消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

経済成長が人々の心を豊かにしている

名目GDPが増加して殺人件数が減った戦後日本

 昔から言われている通説に、「物質的な豊かさを追求すると人々の心が貧しくなる」というものがある。

 例えば、安倍首相は著書『美しい国へ』(文藝春秋、2006年)の中で、「戦後の日本は経済を優先させることで、物質的に大きなものを得たが精神的には失ったものも大きかったのではないか」「自主憲法を制定しなかったことで損得が価値判断の重要な基準となり、家族の絆や生まれ育った地域への愛着、国に対する想いが軽視されるようになってしまった」と述べている。

 

 しかし、実際のところ『消費税増税が少子高齢化を加速させる』でも指摘したように、日本人の国民性調査で「一番大切なものは家族」と答えた人の割合は1958年の12%から2013年の44%まで増加していて、家族の絆はむしろ深まっているのだ。

 また、社会意識に関する世論調査で「国を愛する気持ちの程度が他の人と比べて強い」と回答した割合は1977~2018年にかけて、ずっと40~50%台を維持していて現代の日本人が愛国心を軽視しているとは言い難い状況である。最近でも、人気フォークデュオ・ゆずの新曲『ガイコクジンノトモダチ』の歌詞内容が「愛国的」だとネット右翼から高い評価を受けたばかりだ。

 

 更に、戦後の殺人件数の推移を見ても1955年の2119人をピークに2015年の314人まで減少している。この間、名目GDP総額は1955年の8.3兆円(平成2年基準)から2015年の499.3兆円(平成17年基準)へと50倍以上も増加しており、経済成長は人々の心を豊かにしているというのが現実なのだ(図60を参照)。ちなみに、1998年以降に限れば名目GDP成長率が低迷したにも関わらず、奇跡的に殺人件数が減り続けている時代とも言える。

 最近では、「家族間殺人が増加している」という報道をよく目にするが、増えているのはあくまでも殺人事件全体に占める割合であって、未遂を含めた家族間殺人の件数は2008年の558件から2016年の440件まで減少しているのである。

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児童虐待増加の背景にある子育て世代の貧困化

 安倍首相と同様に憲法改正について極論を述べているのが日本会議と関わりが深い政治評論家の細川珠生氏だ。彼女は2016年3月にBLOGOSの記事で、90年代以降の児童虐待の増加について「憲法の行き過ぎた個人主義にその原因の一端がある」と現行憲法のせいにしているのである。

 しかし、児童虐待は戦前の大正時代や昭和初期から既に社会問題となっており、旧児童虐待防止法(1933年)が制定される3年前の1930年には内務省社会局が全国の被虐待児童について調査した結果を公表している。

 

 この調査によれば、昭和恐慌真っ只中の1929年に虐待を受けた児童(検挙された保護責任者の取り調べから判明した人数)は124人(14歳未満が74人、14~19歳が50人)で、曲馬や軽業など危険な諸芸に従事させられていた児童は392人(同170人、222人)、身体の障害などを見せ物にされていた児童は9人(同5人、4人)、芸者や酌婦など「特殊な業務」に従事させられていた児童は6607人(14歳未満のみ)、丁稚奉公など「報酬による養児」とされていた児童は5543人(14歳未満のみ)にものぼっている。

 戦後の日本をどうしても否定したい自称保守派は「今の児童虐待と内容が違う」「貧困社会の中でやむを得ない現象だった」などと言うだろうが、『経済を優先させることで精神的に失ったものも大きかった』という勘違いで、14歳未満の子供が働きに出ないといけないような貧しい時代の日本に戻したいのだろうか?

 

 また、厚労省が発表している「児童虐待相談対応件数の推移」を見ると、1992年度の1372件から2016年度の12万2578件まで増加しているが、この間、年収200万円以下で働く女性の数も550.8万人から833.9万人へと24年間で283.1万人増えている(図61を参照)。

 更に、男性の側も1997~2016年の19年間で子育て世代に当たる30代後半の平均年収が77.4万円、40代前半の平均年収が81.8万円減少しており、バブル崩壊後に女性の貧困が広がって夫が妻子を養える経済状況ではなくなったことが児童虐待増加の背景ではないだろうか。

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主要先進国で日本だけ賃金が上昇していない

 日本のデフレ不況が始まった元年と言われる1997年、中京大学名誉教授の水谷研治氏は同年12月号の文藝春秋で「日本の経済水準は異常に高い。財政赤字を削減するために消費税を20%まで増税して、国民一人ひとりが国の将来のために犠牲になる覚悟を持たなければならない」と緊縮財政を推進する記事を出した。

 実際に、当時の橋本政権は「財政赤字GDP比を毎年3%未満にする」「1998年度の公共投資について、1997年度当初予算における公共投資関係費の93%を上回らないようにする」という内容を盛り込んだ財政構造改革法を同年11月に成立させている。だがその後、日本経済は一体どうなっただろうか?

 

 図62を見ればわかる通りこの20年間、主要先進国の中で日本だけ労働者の賃金が上昇していない。カナダが1.32倍、イギリスが1.31倍、アメリカが1.28倍、フランスが1.24倍、ドイツが1.16倍も増加しているのに対し、日本は0.99倍とほぼ横ばいだ。

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 日本と他の先進国でこれだけ差がついたのは、やはり90年代後半以降の緊縮財政が原因ではないだろうか。欧米諸国ではこの20年間だけでも政府の公共投資を増やし続けた一方で、日本は公共事業削減の影響もあって0.47倍へと半減している(写真を参照)。

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 特に賃金の伸びが良いカナダでは1996~2010年に公共投資が3.27倍も増加したのに加え、付加価値税を2006~08年に7%から5%へと引き下げた。実際に、財政出動と消費税「減税」で国民所得が向上している国は存在するのだ。

 それに対し、日本では安倍政権が公共投資(公的固定資本形成、平成23年基準)を2013年10-12月期の27.1兆円から2017年10-12月期の26.2兆円まで削減し、森友・加計問題やデフレ逆戻りの影響で内閣支持率が30%を切っているにも関わらず、自民党内から「消費税10%への増税を中止しろ」という声すら上がってこない異常事態である。

 90年代のバブル崩壊以降に日本から失われたのは、家族の絆でも国に対する想いでもなく「経済成長が人々の心を豊かにする」という哲学ではないだろうか。

 

 

<参考資料>

大倉幸宏『「昔はよかった」と言うけれど 戦前のマナー・モラルから考える』(新評論、2013年)

水谷研治『大不況を覚悟せよ』(文芸春秋、1997年12月号)

 

社会意識に関する世論調査(平成30年2月調査)

https://survey.gov-online.go.jp/h29/h29-shakai/2-1.html

図録 他殺による死亡者数の推移

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2776.html

家族間殺人は上昇しているのか

http://blog.livedoor.jp/kudan9/archives/42617386.html

憲法に「家族条項」の創設を 最大の問題は、日本人の思考だ

http://blogos.com/article/166557/

平成28年児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000174478.pdf

日本を亡ぼした「財政構造改革法」

https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12297956794.html

Earnings and wages Average wages OECD Data

https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm

公共投資水準の国際比較

https://www.sato-nobuaki.jp/report/2017/20170529-002.pdf

北海道と沖縄の消費税を0%に減税すべき

消費税は地方ほど滞納の割合が多い

 安倍政権が進める経済政策の一つに地方創生がある。地方創生とは、東京一極集中を是正して地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的にしている。

