登校を経験したことがない世間一般の人々は不登校になる原因の大半はいじめだと勘違いしていないだろうか。実際に、私も親戚の方に中学生の頃に不登校だったことを話したら即座に「いじめられていたの?」と聞かれて回答に詰まったことがある。ゆたぼん君が「宿題がやりたくなかったから不登校になった」という理由で批判されたのも、成績不振やネット依存が原因で不登校になったケースに対しては甘えだと自己責任で見捨てている部分があるからだろう。

 

 いじめの問題を研究している社会学者の内藤朝雄氏は「クスクス笑いやシカトに代表されるコミュニケーション型のいじめは、クラスのような学級制度がなくなることによってその多くは行う余地を失う」「学級制度自体は他の国も数多く存在するが、日本ほど一つの空間に同じ集団が朝から夕方まで押し込められる例は珍しい」と述べている。

 他にも不登校の子供たちを学校に復帰させる支援を行っている水野達朗氏は、「不登校の子供たちの多くは、親や教師に反抗的な態度を取っていても『本当は学校に行きたい』と思っている」「訪問カウンセリングを行うことによって不登校の子供たちを勇気づけ、親への家庭教育を支援して学校へは専門家の立場で情報共有を行うことによって不登校の解決に繋げていく必要がある」と述べている。

 ゆたぼん君を批判するYoutuberの動画を見ていても、彼らのように「どうしたらいじめや不登校を減らすことができるか」といった考察をする人は残念ながらほとんど存在しなかった。このことからYoutuberはいかに他人を誹謗中傷する炎上商法で再生回数を稼いでいる人が多いのかわかるのではないだろうか。Youtuberのほとんどはコミュニケーションが得意で、学生時代に深刻ないじめを受けた経験を持つ人が少ないのだろうなと思えてならない。

 

 

障害者の給与を一般労働者と同程度まで引き上げるべき

 また、私は2019年8月から県内の発達障害者支援センターに通うようになり、そこで受けたテストで「自閉症スペクトラムの傾向が強い」と診断された。自閉症スペクトラムとは、これまで「自閉性障害」「アスペルガー障害」「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれていたものが、2013年にDSM精神障害の診断と統計マニュアル)の第五版の診断基準変更によって統合された名称で、主に対人関係の障害やコミュニケーションの障害、パターン化した興味や活動といった3つの特徴を持つとされている。

 私が「自分は周囲の子と違う」と感じ始めたのは小学2年生のときにいじめっ子から「お前は特殊学級に行け」と馬鹿にされたことがきっかけだが、3年生のときの担任がとても良い先生で小学校を卒業するまでは自分が発達障害だと認識することはなかった。しかし、中学に入ってから再びいじめを受けて、そのことを心療内科の先生に相談すると「君はアスペルガー障害の可能性がある」と言われそこで初めて自分が周囲の子と違う理由を知ることができた。

 

 「自分は発達障害かもしれない」と思ったことは22歳でコンビニのアルバイトをしていたときもあった。2013年12月にお客さんから「急いでくれ」と言われて慌てて対応していたら「お前は態度が悪い。このコンビニの教育はどうなっているんだ?」とクレームを入れられてしまった。

 店長からは厳しく叱られずに「大丈夫だから」と励まされたのだが、お客さんからコンビニの教育を疑われたのはそれだけ自分の接客が下手だったということだろう。今でも当時のことを思い出すと非常に怖くなる。コンビニのアルバイトは大学の授業が忙しくなったということもあり翌月の2014年1月に辞めて、それから接客の仕事を全く行っていないのは言うまでもない。

 

 しかし、この10~20年で発達障害の研究が進められてきた一方で、企業が新卒採用で学生のコミュニケーション能力を異常なまでに求め、発達障害の傾向を持つ人を徹底的に排除しようとしている。経団連の『新卒採用に関するアンケート調査』によれば、採用選考時に「コミュニケーション能力を重視する」と答えた企業の割合は2001年の50.3%から2019年の82.4%まで増加した。

 企業がコミュニケーション能力に偏重した採用活動を行っているのは、2000年代以降にインターネットの普及で誰でも簡単に不祥事の告発が可能になり、企業がかつてないほど組織のコンプライアンスを重視するようになったからである。また、長引くデフレ不況の影響で日本企業全体が余裕を失い、コミュニケーションが苦手で発達障害の傾向を持つ学生をふるい落としている部分もあるだろう。

 

 労働力調査を見ても、2001~2019年にかけて女性の就業者数は363万人増加したのに対し、男性の就業者数は逆に50万人も減少している。図24では2001年を100とする男性就業者と女性就業者の増加率を示した。自閉症スペクトラムは圧倒的に男性のほうが多い一方で、女性の平均年収は男性の約半分程度である。つまり、今の企業はコミュニケーション能力が高く低賃金で働いてくれる人を求めているとも言えるかもしれない。

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 日本社会が過剰にコミュニケーション能力を求めるようになると、発達障害の傾向を持つ人が就労できずにニートやひきこもりへと追い込まれることにもなりかねない。私が発達障害者支援センターに通っていて「自閉症スペクトラムの傾向が強い」と診断されたのは納得したのだが、障害者枠で就労することを強く勧められたのは違和感を覚えた。一度、障害者枠で働く道を選ぶと高度な国家資格を持っていない限り、どんなに経験を積んでも賃金が時給1000円を超えることがないのを知っていたからである。

 

 2018年5月のデータでは常用労働者の「きまって支給する給与」が26.3万円なのに対し、身体障害者が21.5万円(常用労働者の81.7%)、知的障害者が11.7万円(44.5%)、精神障害者が12.5万円(47.5%)、発達障害者が12.7万円(48.3%)程度である。更に、福祉作業所に在籍する障害者は2016年の調査で98.1%が年収200万円未満のワーキングプアになっていて、生涯未婚率(50歳までに一度も結婚したことがない人の割合)は男性で96.0%、女性で95.4%にものぼっている。

 知的障害者精神障害者の給与が低いのは高度かつ付加価値の大きい仕事をこなすことが難しいからだと言われているが、こうした障害者に対する給与差別こそが発達障害の傾向を持つ人を就労から遠ざけてはいないだろうか。

 

 また、高度経済成長期の1955年であれば個人経営の事業を営んでいる自営業主は1028万人と全体の25%を占めていたが、2019年になると自営業主は531万人と全体の8%程度まで減少してしまっている。発達障害の傾向を持つ人は企業のような集団生活を強いる職場が苦手なので、自営業主の衰退はますます発達障害者の就労機会を奪っているということでもある。高度経済成長期の時代と比べて自営業主の割合が大幅に減少しているのは長年、政府が個人事業主への所得補償を怠ってきたからだろう。

