消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

増税の悪影響は五輪特需で相殺できない

東京五輪の裏で進められる消費税増税

 参院選後の2016年10月に、自民党は総裁の任期を「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長することを決定した。安倍首相が総裁に就任したのは2012年9月なので、連続3期9年になると2021年9月まで首相を続けられる。安倍首相本人は、2020年に開催される東京五輪まで内閣を続けることを意識し、佐藤栄作内閣(1964~72年)の在任日数2798日を超える戦後最長の政権を目指している。

 仮に、安倍氏東京五輪まで首相を続け、これ以上増税を延期しなかった場合、在任中に消費税を2段階引き上げる初めての首相となるだろう。

 

 個人的に、安倍首相には消費税増税で景気を悪化させ、公約違反のTPPに参加表明した責任を取って早期に辞任していただきたいが、自民党谷垣禎一氏のような総裁経験者から小泉進次郎氏のような若手議員までほとんど全員が増税に賛成しており、誰が首相になっても「将来的に消費税を10%以上に引き上げる」という姿勢は変わらなさそうである。

 そのため、2019年10月に予定されている消費税増税を中止するためには、次の衆院選自民党を敗北に追い込むしか方法がないのかもしれない。

 

 また、消費税増税の時期を2019年10月にしたのは翌年に東京五輪の開催が控えており、増税による消費の落ち込みを「五輪特需」で相殺できるだろうという思惑が感じられる。「オリンピックを開催すれば必ず景気が良くなる」と考える人は高度成長期の真っ只中である1964年に開催された東京五輪を思い浮かべているのかもしれないが、東京五輪は1964年だけでなく戦時中の1940年にも開催される予定だった。

 1940年の東京五輪日中戦争の長期化によって開催中止が余儀なくされたが、翌1941年には太平洋戦争が勃発し、1945年に敗戦を迎えた経緯から「オリンピックを招致すれば必ず経済が良くなる」と考えるのはあまりにも楽観的過ぎるだろう。もちろん、1940年と現在では時代背景が全く異なるが、2020年の東京五輪は新国立競技場の予算削減やエンブレムの盗用疑惑、競技会場の見直しといった諸問題が相次いだこともあり、1964年当時のような国民的な盛り上がりに至るとは思えない。

 

 東京五輪の経済効果について、招致委員会とスポーツ振興局は2013年から2020年までの7年間で約3兆円と見込んでいるが、これは2015年の日本の名目GDP(約499.3兆円)における0.6%程度に過ぎなく、決して大規模な数字だとは言い難い。その一方で、消費税増税の悪影響について世界銀行が発表している名目GDPの推移を見ると、1996~98年の2年間では4兆7060億ドルから3兆9150億ドルへと7910億ドル(約87.0兆円)減少し、2013~15年の2年間でも4兆9090億ドルから4兆1230億ドルへと7860億ドル(約86.5兆円)減少している。

 5%と8%に増税した時期に、オリンピック開催による経済効果の28~29倍もの名目GDPが失われていることから、五輪特需のプラス効果よりも消費税増税のマイナス効果のほうがはるかに大きいと言えるだろう。

 

 

五輪の経済効果は地方にまで波及しない

 更に、政府は地方創生として2020年までに訪日外国人観光客を年間3000万人へと増加させる目標を掲げているが、東京五輪の開催が本当に外国人観光客の増加に寄与するかどうかは疑問である。例えば、2012年のロンドン五輪で、開催時期の7~8月にイギリスを訪れた観光客は2011年の657万人から12年の617万人へと前年比で6.1%も減少している。

 五輪開催時期に観光客が減るのは、道路の渋滞やホテルの価格高騰といった問題を避けるために、オリンピック以外の目的で訪問予定だった人々が観光を取り止めた可能性が指摘されている(小川勝「東京オリンピック 『問題』の核心は何か」 集英社、2016年)。五輪を開催することによって、自動的に観光客の増加に繋がると思うのはあまりにも短絡的ではないだろうか。

 

 日本では近年、外国人観光客が急増しているが、その行き先が都市部に偏っていることが問題点として挙げられている。世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」によれば、2014年に日本の観光地に寄せられた外国語の口コミ数を都道府県別に見ると、東京は33.6%、京都は16.0%、大阪は10.0%と三県だけで全体の約6割近くにものぼる。

 筆者の住む群馬県では2014年6月に「富岡製糸場」が世界遺産に登録されたが、富岡製糸場の入場者数は2014年度の133.8万人から2015年度の114.5万人へと減少し、2016年度も月別入場者数が10万人を超えたのは10月のみとなっている。この間、外国人観光客は2014年が1341.3万人、2015年が1973.7万人、2016年が2198.8万人(11月まで)へと右肩上がりで増えているにも関わらず、地方の世界遺産入場者は減少に転じたのである。

 

 2020年の東京五輪は当初、東日本大震災の「復興オリンピック」とも言われていたが、外国人旅行者の訪問先は未だ都市部に限定的であり、五輪を開催することで地方にまで経済効果が波及する可能性は低いのではないだろうか。2014年4月に実施された消費税増税でも、新潟市のスーパーが新型レジに買い替えることができなくて倒産するなど、東京よりも地方のほうが増税の影響を受けやすかった。東京五輪の開催に便乗して消費税を再び引き上げれば、地方の衰退がますます加速するだろう。

 

 また、政府が見通さなければいけないのは安倍首相が辞任し、東京五輪が終了した2020年以降の日本経済である。例えば、ギリシャは2004年のアテネ五輪後、付加価値税を18%から23%まで増税して2010年に財政破綻している。日本でも、東京五輪が終わった後に財務省が「オリンピック予算でお金を使い過ぎてしまった」などの理由をこじつけて、消費税を15%や20%まで引き上げる話が出てくるかもしれない。

 野党も安倍政権を倒閣することを目標にするのではなく、安倍首相が辞任した後の政治について本格的に計画を立てていくべきではないか。

 

 

<参考資料>

自民党、総裁任期を延長へ 「3期9年」案が軸

http://www.asahi.com/articles/ASJBM4KGSJBMUTFK00N.html

日本 名目GDP(1960~2015年)

http://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?locations=JP

東京都は2位東京スカイツリー! 訪日外国人に話題の日本の観光地ランキング

http://news.mynavi.jp/news/2015/04/01/457/

統計データ(訪日外国人・出国日本人)

http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/

消費税の歴史(2014~2016年)

安保法制成立後も崩れない安倍内閣の政権基盤

 日経平均株価は、外国人投資家がけん引している影響で増税後も緩やかな上昇を続け、2015年4月には2万円を超えることになった。しかし、2013年に日銀の黒田総裁が掲げていた「2年後に物価上昇率2%を実現する」という目標は達成できず、14年度の消費者物価上昇率増税の影響分を除くと0.8%のみの上昇であった。2014年の実質GDP成長率もプラスマイナス0%と、アベノミクスが想定した景気回復には遠く及ばなかった。

 だが、この頃になると山一證券破綻のような大規模な金融恐慌がなく、安倍内閣の政権基盤が安定している影響もあって、増税後の景気悪化から現実逃避しようとする閣僚の発言が相次ぐ。甘利大臣や谷垣幹事長は「消費支出の落ち込みは天候不順が原因」だとし、安倍首相もTBSの報道番組「NEWS23」(2014年11月18日放送)に生出演した際に、「景気が良くなったとは思わない」「アベノミクスを感じていない」という街頭インタビューに対して、「内容が意図的に編集されたのではないか」と言い訳した。

 

 また、麻生副総理は12月8日の街頭演説で、「日経平均株価はこの2年間で17000円まで上がった。その結果として、企業は大量の利益を出している。出していないのはよほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」と自己責任論を強要した。

 安倍首相を熱烈に支持している経済評論家の上念司氏も「ジャパニズム23」(青林堂、2015年2月)の中で、「アベノミクスの恩恵にあずかれないと文句を言っている人は『賃金が上がっていない』と主張して、単に迎合するだけで何の理論的裏付けもない評論家のカモになるのが運命」とこき下ろし、2013~14年に円安倒産が増加したことについては「アベノミクスに対する本気度を疑っていたから倒産しただけの話」と企業側に責任を押し付けている。

 

 上念氏は、民主党政権の時代まで「次に消費税を上げれば、1997年以降に襲った不況より三段階も四段階も上のすごい不況が襲いかかってくるかもしれない」と増税を厳しく批判しており、安倍内閣になってから増税容認に変節したのだ。彼のように「憲法改正に積極的な安倍首相なら何をやっても許される」と勘違いした保守言論人は非常に多いようである。

