消費税増税に反対するブログ

消費税の財源のほとんどが法人税減税に消えている!消費税を廃止し、物品税制度に戻そう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

法人税と所得税を減税しても消費は増えない

90年代半ばまでは法人税所得税が「基幹税」だった

 消費税増税の賛成派は「法人税所得税の税収は景気に左右されやすいが、消費税は毎年10兆円以上の税収が続いており、経済動向に関係なく安定した財源だ」と主張する。

 確かに、財務省の「主要税目の税収(一般会計分)の推移」を見ると、国の法人税収は1989年の19.0兆円、所得税収は1991年の26.7兆円とバブル期にピークを迎えて、その後は減収している。2016年7月1日に発表された「2015年度の一般会計決算概要」によれば、15年度の法人税収は10兆8274億円、所得税収は17兆8071億円、消費税収は17兆4263億円だった(図19を参照)。

 

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 しかし、法人税が1980年代後半から減税されてきたことは既に述べたが、所得税についても1974~83年は最高税率が75%、刻みが19段階だったものを1999~2006年には最高税率が37%、刻みが4段階まで引き下げていたのだ。所得税の大幅な簡素化が行われた時期(1987~89年)に消費税が導入されたのは特筆すべき事項である(下記の画像を参照)。

 つまり、法人税所得税の税収が減少したのはバブル崩壊後の長引く不況だけでなく、税率を引き下げてきたからとも言える。実際に、消費税が3%だった1990年代半ばまでは法人税所得税こそが国の税収を支える「基幹税」だったのである。

 

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法人税所得税を減税しても消費は増えない

 1980~90年代にかけて法人税所得税が減税されてきた理由は、主に「富裕層の消費や投資を促して経済を活性化させる」というトリクルダウン理論が言われていた。

 しかし、実際にワールド・ウェルス・レポートの調査によれば、日本で100万ドル(約1億2000万円)以上の投資可能な資産を保有する人は2005年の141万人から2015年の272万人へと10年間で100万人以上増加していて、法人税所得税が減税されたぶんは消費や投資ではなく貯蓄に回されたのである(図20を参照)。

 

 所得の増加分のうち、消費支出が増える割合を「限界消費性向」と言うが、100万ドル以上の資産を持つ人が急増しても消費不況が解消されないのは、所得がある一定のレベルに達すると、それ以上収入が増えても消費に回す金額は増加しないことの証左ではないだろうか。

 

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 日経新聞は2016年2月に「年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は」というタイトルで、年収2500万円以上の所得税負担額が1999年の921.0万円から2014年の1204.3万円まで増加し、2017年には1225.1万円になると予測を発表した。

 コンサルタントの永江一石氏はこの記事を引用して、「高所得者はどんどん重税化している」「日本の金持ちは可哀想」などとブログで述べている。

 

 しかし、実際に所得税の負担率は年収70万円から年収1億円にかけては上昇していくが、それ以上所得が多くなると逆に減少する仕組みになっていて、年収1億円以上の「超富裕層」の所得税負担率はそれほど高くないのだ。この点は、所得が上がるほど負担率が低下していく消費税と対照的である(図21を参照)。

 

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労働人口が減少しても経済成長は可能である

 その上、法人税所得税が景気に左右されやすいなら、単純に財政出動などの景気対策で経済成長を促せば良いだろう。こう主張すると必ず「日本は労働人口が減少しているからもう経済成長できない」と反論してくる者がいるが、では少子化が進行してから名目GDPが増加した中国についてはどう思うだろうか。

 中国は1979年から2015年にかけて「一人っ子政策」を実施して厳しい人口抑制策を行ってきたが、80年代の鄧小平時代には上海や広州などに経済技術開発区を作り、海外の企業を誘致して2000年以降に著しい経済成長を遂げることができた(日本・中国の出生率と名目GDPの推移は図22~23を参照)。

 

 とはいえ、所得格差は日本よりはるかに深刻なのでこうしたやり方を真似する必要はないが、少なくとも「労働人口が減少しているから経済成長できない」という主張は、日本で20年近く続いているデフレ不況を正当化する言い訳に過ぎないだろう。

 日本が経済成長しないのは、消費税を上げて政府の公共投資(公的固定資本形成)を削減するという緊縮財政が続けられているからである。

 

