消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

れいわ新選組は保守左派の政党を目指すべき

れいわ新選組以外の野党も「消費税廃止」を掲げよう

 安倍首相は参院選公示を翌日に控えた7月3日の党首討論会で、「自民党改憲議席を3分の2取ると言ったことは今まで一度もない。与野党で3分の2の合意を得られる努力を重ねていきたい」と発言し、日本維新の会や国民民主党の名を挙げながら憲法改正の国会発議を目指す考えを強調した。

 2020年の新憲法制定に意欲を見せる安倍首相がこのタイミングで維新と国民民主に呼びかけたのは消費税10%増税を控えた悪条件の中、7月21日に実施された参院選で与党をはじめとする改憲勢力が国会発議に必要な3分の2を確保することが難しいと見越していたからに他ならない。

 

 だが、国民民主党の玉木代表は8月20日立憲民主党の枝野代表と衆参両院で統一会派を結成することを合意し、最近では山本太郎氏の人気に目をつけてれいわ新選組との合流説も浮上しているという。玉木代表は経済評論家の三橋貴明氏との対談の中で、小泉政権以降の自民党が進めてきた構造改革を批判し、「食料の安全保障を憲法に明記すべき」と発言していて安倍政権が目指す新自由主義的な改憲とは方向性が違うというのが本音だろう。

 もし、国民民主党立憲民主党がれいわ新選組と合流したいのであれば、「将来的な消費税の廃止」を掲げることを最低条件とすべきである。

 

 その一方で、日本維新の会は次の衆院選までに与党入りする可能性が高いのではないかと見ている。維新はもともと政治の既得権益を打破する目的として設立され、2012年の衆院選では消費税増税原発再稼働に反対していたが、2015年5月に大阪都構想住民投票が否決されると急速に自民党にすり寄るようになったと感じる。

 維新の松井代表は自民党について「既得権益を守る側」としているが、安倍政権は大きな政府によって中間層の所得を分厚くした1970~80年代の「古き良き自民党」を捨て、TPPや法人税減税、農協改革、高度プロフェッショナル制度の導入など日本維新の会が推進してきた「岩盤規制の解体」を次々に実現している。政策面では既に維新も安倍政権の一部となりつつあるのだ。

 

 また、今年の参院選で維新は3議席増やしたものの、持ち前の「身を切る改革」というスローガンが説得力を失っているように感じる。

 その理由はれいわ新選組山本太郎氏が「身を切る改革」と称して特定枠を使い、自身よりALS患者の舩後靖彦氏と重度障害者の木村英子氏の当選を優先させたことが大きいだろう。松井代表は舩後氏と木村氏が議員活動で利用する介護支援について「原資は税金。国会議員だけ特別扱いするのか」と批判していたが、先に「身を切る改革」を使われてしまったことに対する危機感の表れでもあるのではないだろうか。

 維新が自民党に媚びずに大阪以外でも支持を拡大させるためには、従来の「身を切る改革」という主張を控えて山本太郎氏と同様に消費税廃止を掲げるしかないと思っている。

 

 

ネット上に溢れた安倍信者の「山本太郎バッシング」に反論する

 参院選から1ヵ月半が過ぎてやっとれいわ新選組がマスコミに取り上げられるようになったが、その一方でツイッターなどでは安倍信者自民党ネットサポーターズクラブ)による「山本太郎バッシング」も多く見かけるようになってきた。

 安倍信者山本太郎氏を叩く際に決まって2008年の『たかじんのそこまで言って委員会』で「竹島は韓国にあげたら良い」と発言したことを取り上げるが、実際には韓国の実力行使に対して何も行動を起こさない日本政府にハッパをかけようという趣旨だったのに、番組でカットされて竹島の不法占拠を容認するかのような発言に編集されたという話である。

 それに、山本氏の他にも堀江貴文氏が「尖閣諸島を中国にあげちゃえば」と発言し、みのもんた氏も「ロシアは北方領土を買ったらどうか」と発言しているが、安倍信者がこれについて批判した書き込みをほとんど見たことがないように思う。山本氏の竹島発言だけ叩くのは、安倍政権の代わりになる勢力の台頭が嫌だからというのが本音なのだろう。

 

 また、安倍信者山本太郎氏が中核派や逮捕歴のある活動家から支援されていることを批判するが、山本氏が直接的に中核派と関わっているわけではなく勝手に応援されたというだけの話だろう。

 例えば、安倍首相は2006年に統一教会の関連団体「天宙平和連合」に祝電を送り、国際勝共連合が発行している雑誌『世界思想』の2013年3月号と9月号では「強靭な国・日本」「救国ロードマップ」というタイトルで表紙を飾っているが、山本氏が中核派から支援されていることが問題なら総理大臣を約7年もやっているような人物が、霊感商法合同結婚式で散々日本人を騙してきた犯罪組織の統一教会から支援されていることも十分問題にならないだろうか。

 しかし、この点をツイッター安倍信者に指摘すると、必ず反論しないで逃げるかブロックされてしまう。どうも山本太郎氏を叩いている人にとって、安倍首相と統一教会の関係について批判されると都合が悪いようだ。

 

 更に、れいわ新選組が消費税廃止を掲げて、ALS患者や重度障害者の方を当選させたことにどのような関係があるのかと疑問に思っている人も多いかもしれない。だが、障害者の平均月収は一般の方よりも低く、2018年5月のデータでは常用労働者の「きまって支給する給与」が26.3万円なのに対し、身体障害者が21.5万円(常用労働者の81.7%)、知的障害者が11.7万円(44.5%)、精神障害者が12.5万円(47.5%)、発達障害者が12.7万円(48.3%)程度である。知的障害者精神障害者の給与が低いのは、高度かつ付加価値の大きい仕事をこなすことが難しいからだと言われている。

 消費税は所得に関係なく、消費に対して同じ額の税金を支払わなければならないため、障害者の方々により負担が重いのだ。舩後靖彦議員と木村英子議員には、是非ともこの点について国会で追及してほしいと思う。

 

 

れいわ新選組は政府の移民受け入れ政策をもっと批判すべき

 また、れいわ新選組は政府の移民受け入れ政策についてもっと批判すべきである。在留外国人数は民主党政権だった2009~12年に218.6万人から203.4万人まで15.2万人減少していたのに対して、最新の2018年末のデータでは273.1万人と安倍政権の6年間で69.7万人も増加していることがわかるだろう(図84を参照)。

 外国人労働者数も民主党政権時代の2009~12年では56.3万人から68.2万人まで年平均3.97万人程度の増加に留まっていたのに対し、安倍政権では2018年の146.0万人へと年平均12.97万人も増えており、明らかに増加のペースが速くなっているのだ。その影響もあって、既に日本は「世界第4位の移民大国」と呼ばれるまでに変貌しつつある。

 今年4月からは外国人が原発作業員などの単純労働を目的に入国することが可能になり、日本の大学を卒業した留学生の就職条件も緩和された。このままのペースで増加が続けば、2028年には在留外国人が380万人、外国人労働者が270万人にも達してしまうだろう。

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 しかし、この急速な日本の移民国家化を保守もリベラルもほとんど批判していないように思う。私が安倍信者自民党の移民受け入れ政策についてどう思っているのか聞くと「外国人労働者が増えると日本の国益を損なうというロジックがわからない」「外国人労働者を批判する奴は大した努力もせずに、無能の自分を責めることもなく全てを政治の責任にしている愚か者」などと言い訳をしてくる。

 つまり、彼らの本質は移民受け入れを容認する左翼で、「低賃金を我慢できない日本人が悪い」という自己責任論を国民に強要したいようである。

 

 更に、共同通信が2018年11月に行った調査によれば、外国人労働者の受け入れを拡大する入管法改正について賛成する割合が60代以上は37.9%程度だったのに対し、40~50代は54.9%、30代以下は66.3%と若年層ほど高いことが明らかになっている。若者は保守化どころかむしろ移民受け入れに賛成し、「左傾化」しているのが現実なのだ。28歳の私としてはこの状況を憂慮すべき事態だと思う。

 今年の参院選で全体の投票率が48.80%と有権者の半分以上が選挙に行かなかったのも、「消費税を10%に増税して生活が苦しくなっても自分には関係ない」「外国人労働者を受け入れて日本人の雇用が奪われても自分には関係ない」という政治に無関心な国民意識の表れではないだろうか。

 

 この状況を変えるためには、山本太郎氏が演説の中で日本人の給与を上げたくない経団連が安い労働力としての移民を大量に呼び込もうとしている実態を暴いて、外国人労働者の受け入れに疑問を感じている保守層にも積極的にアピールしていく必要があると思っている。れいわ新選組大きな政府によって中間層の所得を分厚くした1970~80年代の自民党のような「保守左派」の政党を目指すべきである。

 

 

<参考資料>

氷川清太郎 「自民・公明+維新+国民民主 悲願の憲法改正にくすぶる"大連立"」 『財界』(財界研究所、2019年8月6日)

齊藤祐作 『発達障害者の才能をつぶすな!』(幻冬舎、2016年)

出井康博 『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』(KADOKAWA、2019年)

上毛新聞 『外国人就労の拡大賛成51%』(2018年11月5日)

 

