消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

日本でタブー視されている男性の貧困問題

子育て世代の所得を増やして少子化を改善すべき

 今の日本で疑問に思うのは、「男性の貧困」の問題がタブー視されていないかということである。本を探してみても「女性の貧困」について取り扱った内容は数多くあるが、「男性の貧困」について取り扱った内容はほとんど存在しないように思う。

 しかし、安倍政権が自画自賛する2012~2018年の就業者数の増加についても、その内訳を見ると女性が288万人も増加したのに対し、男性は95万人程度(女性の33%)の増加に留まっている。男性は女性ほど雇用改善の恩恵を受けていないのだ。

 

 この他にも、近年では大卒の就職率が回復する傾向にあるが、それと同時に企業が新卒採用でコミュニケーション能力を異常なまでに求めるようにもなっている。

 経団連の『新卒採用に関するアンケート調査』によれば、採用選考時に「コミュニケーション能力を重視する」と答えた企業の割合は2001年の50.3%から2018年の82.4%まで増加した。企業がコミュニケーション能力に偏重した採用活動を行っているのは、2000年代以降にインターネットの普及で誰でも簡単に不祥事の告発が可能になり、企業がかつてないほど組織のコンプライアンスを重視するようになったからである。

 ちなみに、マイナビが2016年に行った調査で、自分のことをコミュ障(コミュニケーション障害)だと思う男子大学生は54.3%にものぼっている。筆者のように最初から他者とのコミュニケーションが苦手な男性は、どれだけ就職率が改善してもその恩恵を受けられないのが現実なのだ。

 

 また、この20年間で子育て世代の男性が貧困化している問題も存在する。民間給与実態統計調査によれば、35~39歳男性の平均年収は1997年の589.1万円から2017年の517.3万円まで71.8万円(1997年比で12.2%)も減少し、40~44歳男性の平均年収は1997年の644.7万円から2017年の569.2万円まで75.5万円(1997年比で11.7%)も減少している。

 この間、食料を含めた総合物価指数はデフレと言われながらも1997年以降、ほとんど横ばいの状態を続けている。特に、35~39歳男性の平均年収は2014年からやや上昇しているが、それも消費税増税による物価上昇に相殺されてしまった(図93を参照)。

 

 1997~2017年の20年間で子育て世代の男性の収入がこれだけ落ち込んだのは、橋本政権以降の緊縮財政によって給与が下落するデフレ不況が長期化していることが原因だろう。男性の平均初婚年齢(2017年)は31.1歳なので、35~44歳はちょうど小中学生の子供がいる世代になる。日本は戦後長らくの間、夫が妻子を養う家族モデルを築いてきたので、子育て世代の男性の貧困化はもっと社会問題の一つとして議論しても良いように思う。

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 収入が増えないデフレ不況は世代間格差までも広げている。例えばバブル期以前の1982年に大卒で入社した1959年度生まれの男性と、1987年に大卒で入社した1964年度生まれの男性は22歳から42歳までの20年間で年収が2.5~2.8倍も増加していた。この世代であればまだ「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という高度経済成長期の家族モデルを形成することができたかもしれない。

 それに対し、バブル崩壊後の1992年に大卒で入社した1969年度生まれの男性と、1997年に大卒で入社した1974年度生まれの男性は22歳から42歳までの20年間で年収が1.8~1.9倍程度しか増加していない。この世代に入ると運良く高収入になれた男性を除いて、夫の所得だけで妻子を養うことは非常に難しいと言えるだろう(図94を参照)。

 その影響もあって、50歳までに一度も結婚したことのない人の割合を示す生涯未婚率(男性)は、1990年の5.57%から2015年の23.37%まで上昇している。バブルの頃だと50歳男性は20人に1人しか未婚者がいなかったのに対し、現在では50歳男性の4人に1人が結婚できない時代になっているのだ。

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 図95を見ると過去60年間(1958~2018年)の「名目GDP成長率と出生数の推移」も強い相関関係が見られ、日本で少子化が進んだのは富裕層減税や国営企業の民営化、消費税導入、労働者派遣法の施行など中曽根政権以降の小さな政府というデフレ促進策によって名目GDP成長率が下がり、子育て世代の収入が減少したからではないだろうか。