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所得税増税しても富裕層の資産は海外流出しない

 「消費税を上げるより、所得税の累進性を高めるべき」との意見に対して、消費税増税の賛成派は「所得税最高税率を引き上げると、富裕層の海外流出を招き、日本経済の活力が失われる」と反論している。だが仮に、日本の資産家が所得税を逃れようと10兆円のお金を海外に持ち出したとしても、日本円は海外で使用できないため、必ず外貨で両替する必要がある。

 両替行為が行われた結果、金融機関が10兆円の資産を日本に持つことになり、資産家が海外に持ち出すはずだったお金は結局、日本国内に残るのである。

 

 また、所得税の累進性が高かった1974~83年当時、所得税(75%)と住民税(18%)を合わせた最高税率は93%だったが、当時の日本で海外に逃げ出す富裕層は存在しただろうか。むしろ、所得格差の少ない「一億総中流社会」を形成し、安定的な経済成長を続けていたではないか。

 それに、所得税が高くて富裕層が日本から逃げ出すことを心配する人は、消費税が10%以上に引き上げられた際、税金に重みを感じて消費税が安いアメリカや、消費税が高くても社会保障が充実しているヨーロッパに移住しようと考える国民が増加する可能性もあることを懸念しないのだろうか。

 

 ただし、所得税最高税率は2007年に37%から40%、2015年に45%へと近年引き上げられる傾向にある。そのため、今後は1987年から減税が繰り返されている法人税率を引き上げる方向に持っていくことが消費税増税を中止させる第一歩となるだろう。

 

 

<参考資料>

主要税目の税収(一般会計分)の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/011.htm

15年度の税収56兆円、24年ぶり高水準 法人税は6年ぶり減

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS01H6C_R00C16A7EE8000/

所得税の税率構造の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/035.htm

ワールド・ウェルス・レポート2016

https://www.worldwealthreport.com/Global-HNWI-Population-and-Wealth-Expanded

年収でこんなに違う 所得・消費税、あなたの負担は

https://vdata.nikkei.com/prj2/tax-annualIncome/

申告所得税標本調査結果

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/shinkokuhyohon2014/hyouhon.htm

中国の経済はなぜ急速に発展したのか?

http://www12.plala.or.jp/rekisi/tyuugokukeizai.html

消費税の歴史(1989~2001年)

この記事は『消費税の歴史(中曽根~竹下内閣)』の続編です。

 

消費税増税を容認した社会党

 1989年の参院選が終わった後も、国会では引き続き消費税の存廃議論が行われ、同年11月には社会党などの野党が「消費税廃止法案」を参議院本会議に提出した。この法案は、衆議院での審議未了で廃案となるが、自民党は中曽根首相が「大型間接税はやらない」と発言した1986年の衆参同時選挙から、バブル崩壊の影響が鮮明になった1993年までに衆議院議席を77名減らした。

 

 これにより、戦後長らく続いた自民党の「55年体制」が崩壊し、1993年8月に日本新党代表の細川内閣が発足する。細川首相は導入以来、国民の反発を招いてきた消費税を白紙に戻し、代わりに税率7%の「国民福祉税」を提案した。しかし、実際には消費税の名称を変えただけであって、世論を味方につけることは出来なかった。

 

 その一方で、社会党土井たか子氏の委員長辞任後、消費税について「福祉のために使うのであれば増税もやむを得ない」という空気が生まれており、羽田内閣を経て1994年6月に自民・社会・新党さきがけ連立政権として発足した村山内閣は、1997年から消費税を5%に引き上げることを94年11月の「税制改革関連法案」で決定した。

 

 消費税導入に反対していた社会党の出身でありながら増税を決定した理由について、村山首相は「高齢化社会を迎えるに当たって、従来通り所得税だけに依存するとサラリーマンにより大きな負担が掛かる」と述べていた。

 だが、「所得税がサラリーマンにとって大きな負担」というのは、当然ながら村山首相の持論ではなく、大蔵省の主張を代弁したに過ぎない。これ以来、社会党は「何の理由もなく増税に反対していた節操のない政党」という認識が広まってしまい、阪神・淡路大震災地下鉄サリン事件も逆風となって、1995年7月の参院選では連立与党三党の敗北に終わった。