立憲と国民が統一会派「ゆるいグループ」で勢力拡大

https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/201908200001066.html

国民民主党とれいわ新選組に合流説 玉木雄一郎氏、小沢一郎氏、山本太郎氏が会談か

https://news.nifty.com/article/domestic/government/12151-378730/

三橋貴明×玉木雄一郎構造改革って考え方が古いよね

https://www.youtube.com/watch?v=PcUrphzuXuw

れいわ2議員の公費負担 介護支援「拡大」の議論活発化

https://www.sankei.com/life/news/190803/lif1908030021-n1.html

山本太郎、「竹島は韓国にあげたらよい!」発言の真意を告白

https://news.livedoor.com/article/detail/6377900/

毎月勤労統計調査 平成30年5月分結果確報

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/30/3005r/3005r.html

平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05390.html

図録▽外国人数の推移(国籍別)

https://honkawa2.sakura.ne.jp/1180.html

図録▽外国人労働者数の推移

https://honkawa2.sakura.ne.jp/3820.html

参院選投票率48.80%、24年ぶり50%割る

https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20190722-OYT1T50220/

安倍首相が消費税増税を延期しなかった理由

リーマンショックよりも大きかった消費税増税による景気悪化

 7月21日に実施された参院選自民党公明党の与党が77議席から71議席に減らした一方で、野党の立憲民主党が9議席から17議席に増やし、私が支持していたれいわ新選組はALS患者の舩後靖彦氏と重度障がい者の木村英子氏が特定枠を使って当選することができた。しかし、肝心の山本太郎氏が落選したことで次の衆院選まで国会で消費税廃止の議論が行われず、今年10月1日からの消費税10%への増税はほぼ確定してしまったと言えるだろう。

 

 安倍政権や財務省は消費税引き上げを既定路線にしているが、そもそも増税は安倍政権の公約違反だったことをどれだけの人が知っているだろうか?

 安倍首相は2012年6月のメールマガジンで、当時の野田政権が「社会保障・税一体改革関連法案」を衆議院で可決させたことを批判し、「名目成長率が3%、実質成長率が2%を目指すというデフレ脱却の条件が満たされなければ消費税増税を行わないことが重要」と述べていたのだ。

 

 だが、2018年の名目GDP成長率は0.7%、実質GDP成長率は0.8%とデフレ脱却の目標には届いておらず、2014年4月の消費税増税から5年が経ってむしろ経済成長率が落ち込んでいるのが現実なのだ。本来なら安倍首相は「デフレ逆戻り」を理由に、消費税増税の中止を決断すべきだっただろう。そもそも消費税とは完全雇用のもとで国民の消費を減らし、消費財を生産していた人手を浮かせてインフレを抑制することが目的の税金であって、年間の名目GDP成長率が10%を超えるような激しいインフレが発生しない限り増税してはいけないのだ。

 

 デフレ脱却を掲げる安倍政権がデフレを更に加速させてしまう消費税増税を強行する理由は「デフレは貨幣現象」という誤解があるように思う。「デフレは貨幣現象」とは、デフレの原因はマネタリーベース(世の中に供給しているお金の量)の不足なので、日銀が金融緩和を続けていれば消費税増税してもデフレ脱却できるという考え方である。

 だが、マネタリーベースの推移を見ると2012年12月の130.5兆円から2019年6月の510.1兆円まで安倍政権で3.9倍も増加したが、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)は2019年6月に前年比0.3%程度と年率2%のインフレ目標には達していない(図82を参照)。

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 日銀が異次元の金融緩和を行ってもデフレを脱却できないのは、デフレの原因がマネタリーベースではなく「総需要の不足」だからであって、2014年以降に消費税増税公共投資の削減など緊縮財政が実行されている以上、デフレ不況が継続するのは当然のことだろう。

 しかし、この事実を安倍首相の熱狂的な支持者である経済評論家の上念司氏に指摘したら「2009~12年にマイナスだった物価がプラス転換しているから問題ない」と言い訳してきた。つまり、上念氏にとっての「デフレ脱却」とはコアコアCPIが前年比プラスになる程度のものらしい。この定義ならリーマンショック直前の2008年6~10月もインフレだったことになる。どうやら彼は「日銀がマネタリーベースさえ増やしてくれれば、年率2%の物価上昇率を達成しなくても構わない」とデフレを容認しているのが本音なのだろう。

 

 更に、安倍首相は馬鹿の一つ覚えのように「リーマンショック級の経済危機が発生しない限り消費税を10%に引き上げる」と繰り返している。しかし、国民経済計算の家計最終消費支出はリーマンショックが発生した2008年度には5.7兆円程度の落ち込みだったが、消費税を8%に増税した2014年度は7.3兆円の落ち込みにものぼっている。つまり、「リーマンショック級の経済危機」はすでに消費税増税によって発生していたのだ(図83を参照)。

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 2018年度の実質GDP総額は535.5兆円だが、もし安倍政権が消費税増税を中止して税率が5%のままだったらとっくに家計最終消費支出が300兆円を超えて実質GDPは550兆円以上にも達していただろう。その上、安倍首相にとって「リーマンショック級の経済危機」とは、アメリカで金融危機が発生して日経平均株価が暴落する状況なのかもしれないが、そうなってから消費税増税を中止するのでは手遅れだと言わざるを得ない。

 2008~13年度は消費税がまだ5%だったことで家計消費が回復していたが、8%に増税した2014年4月以降は著しく家計消費が落ち込んでおり、この状況で金融危機が発生したらリーマンショックよりも深刻なデフレ不況になるのは言うまでもないだろう。

 

 

増税を中止するためには経団連の言いなりにならない政権が必要

 また、私がツイッターなどで「安倍首相は消費税増税を中止すべき」と批判すると、必ずと言っていいほど自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)の関係者と思われるユーザーから「増税民主党政権が決めたことだ。安倍さんとは関係ない」という反論が返ってくる。

 自民党ネットサポーターズクラブとは、2010年に発足した安倍首相の熱狂的な支持者が集まる組織で、2017年時点の会員数は約1万9000人にものぼっている。しかし、消費税が10%に増税されるまでの経緯を振り返るとこれは非常に無理のある言い訳だ。

 

 まず、最初に消費税増税を言い出したのは2008年10月の麻生政権で、初めて「10%案」を出したのも2010年6月の谷垣総裁だった。野田政権の「社会保障と税の一体改革」についても自民党公明党が合意している。

 安倍首相は2012年のメールマガジンで「デフレ脱却するまで増税は行わない」と発言していたが、その公約を反故にして消費税8%増税を決定した2013年10月1日の記者会見で『社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために、財源の確保は待ったなしです。だからこそ昨年、消費税を引き上げる法律に私たち自由民主党公明党は賛成をいたしました』と発言したのである。

 

 更に、自民党の熱狂的な支持者は「野田政権が消費税増税国際公約にしたから、安倍首相はそれに従って増税を進めただけ」と言っているがこれも全くの嘘だろう。国際公約は2011年11月にG20サミットで野田首相が「日本は2010年代半ばまでに消費税を10%に増税する方針を決めた」と発言したことを根拠にしているが、当時の世界主要国はユーロ危機の対応に追われていて日本の増税などどうでもいい話である。

 そもそも消費税を引き上げるかどうかは他国が干渉できない国内の問題であって、G20サミットに関係なく安倍首相は6年半の政権の中でいくらでも増税を中止するチャンスがあっただろう。自民党信者は「安倍政権の消費税引き上げならOK」というのが本音だからこそ、増税民主党政権のせいにするのである。

 

 また、「安倍首相は憲法改正を何としてでも実現させるために選挙直前になって消費税増税の延期を発表する可能性が高い」という言説を聞いたことがある方も多いだろう。これは自民党信者だけでなく、リベラル派と言われている森永卓郎氏や荻原博子氏も同様の主張をしていた。

 しかし、自民党改憲案の内容を見ると「憲法改正のための増税延期」は全くのデマであることがわかる。自民党改憲案83条には「財政の健全性は、法律の定めるところにより確保されなければならない」という財政規律条項が新設されており、これが成立すれば消費税増税に反対して社会保障の充実を求めることも憲法違反になってしまうからである。

 憲法改正に批判的な森永氏や荻原氏が自民党改憲案の財政規律条項を指摘せずに「憲法改正のための増税延期」を煽っていたのは、彼らが本音として消費税増税を容認しているからではないだろうか。

 

 その上、今の安倍首相は憲法改正よりも経団連の言うことを聞いて、どれだけ政権を長く続けられるかのほうが重要だと考えているように感じられる。実際に、2014年の衆院選と2016年の参院選で消費税引き上げを延期したのも、経団連榊原定征前会長がそれほど増税に積極的でなかったのも理由の一つとして挙げられるだろう。

 榊原氏は安倍首相が増税延期を発表した2016年6月1日に「日本経済を再びデフレに戻さない、経済再生を最優先するという安倍総理の揺るぎのない強い決意を示されたものと理解する」と発言していた。つまり、榊原氏が増税延期を許したからこそ、安倍政権は選挙対策として消費税10%引き上げの時期を変更したのである。

 

 だが、現在の経団連会長である中西宏明氏は榊原前会長より増税に積極的なように感じられる。安倍首相が2018年10月15日の臨時閣議で消費税を10%に増税する方針を表明したことを受けて、中西氏は「今回の安倍総理の引き上げ表明を歓迎する」「前年の衆議院選挙の結果により、国民の信任はすでに得ていると理解している」とのコメントを発表している。