 

 しかし、2015年5月に「安全保障関連法案」が閣議決定されたことを受け、国会前では連日のように大規模な抗議デモが開催されるようになる。更に、8月11日には川内原発が再稼働され、東日本大震災以前まで原子力を推進していた政府の方針に回帰し始めた。それでも、安倍内閣の政権基盤が大きく揺らぐことはなく、同年9月に行われた自民党総裁選では安倍首相が無投票で再選を果たす。

 総裁選には安保法制に慎重な立場を示していた野田聖子氏と、若手議員として期待される小泉進次郎氏の出馬が取り沙汰されていたが、立候補に必要な推薦人20名を集められないなどの問題で、直前になって出馬を断念している。

 

 

アベノミクスを自画自賛する安倍首相

 安倍首相は、2015年11月に開催された自民党の「立党60年記念式典」でアベノミクスを自画自賛し、有効求人倍率について「23年ぶりの高い水準」「高度成長期やバブル期よりも雇用条件は良くなった」と述べた。だが、有効求人倍率の上昇は2010年の菅内閣の時から始まっており、アベノミクスよりもリーマンショックから回復した影響が大きいと思われる。

 

 また、2015年の有効求人倍率は1.20倍だったが、高度成長期のピークに当たる1973年(1.76倍)やバブル期の1990~91年(1.40倍)には届いていないため、「有効求人倍率が過去最高の水準になった」という安倍首相の認識は間違っていたのである(厚労省「一般職業紹介状況」より)。

 私が大学3~4年生の頃は既に安倍内閣だったが、「就職活動が以前より楽になった」という話は全く聞いていない。今も大学生の多くが就職活動に苦労しているのに、「バブルの頃より雇用条件が良くなった」と自画自賛するのはあまりにも無責任だろう。かつて安倍首相ほど自身の経済政策を過大に評価した総理大臣が存在しただろうか。

 

 アベノミクス第二の矢である「機動的な財政政策」では、国土強靭化として公共事業の大盤振る舞いを宣言していたが、政府の公共投資(公的固定資本形成)は2013年10~12月期の22.7兆円から2016年7~9月期の21.2兆円まで減少している(内閣府「国民経済計算」 2016年7~9月期一次速報値 実質季節調整系列 2005年基準より)。

 安倍首相がアベノミクスを自画自賛すればするほど増税後の景気対策は遅れ、財政も緊縮的になってきているのが現実のようだ。

 

 更に、名目賃金の実質的な購買力を示すために用いられる「実質賃金指数」も安倍内閣になってから下落を始め、特に消費税が8%に引き上げられた2014年4月以降は低迷した状況が続いている(図26を参照)。経済ブロガーの山本博一氏は「実質賃金の低下により雇用者が増える」と述べているが、正規雇用数は第一次安倍内閣だった2007年4~6月期の3490万人から、2016年4~6月期の3367万人まで100万人以上も減少しており、増加したのは今まで通り非正規雇用者のみである。

 アベノミクスを評価する人々は「企業が過去最高の収益を上げている」と自慢するが、全国企業倒産件数が1万件を下回っても雇用は改善せず、消費税増税のせいで景気回復を実感できないのではないだろうか。

 

 その上、民間最終消費支出は東日本大震災後の2011年4~6月期(299.3兆円)から増税前の2014年1~3月期(321.5兆円)まで緩やかに上昇していたものの、消費税を引き上げると急に落ち込み、2014年4~6月期から2016月7~9月期までは305~308兆円で推移している(図27を参照)。

 マスコミの多くは増税直前の2014年3月まで「消費は増税後の4~6月期に大きく落ち込むものの、7~9月期にはそれを取り戻す程度に回復する」と予想していたが、結局のところ増税から2年以上が経過しても消費はまだ回復していないのだ。

 

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増税延期の判断は長期的に見て正解だった

 だが、2016年に入ってからは、2017年4月から予定されていた消費税10%への引き上げについて最終的な判断が安倍内閣に求められるようになった。安倍首相は当初、「リーマンショック東日本大震災級の災害でも起きない限り、予定通り引き上げる」と発言したが、3月にはアメリカから来日した経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授やポール・クルーグマン教授が「まだデフレ脱却には至っていない」と安倍首相に消費税増税の中止を提言している。

 更に、4月14日と16日には熊本県で巨大地震が発生し、死者は157人、負傷者は2300人を超える大災害となった。「東日本大震災の再来か」と言われたこの災害の後、当然のことながら消費税増税について政府の判断は揺らぎ、舛添都知事が政治資金を公私混同していた問題も自民党にとって逆風になりつつあった。

 

 7月の参議院に向けて、多くの有権者がどの政党に投票しようか決めかねている中で、安倍首相は6月1日に記者会見を開き、消費税10%への引き上げ時期を2017年4月から2019年10月に2年半(30ヵ月)延期することを決定した。

 増税の再延期について、経団連の榊原会長は「日本経済を再びデフレに戻さない、経済再生を最優先するという安倍総理の揺るぎのない強い決意を示されたものと理解する」と評価した一方で、日本商工会議所の三村会頭は「消費税を引き上げられないようなら、日本は財政的に破綻する」と批判し、経済同友会の小林代表も「再延期は政治判断だと思うが、納得できるように国民に説明する責任がある」と述べた。

 

 しかし、毎日新聞が2016年5月28~29日に行った世論調査で、安倍首相が消費税増税の延期を検討していることについて、延期に賛成している人は66%と、反対の25%を大きく上回った。毎日新聞と同時期に実施された共同通信の調査でも、増税延期に賛成する人は70.9%と、反対の24.7%を大きく上回っており、国民の多くは政府の説明がなくても増税延期を納得しているのである。

 

 また、財務省は「増税延期による国債の暴落」を懸念していたが、消費税の引き上げ時期が2017年4月に延期されても、2019年10月に延期されても国債が暴落するような事態は発生しなかった。そろそろ国民に嘘をついて、増税を煽るような手法はやめるべきではないだろうか。

 むしろ、2016年の夏から秋にかけて、イギリスの国民投票でEUからの離脱を決定したり、アメリカの大統領選でトランプ氏が勝利したりと、世界に衝撃を与えるニュースが続いたため、日本が消費税増税を延期したのは賢明な判断だったと言えるかもしれない。

 

 

野党共闘が成功したとは言えない参院選

 2016年7月10日に実施された参院選では、安倍首相が消費税増税を延期し、「憲法改正」や「安保法制の是非」といった重大争点に触れなかったことが功を奏して、自民党は115議席から121議席へと6議席増やして勝利した。今回の選挙では自民党公明党におおさか維新の会などを加えた「改憲勢力」の議席が3分の2を超えたため、安倍内閣が目指す憲法改正が現実味を帯びてきた。

 野党では、民進党日本共産党などが安保法制を廃止させるために選挙協力を行い、福島と沖縄の選挙区で「野党統一候補」が現職の自民党議員に勝利するなど一定の成果は表れたものの、安倍内閣に緊張感を与えるまでには至らなかった。

 

 今回の参院選では、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられた後に実施された初めての選挙だったが、読売新聞が年代別に比例選挙をどの政党に投票するか調査したところ、18~19歳は自民党に投票すると回答した人が他の世代よりも多かったという(写真を参照 「自民、比例第1党の勢い…10代の半数与党支持」 2016年7月6日より)。

 参院選での18~19歳の投票率は46.78%で、20代(35.60%)と30代(44.24%)よりは上回ったものの、40代(52.64%)、50代(63.25%)、60代(70.07%)、70代(60.98%)といった中高年層より低いため、「自民党は若者から支持されている」とは一概に言えないだろうが、少なくとも民進党共産党が呼びかけた「野党共闘」のメッセージが若年層に届いていないことは事実のようである。

 

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 2015年の夏には、安保法制に反対するために結成された学生団体の「SEALDs」が話題になったが、NHKが18~19歳を対象にした『政治と社会に関する若者意識調査』(同年11~12月実施)で、「あなたは、政治にかかわる集会やイベントに参加したことがありますか」と質問したところ、「参加したことがある」と答えた人は2.3%に留まり、「参加したことはないが、今後参加するかもしれない」が38.3%だった一方で、「参加したことがないし、今後も参加するつもりはない」は過半数の59.0%を超えていた。

