消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

消費税の歴史(2009~2012年)

自民党の緊縮財政を引き継いだ鳩山・菅内閣

 政権交代を経て、2009年9月16日に発足した鳩山内閣は、アメリカが日本に送付し、構造改革規制緩和のきっかけとなった「年次改革要望書」を廃止して、小泉内閣から進められてきた「郵政民営化」についても見直しを行った。消費税増税も当初のマニフェスト通り、2009年から4年間は実施しないと公約していた。

 しかし、「コンクリートから人へ」というスローガンのもと、リーマンショック真っ只中であるにも関わらず、景気対策としての財政出動そのものを躊躇し、麻生内閣が編成した2009年度の補正予算を執行停止にした。その結果、デフレ不況が加速化して2009年の実質GDPは2年連続でマイナスとなり、有効求人倍率も前年の0.88倍から0.47倍まで悪化してしまった。

 更に、同年11月に行われた事業仕分け行政刷新会議)では、スーパーコンピュータの予算を削減したことが物議を醸した。

 

 これらの緊縮財政を断行したことにより、内閣支持率は急落し、目玉政策であった子ども手当や高速道路無償化は財源が示せず、普天間基地移設問題や鳩山首相の偽装献金問題についても野党から追及され、2010年6月2日に鳩山内閣は退陣を発表する。

 日本は2006年の第一次安倍内閣から毎年ローテーションで首相が変わるほど短命内閣が続いていたが、非自民党政権が誕生しても長期政権を築くことはできなかった。

 

 鳩山首相の辞任後、2010年6月8日に発足した菅内閣マニフェストに違反して消費税増税に賛成し、従来の自民党政治に回帰する政権となる。自民党が6月3日の総務会で、消費税率を10%に引き上げる方針を明確にすると、菅首相も「自民党と同じことを言えば参院選の争点にならない」と鳩山前首相の公約を裏切って自民党の「10%案」に抱きつき、玄葉政調会長増税の実施時期について「最短で2012年の秋になる」と発言した。

 しかし、民主党増税容認に変節したことは有権者から厳しい批判を受け、7月11日に行われた参院選では野党の自民党議席を13名増やし、与党の民主党議席を10名減らしてしまった。

 

 菅首相は消費税増税に賛成する理由として、「強い経済、強い財政、強い社会保障」という新たなマニフェストを打ち出した。一般的な増税反対派の考え方は「政府が財政出動を行って雇用を創出し、国民の消費を高めることで強い経済を作る。経済が強くなれば、税収が増えて社会保障も充実する」というものだが、菅内閣では「強い財政のためにまず増税を行い、政府が得た税収を社会保障に投資する。そうなると、社会保障が充実し、強い経済になる」と考えた。

 だが、今回もやはり消費税増税と同時に、法人税減税が推進されたのである。6月18日に閣議決定した「新成長戦略」では、日本企業の国際競争力強化のため、約40%の法人実効税率を段階的に25%程度まで引き下げる方針が明確にされた。更に、15歳以下に毎月1万3000円支給されていた「子ども手当」についても、2011年度から毎月2万6000円に増額する当初の予定を中止したため、「消費税を上げて社会保障を充実させる」という菅内閣のメッセージは説得力に欠けたものだったと言えるだろう。

 

 また、菅首相は2010年6月の就任会見で「最小不幸社会を目指す」と発言していた。最小不幸社会とは、簡単に言ってしまえば「もう日本は経済成長できないから、大きな不幸がないだけでも有り難い」という意味が推測できるが、リーマンショックが落ち着いた2010年の実質GDPは4.7%のプラス成長に回復し、日本経済はまがりなりにも成長していたのだ。しかし、深刻なデフレ不況であるにも関わらず、こうした景気回復よりも財政再建を優先する姿勢が、早期に内閣支持率を低下させる一因にもなった。

 

 

東日本大震災の2日後に計画された復興増税

 参院選で敗北した後も民主党が消費税を引き上げる方針に変更はなく、10月28日に「政府・与党社会保障改革検討本部」を設置し、社会保障・税一体改革を開始する。翌2011年1月14日の内閣改造では与謝野馨氏が内閣府特命担当大臣入閣した。

 与謝野氏は鳩山前首相を偽装献金問題で「平成の脱税王」と呼び、2010年4月に「たちあがれ日本」を結党した後も民主党を厳しく批判していた一方で、消費税増税については1996年の橋本内閣時代から推進派だったため、増税に積極的な菅首相を支える目的で民主党入閣したと思われる。

 

 内閣改造後の2月5日には政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」が初会合を開き、2月19日の同会議で菅首相は「医療・年金・介護といった問題だけではなくて、シングルマザー、あるいは障害者の問題を含めた福祉の在り方についても話し合っていきたい」と発言した。

 

 だが、2011年3月11日に悲劇が襲う。多くの人が知っている通り、この日の午後2時46分に東日本大震災が発生し、それに伴う大規模な津波もあって死者は1万5000人以上、行方不明者は約2500人、重軽傷者は約6100人にものぼった。更に、同日には福島第一原発事故が発生し、放射性物質が大量飛散する未曾有の重大事故となって、政府は社会保障より震災復興の対応に追われることになる。

 しかし、3月13日には菅首相と谷垣自民党総裁が会談を行い、大震災からの復旧や復興の財源を確保するための「復興増税」について話し合われた。これは、政府の復興構想会議が発足し、第1回会合を開いた4月14日から比較しても異例のスピードだということがわかる。

 

 1995年の阪神・淡路大震災の時も消費税増税に向けた議論が進められていたが、誰も「復興増税」という言葉を口にする者はいなかった。多くの被災者がまだ路頭に迷っている東日本大震災の2日後に、菅と谷垣が復興増税をどうするか話し合っていたエピソードは、国会議員の質の劣化を象徴する出来事なのかもしれない。

 

 2011年4月7日に東日本大震災で中断していた「社会保障改革に関する集中検討会議」を再開させ、6月2日には「2015年度までに、消費税率を段階的に10%まで引き上げる」改革案が打ち出された。

 この頃になると、震災復興の遅れから菅内閣に対して不信任決議案が提出されるようになり、南海トラフ地震で最も被害を受けると予想されている浜岡原発を5月14日に運転停止するなど、少しでも支持率を回復させようと内閣の延命措置を図ったが、8月26日に退陣条件としていた特例公債法と再生可能エネルギー特別措置法が参院本会議で成立したことを受け、菅首相は辞意を表明する。

 

 

消費税増税に政治生命をかけた野田内閣

 菅首相の辞任後、民主党代表選を経て2011年9月2日に野田内閣が発足した。野田首相は自らを「泥臭く国民のために汗をかいて、政治を前進させるどじょう」に例えたが、増税については2011年度から消費税を引き上げるとされていた「平成21年度税制改正法」の附則にこだわり、「法案成立に政治生命をかける」と強気の姿勢を見せた。

 しかし、野田首相は2009年8月の街頭演説で「消費税5%分の皆さんの税金に、天下り法人がぶら下がっている。シロアリがたかっているんです。シロアリを退治して、天下り法人をなくして、天下りをなくす。そこから始めなければ、消費税を引き上げる話はおかしいんです」と述べており、政権与党になってから財務省にすり寄って増税賛成の立場に変わったことがうかがえる。