 

 しかし、増税賛成派も負けてはおらず、同年11月の国会で武村正義蔵相が事実上の「財政危機宣言」を発表する。

 武村氏は「中央公論」(1996年6月号)の中でも、『このままでは国が滅ぶ―私の財政再建論』という衝撃的な見出しで、消費税の福祉目的化や法人税減税、歳出削減などを提案したが、『日本は本当に借金大国なのか?』でも説明したように「国の借金」とは「政府の負債」であって、国民が背負った借金であるかように脅すのは許しがたい嘘だろう。

 

 

景気が回復していた中で消費税増税を決定

 村山首相の辞任後、1996年1月に発足した橋本内閣は、消費税増税による景気悪化を大きく受けた政権として名を残すことになる。

 

 1996年の日本経済は、実質GDP(2005年基準)の成長率が2.6%に上昇するなどバブル崩壊からの着実な回復を見せていた。

 実際に、経団連会長の豊田章一郎氏は、同年2月7日に行われた『読売国際経済懇話会』の中で、「日本経済は長い混迷の時代にありますが、景気にようやく明るさが感じられるようになりました。特に、今年度の設備投資は、四年ぶりに増加の見込みであるほか、消費も緩やかではございますが、回復基調にあります」と述べている。

 また、当時の経団連は「構造改革を行えば景気が回復する」という楽観論を描いており、それが消費税増税規制緩和、医療費の増徴、公共投資の削減など、橋本内閣の経済政策に繋がったとされる。

 

 しかし、今回も国民の反発を招き、1996年3月には全国各地の旅館の女将ら約60名が特別地方消費税(2000年廃止)に反対して、国会周辺でデモを行った。

 当時の旅館やホテル業界では、消費税3%の他に特別地方税3%が加算されたため、消費税という名目で計6%を宿泊客から取らなければならず、「意味不明の消費税を2倍も取られる理由はない、と客から叱られることもしばしば」と批判する女将も多かったという。

 

 消費税増税は最終的に、橋本内閣が1996年6月25日に閣議決定を行い、1997年4月から5%へ引き上げることを決定した。だが、橋本首相としては「消費税増税は村山前政権が決めたこと」という意識が強く、あまり責任に重みを感じていたとは言えない状況であったのだろう。

 6月25日の閣議決定を受けて、翌26日には北野弘久氏や富岡幸雄氏など、各界の学者や文化人13名が「消費税の税率引き上げを中止させるために」という国民へのアピールを行った。また、自民党亀井静香議員や「次代を担う若手国会議員の会」(松岡利勝代表)が1996年8月に、消費税5%への引き上げについて一定期間凍結すべきとの決議を行っており、与党議員にも増税反対派が存在したことがうかがえる。

 

 当時、自民党幹事長だった加藤紘一氏も、橋本首相から選挙の見通しについて「調査結果を見ると、消費税増税を言い続けたら投票態度を変えるという人が10%います。数十議席減って過半数を割る」と答えた際に、橋本首相の顔色が変わったという。結果的に1996年10月の衆院選では議席を16名増やし自民党が勝ったが、消費税増税で党内が混乱していたことも事実だろう。

 

 しかし、そうした国民の反発や自民党の混乱を無視して、1996年11月29日と12月1日のNHKスペシャルでは「消費税を増税しないと日本経済は破綻する」という内容の番組を2回にわたって放送した。

 また、1997年1月13日には年明けに株価が急落したことを受けて、クローズアップ現代が「株価下落の主因は、緊縮財政に反対する予算拡張への動きにある」という的外れな内容の番組を放送している。この番組では、消費税増税や緊縮財政に反対する経済学者の植草一秀氏のコメントが削除されたという。

 

 

消費税増税で景気が悪化した19971998

 1997年3月には、消費税が導入された1989年と同様に、高価品の駆け込み消費が発生した。リサーチ総研の消費者心理調査によれば、年収400万円未満で増税前の駆け込み消費を行った人の割合は40.9%と比較的少なかったのに対し、年収400万円以上では50%を超えており、駆け込み消費は高所得者を中心に行われていたことがうかがえる(『収入と雇用の見通しが鍵を握る消費者心理の改善』 リサーチ総研CSI消費者心理調査 1997年5月より)。