 つまり、国会前で抗議デモを繰り広げていた「SEALDs」は決して若者の代表ではなく、10代や20代の多くは選挙があれば投票に行くが、政治活動までは興味を持っていないのが実情ではないだろうか。

 

 

若者の多くは景気や雇用を重視している

 また、朝日新聞が2016年2~4月にかけて、18~19歳の3000人に「今の政治で力を入れてほしいこと」を複数回答で挙げてもらうと「景気・雇用」(72%)が最も多く、次いで「年金・医療などの社会保障」(61%)が多かった(図28を参照)。

 ちなみに、同じ調査で憲法改正の是非について尋ねたところ、「変える必要はない」が57%と半数を超え、憲法9条についても「変えないほうが良い」は74%で、「変えるほうが良い」の20%を大きく上回った。

 

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 このことから、7月の参院選で野党が勝てなかったのは安保法制廃止のアピールが足りなかったのではなく、安倍内閣に対抗できる経済政策を打ち出せなかったことが原因だと考えられる。特に民進党は、岡田元代表が消費税10%への引き上げについて「予定通り実施すべき」と容認する発言をしており、「自民党増税に慎重だが、民進党増税に賛成している」というイメージを有権者に与えてしまったのではないだろうか。

 

 日本共産党に関しても、6月26日放送のNHK日曜討論」で藤野保史議員が、防衛費について「人を殺すための予算」と発言したことが問題になった。この発言を受けて、藤野氏は共産党の政策委員長を辞任したが、こうした防衛費を敵視する考え方は自衛隊の方々に失礼なだけでなく、日本共産党のイメージ悪化に繋がる可能性が高いと思われる。

 そもそも、第二次世界大戦前であれば税金は戦費調達に使われていたが、現代の消費税収のほとんどは法人税減税の穴埋めに消えているのであって、防衛予算に使われているとは言い難い。日本共産党は今後、改憲反対や防衛費削減といった軍事に関する主張よりも、消費税増税反対、TPP批准反対、原発再稼働反対といったより身近な問題こそ優先して主張すべきではないだろうか。

 

 自由党の小沢代表は2016年11月26日、大阪で開かれた党府連総会で早期の解散総選挙に備え、民進、共産、社民との野党共闘について年内に道筋を付けるべきだと訴えた。2017~18年に実施が予定されている次の衆院選は、蓮舫代表や野田幹事長とは別に民進党増税反対派議員が憲法改正ではなく、消費税引き上げを阻止するために共産党社民党自由党などの野党と選挙協力を行うべきだろう。

 

 

<参考資料>

安倍首相、TBS「街の声」に異議 「意図的な編集」ほのめかす

http://www.j-cast.com/2014/11/19221293.html

麻生太郎氏「利益出してない企業は運が悪いか能力ない」

http://www.huffingtonpost.jp/2014/12/06/taro-aso_n_6282148.html

立党60年記念式典 安倍晋三総裁演説(全文)

https://www.jimin.jp/aboutus/convention/60th/130961.html

スティグリッツ氏「消費増税すべきでない」 国際経済分析会合

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK16H26_W6A310C1000000/

ノーベル経済学賞受賞・クルーグマン教授、消費税増税の先送り提言をする

https://www.youtube.com/watch?v=YjHYVA80uHk

本社世論調査 増税延期「賛成」66%

http://mainichi.jp/articles/20160530/k00/00m/010/038000c

内閣支持率55%に上昇 米大統領広島訪問98%評価

http://www.sankei.com/politics/news/160530/plt1605300002-n1.html

国政選挙における年代別投票率について

http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

自民、比例第1党の勢い…10代の半数与党支持

http://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/2016/news2/20160705-OYT1T50109.html

政治と社会に関する若者意識調査 単純集計結果

http://www.nhk.or.jp/d-navi/link/18survey/img/0125_yoron.pdf

「格差、行き過ぎている」59% 18~19歳世論調査

http://www.asahi.com/articles/ASJ475JFLJ47UZPS003.html

4野党共闘、年内に=衆院選にらみ全国行脚-自由・小沢氏

http://www.jiji.com/jc/article?k=2016112600168&g=pol

消費税の歴史(2012~2014年)

再び増税前の好景気にわいた2013

 政権が民主党から自民党へと戻り、2012年12月に就任した安倍首相は自らの経済政策を「アベノミクス」と題して、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という『三本の矢』を提示した。2013年3月には前年の衆院選での公約に反して、TPP環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を表明するなど混乱はあったものの、2012年11月から始まった日経平均株価の上昇に支えられ、7月の参院選でも議席を31名増やして勝利し、「ねじれ」を解消することになった。

 

 しかし、安倍内閣は翌2014年4月から実施される予定の消費税増税について最終的な判断を迫られ、8月26日から31日にかけて有識者60名から意見を聞く政府の「集中点検会合」が開かれた。増税賛成派には、伊藤隆敏氏、熊谷亮丸氏、土居丈朗氏など財務省と関わりが強く、法人税減税を推進している学者がほとんどだった一方で、増税反対派には筑波大学名誉教授の宍戸駿太郎氏や三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士氏など、ケインズ経済学や応用軽量経済学の観点から「消費税引き上げより経済成長を優先させるべき」と主張する学者が多かった。

 だが、この有識者会議は増税賛成派と反対派が長時間にわたって大いに議論することなく、「反対派の意見も聞きました」というアリバイ作りに利用されただけであった。

 

 また、アベノミクスの弱点は日経平均株価が上昇しても、多くの人が景気回復を実感できないという部分にあった。共同通信が2013年4月に行った世論調査によれば、「アベノミクスで所得が増えると思う」と回答した人は24.1%だったのに対し、「所得が増えないと思う」との回答は69.2%にのぼっており、期待が広がっていないことは明らかだった。

 更に、消費税を5%に引き上げる前年の1996年も好景気だったが、翌年から景気が悪化したためこのまま「社会保障・税一体改革関連法案」の通り消費税を8%に増税してしまえば、せっかくの「デフレからの脱却」も失敗に終わってしまう可能性が高かった。

 

 本田悦朗内閣官房参与は8月11日、安倍首相に「景気は確かに昨年より今年のほうが良いが、デフレ脱却できるほどまだ回復が強くない。消費税を増税するなら、3%ではなく毎年1%ずつ上げていったほうが良いのでは」と直接助言した。

 また、イェール大学名誉教授の浜田宏一内閣官房参与も「デフレから回復しているこの勢いがなくなっても良いのだろうか。日本で15年間続いてきたデフレ経済を直すためには、もう少し時間が必要なのではないか」と消費税増税を思いとどまらせる内容の手紙を安倍首相に送ったという。

 

 2012年に成立した「社会保障・税一体改革関連法案」では、時の政権が経済状況を判断して増税を延期することができる「景気弾力条項」が盛り込まれていた。四半期別実質GDPの成長率は2013年1~3月期が年率4.1%に上昇していたものの、4~6月期の速報値は年率2.6%と回復に遅れが出始めており、世耕官房副長官は「悪い数字ではないが、思ったよりプラス幅が少ない」と不満を口にし、甘利大臣も「安倍首相が増税を決断するほど景気回復は進んでいない」と見ていた。

 だが、2013年9月7日にブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会総会で、2020年に開催される東京オリンピック招致が決定したことを受け、五輪予算に最低でも7300億円が掛かると報道されると政府は「オリンピックを開催するために増税が必要」という世論作りに躍起になる。安倍首相は「五輪招致決定と消費税引き上げは直接関係ない」と述べたが、東京オリンピックがその後の増税決定を大きく後押ししたことは間違いないだろう。

 

 

デフレ脱却前に消費税増税を決定した安倍首相

 消費税増税は最終的に、安倍首相が10月1日に記者会見を開き、2014年4月から8%へ引き上げることを決定した。記者会見の中で安倍首相は「我が国の経済は次元の違う『三本の矢』によって、回復の兆しを見せている」と強調し、その根拠として2013年4~6月期の実質GDP成長率の改定値が年率3.8%に上方修正され、二期連続で3%以上のプラス成長を続けたことを挙げたが、実際はその後の確定値で年率2.8%に下がってしまった。「二期連続で3%以上のプラス成長を続けた」と景気回復を強調する安倍首相の発言は明らかな嘘だったのである。

 

 また、年間の実質GDP成長率も2012年の1.7%から2013年の1.4%へと伸び悩み、名目GDP成長率は2012年も13年も0.8%とほぼ横ばいだった。自民党員でありながら消費税引き上げに反対している経済評論家の三橋貴明氏は「日本がデフレから脱却し、増税できる経済状況に持っていくには年間の名目GDP成長率が8%以上に達する必要がある」と述べており、90年代後半から15年間続いてきたデフレ不況を第二次安倍内閣が発足してからたった1年で解決できるはずもなかった。

