消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

日本の自己責任論をどう向き合うべきか?

著名人と政府与党の支持者が拡散させる自己責任論

 ベネッセと朝日新聞が4~5年に一度実施している「学校教育に対する保護者の意識調査」によれば、豊かな家庭の子供ほどより良い教育を受けられる傾向があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した小中学生の保護者が2008年の43.9%から2018年の62.3%まで増加した(画像を参照)。

 『社会保障の充実を阻む「自己責任論」』でも述べた通り、日本はもともと先進国の中で最も貧困問題に対して自己責任論が強く、2007年に行われた国際調査でも「政府が自力で生活できない人を助けてあげるべきか?」の質問で、「全くそう思う」と回答した人はたったの15%と47カ国の中で最も少なかったが、その傾向がこの10年間だけでも更に強まっているようだ。

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 それを象徴するかのように、著名人が自己責任論を思わせるような発言を行った場合におけるインターネット上の反応もこの10年間で変化してきた。例えば2006~07年なら人材派遣会社ザ・アール奥谷禮子氏が過労死について「自己管理の問題。他人の責任にするのは問題」「労働組合が労働者を甘やかしている」と発言したことに対し、Yahoo!知恵袋では「ザ・アールの女社長って悪魔ですか?人類の敵ですか?」といった批判の書き込みも多く見られた。

 その一方で、2016年にはフリーアナウンサーの長谷川豊氏がブログで「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」と暴言を吐いた際に、内容は賛否両論になったがコメント欄では「よくぞ言ってくれました」「透析患者は本当に自業自得です」と彼を擁護する書き込みが多かった。

 過労死を自己責任扱いした奥谷氏の発言も決して擁護できないが、「殺せ」などの言葉を使っている以上、長谷川氏の暴言のほうがもっと許しがたい内容なのは言うまでもない。それでも2006年の奥谷氏が批判され、2016年の長谷川氏に同情が集まった背景には近年の自己責任論の高まりが存在するのではないだろうか。

 

 また、2018年には長谷川氏に触発されたのか、ツイッターで落語家の桂春蝶氏が「世界中が憧れるこの日本で貧困問題などを宣う方々は余程強欲か、世の中にウケたいだけ。この国での貧困は絶対的に自分のせいなのだ」と言ったり、高須クリニック院長の高須克弥氏が「甘ったれるな若者!年寄りは君たちくらいの年齢のときはモーレツに働いたんだよ。働きながら君たちを育てたのだ」と言ったり、ZOZOの田端信太郎氏が「過労死には本人の責任もある。なぜならば物理的な拘束はなく、使用者側に殺意もないから。使用者の過失責任はあるかもしれないが、本人の責任もゼロではないというのが私の見解です」と言うなど、自己責任論や若者バッシングを思わせる著名人の発言が相次いだ。

 

 更に、『新・日本の階級社会』などの著書がある橋本健二氏が2016年に行った調査によれば、「貧困になったのは努力しなかったからだ」と「努力しさえすれば、誰でも豊かになることができる」という設問に「そう思う」と回答した人を支持政党別に見ると、民進党が20.5%、公明党が21.5%、共産党が15.2%、支持政党なしが20.3%なのに対し、自民党が34.1%と政権与党の支持者ほど自己責任論に肯定的な傾向が見られた(図70を参照)。

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 自民党も表向きでは「消費税を増税して社会保障を充実させる」と言っているが、残念ながら安倍政権の支持者が国内の経済格差や社会保障の問題に関心を持っている可能性は低いだろう。例えば、国税庁民間給与実態統計調査では2017年に年収100万円以下で働く男性貧困層の数が過去40年間で最多の94.9万人となっており、1984年の49.8万人から約1.9倍も増加しているが、この事実をアベノミクスの成果ばかり強調する安倍信者に指摘すると、必ず「給料が上がらないのは努力が足りないからだ」といった反論が返ってくる。

 彼らは小泉政権以降の自民党が公共事業の削減や労働規制の緩和を進めて子育て世代の男性を貧困化させてきた現実を認めたくないからこそ、経済格差を個人の問題にして自己責任論で片付けようとするのではないだろうか。

 

