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消費税増税に反対するブログ

消費税の財源の8割以上が法人税減税に消えている!消費税10%への引き上げを中止しよう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

見直される新自由主義とグローバリズム

2016年、EUからの離脱を決めたイギリス

 イギリスでは、1997年に従来の福祉国家にも新自由主義にも寄らない「第三の道」を提唱した労働党のブレア政権が誕生した。労働党は「政府の医療費支出を1.5倍にして、国民皆保険を再構築する」と公約し、医療システムを立て直した結果、国民が安心して経済活動を行えるようになり、2000年代半ばまで失業率も改善していた。

 しかし、近年ではリーマンショックによる景気悪化に加え、保守党のキャメロン政権が付加価値税増税や福祉予算の削減、大学授業料の大幅値上げなど緊縮財政を断行した。その影響もあって、2015年9月に行われた労働党党首の後任を選ぶ選挙では、最左翼のジェレミー・コービン氏が約6割の支持を得て圧勝している。

 

 コービン党首は、国民のための量的金融緩和をはじめとして、鉄道の国有化や大学授業料の無償化、10ポンド(約1500円)の最低賃金など反緊縮的な政策を掲げており、ブレア元首相が「自分のハートはコービンの理念と共にあるという奴は心臓の移植手術を受けろ」と痛烈に非難していることから、コービン氏の政策が「第三の道」とは全く異なる新しいものだということがわかるだろう。

 

 また、2016年6月23日にはイギリスのEU(欧州連合)離脱を問う選挙で、離脱派投票率51.9%)が残留派(同48.1%)をおさえて勝利した。この結果を受けてキャメロン首相は辞任し、7月13日にメイ首相が就任した。

 イギリスは、国外からの移住者が1980年の17.3万人から2014年の63.2万人まで増加しており、移民に対する国民の不満がEUからの離脱を後押しする形になったのだろう(出典:イギリス統計局 Migration Statistics Quarterly Report May 2016)。

 

 EUの指令では、単一市場の中で加盟各国の競争条件を公平にしようと、付加価値税の標準税率を15%以上に定めている。軽減税率も5%以上とし、適用できる対象も食料品や医薬品、新聞や本など21項目に限定している。

 離脱派ボリス・ジョンソンロンドン市長国民投票のキャンペーンで「離脱すればEU指令が適用されず、イギリスからEUに毎年拠出しているお金を使って、ガス代や電気代にかかるVAT(付加価値税)を引き下げられる」と訴えた。イギリスは2008~09年に付加価値税を17.5%から15%に引き下げていたが、15%より低い税率に減税し、軽減税率の品目を増やすためにはEUから離脱する必要があるのだろう。

 

 更に、フランスで近年議席を増やしつつある右派政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首も、イギリスのEU離脱を「自由の勝利」だと歓迎し、フランスでも離脱の是非を問う国民投票を実施すべきだと主張した。イギリスのEU離脱は、1980年代から続いてきた新自由主義政策やグローバリズムに終止符を打つきっかけになるかもしれない。

 

 

大きな政府」と「小さな政府」が対立するアメリカ

 アメリカでは、1993年に誕生したクリントン大統領が同年8月に「包括予算調整法」を成立させ、所得税最高税率を31%から39.6%まで引き上げ、法人税最高税率を34%から35%に引き上げた。その他にも、高所得者のメディケア(医療費補助)部門に増税する一方で、低所得者を対象とした住宅税額控除を恒久化するなど、第二次世界大戦後のアメリカを繁栄させた福祉型資本主義の復活を目指したのである。

 こうしたクリントンの政策は新保守主義者(ネオコン)から社会主義的だと批判されていたが、冷戦の終結やITバブルが追い風となって、1998年には財政赤字を解消することができた。失業率も1992年の7.5%から2000年の4.0%まで改善している。

 

 しかし、共和党の子ブッシュ大統領が誕生した2001年には同時多発テロが発生し、クリントン時代に黒字を続けていた財政は2002年から再び赤字に陥った。ブッシュはアメリカが福祉型資本主義に戻ってきたことを嫌い、独自の「ブッシュ減税」を提案して、所得税最高税率を39.6%から35%に引き下げ、債券や株式などの取引で譲渡益が発生した場合に課せられるキャピタルゲイン税の減税を行った。