 2014年には、元岩手県知事の増田寛也氏が「何も対策を取らなければ、2040年までに全国896の自治体が消滅してしまう可能性がある」というレポートをまとめた『地方消滅―東京一極集中が招く人口急減』(中央公論新社)がベストセラーになった。

 その一方で、政府が進めている地方創生は必要なインフラ整備を放棄し、「各地方は自助努力せよ。成功しているところは地方交付税を厚くし、上手くいかないところは自己責任」と、各地方の競争を煽っているだけなのではないかという批判も存在する。

 

 しかし、国会でほとんど議論されないが私が注目しているのは、「地方ほど消費税を滞納する割合が高い」という問題だ。消費税は国税の中で最も滞納額が多く、2015年度には国税全体の新規発生滞納税額(6871億円)における64%が消費税の滞納額(4396億円)で占めている(図59を参照)。

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 また、各地域の国税局別に滞納額の割合(2015年度)を見ると、東京が2.06%なのに対し、金沢が2.67%、名古屋が2.92%、広島が3.05%、高松が3.43%、関東信越が3.92%、仙台が4.18%、熊本が4.40%、福岡が4.59%、沖縄が4.81%、札幌が4.84%と地方ほど割合が高くなることがわかるだろう(表10を参照)。

 消費税に滞納金が発生する理由については過去の記事で述べたため、詳しく知りたい方はご覧になっていただくとありがたいと思う。

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地方から消費税増税反対の声を上げていくべき

 だが、地方から「消費税増税反対」の声を上げるのはなかなか難しい部分が多い。例えば、毎年3月13日には中小企業や個人事業主が加盟する民主商工会が全国各地で「重税反対全国統一行動」を開催し、私の住んでいる群馬でも高崎市前橋市で行われる。

 ちょうど今年の3月13日は仕事が休みだったので、私も地元の集会に参加したいと思ったのだが、家族から「会社に迷惑が掛かるから止めてくれ」と言われ、わざわざ新宿まで行って全国統一行動に参加した。家族がどうしても反対するのを見て、今の時代にも人口の少ない田舎には「村八分」の文化が根強く残っているのだなと痛感した。

 

 更に、問題なのは群馬県国会議員に中途半端な人物が多いことである。2014年の第二次安倍改造内閣で入閣した小渕優子氏は政治資金の不祥事以降、衆院選で当選しながらも「過去の人」になりつつあるし、参議院山本一太氏はブログで「安倍戦後最長政権の実現こそ日本の最大の国益」とまで述べている。

 山本氏は過去に「財政再建は消費税引き上げによる増収ではなく、経済成長による増収によって行うべき」と発言しているが、自分が総理大臣になって増税を中止しようとする気概すら持たずに、憲政史上初めて2段階も消費税を引き上げるかもしれない安倍首相を狂信的に支持する姿は情けなく思う。野党でも2017年の衆院選立憲民主党から堀越啓仁氏と長谷川嘉一氏が当選し、共に消費税増税を批判しているがまだ安倍政権を脅かす存在だとは言えない。

 

 よく「地方には仕事や魅力がないから人口流出が止まらない」と言われるが、消費税増税に反対する活動を行っている私にとって群馬県の最大の弱点は、現職の国会議員で有名な人物が少なく政治的なバリエーションが狭すぎる点だ。

 2016年のアメリカ大統領選でトランプ氏が当選したのは、伝統的に共和党を支持している宗教右派だけでなく、ラストベルトと呼ばれる脱工業化が進んだアメリカ北東部の労働者が自由貿易協定であるTPPへの参加に反発し、アメリカ産業の発展を掲げたトランプ氏を支持したからだと言われる。

 

 それに対し、日本では消費税増税自由貿易協定、公共事業の削減など地方に不利な政策を進めている自民党が皮肉にも「地方」によって支持されるという構図が長らく続いている。かつて1970年代に首相だった田中角栄氏は「日本全国に新幹線や高速道路を建設して、都市と農村、太平洋側と日本海側の格差をなくすこと」を宣言していたが、地方の人々が今でも当時の自民党と同じく公共事業によって地方の発展を支えてくれると思っているのなら、それは単なる幻想に過ぎないだろう。

 東京では、2017年の都議選の結果を見てもわかる通りそれほど自民党が強いというわけでもない。本来であれば、消費税を滞納する割合が多い一方で自民党が強い地方から増税反対の声を上げていくべきではないだろうか。

 

 

地方の消費税を0%にして経済効果を生み出そう

 前述の増田寛也氏の著書には、2040年に20~39歳の女性が50%以上減少する市区町村の地図が掲載されている(写真を参照)。この地図を見ると、特に北海道における若年女性の人口流出が深刻だ。地方から大都市圏への人口流出は、将来子どもを産む若年層という「人口再生産力」そのものを大幅に減少させ、地域の出生数に甚大な影響を与えているようである。

 ちなみに、沖縄で近年人口が増加しているのは中国人やベトナム人の出稼ぎの影響で、出生率の高さや国内からの移住者が主な理由ではない。

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 また、北海道と沖縄は東京などの都市部よりも経済的なハンデが大きいという問題がある。雇用者に占める非正規雇用の割合(2012年)は東京が32.7%なのに対し、北海道は40.2%、沖縄は43.0%だ。特に、沖縄の15~24歳の女性に限れば、非正規雇用の割合は73.4%と約四人のうち三人が正社員になれない現実がある。

 沖縄の子どもの貧困率が37.5%と全国で突出して高い数字なのも、こうした若年女性の不安定な雇用が背景として存在するのではないだろうか。

 

 更に、沖縄は全国の米軍専用基地のうち74%を負担してもらっているが、「沖縄の経済は米軍基地に依存している」というのも事実ではなく、県民総所得に占める基地関連収入の割合はアメリカ統治下だった1965年の30.4%から2014年の5.7%まで低下している。

 それでも、米軍基地建設に賛成している自称保守派やネット右翼は「県民総所得の5%を基地関連収入に依存しているじゃないか」と言うかもしれないが、ならば若年女性の人口流出が深刻な北海道と、米軍基地を負担してもらっている沖縄の消費税を0%にしたらどうだろうか。

 

 都道府県別に県外から宿泊目的で来た観光客の年間消費額(2013年)を見ると、北海道が2719.5億円、沖縄が3361.5億円と、東京の2717.8億円よりもやや多い。北海道と沖縄の消費税を0%にすれば、間違いなく観光客による経済効果を生み出して地元住民の所得も向上するだろう。安倍政権が本当に地方創生を進めたいのであれば、是非とも「地方の消費税0%」を検討してほしいと思う。

 

 

<参考資料> 

大久保潤、篠原章 『沖縄の不都合な真実』(新潮社、2015年)