 自民党片山さつき議員は著書『正直者にやる気をなくさせる!?福祉依存のインモラル』(オークラ出版、2012年)の中で「自由と権利ばかり主張する日本国憲法のせいで、ニートとひきこもりが急増した」と述べているが、これはコミュニケーションが苦手で働けない人を自己責任で見捨てる暴論ではないだろうか。発達障害者をニートやひきこもりに追い込まないためには、政府が率先して障害者枠の給与を一般労働者と同程度まで引き上げるしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

内藤朝雄 『“いじめ学”の時代』(柏書房、2007年)

水野達朗 『無理して学校へ行かなくていい、は本当か』(PHP研究所、2015年)

池上正樹 『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち』(講談社、2014年)

齊藤祐作 『発達障害者の才能をつぶすな!』(幻冬舎、2016年)

 

YouTuber目指す大半の子が知らない厳しい現実

https://toyokeizai.net/articles/-/281468

2つの統計から見る不登校の現状ときっかけ・原因【2019年8月更新】

https://www.tsuushinsei-navi.com/futoukou/toukei.php

2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果

https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

毎月勤労統計調査 平成30年5月分結果確報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/30/3005r/3005r.html

平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05390.html

新型コロナウイルス対策のためにも消費税を5%に減税すべき

名目GDP成長率の落ち込みは8増税時よりも大きい

 2月17日に発表された2019年10-12月期のGDP速報(平成23年基準)によれば、物価の変動を除いた実質GDP成長率は年率マイナス6.3%だった。個別の項目を詳しく見ると落ち込みがもっと酷く、民間最終消費支出は年率マイナス11.0%、民間住宅投資は年率マイナス10.4%、民間企業設備投資は年率マイナス14.1%である。

 

 また、私が気になったのは「持ち家の帰属家賃を除く家計最終消費支出」が年率マイナス13.9%も落ち込んでしまったことだ。国民経済計算では個人消費について「民間最終消費支出」「家計最終消費支出」「除く持ち家の帰属家賃」の3つのデータを公表しているが、「家計最終消費支出」とは民間最終消費支出から私立学校、宗教団体、政党、福祉関係のNPOなど営利を目的とせず社会的サービスを提供している民間団体の消費を除いた額で、「除く持ち家の帰属家賃」とは家計最終消費支出から実際には家賃を支払っていない住宅(持ち家など)について、通常の借家と同様のサービスが生産され消費されるものとみなし、市場価格で評価した計算上の架空家賃を除いた額である。

 つまり、民間最終消費支出より国民の個人消費を表す数値に近いデータを知りたい場合、家計最終消費支出から持ち家の帰属家賃を除いた額を見るべきで、この落ち込みが大きいのは消費税増税による個人消費の低迷が日本経済を蝕んでいる何よりの証拠ではないだろうか。

 

 更に、物価の変動を含めた名目GDP成長率を見るともっと酷い。前回消費税を8%に増税した2014年4-6月期は年率0.0%だったのに対し、2019年10-12月期は年率マイナス4.9%と今回のほうが落ち込みは大きいのだ。特に、2019年10-12月期の名目GDP成長率は安倍政権の7年間で最低となってしまった(図22を参照)。

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 2019年のコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合物価指数)が対前年比0.4%の増加だったにも関わらず、同年10-12月期の名目GDP成長率がマイナスになった理由は民間企業設備投資の落ち込みが2014年4-6月期よりも著しかったことが考えられる。

 消費税を8%に増税したときは2012~2013年にかけて景気が回復傾向にあったが、10%増税時は名目GDP成長率が2015年の3.4%から2019年の1.3%まで下落していて、景気の後退局面で消費税を引き上げたからこそ民間企業設備投資の落ち込みが大きかったのではないだろうか。

 

 

個人消費の落ち込みは高齢化ではなく消費税増税が原因

 しかし、消費税を最終的に15~20%まで引き上げたい安倍政権は増税による景気悪化を絶対に認めたくないようである。安倍首相は2月17日の予算委員会で日本経済の現状と展望に関し、「経済対策の効果もあり基調として緩やかな回復が続く」との見解を示した。麻生財務大臣も2019年10-12月期の実質GDPがマイナス成長だったことを受けて、「前回の消費税引き上げ時と比較すると影響が小さい」などと言い訳に終始している。

 だが、景気の先行き予測に使用される景気動向指数(先行指数)は2017年12月の102.1から2019年12月の91.6まで急速に悪化しており、新型コロナウイルスの影響もあって2020年1-3月期のGDP成長率は更に落ち込む可能性が高いだろう。日本経済の現状はとてもじゃないが、緩やかに回復しているとは言えない状況である。

 

 また、自民党片山さつき議員はテレビ朝日のモーニングショーで藤井聡氏と対談した際に、2019年10-12月期の消費の落ち込みについて「台風19号のせいだ」と発言している。しかし、台風は2019年だけでなく毎年起こっているのであって、増税前の同年9月にも台風15号の影響で千葉県を中心に大規模停電が発生した。もし、景気悪化を台風のせいにするのなら9月の時点で消費税10%増税を中止すべきだっただろう。

 片山議員は「少子高齢化の影響で消費が増えづらい状況になっている」とも述べているが、これも少し調べれば嘘であることがわかる。日本は高齢化率が21%を超える「超高齢化社会」に突入したのが2007年だが、それでも家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)は2009年1-3月期の223.3兆円から2014年1-3月期の247.7兆円にかけて24.4兆円も増加している。本格的に個人消費が落ち込んだのは消費税が8%に増税された2014年4月以降なのだ(図23を参照)。

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 消費税増税に加え、新型コロナウイルスの影響が深刻な日本経済は今後どうなってしまうだろうか。現状では2020年6月末に消費者に最大5%が還元される補助金事業のキャッシュレス還元が終了して「再増税」となるため、東京五輪を開催しても個人消費はほとんど増えないと予想される。

 そのため、政府は新型コロナウイルスによる経済への悪影響を最小限に抑える目的で遅くても2020年7月から消費税を5%に減税すべきだろう。私は安倍政権を全く支持していないが、消費税引き下げを決定すればそれに伴って解散総選挙に打って出ても良いと思っている。

 

 

<参考資料>

国民経済計算 2019年10-12月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194/gdemenuja.html

「民間最終消費支出」と「家計最終消費支出」の違い

https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/indicator/20130117_006677.pdf

財務省の狂気(前編)

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12447976559.html

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

日本経済、政策効果などで基調として緩やかな回復続く=安倍首相

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200217-00000043-reut-bus_all