 経団連会長は「財界総理」とも呼ばれているように1980年代以降、政府の経済政策に大きな影響を与えてきた存在である。例えば、TPPに関しては2010年に経団連会長が御手洗冨士夫氏から米倉弘昌氏に変わって急に「参加すべき」という話が浮上し始めた。米倉氏は「日本はTPPに参加しないと世界の孤児になる」と発言するほど強力なTPP推進派だった。この10年間は安倍政権も民主党政権も自ら経団連の奴隷になるような政治を続けてきたのである。

 

 2018年にスイスが付加価値税を引き下げ、マレーシアが消費税を廃止して物品税に近い「売上・サービス税」に戻したことは『「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待』の記事でも述べたが、今年4月には中国でも増値税率(消費税)を製造業などの業種で16%から13%に、交通運輸業や建築業などの業種で10%から9%に引き下げている。

 それに比べて在任中に消費税を2段階も引き上げ、税率を倍にする安倍首相はやっていることが中国共産党以下ではないだろうか。戦後最悪の緊縮財政を強行する安倍政権を止めるためには、財政再建より経済成長を重視して将来的な消費税の廃止を目指し、財務省経団連の言いなりにならない政権を確立する必要があると考えている。

 

 

<参考資料>

三橋貴明 『2014年 世界連鎖破綻と日本経済に迫る危機』(徳間書店、2013年)

     『メディアの大罪』(PHP研究所、2012年)

清水真人 『消費税 政と官との「十年戦争」』(新潮社、2013年)

片岡剛士 『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬舎、2014年)

荻原博子 『安倍政権は消費税を上げられない』(ベストセラーズ、2018年)

 

参院選当選者確定…与党、改選議席から6減らす

https://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/20190722-OYT1T50215/

マネタリーベース : 日本銀行 Bank of Japan

https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mb/index.htm/

消費者物価指数 時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/cpi/historic.html

消費増税、首相「リーマン級なければ方針変わりない」

https://www.sankei.com/politics/news/190509/plt1905090016-n1.html

自民公認サポーター組織 会員数1万9000人で「宣伝戦」

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20171018/k00/00m/010/172000c

平成25年10月1日 安倍内閣総理大臣記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/1001kaiken.html

憲法改正草案 第83条(財政の基本原則)

http://tcoj.blog.fc2.com/blog-entry-83.html

消費増税再延期に関する榊原会長コメント

https://www.keidanren.or.jp/speech/comment/2016/0601.html

2019年10月に消費税10%、経団連会長「安倍総理の引き上げ表明を歓迎」

https://news.mynavi.jp/article/20181016-707774/

全人代で2019年も増値税率引き下げの方針を発表

https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/03/a4d31dcc440fb3bf.html

「平成おじさん」の功罪とれいわ新選組への期待

公共事業を増やして一時的に景気回復させた小渕政権

 今年4月30日、1989年1月8日から続いた「平成」という時代が終了した。日本の政治を振り返るとこの30年間で竹下政権から安倍政権まで17人の首相が移り変わってきたが、その中で最もマシだったのは「平成おじさん」でも有名な1998~2000年の小渕政権だったように思う(写真を参照)。当時、自分は小学1~3年生で初めてリアルタイムで覚えている総理大臣でもある。

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 平成不況の真っ只中に実施された1998年7月の参院選では自民党が敗北し、その責任を取って橋本首相が辞任する。7月30日に就任した小渕首相は当初「冷めたピザ」「凡人」と批判されていたが、橋本政権が1997年11月に制定した「財政構造改革法」を凍結し、国債発行を財源に1998年度の公共事業関係費を過去最高の14.9兆円まで増やした。小渕首相は大胆な経済政策を実行することで「私は世界一の借金王」と自嘲していたが、消費税増税後のデフレ不況に苦しむ1998年当時の日本にとって国債発行と公共事業の拡大は正しい政策だったと言えるだろう。

 

 実際に小渕政権の支持率は1998年11月の20%から1999年8月の53%まで上昇し、実質GDP成長率も1998年のマイナス1.1%から2000年のプラス2.8%まで回復している。90年代は不況と言われながらも、政府の公共事業によってかろうじて経済成長していた時代なのだ。

 また、バブル崩壊後に増加していた年収100万円以下の男性貧困層の数も1998年の66万9019人から2000年の49万9517人へと減っている(図78を参照)。労働力調査によれば建設業で働く従業員は1950年代以降、一貫して8割以上が男性なので政府の公共事業関係費が男性の所得にも影響しやすいのだろう。

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 しかし、小渕首相が脳梗塞で辞任してから2000年4月に就任した森政権は財務省の緊縮路線に戻り、2001~06年の小泉政権では公共事業が大幅に削減された。小泉首相の「古い自民党をぶっ壊す」というスローガンは、政府の公共事業や社会保障支出によって分厚い中間層を生み出してきた高度経済成長期の自民党を破壊することに他ならなかったのである。

 安倍政権も当初は国土強靭化として公共事業を推進していたが、実際に2017年度の公共事業関係費は7.0兆円と1998年の半分程度に過ぎず、その影響もあって「世界の一人当たりの名目GDPランキング」が2000年の2位から2017年の25位まで下落している。平成は緊縮財政のせいで、日本が「先進国」から「衰退途上国」に転落してしまった時代なのだ。

 更に、2017年には年収100万円以下の男性貧困層が94万8835人まで増加し、1978年以降の過去40年間で最多となっている。安倍首相は「アベノミクスが成果を上げて、就業者数が過去最高になった」と自画自賛するが、賃金関係なく就業者数だけ増やしてワークシェアリングを進めてきたのが現実だろう。一定の収入を得ないと結婚できない20~30代男性にとって、年収100万円程度では失業しているのと同じことである。

 

 また、小泉政権以降の自民党が公共事業を削減してきたことで、高度経済成長期に作られた道路や橋などがどんどん老朽化しつつある。アメリカでは1930年代のニューディール政策で作られたインフラが80年代に老朽化した問題を抱えていたが、新自由主義を推進しながら財政出動を続けて1996~2012年の公的固定資本形成を1.93倍も増加したのだ。

 日本でも2012年12月に笹子トンネルの崩落事故が発生しているが、高度経済成長期から50年以上も経過して1996~2012年の公的固定資本形成を0.47倍に縮小したにも関わらず、大規模なインフラの崩壊が相次がないのは奇跡的だとしか言い様がないだろう。「平成」が終わって「令和」の時代に入った今だからこそ、政府は公共事業費を過去最高に増やして一時的に景気回復させた小渕政権を再評価すべきである。

 

 

富裕層減税と労働規制の緩和が少子化を加速させた

 だが、小渕政権には功績だけでなく「罪」の部分も大きい。具体的な例を挙げるとしたら所得税法人税を大幅に減税し、労働者派遣法を改正してしまったことだろう。富裕層に対する減税と労働規制の緩和を行うことによって、90年代まで続いていた戦後の一億総中流社会を崩壊させてしまった。

 所得税の累進性が最も高かったのは1974~83年で中曽根政権の時代から徐々に引き下げられ、1995~98年には課税所得が3000万円以上の富裕層に対して50%の最高税率が適用されていたが、小渕政権はそれを1999年に課税所得が1800万円を超えればどれだけ稼いでも37%の最高税率しか適用されないように減税したのである。

 

 所得税の累進性が高いと企業経営者の中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考えて従業員の給料も上昇しやすくなるが、最高税率の引き下げはそのプロセスを壊すことになってしまう。実際に、労働者の平均月収は1998年の36.6万円から2018年の32.4万円まで下がり、1ヵ月では4.2万円程度だが年間にすると50.4万円にもなって減少額が大きいことがわかるだろう(図79を参照)。

 特に娯楽・文化では小渕政権だった1998年に音楽ソフトの売上が6075億円とピークを迎えて2018年には2403億円まで落ち込んでいるが、これはCDからダウンロードや定額制ストリーミングの時代に移行しただけでなく、20~30代の所得が減少して娯楽に使えるお金が減ったことも大きいのではないだろうか。デフレ不況は国民を貧困化させるだけでなく、音楽文化まで破壊してしまうようである。

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 80~90年代に所得税が減税されてきた理由は主に「富裕層の消費を促して経済を活性化させる」というトリクルダウン理論が言われていたが、日本で100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2005年の141万人から2017年の316万人まで2.24倍も増加したのに対して、家計最終消費支出は2005年の274.5兆円から2017年の290.8兆円までたったの1.06倍しか増加していない(図80を参照)。

 家計最終消費支出とは、「民間最終消費支出」から私立学校、宗教団体、政党、福祉関係のNPOなど営利を目的とせず社会的サービスを提供している民間団体の消費を除いた額で、より家計の個人消費を表す数値に近いと言える。これが増加していないのは、富裕層の資産が増えても国民全体の消費は伸びないことの証左ではないだろうか。

 小渕首相はケインズ経済学に基づいて減税と公共事業の拡大を進めたのだろうが、減税するのなら所得税法人税よりも消費税を1997年以前の3%に戻すべきであった。そうすれば仮に小泉政権以降の自民党が歳出削減しても、個人消費が回復して一人当たりの名目GDPランキングが25位まで落ち込むことはなかっただろう。