安田浩一 『学校では教えてくれない差別と排除の話』(皓星社、2017年)

 

砂漠で金を稼げと言うのか?「地方を見捨てた」山本幸三地方創生大臣

http://www.mag2.com/p/money/274082/2

安倍戦後最長政権の実現こそ日本の最大の国益山本一太氏のブログ)

https://ameblo.jp/ichita-y/entry-12238164476.html

ラストベルト はやり言葉辞典

http://studyhacker.net/vocabulary/rust-belt

人口増加率全国トップの沖縄、その4割が外国人

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/185435

平成24年就業構造基本調査(8-1)

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00200532&tstat=000001058052&cycle=0&tclass1=000001060135&tclass2=000001060136

「沖縄は基地で食っている」はデマ

https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/onaga-4?utm_term=.we6qZ175xL#.bgpQyz9Zeb

共通基準による観光入込客統計

http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/irikomi.html

消費税増税は安倍首相が決めたことである

増税財務省民主党のせいにする自称保守派

 日本テレビが3月16~18日に行った世論調査によると、安倍政権の支持率は30.3%と第二次安倍内閣発足から5年あまりで最低となった。支持率急落の原因は学校法人「森友学園」の国有地売却に関する決裁文書改ざんを巡り、財務省近畿財務局の男性職員が自殺した問題が大きいだろう。

 しかし、この森友問題に関して自称保守派やネット右翼は相変わらず「朝日新聞偏向報道をしてるせいだ! 財務省が勝手に改ざんしたことだ! 安倍さんは悪くない!」などと責任転嫁している。

 

 ネット右翼から人気の高い自称保守派は森友学園だけでなく消費税増税の問題でも不自然に安倍政権を擁護していて、例えば経済評論家の上念司氏と歴史学者の倉山満氏は「消費税8%への引き上げを決めたのは第10代財務事務次官の木下康司氏であって、安倍首相は最後まで増税に反対していた」と述べている。しかし、これは非常に無理のある言い訳だ。

 安倍首相は2013年10月1日の記者会見で「社会保障を安定させ、厳しい財政を再建するために、財源の確保は待ったなしです。だからこそ昨年、消費税を引き上げる法律に私たち自由民主党公明党は賛成をいたしました」と発言している。つまり、安倍首相は野党の時代から消費税増税に賛成だったわけだ。

 

 もし、本当に増税反対の立場を明確にしていたのであれば、2013年10月以前に消費税引き上げの中止を発表するか、総理大臣を辞任すれば良かっただろう。その後、消費税10%への引き上げに関しては二度延期したものの、それもあと1年余りで意味がなくなってしまう。

 仮にこのまま安倍首相がズルズルと2019年10月まで総理を続け、増税を中止しなかったら憲政史上初めて消費税を2段階も引き上げる宰相となるだろう。

 

 また、経済素人でもわかる間違いで安倍政権を擁護しているのが嘉悦大学教授の高橋洋一氏だ。彼は「民主党政権が年間自殺者を安倍政権より3000人以上も増やした」と述べているが、実際のところ自殺者は民主党政権でも2009年の30707人から2012年の26433人まで減少している。

 一般的に自殺は女性より男性に多いと言われているが、過去30年間の男性の自殺死亡率と完全失業率の推移を見ると1998年に自殺率が悪化し、2010年から失業率の低下と共に自殺率が改善しているのがわかるだろう(図56を参照)。

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 本当に年間自殺者を増やしたのは消費税増税などの緊縮財政を断行した1996~98年の橋本政権で、第一次安倍政権だった2007年でも30827人と民主党政権より多かったのだ。安倍政権が経済政策によって自殺者を減らしたことを評価するなら、「民主党政権でも年間自殺者は減少していた」と言わなければならない。

 だが、高橋氏は既に自殺者数が減少していた野田政権に対しても「財務省の傀儡政権で、大増税内閣である」と厳しく批判した上、安倍政権になってからも「消費税増税は野田前総理が決めたこと。ただでさえ政権与党時代に経済を立て直せなかった民主党が、自ら行った増税決定のせいで進まない経済回復を批判するというのはブーメランになってしまう」と述べている。

 つまり、失業率の改善や有効求人倍率の上昇など「都合の良い部分」は安倍政権の功績で、増税による個人消費の落ち込みや名目GDP成長率の低迷など「都合の悪い部分」は民主党政権のせいにしたいようだ。

 

 こうした責任転嫁は自称保守派の間にも広く蔓延していて、3月19日の参議院予算委員会では自民党和田政宗議員が「太田理財局長は民主党政権時代の野田総理の秘書官を務めていた。増税派だからアベノミクスを潰すために、意図的に変な答弁をしているのではないか」と発言した。安倍首相自身が消費税8%への引き上げを決定した「増税派」であるにも関わらず、歪んだ被害妄想で安倍政権を擁護する姿には呆れてしまう。

 私がツイッターなどで「安倍首相は消費税増税を中止すべき」と批判すると必ずネット右翼から「増税民主党が決めたことだ。安倍さんとは関係ない」と言い訳する書き込みが返ってくる。彼らは「安倍政権なら消費税が10%になっても20%になっても構わない」というのが本音なのだろう。

 特に、2ちゃんねるニコニコ動画で安倍首相を熱烈に支持する自民党ネットサポーターズクラブに関しては、カルト宗教や北朝鮮の国民が金正恩を崇める感覚に近く正直気持ち悪さすら感じてしまう。

 

 

安倍首相は消費税を5%に戻して責任を取れ

 ちなみに、日銀の黒田総裁や上念氏、高橋氏などのリフレ派(緩慢なインフレを継続させることで、経済の安定成長を図ることができると主張する経済学者)は金融緩和さえ行えば、消費税増税の影響を相殺してデフレから脱却できるとお考えのようだが、『完全失業率と大卒就職率が改善した理由』でも指摘したように2017年には消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)の数値が4年ぶりに前年比マイナスとなっている。

 アベノミクスを持てはやす経済学者は、消費税増税から数年が経ってデフレ不況に逆戻りしている事実についてどう言い訳するだろうか?まさか、「日経平均株価や有効求人倍率が上昇してるからデフレを脱却した」なんてトンチンカンな発言をしないことを願いたいが・・・。

 

 その上、物価が下落してデフレになると給料も減少するが、厚労省が発表した今年1月の実質賃金指数(速報値)を見ると「きまって支給する給与」が前年同月比マイナス1.4%と大幅な落ち込みになった。リフレ派は実質賃金の下落について「物価が上昇している影響」と反論しているが、これも嘘で最近ではコアコアCPIが2015年11月から下落しているのに加え、きまって支給する給与も2016年10月以降に下がっていることがわかる(図57を参照)。

 そもそも、消費者物価指数と実質賃金指数は90年代後半から共に下落しており、2000年を100とすると2017年はコアコアCPIが「95.6」(増税後の一時的な物価上昇を含める)、きまって支給する給与が「91.3」まで下がっている。この十数年間は物価が下落して実質賃金も減少する時代だったわけだ。