経済環境きめ細かく分析し、財政運営に万全期す=麻生財務相

http://www.asahi.com/business/reuters/CRBKBN20C01F.html

統計表一覧:景気動向指数 結果

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html

【激論】消費税増税の悪影響を意地でも認めない片山さつき自民党議員

https://www.youtube.com/watch?v=_-AluaqShqw

1995年以降のデフレが国民を貧困化させ、音楽文化まで破壊した

日本国民の二極化が始まった1990年代という時代

 昨年からYoutubeで昔の音楽番組やゲームの動画を見るようになったり、家の物置から子供の頃の写真を出して懐かしくなったりして、改めて1990年代という時代を総括する必要があると感じた。特に、私が生まれた1991年から小学校に入学する1998年までの動画や写真を時系列で見ると良くも悪くも変化の大きい時代だったということが伝わってくる。一言で表現すれば90年代は国民の二極化が始まった時代だと言えるのではないだろうか。

 

 1994年から新宿を中心に路上生活者(ホームレス)の支援活動に取り組んでいる稲葉剛氏は、現在の格差や貧困に繋がる火種がまかれた年として、阪神淡路大震災地下鉄サリン事件が発生して社会の閉塞感が広がった1995年を挙げている。稲葉氏が炊き出しを始めた1994年12月当時、新宿では路上生活者がまだ200人程度だったが、1995年に入ってからそれが300人、400人と少しずつ増えていったという。

 1995年といえば当時4歳だった私はアパートから両親が建てたマイホームに引っ越した時期であり、自分が恵まれた幼少期を過ごしていた裏側で路上生活者が急増していたのは信じられない話だ。

 

 また、同年10月18日には大阪の道頓堀で路上生活をしている63歳の男性が24歳の若者によって襲撃され亡くなる事件も発生している。その後、襲撃した若者も持病により安定した仕事に就けず社会の中に居場所を見つけられない状態にあり、自分と同じような境遇にある路上生活者を襲撃したということがわかっている。現在まで繋がる若者の貧困と通底する事件だとも言えるだろう。

 

 実際に、稲葉氏の活動だけでなくデータから見てもこの25年間の日本はほとんど経済成長せず貧困層や所得格差だけが拡大していったことがわかる。例えば、名目GDP成長率は1973年から1995年までの22年間では4.30倍(平成2年基準)も増加したのに対し、1995年から2017年までの22年間ではたったの1.07倍(平成23年基準)しか増加していない。

 この間、1世帯当たりの平均所得金額は1995年の659.6万円から2017年の551.6万円まで100万円以上も減少し、所得格差を表すジニ係数当初所得)は1996年の0.441から2017年の0.559まで上昇している。

 

 この他にも生活保護利用者数は戦後、1951年度の204.7万人から1995年度の88.2万人まで減少していたが、その後は2017年度の212.5万人まで増加してしまった。図20では1985~2017年の「1世帯当たりの平均所得金額と生活保護利用者数の推移」を示したが、これを見ると平均所得金額と生活保護利用者数が逆の相関になっていることがわかる。

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 安倍政権の熱烈な支持者たちは生活保護利用者数の増加について「日本人の勤労意欲が低下したからだ」などと言うだろうが、統計数理研究所が5年ごとに実施している日本人の国民性調査で「いくらお金があっても、仕事がなければ人生はつまらない」という考え方に賛成する割合は1983年が77%、1988年が75%、1993年が75%、1998年が76%、2003年が71%、2008年が76%、2013年が72%と30年間一貫して7割を超えていて、日本人の勤労意欲が落ちているわけではないのだ。

 

 更に、1995年は日経連が『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』として非正規雇用派遣労働者を大幅に増やす提言を行った年でもある。自民党はこの提言に従って1999年12月に労働者派遣法を改正し、それまで専門26業務に限定されていた「ポジティブリスト方式」を港湾運送、建築、警備、医療、製造業など以外は原則自由化するという「ネガティブリスト方式」に変えている。

 その後も労働者派遣法は2004年3月に製造業での採用が解禁され、2015年10月からは専門26業務の枠組みを廃止して企業が人さえ変えれば同一事業所の派遣使用期間をいくらでも延長できるようになった。この結果、非正規雇用の割合は1995年の20.9%から2018年の37.9%まで上昇し、主に20~40代の労働環境が悪化して少子化の原因の一つにもなっていることが明らかだろう。

 

 1995年から2018年にかけて食料を含めた総合物価指数(CPI)はデフレと言われながらも3.8%上昇しているが、40~44歳男性の平均年収は1995年の626.9万円から2018年の580.6万円まで46.3万円(1995年比で7.4%)も減少し、45~49歳男性の平均年収は1995年の687.1万円から2018年の635.2万円まで51.9万円(1995年比で7.6%)も減少している。

 その影響もあって、50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示す生涯未婚率(男性)は1995年の8.99%から2015年の23.37%まで上昇し、現在の40代男性は所得に余裕があり結婚して子育てに励んでいる人と不安定雇用に苦しめられて結婚できない人が二極化しているのではないだろうか。

 

 

1990年代にCDが爆発的に売れていた本当の理由

 その一方で、1995年といえば日本の音楽史においてCDシングルのミリオンセラー数が過去最多だった年として記録されている。この年は累計売上が248.9万枚にものぼったDREAMS COME TRUEの「LOVE LOVE LOVE」をはじめとしてミリオンセラーが28曲も生まれている。これだけCDが爆発的に売れたのは、日本の1990年代が一億総中流社会の面影が残っていた最後の時代だからという部分もあるのではないだろうか。

 

 今年2月21日に発表された2019年の実質賃金は「現金給与総額」が前年比マイナス0.9%、「きまって支給する給与」が前年比マイナス0.8%だった。1990年から2019年までの実質賃金を長期時系列データで見ると、戦後最も高かった1997年と比べて2019年の実質賃金は14.2%も減少している。

 音楽好きな自分として気になっているのは、労働者の実質賃金とCDやDVDなどの売上を示した音楽ソフトの生産金額に強い相関関係が見られることだ(図21を参照)。1990年から1997年までは実質賃金と音楽ソフトの売上が共に上昇していたが、2000年以降に実質賃金が低下して音楽ソフトの売上も減少するという状況が発生している。この20年のデフレ不況は国民を貧困化させるだけでなく、音楽文化まで破壊してしまったようである。

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 5ちゃんねる(旧:2ちゃんねる)やYoutubeのコメント欄などでは「1980~90年代の音楽は素晴らしかったが、最近はいい曲が少ない」という書き込みが多い。そうしたコメントを見る度に「貴方が最近の音楽を聴かず嫌いしているだけなのでは?」と思うのだが、それでも何故昔の音楽のほうが良いと感じる人が多いのかについては考察しなければならない。