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 また、小渕政権は1999年12月に労働者派遣法を改正し、それまで専門26業務に限定されていた「ポジティブリスト方式」を港湾運送、建築、警備、医療、製造業など以外は原則自由化するという「ネガティブリスト方式」に変えてしまった。派遣業務の拡大は1995年に日経連が発表した『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策』に基づくもので、従業員を「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」の3つのタイプにわけ、雇用柔軟型として非正規雇用派遣労働者を大幅に増やす提言を行っている。

 小渕政権の後も労働者派遣法は2004年に製造業での採用が解禁され、2015年からは専門26業務の枠組みを廃止して企業が人さえ変えれば同一事業所の派遣使用期間をいくらでも延長できるようになった。その影響で非正規雇用の割合は1998年の23.6%から2018年の37.9%まで上昇し、主に20~30代の労働環境が悪化して少子化の原因の一つにもなっていることが明らかである。

 

 

与党も野党もれいわ新選組の経済政策を見倣うべき

 小渕氏の死後、森政権から安倍政権までほとんどの内閣が緊縮財政を続けて野党でも公共事業を推進する政党が少ないが、その中で私は参議院議員山本太郎氏が結成した「れいわ新選組」に期待している。2013年の参院選で当選したときに山本氏はイロモノ扱いされていたが、最近では安倍首相と仲が良かった経済評論家の三橋貴明氏と対談するなど脱原発以外にも経済政策で支持を伸ばしている。

 れいわ新選組は消費税廃止、公共事業の拡大、公務員の増加、奨学金の返済免除、一次産業戸別所得補償、所得税法人税の累進性強化、政府が補償して最低賃金を引き上げるなど戦後の福祉型資本主義を取り戻す真っ当な政策を掲げた真の保守政党で、原発即時禁止や米軍基地建設の中止を除けば、高度経済成長期の自民党がやっていたこととほとんど同じではないだろうか。

 公共事業を増やして景気回復させた一方で、富裕層減税と労働規制の緩和を行って一億総中流社会を崩壊させた小渕政権の「功績」と「反省」を踏まえた政党でもあると言える。

 

 政府はれいわ新選組の政策を参考にまずは消費税10%への増税を中止し、将来的に物品税制度に戻していくべきである。国民経済計算を見ると昭和後期の1959~1988年では名目GDP成長率の平均が12.4%、実質GDP成長率の平均が6.6%と高かったのに対し、平成の1989~2018年では名目GDP成長率の平均が1.1%、実質GDP成長率の平均が1.3%と大幅に下落しており、物品税の時代と比べて消費税を導入してからの30年間は名目では10分の1以下、実質では5分の1以下しか成長していないのだ。

 海外では2006~08年にカナダとイギリスが付加価値税を引き下げていたが、2018年にはスイスでも8%から7.7%に引き下げ、マレーシアは6%の消費税を完全に廃止して「物品税」に近い売上・サービス税(SST)に戻している。深刻なデフレ不況であるにも関わらず、たった5年間で消費税率を倍にする日本がいかに時代に逆行しているのかわかるだろう。

 

 この他にも前述の通り、建設業の賃金を引き上げて公共事業費を増やし、災害に備えて老朽化した道路や橋などを修復する必要がある。1998~2018年の政府総支出の伸び率は新興国の中国、カタール、インドで多いのはもちろんのこと、イギリスが239%、カナダが220%、スウェーデンが196%、フランスが184%、ドイツが154%と先進国でも当たり前に政府の公共投資で経済成長を続けているのに、日本では98%と1998年より政府総支出が少なく緊縮財政がデフレ不況の長期化に繋がっていることが明らかである。

 アメリカは2001年以降のデータしか公表していないが、それでも211%となっている(図81を参照)。

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 更に、れいわ新選組は「政府が補償して最低賃金を1500円まで引き上げる」と言っていて、これも日本がデフレ脱却するために必要な政策だろう。日本の最低賃金は年々上昇しているが、欧米と比較すると80年代から新自由主義を推進してきたアメリカでもワシントン州が12ドル(1320円)、イギリスでも25歳以上が8.21ポンド(1150円)なのに対し、東京は985円(いずれも2019年4月現在)とまだまだ安い。

 最近ではアメリカの連邦最低賃金を15ドル(1650円)まで引き上げる公約を掲げたバーニー・サンダース氏や、イギリスの最低賃金を10ポンド(1400円)まで引き上げる公約を掲げたジェレミー・コービン氏が若年層から支持を集めており、日本の「最低賃金1500円」も決して非現実的な政策ではないことがわかるだろう。

 安倍政権の熱烈な支持者たちは「韓国は最低賃金を引き上げて失業率を悪化させた」と言うが、韓国では最低賃金を上げても政府の中小企業支援策が圧倒的に足りなかったから経済が停滞しているのが現実で、最低賃金の引き上げそのものを否定するのは悪質な印象操作である。

 

 財政出動最低賃金引き上げの財源として、れいわ新選組は年率2%のインフレ目標に達するまで国債発行を続けると言っている。ただ、年率2%程度では本当に日本がデフレ脱却したとは言えず、できれば年間の名目GDP成長率が5%を超える経済状況になるまで国債発行を続けても良いと思う。名目成長率が5%を超えたら20~30代の所得も増加して、間違いなく少子化が改善するだろう。

 これから始まる「令和」は反緊縮に転じて1998年から続くデフレ不況を終わらせる時代にしなければならない。そのためにも山本太郎氏の経済政策を与党も野党も見倣うべきである。

 

 

<参考資料>

小此木潔 『消費税をどうするか 再分配と負担の視点から』(岩波書店、2009年)

塩田潮 『内閣総理大臣の日本経済』(日本経済新聞出版社、2015年)

植草一秀 『日本経済復活の条件』(ビジネス社、2016年)

藤井聡 『公共事業が日本を救う』(文藝春秋、2010年)

全労連・労働総研編 『2016年国民春闘白書・データブック』(学習の友社、2015年)

森岡孝二 『雇用身分社会』(岩波書店、2015年)

萩原伸次郎 訳著 『バーニー・サンダース自伝』(大月書店、2016年)

松尾匡 『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、2016年)

 

公共事業関係費(政府全体)の推移

https://www.mlit.go.jp/common/001270879.pdf

政治意識月例調査 1998年

https://www.nhk.or.jp/bunken/yoron/political/1998.html

国民経済計算 2019年1-3月期 2次速報値

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2019/qe191_2/gdemenuja.html

民間給与実態統計調査 長期時系列データ

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

世界の一人当たりの名目GDPランキング

https://ecodb.net/ranking/old/imf_ngdpdpc_2017.html

公共投資水準の国際比較

https://www.sato-nobuaki.jp/report/2017/20170529-002.pdf

所得税 最高税率の推移

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E#%E7%A8%8E%E7%8E%87%E3%81%AE%E6%8E%A8%E7%A7%BB

労働政策研究・研修機構 図1 賃金

https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0401.html

日本のレコード産業 2019

https://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/industry/RIAJ2019.pdf

World Wealth Report  Compare the data on a global scale

https://www.worldwealthreport.com/hnwi-market-expands

「民間最終消費支出」と「家計最終消費支出」の違い

https://www.dir.co.jp/report/research/introduction/economics/indicator/20130117_006677.pdf

れいわ新選組 今日本に必要な緊急政策

https://www.reiwa-shinsengumi.com/policy/

マレーシアの売上・サービス税(SST

https://kabu-yutai.com/2018/12/08/post-7610/

各国の最低賃金(2019年6月20日更新)

http://ww1.tiki.ne.jp/~happy-n/sub100.html

消費税増税後の景気悪化から逃げ続ける安倍政権

就業者数ではなく消費税増税の影響で下落する実質賃金

 賃金や労働時間を調べる厚労省の「毎月勤労統計調査」で、統計法に反する不適切な調査が長年行われていたことが今年1月に発覚した。2018年1月に調査対象となる企業群のサンプルを半数近く入れ替え、同年6月には名目賃金の伸び率が前年同月比で3.3%増加と1997年1月以来の高い水準にのぼっていたことが報道された。

 しかし、名目賃金から物価の変動を除いた実質賃金は2014年に消費税増税の影響で「現金給与総額」が前年比マイナス2.8%、「きまって支給する給与」が前年比マイナス3.2%となっており、その後も低迷した状態が続いている。

 

 経済学者のミルトン・フリードマンは消費と所得の関係について、「消費者の消費は恒常的だと考える所得に比例する」と主張している。例えば、農家に代表される「所得が不安定な人々」は預金や保険を増やさざるを得ない。つまり、所得から消費に回す割合を減らすため消費性向が下がる。

 逆に、公務員に代表されるように安定的な所得を「恒常的」に得られることが確定しているならば消費性向は上昇する。恒常的な所得を拡大することこそが、国内における「消費」という需要を最大化する道なのだ。毎月勤労統計調査では「現金給与総額」と「きまって支給する給与」をそれぞれ公表しているが、実質賃金の「きまって支給する給与」がフリードマンの言う「恒常的な所得」に最も近いだろう。

 

 2011年2月から2019年2月までの「きまって支給する給与」の推移を見ると、消費税を8%に増税した2014年4月から大幅に下落したことがわかる(図72を参照)。