 

 その影響もあって1997年の経済は、5月頃まで1993年10月から続く景気拡張に支えられて順調だったが、駆け込み消費の反動でデパート、スーパー、家電などは8月も前年同月比で売り上げが下回っていた。9月に発表された4~6月期のGDPは年率マイナス11.2%と大きな落ち込みを示している。9月11日に内閣改造を行い、ロッキード事件で有罪となった佐藤孝行議員の起用が批判されていた橋本首相にとって、マイナス成長の発表は痛手だった。

 だが、橋本首相は景気の悪化に危機感を示しつつも、財政収支を健全化させる「財政構造改革」を進めようとする方針に変更はなかった。10月21日には、規制緩和や金融ビッグバンを含めた緊急経済対策をまとめている。

 

 マイナス成長に加え、11月に入ると金融機関の破綻が相次いで発生する。3日には三洋証券が会社更生法を申請し、17日には北海道拓殖銀行が経営破綻し、24日には山一證券が自主廃業を決めた。

 特に、山一證券の野澤社長が記者会見で「みんな私ら(経営陣)が悪いんであって、社員は悪くありませんから」と涙ながらに謝罪したシーンは、多くの人にとっても印象に残っている。戦後、長年にわたって続けられた大蔵省の「護送船団方式」による金融機関の保護に慣れた国民にとって、1ヵ月のうちに三洋・拓銀・山一の大型倒産が相次ぐとは予想もしていなかっただろう。

 

 橋本首相は金融恐慌の発生を受けて、11月24日、山一證券が自主廃業したのと同日にバンクーバーで開催された日米首脳会議で「経済の見通しについて言えば、大統領やルービン長官、サマーズ副長官らの勘が正しかったようだ。この点はお詫びしなければならない」と謝罪している。

 実は日本が消費税を5%に引き上げる直前の1997年3月、アメリカのゴア副大統領が来日し、「日本はなぜ緊縮財政を取るのか。内需を拡大して経済を活性化させるべきではないか」と進言していたのだ。しかし、橋本首相と大蔵省は「緊縮財政や消費税増税は既に決まっている」として聞く耳を持たなかった。

 

 1998年には不況が更に深刻化して、「日本発の金融恐慌」までもが懸念された。巨額の不良債権を抱える銀行など、多くの企業が決算期を迎える「3月危機」もささやかれ始める。完全失業率は戦後初めて4%台に達し、全国企業倒産件数も1985年以来、13年ぶりに1万8000件を超えた。

 こうした中で1998年7月12日に行われた参院選では自民党が敗北し、翌13日に橋本首相は辞意を表明した。消費税を5%に引き上げてから1年3ヵ月後の出来事だった。

 

 

アジア通貨危機と山一破綻が不況の原因なのか?

 消費税増税の賛成派は、1997~98年の不況について増税の影響ではなく、97年7月にタイで発生し、インドネシア、マレーシア、フィリピン、韓国など東アジア全域に飛び火した「アジア通貨危機」が原因だと主張している。

 だが、アジア通貨危機の当事国であるタイや韓国は翌1998年のGDP成長率が日本以上に悪化した一方で、その後は1999~2007年にかけて高い成長率を続けていたことがわかる(図17を参照)。

 

 発展途上国のタイだけでなく、韓国でもアジア通貨危機からの回復が早かったため、1997年から20年近く続いている日本のデフレ不況を、アジア通貨危機だけが原因だとするのは間違っているのではないだろうか。

 

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 また、この他にも増税賛成派は「1997年の不況は、北海道拓殖銀行山一證券の破綻など金融危機が原因」と主張している。しかし、山一證券は97年だけでなく、1965年5月にも経営破綻が表面化していたが、日銀による緊急特別融資の実施とその後の高度成長で危機を乗り越えたのである。

 その一方で、1997年の自主廃業はバブル崩壊後の景気悪化や4月以降のマイナス成長と無関係ではないだろう。

 