 私が思うのは1980~90年代当時、法人税所得税最高税率が今より高かったことにより、売れているミュージシャンやレコード会社にも納税を通して社会貢献させていたからこそ、国民の多くがCDを買うなど音楽にお金を使う余裕があって次々と大ヒット曲を生み出せていたのではないだろうか。

 例えば、90年代に一世を風靡した音楽プロデューサーの小室哲哉氏は1997年に推定所得が約23億円でその50.9%に当たる11億7000万円を納税したという。当時の所得税と住民税を合わせた最高税率は65%で、自身の収入の半分以上を国と地方に納税していたのは誇るべきことである。

 

 しかし、それから所得税と住民税の最高税率はCDの売上が減少し始めた1999年から50%に減税され、2007年には所得税最高税率が37%から40%に引き上げられたのに対し、住民税の最高税率は13%から10%に減税され、どれだけ所得を稼いでも一律の税率しか徴収されないフラット税制が適用されている。

 2015年には格差社会に対する批判から所得税と住民税の最高税率が50%から55%に引き上げられたが、それでも高所得者に65%以上の税率を徴収していた1980~90年代と比べたら累進課税が緩和された状況が続いていると言えるだろう。

 

 エイベックス代表取締役会長の松浦勝人氏は2013年8月に自身のFacebookで2015年から所得税と住民税の最高税率が55%に引き上げられることについて「この国はあえていうなら富裕層に良いことは何もない。こんなことをしていたら富裕層はどんどん日本から離れていくだろう」と批判したが、彼は2000年代以降に何故CDが売れなくなったのか真剣に考察したことがないのだなと思わざるを得なかった。

 ちなみに、国税庁の調査によれば年収1000万円以上の高所得者は2014年の199.5万人から2018年の248.8万人まで49.3万人増加し、ワールド・ウェルス・レポートによれば100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2014年の245.2万人から2018年の315.1万人まで69.9万人も増加していて、所得税最高税率を引き上げても富裕層が海外に逃げるという事態は発生していないのだ。松浦氏は日本の所得税が高いと嘆く前にもっと経済の勉強をすべきではないだろうか。

 

 最近ではYoutubeなどの動画サイトやSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスの再生回数でミュージシャンが収入を得る時代になっているが、こうした「音楽を無料や低価格で楽しむ」という価値観が蔓延しているのは1995年以降に日本のデフレ不況が長期化していることも原因の一つだろう。

 20~40代が趣味にお金を使えるようになり、将来的に結婚してマイホームを建てられるほどの所得を得るためには消費税廃止と財政出動が必要で、その財源として法人税所得税最高税率を引き上げてデフレ期の国債発行を認めるしかないと思っている。

 

 

<参考資料>

稲葉剛 『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版、2016年)

伊藤周平 『消費税が社会保障を破壊する』(角川書店、2016年)

醍醐聰 『消費増税の大罪 会計学者が明かす財源の代案』(柏書房、2012年)

森岡孝二 『雇用身分社会』(岩波書店、2015年)

 

国民経済計算 2019年10-12月期1次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe194/gdemenuja.html

平成30年 国民生活基礎調査

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450061&kikan=00450&tstat=000001129675&cycle=7&tclass1=000001130605&result_page=1

平成29年 所得再分配調査報告書

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/96-1/h29hou.pdf

平成29年度 被保護者調査

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00450312&tstat=000001125455&cycle=8&tclass1=000001125456&result_page=1

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

2020年度人口統計資料集

http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2020.asp?chap=0

1995年(平成7年)ヒット曲ランキング

https://nendai-ryuukou.com/1990/song/1995.html

毎月勤労統計調査 令和元年分結果確報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r01/01cr/01cr.html

音楽ソフト 種類別生産金額推移

https://www.riaj.or.jp/g/data/annual/ms_m.html

小室哲哉Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E5%AE%A4%E5%93%B2%E5%93%89

所得税の税率の推移(イメージ図)

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/033.htm

松浦勝人氏「富裕層は日本にいなくなっても仕方ない」に批判相次ぐ

https://www.huffingtonpost.jp/2013/08/13/masato_matsuura_n_3738948.html

World Wealth Report 2019

https://worldwealthreport.com/wp-content/uploads/sites/7/2019/07/World-Wealth-Report-2019-1.pdf

ベーシックインカムを消費税増税の口実にしてはいけない

スイスが国民投票ベーシックインカムを否決した理由

 近年、社会保障の分野で話題になっている制度に「ベーシックインカム」がある。ベーシックインカムとは、「最低限所得保障」の一種で生活できる最低限の金額を定期的に支給するというものだ。この制度は年金、雇用保険生活保護などの代わりに、国民全員に一律の金額を支給することで社会保障制度を簡素化し、行政コストを大幅に削減できるという特徴を持っている。

 日本でも2010年6月から2011年9月まで当時の民主党政権が「子ども手当」として15歳までの子供に月額1万3000円を支給していたが、これは子育て世代を対象にしたベーシックインカムの一つと見なすことができる。ベーシックインカムの問題点で一般的に言われるのは、政府が国民に対して無条件にお金をバラ撒いたら、勤労意欲がなくなって働かない人が増加するのではないかという批判である。

 

 社会実験としてベーシックインカムの導入が成功した代表的な国にフィンランドがある。フィンランドでは2017年1月から2018年12月まで無作為抽出した2000人の失業者に対し、他の収入源があるかどうかや積極的に仕事を探しているかどうかに関わらず、毎月560ユーロ(約7万1000円)を支払うベーシックインカムの試験運用を行った。

 その結果、幸福度について「健康状態が良い」と回答した割合はベーシックインカムを受給していないグループが46%なのに対し、受給したグループが55%、「かなり強いストレスを感じたことがある」と回答した割合はベーシックインカムを受給していないグループが25%なのに対し、受給したグループが17%とベーシックインカムが幸福度や健康状態に良い影響を与えることが示された。

 また、ベーシックインカムの受給者の雇用状況に関して、受給していないグループの勤務日数は平均で年間49.25日なのに対し、受給したグループは平均49.64日と特に大きな差は見られなかった。ベーシックインカムを導入すると人々の勤労意欲がなくなるという懸念について、今回の結果では良くも悪くも人がすぐには変わらないことが示されている。

 

 その一方で、スイスでは2016年6月5日に成人には2500スイスフラン(約27万円)、未成年には625スイスフラン(約6万8000円)を毎月支給するベーシックインカムの是非を問う国民投票が実施されたが、賛成は23.1%だったのに対し、反対は76.9%と圧倒的多数で否決されている。