 実質賃金は「生産の量」に大きく左右され、例えば販売数が1年で10個から9個へと減った場合に実質賃金は前年比10%落ち込んでしまう。消費税増税で家計消費が減少したことが実質賃金下落の原因なのである。

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 それでも、高橋洋一氏など安倍政権下の消費税増税を容認する経済学者は実質賃金の下落について「就業者数が増えたことによる成果」だと強弁し、政治ブログなどを見ていても「給料の安い労働者を解雇してデフレにすれば実質賃金は上がる」などとデタラメなことを書いている人が多い。

 だが、図73の「就業者数と実質賃金指数の推移」を見ると消費税が3%だった1990~96年は就業者数も実質賃金も上昇していたのに対し、5%に増税された1997年から共に下落が始まり、8%増税後の2014年以降は「就業者数が増加したにも関わらず実質賃金が減少する」という状況が発生している。

 消費税を3~5%に減税すれば就業者数が増加しても実質賃金は上昇するし、逆に消費税を10%に増税すれば更に実質賃金が下落して国民が貧困化してしまうだろう。

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緊縮財政を隠すためにかさ上げされた名目GDP

 安倍政権は「毎月勤労統計調査」の改ざんだけでなく、国民経済計算の名目GDPも大幅にかさ上げしている。内閣府は2016年12月にGDPの算出方法を変更し、研究開発費などを加えて1994年以降のGDPを旧基準の「平成17年基準」から新基準の「平成23年基準」に改定して公表した。

 しかし、実際の名目GDPを見てみると1994年は平成17年基準が495.7兆円、平成23年基準が501.5兆円とたったの5.8兆円しか増加していないのに対して、2015年は平成17年基準が499.3兆円、平成23年基準が531.3兆円と実に32.0兆円もかさ上げされているのだ。1994年と2015年でこれだけ差があるのは算出方法を変更した際に、研究開発費とは関係ない「その他」の部分を大幅に加算したからだと言われている。1994年なら「その他」の部分はマイナス7.8兆円だったのに対し、2015年は逆にプラス7.5兆円も増えてしまった。

 

 平成23年基準の名目GDPは2018年で548.9兆円と、1997年の534.1兆円を超えていて過去最高を更新しているが、平成17年基準では最後に公表された2015年の名目GDPが499.3兆円だったので、これに平成23年基準の名目GDP成長率(2016年の0.9%、2017年の1.7%、2018年の0.7%)を掛けると2018年の名目GDPは515.9兆円程度にしかならず、まだ1997年の523.2兆円を超えていない(図74を参照)。

 「アベノミクスが成果を上げて、名目GDPが過去最高になった」と自画自賛する安倍首相の発言は全くの嘘なのである。

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 更に、かさ上げされた平成23年基準でも安倍政権が始まった2013年1-3月期から2018年10-12月期までの年率換算の名目GDP成長率を見ると、安倍政権前期に当たる2013~14年の成長率は年率平均2.44%、安倍政権中期に当たる2015~16年の成長率は年率平均1.94%、安倍政権後期に当たる2017~18年の成長率は年率平均1.21%と、政権後半になるほど成長率が下落してデフレ不況に逆戻りしていることがわかる(図75を参照)。

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 名目GDP成長率が下落したのは消費税増税による景気悪化に加え、政府の公共投資(公的固定資本形成)を削減したことも原因だと思われる。安倍政権は当初「機動的な財政政策」として公共事業の大盤振る舞いを宣言していたが、実際に公的固定資本形成(実質値)が増加していたのは2012年10-12月期の24.1兆円から2013年10-12月期の27.1兆円までの最初の1年だけであって、その後は2018年10-12月期の24.5兆円へと減少している。

 安倍首相がアベノミクス自画自賛すればするほど増税後の景気対策は遅れ、財政も緊縮的になってきているのが現実のようだ。「日銀が金融緩和だけしていればデフレを脱却できる」という勘違いはやめて、消費税引き下げと財政出動に踏み切るべきではないだろうか。

 

 

本当に「悪夢のような時代」なのは2014年4月以降

 また、安倍首相は2月10日の自民党大会で、2007年の参院選での敗北に触れる中で「悪夢のような民主党政権が誕生した。あの時代に戻すわけにはいかない」と演説した。

 ツイッターなどを見ていると民主党政権の時代を不当に貶めるのが自民党ネットサポーターズクラブ(J-NSC)の常套手段なので安倍首相は熱狂的な支持者に向けたリップサービスとして上記の発言をしたのだろうが、民主党政権の時代は消費税がまだ5%で今より家計消費の伸びが良かったから中小企業の景況感も回復していたのが現実なのだ。

 

 実際に、2011年3月の東日本大震災から数ヵ月経った仙台ではブランド品のルイ・ヴィトンや高級車のメルセデス・ベンツが急に売れ始めたことが報告されている。あれだけ大規模な災害が起こると生命保険会社や損害保険会社は世間からの批判を恐れて、本来なら地震保険に加入していなければ免責される事案でも申請を受け付け、その審査が下りて多額の保険金が支払われたタイミングで高級品が売れたのだという。

 民主党政権の時代も決して好景気だったとは言えないが、消費税が今より安かったことでリーマンショック東日本大震災からの回復が早かった側面も存在するのではないだろうか。

 

 家計最終消費支出を見ても2008年10-12月期の272.7兆円から2013年10-12月期の292.7兆円まで5年間で20.0兆円も増加していたのに対して、2018年10-12月期には292.8兆円へと5年間でたったの0.1兆円しか増えていない。中小企業の景況感を表す「中小企業DI」も2008年10-12月期のマイナス42.0から2013年10-12月期のマイナス13.8まで回復していたが、その後は横ばいに推移していて2018年10-12月期もマイナス13.8と変わらない(図76を参照)。消費税増税から5年が経っても未だに2014年1-3月期のマイナス11.1を上回った時期がないのだ。

 総務省が公表している家計消費水準の実質的な向上分を示す「消費水準指数」も東日本大震災後の2011年4月から2014年3月まで回復していたが、2014年4月以降は消費税増税の影響で大幅に下落してしまった(図77を参照)。

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 この間、日本の総人口が減少して介護の人手不足が深刻化したことにより、完全失業率が2011年4月の4.7%から2018年12月の2.4%まで改善するという好条件にも関わらず、増税後に消費がこれだけ落ち込んでしまったのだ。

 安倍政権が統計データを改ざんしたり、旧民主党へのネガティブキャンペーンを煽ったりするのも結局のところ「消費税増税による景気悪化」から目を逸らすためである。本当に「悪夢のような時代」なのは民主党政権ではなく2014年4月以降で、消費税増税がいかに日本経済を苦しめているのかわかるだろう。

 

 

<参考資料>

吉田啓志「発覚した厚労省『毎月勤労統計』の『偽装』は『政権への忖度』の声も 『アベノミクスは失敗』の評価恐れるか」 『週刊金曜日』(金曜日、2019年1月25日)

三橋貴明 『日本「新」社会主義宣言 「構造改革」をやめれば再び高度経済成長がもたらされる』(徳間書店、2016年)

明石順平 『アベノミクスによろしく』(集英社インターナショナル、2017年)

和田秀樹 『経営者の大罪 なぜ日本経済が活性化しないのか』(祥伝社、2012年)

 

厚労省、統計発表見直しへ 賃金上昇率過大「補整はせず」

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/politics/article/453411/

6月の名目賃金確報値3.3%増、速報値から縮小 毎月勤労統計

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL22H74_S8A820C1000000/

毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html

増税サポーター 安倍晋三

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12442619730.html

労働力調査 長期時系列データ

https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html

国民経済計算 2016年7-9月期 1次速報値(平成17年基準)

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163/gdemenuja.html

国民経済計算 2018年10-12月期 2次速報値(平成23年基準)

https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2018/qe184_2/gdemenuja.html

『悪夢のような民主党政権』発言からにじみ出た『バラ色の自民党』意識

https://bunshun.jp/articles/-/10861

中小企業景況調査報告書 結果の概要

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/keikyo/index.htm

家計調査(家計収支編) 過去に作成していた結果表

https://www.stat.go.jp/data/kakei/longtime/index2.html#level

日本の自己責任論をどう向き合うべきか?