 その結果、住宅バブルに支えられた経済成長が続いて、2004年を底に赤字は解消していったが、2008年にはリーマンショックが発生し、財政赤字は1兆ドル(110兆円)を超えてしまった。失業率も2009年は9.3%、2010年は9.6%と1980年代前半の水準まで悪化している。

 

 2009年には民主党オバマ大統領が誕生し、2月にデフレ抑制策として「緊急補正予算7870億ドル(約87兆円)を2年間で支出する」という法案を議会に提出した。この法案が可決されて財政支出が行われると、2011年からようやく景気回復が始まり、失業率も8.9%から2016年の4.9%まで低下した。また、実現こそしていないものの、アメリカの経済格差を縮小するために富裕層に対する増税が検討されている。

 オバマ大統領は新自由主義に否定的な立場で、共和党議員から「法人税所得税を引き上げると成長が鈍化する」と批判が出た際に、「そうした主張はレーガン大統領の時代に失敗した考えであり、議論の余地はない」と反論していた。

 

 

トランプ、サンダース、ティーパーティーの台頭

 だが、2009年からオバマの福祉政策に反対するティーパーティー運動が台頭し、2010年の中間選挙で共和党が躍進する原動力にもなった。ティーパーティーは、米国の植民地時代にイギリスが課した茶への重税に抗議する人たちが、ボストン湾に紅茶箱を投げ捨てた事件を現代に当てはめた「大きな政府」に反対する運動で、あらゆる新税は悪税というアメリカ人の税金嫌いを象徴する団体とも言える。

 2016年の大統領選でティーパーティーは、共和党の上院議員テッド・クルーズ氏を支持した。クルーズ氏は、2013年9月にオバマケア(医療保険制度改革法)を含む暫定予算の成立を阻止するため、21時間以上にわたって演説を続けるという歴史的な議事妨害を行い、その後の米政府機関の閉鎖と債務上限問題で、共和党の評判を下げた最大の「功労者」として挙げられている(ニューズウィーク日本版、2013年10月22日号)。

 

 それに対し、2015年から同じく共和党の大統領候補に「イスラム教徒の入国を禁止する」「メキシコとの国境に『万里の長城』を建設する」など過激な発言で知られる不動産王のドナルド・トランプ氏が台頭してきた。

 トランプ氏は、法人税減税や所得税減税など従来の共和党と変わらない減税策を推進する一方で、アメリカ企業が工場を海外に移転した場合に、「その企業が米国に輸入する製品には国境で35%を課税する」と表明し、企業にアメリカ国内へ留まるよう貿易の保護主義を主張している。

 

 こうした強気な政策を打ち出せるのは、トランプ氏がアメリカの政治を動かす上位1%の富裕層から政治献金をほとんど受け取っておらず、彼のビジネスで得た収入で選挙活動を行っていたからだ。そのため、過激発言も相まってトランプ氏を支持しない著名人は多いが、政治に対する国民の不満を上手く吸い取っているとの声も大きい(表8を参照)。

 テッド・クルーズ氏は2016年4月下旬に、トランプ氏の指名獲得を阻止するため、オハイオ州知事のジョン・ケーシック氏と選挙協力を行ったが、共和党候補が束になってもトランプ氏の人気を抑えることはできなかった。政治献金をほとんど受け取っていないトランプ氏が、多額の政治献金を受け取っている他の共和党候補に勝ったのである。

 

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 また、民主党の大統領候補でもトランプ氏と同様に、上位1%の富裕層から政治献金を受け取っていないバーニー・サンダース氏が大きな注目を集めた。サンダース氏は、貧富の格差を解消するために、富裕層と大企業への課税強化、連邦最低賃金を15ドル(約1650円)に引き上げ、公的医療保険による国民皆保険制度の導入、公立大学の授業料無償化など、福祉や教育を重視する政策を掲げており、主に若者から人気が高いとされている。