 イギリスの経済学者でベーシックインカムを推進しているガイ・スタンディング氏はスイスの国民投票が否決された理由について「ベーシックインカムが導入されると、低所得国からの移民の大量流入を招く」という不安を反対派が煽ったからだと指摘している。

 

 だが、それ以上にスイスとフィンランドの税制や経済状況に違いが大きいことも原因の一つになっているように思う。スイスの付加価値税は8.0%(2016年当時)と欧州の中でも低いのに対し、フィンランド付加価値税は24%と高負担高福祉の国の一つになっており、完全失業率もスイスの3.3%よりも、フィンランドの8.8%(いずれも2016年の数値)のほうが圧倒的に高い。

 つまり、仮にスイスでベーシックインカムが導入されたら、フィンランド並みに付加価値税を引き上げて景気を悪化させ、完全失業率の高い不安定な社会を受容しなければならないという危機感から国民投票に反対する人が多かったのではないだろうか。

 

 更に、2019年1月からはチューリッヒ州のライナウ村で25歳以上の人に毎月2500スイスフラン(約27万円)を支給するベーシックインカムが試験的に導入される予定だったが、目標としていた600万スイスフラン(約6億4000万円)以上の資金調達が間に合わず計画を断念している。

 ベーシックインカムの導入を呼び掛けた映画監督のレベッカ・パニアン氏は「なぜライナウの村民だけにお金を出すのか理解できない人が多かった」とコメントを発表し、プロジェクトの目的をしっかりと周知する必要があったと反省している。スイスでは2018年1月に付加価値税を8.0%から7.7%に引き下げており、どうやらベーシックインカムを導入するよりも減税したほうが景気対策や雇用創出に繋がると考えている国民が多いようだ。

 

 図18では1981~2019年のフィンランド、スイス、日本における完全失業率の推移を示したが、これを見る限り日本はスイスと同様に比較的失業率が低く、消費税増税を財源にベーシックインカムを導入するよりも政府が財政出動して最低賃金を大幅に引き上げたほうが国民所得の向上に繋がるとも言えるだろう。

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ベーシックインカムと引き換えに経済成長を犠牲にするな

 しかし、日本ではベーシックインカムの導入が消費税増税の新たな口実にされようとしているのが残念である。例えば、2016年4月10日放送の『そこまで言って委員会NP』では、堀江貴文氏が「消費税を20%くらいに引き上げることを前提として、国民に毎月8万円を支給するベーシックインカムを導入したらどうか」と提案し、司会の辛坊治郎氏は「いっそのこと消費税を30%にして、毎月10万円支給すべき」と極論を述べている。

 だが、前述のガイ・スタンディング氏はベーシックインカムの財源について「所得税最高税率を引き上げるべき」と言っていて、海外では消費税ではなく富裕層の資産に課税してベーシックインカムの財源にする意見が一般的となりつつあるのだ。

 

 また、堀江貴文氏はベーシックインカムを貧困対策ではなく、消費税増税の新たな口実だとしか思っていないことは過去の発言からよくわかる。2019年10月には、女性が多く集まる電子掲示板の『ガールズちゃんねる』で手取り14万円のアラフォー会社員が「何も贅沢できない日本終わってますよね?」と嘆く書き込みに対して、堀江氏はツイッターで「日本が終わってんじゃなくてお前が終わってんだよ」と自己責任論を強要した。

 国税庁民間給与実態統計調査によれば、2018年の平均年収は女性が293.1万円と男性(545.0万円)の53.8%程度に過ぎず、アラフォー会社員が女性なら男女の賃金格差を象徴する書き込みだとも言える。そうした背景を理解せず自己責任論を押し付ける堀江氏は実業家としてあまりにも視野が狭すぎるのではないだろうか。

 

 ベーシックインカムの導入を消費税増税の新たな口実にしているのは堀江貴文氏だけではない。不登校やひきこもりの人々を支援している古山明男氏は著書『ベーシック・インカムのある暮らし』の中で消費税を13%まで引き上げて、月額8万円のベーシックインカムを導入することを提案している。

 古山氏は消費税について「景気の変動に対して税収が安定している」と述べているが、それは逆に言えば不況でも失業者や赤字企業から容赦なく取り立てる欠点を持っていて、税金の基本原則である景気の自動安定装置(ビルトイン・スタビライザー)が機能しない特徴もあるのではないだろうか。

 更に、古山氏は「現在、所得格差が大きくなっていくことを嘆きながら、その原因である大企業や金持ちを優遇しなければならないという奇妙な構図ができている」とも言うが、それは消費税ではなく法人税所得税最高税率を引き上げることで対応できるだろう。

 

 また、経済評論家の波頭亮氏は著書『AIとBIはいかに人間を変えるのか』の中で、古山氏と同様に月額8万円のベーシックインカムを導入する代わりに、消費税を15%まで引き上げることを提案している。

 波頭氏は「消費税増税による物価上昇と個人消費の低下については、過去に増税した際の実績を見ればさほど懸念する必要はないだろう」と述べているが、国民経済計算を見ると「家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)」の落ち込みはリーマンショックが発生した2008年度の6.3兆円より消費税を8%に増税した2014年度の8.0兆円のほうが大きい(図19を参照)。リーマンショックよりも深刻な個人消費の落ち込みが発生したにも関わらず、「世の中で懸念されているほど消費の低下は招かない」と言い切ってしまう波頭氏は浅はかではないだろうか。

 2018年度の実質GDP総額は533.7兆円だが、もし安倍政権が消費税増税を中止して税率が5%のままだったらとっくに家計最終消費支出(持ち家の帰属家賃を除く)が250兆円を超えて実質GDPは550兆円以上にも達していただろう。

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 堀江貴文氏、古山明男氏、波頭亮氏にしても消費税増税を財源にベーシックインカムを推進している論客に共通するのは「ベーシックインカムを導入するんだから、消費税を増税して生活が苦しくなるくらい我慢しろ」という思い上がった態度ではないだろうか。

 もし、日本でベーシックインカムを導入するのであれば、消費税ではなく法人税所得税最高税率を引き上げてデフレ期の国債発行を認めることで財源を捻出すべきである。少なくとも、ベーシックインカムを引き換えに経済成長を犠牲にしてはならないし、消費税増税の新たな口実にしてもいけないと思う。

 

 

<参考資料>

和田秀樹 『「依存症」社会』(祥伝社、2013年)

橘木俊詔 『貧困大国ニッポンの課題』(人文書院、2015年)

ガイ・スタンディング 『ベーシックインカムへの道』(プレジデント社、2018年)

 