 

 安倍首相は2012年6月のメールマガジンで、当時の野田内閣が「社会保障・税一体改革関連法案」を衆議院で可決させたことを批判し、「デフレからの脱却を果たして、成長戦略を実施する条件が満たされなければ消費税の引き上げを行わないことが重要」と述べていたが、いざ自分が首相になると一時的な景気回復を過信して、デフレ脱却が不十分なうちに消費税増税を決定してしまったのである。積極財政のイメージが強い安倍内閣だったが、この2013年10月1日を境に緊縮財政へと舵を切っていくことになる。

 

 ちなみに、同年12月2日にはアベノミクスを腰折れさせないための景気対策として、政府は東日本大震災の復興財源を捻出するために導入された「復興特別法人税」の前倒し廃止を決定した。復興特別法人税を廃止するくらいなら、最初から消費税増税そのものを中止すべきだと思うのだが、竹下内閣や橋本内閣と同様に今回も「消費税引き上げの代わりに、法人税を減税する」という手法が実施されたと言えるだろう。

 

 安倍首相が8%への引き上げを決定する直前の2013年9月27日には、大規模な消費税増税反対デモが開催され、日比谷野外音楽堂とその周辺に5000人を超える参加者が集まったが、このような増税反対デモは長続きせず、10月1日にはテレビの街頭インタビューで「仕方がない」「受け入れるしかない」と諦める人々の姿が映し出された。

 翌2014年1月にも大型ショッピングモールが「増税前、最後のお正月」と駆け込み消費を煽る内容のCMを放映し、3月21~23日の三連休には駆け込み消費が起こることを想定した企業側の戦略をマスコミが取材していた。私はこれらの番組を見ていて「企業やテレビ局は何故、増税後に景気が悪化するかもしれないことを心配しないのか」と強く疑問に思ったことを覚えている。

 

 駆け込み消費について総務省の家計調査によれば、2014年3月の実質消費支出は前年同月比プラス7.2%という高い伸び率になった。これは、消費税導入前の1989年3月(同プラス6.3%)、前回消費税引き上げ前の1997年3月(同プラス5.8%)を上回る水準で、大型家電や日持ちする食料品の買いだめなど幅広い分野で消費支出が増加している(「景気見通しの後退で消費者心理は小幅な悪化」 リサーチ総研CSI消費者心理調査 2014年5月)。

 しかし、その後も政治的に大きな混乱はなく、4月1日からとうとう消費税は8%へと引き上げられてしまう。

 

 

4~6月期のGDP成長率は大幅に悪化

 安倍首相は増税後、初めての週末である4月5日に日本橋三越本店で買い物をし、「消費税がだいぶ高くなったという実感があった」と発言した。これに対して、インターネット上では「何、呑気なことを言ってるんだ」と批判が相次ぎ、増税を決めた政府と消費税が上がって節約に苦労している国民との実感の差が浮き彫りになった。

 また、新潟市の地元スーパーでは消費税8%に対応可能な新型レジに買い替えることができないため、2014年3月に4億円以上の負債を抱えて破綻したことも報道された。奈良県の南都経済研究所が9~10月に行った調査でも当時、2015年10月に予定されていた消費税10%への引き上げについて「反対」と回答した企業は51.1%にのぼり、「賛成」と答えた企業の39.0%を上回っている(「第161回地元企業動向調査結果」 ナント経済月報 2014月11月号)。

 このようなニュースや調査から、消費税増税は東京よりも地方のほうが影響を受けやすいことがわかるだろう。

 

 安倍内閣は2014年7月に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を経て、9月3日に初の内閣改造を行った。内閣改造の理由は集団的自衛権の影響で内閣支持率が低下したこともあるが、一番はやはり消費税増税から数ヵ月経過して景気に陰りが見えてきたのが大きいだろう。1997年当時、橋本内閣は消費税引き上げから約半年後の9月11日に内閣改造を行ったが、2014年の安倍内閣増税から半年経った9月3日に内閣改造を行ったことは特筆すべき事項かもしれない。

 

 2014年4~6月期のGDP成長率は年率マイナス7.8%に悪化し、民間最終消費支出は年率マイナス17.8%、民間住宅投資は年率マイナス37.0%、民間企業設備投資は年率マイナス15.6%へと大きな落ち込みを示している。更に、家計消費水準の実質的な向上分を示す「消費水準指数」も2014年4月から2015年4月まで13ヵ月連続でマイナスの状態が続いており、半年後の9月にはプラスの値に回復していた消費税導入の1989年や前回引き上げ時の1997年と比較しても消費の低迷は明らかだった(図25を参照)。

 その上、2007~08年の19位を底に回復していた一人当たりの名目GDPの国際ランキングも、消費税増税後に経済が低迷した影響で2012年の13位から2015年の26位まで再び順位を落としている。

 

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増税延期に対して暴言を吐いた財務省幹部

 1997年の橋本改造内閣ではロッキード事件で有罪となった佐藤孝行議員の起用が批判され、わずか12日間で辞任に追い込まれてしまうが、2014年の安倍改造内閣でも目玉として起用された女性5閣僚のうち、小渕優子経産相と松島みどり法相の2人が政治資金問題などを理由に辞任することになる。また、19人の閣僚のうち、安倍首相を支える右派団体の「日本会議」に所属している議員が15人もいたことが問題となった。

 

 安倍首相はGDP成長率の悪化と閣僚の相次ぐスキャンダルで、10月半ば頃から密かに年内総選挙を想定した早期解散を模索し、日銀も10月31日にサプライズとして追加金融緩和を決定した。この時期に追加緩和が行われることについて、黒田総裁は「2%の物価安定目標を確かなものにする」と説明したが、11月12日の衆院財務金融委員会では「2015年に予定される消費税10%への引き上げを前提に追加緩和を行った」と述べているため、やはり安倍首相が増税実施の判断を迫られていたのと無関係ではないだろう。

 

 その後、11月17日に発表された2014年7~9月期のGDP成長率(速報値)が年率マイナス1.6%と二期連続でマイナス成長となり、翌18日に安倍首相は2015年10月に予定されていた消費税増税を1年半後の2017年4月へと延期し、21日の衆議院解散を発表した。増税延期は財務省にとっても衝撃的だったようで、ある幹部は「社会保障費が膨れ上がる中、消費税率がこんなに低いのは国民を甘やかすことになる」と暴言を吐いたそうだ。

 どんなに経済が不況になっても増税を強行しようとする財務省の姿勢には呆れるが、毎日新聞が2014年10月に行った世論調査では消費税引き上げに反対する人は73%で、賛成の25%を大きく上回っており、国民の多くは増税に反対しているのが実情なのである。

 

 11月21日の衆議院解散から始まった総選挙で、安倍首相は持ち前の憲法改正をあえて触れずに「アベノミクスによる経済再生の達成」を掲げ、マーガレット・サッチャーの『There is no alternative』を意識して「この道しかない」と言い切った。結果は、自民党が295議席から291議席へと4名減らしたものの、ほぼ現状維持となり安倍内閣の人事に大きな影響を及ぼすことはなかった。

 その一方で、野党は「アベノミクス失敗」を訴えた民主党が11議席増やし、消費税増税に断固反対している日本共産党も13議席増やしたが、巨大与党に太刀打ちできずに決して勝利したとは言えない状況だった。

 

 1979年の大平内閣から2012年の野田内閣まで、消費税に関わった政権のほとんどが選挙で敗北していたため、消費税を引き上げて選挙に勝ち続ける首相は安倍氏が初めてかもしれない。政治研究家の中田安彦氏は、2014年の衆院選自民党議席を維持したことにより、かつて小沢一郎氏が目指した「政権交代可能な二大政党制」が完全に崩壊し、55年体制に代わる新たな「2015年体制」が出来上がったと後の世に語られるだろうと述べている(「ネット世論が日本を滅ぼす」 ベストセラーズ、2015年)。

 

 