 2016年7月にはクリントン元大統領の妻であるヒラリー・クリントン氏が民主党候補に選ばれたが、サンダース氏の支持者は「ヒラリーよりトランプのほうがマシ」という人も多く、今回の大統領選では反主流派が支持されたようだ。

 

 

世界が衝撃を受けたトランプ大統領の誕生

 オバマ大統領の「富裕税構想」を引き継ぐ民主党クリントン氏と、レーガン大統領以来の大減税を計画する共和党のトランプ氏では経済政策に違いがはっきりしているが、一つだけ決定的な共通点も存在した。それは、TPPに関して明確に反対していたということだ。クリントン氏は、もともと2009~13年の国務長官時代にTPPの旗振り役を務めていたが、2015年7月に経済政策を発表した際には「雇用や賃上げに繋がるなら支持すべきだが、そうでなければ撤回も覚悟すべきだ」と慎重な表現に終始していた。

 更に、トランプ氏はクリントン氏以上の強硬なTPP反対派で「特別な利害関係をもつ奴らが、アメリカをレイプするためにこの協定を結ぼうとしてきた」「自動車産業でどれだけの雇用が失われるだろうか。破滅的だ」などと過激な物言いで批判している。トランプ氏は、NAFTA北米自由貿易協定)にも反対の立場で、アメリカの失業者増加に繋がっているとして交渉から脱退する意向を示した。

 

 2016年11月8日に実施された大統領選では、最終的に306名の選挙人を獲得した共和党のトランプ氏が勝利した。日本では安倍首相がTPPへの参加を「成長戦略の一つ」と位置づけているが、保護貿易を主張するトランプ氏が大統領に選ばれたことで、アメリカはTPP交渉から離脱する可能性が高くなってきた。

 経団連の米倉名誉会長は2010年10月に「日本はTPPに参加しないと世界の孤児になる」と発言していたが、これでは逆に日本はTPPへの参加によって世界の孤児になりそうな状況である。自民党は2012年の衆院選で掲げた「TPP反対」の選挙公約に立ち返って、TPP交渉を破棄すべきではないだろうか。

 

 大統領選の後もTPPを推進している国会議員は「どうせトランプ氏もそのうちTPP賛成に態度を改めてくれるだろう」と軽く考えているのかもしれないが、ウォール街から政治献金をほとんど受け取っていないトランプ氏がTPP賛成に変わる可能性は極めて低いと思われる。もし、トランプ氏が変節するようなことがあれば、間違いなくアメリカでは大規模な抗議デモが起こるだろう。

 

 しかし、泡沫候補と言われていたトランプ氏が大統領選に勝利したことは筆者も非常に驚きだった。歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は、イギリスのEU離脱とアメリカのトランプ現象について「行き過ぎたグローバリゼーションによる疲労」(グローバリゼーション・ファティーグ)が発生していると述べている。この動きは右派政党が台頭するヨーロッパ諸国でも加速し、自由貿易新自由主義を推進する自民党が安定政権を続けている日本も無関係ではいられなくなるのかもしれない。

 だが、トランプ大統領は今後、TPPに代わる「日米FTA」や「二国間貿易協定」を交渉していくとも明言しており、引き続き動向を注視する必要があるだろう。

 

 

<参考資料>

アメリカ大統領選挙研究会 『いまこそ知りたいドナルド・トランプ』(水王舎)

エマニュエル・トッド 『問題は英国ではない、EUなのだ』(文藝春秋

春原剛 『ヒラリー・クリントン その政策・信条・人脈』(新潮社)

萩原伸次郎 訳著 『バーニー・サンダース自伝』(大月書店)

松尾匡 『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、全て2016年の出版)

 

イギリスがEU離脱した理由

https://wirelesswire.jp/2016/06/54327/

英国の「消費税」どうなる? EU離脱で減税説と増税

http://www.asahi.com/articles/ASJ6P3CDRJ6PUHBI00H.html

ティーパーティー」とは何者か

http://www.newsweekjapan.jp/column/ikegami/2010/09/post-229.php

トランプ氏「国外移転なら関税35%」 企業に改めて警告

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM05H15_V01C16A2MM0000/