消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

消費税の歴史(2012~2014年)

再び増税前の好景気にわいた2013

 政権が民主党から自民党へと戻り、2012年12月に就任した安倍首相は自らの経済政策を「アベノミクス」と題して、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という『三本の矢』を提示した。2013年3月には前年の衆院選での公約に反して、TPP環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を表明するなど混乱はあったものの、2012年11月から始まった日経平均株価の上昇に支えられ、7月の参院選でも議席を31名増やして勝利し、「ねじれ」を解消することになった。

 

 しかし、安倍内閣は翌2014年4月から実施される予定の消費税増税について最終的な判断を迫られ、8月26日から31日にかけて有識者60名から意見を聞く政府の「集中点検会合」が開かれた。増税賛成派には、伊藤隆敏氏、熊谷亮丸氏、土居丈朗氏など財務省と関わりが強く、法人税減税を推進している学者がほとんどだった一方で、増税反対派には筑波大学名誉教授の宍戸駿太郎氏や三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士氏など、ケインズ経済学や応用軽量経済学の観点から「消費税引き上げより経済成長を優先させるべき」と主張する学者が多かった。

 だが、この有識者会議は増税賛成派と反対派が長時間にわたって大いに議論することなく、「反対派の意見も聞きました」というアリバイ作りに利用されただけであった。

 

 また、アベノミクスの弱点は日経平均株価が上昇しても、多くの人が景気回復を実感できないという部分にあった。共同通信が2013年4月に行った世論調査によれば、「アベノミクスで所得が増えると思う」と回答した人は24.1%だったのに対し、「所得が増えないと思う」との回答は69.2%にのぼっており、期待が広がっていないことは明らかだった。

 更に、消費税を5%に引き上げる前年の1996年も好景気だったが、翌年から景気が悪化したためこのまま「社会保障・税一体改革関連法案」の通り消費税を8%に増税してしまえば、せっかくの「デフレからの脱却」も失敗に終わってしまう可能性が高かった。

 

 本田悦朗内閣官房参与は8月11日、安倍首相に「景気は確かに昨年より今年のほうが良いが、デフレ脱却できるほどまだ回復が強くない。消費税を増税するなら、3%ではなく毎年1%ずつ上げていったほうが良いのでは」と直接助言した。

 また、イェール大学名誉教授の浜田宏一内閣官房参与も「デフレから回復しているこの勢いがなくなっても良いのだろうか。日本で15年間続いてきたデフレ経済を直すためには、もう少し時間が必要なのではないか」と消費税増税を思いとどまらせる内容の手紙を安倍首相に送ったという。

 

 2012年に成立した「社会保障・税一体改革関連法案」では、時の政権が経済状況を判断して増税を延期することができる「景気弾力条項」が盛り込まれていた。四半期別実質GDPの成長率は2013年1~3月期が年率4.1%に上昇していたものの、4~6月期の速報値は年率2.6%と回復に遅れが出始めており、世耕官房副長官は「悪い数字ではないが、思ったよりプラス幅が少ない」と不満を口にし、甘利大臣も「安倍首相が増税を決断するほど景気回復は進んでいない」と見ていた。

 だが、2013年9月7日にブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会総会で、2020年に開催される東京オリンピック招致が決定したことを受け、五輪予算に最低でも7300億円が掛かると報道されると政府は「オリンピックを開催するために増税が必要」という世論作りに躍起になる。安倍首相は「五輪招致決定と消費税引き上げは直接関係ない」と述べたが、東京オリンピックがその後の増税決定を大きく後押ししたことは間違いないだろう。

 

 

デフレ脱却前に消費税増税を決定した安倍首相

 消費税増税は最終的に、安倍首相が10月1日に記者会見を開き、2014年4月から8%へ引き上げることを決定した。記者会見の中で安倍首相は「我が国の経済は次元の違う『三本の矢』によって、回復の兆しを見せている」と強調し、その根拠として2013年4~6月期の実質GDP成長率の改定値が年率3.8%に上方修正され、二期連続で3%以上のプラス成長を続けたことを挙げたが、実際はその後の確定値で年率2.8%に下がってしまった。「二期連続で3%以上のプラス成長を続けた」と景気回復を強調する安倍首相の発言は明らかな嘘だったのである。

 