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 更に、経済ブロガーの山本博一氏は「実質賃金の低下により雇用者が増える」と述べているが、実際には1996~2016年の20年間で現金給与総額が13.7%も減少した一方で、年収200万円以下で働く貧困層は327.7万人も増加し、非正規雇用の割合も21.5%から37.5%まで上昇した(図58を参照)。

 山本氏は「人手不足が進むと企業は非正規雇用者の給料を引き上げて雇用を確保するようになる」とも言うが、2015年から人手不足な介護と医療の分野で介護報酬と診療報酬の削減が断行されている。就業者数が増加しても実質賃金が下落すれば、ワークシェアリングが進み非正規雇用の割合も高まってしまうのが現実のようだ。

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 高橋洋一氏は内閣支持率が急落しているのを受けて早速、『安倍首相退陣なら日本経済は悪化する…石破or岸田政権発足→景気悪化の悲観シナリオ』という記事を出した。安倍政権で既にデフレ不況に逆戻りしていることが明らかなのに、政策が大して変わらない石破氏をポスト安倍だと思っている時点で低レベルな擁護の仕方である。何故、森友問題に関して「国民に謝罪し、消費税を5%に戻すことで責任を取れ」と言わないのだろうか?

 今から首相になれるかどうかわからないが、私は消費税増税やTPPなど新自由主義的な政策に反対している自由党小沢一郎代表のほうがまだ次期総理に相応しいのではないかと思っている。少なくとも、「安倍さんならデフレ不況のままでも構わない」「安倍さんなら消費税10%になっても構わない」と思っている自称保守派やネット右翼を絶対に許してはならない。

 

 

<参考資料>

倉山満 『増税と政局・暗闘50年史』(イースト・プレス、2014年)

高橋洋一 『数字・データ・統計的に正しい日本の針路』(講談社、2016年)

     『これが世界と日本経済の真実だ』(悟空出版、2016年)

 

内閣支持率30.3%第二次安倍政権で最低

https://news.goo.ne.jp/article/ntv_news24/politics/www.news24.jp-articles-2018-03-18-04388319-html.html

平成25年10月1日 安倍内閣総理大臣記者会見

https://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2013/1001kaiken.html

自民・和田正宗議員「財務省増税派だから安倍政権を貶めるために変な答弁してるのでは?」と陰謀論増税は安倍政権の既定路線でした

http://buzzap.jp/news/20180319-wada-conspiracy-theory/

「実質賃金低下」の正体――“反アベノミクス”に反論

https://nikkan-spa.jp/861466

完全失業率と大卒就職率が改善した理由

完全失業率が改善したのは総人口が減少したから

 内閣府が2月14日に発表した2017年10-12月期のGDP速報値は、インフレの影響を除いた実質の年率換算で0.5%のプラス成長だったが、インフレを含めた名目では年率0.1%のマイナス成長となった。

 しかし、消費税増税の悪影響を認めたくないマスコミは相変わらず、「バブル期から約28年ぶりに8四半期連続のプラス成長」「雇用環境が改善して、着実に経済成長が進んだ」と景気回復を強調している。実質GDPで見れば、それこそ安倍政権の成長率(2013年1-3月期~2017年10-12月期の年率平均1.42%)より民主党政権の成長率(2009年10-12月期~2012年10-12月期の年率平均1.70%)のほうが高かったのが現実なのだ。

 

 金融緩和も財政出動も行わなかった民主党政権の成長率が高い理由は、間違いなく消費税がまだ5%で安倍政権より個人消費の伸びが良かったことが影響しているだろう。

 国民経済計算の民間最終消費支出を見ると、リーマンショックから安倍政権初期までの4年半(2008年10-12月期~2013年4-6月期)では約20.9兆円も増加していたのに対し、その後の4年半(2013年4-6月期~2017年10-12月期)では消費税増税の影響があって約1.0兆円程度の増加に留まっている(図52を参照)。

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 また、安倍首相は国会答弁などで口を開けば、「アベノミクスが成果を上げて、名目GDPが過去最高になった」と自画自賛するが、『消費税増税が少子高齢化を加速させる』でも指摘した通り、その成長率も安倍政権の前半(2013年1-3月期~2015年4-6月期)では年率平均3.15%にのぼっていたのに対し、安倍政権の後半(2015年7-9月期~2017年10-12月期)では年率平均1.25%まで下落してしまった。

 2017年には、消費者物価指数の中で最も重要なコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)の数値が前年比マイナス0.1%となっており、個人消費の著しい落ち込みによるデフレ不況への逆戻りは明らかだろう。

 

 更に、アベノミクスを評価する経済学者は「有効求人倍率が回復し、就業者数が増加している」と持てはやすが、就業者数が増えても1人当たりの実労働時間は2006年の月150.9時間から2016年の月143.7時間まで減少しており、延べ総労働時間はリーマンショック以前の水準に回復していない(図53を参照)。

 年収100万円以下で働く貧困層も2016年には421.9万人と80年代以降で最多を更新し、アベノミクスで雇用が改善したように見えるのはワークシェアリングが進んだ結果なのだ。

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 その上、完全失業率の低下についても景気回復より2010年以降の人口減少による影響が大きいだろう。図54を見ると失業率は2008年10月の3.8%から2009年7月の5.5%までは悪化していたものの、それ以降は人口減少と並行して緩やかに改善しているのがわかる。

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 「人口が減少して失業率も改善する」という現象はドイツやロシアでも発生していて、難民を受け入れる前のドイツでは2005~2011年に人口が8134万人から8028万人へと約106万人減っていたが、失業率は11.0%から5.9%まで低下した。ロシアでも1998~2017年に人口が1億4739万人から1億4338万人へと約401万人減ったが、失業率は13.3%から5.5%まで低下している。

 リーマンショック翌年である2009年の実質GDP成長率はドイツがマイナス5.6%、ロシアがマイナス7.8%と、金融危機の当事国だったアメリカのマイナス2.8%よりも悪化しており、決して好景気が失業率改善の主因ではないようだ。

 

 

大卒就職率の上昇は景気ではなく教育の成果

 ところで、2017年春に大学を卒業した学生の就職率は97.6%(昨年4月1日現在)となり、統計を取り始めた1997年卒から過去最高を更新した。大学就職率は2011年卒の91.0%から緩やかに回復を続けていて、2016年の参院選では公明党の山口代表が「アベノミクスが成果を上げて、大学生の就職率が過去最高になった」と宣伝材料にもしている。しかし、大学就職率の上昇は本当に景気回復が最大の理由なのだろうか?