 1998年6月22日に経済企画庁で開かれた「景気基準日付検討委員会」では、景気が拡張局面から後退局面に移る転換点の「山」を1997年3月と判定するにいたった。この景気の「山」が97年3月に確定されたことは、景気後退が消費税を5%に引き上げた4月から始まっていたことを意味する。政府は「消費税増税による景気悪化」を公式に認めていたのだ。

 

 更に、自殺者の数も1997年の23494人から1998年の31755人と一年間で8000人以上も増加した(厚労省「人口動態統計」より)。一般的に自殺は女性より男性に多いと言われているが、1970年以降の男性の自殺死亡率と完全失業率を比較すると、どちらも90年代後半に伸びているのがわかる(図18を参照)。

 この時期は失業率の悪化と共に40~50代の自殺者が急増しており、消費税増税後の深刻な不況が自殺者増加の原因となった可能性も高いだろう。

 

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消費税増税の代わりに法人税所得税を減税

 1998年の参院選を経て7月30日に発足した小渕内閣は、橋本内閣が1997年11月に成立させた「財政構造改革法」を98年12月に凍結し、金融の安定化や景気振興と経済再生に尽力した。1998~99年はGDP成長率が2年連続でマイナスだったが、2000年には2.3%のプラスに回復して経済が成長路線に戻った。

 

 その一方で、法人税率は1998年度に37.5%から34.5%に引き下げられたことに加え、1999年度には30%まで引き下げた。所得税に関しても97年度に特別減税を廃止した橋本内閣に対して、小渕内閣では99年度に最高税率を50%から37%に引き下げた。

 消費税が導入された1989年、竹下内閣は同時に法人税所得税を減税したが、「消費税増税の代わりに法人税所得税を引き下げる」という手法は1997~99年の橋本・小渕内閣でも繰り返されたと言えるだろう。

 

 橋本首相は2001年4月、自民党総裁選に再度立候補した時に「私は1997~98年にかけて緊縮財政をやり、国民に迷惑をかけた。私の友人も経済問題で自殺した。本当に国民に申し訳なかった。これを深くお詫びしたい」と謝罪し、消費税増税を含めた自身の経済政策について失敗を認めている。

 

 

<参考資料>

植草一秀斎藤貴男 『消費税増税 「乱」は終わらない』(同時代社、2012年)

軽部謙介西野智彦 『検証 経済失政』(岩波書店、1999年)

菊池信輝 『財界とは何か』(平凡社、2005年)

北野弘久 『5%消費税のここが問題だ』(岩波書店、1996年)

竹森俊平 『1997年 世界を変えた金融危機』(朝日新聞社、2007年)

羽田一郎 「早くも橋本内閣支持率は下落傾向 消費税5%に大義はあるか」 『月刊TIMES』(月刊タイムス社編、1996年8月号)

林直道 『日本経済をどう見るか』(青木書店、1998年)

 

経済に関するデータ 世界銀行

http://www.worldbank.org/ja/news/feature/2014/03/24/open-data-economy

人口動態調査

https://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020101.do?_toGL08020101_&tstatCode=000001028897

労働力調査

http://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.htm

 

消費税増税は世代間格差の是正にならない

消費税は貧しい高齢者へのしわ寄せが大きい

 増税賛成派は「消費税は子供からお年寄りまで税金を徴収できるから、世代間格差の是正に効果的だ」と主張する。

 

 世代間格差とは、学習院大学教授の鈴木亘氏の試算によれば、将来的に受け取る年金受給総額から、現役時代に納めた年金保険料の総額を引いた差が1940年生まれと2010年生まれで約5900万円もあるという。

 年金受給格差を消費税で解決しようとする意見には「消費税を増税すれば、富裕高齢者の消費によって税収が上がり、将来的な年金支出を通して貧しい若年層に再分配できる」という思惑が存在するが、そもそも高齢者の多くは若者から搾取するほど金持ちなのだろうか。

 

 厚労省の「平成27年 国民生活基礎調査の概況」によれば、65歳以上の高齢者世帯の所得金額は150~200万円の割合が14.8%と最も多く、50万円未満も2.1%存在する。その一方で、1000万円以上は1.9%存在し、高齢者世帯の格差が広がっていることがわかるだろう(図13を参照)。