 

 また、野田首相はかつて松下幸之助氏が設立した「松下政経塾」の第一期生だった。松下氏は生前、「日本を税金のいらない国にしよう」という無税国家論を提唱していて、野田内閣が進める消費税増税との矛盾が国会でもたびたび指摘された。

 2011年9月15日の衆院本会議では、みんなの党渡辺喜美代表から「松下氏は『無税国家』を提唱し、厳しい経済状況の時こそ、国家は大減税して景気を直すべきと言った。その考えを否定するのか」と質問された際に、「今は松下さんが想定したより、はるかに深刻な財政状況だ。これ以上の借金を将来に残すことは断固、阻止しなくてはならない」と答えている。

 だが、日本は松下幸之助氏が死去した翌年の1990年に世界銀行からの借金を完済し、海外に持つ資産から負債を引いた「対外純資産」の残高も2011年末の時点で265.7兆円にのぼっていて、実際には財政状況が深刻どころか、松下氏が生きていた時代よりはるかに政府や企業がお金を持っているのだ。

 

 更に、野田首相は2011年11月3日にフランスのカンヌで開かれたG20サミットで「ヨーロッパの状況を見るまでもなく、健全な経済成長を実現するためには、財政健全化が必要不可欠だ。日本は2010年代半ばまでに、消費税率を段階的に10%まで引き上げる方針を定めた『社会保障と税の一体改革』を具体化し、これを実現するための法案を今年度内に提出する」と発言した。

 財務省は、この発言を根拠に「消費税増税国際公約だ」と既定路線にしようとしているが、当時の世界主要国はユーロ危機の対応で苦戦しており、日本の消費税増税などどうでもいい話だろう。実際にフランスでは、2012年10月に付加価値税を19.6%から21.2%へと引き上げる予定だったが、同年5月の大統領選で増税撤回を訴えたオランド大統領が勝利し、公約通り付加価値税の引き上げは凍結された。

 その後、フランスの付加価値税は2014年1月から20%に増税されたが、付加価値税の引き上げ時期を延期したからといって、国際世論がフランスを責めただろうか。そもそも消費税を増税するかどうかは他国が干渉できない国内の問題であって、野田首相の「国際公約」発言も増税が実現しなかったら辞任や解散総選挙で責任を取るという話までしていないのが実情だろう。

 

 

社会保障と税の一体改革」をめぐって民主党が分裂

 2011年は東日本大震災の影響もあって、実質GDP成長率が再びマイナスに落ち込んだが、野田内閣は深刻な不況を尻目に、翌2012年1月6日には経団連の同意を得て「社会保障・税一体改革素案」を発表する。

 

 2月29日には、参議院第一委員会室で野田首相と谷垣自民党総裁党首討論が行われ、谷垣総裁は「野田首相が本当に消費税増税を成し遂げたいのであれば、党内をしっかり掌握させて方向性を定めていただきたい」と述べた。

 谷垣氏は2月19日に福岡で行われた講演会で、民主党小沢一郎元代表が消費税引き上げに反対していることについて、「増税に賛成しないのなら、首相は『党を出ていけ』と言うべき」と小沢切りを迫る発言をしており、民主党増税反対派を排除し、自民党との連携を強める姿勢を見せた。

 

 こうした自民党の協力もあって、年度末の3月30日には消費税率を2014年4月から8%、2015年10月から10%に引き上げる「消費税増税法案」を閣議決定した。増税を2段階に分けたのは将来的に消費税を10%以上に増税したいが、国民の反発が強いために段階的に税率を上げていったほうが、抵抗が少ないと考えたからだろう。

 心理学用語では「最初に断られる前提で大きな要求を仕掛けて、その上で本当の目的だった小さな要求を通すこと」をドア・イン・ザ・フェイス(譲歩的要請法)と言うが、消費税でも「財政再建には税率を20~30%まで引き上げる必要がある」と宣伝し、本来の目的であった8%や10%への増税を国民に納得させるのはこの手法が使われていると言える。

 

 その一方で、民主党の中でも消費税引き上げに反対している「小沢グループ」が4月2日に、野田内閣の消費税増税法案に抗議し、鈴木克昌幹事長代理をはじめとするグループ21人の辞表を提出した。

 更には、民主党だけでなく連立を組んでいた国民新党でも、増税反対派の亀井静香代表と賛成派の自見庄三郎議員が分裂する。亀井氏は4月6日に国民新党を離党し、2012年11月には名古屋市長の河村たかし氏と「減税日本・反TPP脱原発を実現する党」を結成した。

 同党はその後、小沢グループが立ち上げた「国民の生活が第一」と共に、滋賀県知事の嘉田由紀子氏が代表を務める「日本未来の党」に合流することになる。

 

 また、民主党国民新党が分裂した他にも、同年6月には新宿、渋谷、池袋など都内各地で数百人規模の消費税増税反対デモが開催された。ちなみに、筆者が初めて増税反対デモに参加したのはこの時期で、同世代の学生が「1997年に橋本首相が消費税を5%に上げてから日本はずっと不況だ」「デフレ下に増税したら不況が更に深刻化する」と演説していたのが印象的だったことをよく覚えている。

 

 しかし、野田内閣は6月15日に自民党公明党との三党合意で消費税増税を中心とする「社会保障・税一体改革関連法案」を今国会中に成立させることで合意し、6月26日に衆議院、8月10日に参議院で可決成立してしまった。

 更に、脱原発を主張していた菅前首相に対して、野田内閣では2012年6月に大飯原発の再稼働を正式決定し、「自民党野田派」と揶揄されるほど従来の自民党と変わらない政策が打ち出されていった。

 

 その一方で、自民党のほうもお笑い芸人の母親が生活保護を受給していた問題に便乗して、生活保護そのものに対するバッシングを開始し、早くも『社会保障と税の一体改革』は「消費税を上げて社会保障を削減する」という路線に切り替わったのである。

 2009年の衆院選で「社会保障の強化のために、消費税を引き上げたい」と訴えた自民党も、「政権を取っても、4年間は消費税を引き上げない」と訴えた民主党も選挙公約に違反したと言えるだろう。

 

 

民主党の壊滅的な敗北に終わった総選挙

 2012年8月10日に「社会保障・税一体改革関連法案」が参議院で可決成立してから、野田首相は「近い将来に信を問う」と年内の解散を思わせる発言をし、11月14日に安倍自民党総裁との党首討論で、小選挙区一票の格差是正と定数削減の実現を条件に16日の衆議院解散を明言した。

 

 衆議院の解散後、12月16日に実施された総選挙ではマニフェストに違反して消費税増税を決定したことや、東日本大震災から一年半が過ぎても進まない復興などに対する批判から、民主党議席を173名減らし、離党した議員も70名以上いたため、2009年の308議席から57議席へと壊滅的な敗北に終わった。

 それに対し、自民党議席を176名増やして、2009年の119議席から294議席へと大幅に増加したため3年ぶりに与党へ戻ることになり、2012年12月26日には第二次安倍内閣が発足する。一度首相を辞任した人物が、再び首相に就任するのは吉田茂以来のことだった。