 1980年代はまだインフレの時代だったので小さな政府を進めても経済に悪影響を与えることは少なかったが、1990年代のバブル崩壊後にデフレ不況が深刻化する中で消費税増税や歳出削減を断行してしまったのは問題だった。

 

 今回の消費税10%増税で安倍政権は幼稚園、保育所認定こども園を利用する3歳から5歳児クラスの子供たちの利用料を無償化するなど小手先の対策を取ったが、こうした幼児教育の無償化は消費税を引き上げなくても富裕層増税国債発行で実現可能だろう。

 今では子育てにお金が掛かるだけでなく結婚式もビジネス化しており、挙式・披露宴の費用は全国平均で357.5万円にものぼっていて、これは35~39歳男性の平均年収の約7割に相当する。2015年の出生動向基本調査によれば、「1年以内に結婚することになった場合、何か障害になることがあるか」という質問に男性回答者の68.3%が「障害がある」と回答し、そのうち43.3%が「結婚資金」を理由に挙げている。

 

 政府が本当に少子化を改善させたいのであれば、むしろ消費税を廃止して個人消費による需要を創出し、子育て世代の所得を増やして年間の名目GDP成長率が5%を超えるような経済状況を続けるべきではないだろうか。日本が1970~80年代のような安定的に経済成長していた時代に戻れば、生涯未婚率が低下して出生数も増加すると考えられる。

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年収100万円以下の男性貧困層が増加した理由

 更に、子育て世代だけでなく高齢男性の貧困も深刻な問題だ。前述の民間給与実態統計調査によれば、年収100万円以下で働く男性貧困層は2018年に過去40年間で最多の97万1000人にのぼっている(図96を参照)。女性の年収100万円以下が2016年の330.9万人から2018年の312.7万人へとやや減少しているのに対し、男性の年収100万円以下は昨年に引き続き過去40年間で最多を更新していて低所得者の増加がより深刻になっていることがわかる。

 男性貧困層の年齢分布は公表されていないため、筆者は当初年収100万円以下の増加について子育て世代の男性の貧困化が原因だと考えていた。だが、2012~2018年にかけて25歳から64歳までの男性の就業者数は合計で98万人減少しているのに対し、65歳以上の男性は147万人も増加している(図97を参照)。つまり、男性貧困層が急速に増加しつつある背景には低賃金で働かされている高齢男性の実態が存在するようだ。

 

 ちなみに、15~19歳男性は12万人増加、20~24歳男性は34万人増加しているが、この世代だとまだ親と同居している人も多く、一人暮らしの大学生でも親からの仕送りを貰っている割合は70.3%である。それに対し、単身高齢者は子供に負担をかけたくないという理由で仕送りを断っている人が多く、子供からの仕送りを貰っている人は1.4%程度に過ぎない。高齢者が年金だけで生活できず家族からの支援も受けられない場合、生活保護を利用するか働かざるを得ないだろう。

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 特に単身の高齢男性は女性よりも孤立しやすい傾向にあり、2015年の高齢社会白書によれば「一緒にいてほっとする人がいない」は単身女性が27.2%なのに対し、男性は51.4%、「ちょっとした用事を頼める人がいない」は単身女性が11.8%なのに対し、男性は32.2%、「看護や世話を頼みたい相手がいない」は単身女性が21.5%なのに対し、男性は35.0%にものぼっている。

 現在どの程度幸せと感じるかを「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として『8点以上』と答えた割合も、単身女性が43.6%にのぼっていたのに対し、男性は22.7%と女性の約半分となっている。高度経済成長期からバブル期にかけて長時間労働にもめげず、一生懸命に家族や社会を支えてきた男性高齢者の老後には寂しい風が吹いているようだ。

 私がツイッターで安倍政権の熱烈な支持者に年収100万円以下で働く男性貧困層が増加していることについてどう思うか聞いてみたところ、「アベノミクスが成果を上げて、高齢者が定年後に仕事を得やすくなったから年収100万円以下が増えた」と反論してきた。しかし、老骨にムチ打って低賃金で働く高齢者が増加した状況をアベノミクスの成果だと言って良いのだろうか。

 