 また、年間の実質GDP成長率も2012年の1.7%から2013年の1.4%へと伸び悩み、名目GDP成長率は2012年も13年も0.8%とほぼ横ばいだった。自民党員でありながら消費税引き上げに反対している経済評論家の三橋貴明氏は「日本がデフレから脱却し、増税できる経済状況に持っていくには年間の名目GDP成長率が8%以上に達する必要がある」と述べており、90年代後半から15年間続いてきたデフレ不況を第二次安倍内閣が発足してからたった1年で解決できるはずもなかった。

 

 安倍首相は2012年6月のメールマガジンで、当時の野田内閣が「社会保障・税一体改革関連法案」を衆議院で可決させたことを批判し、「デフレからの脱却を果たして、成長戦略を実施する条件が満たされなければ消費税の引き上げを行わないことが重要」と述べていたが、いざ自分が首相になると一時的な景気回復を過信して、デフレ脱却が不十分なうちに消費税増税を決定してしまったのである。積極財政のイメージが強い安倍内閣だったが、この2013年10月1日を境に緊縮財政へと舵を切っていくことになる。

 

 ちなみに、同年12月2日にはアベノミクスを腰折れさせないための景気対策として、政府は東日本大震災の復興財源を捻出するために導入された「復興特別法人税」の前倒し廃止を決定した。復興特別法人税を廃止するくらいなら、最初から消費税増税そのものを中止すべきだと思うのだが、竹下内閣や橋本内閣と同様に今回も「消費税引き上げの代わりに、法人税を減税する」という手法が実施されたと言えるだろう。

 

 安倍首相が8%への引き上げを決定する直前の2013年9月27日には、大規模な消費税増税反対デモが開催され、日比谷野外音楽堂とその周辺に5000人を超える参加者が集まったが、このような増税反対デモは長続きせず、10月1日にはテレビの街頭インタビューで「仕方がない」「受け入れるしかない」と諦める人々の姿が映し出された。

 翌2014年1月にも大型ショッピングモールが「増税前、最後のお正月」と駆け込み消費を煽る内容のCMを放映し、3月21~23日の三連休には駆け込み消費が起こることを想定した企業側の戦略をマスコミが取材していた。私はこれらの番組を見ていて「企業やテレビ局は何故、増税後に景気が悪化するかもしれないことを心配しないのか」と強く疑問に思ったことを覚えている。

 

 駆け込み消費について総務省の家計調査によれば、2014年3月の実質消費支出は前年同月比プラス7.2%という高い伸び率になった。これは、消費税導入前の1989年3月(同プラス6.3%)、前回消費税引き上げ前の1997年3月(同プラス5.8%)を上回る水準で、大型家電や日持ちする食料品の買いだめなど幅広い分野で消費支出が増加している(「景気見通しの後退で消費者心理は小幅な悪化」 リサーチ総研CSI消費者心理調査 2014年5月)。

 しかし、その後も政治的に大きな混乱はなく、4月1日からとうとう消費税は8%へと引き上げられてしまう。

 

 

4~6月期のGDP成長率は大幅に悪化

 安倍首相は増税後、初めての週末である4月5日に日本橋三越本店で買い物をし、「消費税がだいぶ高くなったという実感があった」と発言した。これに対して、インターネット上では「何、呑気なことを言ってるんだ」と批判が相次ぎ、増税を決めた政府と消費税が上がって節約に苦労している国民との実感の差が浮き彫りになった。

 また、新潟市の地元スーパーでは消費税8%に対応可能な新型レジに買い替えることができないため、2014年3月に4億円以上の負債を抱えて破綻したことも報道された。奈良県の南都経済研究所が9~10月に行った調査でも当時、2015年10月に予定されていた消費税10%への引き上げについて「反対」と回答した企業は51.1%にのぼり、「賛成」と答えた企業の39.0%を上回っている(「第161回地元企業動向調査結果」 ナント経済月報 2014月11月号)。

 このようなニュースや調査から、消費税増税は東京よりも地方のほうが影響を受けやすいことがわかるだろう。

 

 安倍内閣は2014年7月に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を経て、9月3日に初の内閣改造を行った。内閣改造の理由は集団的自衛権の影響で内閣支持率が低下したこともあるが、一番はやはり消費税増税から数ヵ月経過して景気に陰りが見えてきたのが大きいだろう。1997年当時、橋本内閣は消費税引き上げから約半年後の9月11日に内閣改造を行ったが、2014年の安倍内閣増税から半年経った9月3日に内閣改造を行ったことは特筆すべき事項かもしれない。

 