<参考資料>

消費増税「集中点検会合」備忘リストと舞台裏

http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20130831

「所得増えない」69% 共同通信世論調査

http://ono-blog.cocolog-nifty.com/sikou/2013/04/post-f6c2.html

安倍首相が増税後の買い物パフォーマンス 「高くなった」発言に批判も

http://www.j-cast.com/2014/04/05201329.html

「新型レジに交換できない」消費増税で早くも倒産

http://www.j-cast.com/2014/04/06201351.html

消費税率再引き上げ 財務省「予定通り」に固執し、官邸激怒

http://www.sankei.com/politics/news/141117/plt1411170054-n1.html

<本社世論調査>消費再増税「反対」73% 毎日新聞

http://blog.livedoor.jp/gataroclone/archives/40827622.html

消費税の歴史(2009~2012年)

自民党の緊縮財政を引き継いだ鳩山・菅内閣

 政権交代を経て、2009年9月16日に発足した鳩山内閣は、アメリカが日本に送付し、構造改革規制緩和のきっかけとなった「年次改革要望書」を廃止して、小泉内閣から進められてきた「郵政民営化」についても見直しを行った。消費税増税も当初のマニフェスト通り、2009年から4年間は実施しないと公約していた。

 しかし、「コンクリートから人へ」というスローガンのもと、リーマンショック真っ只中であるにも関わらず、景気対策としての財政出動そのものを躊躇し、麻生内閣が編成した2009年度の補正予算を執行停止にした。その結果、デフレ不況が加速化して2009年の実質GDPは2年連続でマイナスとなり、有効求人倍率も前年の0.88倍から0.47倍まで悪化してしまった。

 更に、同年11月に行われた事業仕分け行政刷新会議)では、スーパーコンピュータの予算を削減したことが物議を醸した。

 

 これらの緊縮財政を断行したことにより、内閣支持率は急落し、目玉政策であった子ども手当や高速道路無償化は財源が示せず、普天間基地移設問題や鳩山首相の偽装献金問題についても野党から追及され、2010年6月2日に鳩山内閣は退陣を発表する。

 日本は2006年の第一次安倍内閣から毎年ローテーションで首相が変わるほど短命内閣が続いていたが、非自民党政権が誕生しても長期政権を築くことはできなかった。

 

 鳩山首相の辞任後、2010年6月8日に発足した菅内閣マニフェストに違反して消費税増税に賛成し、従来の自民党政治に回帰する政権となる。自民党が6月3日の総務会で、消費税率を10%に引き上げる方針を明確にすると、菅首相も「自民党と同じことを言えば参院選の争点にならない」と鳩山前首相の公約を裏切って自民党の「10%案」に抱きつき、玄葉政調会長増税の実施時期について「最短で2012年の秋になる」と発言した。

 しかし、民主党増税容認に変節したことは有権者から厳しい批判を受け、7月11日に行われた参院選では野党の自民党議席を13名増やし、与党の民主党議席を10名減らしてしまった。

 

 菅首相は消費税増税に賛成する理由として、「強い経済、強い財政、強い社会保障」という新たなマニフェストを打ち出した。一般的な増税反対派の考え方は「政府が財政出動を行って雇用を創出し、国民の消費を高めることで強い経済を作る。経済が強くなれば、税収が増えて社会保障も充実する」というものだが、菅内閣では「強い財政のためにまず増税を行い、政府が得た税収を社会保障に投資する。そうなると、社会保障が充実し、強い経済になる」と考えた。

 だが、今回もやはり消費税増税と同時に、法人税減税が推進されたのである。6月18日に閣議決定した「新成長戦略」では、日本企業の国際競争力強化のため、約40%の法人実効税率を段階的に25%程度まで引き下げる方針が明確にされた。更に、15歳以下に毎月1万3000円支給されていた「子ども手当」についても、2011年度から毎月2万6000円に増額する当初の予定を中止したため、「消費税を上げて社会保障を充実させる」という菅内閣のメッセージは説得力に欠けたものだったと言えるだろう。

 

 また、菅首相は2010年6月の就任会見で「最小不幸社会を目指す」と発言していた。最小不幸社会とは、簡単に言ってしまえば「もう日本は経済成長できないから、大きな不幸がないだけでも有り難い」という意味が推測できるが、リーマンショックが落ち着いた2010年の実質GDPは4.7%のプラス成長に回復し、日本経済はまがりなりにも成長していたのだ。しかし、深刻なデフレ不況であるにも関わらず、こうした景気回復よりも財政再建を優先する姿勢が、早期に内閣支持率を低下させる一因にもなった。

 

 

東日本大震災の2日後に計画された復興増税

 参院選で敗北した後も民主党が消費税を引き上げる方針に変更はなく、10月28日に「政府・与党社会保障改革検討本部」を設置し、社会保障・税一体改革を開始する。翌2011年1月14日の内閣改造では与謝野馨氏が内閣府特命担当大臣入閣した。

 与謝野氏は鳩山前首相を偽装献金問題で「平成の脱税王」と呼び、2010年4月に「たちあがれ日本」を結党した後も民主党を厳しく批判していた一方で、消費税増税については1996年の橋本内閣時代から推進派だったため、増税に積極的な菅首相を支える目的で民主党入閣したと思われる。

 

 内閣改造後の2月5日には政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」が初会合を開き、2月19日の同会議で菅首相は「医療・年金・介護といった問題だけではなくて、シングルマザー、あるいは障害者の問題を含めた福祉の在り方についても話し合っていきたい」と発言した。

 

 だが、2011年3月11日に悲劇が襲う。多くの人が知っている通り、この日の午後2時46分に東日本大震災が発生し、それに伴う大規模な津波もあって死者は1万5000人以上、行方不明者は約2500人、重軽傷者は約6100人にものぼった。更に、同日には福島第一原発事故が発生し、放射性物質が大量飛散する未曾有の重大事故となって、政府は社会保障より震災復興の対応に追われることになる。

 しかし、3月13日には菅首相と谷垣自民党総裁が会談を行い、大震災からの復旧や復興の財源を確保するための「復興増税」について話し合われた。これは、政府の復興構想会議が発足し、第1回会合を開いた4月14日から比較しても異例のスピードだということがわかる。

 

 1995年の阪神・淡路大震災の時も消費税増税に向けた議論が進められていたが、誰も「復興増税」という言葉を口にする者はいなかった。多くの被災者がまだ路頭に迷っている東日本大震災の2日後に、菅と谷垣が復興増税をどうするか話し合っていたエピソードは、国会議員の質の劣化を象徴する出来事なのかもしれない。

 

 2011年4月7日に東日本大震災で中断していた「社会保障改革に関する集中検討会議」を再開させ、6月2日には「2015年度までに、消費税率を段階的に10%まで引き上げる」改革案が打ち出された。

 この頃になると、震災復興の遅れから菅内閣に対して不信任決議案が提出されるようになり、南海トラフ地震で最も被害を受けると予想されている浜岡原発を5月14日に運転停止するなど、少しでも支持率を回復させようと内閣の延命措置を図ったが、8月26日に退陣条件としていた特例公債法と再生可能エネルギー特別措置法が参院本会議で成立したことを受け、菅首相は辞意を表明する。

 

 

消費税増税に政治生命をかけた野田内閣

 菅首相の辞任後、民主党代表選を経て2011年9月2日に野田内閣が発足した。野田首相は自らを「泥臭く国民のために汗をかいて、政治を前進させるどじょう」に例えたが、増税については2011年度から消費税を引き上げるとされていた「平成21年度税制改正法」の附則にこだわり、「法案成立に政治生命をかける」と強気の姿勢を見せた。

 しかし、野田首相は2009年8月の街頭演説で「消費税5%分の皆さんの税金に、天下り法人がぶら下がっている。シロアリがたかっているんです。シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです」と述べており、政権与党になってから財務省にすり寄って増税賛成の立場に変わったことがうかがえる。

 

 また、野田首相はかつて松下幸之助氏が設立した「松下政経塾」の第一期生だった。松下氏は生前、「日本を税金のいらない国にしよう」という無税国家論を提唱していて、野田内閣が進める消費税増税との矛盾が国会でもたびたび指摘された。

 2011年9月15日の衆院本会議では、みんなの党渡辺喜美代表から「松下氏は『無税国家』を提唱し、厳しい経済状況の時こそ、国家は大減税して景気を直すべきと言った。その考えを否定するのか」と質問された際に、「今は松下さんが想定したより、はるかに深刻な財政状況だ。これ以上の借金を将来に残すことは断固、阻止しなくてはならない」と答えている。

 だが、日本は松下幸之助氏が死去した翌年の1990年に世界銀行からの借金を完済し、海外に持つ資産から負債を引いた「対外純資産」の残高も2011年末の時点で265.7兆円にのぼっていて、実際には財政状況が深刻どころか、松下氏が生きていた時代よりはるかに政府や企業がお金を持っているのだ。

