消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

経済成長が人々の心を豊かにしている

名目GDPが増加して殺人件数が減った戦後日本

 昔から言われている通説に、「物質的な豊かさを追求すると人々の心が貧しくなる」というものがある。

 例えば、安倍首相は著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で、「戦後の日本は経済を優先させることで、物質的に大きなものを得たが精神的には失ったものも大きかったのではないか」「自主憲法を制定しなかったことで損得が価値判断の重要な基準となり、家族の絆や生まれ育った地域への愛着、国に対する想いが軽視されるようになってしまった」と述べている。

 

 しかし、実際のところ『消費税増税が少子高齢化を加速させる』でも指摘したように、日本人の国民性調査で「一番大切なものは家族」と答えた人の割合は1958年の12%から2013年の44%まで増加していて、家族の絆はむしろ深まっているのだ。

 また、社会意識に関する世論調査で「国を愛する気持ちの程度が他の人と比べて強い」と回答した割合は1977~2018年にかけて、ずっと40~50%台を維持していて現代の日本人が愛国心を軽視しているとは言い難い状況である。最近でも、人気フォークデュオ・ゆずの新曲『ガイコクジンノトモダチ』の歌詞内容が「愛国的」だとネット右翼から高い評価を受けたばかりだ。

 

 更に、戦後の殺人件数の推移を見ても1955年の2119人をピークに2015年の314人まで減少している。この間、名目GDP総額は1955年の8.3兆円(平成2年基準)から2015年の499.3兆円(平成17年基準)へと50倍以上も増加しており、経済成長は人々の心を豊かにしているというのが現実なのだ(図60を参照)。ちなみに、1998年以降に限れば名目GDP成長率が低迷したにも関わらず、奇跡的に殺人件数が減り続けている時代とも言える。

 最近では、「家族間殺人が増加している」という報道をよく目にするが、増えているのはあくまでも殺人事件全体に占める割合であって、未遂を含めた家族間殺人の件数は2008年の558件から2016年の440件まで減少しているのである。

f:id:anti-tax-increase:20180417110004p:plain

 

 

児童虐待増加の背景にある子育て世代の貧困化

 安倍首相と同様に憲法改正について極論を述べているのが日本会議と関わりが深い政治評論家の細川珠生氏だ。彼女は2016年3月にBLOGOSの記事で、90年代以降の児童虐待の増加について「憲法の行き過ぎた個人主義にその原因の一端がある」と現行憲法のせいにしているのである。

 しかし、児童虐待は戦前の大正時代や昭和初期から既に社会問題となっており、旧児童虐待防止法(1933年)が制定される3年前の1930年には内務省社会局が全国の被虐待児童について調査した結果を公表している。

 

 この調査によれば、昭和恐慌真っ只中の1929年に虐待を受けた児童(検挙された保護責任者の取り調べから判明した人数)は124人(14歳未満が74人、14~19歳が50人)で、曲馬や軽業など危険な諸芸に従事させられていた児童は392人(同170人、222人)、身体の障害などを見せ物にされていた児童は9人(同5人、4人)、芸者や酌婦など「特殊な業務」に従事させられていた児童は6607人(14歳未満のみ)、丁稚奉公など「報酬による養児」とされていた児童は5543人(14歳未満のみ)にものぼっている。

 戦後の日本をどうしても否定したい自称保守派は「今の児童虐待と内容が違う」「貧困社会の中でやむを得ない現象だった」などと言うだろうが、『経済を優先させることで精神的に失ったものも大きかった』という勘違いで、14歳未満の子供が働きに出ないといけないような貧しい時代の日本に戻したいのだろうか?

 

 また、厚労省が発表している「児童虐待相談対応件数の推移」を見ると、1992年度の1372件から2016年度の12万2578件まで増加しているが、この間、年収200万円以下で働く女性の数も550.8万人から833.9万人へと24年間で283.1万人増えている(図61を参照)。

 更に、男性の側も1997~2016年の19年間で子育て世代に当たる30代後半の平均年収が77.4万円、40代前半の平均年収が81.8万円減少しており、バブル崩壊後に女性の貧困が広がって夫が妻子を養える経済状況ではなくなったことが児童虐待増加の背景ではないだろうか。

f:id:anti-tax-increase:20180417111314p:plain

 

 

主要先進国で日本だけ賃金が上昇していない

 日本のデフレ不況が始まった元年と言われる1997年、中京大学名誉教授の水谷研治氏は同年12月号の文藝春秋で「日本の経済水準は異常に高い。財政赤字を削減するために消費税を20%まで増税して、国民一人ひとりが国の将来のために犠牲になる覚悟を持たなければならない」と緊縮財政を推進する記事を出した。

 実際に、当時の橋本政権は「財政赤字GDP比を毎年3%未満にする」「1998年度の公共投資について、1997年度当初予算における公共投資関係費の93%を上回らないようにする」という内容を盛り込んだ財政構造改革法を同年11月に成立させている。だがその後、日本経済は一体どうなっただろうか?

 

 図62を見ればわかる通りこの20年間、主要先進国の中で日本だけ労働者の賃金が上昇していない。カナダが1.32倍、イギリスが1.31倍、アメリカが1.28倍、フランスが1.24倍、ドイツが1.16倍も増加しているのに対し、日本は0.99倍とほぼ横ばいだ。

f:id:anti-tax-increase:20180417111641p:plain

 

 日本と他の先進国でこれだけ差がついたのは、やはり90年代後半以降の緊縮財政が原因ではないだろうか。欧米諸国ではこの20年間だけでも政府の公共投資を増やし続けた一方で、日本は公共事業削減の影響もあって0.47倍へと半減している(写真を参照)。

f:id:anti-tax-increase:20180417112335p:plain

 

 特に賃金の伸びが良いカナダでは1996~2010年に公共投資が3.27倍も増加したのに加え、付加価値税を2006~08年に7%から5%へと引き下げた。実際に、財政出動と消費税「減税」で国民所得が向上している国は存在するのだ。

 それに対し、日本では安倍政権が公共投資(公的固定資本形成、平成23年基準)を2013年10-12月期の27.1兆円から2017年10-12月期の26.2兆円まで削減し、森友・加計問題やデフレ逆戻りの影響で内閣支持率が30%を切っているにも関わらず、自民党内から「消費税10%への増税を中止しろ」という声すら上がってこない異常事態である。

 90年代のバブル崩壊以降に日本から失われたのは、家族の絆でも国に対する想いでもなく「経済成長が人々の心を豊かにする」という哲学ではないだろうか。

 

 

<参考資料>

大倉幸宏『「昔はよかった」と言うけれど 戦前のマナー・モラルから考える』(新評論、2013年)

水谷研治『大不況を覚悟せよ』(文芸春秋、1997年12月号)

 

社会意識に関する世論調査(平成30年2月調査)

https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-shakai/2-1.html

図録 他殺による死亡者数の推移

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2776.html

家族間殺人は上昇しているのか

http://blog.livedoor.jp/kudan9/archives/42617386.html

憲法に「家族条項」の創設を 最大の問題は、日本人の思考だ

http://blogos.com/article/166557/

平成28年児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000174478.pdf

日本を亡ぼした「財政構造改革法」

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12297956794.html

Earnings and wages Average wages OECD Data

https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm

公共投資水準の国際比較

https://www.sato-nobuaki.jp/report/2017/20170529-002.pdf