 金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査」(2015年)でも、金融資産を持っていない人は20代で36.4%、70歳以上で28.6%なのに対し、金融資産を3000万円以上持っている人は20代では存在しない一方で、70歳以上では15.5%も存在していて、高齢世代の格差は若者よりも深刻で貧困層富裕層の二極化が進んでいると言える(表7を参照)。

 

 『消費税収の86%が法人税減税に消えている』でも説明した通り、消費税は所得に関係なく、消費に対して同じ額の税金が掛かる「逆進性」の強い性質を持っているため、富裕高齢者より貧しい高齢者へのしわ寄せが大きいだろう。

 

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若者のほうが消費税増税に反対する人が多い

 新潟大学教授の藤巻一男氏は2011年、消費税増税に関して20~60代の男女1000名に以下のアンケート調査を実施した(図14を参照)。

 

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 この調査によれば、「消費税の引き上げはやむを得ない」とする回答1~3の合計は20代で63.2%、30代で65.4%、40代で65.6%、50代で70.3%、60代で72.0%と年齢が上がるごとに割合が高まっていくのがわかる。

 それに対し、「消費税の引き上げには反対」とする回答4は20代で32.5%、30代で28.4%、40代で29.1%、50代で25.5%、60代で22.8%と高齢者より若者のほうが反対の割合が高いのである。

 

 藤巻氏の調査の他にも、インターネットの調査サイト『しらべぇ』が2016年6月に、全国18歳~70代の男女有権者2070名に対して「税金の無駄を見直せば、消費税を増税しても良いか?」と質問を行った(図15を参照)。

 

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 この調査でも、「消費税を増税しても良い」と答えた人の割合は、18歳~20代で男性が45.5%、女性が47.6%なのに対し、70代では男性が78.2%、女性が70.3%と若者より高齢者のほうが消費税増税に賛成する人が多いのだ。実際に、消費税引き上げを推進する政治家の多くが60歳以上であることからも、増税に賛成する高齢者の姿が想像できるだろう。

 仮に、消費税増税が世代間格差の是正になると国民が実感しているのなら、若者こそ消費税増税に賛成する割合が高くなければならないが、高齢者より若者のほうが増税に反対する人が多い事実について、消費税増税の賛成派はどう感じるだろうか。

 

 

何故、若者の多くが消費税増税に反対するのか?

 若者の多くが消費税増税に反対する理由は、高齢者より今の政治に対する不信感が強いからだろう。東京大学谷口将紀研究室では2009年に、朝日新聞との共同調査で年齢別に「あなたは国の政治をどれくらい信頼しているか?」と質問を行った(図16を参照)。

 国の政治を全く信頼していない割合は、20代で34%、30代で32%、40代で24%、50代で23%、60代で17%、70歳以上で15%と年齢が上がるごとに低下しているのがわかる。

 

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 消費税の財源のほとんどは法人税減税の穴埋めに消えているが、政治への信頼が高ければ国会議員が「消費税増税分を全額、社会保障に使う」と発言しても、それを信じてしまうだろう。逆に、政治に対する不信感が強ければ、消費税増税法人税減税が同時期に実施されている事実を知らなくても、国民に負担増を求める政治家の発言は信用できないだろう。

 また、当然のことながら高齢者より若者のほうが長く生きるため、そのぶん税金を払う期間も長い。日本では「消費税引き下げ」の議論が起こったことがないので、一度増税したら税率が下がらない消費税は若者にとって大きな負担ではないだろうか。

 

 

<参考資料>

木村雅文 編著 『現代を生きる若者たち』(学文社、2013年)

藤巻一男 『日本人の納税者意識』(税務経理協会、2012年)

 

世代間格差という幻想に若者はもっと怒った方が良い

http://blog.livedoor.jp/midwhite/archives/7607061.html

平成27年 国民生活基礎調査

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa15/dl/06.pdf

家計の金融行動に関する世論調査

https://www.shiruporuto.jp/finance/chosa/yoron2015fut/

「税の無駄なくなれば消費増税OK」が6割 世代格差も判明

http://dailynewsonline.jp/article/1154867/

世界の軽減税率と消費税を引き下げた国

新聞に軽減税率は必要なのか?