フィンランドベーシックインカムの調査結果を発表

https://ideasforgood.jp/2019/03/06/finland-basic-income-result/

ベーシックインカム - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%83%A0

スイスの人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/CH/imf_persons.html

フィンランドの人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/FI/imf_persons.html

日本の人口・就業者・失業率の推移

https://ecodb.net/country/JP/imf_persons.html

ベーシックインカム試験導入、断念へ

https://swissjoho.com/archives/39836

VATの標準税率を7.7%に引き下げ(スイス)

https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/01/648855c7091a2197.html

堀江貴文が語るベーシックインカム

https://www.youtube.com/watch?v=LvzQqv1XGCM

堀江貴文が“手取り14万円”に「お前が終わってんだよ」でまた無知を晒す

https://www.excite.co.jp/news/article/Litera_litera_9974/

平成30年分民間給与実態統計調査結果について

https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2019/minkan/index.htm

れいわ新選組は消費税廃止の他に「移民受け入れ反対」を掲げるべき

れいわ新選組の消費税廃止は極めて現実的な経済政策である

 次の衆院選は早ければ2020年のうちに行われると予想されているが、そこで気になるのが消費税廃止を掲げたれいわ新選組がどれほどの議席を獲得できるのかということである。

 山本太郎氏は衆院選での戦い方について「野党が消費税5%に減税することを目的にまとまるのであれば協力するが、それが不可能なら独自で候補者を100人擁立する」と発言している。しかし、立憲民主党と国民民主党はれいわ新選組の消費税引き下げに協力することに消極的で、合流に向けた話し合いも混乱しているようだ。そうなると、山本氏は独自で衆院選を戦うことになるが、個人的には自民党の強い小選挙区で候補者を立てる必要はないと思う。

 筆者は群馬県に住んでいるが、衆院選では毎回小渕優子氏が当選を続けていて、れいわ新選組が候補者を擁立しても残念ながら勝てないだろう。

 

 2019年の参院選における都道府県別のれいわ新選組の得票率を多い順に見ると、1位から10位は東京都、沖縄県、神奈川県、埼玉県、千葉県、京都府山梨県福井県高知県宮城県となっていて、逆に直近10年間(2010~2019年)における都道府県別の自民党の得票率を少ない順に見ると、1位から10位は大阪府沖縄県、長野県、兵庫県京都府、北海道、埼玉県、東京都、岩手県、愛知県となっている(表2を参照)。

 まずはこうしたれいわ新選組が強く、自民党が弱い地域から攻めていく必要があるのではないだろうか。

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 また、安倍政権の熱烈な支持者が集まるツイッターYoutubeのコメント欄では「れいわ新選組の消費税廃止は非現実的だ」との書き込みを多く見かける。だが、法人税率を80年代の水準に戻してデフレ期の国債発行を認めれば消費税廃止は極めて現実的な経済政策なのだ。

 『今こそ知りたい「消費税増税と法人税減税」の関係』でも述べた通り、企業の経常利益は1989年度の38.9兆円から2018年度の83.9兆円まで約2.2倍も増加し、法人税収が減少する一方で経常利益はバブル崩壊後も増え続けて過去最高を更新している。2018年度の経常利益に1989年当時の税率(40%)が適用された場合、単純比較で法人税収は41.0兆円にものぼったことが予想され、これは2018年度の法人税収と消費税収を合わせた30.0兆円よりも多い。

 

 それでも、消費税増税を推進する財務省は「法人税所得税は景気に左右されやすい」と言うが、リーマンショックのような金融危機が発生して法人税収や所得税収が減った場合、消費税を増税するのではなく国債を発行して社会保障の財源を調達すればいいだろう。

 消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2018年度に対前年比0.2%程度と日銀が定めている年率2%のインフレ目標には達していないが、それでも公債発行額は2009年度の52.0兆円から2018年度の34.4兆円まで削減されている(図15を参照)。

 安倍政権は公債発行額の減少をアベノミクスの成果として挙げているが、デフレ脱却していないにも関わらず緊縮財政を強行したことを自画自賛するのは何とも情けない話だろう。年率2%のインフレ目標に達していないデフレ不況のときはむしろ国債発行で歳出を増やしたほうが早期に景気回復して税収も増加するのだ。

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 2018年には高度経済成長期の日本に憧れたマレーシアのマハティール首相が6%の消費税を完全に廃止して「物品税」に近い売上・サービス税(SST)に戻した。一部の政治家やメディアはマレーシアが消費税を廃止したことを失敗だと批判しているが、2019年4~6月期の実質GDP成長率は日本が前年同期比で1.0%程度の増加なのに対し、マレーシアは4.9%も増加している。両国ほぼ同様にGDPの6割を占める個人消費に関しても日本が前年同期比で0.7%程度の増加なのに対し、マレーシアは7.8%の増加にのぼっている。

 日本とマレーシアの成長率を単純比較できるわけではないが、マレーシアの経済も米中貿易戦争の影響を受けていたり、外国人労働者の増加で自国民の給料が上がりにくくなっていたり、様々なマイナス要因を抱えた中で健闘しているほうだと言える。消費税廃止に個人消費を増やす効果があるのは明らかで、マレーシアにできたことが日本にできないはずもないだろう。

 

 

外国人労働者とインバウンドに依存しない経済を目指すべき

 更に、れいわ新選組は現在8つの緊急政策を掲げているが、それに「移民受け入れ反対」を付け加えるべきだと思う。在留外国人数は2012年12月の203.4万人から2019年6月の282.9万人まで安倍政権の6年半で79.5万人も増加し、外国人労働者数は2012年の68.2万人から2019年の165.9万人まで7年間で97.7万人も増加している(図16を参照)。

 その影響もあって、1993年の29万8646人から2014年の5万9061人へと減少していた不法残留者数は2019年に7万9013人まで増加してしまった。技能実習生の失踪者数も2014年の4847人から2018年の9052人まで増加している。しかし、与党も野党もこの状況を全く憂慮せず、れいわ新選組も政府の移民受け入れ政策に対してまだまだ批判が弱いと感じる。

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 2019年12月2日に和歌山市で行われた街頭演説で19歳の若者から「外国人の生活保護を廃止したり、国費留学生制度の予算を日本人に回したりすれば国民の生活はもっと豊かになるのではないか」と質問された際に、山本氏は「日本人か外国人か国籍でわけて支援を行うかどうかを判断するのは危険なことだと思う」と回答した。こうした答え方も間違ってはいないが、外国人で生活保護を利用する方がいるのは企業が技能実習制度を悪用して低賃金で外国人労働者を雇っている実態があるからだろう。

 外国人の生活保護利用者を減らしたいのであれば、政府の移民受け入れ政策を制限して技能実習制度を廃止し、2019年の時点で166万人もいる外国人労働者数を20~30万人程度まで縮小すべきではないだろうか。