 

 実際に、安倍政権の後半になって名目GDP成長率が落ち込んでいることに加え、休廃業・解散した企業の数は2000年の1万6110社から2017年の2万8142社まで増加している。この他にも、企業の経常利益は過去最高だが内部留保も400兆円を超えており、法人税や賃上げなどを通して企業が政府と従業員に利益を還元しているとは言い難い。

 また、毎年90%を超えている就職率にも「参考にする大学のサンプル数が限られている」「4月まで内定が取れず、翌年に持ち越した学生は就職希望者に含まれない」といったカラクリが存在し、必ずしも大学の就職状況を示した数字ではない。

 

 それでも、大卒就職率が上昇した理由について私は景気よりも教育の成果が大きいと思っている。例えば、図55では1968~2016年における未成年の検挙人員(少年人口比)と15~19歳の完全失業率の推移を示した。

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 このグラフを見ると60年代後半から80年代前半までは「若年失業率が低く、少年犯罪が多発していた時代」だったが、1987年以降は若年失業率と検挙人員が強い相関関係を表すようになり、特にバブル崩壊後の90年代後半から00年前半にかけては「若年失業率が大幅に悪化し、少年犯罪が微増した時代」と言える。

 90年代後半に未成年の検挙人員が微増したのは神戸連続児童殺傷事件(通称:酒鬼薔薇事件)の発生で、当時の警察庁が少年犯罪の取り締まりを強化した影響も大きいが、事件から5年後の2002年には若年失業率が12.8%と戦後最悪を記録しており、経済状況の悪化と少年犯罪の一時的な増加は無関係ではないだろう。

 本当に非難されるべきなのはまだ若年失業率が低く、一億総中流社会が根付いていたにも関わらず少年犯罪の多かった80年代以前である。当時は全国各地の中学や高校で校内暴力が大きな社会問題となり、1984年には臨時教育審議会が落ちこぼれを減らすために、授業時間を削減して全体のハードルを下げることを目的とした「ゆとり教育」を提唱している。

 

 それに対し、現代では「人口減少によって若年失業率が改善し、少年犯罪も減少する時代」に入りつつある。若者がどんどん優秀になっているのは少年犯罪の減少だけでなく、OECDが3年ごとに実施している生徒の学習到達度調査(PISA)の推移を見てもよくわかるだろう。

 PISAは、世界各国の15歳の子供(日本では高校1年生)を対象に「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」「読解力」の3科目を調査する形式を取っているが、その中でも「数学的リテラシー」の順位は2006年の10位から2015年の5位、「科学的リテラシー」の順位は2006年の6位から2015年の2位まで上昇した。

 

 これについて、マスコミでは「脱ゆとり教育の成果」だとする意見と、「総合的な学習の時間が功を奏した結果」だとする意見に分かれているが、どちらにしろ日本の子供たちの学力が回復していることは事実だろう。

 近年では将棋や卓球、フィギュアスケートなどで10~20代の選手が活躍し、バラエティでも様々な分野の天才キッズたちを特集する番組が増えている。こうした傾向は私が小中学生だった2000年代でもなかったように思う。

 

 嘉悦大学教授の高橋洋一氏は『安倍政権になってから就職率が高まり、今では就職に苦労していない。正直言って学生のレベルは同じであるが、政策によってこれほどの差があるとは驚きだ』と述べているが、変わったのは経済状況ではなく学生の側ではないだろうか。

 2007年の第一次安倍政権ではゆとり教育の見直しとして、小学校の総授業時数を278時間、中学校の総授業時数を105時間増加させることを決定し、2009年度から前倒しで実施された。

 

 80年代の中曽根改革から進められたゆとり教育によって学力格差が深刻化していた日本で、公教育の総授業時数を増やしたのは全体の学力の底上げに繋がった可能性が高く、現在の大学生は初期の脱ゆとり世代に含まれると言って良い。

 大卒の就職率が改善したことをどうしても安倍政権の功績にしたいのであれば、アベノミクスではなく第一次政権でゆとり教育を見直したことこそ評価されるべきだろう。

 

 

<参考資料>

池上彰池上彰の「日本の教育」がよくわかる本』(PHP研究所、2014年)

 

GDP実質年0.5%成長、消費・投資けん引 10~12月

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2687698014022018MM0000/

国民経済計算 2017年10-12月期 1次速報値

http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2017/qe174/gdemenuja.html

なぜ給料は上がらない? 安倍政権が主張する「雇用改善」の嘘と本当

http://www.mag2.com/p/money/333216

ドイツの人口・就業者・失業率の推移

http://ecodb.net/country/DE/imf_persons.html

ロシアの人口・就業者・失業率の推移

http://ecodb.net/country/RU/imf_persons.html

2017年3月卒大学生の就職内定率、過去最高の97.6%に

https://news.mynavi.jp/article/20170519-a164/

2017年「休廃業・解散企業」動向調査

http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20180115_01.html

図録 学力の国際比較(OECDPISA調査)

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3940.html

若者の「自民党支持増」はなぜか。左派系メディアにかわって教えよう

http://blog.goo.ne.jp/kanayame_47/e/224976e8b4732ee9effd3ec98ef49173

ゆとり教育 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%84%B1%E3%82%86%E3%81%A8%E3%82%8A%E6%95%99%E8%82%B2

消費税増税が少子高齢化を加速させる

少子化が進んだのは経済成長率が落ちたから

 厚労省が発表した推計によれば、2017年の出生数は94万1000人で戦後最少を更新する見通しになっている。前年の2016年も出生数が100万人を下回って大きなニュースになったが、昨年はそれより3万6000人も減少していたとは非常に驚きだ。

 少子化の原因として、よく挙げられるのは「結婚しない若者が増えたからだ」「女性が社会進出したからだ」「豊かな社会になったからだ」というものである。しかし、これらの理由は本当に少子化の「真の原因」なのだろうか?

 

 例えば、国立社会保障・人口問題研究所が18~34歳の未婚者に行った調査で、「いずれ結婚するつもり」と回答した割合は男性が85.7%、女性が89.3%と高く、日本の若者の結婚願望が低いとは決して言えない状況である。

 また、自民党改憲案に『家族は、互いに助け合わなければならない』という条項を追加しようとしている理由について「昨今、家族の絆が薄くなってきている」と述べているが、日本人の国民性調査で「一番大切なものは家族」と答えた人の割合は1958年の12%から2013年の44%まで増加していて、家族の絆はむしろ深まっているのだ。

 

 更に、国税庁総務省のデータによれば民間企業に勤める女性の平均年収は男性の53.7%程度に過ぎず、15~24歳女性の非正規雇用率も1991年の20.3%から2016年の51.2%まで上昇し、年収100万円以下で働くワーキングプア層(2016年、約422万人)のうち78.4%が女性である。

 バブル期の1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以降、女性の社会進出はほとんど進んでいないのが現実だろう。

 

 下記の図48は高度成長期から2016年までの名目GDP成長率と出生数の推移を示したもので、この図を見ると1970年代後半以降の成長率と出生数の低下には強い相関関係があることがわかる。つまり、日本で少子化が進んだのは「豊かな社会になったから」ではなく、「消費税増税など政府の緊縮財政で、経済成長率が落ちて国民が貧困化したから」と解釈することも可能なのだ。

 先進国の中で最も公的な教育予算が少なく、毎日消費される食料品にまで標準税率が適用される日本では20年以上続いたデフレ不況が少子化にも影響しているのではないだろうか。