著名人と政府与党の支持者が拡散させる自己責任論

 ベネッセと朝日新聞が4~5年に一度実施している「学校教育に対する保護者の意識調査」によれば、豊かな家庭の子供ほどより良い教育を受けられる傾向があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した小中学生の保護者が2008年の43.9%から2018年の62.3%まで増加した(画像を参照)。

 『社会保障の充実を阻む「自己責任論」』でも述べた通り、日本はもともと先進国の中で最も貧困問題に対して自己責任論が強く、2007年に行われた国際調査でも「政府が自力で生活できない人を助けてあげるべきか?」の質問で、「全くそう思う」と回答した人はたったの15%と47カ国の中で最も少なかったが、その傾向がこの10年間だけでも更に強まっているようだ。

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 それを象徴するかのように、著名人が自己責任論を思わせるような発言を行った場合におけるインターネット上の反応もこの10年間で変化してきた。例えば2006~07年なら人材派遣会社ザ・アール奥谷禮子氏が過労死について「自己管理の問題。他人の責任にするのは問題」「労働組合が労働者を甘やかしている」と発言したことに対し、Yahoo!知恵袋では「ザ・アールの女社長って悪魔ですか?人類の敵ですか?」といった批判の書き込みも多く見られた。

 その一方で、2016年にはフリーアナウンサーの長谷川豊氏がブログで「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!」と暴言を吐いた際に、内容は賛否両論になったがコメント欄では「よくぞ言ってくれました」「透析患者は本当に自業自得です」と彼を擁護する書き込みが多かった。

 過労死を自己責任扱いした奥谷氏の発言も決して擁護できないが、「殺せ」などの言葉を使っている以上、長谷川氏の暴言のほうがもっと許しがたい内容なのは言うまでもない。それでも2006年の奥谷氏が批判され、2016年の長谷川氏に同情が集まった背景には近年の自己責任論の高まりが存在するのではないだろうか。

 

 また、2018年には長谷川氏に触発されたのか、ツイッターで落語家の桂春蝶氏が「世界中が憧れるこの日本で貧困問題などを宣う方々は余程強欲か、世の中にウケたいだけ。この国での貧困は絶対的に自分のせいなのだ」と言ったり、高須クリニック院長の高須克弥氏が「甘ったれるな若者!年寄りは君たちくらいの年齢のときはモーレツに働いたんだよ。働きながら君たちを育てたのだ」と言ったり、ZOZOの田端信太郎氏が「過労死には本人の責任もある。なぜならば物理的な拘束はなく、使用者側に殺意もないから。使用者の過失責任はあるかもしれないが、本人の責任もゼロではないというのが私の見解です」と言うなど、自己責任論や若者バッシングを思わせる著名人の発言が相次いだ。

 

 更に、『新・日本の階級社会』などの著書がある橋本健二氏が2016年に行った調査によれば、「貧困になったのは努力しなかったからだ」と「努力しさえすれば、誰でも豊かになることができる」という設問に「そう思う」と回答した人を支持政党別に見ると、民進党が20.5%、公明党が21.5%、共産党が15.2%、支持政党なしが20.3%なのに対し、自民党が34.1%と政権与党の支持者ほど自己責任論に肯定的な傾向が見られた(図70を参照)。

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 自民党も表向きでは「消費税を増税して社会保障を充実させる」と言っているが、残念ながら安倍政権の支持者が国内の経済格差や社会保障の問題に関心を持っている可能性は低いだろう。例えば、国税庁民間給与実態統計調査では2017年に年収100万円以下で働く男性貧困層の数が過去40年間で最多の94.9万人となっており、1984年の49.8万人から約1.9倍も増加しているが、この事実をアベノミクスの成果ばかり強調する安倍信者に指摘すると、必ず「給料が上がらないのは努力が足りないからだ」といった反論が返ってくる。

 彼らは小泉政権以降の自民党が公共事業の削減や労働規制の緩和を進めて子育て世代の男性を貧困化させてきた現実を認めたくないからこそ、経済格差を個人の問題にして自己責任論で片付けようとするのではないだろうか。

 

 その他にも、昨年10月にシリアで拘束されていた安田純平氏が解放されたとき、安倍政権の熱烈な支持者たちがツイッターなどで自己責任論を振りかざして彼を誹謗中傷する書き込みで溢れた。

 安倍信者によるジャーナリストへの誹謗中傷は安田氏だけでなく、ISIL(過激派組織イスラム国)に殺害された後藤健二氏についても在日認定し、元航空幕僚長田母神俊雄氏は「イスラム国に拉致されている後藤さんとその母親の石堂順子さんは姓が違いますが、どうなっているのでしょうか。ネットでは在日の方で通名を使っているからだという情報が流れていますが、真偽のほどはわかりません。マスコミにも後藤健二さんの経歴などを調べてほしいと思います」と暴言を吐いていた。

 しかし、後藤氏は映像の中で日本のパスポートを提示していたため、田母神氏が安倍信者のデマを鵜呑みにしたに過ぎないのである。

 

 自己責任社会のイメージが強いアメリカでも2014年にジャーナリスト2人がISILに殺害されたが、率先してリスクを負って取材に赴いた記者を賞賛する声が数多く上がり、アジアプレス・インターナショナル大阪事務所代表の石丸次郎氏が調べた限りでは2人を貶めたり、迷惑だと批判したりする意見は皆無であったという。アメリカは1970年代のベトナム戦争でジャーナリストが撮影した写真によって反戦世論を高めた歴史があり、紛争地に行って命懸けで情報を手に入れようとする戦場ジャーナリズムに対する国民の理解が深いのだろう。

 その一方で、日本では田母神氏のように自らネット上のデマを拡散し、自己責任論を煽る著名人が少なくないのは残念な限りである。

 

 

自己責任論の蔓延を食い止めるには政治教育が必要

 国民の間で自己責任論が幅広く蔓延している以上、自民党が本当に日本の社会保障を全世代型に変えたいのであれば、消費税を増税する前に教育を通して国民の社会保障に対する知識を高めていく必要があるだろう。しかし、安倍政権は中学生や高校生に政治教育を行うことに対して否定的だ。

 2015年6月には山口県の県立高校で、安全保障関連法案についてクラスを8つのグループにわけてそれぞれの主張をまとめ、グループごとの主張に対して高校生が賛否を投じるという実践が行われたが、この授業の取材記事を読んだ自民党県議会議員が「政治的中立性が問われる現場にふさわしいものか疑問を感じる。県教委としてどういう認識なのか」と抗議し、教育長が「法案への賛否を問う形になり、配慮が不足していた。指導が不十分だった」と謝罪している。

 選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられた裏側で、地方議会が政治的中立性を理由に高校の授業で時事問題を扱うことを制止していたのだ。

 

 それに対し、国税庁が全国の中学生と高校生を対象に毎年実施している「税の作文」では、『ヨーロッパと比べて日本の消費税はまだまだ安い』『高齢化が深刻な日本では消費税を上げないと財政が破綻する』など、明らかに財務省増税推進論をコピーしたような内容の作文ばかりが入賞する。

 ヨーロッパの消費税が高く感じるのは標準税率を比較しているからであって、食料品に軽減税率が適用されていない日本は「国税収入に占める消費税収の割合」が27.9%と、イギリスの25.8%、イタリアの27.3%と比べても変わらないし、政府資産(2017年度、670.5兆円)が名目GDP(547.4兆円)を超えている日本が財政危機というのは全くの嘘で、国債も9割以上が国内で消化されているので日銀が民間銀行の国債を買い取れば財政再建は進むのである。

 

 更に税の作文を読んでいると、『消費税を通して私たちも納税している』という明らかに不適切な表現が散見されることを疑問に思う。私たちが買い物をするとき、レジでお金を支払っているため、消費税を納めているのは消費者だと勘違いしている方も多いだろうが、実際に消費税を納める義務があるのは事業者で、レジで払っているのは事業者が販売価格に上乗せ(転嫁)したぶんの消費税額である。

 しかし、販売価格に上乗せされた消費税を、モノを買うときに消費者が負担するのは事業者が値引きしていない場合で、中小・零細企業の中には少しでも商品を安く売るために、消費税を価格に転嫁できないこともあり、結果的に自腹を切って納税する例が少なくない。その影響もあって消費税は国税の中で最も滞納額が大きく、2017年度に発生した消費税の滞納税額は3633億円と、国税全体の滞納額(6155億円)における59.0%を占めている(図71を参照)。

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 消費税は法人税所得税と違って、年間売上高が1000万円以上の場合、事業者が赤字でも納税しなければならず、滞納税額が減らないのはそれだけ消費税を納められない企業が多いからだろう。『消費税を通して私たちも納税している』という誤解を持つことは、逆に言えば「消費税を納められない事業者は自己責任」と偏見を助長することにもつながりかねない。

 こうした消費税の問題点を無視して一方的に増税賛成派の主張を子供に押し付ける「税の作文」は、それこそ政治的中立性に反する偏向教育だと言えるし、2018年度の20万通を超える応募の中で消費税増税に反対する内容の作品を掲載しないのは不当な差別である。10~20代の自民党支持率が高いのも、国税庁が税の作文を通して消費税増税に賛成する若者を増やしていることと無関係ではないのかもしれない。

 

 高負担・高福祉の国として有名なスウェーデンでは、小学校の社会科の教科書で貧困や格差の問題に焦点が当てられており、収入が低くて生活が苦しい家庭には生活保護が支払われることまで詳しく説明されている。その他にもデンマークでは、小学校から模擬選挙によって政治の理解を深め、近所に建設される道路に関して賛成か反対か議論する授業も行われるという。

 その影響もあって国政選挙の投票率スウェーデンが87.18%(2018年)、デンマークが85.80%(2015年)と日本の53.68%(2017年)よりもはるかに高いのである。スウェーデンデンマークが高福祉で成り立っているのは付加価値税が高いだけでなく、国民が常に政治や社会保障の問題に関心を向けていることも理由の一つとして挙げられるだろう。

 アメリカでも、4年に一回の大統領選の度に将来有権者となる子供や若者を対象にした「Mock election」「Kids Vote」と呼ばれる模擬選挙が行われ、民主主義が成熟した先進国では当たり前に政治教育が行われているのだ。

 

 そもそも政治教育の中立性を気にしている人々は、2018年度から教科化が始まった道徳教育に関しても「偏向」する可能性があると思わないのだろうか?例を挙げるとしたら、2000年代に話題となった「もったいない運動」だろう。