 民主党政権が崩壊した原因は、マニフェストに書いていることをまともにやらず「第二の自民党化」したことで、民主党が第二の自民党に過ぎないのであれば、国民の多くは政権担当実績の長い自民党で良いと判断したのかもしれない。

 

 

<参考資料>

伊藤裕香子 『消費税日記 ~検証 増税786日の攻防~』(プレジデント社、2013年)

岩﨑健久 『消費税の政治力学』(中央経済社、2013年)

清水真人 『消費税 政と官との「十年戦争」』(新潮社、2013年)

高橋洋一財務省が隠す650兆円の国民資産』(講談社、2011年)

田中秀臣・上念司 『「復興増税」亡国論』(宝島社、2012年)

三橋貴明 『メディアの大罪』(PHP研究所、2012年)

消費税の歴史(2001~2009年)

緊縮財政で政府の負債を増やした小泉内閣

 2001年4月、「私の改革に反対すれば、自民党をぶっ壊す」「民間にできることは民間に」というスローガンを掲げた小泉内閣が発足した。小泉首相構造改革郵政民営化など大胆な政策を打ち出す一方で、消費税増税については橋本内閣の失敗を鑑みて「在任中は引き上げない」と公約した。

 しかし、2001年から5年間続いた政権の中で当然、消費税増税は議論され、その代表的なものに「竹中・与謝野論争」が挙げられる。竹中・与謝野論争とは、2006年頃に竹中平蔵氏(総務大臣)と与謝野馨氏(内閣府特命担当大臣)が財政再建の方針を巡って対立した論争である。

 

 竹中氏は財政再建に関して、2011年度にプライマリーバランス基礎的財政収支)を達成すれば十分であり、大規模な増税はいらないと主張した。その裏付けとして、名目成長率は名目金利よりも高いとし、日本は過去ずっとそうだったと述べた。一方で、与謝野氏は世界的に名目成長率が名目金利を上回る保証はないとし、財政再建を達成するにはもっと厳しく増税を打ち出すべきだと主張した。

 「消費税引き上げより歳出削減を優先すべきだ」とする小泉首相中川秀直政調会長は竹中氏を支持し、「消費税引き上げなどの増税は避けられない」とする谷垣禎一財務大臣や日銀の福井俊彦総裁は与謝野氏を支持している。

 

 小泉内閣では、2002年1月から始まった景気拡張によって、雇用者の数が100万人以上増加したと言われる。しかし、実際には2001年から06年にかけて非正規社員数が318万人増加した一方で、正社員数は225万人も減少してしまった(図24を参照)。

 また、2004年からは製造業にも派遣社員の採用が認められ、派遣労働者は2001年度の175万人から06年度の321万人へと5年間で146万人も増加した。この間、国税庁が発表している民間従業員の平均年収は、2001年の454万円から06年の435万円へと19万円も減少しており、雇用者の数が増加しても景気回復を実感できる人はほとんど存在しなかったと言えるだろう。

 一人当たりの名目GDPの国際ランキングも、2001年の5位から06年の18位まで順位を落としている。

 

 2006年7月には、OECDが日本経済の現状を分析した「対日経済審査報告書」の中で、日本の相対的貧困率OECD諸国で最も高い部類に属することを指摘し、同年7月23日にはNHKスペシャルで、働く貧困層の実態を取り上げた『ワーキングプア 働いても働いても豊かになれない』が放送され、大きな反響を呼んだ。

 翌2007年には定住する住居がなく、寝泊まりする場としてインターネットカフェを利用する「ネットカフェ難民」が社会問題にもなった。

 

 小さな政府で財政再建を目指す小泉内閣は、1998年度にピークの14.9兆円だった公共事業費を2001年度の11.4兆円から06年度の7.8兆円まで削減し、それに伴って政府の公共投資(公的固定資本形成)も5年間で10兆円近く減少した。

 それにも関わらず、俗に「国の借金」と言われる国債や借入金、政府短期証券を合わせた政府の負債は2001年の582兆円から06年の832兆円へと250兆円も増加しており、小さな政府による財政再建は失敗に終わったと言えるだろう。

 小泉首相は「在任中に消費税を引き上げない」という公約を守ったが、政府の負債を大幅に増やしたことによって、その後の内閣に消費税増税を議論させる口実を与えてしまったのかもしれない。

 

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2011年の消費税増税を計画した麻生内閣

 第一次安倍内閣福田内閣を経て、消費税増税に向けた議論が本格化したのが麻生内閣の時である。麻生首相は2008年9月にリーマンショックが発生し、世界経済が100年に一度の大不況に見舞われたことを受けて、10月30日に記者会見を開いた。

 その記者会見の中で、「経済状況が好転した後に、財政規律や安心な社会保障のため、消費税を含む税制抜本改革を速やかに開始します。そして、2010年代半ばまでに段階的に実行させていただきます。(中略)簡単に申し上げさせていただけるのなら、大胆な行政改革を行った後、経済状況を見た上で、3年後(2011年)に消費税の引き上げをお願いしたいと考えております」と発言した。

 2009年1月23日に国会で提出された「平成21年度税制改正法」の附則でも、2011年度から消費税増税を行う方針が明記された。

 

 しかし、リーマンショックの影響は非常に深刻で、2008年の実質GDPは1999年以来のマイナス成長となり、2006~07年に一倍を超えていた有効求人倍率も08年には0.88倍に低下した。自民党増税反対派議員の一人は「わずか3年で経済状況がそんなに好転するわけがない。3年後は間違いなく麻生政権じゃないしね」と本音をもらしたという。

 また、麻生首相自民党幹事長時代の2008年8月に、国・地方を合わせた財政赤字に関して「800兆円の借金があって大変だという話が出回っているが、あれは総負債だ。総負債と、(資産を含めた)純負債を取り違えるかのごとき話は、不必要に世の中の不安をあおっている」と述べ、財政再建より景気対策を優先させるべきだと主張しており、首相になってから財政規律を理由に消費税を引き上げる方針に転換したのは矛盾していたのである。

 

 2009年に入ってから不況は一段と厳しくなり、定額給付金エコカー減税、休日高速道路料金の大幅引き下げなど、矢継ぎ早な景気対策を行っても内閣支持率は回復しなかった。自民党内からは「支持率低迷の麻生首相で総選挙は戦えない」という声が噴出し、「麻生降ろし」が表面化した。

 7月21日の衆議院解散で始まった総選挙では、自民党が「社会保障の強化のため、景気回復後に消費税を引き上げたい」と訴え、民主党が「政権を取っても、4年間は消費税を引き上げない」と訴えた。8月30日の投開票の結果、自民党議席を181名減らした一方で、民主党議席を193名増やし、1993年の衆院選以来、16年ぶりの政権交代が起こった。

 

 麻生首相は総選挙を終えた夜、「自民党に対する積年の不満を払拭できなかった。その責任を負う宿命にあった」と反省の言葉を述べている。大平内閣から竹下内閣、橋本内閣と消費税に関わった政権の多くが選挙で負けているが、民主党に政権を与えた麻生内閣もその例外ではなかったと言えるだろう。

 

 