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出生数の多い国は経済成長率も高い

 その上、消費税を導入した1989年からは少子化がより深刻になっていて、消費税3%だった1989~1996年は出生数の平均が年間121.5万人なのに対し、消費税5%だった1997~2013年の平均が年間111.3万人、消費税8%に引き上げられた2014~2017年の平均が年間98.2万人と、増税すればするほど出生数が減少していることがわかる。

 よく、増税賛成派は「少子高齢化社会保障費が足りなくなるから消費税を引き上げるべきだ」と言うが、消費税を10%以上に増税したら深刻なデフレ不況で若者が子どもを育てづらくなり、ますます少子化が加速するのではないだろうか。

 逆に、アフリカなどの発展途上国で子どもが多いのは、経済成長率が高く基本的にインフレだからとも言えるだろう。

 

 先進国でも少子化を克服したと言われるフランスは日本より経済成長率が高く、1990~2015年の名目GDP成長率は日本が年間平均0.74%なのに対して、フランスは年間平均3.08%にものぼっている。

 図49では、日本とフランスの名目GDP成長率と出生率の推移を示した。

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 フランスでは子どもが3歳になったときから義務教育が始まるなど、対GDPの公教育支出の割合(2010年)が5.9%と日本の3.8%より多く、政府の公共投資も1996~2012年にかけて日本が0.47倍へと縮小していったのに対し、フランスでは1.66倍へと拡大を続けている。

 フランスで出生率が高まったのは婚外子が多いからでも移民を受け入れたからでもなく、こうした手厚い福祉政策や公共事業で政府の投資を増やし続けているからのようだ。

 

 また、付加価値税を見ても標準税率は20%だが、食料品の軽減税率は5.5%と日本の8%より安く低所得世帯に優しいと言える。その一方で、若年失業率が非常に高いという問題こそあるものの、日本がフランスの子育て支援を参考にすべき部分は多いだろう。

 

 

デフレ不況で子どもの貧困率が悪化した

 2017年6月に公表された厚労省の「国民生活基礎調査」によれば、2015年の相対的貧困率は15.6%、子どもの貧困率は13.9%と前回の2012年よりやや改善した。

 「子どもの7人に1人が貧困」と聞いて実感がわかない人も多いと思うが、日本における子どもの貧困は主にひとり親家庭に多く、「大人が2人以上いる家庭」の貧困率は10.7%なのに対し、「大人が1人のみの家庭」の貧困率は50.8%である。また、都道府県別に見た子どもの貧困率は東京が10.3%なのに対し、大阪では21.8%、沖縄では37.5%と地域間格差が存在する。

 

 図50は、1985~2015年の子どもの貧困率と直近3年間の名目GDP成長率の平均を示したもので、この図を見ると1990年代以降の長引くデフレ不況と子どもの貧困率の悪化には強い関係が存在することが確認される。

 その一方で、子どもの貧困率が2012年の16.3%から2015年の13.9%まで改善したのは、主に世界経済の回復による名目GDP成長率の上昇が影響しているだろう。

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 また、男性の年齢別給与の推移を見ても、1997~2016年の19年間で子育て世代に当たる30代後半の年収は77.4万円、40代前半の年収は81.8万円も減ってしまった(図51を参照)。

 2012年に実施された「男女共同参画社会に関する世論調査」では、前年に東日本大震災が発生して家族の絆を再認識するムードが高まった影響で、『夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである』という考え方に賛成する割合が2009年の41.3%から51.6%まで増加したが、現代では高度成長期からバブル期にかけて終身雇用が当たり前だった時代と違って夫が妻や子どもを養えるだけの経済力を持っているとは限らないのである。

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子どもの貧困問題に冷淡な自民党議員

 ちなみに、安倍首相は2017年10月の衆院選で「アベノミクスによって雇用が改善し、相対的貧困率や子どもの貧困率が低下した」とアピールしていたが、残念ながら自民党は消費税増税で子育て世代の負担を増やしたり、低所得世帯の生活保護を削減したりと子どもの貧困問題について有効な対策を行っているとは言い難い。

 自民党の中でも右派議員として知られる山谷えり子氏は待機児童問題について「世の中に待機児童は居ない、居るのは待機親であり子どもは母親と一緒に居たい」と述べ、2017年の衆院選で当選した杉田水脈氏は沖縄の子どもの貧困率が高いことについて「子どもをほったらかしにしている母親が悪い」「できちゃった結婚が多いからだ」と暴言を吐いている。

 

 つまり、彼女たちにとって待機児童や子どもの貧困は母親の責任であって、政府が解決すべき問題ではないというのが本音らしい。「社会保障を全世代型に転換する」と宣言している政党の議員がこの程度の認識では、いつまで経っても子育て世代の社会保障が充実することはないだろう。

 

 更に、安倍政権下の実質GDP成長率の平均が民主党政権よりも低いことは既に指摘されているが、名目GDP成長率(2011年基準)も安倍政権前半の2012年10-12月期~2015年1-3月期では年率平均3.04%にのぼっていたのに対し、安倍政権後半の2015年4-6月期~2017年7-9月期では年率平均1.47%まで下落してしまった。

 子どもの貧困率は2015年に運良く改善したものの、現在では消費税増税から3年以上が経ちデフレ不況に逆戻りしているのは事実で、五輪特需が終了し消費税10%引き上げの影響が表れ始める2020年以降に再び子どもの貧困率が悪化してしまう可能性も否定できない。

 

 少子化や子どもの貧困を改善するためには、まず低所得世帯の生活保護就学援助制度を充実させ、公営子ども食堂を全国に普及させるのはもちろんのこと、消費税を3~5%に減税するか食料品を外食含め全て非課税にし、教育費支出や公共事業など政府の投資を増やす必要があるのではないだろうか。

 

 

<参考資料>

髙崎順子 『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮社、2016年)

中澤渉 『なぜ日本の公教育費は少ないのか』(勁草書房、2014年)

日本財団子どもの貧困対策チーム 『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』(文藝春秋、2016年)

杉田水脈我那覇真子「対談 沖縄の問題は日本の危機の縮図」 『ジャパニズム36』(青林堂、2017年4月)

 

17年の出生数2年連続100万人割れ 自然減40万人超え

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO24959800S7A221C1000000/

第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)

http://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou15/gaiyou15html/NFS15G_html02.html

一番大切なものは自分の命や健康から家族へ

http://www.garbagenews.net/archives/1659143.html

民間給与実態統計調査 長期時系列データ

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

労働力調査 長期時系列データ

http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.htm

OECD Data Nominal GDP forecast

https://data.oecd.org/gdp/nominal-gdp-forecast.htm

公共投資水準の国際比較

https://www.sato-nobuaki.jp/report/2017/20170529-002.pdf

平成28年 国民生活基礎調査

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/03.pdf

「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という意識の変化

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2410.html

どこか焦点がずれている安倍政権の女性・少子化対策

https://yoshiko-sakurai.jp/2014/08/09/5470

消費税増税は法人税減税の穴埋めに過ぎない

消費税収の8~9割が法人税減税に消えている

 安倍政権は「人づくり革命」として、消費税を10%に増税する代わりに企業の法人実効税率を中国並みの25%程度まで引き下げることを明言した。

 希望の党の小池代表もアメリカのトランプ大統領や、フランスのマクロン大統領を見習って法人税減税を推進している。

 