 もったいない運動は、2004年にノーベル平和賞を受賞したケニア環境保護活動家であるワンガリ・マータイ氏が日本語の「もったいない」という言葉を知って感銘を受けるエピソードから始まっているが、日本国民全員がもったいない精神を持って個人消費を減らしたらGDPの「民間最終消費支出」も減少して日本経済が疲弊してしまうことになる。

 また、2006年には滋賀県知事の嘉田由紀子氏がもったいない運動を用いて財政健全化を口実に東海道新幹線の新駅建設やダム建設の中止を進めたが、これもGDPの「公的固定資本形成」を減らして地方経済の衰退に拍車をかける結果となってしまう。道徳教育のメッセージが間違って子供たちに伝わらないようにするためにも、やはり政治教育と道徳教育は並行して実施する必要があるだろう。

 

 

<参考資料>

菊池英博 『そして、日本の富は略奪される』(ダイヤモンド社、2014年)

危険地報道を考えるジャーナリストの会・編 『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社、2015年)

林大介 『「18歳選挙権」で社会はどう変わるか』(集英社、2016年)

鈴木賢志 訳著 『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む』(新評論、2016年)

ケンジ・ステファン・スズキ 『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』(角川SSコミュニケーションズ、2010年)

 

学校教育に対する保護者の意識調査

https://berd.benesse.jp/up_images/research/Hogosya_2018_web_all.pdf

平成30年度「税に関する高校生の作文」

https://www.nta.go.jp/taxes/kids/sakubun/koko/h30/index.htm

財政金融統計月報第793号

https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g793/793.htm

平成29年度「国の財務書類」等を作成しました

https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2017/20190129houdouhappyou.html

平成29年度 国税徴収、国税滞納

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/chousyu2017/pdf/17-18_tainokanpu.pdf

2018年スウェーデン総選挙の結果は?

https://tatsumarutimes.com/archives/21651

デンマークの選挙での投票率について

https://www.sra-dk.com/voter-turnout-rate/

もったいない – Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%AA%E3%81%84

 

「法人税と所得税は景気に左右されやすい」という嘘

企業収益や富裕層人口はバブル崩壊後も増加している

 2019年10月1日に消費税が10%へと引き上げられるまで残り1年を切ってしまった。安倍首相は10月15日の臨時閣議で、来年の消費税増税に備えて景気の落ち込みを防ぐ経済対策の策定や軽減税率の準備を進めるよう指示している。

 増税賛成派が言う消費税引き上げのメリットの一つとして、「法人税収や所得税収は景気に左右されやすいが、消費税収は経済状況に関係なく安定した財源」というものがある。確かに、財務省の一般会計税収の推移を見ると、法人税収は1989年度の19.0兆円、所得税収は1991年度の26.7兆円とバブル期にピークを迎えてその後は減少し、2017年度の法人税収が11.7兆円、所得税収が18.6兆円になっている。

 

 だが、法人企業統計と民間給与実態統計調査によれば、企業の経常利益は1989年度の38.9兆円から2017年度の83.6兆円まで約2.1倍も増加し、年収2000万円以上の富裕層は1991年の13.8万人から2017年の25.5万人まで約1.8倍も増加している。つまり、法人税収や所得税収が減少する一方で、企業収益や富裕層人口はバブル崩壊後も増え続け過去最高を更新しているのだ(図67~68を参照)。

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 1989年当時、法人税の基本税率は40%だったが2018年には23.2%まで引き下げられ、所得税も1991年当時は課税所得が2000万円を超えれば50%の最高税率が適用されたが、2015年以降は課税所得が4000万円以上でやっと45%の最高税率が適用されるまでに変化してきた。

 仮に、税率を当時の状態に戻せば2017年度の法人税収は最大で40.8兆円、所得税収は最大で49.3兆円にのぼっていたことが予想され、消費税を引き下げても社会保障費を捻出するのが可能になるだろう。

 

 経団連などは「法人税増税すると日本から企業が逃げ出す」と言うが、海外に進出する企業の多くは安価な労働力の確保を求めているのが実情で、経産省の海外事業活動基本調査(2016年度)でも、海外進出を決定した際のポイントについて企業に3つまでの複数回答で聞いたところ、法人税が安いなどの「税制、融資等の優遇措置がある」を選択した企業は7.5%と一割にも満たなかった。

 

 もし、企業の国外流出を防ぎたいのであれば、法人税減税よりも海外に進出する企業に対して課税を行うべきである。経産省の調査では、海外に拠点を置いて活動する企業の数を表した現地法人企業数が1989年度の6362社から2016年度の24959社まで約3.9倍も増加していて、法人税の高い時代のほうが企業は国内で仕事をしていたのだ。

 海外では米国のトランプ政権が連邦法人税率を35%から21%に引き下げる一方で、日本や中国など海外からの輸入品の関税を引き上げて税収を増やそうとしている。トランプ氏は政治家として問題の多い人物だが貿易の保護主義を推進し、法人税減税の財源を消費税の導入に頼らなかったことは高く評価すべきだろう。

 

 所得税については2015年に最高税率が40%から45%に引き上げられたが、これについても経団連は「富裕層の海外流出を招いて日本経済の活力が失われる」と批判している。しかし、ワールド・ウェルス・レポートによれば日本で100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2014年の245.2万人から2017年の316.2万人まで約71万人も増加しており、所得税増税しても富裕層が海外に逃げるという事態は発生していないのだ。

 むしろ、所得税最高税率を引き上げると企業経営者たちの中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考え、従業員の給料も上昇しやすくなって経済的なメリットが大きいのである。

 

 

日本が経済成長しないのは緊縮財政を続けているから

 また、法人税所得税が景気に左右されやすいなら、単純に財政出動などの景気対策で経済成長を促せば良いだろうが、こう主張すると必ず「日本は総人口が減少しているからもう経済成長できない」と反論してくる者がいる。

 例えば、元財務大臣藤井裕久氏は月刊日本2018年8月号の中で「アベノミクスの理論はいろいろな点で間違っていると思いますが、最大の間違いは高成長主義です。基本的に人口が減少する日本で経済成長することはありません」と述べ、京都大学名誉教授の橘木俊詔氏も『貧困大国ニッポンの課題』という著書の中で「少子化が進んで労働力が減少する日本では、かつてのような高度成長の再来を望むことは不可能だろう」と述べている。

 こうした「経済成長否定論」は消費税を10%に増税した後に景気が悪化することで、ますます説得力を増してしまうかもしれない。

 

 だが、国の総人口が減っているのは日本だけでなく、ロシアでも1994~2018年の間に445万人減少し、東欧のジョージア(旧グルジア)でも1994~2018年の間に122万人減少している。この間、日本では131万人増加と人口が横ばいになっており、ロシアとジョージアの人口減少のほうが深刻だということがわかる。

 しかし、名目GDPの推移を見るとロシアが24年間で149.9倍、ジョージアが24年間で45.7倍も伸びていて、日本の1.1倍と比較しても圧倒的に経済成長しているのだ(図69を参照)。

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 特に、ロシアはソ連が崩壊した90年代以降ずっとインフレが続いていて、リーマンショック翌年の2009年には名目GDP成長率がマイナス6.0%とアメリカのマイナス2.0%より悪化していたものの、2010年には19.3%、2011年には20.9%と高い状態に回復している。アメリカやカナダでも1994~2018年の間に名目GDPが2.8倍も増加しており、「先進国や人口が減少している国では経済成長できない」という藤井氏や橘木氏の主張がいかに間違っているのかがわかるだろう。

 

 バブル崩壊以降の日本が経済成長していないのは、消費税を増税して政府の公共投資を削減するという緊縮財政が続けられているからである。

 国民経済計算によれば、個人消費の額を表した民間最終消費支出(名目値)は物品税や消費税3%だった1977~1997年の20年間では約2.86倍(平成2年基準)も増加したのに対し、消費税を5%や8%に増税した1997~2017年の20年間では約1.06倍(平成23年基準)しか増加していない。更に、政府が行う社会資本整備などの投資の額を表した公的固定資本形成(平成23年基準、名目値)も阪神・淡路大震災による復興需要が高まった1995年の45.8兆円から2017年の27.7兆円まで約6割程度に削減されている。

 

 中京大学名誉教授の水谷研治氏は1997年12月号の文藝春秋で「財政赤字を削減するために国民一人ひとりが国の将来のために犠牲になる覚悟を持たなければならない」と発言していたが、実際に経済成長を否定して財政再建に邁進し、国民を貧困化させてきたのがこの20年間の日本政府だったと言えるだろう。

 安倍首相は「2019年10月から消費税を10%に引き上げる代わりに幼児教育の無償化も進める」と言っているが、『オウム真理教よりも統一教会のほうが悪質な宗教である』でも指摘した通り消費税導入後のデフレ不況こそが少子高齢化の原因であって、今やるべき政策は「経済成長が人々の心を豊かにする」という90年代以降の日本から失われた哲学を取り戻し、消費税引き下げと財政出動によって子育て世代(20~40代)の所得を高めることではないだろうか。

 

 

<参考資料>

消費税率、来年10月に10% 首相「経済対策に全力」

https://www.asahi.com/articles/ASLBH5X33LBHUTFK010.html

なぜ所得税法人税ではなく、消費税の引上げを行うのでしょうか?