<参考資料> 

厳しい時代に「生き残る」には 第51回 竹中氏辞職の真相

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/51/index1.html

派遣労働者数の推移

http://www.ritsumei.ac.jp/~satokei/sociallaw/tempworkers.html

日本の1人当たりのGDPが世界19位に低下

http://lingvistika.blog.jp/archives/1016821134.html

ワーキングプア ~働いても働いても豊かになれない~

http://cgi2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010526_00000

公共事業費を削減したのは前民主党政権ではない

http://blogos.com/article/148391/

麻生内閣総理大臣記者会見 平成20年10月30日

http://www.kantei.go.jp/jp/asospeech/2008/10/30kaiken.html

<麻生自民幹事長>財政再建優先論に反論…大阪での講演

http://megalodon.jp/2008-0813-0626-45/headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080807-00000092-mai-pol

 

生活保護よりもカジノ解禁こそ見直すべき

 生活保護バッシングの一つに「パチンコをやっている人が生活保護を受給するのは許せない」というのがある。実際に、大分県別府市の福祉事務所は2015年10月、パチンコ店と市営競輪場で姿を見かけた生活保護受給者25人に対し、遊技場に出入りしないよう指導した。

 そのうち9人は、過去にも指導して「遊技場に立ち入りません」という誓約書を出させていたことから1~2ヵ月間、生活扶助と住宅扶助を減額する不利益処分を行った。

 

 確かに、生活保護費をパチンコや競輪につぎ込むのは良くないだろう。しかし、それは生活保護受給者だけではなく、依存症を誘発するギャンブルそのものに問題がないだろうか。

 厚労省は2014年、ギャンブルしたい気持ちを抑えられない「ギャンブル依存症」の疑いがある人は、成人男性が438万人(人口比8.7%)、女性が98万人(1.8%)で合計536万人(4.8%)いると推計した。海外の同様の調査でギャンブル依存症の割合は、アメリカが1.58%(2002年)、香港が1.8%(2001年)、韓国が0.8%(2006年)なので、日本は際立って高いことが分かる。

 2016年夏には、スマートフォン向けアプリの「ポケモンGO」が流行し、警視庁は7~8月だけでも「ポケモンGO」をやりながら深夜を徘徊していた未成年を東京都内で553人も補導したという。夜遅くに出回るほどゲームに熱中するのは間違いなく「依存症」である。このような事例から依存症はギャンブルだけでなく、私たちの身近にある問題なのだ。

 

 だが、日本ではギャンブル依存症に対しても「その人の意志が弱い」という自己責任論で片付けていないだろうか。生活保護を引き下げようとする議論が起こっても、パチンコを規制しようとする議論が起こらないのはその証左である。

 パチンコホールの全国組織「全日本遊技事業協同組合連合会」の依存症研究会が2004年頃、パチンコの事業者に「過度にのめり込む客に対する対策を業界が積極的に取り組むべきだと思うか」と質問を行ったところ、56%が「思わない」と回答し、そのうち72%が「本人の問題であるから」と答えている。

 つまり、依存症を生み出しているパチンコ業界も過度にのめり込む客に対して、何も対策を講じていないということだろう。

 

 また、政府はパチンコ依存症を放置した上、カジノまで解禁しようとしている。石原慎太郎氏はパチンコ反対派として知られ、東日本大震災による電力不足でも「パチンコと自動販売機で合計1000万キロワット近い電力が使われている」と批判したが、その一方で都知事に就任した1999年当時には「お台場カジノ構想」を発表している。

 東京都のカジノ解禁は国会での法改正が難しく実現には至らなかったが、2013年9月に「2020年東京オリンピック」の開催が決定したことで、再びカジノ解禁に向けた動きが活発化し始めた。現在の小池都知事もカジノを含む複合型観光施設(統合型リゾート)の誘致に前向きな姿勢を見せている。しかし、パチンコ依存症すら解決できない日本が、わざわざ東京五輪のためにカジノを解禁する必要は本当にあるのだろうか。

 

 カジノ推進派の中には、石原慎太郎氏だけでなく元大阪府知事橋下徹氏がいる。橋下氏は2010年5月の大阪エンターテイメント都市構想推進検討会で「金がないと言えば、国はすぐ増税と言う。増税をやるならカジノだと思う。カジノをつくって、そのお金を福祉などにまわせばいい」と発言した一方で、生活保護に関しては2013年に行われた自民党の基準引き下げを高く評価し、「ルールが非常に甘いと思う。真面目に働いている人の勤労意欲をなくす」と厳しく非難した。

 しかし、カジノを解禁すれば間違いなくギャンブル依存症の人が増え、財産を失って生活保護の受給者も増加するという悪循環に陥ることは容易に想像できる。カジノを推進し、生活保護を非難するということは、ギャンブル依存症もその人の自己責任だと考えているのだろう。

 

 もし、ギャンブル依存症が自己責任ではなく「カジノで得られた税収を依存症対策に充てる」と考えているのなら、最初から依存症を防ぐためにカジノ解禁を止めれば良いのではないか。カジノは経済効果を生むだけでなく、勝負に負けた人が犯罪を起こすなどして治安を悪化させるリスクが高いのである。

 自民党はカジノを含む統合型リゾート施設の解禁を見直し、全国のパチンコの店舗数を減らすように規制した上で、生活保護の支給額を2013年1月以前の水準に戻すべきだろう。

 

 

<参考資料>

鳥畑与一 『カジノ幻想』(ベストセラーズ、2015年)

若宮健 『パチンコに日本人は20年で540兆円使った』(幻冬舎、2012年)

 

貧困と生活保護(28) 生活保護とパチンコをどう考えるか

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160407-OYTET50024/

<依存症>多い日本 ギャンブル536万人 厚労省研究班

http://archive.fo/8kwRW

ポケモンGO】深夜徘徊続出で少年補導553人 警視庁

http://www.sankei.com/affairs/news/160830/afr1608300024-n1.html

小池都知事、カジノ含む施設「あってもいい」 民放、NHKで相次いで発言

http://www.j-cast.com/2016/08/09274906.html

大阪府 第1回大阪エンターテイメント都市構想推進検討会

http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/10583/00000000/gijiroku.pdf

 

法人税と所得税を減税しても消費は増えない

90年代半ばまでは法人税所得税が「基幹税」だった

 消費税増税の賛成派は「法人税所得税の税収は景気に左右されやすいが、消費税は毎年10兆円以上の税収が続いており、経済動向に関係なく安定した財源だ」と主張する。

 確かに、財務省の「主要税目の税収(一般会計分)の推移」を見ると、国の法人税収は1989年の19.0兆円、所得税収は1991年の26.7兆円とバブル期にピークを迎えて、その後は減収している。2016年7月1日に発表された「2015年度の一般会計決算概要」によれば、15年度の法人税収は10兆8274億円、所得税収は17兆8071億円、消費税収は17兆4263億円だった(図19を参照)。

 

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 しかし、法人税が1980年代後半から減税されてきたことは既に述べたが、所得税についても1974~83年は最高税率が75%、刻みが19段階だったものを1999~2006年には最高税率が37%、刻みが4段階まで引き下げていたのだ。所得税の大幅な簡素化が行われた時期(1987~89年)に消費税が導入されたのは特筆すべき事項である(下記の画像を参照)。