 日本では消費税が導入された当時から法人税減税が急速に行われていて、法人税の基本税率は1984~86年度の43.3%から2016年度の23.4%に引き下げられ、国税地方税を合わせた法人実効税率も、1984~86年度の52.92%から2016年度の29.97%まで引き下げられている。2018年度からは基本税率が23.2%、法人実効税率が29.74%となる予定だ(表9を参照)。

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 1989~2016年度まで日本人が払った消費税は計327.2兆円なのに対し、法人税は国と地方合わせて、税収が29.8兆円であった1989年度と比較すると計272.1兆円も減収した(図41を参照)。

 更に、森永卓郎氏の『消費税は下げられる』(角川新書、2017年)によれば、2014年からの消費税8%引き上げによる増税額(地方消費税を含む)のうち、初年度の増収額は8兆2462億円だった。

 それに対し、法人税は実効税率1%当たり6243億円の税収(法人事業税・住民税を含む)をもたらすため、実効税率を2010年度の40.86%から2016年度の29.97%に引き下げ、復興特別法人税を前倒し廃止したことによって、7兆7991億円もの法人税減税が行われていたことになる。

 つまり、消費税の財源は税収ベースで83.2%、税率ベースで94.6%が法人税減税の穴埋めに消えてしまったのだ。

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 マスコミの多くは「国の借金を返すために増税しなければならない!」「社会保障を充実させるために増税しなければならない!」と煽っているので、消費税の問題に関心を持って増税に反対している経済学者の本を読んだり、個人で講演活動を行っている方の話を聞いたりしない限り、消費税の財源のほとんどが法人税減税の穴埋めに消えている事実について知る機会が少ないは問題だろう。

 

 

法人税を減税しても海外への投資を増やすだけ

 消費税増税の代わりに、法人税を引き下げて企業に余力が生まれたとしても、増税で消費が停滞してデフレに陥るため、企業の利益は需要不足の日本ではなく海外へ投資される可能性が高い。

 例えば、日本の建設企業が海外の工場へ投資すれば、配当金として投資収益が日本に戻ってくるが、そのほとんどは株主に還元されたり、内部留保に蓄積されたりして企業で働いている従業員の報酬や国内建設には向かわない。その結果、国民の所得格差が拡大し、資金の海外流出によって経済効果はむしろマイナスに転じるのである。

 

 実際に、日本は政府による国内への設備投資の額を表す「公的固定資本形成」が1996年の46.7兆円から2016年の25.0兆円に減少する一方で、企業による海外への投資の額を表す「対外直接投資」は1996年の2.9兆円から2016年の18.4兆円まで増加した(図42を参照)。

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 安倍政権は「法人税減税で浮いたお金を内部留保ではなく、設備投資に回すよう企業に呼びかける」と言っているが、それなら内部留保に課税して政府の公共投資を増やしたほうが法人税を減税するより効果的ではないだろうか。

 また、希望の党は消費税増税凍結の代替財源として内部留保への課税を検討しているのは良いが、それと同時に公共事業の削減も推進しており政府の投資を増やすことには否定的なようだ。

 

 経団連などは内部留保について「自由に使える預貯金とは違う」「設備投資や企業買収などで既に使われている」と説明するが、400兆円を超える額には現金・預金など換金可能な資産も多く含まれていて、一部を活用することは可能である。 

 その上、内部留保が増加する一方で、企業や家計の住宅に対する投資を表す「民間住宅投資」の額は1996年の28.1兆円から2016年の15.8兆円まで減少していて、「内部留保の多くが設備投資に使われている」という説明には無理があるだろう。

 

 

企業が海外進出するのは人件費が安いから

 更に、「法人税が高いと企業が海外に逃げ出す」というのも嘘で、日本は80年代後半から法人実効税率を引き下げているが、海外に拠点を置いて活動する企業の数を表した現地法人企業数は1985年度の5343社から2015年度の25233社にのぼっており、企業の海外進出はこの30年間で4.7倍にも増加している(図43を参照)。

 法人税が高くて企業が他国に逃げるなら、今より1980~90年代のほうが企業の海外進出が多くなければいけないが、実際には法人税の高い時代のほうが企業は国内で仕事をしていたのだ。

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 帝国データバンクは2011年8~9月に、海外進出率の高かった製造業七業種の企業のうち、海外への進出が確認できない4306社にアンケート調査を実施した。

 回答のあった1565社のうち、海外へ進出する意向を示したのは245社で、その理由(複数回答)は「海外市場の開拓」が173社(70.6%)、「取引先企業の海外移転」が82社(33.5%)、「円高」が78社(31.8%)、「安価な労働力の確保」が58社(23.7%)という結果になっており、「有利な税制(法人税や優遇税制)」を選択した企業は21社(8.6%)に過ぎない(図44を参照)。

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 また、経産省の「海外事業活動基本調査」(2015年度)でも、海外進出を決定した際のポイントについて企業に3つまでの複数回答で聞いたところ、法人税が安いなどの「税制、融資等の優遇措置がある」を選択した企業は9.1%と一割にも満たなかった。

 「円高」などその時の経済状況に左右される理由を除けば、海外に進出する企業の多くが法人税の安さより「海外市場の開拓」や「安価な労働力の確保」を求めているのが実情のようである。日本とアジア諸国の賃金格差が数倍以上存在する場合、人件費の安い地域に生産拠点を移すのは自然なことだろう。

 もし、企業の国外流出を防ぎたいのであれば、法人税減税よりも海外に進出する企業に対して課税を行うべきではないだろうか。

 

 

法人税率を戻せば消費税増税する必要はない

 安倍政権がアベノミクス自画自賛する理由として、よく「企業が過去最高の収益を上げている」という発言がある。確かに、企業の経常利益は2016年度で75.0兆円と過去30年間で最も多く、バブル期であった1989年の38.9兆円より1.9倍も増加している(図45を参照)。

 消費税を増税して個人消費が大幅に落ち込んでも、景気が悪化したように感じないのはこうした背景があるようだ。

 

 しかし、国の法人税収は80年代後半以降に基本税率の引き下げが繰り返されたこともあり、1989年度の19.0兆円から2016年度の11.1兆円まで減少してしまった。もし、2016年の経常利益に1989年当時の税率(40%)が適用された場合、単純比較で法人税収は36.6兆円にものぼっていたことが予想される。

 これは2016年度の法人税収と消費税収を合わせた27.9兆円より多いため、法人税率を一昔前の水準に戻せば、消費税を引き下げても社会保障費を捻出することは可能なのだ。

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 10月22日の衆院選に向けたマスコミの報道では、どうしても「安倍首相 VS 小池都知事」の構図を作り出そうと必死に感じるが、彼らが法人税減税を推進していることに変わりはない。

 このブログをご覧になっている方々には、是非とも消費税増税法人税減税の両方に反対している政党に一票を投じてほしいと思う。

 

 

<参考資料>

「人づくり革命」推進の企業 減税

https://www.houdoukyoku.jp/clips/CONN00371074

小池都知事会見詳報(1)「日本に足りないのは希望」

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20170925/mog/00m/010/002000c