 

 更に、野田首相は2011年11月3日にフランスのカンヌで開かれたG20サミットで「ヨーロッパの状況を見るまでもなく、健全な経済成長を実現するためには、財政健全化が必要不可欠だ。日本は2010年代半ばまでに、消費税率を段階的に10%まで引き上げる方針を定めた『社会保障と税の一体改革』を具体化し、これを実現するための法案を今年度内に提出する」と発言した。

 財務省は、この発言を根拠に「消費税増税国際公約だ」と既定路線にしようとしているが、当時の世界主要国はユーロ危機の対応で苦戦しており、日本の消費税増税などどうでもいい話だろう。実際にフランスでは、2012年10月に付加価値税を19.6%から21.2%へと引き上げる予定だったが、同年5月の大統領選で増税撤回を訴えたオランド大統領が勝利し、公約通り付加価値税の引き上げは凍結された。

 その後、フランスの付加価値税は2014年1月から20%に増税されたが、付加価値税の引き上げ時期を延期したからといって、国際世論がフランスを責めただろうか。そもそも消費税を増税するかどうかは他国が干渉できない国内の問題であって、野田首相の「国際公約」発言も増税が実現しなかったら辞任や解散総選挙で責任を取るという話までしていないのが実情だろう。

 

 

社会保障と税の一体改革」をめぐって民主党が分裂

 2011年は東日本大震災の影響もあって、実質GDP成長率が再びマイナスに落ち込んだが、野田内閣は深刻な不況を尻目に、翌2012年1月6日には経団連の同意を得て「社会保障・税一体改革素案」を発表する。

 

 2月29日には、参議院第一委員会室で野田首相と谷垣自民党総裁党首討論が行われ、谷垣総裁は「野田首相が本当に消費税増税を成し遂げたいのであれば、党内をしっかり掌握させて方向性を定めていただきたい」と述べた。

 谷垣氏は2月19日に福岡で行われた講演会で、民主党小沢一郎元代表が消費税引き上げに反対していることについて、「増税に賛成しないのなら、首相は『党を出ていけ』と言うべき」と小沢切りを迫る発言をしており、民主党増税反対派を排除し、自民党との連携を強める姿勢を見せた。

 

 こうした自民党の協力もあって、年度末の3月30日には消費税率を2014年4月から8%、2015年10月から10%に引き上げる「消費税増税法案」を閣議決定した。増税を2段階に分けたのは将来的に消費税を10%以上に増税したいが、国民の反発が強いために段階的に税率を上げていったほうが、抵抗が少ないと考えたからだろう。

 心理学用語では「最初に断られる前提で大きな要求を仕掛けて、その上で本当の目的だった小さな要求を通すこと」をドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)と言うが、消費税でも「財政再建には税率を20~30%まで引き上げる必要がある」と宣伝し、本来の目的であった8%や10%への増税を国民に納得させるのはこの手法が使われていると言える。

 

 その一方で、民主党の中でも消費税引き上げに反対している「小沢グループ」が4月2日に、野田内閣の消費税増税法案に抗議し、鈴木克昌幹事長代理をはじめとするグループ21人の辞表を提出した。

 更には、民主党だけでなく連立を組んでいた国民新党でも、増税反対派の亀井静香代表と賛成派の自見庄三郎議員が分裂する。亀井氏は4月6日に国民新党を離党し、2012年11月には名古屋市長の河村たかし氏と「減税日本・反TPP脱原発を実現する党」を結成した。

 同党はその後、小沢グループが立ち上げた「国民の生活が第一」と共に、滋賀県知事の嘉田由紀子氏が代表を務める「日本未来の党」に合流することになる。

 

 また、民主党国民新党が分裂した他にも、同年6月には新宿、渋谷、池袋など都内各地で数百人規模の消費税増税反対デモが開催された。ちなみに、筆者が初めて増税反対デモに参加したのはこの時期で、同世代の学生が「1997年に橋本首相が消費税を5%に上げてから日本はずっと不況だ」「デフレ下に増税したら不況が更に深刻化する」と演説していたのが印象的だったことをよく覚えている。

 

 しかし、野田内閣は6月15日に自民党公明党との三党合意で消費税増税を中心とする「社会保障・税一体改革関連法案」を今国会中に成立させることで合意し、6月26日に衆議院、8月10日に参議院で可決成立してしまった。

 更に、脱原発を主張していた菅前首相に対して、野田内閣では2012年6月に大飯原発の再稼働を正式決定し、「自民党野田派」と揶揄されるほど従来の自民党と変わらない政策が打ち出されていった。

 

 その一方で、自民党のほうもお笑い芸人の母親が生活保護を受給していた問題に便乗して、生活保護そのものに対するバッシングを開始し、早くも『社会保障と税の一体改革』は「消費税を上げて社会保障を削減する」という路線に切り替わったのである。

 2009年の衆院選で「社会保障の強化のために、消費税を引き上げたい」と訴えた自民党も、「政権を取っても、4年間は消費税を引き上げない」と訴えた民主党も選挙公約に違反したと言えるだろう。

 

 

民主党の壊滅的な敗北に終わった総選挙

 2012年8月10日に「社会保障・税一体改革関連法案」が参議院で可決成立してから、野田首相は「近い将来に信を問う」と年内の解散を思わせる発言をし、11月14日に安倍自民党総裁との党首討論で、小選挙区一票の格差是正と定数削減の実現を条件に16日の衆議院解散を明言した。

 

 衆議院の解散後、12月16日に実施された総選挙ではマニフェストに違反して消費税増税を決定したことや、東日本大震災から一年半が過ぎても進まない復興などに対する批判から、民主党議席を173名減らし、離党した議員も70名以上いたため、2009年の308議席から57議席へと壊滅的な敗北に終わった。

 それに対し、自民党議席を176名増やして、2009年の119議席から294議席へと大幅に増加したため3年ぶりに与党へ戻ることになり、2012年12月26日には第二次安倍内閣が発足する。一度首相を辞任した人物が、再び首相に就任するのは吉田茂以来のことだった。

 民主党政権が崩壊した原因は、マニフェストに書いていることをまともにやらず「第二の自民党化」したことで、民主党が第二の自民党に過ぎないのであれば、国民の多くは政権担当実績の長い自民党で良いと判断したのかもしれない。

 

 

<参考資料>

伊藤裕香子 『消費税日記 ~検証 増税786日の攻防~』(プレジデント社、2013年)

岩﨑健久 『消費税の政治力学』(中央経済社、2013年)

清水真人 『消費税 政と官との「十年戦争」』(新潮社、2013年)

高橋洋一財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社、2011年)

田中秀臣・上念司 『「復興増税」亡国論』(宝島社、2012年)

三橋貴明 『メディアの大罪』(PHP研究所、2012年)

消費税の歴史(2001~2009年)

緊縮財政で政府の負債を増やした小泉内閣

 2001年4月、「私の改革に反対すれば、自民党をぶっ壊す」「民間にできることは民間に」というスローガンを掲げた小泉内閣が発足した。小泉首相構造改革郵政民営化など大胆な政策を打ち出す一方で、消費税増税については橋本内閣の失敗を鑑みて「在任中は引き上げない」と公約した。

 しかし、2001年から5年間続いた政権の中で当然、消費税増税は議論され、その代表的なものに「竹中・与謝野論争」が挙げられる。竹中・与謝野論争とは、2006年頃に竹中平蔵氏(総務大臣)と与謝野馨氏(内閣府特命担当大臣)が財政再建の方針を巡って対立した論争である。

 

 竹中氏は財政再建に関して、2011年度にプライマリーバランス基礎的財政収支)を達成すれば十分であり、大規模な増税はいらないと主張した。その裏付けとして、名目成長率は名目金利よりも高いとし、日本は過去ずっとそうだったと述べた。一方で、与謝野氏は世界的に名目成長率が名目金利を上回る保証はないとし、財政再建を達成するにはもっと厳しく増税を打ち出すべきだと主張した。

 「消費税引き上げより歳出削減を優先すべきだ」とする小泉首相中川秀直政調会長は竹中氏を支持し、「消費税引き上げなどの増税は避けられない」とする谷垣禎一財務大臣や日銀の福井俊彦総裁は与謝野氏を支持している。

 