 

 また、安倍政権が外国人ビザを大幅に緩和してきた影響で、訪日外国人数も2012年の835.8万人から2019年の3188.2万人まで7年間で2300万人以上も増加し、そのうち中国人観光客が959.4万人と全体の約3割を占めている。図17では2003~2019年の中国人観光客の推移を示した。

 訪日外国人の増加は一見良いことのように感じるが、逆に海外へ出国する日本人の数は2012年の1849.1万人から2019年の2008.1万人まで7年間で159万人しか増加しておらず、長引くデフレ不況による日本人の旅行離れを尻目に政府は外国人観光客を呼び込んで日本国内の消費を回復させようと必死になっているのだ。

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 その上、政府があまりにもインバウンド(外国人観光客による日本国内での消費)に依存すると国際情勢に振り回されることにもなりかねない。2020年に入ってからは中国で新型コロナウイルスの流行が拡大し、1月31日の時点で感染者数は1万1859人、死者数は259人にものぼってしまった。日本国内でも感染者数は20人に増加していて、今後もこの数は増えていく可能性が高いだろう。

 中国政府は同月27日から国民の海外旅行を禁止し、日本でも新型コロナウイルスの感染者を入国拒否することを発表したが、インバウンドに依存した経済への影響を懸念して中国人の入国禁止まで踏み込むのに躊躇している。

 

 そのため、れいわ新選組衆院選に向けて消費税廃止で日本国民の消費を喚起させることに加え、外国人ビザの規制を強化して「インバウンドに依存しない経済」を目指すよう改めて政策を発表すべきではないだろうか。

 例えば、消費税を導入する以前の1980年代は訪日外国人数が300万人未満だったにも関わらず、1980~1989年の名目GDP成長率(平成2年基準)の平均は6.1%と、2010~2018年平均(平成23年基準)の1.2%より約5倍も高かった。インバウンドとして無理に外国人観光客を呼び込まなくても消費税廃止と財政出動で経済成長は可能なのだ。

 

 2020年2月上旬現在、衆議院の解散風は吹いていないが、安倍政権は野党がまとまっていないうちに解散総選挙を狙っていることは確実である。次の衆院選ではさすがにれいわ新選組が単独で政権交代を起こすことは難しいので、まずは20議席以上獲得するのを目指して自民党幹部に「消費税を5%に戻さないと政権を失う恐れがある」と危機感を抱かせることを目標にすべきではないだろうか。

 れいわ新選組は国民の生活を底上げするだけでなく、反グローバリズムの政策を掲げて戦後の一億総中流社会を取り戻す保守左派の政党を目指してほしい。

 

 

<参考資料>

山本太郎 「『政界の風雲児』本気の政策論文 『消費税ゼロ』で日本は甦る」(文藝春秋、2020年2月号)

 

2019年参議院比例代表:れいわ新選組得票率

https://todo-ran.com/t/kiji/24044

自由民主党得票率(直近10年平均)

https://todo-ran.com/t/kiji/18427

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

一般会計税収、歳出総額及び公債発行額の推移

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/003.pdf

令和元年6月末現在における在留外国人数について

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00083.html

「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09109.html

本邦における不法残留者数について(令和元年7月1日現在)

http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri04_00084.html

失踪技能実習生数(49ページを参照)

http://www.moj.go.jp/content/001290906.pdf

山本太郎 街頭記者会見 和歌山市 2019年12月2日(32:31~)

https://www.youtube.com/watch?v=uwSmRZkU2Ug

国籍/月別 訪日外客数(2003年~2019年)

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_visitor_arrivals.pdf

2019年の日本人出国者数総計、初の2000万人突破

https://www.travelvoice.jp/20200117-144729

2019年-2020年中国武漢における肺炎の流行

https://ja.wikipedia.org/wiki/2019%E5%B9%B4-2020%E5%B9%B4%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E6%AD%A6%E6%BC%A2%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E8%82%BA%E7%82%8E%E3%81%AE%E6%B5%81%E8%A1%8C

消費税を廃止するためには経済成長の大切さを認識しよう

人口が減少している国でも経済成長は可能

 日本の消費税は1989年4月に税率3%で導入され、1997年4月に5%、2014年4月に8%、2019年10月に10%へと引き上げられ、増税するたびに景気を悪化させている。2019年10月の「実質家計消費」は前年比マイナス5.1%と、消費税が8%に増税された2014年4月の前年比マイナス4.6%よりも悪化し、中小企業の景況感を表す「中小企業DI」も2019年10~12月期はマイナス21.1と、マイナス20を下回ったのは8%増税時の2014年4~6月期以来(マイナス23.2)のことである。

 また、2019年11月には「景気動向指数(先行指数)」が90.9とリーマンショック真っ只中だった2009年11月の90.5に匹敵するほどまで落ち込んでしまった。

 

 しかし、日本では消費税の廃止を求めるデモがほとんど起こっておらず、香港やフランスのような反政府運動に発展する気配が全く感じられない。その理由は政治に無関心な人が多いだけでなく、「日本のような人口が減少する国ではもう経済成長できない」という勘違いが国民の間で広く共有されているからではないだろうか。

 例えば、財務官僚の森信茂樹氏は著書『消費税、常識のウソ』(朝日新聞出版、2012年)の中で「経済の成長は、基本的に労働人口の増加と生産性の向上によるものです。したがって、人口減少=経済成長の減速です。成熟した我が国の経済を考える場合、名目成長で4~5%を想定することはないものねだりと言えましょう」と述べている。

 こうした人口減少衰退論は森信氏だけでなく、私が様々な方と政治の話をしていて消費税増税の反対派でも「日本は人口が減少しているからもう経済成長できないよね」と言う人が多いように思う。

 

 だが、世界では日本より人口が減少している国はいくらでも存在し、1998~2018年の人口増加率はリトアニアがマイナス20.8%、ラトビアがマイナス20.2%、ウクライナがマイナス15.2%、ブルガリアがマイナス13.7%、ルーマニアがマイナス13.5%、ジョージアがマイナス13.1%、クロアチアがマイナス9.1%、アルバニアがマイナス8.3%、ベラルーシがマイナス5.6%、エストニアがマイナス5.0%なのに対し、日本はプラス0.1%とほとんど横ばいになっている(図11を参照)。

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 その一方で、1998~2018年の名目GDPの伸び率はウクライナが3354%、ルーマニアが2501%、ジョージアが818%、エストニアが512%、ラトビアが490%、ブルガリアが463%、アルバニアが423%、リトアニアが346%、クロアチアが236%と大なり小なり差があるものの、日本の104%よりもはるかに経済成長していることがわかる。