 その他にも、昨年10月にシリアで拘束されていた安田純平氏が解放されたとき、安倍政権の熱烈な支持者たちがツイッターなどで自己責任論を振りかざして彼を誹謗中傷する書き込みで溢れた。

 安倍信者によるジャーナリストへの誹謗中傷は安田氏だけでなく、ISIL(過激派組織イスラム国)に殺害された後藤健二氏についても在日認定し、元航空幕僚長田母神俊雄氏は「イスラム国に拉致されている後藤さんとその母親の石堂順子さんは姓が違いますが、どうなっているのでしょうか。ネットでは在日の方で通名を使っているからだという情報が流れていますが、真偽のほどはわかりません。マスコミにも後藤健二さんの経歴などを調べてほしいと思います」と暴言を吐いていた。

 しかし、後藤氏は映像の中で日本のパスポートを提示していたため、田母神氏が安倍信者のデマを鵜呑みにしたに過ぎないのである。

 

 自己責任社会のイメージが強いアメリカでも2014年にジャーナリスト2人がISILに殺害されたが、率先してリスクを負って取材に赴いた記者を賞賛する声が数多く上がり、アジアプレス・インターナショナル大阪事務所代表の石丸次郎氏が調べた限りでは2人を貶めたり、迷惑だと批判したりする意見は皆無であったという。アメリカは1970年代のベトナム戦争でジャーナリストが撮影した写真によって反戦世論を高めた歴史があり、紛争地に行って命懸けで情報を手に入れようとする戦場ジャーナリズムに対する国民の理解が深いのだろう。

 その一方で、日本では田母神氏のように自らネット上のデマを拡散し、自己責任論を煽る著名人が少なくないのは残念な限りである。

 

 

自己責任論の蔓延を食い止めるには政治教育が必要

 国民の間で自己責任論が幅広く蔓延している以上、自民党が本当に日本の社会保障を全世代型に変えたいのであれば、消費税を増税する前に教育を通して国民の社会保障に対する知識を高めていく必要があるだろう。しかし、安倍政権は中学生や高校生に政治教育を行うことに対して否定的だ。

 2015年6月には山口県の県立高校で、安全保障関連法案についてクラスを8つのグループにわけてそれぞれの主張をまとめ、グループごとの主張に対して高校生が賛否を投じるという実践が行われたが、この授業の取材記事を読んだ自民党県議会議員が「政治的中立性が問われる現場にふさわしいものか疑問を感じる。県教委としてどういう認識なのか」と抗議し、教育長が「法案への賛否を問う形になり、配慮が不足していた。指導が不十分だった」と謝罪している。

 選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられた裏側で、地方議会が政治的中立性を理由に高校の授業で時事問題を扱うことを制止していたのだ。

 

 それに対し、国税庁が全国の中学生と高校生を対象に毎年実施している「税の作文」では、『ヨーロッパと比べて日本の消費税はまだまだ安い』『高齢化が深刻な日本では消費税を上げないと財政が破綻する』など、明らかに財務省増税推進論をコピーしたような内容の作文ばかりが入賞する。

 ヨーロッパの消費税が高く感じるのは標準税率を比較しているからであって、食料品に軽減税率が適用されていない日本は「国税収入に占める消費税収の割合」が27.9%と、イギリスの25.8%、イタリアの27.3%と比べても変わらないし、政府資産(2017年度、670.5兆円)が名目GDP(547.4兆円)を超えている日本が財政危機というのは全くの嘘で、国債も9割以上が国内で消化されているので日銀が民間銀行の国債を買い取れば財政再建は進むのである。

 

 更に税の作文を読んでいると、『消費税を通して私たちも納税している』という明らかに不適切な表現が散見されることを疑問に思う。私たちが買い物をするとき、レジでお金を支払っているため、消費税を納めているのは消費者だと勘違いしている方も多いだろうが、実際に消費税を納める義務があるのは事業者で、レジで払っているのは事業者が販売価格に上乗せ(転嫁)したぶんの消費税額である。

 しかし、販売価格に上乗せされた消費税を、モノを買うときに消費者が負担するのは事業者が値引きしていない場合で、中小・零細企業の中には少しでも商品を安く売るために、消費税を価格に転嫁できないこともあり、結果的に自腹を切って納税する例が少なくない。その影響もあって消費税は国税の中で最も滞納額が大きく、2017年度に発生した消費税の滞納税額は3633億円と、国税全体の滞納額(6155億円)における59.0%を占めている(図71を参照)。