https://www.mof.go.jp/faq/seimu/04.htm

一般会計税収の推移

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.pdf

年次別法人企業統計調査 -平成29年度-

https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/h29.pdf

平成29年分 民間給与実態統計調査

https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2017/pdf/001.pdf

第47回海外事業活動基本調査結果

http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result/h28data.html

米減税法案が議会通過 法人税21%、下院も再可決

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24894440R21C17A2000000/

World Wealth Report  Compare the data on a global scale

https://www.worldwealthreport.com/hnwi-market-expands

ロシアのGDPの推移

http://ecodb.net/country/RU/imf_gdp.html

ジョージアGDPの推移

http://ecodb.net/country/GE/imf_gdp.html

安倍首相は左翼グローバリストである

愛国者を装って安倍首相を徹底的に甘やかす自称保守派

 6月10日、米山前知事の辞職に伴い実施された新潟県知事選で自民・公明両党が支援した花角英世氏が当選した。これにより、森友・加計問題の影響で内閣支持率が下げ止まっていた安倍政権がまた調子に乗るのは間違いないだろう。

 

 私が最も許せないのは、雑誌『正論』『WiLL』『Hanada』『ジャパニズム』のような愛国者を装って安倍首相を徹底的に甘やかす自称保守派の存在である。

 例えば、2018年6月号の『正論』を読んでいても日本会議会長の田久保忠衛氏が外交問題に目を逸らして「こんなことで憲法改正を潰してはならない」と無条件に安倍政権を持てはやし、自民党議員の山田賢司氏が野党に対して「安倍政権さえ倒すことができればいいの一点張りだ」とレッテルを貼っている。

 彼らは国有財産売り払いの決裁文書改ざんという前代未聞の事件を放置してでも、未だに「安倍さんが日本を取り戻してくれる」「安倍さんなら何をやっても構わない」という幻想を捨てないようだ。自称保守派は日本の国益を守りたいのではなく、ただ安倍晋三を守りたいだけなのだろうか?

 

 また、インターネット上に幅広く存在する安倍信者の被害妄想も酷い。

 連中はよく「朝日新聞などのメディアが偏向報道をして、安倍さんを首相から引きずり降ろそうとしている」と言うが、実際のところマスコミの問題に詳しくない自分でも2017年の衆院選で野党が消費税増税の凍結を掲げていたのに対し、「財政再建はどうするんだ?」と脅して自民党への支持を煽る報道が多かったように感じる。

 マスコミが野党を潰しにかかった背景はもともと消費税増税の反対意見を意図的に黙殺していることに加え、前回(2014年)の衆院選自民党萩生田光一氏が在京テレビ各社に「公平中立な報道姿勢にご留意いただきたくお願い申し上げます」と釘を刺していたことが大きいだろう。

 

 仮に自称保守派や安倍信者が政権を擁護するなら「森友・加計問題で国民に謝罪し、消費税を5%に戻すことで責任を取れ」と言うべきだ。しかし、残念ながら自民党を支持する経済学者の多くが安倍政権になってから増税容認に変節してしまったように思う。その代表的存在とも言えるのが2018年4月から岡山理科大学加計学園)の客員教授に就任した上念司氏である。

 彼は民主党政権の時代まで「次に消費税を上げれば、1997年以降に襲った不況より三段階も四段階も上のすごい不況が襲いかかってくるかもしれない」(『復興増税亡国論』 P.160)と増税を厳しく批判していたが、2015年2月の『ジャパニズム23』に寄稿した論文では、消費税引き上げによって景気が悪化している現実を無視して「アベノミクスの恩恵にあずかれないと文句を言っている人は『賃金が上がっていない』と主張して、単に迎合するだけで何の理論的裏付けもない評論家のカモになるのが運命」とこき下ろし、2013~14年に円安倒産が増加したことについては「アベノミクスに対する本気度を疑っていたから倒産しただけの話」と企業側に責任を押し付け、最後には「景気回復は我々の目前に迫っている!」と期待を煽っていた。

 

 だが、実際に名目GDP成長率(平成23年基準)は安倍政権前半の2012年10-12月期~2015年4-6月期では年率平均2.92%にのぼっていたのに対し、安倍政権後半の2015年7-9月期~2018年1-3月期では年率平均1.13%まで下落してしまった。

 民間最終消費支出もリーマンショックから安倍政権初期にかけての4年半(2009年1-3月期~2013年7-9月期)では23.6兆円増加していた一方で、その後の4年半(2013年7-9月期~2018年1-3月期)では逆に0.9兆円も減少している(図63を参照)。

 安倍政権の中で本当に景気が回復していたのは最初の1年だけであって、消費税増税の影響が表れ始める政権後半にはどんどん名目GDP成長率と個人消費が落ち込んで尻すぼみになっているのが現実だろう。

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安倍首相の熱烈な支持者こそ「反日左翼」を名乗るべき

 安倍政権になってから在留外国人と外国人労働者の数が急増している。在留外国人は麻生政権から民主党政権にかけての2008~12年に221.7万人から203.4万人まで18.3万人減少していたのに対し、最新の2017年末のデータでは256.2万人と安倍政権の5年間だけで52.8万人も増加していることがわかるだろう(図64を参照)。

 また、外国人労働者民主党政権時代の2009~12年では56.3万人から68.2万人まで年平均3.97万人程度の増加に留まっていたのに対し、安倍政権では2017年の127.9万人へと年平均11.94万人も増えており、明らかに増加のペースが速くなっているのだ。

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 在留外国人と外国人労働者がここまで増えたのは当然政府が受け入れを推進しているからで、安倍政権は介護など技能実習制度の適用範囲拡大や国家戦略特区における外国人家事支援人材の解禁など様々な形の移民政策を進めている。

 今年5月30日には政府が5年間を上限に日本国内で就労できる新たな在留資格を設ける方針を決め、2019年春の導入に向けて今秋の臨時国会にも入管難民法改正案を提出する予定だという。

 それに対し、野党では特に日本共産党が「外国人技能実習制度」や「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」に強く反対している。今の日本の政治では、保守とリベラルの立場が逆転しているようだ。

 

 更に、訪日外国人も近年急増していて、特に2012~17年で中国人観光客が593.1万人、韓国人観光客が509.7万人も増えている(図65を参照)。外国人観光客の増加は一見良いことのように感じるが、1997~2017年の20年間で訪日外国人は421.8万人から2869.1万人まで6.80倍も増えた一方で、出国日本人は1680.3万人から1788.9万人まで1.06倍とほぼ横ばいになっている。

 つまり、長引くデフレ不況による日本人の旅行離れを尻目に、政府は外国人観光客を呼び込んで日本国内の消費を回復させようと必死になっているのだ。

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 その上、安倍首相は海外のスピーチで「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」「国を開くことが私の中に流れる一貫した哲学でした」「一定の条件を満たせば、世界最速級のスピードで永住権を獲得することができる国になる」と保守とは思えない地球市民的な発言を繰り返している。

 自民党議員の赤池誠章氏は「友達に国境はない!」という子供向けアニメのキャッチフレーズに対して、「国家意識なき教育行政を執行させられたら、日本という国家はなくなってしまう」「私なら『国境があっても、友達でいよう』と名付けたいところ」と揚げ足を取っているが、そんなに国家を重視するなら前述の安倍首相の発言を批判しろよと言いたくなるのは私だけだろうか?

 高須クリニック院長の高須克弥氏も、「マスコミが安倍首相に批判的な報道をするときは最初に反日を宣言しろ」などと意味不明な発言をしているが、高須氏のような安倍政権の熱狂的な支持者こそ「反日左翼」を名乗って国境や国籍を否定する安倍を崇めるべきだろう。

 

 

<参考資料>

菅野完 「バカとの戦い」 『月刊日本』(ケイアンドケイプレス、2018年5月号)

望月衣塑子 「メディアは権力に屈するな」(同上)

田久保忠衛 「こんなことで憲法改正を潰してはならない」 『正論』(日本工業新聞社、2018年6月号)

義家弘介山田賢司 「中国人の『愛国無罪』を笑えない 『反アベ無罪』の日本人たち」(同上)

上念司 「『アベノミクスによる景気回復』の実情」 『ジャパニズム23』(青林堂、2015年2月)

適菜収 『安倍でもわかる保守思想入門』(ベストセラーズ、2017年)

 

自民党、在京キー局に「圧力文書」――アベノミクス酷評に激怒?

http://www.alterna.co.jp/14103

国民経済計算 2018年1-3月期 2次速報値

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2018/qe181_2/gdemenuja.html

図録▽外国人数の推移(国籍別)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1180.html

図録▽外国人労働者数の推移

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3820.html

三橋貴明】移民受入政策の本命がやって来る

https://38news.jp/economy/11756

新たな在留資格 技能実習後、5年就労可 政府、来春創設へ 労働力確保狙う

https://mainichi.jp/articles/20180530/ddm/002/010/112000c

移民に反対したのは「共産党だけ」という惨状

http://pagent.seesaa.net/article/402126207.html

統計データ(訪日外国人・出国日本人)

https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/

「友達に国境はな~い」を批判した赤池誠章

http://datsuaikokukarutonosusume.blog.jp/archives/1070566453.html

高須院長がマスコミに注文「先に反日ですと宣言して」

https://www.news-postseven.com/archives/20180324_661859.html?PAGE=2