消費税廃止各界連絡会

https://www.facebook.com/zouzeistop/

海外事業活動基本調査 -2015年度実績-

http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result/h27data.html

法人企業統計調査

http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/index.htm

富裕層に増税して日本の軍事力を高めよう

消費税増税社会保障が充実するとは思えない

 9月25日、安倍首相は記者会見を開き、10月22日に衆議院選挙を実施することを発表した。2014年の衆院選と2016年の参院選では、選挙の前に消費税の引き上げ時期を延期したが、今回は増税延期の決断をせず、2019年10月の消費税引き上げを明確に争点化してきたと言えるだろう。

 安倍首相は「消費税収を全額、社会保障に使う」と言うが、その一方で自民党改憲案24条には『家族は、互いに助け合わなければならない』という条項が新設されており、これを削除しない限りどれだけ自民党が「教育無償化」や「介護離職ゼロ」を掲げても、『家族の問題は家族だけで解決してね』と自己責任論で見捨てる改憲案と矛盾することになる。

 

 また、自民党の中には麻生副総理が医療費負担について「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで、糖尿病になって病院に入っているやつの医療費はおれたちが払っている。公平ではない」(2013年4月24日の発言)と述べたり、山田宏議員が待機児童問題について「生んだのはあなた。育児は親の責任」(2016年3月31日の発言)と述べたり、大西英男議員が受動喫煙防止策について「がん患者は働かなくていい」(2017年5月15日の発言)と述べたりなど、社会保障の問題において自己責任を強要する発言が多く見られる。

 

 更に、『社会保障の充実を阻む「自己責任論」』でも述べたように、日本は先進国の中で最も貧困問題に対して自己責任論が強く、ベネッセと朝日新聞が小中学生の保護者を対象に行った調査でも、「豊かな家庭の子供のほど、より良い教育を受けられる傾向」があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した人が2008年の43.9%から2012年の59.1%まで増加している。

 日本で社会保障が充実しないのは消費税が安いからではなく、経済格差を容認し、貧困問題を自己責任で見捨てる国民の意識の問題なのだ。

 

 そもそも、都議選の惨敗から3ヵ月程度で衆議院を解散したのは、8月頃から北朝鮮の弾道ミサイルがいつ日本に落下してもおかしくないほど、国際情勢が緊迫化してきたことも背景として存在するだろう。

 もし、今後も北朝鮮がミサイルを発射して挑発を続けるようなら、安全保障に対する国民の不安の高まりから、財務省が「軍事費を増やすために消費税を引き上げろ!」と言い出す可能性も否定できない。実際に、明治時代から昭和初期まで税金は戦費調達のために存在していて、消費税の前身である「物品税」や、給料から所得税を控除する「源泉徴収」は戦時中の1940年に導入されているからだ。

 2011年3月に発生した東日本大震災直後の「復興増税」のように、どんな汚い手を使ってでも増税を煽ってくる財務省やマスメディアは許しがたいが、これだけ北朝鮮情勢が緊迫化する中で日本共産党社民党のような「消費税を引き上げる前に、軍事費を削減せよ」と主張するリベラル政党に支持が集まるとも思えない。

 

 

富裕層に増税して軍事費の財源を捻出すべき

 そこで、私は「所得税最高税率引き上げを財源として、防衛関係費を大幅に増額すること」を提案したい。例えば、世界恐慌の真っ只中だった1930年代のアメリカでは、当時のルーズベルト大統領がニューディール政策を行う財源として、所得税最高税率を24%から63~79%まで引き上げ、1950年代のアイゼンハワー大統領の時代には冷戦における軍事費を捻出するために、最高税率を91%まで引き上げている。

 この他にも、不動産に対する相続税率は1920年代の20%から1950年代の77%まで引き上げられ、法人税率も1929年の14%から1955年の45%まで増税された。戦後の高度経済成長期、日本人が憧れたアメリカの豊かな中流階級は、富裕層や資産家に高い税金を課して所得格差を解消したことで生まれたと言えるだろう。

 

 所得税最高税率を引き上げると、企業経営者たちの中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考え、従業員の給料を上げて社内の福利厚生を充実させたほうが、会社にとってメリットが大きいのではないかという意識が働く。

 実際に、日本は2015年に課税所得4000万円以上の富裕層に対して、最高税率を40%から45%に引き上げた影響で、消費税増税による個人消費の大幅な落ち込みにも関わらず、民間企業の平均年収は2014年の415.0万円から2016年の421.6万円まで、2年間で6.6万円上昇している。

 

 消費税増税の賛成派は「所得税最高税率を引き上げると、富裕層の海外流出を招いて日本経済の活力が失われる」と言うが、年収1000万円以上の給与所得者は2014年の199.5万人から16年の208.2万人まで8.7万人増加し、100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人も、2014年の245.2万人から16年の289.1万人へと43.9万人増加しており、所得税増税しても富裕層が海外に逃げるという事態は発生していないのだ。

 

 日本の防衛関係費は、アメリカの同時多発テロ事件の翌年である2002年度の4億9557億円をピークに2012年度の4兆6453億円へと減少していたが、近年は周辺諸国の安全保障環境が厳しさを増す中で2017年度の5兆1251億円まで増加を続けている(下記の図40を参照)。

 更に、防衛省は2018年度における一般会計予算でも、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃に対する防衛強化などで5兆2551億円の軍事予算を要求し、今後も防衛関係費は増加の一途をたどると予想される。軍事費の財源として富裕層に増税すれば、景気を悪化させることなく国防を強化できるだろう。

 間違っても、太平洋戦争中の「ぜいたくは敵だ!」「欲しがりません勝つまでは」といったスローガンで国民の消費を抑制し、経済を疲弊させてはいけないと思う。

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<参考資料>

ポール・クルーグマン 『格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略』(三上義一 訳著、早川書房、2008年)

和田秀樹 『経営者の大罪 なぜ日本経済が活性化しないのか』(祥伝社、2012年)

 

自民改憲案第24条は「家族の問題は家族だけで解決してね。国は保護しないよ」、「結婚する相手や住居を選ぶ自由は無いよ」というトンデモ内容だった

https://togetter.com/li/997432

「格差はつくられた」を読む(1)

http://www.geocities.jp/yamamrhr/ProIKE0911-108.html

平成28年分 民間給与実態統計調査

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2016/pdf/001.pdf

アベノミクスの3年で富裕層は1.4倍増と先進国トップ

http://editor.fem.jp/blog/?p=2431

World Wealth Report  Compare the data on a global scale

https://www.worldwealthreport.com/Global-HNWI-Population-and-Wealth-Expanded-Around-the-Globe

一般会計税収の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.htm

防衛関係費の推移

http://www.mod.go.jp/j/publication/net/shiritai/budget_h26/img/budget_01_a.jpg

平成29年度防衛関係予算のポイント

http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2017/seifuan29/19.pdf

概算要求、4年連続100兆円超=社会保障、防衛費増-18年度

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017082501140&g=eco