 小泉内閣では、2002年1月から始まった景気拡張によって、雇用者の数が100万人以上増加したと言われる。しかし、実際には2001年から06年にかけて非正規社員数が318万人増加した一方で、正社員数は225万人も減少してしまった(図24を参照)。

 また、2004年からは製造業にも派遣社員の採用が認められ、派遣労働者は2001年度の175万人から06年度の321万人へと5年間で146万人も増加した。この間、国税庁が発表している民間従業員の平均年収は、2001年の454万円から06年の435万円へと19万円も減少しており、雇用者の数が増加しても景気回復を実感できる人はほとんど存在しなかったと言えるだろう。

 一人当たりの名目GDPの国際ランキングも、2001年の5位から06年の18位まで順位を落としている。

 

 2006年7月には、OECDが日本経済の現状を分析した「対日経済審査報告書」の中で、日本の相対的貧困率OECD諸国で最も高い部類に属することを指摘し、同年7月23日にはNHKスペシャルで、働く貧困層の実態を取り上げた『ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない』が放送され、大きな反響を呼んだ。

 翌2007年には定住する住居がなく、寝泊まりする場としてインターネットカフェを利用する「ネットカフェ難民」が社会問題にもなった。

 

 小さな政府で財政再建を目指す小泉内閣は、1998年度にピークの14.9兆円だった公共事業費を2001年度の11.4兆円から06年度の7.8兆円まで削減し、それに伴って政府の公共投資(公的固定資本形成)も5年間で10兆円近く減少した。

 それにも関わらず、俗に「国の借金」と言われる国債や借入金、政府短期証券を合わせた政府の負債は2001年の582兆円から06年の832兆円へと250兆円も増加しており、小さな政府による財政再建は失敗に終わったと言えるだろう。

 小泉首相は「在任中に消費税を引き上げない」という公約を守ったが、政府の負債を大幅に増やしたことによって、その後の内閣に消費税増税を議論させる口実を与えてしまったのかもしれない。

 

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2011年の消費税増税を計画した麻生内閣

 第一次安倍内閣福田内閣を経て、消費税増税に向けた議論が本格化したのが麻生内閣の時である。麻生首相は2008年9月にリーマンショックが発生し、世界経済が100年に一度の大不況に見舞われたことを受けて、10月30日に記者会見を開いた。

 その記者会見の中で、「経済状況が好転した後に、財政規律や安心な社会保障のため、消費税を含む税制抜本改革を速やかに開始します。そして、2010年代半ばまでに段階的に実行させていただきます。(中略)簡単に申し上げさせていただけるのなら、大胆な行政改革を行った後、経済状況を見た上で、3年後(2011年)に消費税の引き上げをお願いしたいと考えております」と発言した。

 2009年1月23日に国会で提出された「平成21年度税制改正法」の附則でも、2011年度から消費税増税を行う方針が明記された。

 

 しかし、リーマンショックの影響は非常に深刻で、2008年の実質GDPは1999年以来のマイナス成長となり、2006~07年に一倍を超えていた有効求人倍率も08年には0.88倍に低下した。自民党増税反対派議員の一人は「わずか3年で経済状況がそんなに好転するわけがない。3年後は間違いなく麻生政権じゃないしね」と本音をもらしたという。

 また、麻生首相自民党幹事長時代の2008年8月に、国・地方を合わせた財政赤字に関して「800兆円の借金があって大変だという話が出回っているが、あれは総負債だ。総負債と、(資産を含めた)純負債を取り違えるかのごとき話は、不必要に世の中の不安をあおっている」と述べ、財政再建より景気対策を優先させるべきだと主張しており、首相になってから財政規律を理由に消費税を引き上げる方針に転換したのは矛盾していたのである。

 

 2009年に入ってから不況は一段と厳しくなり、定額給付金エコカー減税、休日高速道路料金の大幅引き下げなど、矢継ぎ早な景気対策を行っても内閣支持率は回復しなかった。自民党内からは「支持率低迷の麻生首相で総選挙は戦えない」という声が噴出し、「麻生降ろし」が表面化した。

 7月21日の衆議院解散で始まった総選挙では、自民党が「社会保障の強化のため、景気回復後に消費税を引き上げたい」と訴え、民主党が「政権を取っても、4年間は消費税を引き上げない」と訴えた。8月30日の投開票の結果、自民党議席を181名減らした一方で、民主党議席を193名増やし、1993年の衆院選以来、16年ぶりの政権交代が起こった。

 

 麻生首相は総選挙を終えた夜、「自民党に対する積年の不満を払拭できなかった。その責任を負う宿命にあった」と反省の言葉を述べている。大平内閣から竹下内閣、橋本内閣と消費税に関わった政権の多くが選挙で負けているが、民主党に政権を与えた麻生内閣もその例外ではなかったと言えるだろう。

 

 

<参考資料> 

厳しい時代に「生き残る」には 第51回 竹中氏辞職の真相

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/51/index1.html

派遣労働者数の推移

http://www.ritsumei.ac.jp/~satokei/sociallaw/tempworkers.html

日本の1人当たりのGDPが世界19位に低下

http://lingvistika.blog.jp/archives/1016821134.html

ワーキングプア ~働いても働いても豊かになれない~

http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010526_00000

公共事業費を削減したのは前民主党政権ではない

http://blogos.com/article/148391/

麻生内閣総理大臣記者会見 平成20年10月30日

http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2008/10/30kaiken.html

<麻生自民幹事長>財政再建優先論に反論…大阪での講演

http://megalodon.jp/2008-0813-0626-45/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080807-00000092-mai-pol

 

生活保護よりもカジノ解禁こそ見直すべき

 生活保護バッシングの一つに「パチンコをやっている人が生活保護を受給するのは許せない」というのがある。実際に、大分県別府市の福祉事務所は2015年10月、パチンコ店と市営競輪場で姿を見かけた生活保護受給者25人に対し、遊技場に出入りしないよう指導した。

 そのうち9人は、過去にも指導して「遊技場に立ち入りません」という誓約書を出させていたことから1~2ヵ月間、生活扶助と住宅扶助を減額する不利益処分を行った。

 

 確かに、生活保護費をパチンコや競輪につぎ込むのは良くないだろう。しかし、それは生活保護受給者だけではなく、依存症を誘発するギャンブルそのものに問題がないだろうか。

 厚労省は2014年、ギャンブルしたい気持ちを抑えられない「ギャンブル依存症」の疑いがある人は、成人男性が438万人(人口比8.7%)、女性が98万人(1.8%)で合計536万人(4.8%)いると推計した。海外の同様の調査でギャンブル依存症の割合は、アメリカが1.58%(2002年)、香港が1.8%(2001年)、韓国が0.8%(2006年)なので、日本は際立って高いことが分かる。

 2016年夏には、スマートフォン向けアプリの「ポケモンGO」が流行し、警視庁は7~8月だけでも「ポケモンGO」をやりながら深夜を徘徊していた未成年を東京都内で553人も補導したという。夜遅くに出回るほどゲームに熱中するのは間違いなく「依存症」である。このような事例から依存症はギャンブルだけでなく、私たちの身近にある問題なのだ。

 

 だが、日本ではギャンブル依存症に対しても「その人の意志が弱い」という自己責任論で片付けていないだろうか。生活保護を引き下げようとする議論が起こっても、パチンコを規制しようとする議論が起こらないのはその証左である。

 パチンコホールの全国組織「全日本遊技事業協同組合連合会」の依存症研究会が2004年頃、パチンコの事業者に「過度にのめり込む客に対する対策を業界が積極的に取り組むべきだと思うか」と質問を行ったところ、56%が「思わない」と回答し、そのうち72%が「本人の問題であるから」と答えている。

 つまり、依存症を生み出しているパチンコ業界も過度にのめり込む客に対して、何も対策を講じていないということだろう。

 

 また、政府はパチンコ依存症を放置した上、カジノまで解禁しようとしている。石原慎太郎氏はパチンコ反対派として知られ、東日本大震災による電力不足でも「パチンコと自動販売機で合計1000万キロワット近い電力が使われている」と批判したが、その一方で都知事に就任した1999年当時には「お台場カジノ構想」を発表している。

 東京都のカジノ解禁は国会での法改正が難しく実現には至らなかったが、2013年9月に「2020年東京オリンピック」の開催が決定したことで、再びカジノ解禁に向けた動きが活発化し始めた。現在の小池都知事もカジノを含む複合型観光施設(統合型リゾート)の誘致に前向きな姿勢を見せている。しかし、パチンコ依存症すら解決できない日本が、わざわざ東京五輪のためにカジノを解禁する必要は本当にあるのだろうか。