 この他にも、年収100万円以下で働く男性貧困層が増加した理由について小泉政権以降の自民党が進めてきた公共事業の削減があるように思う。

 例えば、『「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待』でも述べた通り、1998年の小渕政権は国債発行を財源に公共事業関係費を過去最高の14.9兆円まで増やして、年収100万円以下の男性貧困層を1998年の66万9019人から2000年の49万9517人まで減らしたが、図96を見るとその後は公共事業を削減して男性貧困層が増加していることがわかる。労働力調査によれば建設業で働く従業員は1950年代以降、一貫して8割以上が男性なので政府の公共事業関係費が男性の所得にも影響しやすいのだろう。

 

 また、近年では建設業の人手不足と高齢化が社会問題の一つにもなっている。2012年の時点で全産業の55歳以上の労働者の割合は28.7%なのに対し、建設業は33.6%にものぼっている。逆に29歳以下の労働者の割合は全産業が16.6%なのに対し、建設業は11.1%に低下している(画像を参照)。

 この状況を鑑みて安倍政権は2013年から公共工事の設計労務単価を引き上げたが、2018年度の公共事業関係費は7.6兆円と1998年度の51%程度に過ぎず、人手不足の解消にはつながっていない。建設業の許可業者数も1999年度の60万980社から2018年度の46万8311社まで減少している。

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 その影響もあって日本は世界有数の自然災害大国であるにも関わらず、災害が発生した際の復旧・復興に遅れが生じている。2011年の東日本大震災だけでなく、今年発生した台風15号台風19号でも関東を中心に停電や断水が相次いだ。2012~2018年の6年間で男性の就業者数は3622万人から3717万人まで95万人増加したのに対し、建設業は433万人から421万人へと12万人減少し、電気・ガス・熱供給・水道業も28万人から24万人へと4万人減少していて、建設業や水道業の人手不足がライフラインの復旧に遅れが生じる原因にもなっている。

 

 建設業の人手不足を解消するためには公共工事の設計労務単価を増やすだけでなく、れいわ新選組が提言しているように政府が補償して最低賃金を1500円まで引き上げる必要があるのではないだろうか。実際に建設業ではないが、ファッション通販のZOZOが今年5月に時給1300円のアルバイトを募集したところ、たった1日で2000人を超える応募者が殺到したという。

 やはり今の日本で問題になっている人手不足は、少子化や人口減少によるものではなく「賃金不足」こそが最大の原因だと考えて良いだろう。早期の災害復興を果たすためにも年収100万円以下の男性貧困層を減らすためにも、公共事業の拡大と建設業の賃金引き上げは急務である。

 

 

<参考資料>

齊藤祐作 『発達障害者の才能をつぶすな!』(幻冬舎、2016年)

雨宮紫苑 『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮社、2018年)

藤田孝典 『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新聞出版、2016年)

三橋貴明 『移民亡国論 日本人のための日本国が消える』(徳間書店、2014年)

 

2018年度 新卒採用に関するアンケート調査結果

https://www.keidanren.or.jp/policy/2018/110.pdf

自分のことを「コミュ障」だと自覚している男子大学生は約5割

https://www.excite.co.jp/news/article/Mycom_freshers__gmd_articles_44447/

人口動態調査 - e-Stat 政府統計の総合窓口

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00450011&tstat=000001028897

自由?それとも寂しそう?データから見えてきた「生涯独身」のリアル

https://www.axa.co.jp/100-year-life/health/20190522/

幼児教育・保育の無償化 子ども・子育て本部

https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/musyouka/index.html

結婚費用の項目と相場 親ごころゼクシィ

https://zexy.net/contents/oya/money/kiso.html

第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)

http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/report15html/NFS15R_html02.html

平成30年分 民間給与実態統計調査

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2018/pdf/001.pdf

大学生アルバイトの金銭感覚調査

https://resemom.jp/article/2017/08/16/39850.html

親への仕送りの平均額は?親の老後資金について考える

https://fp-moneydoctor.com/news/knowledge/remittance_to_the_parent/

平成27年高齢社会白書(全体版)

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2015/html/zenbun/index.html

当面の建設人材不足対策 厚生労働省

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000035515-att/2r9852000003554q.pdf

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/page/content/001304347.pdf

建設業許可業者数調査の結果について

https://www.mlit.go.jp/common/001288296.pdf

ZOZO「時給1300円」バイトに応募殺到 3日で募集終了

https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1905/15/news059.html