 2014年4~6月期のGDP成長率は年率マイナス7.8%に悪化し、民間最終消費支出は年率マイナス17.8%、民間住宅投資は年率マイナス37.0%、民間企業設備投資は年率マイナス15.6%へと大きな落ち込みを示している。更に、家計消費水準の実質的な向上分を示す「消費水準指数」も2014年4月から2015年4月まで13ヵ月連続でマイナスの状態が続いており、半年後の9月にはプラスの値に回復していた消費税導入の1989年や前回引き上げ時の1997年と比較しても消費の低迷は明らかだった(図25を参照)。

 その上、2007~08年の19位を底に回復していた一人当たりの名目GDPの国際ランキングも、消費税増税後に経済が低迷した影響で2012年の13位から2015年の26位まで再び順位を落としている。

 

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増税延期に対して暴言を吐いた財務省幹部

 1997年の橋本改造内閣ではロッキード事件で有罪となった佐藤孝行議員の起用が批判され、わずか12日間で辞任に追い込まれてしまうが、2014年の安倍改造内閣でも目玉として起用された女性5閣僚のうち、小渕優子経産相と松島みどり法相の2人が政治資金問題などを理由に辞任することになる。また、19人の閣僚のうち、安倍首相を支える右派団体の「日本会議」に所属している議員が15人もいたことが問題となった。

 

 安倍首相はGDP成長率の悪化と閣僚の相次ぐスキャンダルで、10月半ば頃から密かに年内総選挙を想定した早期解散を模索し、日銀も10月31日にサプライズとして追加金融緩和を決定した。この時期に追加緩和が行われることについて、黒田総裁は「2%の物価安定目標を確かなものにする」と説明したが、11月12日の衆院財務金融委員会では「2015年に予定される消費税10%への引き上げを前提に追加緩和を行った」と述べているため、やはり安倍首相が増税実施の判断を迫られていたのと無関係ではないだろう。

 

 その後、11月17日に発表された2014年7~9月期のGDP成長率(速報値)が年率マイナス1.6%と二期連続でマイナス成長となり、翌18日に安倍首相は2015年10月に予定されていた消費税増税を1年半後の2017年4月へと延期し、21日の衆議院解散を発表した。増税延期は財務省にとっても衝撃的だったようで、ある幹部は「社会保障費が膨れ上がる中、消費税率がこんなに低いのは国民を甘やかすことになる」と暴言を吐いたそうだ。

 どんなに経済が不況になっても増税を強行しようとする財務省の姿勢には呆れるが、毎日新聞が2014年10月に行った世論調査では消費税引き上げに反対する人は73%で、賛成の25%を大きく上回っており、国民の多くは増税に反対しているのが実情なのである。

 

 11月21日の衆議院解散から始まった総選挙で、安倍首相は持ち前の憲法改正をあえて触れずに「アベノミクスによる経済再生の達成」を掲げ、マーガレット・サッチャーの『There is no alternative』を意識して「この道しかない」と言い切った。結果は、自民党が295議席から291議席へと4名減らしたものの、ほぼ現状維持となり安倍内閣の人事に大きな影響を及ぼすことはなかった。

 その一方で、野党は「アベノミクス失敗」を訴えた民主党が11議席増やし、消費税増税に断固反対している日本共産党も13議席増やしたが、巨大与党に太刀打ちできずに決して勝利したとは言えない状況だった。

 

 1979年の大平内閣から2012年の野田内閣まで、消費税に関わった政権のほとんどが選挙で敗北していたため、消費税を引き上げて選挙に勝ち続ける首相は安倍氏が初めてかもしれない。政治研究家の中田安彦氏は、2014年の衆院選自民党議席を維持したことにより、かつて小沢一郎氏が目指した「政権交代可能な二大政党制」が完全に崩壊し、55年体制に代わる新たな「2015年体制」が出来上がったと後の世に語られるだろうと述べている(「ネット世論が日本を滅ぼす」 ベストセラーズ、2015年)。

 

 

<参考資料>

消費増税「集中点検会合」備忘リストと舞台裏

http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20130831

「所得増えない」69% 共同通信世論調査

http://ono-blog.cocolog-nifty.com/sikou/2013/04/post-f6c2.html

安倍首相が増税後の買い物パフォーマンス 「高くなった」発言に批判も

http://www.j-cast.com/2014/04/05201329.html

「新型レジに交換できない」消費増税で早くも倒産

http://www.j-cast.com/2014/04/06201351.html

消費税率再引き上げ 財務省「予定通り」に固執し、官邸激怒

http://www.sankei.com/politics/news/141117/plt1411170054-n1.html

<本社世論調査>消費再増税「反対」73% 毎日新聞

http://blog.livedoor.jp/gataroclone/archives/40827622.html