 つまり、法人税所得税の税収が減少したのはバブル崩壊後の長引く不況だけでなく、税率を引き下げてきたからとも言える。実際に、消費税が3%だった1990年代半ばまでは法人税所得税こそが国の税収を支える「基幹税」だったのである。

 

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法人税所得税を減税しても消費は増えない

 1980~90年代にかけて法人税所得税が減税されてきた理由は、主に「富裕層の消費や投資を促して経済を活性化させる」というトリクルダウン理論が言われていた。

 しかし、実際にワールド・ウェルス・レポートの調査によれば、日本で100万ドル(約1億2000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2005年の141万人から2015年の272万人へと10年間で100万人以上増加していて、法人税所得税が減税されたぶんは消費や投資ではなく貯蓄に回されたのである(図20を参照)。

 

 所得の増加分のうち、消費支出が増える割合を「限界消費性向」と言うが、100万ドル以上の資産を持つ人が急増しても消費不況が解消されないのは、所得がある一定のレベルに達すると、それ以上収入が増えても消費に回す金額は増加しないことの証左ではないだろうか。

 

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 日経新聞は2016年2月に「年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は」というタイトルで、年収2500万円以上の所得税負担額が1999年の921.0万円から2014年の1204.3万円まで増加し、2017年には1225.1万円になると予測を発表した。

 コンサルタントの永江一石氏はこの記事を引用して、「高所得者はどんどん重税化している」「日本の金持ちは可哀想」などとブログで述べている。

 

 しかし、実際に所得税の負担率は年収70万円から年収1億円にかけては上昇していくが、それ以上所得が多くなると逆に減少する仕組みになっていて、年収1億円以上の「超富裕層」の所得税負担率はそれほど高くないのだ。この点は、所得が上がるほど負担率が低下していく消費税と対照的である(図21を参照)。

 

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労働人口が減少しても経済成長は可能である

 その上、法人税所得税が景気に左右されやすいなら、単純に財政出動などの景気対策で経済成長を促せば良いだろう。こう主張すると必ず「日本は労働人口が減少しているからもう経済成長できない」と反論してくる者がいるが、では少子化が進行してから名目GDPが増加した中国についてはどう思うだろうか。

 中国は1979年から2015年にかけて「一人っ子政策」を実施して厳しい人口抑制策を行ってきたが、80年代の鄧小平時代には上海や広州などに経済技術開発区を作り、海外の企業を誘致して2000年以降に著しい経済成長を遂げることができた(日本・中国の出生率と名目GDPの推移は図22~23を参照)。

 

 とはいえ、所得格差は日本よりはるかに深刻なのでこうしたやり方を真似する必要はないが、少なくとも「労働人口が減少しているから経済成長できない」という主張は、日本で20年近く続いているデフレ不況を正当化する言い訳に過ぎないだろう。

 日本が経済成長しないのは、消費税を上げて政府の公共投資(公的固定資本形成)を削減するという緊縮財政が続けられているからである。

 

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所得税増税しても富裕層の資産は海外流出しない

 「消費税を上げるより、所得税の累進性を高めるべき」との意見に対して、消費税増税の賛成派は「所得税最高税率を引き上げると、富裕層の海外流出を招き、日本経済の活力が失われる」と反論している。だが仮に、日本の資産家が所得税を逃れようと10兆円のお金を海外に持ち出したとしても、日本円は海外で使用できないため、必ず外貨で両替する必要がある。

 両替行為が行われた結果、金融機関が10兆円の資産を日本に持つことになり、資産家が海外に持ち出すはずだったお金は結局、日本国内に残るのである。

 

 また、所得税の累進性が高かった1974~83年当時、所得税(75%)と住民税(18%)を合わせた最高税率は93%だったが、当時の日本で海外に逃げ出す富裕層は存在しただろうか。むしろ、所得格差の少ない「一億総中流社会」を形成し、安定的な経済成長を続けていたではないか。

 それに、所得税が高くて富裕層が日本から逃げ出すことを心配する人は、消費税が10%以上に引き上げられた際、税金に重みを感じて消費税が安いアメリカや、消費税が高くても社会保障が充実しているヨーロッパに移住しようと考える国民が増加する可能性もあることを懸念しないのだろうか。

 

 ただし、所得税最高税率は2007年に37%から40%、2015年に45%へと近年引き上げられる傾向にある。そのため、今後は1987年から減税が繰り返されている法人税率を引き上げる方向に持っていくことが消費税増税を中止させる第一歩となるだろう。

 

 

<参考資料>

主要税目の税収(一般会計分)の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/011.htm

15年度の税収56兆円、24年ぶり高水準 法人税は6年ぶり減

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS01H6C_R00C16A7EE8000/

所得税の税率構造の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/035.htm

ワールド・ウェルス・レポート2016

https://www.worldwealthreport.com/Global-HNWI-Population-and-Wealth-Expanded

年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は

https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/

申告所得税標本調査結果

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/shinkokuhyohon2014/hyouhon.htm

中国の経済はなぜ急速に発展したのか?

http://www12.plala.or.jp/rekisi/tyuugokukeizai.html

消費税の歴史(1989~2001年)

この記事は『消費税の歴史(中曽根~竹下内閣)』の続編です。

 

消費税増税を容認した社会党

 1989年の参院選が終わった後も、国会では引き続き消費税の存廃議論が行われ、同年11月には社会党などの野党が「消費税廃止法案」を参議院本会議に提出した。この法案は、衆議院での審議未了で廃案となるが、自民党は中曽根首相が「大型間接税はやらない」と発言した1986年の衆参同時選挙から、バブル崩壊の影響が鮮明になった1993年までに衆議院議席を77名減らした。

 

 これにより、戦後長らく続いた自民党の「55年体制」が崩壊し、1993年8月に日本新党代表の細川内閣が発足する。細川首相は導入以来、国民の反発を招いてきた消費税を白紙に戻し、代わりに税率7%の「国民福祉税」を提案した。しかし、実際には消費税の名称を変えただけであって、世論を味方につけることは出来なかった。

 

 その一方で、社会党土井たか子氏の委員長辞任後、消費税について「福祉のために使うのであれば増税もやむを得ない」という空気が生まれており、羽田内閣を経て1994年6月に自民・社会・新党さきがけ連立政権として発足した村山内閣は、1997年から消費税を5%に引き上げることを94年11月の「税制改革関連法案」で決定した。

 

 消費税導入に反対していた社会党の出身でありながら増税を決定した理由について、村山首相は「高齢化社会を迎えるに当たって、従来通り所得税だけに依存するとサラリーマンにより大きな負担が掛かる」と述べていた。

 だが、「所得税がサラリーマンにとって大きな負担」というのは、当然ながら村山首相の持論ではなく、大蔵省の主張を代弁したに過ぎない。これ以来、社会党は「何の理由もなく増税に反対していた節操のない政党」という認識が広まってしまい、阪神・淡路大震災地下鉄サリン事件も逆風となって、1995年7月の参院選では連立与党三党の敗北に終わった。

 

 しかし、増税賛成派も負けてはおらず、同年11月の国会で武村正義蔵相が事実上の「財政危機宣言」を発表する。

 武村氏は「中央公論」(1996年6月号)の中でも、『このままでは国が滅ぶ―私の財政再建論』という衝撃的な見出しで、消費税の福祉目的化や法人税減税、歳出削減などを提案したが、『日本は本当に借金大国なのか?』でも説明したように「国の借金」とは「政府の負債」であって、国民が背負った借金であるかように脅すのは許しがたい嘘だろう。