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 消費税は法人税所得税と違って、年間売上高が1000万円以上の場合、事業者が赤字でも納税しなければならず、滞納税額が減らないのはそれだけ消費税を納められない企業が多いからだろう。『消費税を通して私たちも納税している』という誤解を持つことは、逆に言えば「消費税を納められない事業者は自己責任」と偏見を助長することにもつながりかねない。

 こうした消費税の問題点を無視して一方的に増税賛成派の主張を子供に押し付ける「税の作文」は、それこそ政治的中立性に反する偏向教育だと言えるし、2018年度の20万通を超える応募の中で消費税増税に反対する内容の作品を掲載しないのは不当な差別である。10~20代の自民党支持率が高いのも、国税庁が税の作文を通して消費税増税に賛成する若者を増やしていることと無関係ではないのかもしれない。

 

 高負担・高福祉の国として有名なスウェーデンでは、小学校の社会科の教科書で貧困や格差の問題に焦点が当てられており、収入が低くて生活が苦しい家庭には生活保護が支払われることまで詳しく説明されている。その他にもデンマークでは、小学校から模擬選挙によって政治の理解を深め、近所に建設される道路に関して賛成か反対か議論する授業も行われるという。

 その影響もあって国政選挙の投票率スウェーデンが87.18%(2018年)、デンマークが85.80%(2015年)と日本の53.68%(2017年)よりもはるかに高いのである。スウェーデンデンマークが高福祉で成り立っているのは付加価値税が高いだけでなく、国民が常に政治や社会保障の問題に関心を向けていることも理由の一つとして挙げられるだろう。

 アメリカでも、4年に一回の大統領選の度に将来有権者となる子供や若者を対象にした「Mock election」「Kids Vote」と呼ばれる模擬選挙が行われ、民主主義が成熟した先進国では当たり前に政治教育が行われているのだ。

 

 そもそも政治教育の中立性を気にしている人々は、2018年度から教科化が始まった道徳教育に関しても「偏向」する可能性があると思わないのだろうか?例を挙げるとしたら、2000年代に話題となった「もったいない運動」だろう。

 もったいない運動は、2004年にノーベル平和賞を受賞したケニア環境保護活動家であるワンガリ・マータイ氏が日本語の「もったいない」という言葉を知って感銘を受けるエピソードから始まっているが、日本国民全員がもったいない精神を持って個人消費を減らしたらGDPの「民間最終消費支出」も減少して日本経済が疲弊してしまうことになる。

 また、2006年には滋賀県知事の嘉田由紀子氏がもったいない運動を用いて財政健全化を口実に東海道新幹線の新駅建設やダム建設の中止を進めたが、これもGDPの「公的固定資本形成」を減らして地方経済の衰退に拍車をかける結果となってしまう。道徳教育のメッセージが間違って子供たちに伝わらないようにするためにも、やはり政治教育と道徳教育は並行して実施する必要があるだろう。

 

 

<参考資料>

菊池英博 『そして、日本の富は略奪される』(ダイヤモンド社、2014年)

危険地報道を考えるジャーナリストの会・編 『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社、2015年)

林大介 『「18歳選挙権」で社会はどう変わるか』(集英社、2016年)

鈴木賢志 訳著 『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む』(新評論、2016年)

ケンジ・ステファン・スズキ 『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』(角川SSコミュニケーションズ、2010年)

 

学校教育に対する保護者の意識調査

https://berd.benesse.jp/up_images/research/Hogosya_2018_web_all.pdf

平成30年度「税に関する高校生の作文」

https://www.nta.go.jp/taxes/kids/sakubun/koko/h30/index.htm

財政金融統計月報第793号

https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g793/793.htm

平成29年度「国の財務書類」等を作成しました

https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2017/20190129houdouhappyou.html

平成29年度 国税徴収、国税滞納

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/chousyu2017/pdf/17-18_tainokanpu.pdf

2018年スウェーデン総選挙の結果は?

https://tatsumarutimes.com/archives/21651

デンマークの選挙での投票率について

https://www.sra-dk.com/voter-turnout-rate/

もったいない – Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84