 更に、1998~2018年の政府総支出の伸び率はウクライナが3775%、ルーマニアが2321%、ジョージアが1238%、エストニアが510%、ラトビアが498%、ブルガリアが466%、アルバニアが336%、リトアニアが313%、クロアチアが224%なのに対し、日本は98%である(図12を参照)。

 ベラルーシは2001年以降のデータしか公表されていないが、それでも2001~2018年の名目GDPの伸び率は7068%、政府総支出の伸び率は6073%となっている。

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 諸外国と比べて日本だけが経済成長できないのは人口が減少しているからではなく、政府の公共投資を削減してきたからだということは「増税賛成派の井手英策氏に反論する(前編)」の中でも指摘したが、その他にも消費税が日本経済を蝕んでいるという現実があるのではないだろうか。

 過去60年間のGDPを見ると、昭和後期の1959~1988年では名目GDP成長率の平均が12.5%、実質GDP成長率の平均が6.8%と高かったのに対し、平成の1989~2018年では名目GDP成長率の平均が1.0%、実質GDP成長率の平均が1.2%と大幅に下落している。つまり、物品税の時代と比べて消費税を導入してからの30年間は名目では10分の1以下、実質では5分の1以下しか成長していないのだ(図13を参照)。

 「人口が減少する国ではもう経済成長できない」という通説は、「消費税のせいで日本は経済成長できない」という現実から目を逸らすために唱えられている部分もあるだろう。

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経済成長が人々の心を豊かにしている

 また、昔から言われている通説に、「物質的な豊かさを追求すると人々の心が貧しくなる」というものがある。

 古くは1970年代に論争を巻き起こし、大平内閣(1978~1980年)の「一般消費税構想」にも寄与した保守派知識人の集まりであるグループ一九八四年が、著書『日本の自殺』(PHP研究所、1976年)の中で「戦後日本の繁栄は、他方で人々の欲求不満とストレスを増大させ、日本人の精神状態を非常に不安定で無気力、無感動、無責任なものに変質させてしまった」と発言している。

 それから30年が経って、安倍首相も第一次政権のときに出版した著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で、「戦後の日本は経済を優先させることで、物質的に大きなものを得たが精神的には失ったものも大きかったのではないか」「自主憲法を制定しなかったことで損得が価値判断の重要な基準となり、家族の絆や生まれ育った地域への愛着、国に対する想いが軽視されるようになってしまった」と述べている。

 

 しかし、実際に戦後の名目GDPは1955年の8.4兆円(平成2年基準)から2018年の513.9兆円(平成17年基準)まで60倍以上も増加したのに対し、他殺による死亡者数は1955年の2119人から2018年の272人まで減少している。つまり、戦後の経済成長は殺人事件の件数を減らし、人々の心を豊かにしたというのが事実なのだ(図14を参照)。

 最近では、「家族間殺人が増加している」という報道をよく目にするが、増えているのはあくまでも殺人事件全体に占める割合であって、未遂を含めた家族間殺人の件数は2008年の558件から2018年の418件まで減少しているのである。

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 更に、作家の曽野綾子氏は自伝本『この世に恋して』(ワック、2012年)の中で「今、日本人はお坊ちゃま、お嬢ちゃまの集団になっています。貧困の中で生きるアフリカの人々のほうが、物質的に恵まれた社会に暮らす私たちよりも人間として豊かなのかもしれません」と経済成長を真っ向から否定した主張をしている。

 彼女は2013年に安倍政権が発足した教育再生実行会議の有識者メンバーに選任されたことから、2018年度から始まった道徳の教科化に関しても「今の子供たちは物質的に豊かになって甘やかされているから道徳教育の強化が必要」という俗流若者論が背景に存在することは確実だろう。

 

 だが、2019年に国連が発表した世界の幸福度ランキングを見ると1~5位はフィンランドデンマークノルウェーアイスランド、オランダと福祉や教育が充実している欧州の国々が上位に並び、6位のスイスも一人当たりの名目GDPランキングがルクセンブルクに次いで第2位だ。7~10位のスウェーデンニュージーランド、カナダ、オーストリアも1998~2018年の20年間で名目GDPが2倍近く成長している国々である(表1を参照)。

 その一方で、ランキング下位には南スーダン中央アフリカ共和国アフガニスタンなど物質的に貧しく戦争や紛争が絶えない発展途上国が並んでいて、「アフリカの国々のほうが人間として豊か」という曽野綾子氏の主張は全くのデタラメだろう。ちなみに、日本の幸福度ランキングは58位と高くないが、これも1998年から20年以上デフレ不況が続いて経済成長していないことが原因だと考えられる。

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 しかし、一体どれほどの日本人が「戦後の経済成長によって人々の心が豊かになり、治安も大幅に改善した」という事実を共有しているだろうか。例えば、2017年2月にSF作家の山本弘氏が大阪府箕面市の中学生に実施したアンケート調査では『50年前に比べて、日本の少年犯罪は大幅に増えている』という質問に「信じている」「やや信じている」と回答した生徒は合わせて57.4%にものぼったのに対し、「信じない」「やや疑っている」と回答した生徒は合わせて10.1%しかいなかったという。

 実際に、未成年の検挙人数は1983年の26万1634人から2018年の3万458人(少年人口比では10万人当たり1413.5人から269.6人)まで減少したにも関わらず、長年マスコミが「日本の治安は悪化している」というデマを流し続けている影響で、少年犯罪が凶悪化していると勘違いする中学生が多いのかもしれない。

 

 この誤解を解くためには、中学や高校の授業で前述の図14のグラフを提示して「経済成長が人々の心を豊かにしている」という事実を教えるべきではないだろうか。学校教育では常に政治的中立性が議論の対象となっているが、日本の治安が大幅に改善したという事実を教えることに全く問題はないだろう。消費税を廃止する世論を盛り上げるためには、経済成長の大切さを国民に広く共有してもらう必要があると言える。

 

 

<参考資料>

アベ・ショックが始まった(前編)

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12555242525.html

中小企業庁 中小企業景況調査報告書

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keikyo/index.htm

統計表一覧 景気動向指数 結果

https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/di.html

図録 他殺による死亡者数の推移

https://honkawa2.sakura.ne.jp/2776.html

平成30年の刑法犯に関する統計資料

https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/H30/h30keihouhantoukeisiryou.pdf

世界幸福度ランキング2019

https://yorozu-do.com/happiness-ranking/

中学生の6割は「月は西からのぼる」と信じている。(2)

http://hirorin.otaden.jp/e439925.html

犯罪白書 令和元年版 少年による刑法犯

http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/66/nfm/n66_2_2_2_1_1.html