 

 

景気が回復していた中で消費税増税を決定

 村山首相の辞任後、1996年1月に発足した橋本内閣は、消費税増税による景気悪化を大きく受けた政権として名を残すことになる。

 

 1996年の日本経済は、実質GDP(2005年基準)の成長率が2.6%に上昇するなどバブル崩壊からの着実な回復を見せていた。

 実際に、経団連会長の豊田章一郎氏は、同年2月7日に行われた『読売国際経済懇話会』の中で、「日本経済は長い混迷の時代にありますが、景気にようやく明るさが感じられるようになりました。特に、今年度の設備投資は、四年ぶりに増加の見込みであるほか、消費も緩やかではございますが、回復基調にあります」と述べている。

 また、当時の経団連は「構造改革を行えば景気が回復する」という楽観論を描いており、それが消費税増税規制緩和、医療費の増徴、公共投資の削減など、橋本内閣の経済政策に繋がったとされる。

 

 しかし、今回も国民の反発を招き、1996年3月には全国各地の旅館の女将ら約60名が特別地方消費税(2000年廃止)に反対して、国会周辺でデモを行った。

 当時の旅館やホテル業界では、消費税3%の他に特別地方税3%が加算されたため、消費税という名目で計6%を宿泊客から取らなければならず、「意味不明の消費税を2倍も取られる理由はない、と客から叱られることもしばしば」と批判する女将も多かったという。

 

 消費税増税は最終的に、橋本内閣が1996年6月25日に閣議決定を行い、1997年4月から5%へ引き上げることを決定した。だが、橋本首相としては「消費税増税は村山前政権が決めたこと」という意識が強く、あまり責任に重みを感じていたとは言えない状況であったのだろう。

 6月25日の閣議決定を受けて、翌26日には北野弘久氏や富岡幸雄氏など、各界の学者や文化人13名が「消費税の税率引き上げを中止させるために」という国民へのアピールを行った。また、自民党亀井静香議員や「次代を担う若手国会議員の会」(松岡利勝代表)が1996年8月に、消費税5%への引き上げについて一定期間凍結すべきとの決議を行っており、与党議員にも増税反対派が存在したことがうかがえる。

 

 当時、自民党幹事長だった加藤紘一氏も、橋本首相から選挙の見通しについて「調査結果を見ると、消費税増税を言い続けたら投票態度を変えるという人が10%います。数十議席減って過半数を割る」と答えた際に、橋本首相の顔色が変わったという。結果的に1996年10月の衆院選では議席を16名増やし自民党が勝ったが、消費税増税で党内が混乱していたことも事実だろう。

 

 しかし、そうした国民の反発や自民党の混乱を無視して、1996年11月29日と12月1日のNHKスペシャルでは「消費税を増税しないと日本経済は破綻する」という内容の番組を2回にわたって放送した。

 また、1997年1月13日には年明けに株価が急落したことを受けて、クローズアップ現代が「株価下落の主因は、緊縮財政に反対する予算拡張への動きにある」という的外れな内容の番組を放送している。この番組では、消費税増税や緊縮財政に反対する経済学者の植草一秀氏のコメントが削除されたという。

 

 

消費税増税で景気が悪化した19971998

 1997年3月には、消費税が導入された1989年と同様に、高価品の駆け込み消費が発生した。リサーチ総研の消費者心理調査によれば、年収400万円未満で増税前の駆け込み消費を行った人の割合は40.9%と比較的少なかったのに対し、年収400万円以上では50%を超えており、駆け込み消費は高所得者を中心に行われていたことがうかがえる(『収入と雇用の見通しが鍵を握る消費者心理の改善』 リサーチ総研CSI消費者心理調査 1997年5月より)。

 

 その影響もあって1997年の経済は、5月頃まで1993年10月から続く景気拡張に支えられて順調だったが、駆け込み消費の反動でデパート、スーパー、家電などは8月も前年同月比で売り上げが下回っていた。9月に発表された4~6月期のGDPは年率マイナス11.2%と大きな落ち込みを示している。9月11日に内閣改造を行い、ロッキード事件で有罪となった佐藤孝行議員の起用が批判されていた橋本首相にとって、マイナス成長の発表は痛手だった。

 だが、橋本首相は景気の悪化に危機感を示しつつも、財政収支を健全化させる「財政構造改革」を進めようとする方針に変更はなかった。10月21日には、規制緩和や金融ビッグバンを含めた緊急経済対策をまとめている。

 

 マイナス成長に加え、11月に入ると金融機関の破綻が相次いで発生する。3日には三洋証券が会社更生法を申請し、17日には北海道拓殖銀行が経営破綻し、24日には山一證券が自主廃業を決めた。

 特に、山一證券の野澤社長が記者会見で「みんな私ら(経営陣)が悪いんであって、社員は悪くありませんから」と涙ながらに謝罪したシーンは、多くの人にとっても印象に残っている。戦後、長年にわたって続けられた大蔵省の「護送船団方式」による金融機関の保護に慣れた国民にとって、1ヵ月のうちに三洋・拓銀・山一の大型倒産が相次ぐとは予想もしていなかっただろう。

 

 橋本首相は金融恐慌の発生を受けて、11月24日、山一證券が自主廃業したのと同日にバンクーバーで開催された日米首脳会議で「経済の見通しについて言えば、大統領やルービン長官、サマーズ副長官らの勘が正しかったようだ。この点はお詫びしなければならない」と謝罪している。

 実は日本が消費税を5%に引き上げる直前の1997年3月、アメリカのゴア副大統領が来日し、「日本はなぜ緊縮財政を取るのか。内需を拡大して経済を活性化させるべきではないか」と進言していたのだ。しかし、橋本首相と大蔵省は「緊縮財政や消費税増税は既に決まっている」として聞く耳を持たなかった。

 

 1998年には不況が更に深刻化して、「日本発の金融恐慌」までもが懸念された。巨額の不良債権を抱える銀行など、多くの企業が決算期を迎える「3月危機」もささやかれ始める。完全失業率は戦後初めて4%台に達し、全国企業倒産件数も1985年以来、13年ぶりに1万8000件を超えた。

 こうした中で1998年7月12日に行われた参院選では自民党が敗北し、翌13日に橋本首相は辞意を表明した。消費税を5%に引き上げてから1年3ヵ月後の出来事だった。

 

 

アジア通貨危機と山一破綻が不況の原因なのか?