 

 カジノ推進派の中には、石原慎太郎氏だけでなく元大阪府知事橋下徹氏がいる。橋下氏は2010年5月の大阪エンターテイメント都市構想推進検討会で「金がないと言えば、国はすぐ増税と言う。増税をやるならカジノだと思う。カジノをつくって、そのお金を福祉などにまわせばいい」と発言した一方で、生活保護に関しては2013年に行われた自民党の基準引き下げを高く評価し、「ルールが非常に甘いと思う。真面目に働いている人の勤労意欲をなくす」と厳しく非難した。

 しかし、カジノを解禁すれば間違いなくギャンブル依存症の人が増え、財産を失って生活保護の受給者も増加するという悪循環に陥ることは容易に想像できる。カジノを推進し、生活保護を非難するということは、ギャンブル依存症もその人の自己責任だと考えているのだろう。

 

 もし、ギャンブル依存症が自己責任ではなく「カジノで得られた税収を依存症対策に充てる」と考えているのなら、最初から依存症を防ぐためにカジノ解禁を止めれば良いのではないか。カジノは経済効果を生むだけでなく、勝負に負けた人が犯罪を起こすなどして治安を悪化させるリスクが高いのである。

 自民党はカジノを含む統合型リゾート施設の解禁を見直し、全国のパチンコの店舗数を減らすように規制した上で、生活保護の支給額を2013年1月以前の水準に戻すべきだろう。

 

 

<参考資料>

鳥畑与一 『カジノ幻想』(ベストセラーズ、2015年)

若宮健 『パチンコに日本人は20年で540兆円使った』(幻冬舎、2012年)

 

貧困と生活保護(28) 生活保護とパチンコをどう考えるか

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160407-OYTET50024/

<依存症>多い日本 ギャンブル536万人 厚労省研究班

http://archive.fo/8kwRW

ポケモンGO】深夜徘徊続出で少年補導553人 警視庁

http://www.sankei.com/affairs/news/160830/afr1608300024-n1.html

小池都知事、カジノ含む施設「あってもいい」 民放、NHKで相次いで発言

http://www.j-cast.com/2016/08/09274906.html

大阪府 第1回大阪エンターテイメント都市構想推進検討会

http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/10583/00000000/gijiroku.pdf

 

法人税と所得税を減税しても消費は増えない

90年代半ばまでは法人税所得税が「基幹税」だった

 消費税増税の賛成派は「法人税所得税の税収は景気に左右されやすいが、消費税は毎年10兆円以上の税収が続いており、経済動向に関係なく安定した財源だ」と主張する。

 確かに、財務省の「主要税目の税収(一般会計分)の推移」を見ると、国の法人税収は1989年の19.0兆円、所得税収は1991年の26.7兆円とバブル期にピークを迎えて、その後は減収している。2016年7月1日に発表された「2015年度の一般会計決算概要」によれば、15年度の法人税収は10兆8274億円、所得税収は17兆8071億円、消費税収は17兆4263億円だった(図19を参照)。

 

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 しかし、法人税が1980年代後半から減税されてきたことは既に述べたが、所得税についても1974~83年は最高税率が75%、刻みが19段階だったものを1999~2006年には最高税率が37%、刻みが4段階まで引き下げていたのだ。所得税の大幅な簡素化が行われた時期(1987~89年)に消費税が導入されたのは特筆すべき事項である(下記の画像を参照)。

 つまり、法人税所得税の税収が減少したのはバブル崩壊後の長引く不況だけでなく、税率を引き下げてきたからとも言える。実際に、消費税が3%だった1990年代半ばまでは法人税所得税こそが国の税収を支える「基幹税」だったのである。

 

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法人税所得税を減税しても消費は増えない

 1980~90年代にかけて法人税所得税が減税されてきた理由は、主に「富裕層の消費や投資を促して経済を活性化させる」というトリクルダウン理論が言われていた。

 しかし、実際にワールド・ウェルス・レポートの調査によれば、日本で100万ドル(約1億2000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2005年の141万人から2015年の272万人へと10年間で100万人以上増加していて、法人税所得税が減税されたぶんは消費や投資ではなく貯蓄に回されたのである(図20を参照)。

 

 所得の増加分のうち、消費支出が増える割合を「限界消費性向」と言うが、100万ドル以上の資産を持つ人が急増しても消費不況が解消されないのは、所得がある一定のレベルに達すると、それ以上収入が増えても消費に回す金額は増加しないことの証左ではないだろうか。

 

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 日経新聞は2016年2月に「年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は」というタイトルで、年収2500万円以上の所得税負担額が1999年の921.0万円から2014年の1204.3万円まで増加し、2017年には1225.1万円になると予測を発表した。

 コンサルタントの永江一石氏はこの記事を引用して、「高所得者はどんどん重税化している」「日本の金持ちは可哀想」などとブログで述べている。

 

 しかし、実際に所得税の負担率は年収70万円から年収1億円にかけては上昇していくが、それ以上所得が多くなると逆に減少する仕組みになっていて、年収1億円以上の「超富裕層」の所得税負担率はそれほど高くないのだ。この点は、所得が上がるほど負担率が低下していく消費税と対照的である(図21を参照)。

 

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労働人口が減少しても経済成長は可能である

 その上、法人税所得税が景気に左右されやすいなら、単純に財政出動などの景気対策で経済成長を促せば良いだろう。こう主張すると必ず「日本は労働人口が減少しているからもう経済成長できない」と反論してくる者がいるが、では少子化が進行してから名目GDPが増加した中国についてはどう思うだろうか。

 中国は1979年から2015年にかけて「一人っ子政策」を実施して厳しい人口抑制策を行ってきたが、80年代の鄧小平時代には上海や広州などに経済技術開発区を作り、海外の企業を誘致して2000年以降に著しい経済成長を遂げることができた(日本・中国の出生率と名目GDPの推移は図22~23を参照)。

 

 とはいえ、所得格差は日本よりはるかに深刻なのでこうしたやり方を真似する必要はないが、少なくとも「労働人口が減少しているから経済成長できない」という主張は、日本で20年近く続いているデフレ不況を正当化する言い訳に過ぎないだろう。

 日本が経済成長しないのは、消費税を上げて政府の公共投資(公的固定資本形成)を削減するという緊縮財政が続けられているからである。

 

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所得税増税しても富裕層の資産は海外流出しない

 「消費税を上げるより、所得税の累進性を高めるべき」との意見に対して、消費税増税の賛成派は「所得税最高税率を引き上げると、富裕層の海外流出を招き、日本経済の活力が失われる」と反論している。だが仮に、日本の資産家が所得税を逃れようと10兆円のお金を海外に持ち出したとしても、日本円は海外で使用できないため、必ず外貨で両替する必要がある。

 両替行為が行われた結果、金融機関が10兆円の資産を日本に持つことになり、資産家が海外に持ち出すはずだったお金は結局、日本国内に残るのである。

 

 また、所得税の累進性が高かった1974~83年当時、所得税(75%)と住民税(18%)を合わせた最高税率は93%だったが、当時の日本で海外に逃げ出す富裕層は存在しただろうか。むしろ、所得格差の少ない「一億総中流社会」を形成し、安定的な経済成長を続けていたではないか。

 それに、所得税が高くて富裕層が日本から逃げ出すことを心配する人は、消費税が10%以上に引き上げられた際、税金に重みを感じて消費税が安いアメリカや、消費税が高くても社会保障が充実しているヨーロッパに移住しようと考える国民が増加する可能性もあることを懸念しないのだろうか。

 

 ただし、所得税最高税率は2007年に37%から40%、2015年に45%へと近年引き上げられる傾向にある。そのため、今後は1987年から減税が繰り返されている法人税率を引き上げる方向に持っていくことが消費税増税を中止させる第一歩となるだろう。

 

 

<参考資料>

主要税目の税収(一般会計分)の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/011.htm

15年度の税収56兆円、24年ぶり高水準 法人税は6年ぶり減

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS01H6C_R00C16A7EE8000/

所得税の税率構造の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/035.htm

ワールド・ウェルス・レポート2016

https://www.worldwealthreport.com/Global-HNWI-Population-and-Wealth-Expanded

年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は

https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/

申告所得税標本調査結果

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/shinkokuhyohon2014/hyouhon.htm

中国の経済はなぜ急速に発展したのか?

http://www12.plala.or.jp/rekisi/tyuugokukeizai.html