 消費税増税の賛成派は、1997~98年の不況について増税の影響ではなく、97年7月にタイで発生し、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国など東アジア全域に飛び火した「アジア通貨危機」が原因だと主張している。

 だが、アジア通貨危機の当事国であるタイや韓国は翌1998年のGDP成長率が日本以上に悪化した一方で、その後は1999~2007年にかけて高い成長率を続けていたことがわかる(図17を参照)。

 

 発展途上国のタイだけでなく、韓国でもアジア通貨危機からの回復が早かったため、1997年から20年近く続いている日本のデフレ不況を、アジア通貨危機だけが原因だとするのは間違っているのではないだろうか。

 

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 また、この他にも増税賛成派は「1997年の不況は、北海道拓殖銀行山一證券の破綻など金融危機が原因」と主張している。しかし、山一證券は97年だけでなく、1965年5月にも経営破綻が表面化していたが、日銀による緊急特別融資の実施とその後の高度成長で危機を乗り越えたのである。

 その一方で、1997年の自主廃業はバブル崩壊後の景気悪化や4月以降のマイナス成長と無関係ではないだろう。

 

 1998年6月22日に経済企画庁で開かれた「景気基準日付検討委員会」では、景気が拡張局面から後退局面に移る転換点の「山」を1997年3月と判定するにいたった。この景気の「山」が97年3月に確定されたことは、景気後退が消費税を5%に引き上げた4月から始まっていたことを意味する。政府は「消費税増税による景気悪化」を公式に認めていたのだ。

 

 更に、自殺者の数も1997年の23494人から1998年の31755人と一年間で8000人以上も増加した(厚労省「人口動態統計」より)。一般的に自殺は女性より男性に多いと言われているが、1970年以降の男性の自殺死亡率と完全失業率を比較すると、どちらも90年代後半に伸びているのがわかる(図18を参照)。

 この時期は失業率の悪化と共に40~50代の自殺者が急増しており、消費税増税後の深刻な不況が自殺者増加の原因となった可能性も高いだろう。

 

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消費税増税の代わりに法人税所得税を減税

 1998年の参院選を経て7月30日に発足した小渕内閣は、橋本内閣が1997年11月に成立させた「財政構造改革法」を98年12月に凍結し、金融の安定化や景気振興と経済再生に尽力した。1998~99年はGDP成長率が2年連続でマイナスだったが、2000年には2.3%のプラスに回復して経済が成長路線に戻った。

 

 その一方で、法人税率は1998年度に37.5%から34.5%に引き下げられたことに加え、1999年度には30%まで引き下げた。所得税に関しても97年度に特別減税を廃止した橋本内閣に対して、小渕内閣では99年度に最高税率を50%から37%に引き下げた。

 消費税が導入された1989年、竹下内閣は同時に法人税所得税を減税したが、「消費税増税の代わりに法人税所得税を引き下げる」という手法は1997~99年の橋本・小渕内閣でも繰り返されたと言えるだろう。

 

 橋本首相は2001年4月、自民党総裁選に再度立候補した時に「私は1997~98年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も経済問題で自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くお詫びしたい」と謝罪し、消費税増税を含めた自身の経済政策について失敗を認めている。

 

 

<参考資料>

植草一秀斎藤貴男 『消費税増税 「乱」は終わらない』(同時代社、2012年)

軽部謙介西野智彦 『検証 経済失政』(岩波書店、1999年)

菊池信輝 『財界とは何か』(平凡社、2005年)

北野弘久 『5%消費税のここが問題だ』(岩波書店、1996年)

竹森俊平 『1997年 世界を変えた金融危機』(朝日新聞社、2007年)

羽田一郎 「早くも橋本内閣支持率は下落傾向 消費税5%に大義はあるか」 『月刊TIMES』(月刊タイムス社編、1996年8月号)

林直道 『日本経済をどう見るか』(青木書店、1998年)

 

経済に関するデータ 世界銀行

http://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/03/24/open-data-economy

人口動態調査

https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001028897

労働力調査

http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.htm

 

消費税増税は世代間格差の是正にならない

消費税は貧しい高齢者へのしわ寄せが大きい

 増税賛成派は「消費税は子供からお年寄りまで税金を徴収できるから、世代間格差の是正に効果的だ」と主張する。

 

 世代間格差とは、学習院大学教授の鈴木亘氏の試算によれば、将来的に受け取る年金受給総額から、現役時代に納めた年金保険料の総額を引いた差が1940年生まれと2010年生まれで約5900万円もあるという。

 年金受給格差を消費税で解決しようとする意見には「消費税を増税すれば、富裕高齢者の消費によって税収が上がり、将来的な年金支出を通して貧しい若年層に再分配できる」という思惑が存在するが、そもそも高齢者の多くは若者から搾取するほど金持ちなのだろうか。

 

 厚労省の「平成27年 国民生活基礎調査の概況」によれば、65歳以上の高齢者世帯の所得金額は150~200万円の割合が14.8%と最も多く、50万円未満も2.1%存在する。その一方で、1000万円以上は1.9%存在し、高齢者世帯の格差が広がっていることがわかるだろう(図13を参照)。

 金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(2015年)でも、金融資産を持っていない人は20代で36.4%、70歳以上で28.6%なのに対し、金融資産を3000万円以上持っている人は20代では存在しない一方で、70歳以上では15.5%も存在していて、高齢世代の格差は若者よりも深刻で貧困層富裕層の二極化が進んでいると言える(表7を参照)。

 

 『消費税収の86%が法人税減税に消えている』でも説明した通り、消費税は所得に関係なく、消費に対して同じ額の税金が掛かる「逆進性」の強い性質を持っているため、富裕高齢者より貧しい高齢者へのしわ寄せが大きいだろう。

 

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若者のほうが消費税増税に反対する人が多い

 新潟大学教授の藤巻一男氏は2011年、消費税増税に関して20~60代の男女1000名に以下のアンケート調査を実施した(図14を参照)。

 

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 この調査によれば、「消費税の引き上げはやむを得ない」とする回答1~3の合計は20代で63.2%、30代で65.4%、40代で65.6%、50代で70.3%、60代で72.0%と年齢が上がるごとに割合が高まっていくのがわかる。

 それに対し、「消費税の引き上げには反対」とする回答4は20代で32.5%、30代で28.4%、40代で29.1%、50代で25.5%、60代で22.8%と高齢者より若者のほうが反対の割合が高いのである。

 

 藤巻氏の調査の他にも、インターネットの調査サイト『しらべぇ』が2016年6月に、全国18歳~70代の男女有権者2070名に対して「税金の無駄を見直せば、消費税を増税しても良いか?」と質問を行った(図15を参照)。

 

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 この調査でも、「消費税を増税しても良い」と答えた人の割合は、18歳~20代で男性が45.5%、女性が47.6%なのに対し、70代では男性が78.2%、女性が70.3%と若者より高齢者のほうが消費税増税に賛成する人が多いのだ。実際に、消費税引き上げを推進する政治家の多くが60歳以上であることからも、増税に賛成する高齢者の姿が想像できるだろう。

 仮に、消費税増税が世代間格差の是正になると国民が実感しているのなら、若者こそ消費税増税に賛成する割合が高くなければならないが、高齢者より若者のほうが増税に反対する人が多い事実について、消費税増税の賛成派はどう感じるだろうか。

 

 

何故、若者の多くが消費税増税に反対するのか?

 若者の多くが消費税増税に反対する理由は、高齢者より今の政治に対する不信感が強いからだろう。東京大学谷口将紀研究室では2009年に、朝日新聞との共同調査で年齢別に「あなたは国の政治をどれくらい信頼しているか?」と質問を行った(図16を参照)。

 国の政治を全く信頼していない割合は、20代で34%、30代で32%、40代で24%、50代で23%、60代で17%、70歳以上で15%と年齢が上がるごとに低下しているのがわかる。

 

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 消費税の財源のほとんどは法人税減税の穴埋めに消えているが、政治への信頼が高ければ国会議員が「消費税増税分を全額、社会保障に使う」と発言しても、それを信じてしまうだろう。逆に、政治に対する不信感が強ければ、消費税増税法人税減税が同時期に実施されている事実を知らなくても、国民に負担増を求める政治家の発言は信用できないだろう。

 また、当然のことながら高齢者より若者のほうが長く生きるため、そのぶん税金を払う期間も長い。日本では「消費税引き下げ」の議論が起こったことがないので、一度増税したら税率が下がらない消費税は若者にとって大きな負担ではないだろうか。

 

 

<参考資料>

木村雅文 編著 『現代を生きる若者たち』(学文社、2013年)

藤巻一男 『日本人の納税者意識』(税務経理協会、2012年)

 

世代間格差という幻想に若者はもっと怒った方が良い

http://blog.livedoor.jp/midwhite/archives/7607061.html

平成27年 国民生活基礎調査

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa15/dl/06.pdf

家計の金融行動に関する世論調査

https://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/yoron2015fut/

「税の無駄なくなれば消費増税OK」が6割 世代格差も判明

http://dailynewsonline.jp/article/1154867/

世界の軽減税率と消費税を引き下げた国

新聞に軽減税率は必要なのか?

 ヨーロッパでは低所得者への逆進性を防ぐために、食料などの生活必需品に軽減税率やゼロ税率が適用されている(表6を参照)。

 日本でも消費税が10%に引き上げられる2019年10月から軽減税率が導入される予定だが、対象品目は「酒類」や「外食」を除いた飲食料品と定期購読の契約をした週2回以上発行される新聞に限定しており、まだまだ範囲が狭すぎて逆進性の緩和に繋がるとは思えない。

 

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 公明党の山口代表は軽減税率について「8%が基準」と現行の消費税率より安くならないことを明言し、公明党税制調査会長の斉藤鉄夫議員も「将来、消費税は13~15%、ひょっとすると欧州のように20%になっているかもしれない。そのとき、初めて軽減税率の意味が出てくる」と述べている。

 つまり、公明党が軽減税率を推進しているのは低所得者対策のためではなく、将来的な消費税増税に向けて国民の反発を抑えることが目的だと考えて良いだろう。

 

 新聞に軽減税率が適用されるのは、日本新聞協会が以前から軽減税率の適用を求めていたからで、2013年9月26日の読売新聞でも「欧州各国では『知識に課税せず』という共通認識があり、新聞を軽減対象とする国が大半を占める。日本も先例を参考にしなくてはならない」と社説で訴えている。

 しかし、今まで政府の負債を「国民が背負った借金」だと誤解を与えてまで消費税増税を煽っていたのに、自分たちだけ軽減税率を適用してもらおうとする新聞業界は非常に身勝手ではないだろうか。

 

 それに、新聞は現代において食料と同様の「生活必需品」なのか? NHK放送文化研究所の調査によれば、平日に新聞(電子版も含む)を読む人は国民全体で1995年の52%から2015年の33%まで減少し、20代に限れば男性は32%から8%、女性は32%から3%に減っていて、とても生活必需品とは言い難い(図12を参照)。

 日本新聞協会は「知識への課税強化は確実に国のちからの低下をもたらし、我が国の国際競争力を衰退させる恐れがあります」と述べているが、それなら消費税10%への引き上げを中止し、書籍や雑誌を含めた出版物全体を非課税の対象としたほうが新聞業界にとっても好都合だろう。

 

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消費税を引き下げたカナダとイギリス

 世界には、消費税を引き上げた国だけでなく、引き下げた国も存在する。例えば、カナダの付加価値税は1991年に7%で導入され、この他にも州ごとに0~10%の州税が存在するが、付加価値税は2006年7月に6%、2008年1月に5%へと引き下げられている。2008年はサブプライム危機の影響でカナダの財政収支が悪化しており、景気後退期に税率を引き下げたのは正しい判断であったと言えるだろう。

 

 また、イギリスでも1991年から17.5%だった付加価値税を2008年12月から2009年12月まで15%に引き下げていた。これについて、当時のブラウン首相は「現在、家計で苦しんでいる全ての世帯に、我々が救済に乗り出す準備があり、あなた達の味方であることを理解してほしい」と呼びかけ、英民間調査機関の経済ビジネス調査センターも付加価値税の引き下げが、2008年12月からの3ヵ月で小売業の総売上高を増やすのに役立ったと指摘している。

 イギリスでは付加価値税の引き上げに肯定的な保守党と否定的な労働党に対立していて、社会党民主党が政権を取っても消費税増税の議論しかされない日本とは全く状況が異なると言って良いだろう。

 

 ちなみに、イギリスの付加価値税は2011年1月から20%に引き上げられたが、その影響で景気が悪化し、GDPの成長率は11年の2.0%から12年の1.2%へと下落している。当時は2008年のリーマンショックからイギリス経済が立ち直りかけていた時期だったが、付加価値税の引き上げが景気に冷水を浴びせて、結果的に2016年のEU離脱にも繋がったのではないだろうか。

 

 

消費税が存在しないアメリカ

 『日本の消費税は本当に安いのか?』の記事に掲載した間税会が配布するクリアファイルの中で、欄外に小さく「アメリカなどこの表に載っていない国でも、多くの国は消費税(付加価値税)とは異なる小売売上税、取引高税などの税制を実施しています」と書かれてあるが、アメリカでは国が定める消費税が存在せず、代わりに州ごとにセールスタックス(州税)が異なっている。

 最も州税が高いのはテネシー州の9.46%で、オレゴン州モンタナ州デラウェア州ニューハンプシャー州には州税が無く、アラスカ州地方税のみである(写真を参照)。

 

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 アメリカでもレーガン大統領の時代に消費税の導入が検討されたが、財務省は「現行の所得税制を売上税制度に変えるという案は、分配上の不公平をもたらすという理由からこれに反対する」と報告書で否定した。それから20年経ってブッシュ大統領が金持ち減税の財源に消費税の導入を構想したものの、やはり見送られた経緯がある。

 

 日本は1990年代以降、小さな政府や規制緩和によってアメリカ流の新自由主義経済を模倣してきたが、税制だけは北欧の福祉国家を目指そうとしているように感じる。2019年から消費税を10%に引き上げれば、アメリカの州税よりも高くなり「高負担・低福祉」社会に突入するのではないだろうか。

 

 

<参考資料>

岩本沙弓 『アメリカは日本の消費税を許さない』(文藝春秋、2014年)

上念司 『デフレと円高の何が「悪」か』(光文社、2010年)

田村秀男 『消費増税の黒いシナリオ』(幻冬舎、2014年)

 

主要国の付加価値税の概要

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.htm 

軽減税率 消費税8%時に導入を目指せ

http://d.hatena.ne.jp/i-haruka/20130926/1380218153

2015年 国民生活時間調査

http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf

通貨と消費税 カナダ・ガイド:生活

http://www.e-maple.net/guide/gst.html

アメリカの州別消費税マップ

http://us.bloomsfun.com/240302102912398280403602731246.html