 ヨーロッパでは低所得者への逆進性を防ぐために、食料などの生活必需品に軽減税率やゼロ税率が適用されている(表6を参照)。

 日本でも消費税が10%に引き上げられる2019年10月から軽減税率が導入される予定だが、対象品目は「酒類」や「外食」を除いた飲食料品と定期購読の契約をした週2回以上発行される新聞に限定しており、まだまだ範囲が狭すぎて逆進性の緩和に繋がるとは思えない。

 

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 公明党の山口代表は軽減税率について「8%が基準」と現行の消費税率より安くならないことを明言し、公明党税制調査会長の斉藤鉄夫議員も「将来、消費税は13~15%、ひょっとすると欧州のように20%になっているかもしれない。そのとき、初めて軽減税率の意味が出てくる」と述べている。

 つまり、公明党が軽減税率を推進しているのは低所得者対策のためではなく、将来的な消費税増税に向けて国民の反発を抑えることが目的だと考えて良いだろう。

 

 新聞に軽減税率が適用されるのは、日本新聞協会が以前から軽減税率の適用を求めていたからで、2013年9月26日の読売新聞でも「欧州各国では『知識に課税せず』という共通認識があり、新聞を軽減対象とする国が大半を占める。日本も先例を参考にしなくてはならない」と社説で訴えている。

 しかし、今まで政府の負債を「国民が背負った借金」だと誤解を与えてまで消費税増税を煽っていたのに、自分たちだけ軽減税率を適用してもらおうとする新聞業界は非常に身勝手ではないだろうか。

 

 それに、新聞は現代において食料と同様の「生活必需品」なのか? NHK放送文化研究所の調査によれば、平日に新聞(電子版も含む)を読む人は国民全体で1995年の52%から2015年の33%まで減少し、20代に限れば男性は32%から8%、女性は32%から3%に減っていて、とても生活必需品とは言い難い(図12を参照)。

 日本新聞協会は「知識への課税強化は確実に国のちからの低下をもたらし、我が国の国際競争力を衰退させる恐れがあります」と述べているが、それなら消費税10%への引き上げを中止し、書籍や雑誌を含めた出版物全体を非課税の対象としたほうが新聞業界にとっても好都合だろう。

 

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消費税を引き下げたカナダとイギリス

 世界には、消費税を引き上げた国だけでなく、引き下げた国も存在する。例えば、カナダの付加価値税は1991年に7%で導入され、この他にも州ごとに0~10%の州税が存在するが、付加価値税は2006年7月に6%、2008年1月に5%へと引き下げられている。2008年はサブプライム危機の影響でカナダの財政収支が悪化しており、景気後退期に税率を引き下げたのは正しい判断であったと言えるだろう。

 

 また、イギリスでも1991年から17.5%だった付加価値税を2008年12月から2009年12月まで15%に引き下げていた。これについて、当時のブラウン首相は「現在、家計で苦しんでいる全ての世帯に、我々が救済に乗り出す準備があり、あなた達の味方であることを理解してほしい」と呼びかけ、英民間調査機関の経済ビジネス調査センターも付加価値税の引き下げが、2008年12月からの3ヵ月で小売業の総売上高を増やすのに役立ったと指摘している。

 イギリスでは付加価値税の引き上げに肯定的な保守党と否定的な労働党に対立していて、社会党民主党が政権を取っても消費税増税の議論しかされない日本とは全く状況が異なると言って良いだろう。

 

 ちなみに、イギリスの付加価値税は2011年1月から20%に引き上げられたが、その影響で景気が悪化し、GDPの成長率は11年の2.0%から12年の1.2%へと下落している。当時は2008年のリーマンショックからイギリス経済が立ち直りかけていた時期だったが、付加価値税の引き上げが景気に冷水を浴びせて、結果的に2016年のEU離脱にも繋がったのではないだろうか。

 

 

消費税が存在しないアメリカ

 『日本の消費税は本当に安いのか?』の記事に掲載した間税会が配布するクリアファイルの中で、欄外に小さく「アメリカなどこの表に載っていない国でも、多くの国は消費税(付加価値税)とは異なる小売売上税、取引高税などの税制を実施しています」と書かれてあるが、アメリカでは国が定める消費税が存在せず、代わりに州ごとにセールスタックス(州税)が異なっている。

 最も州税が高いのはテネシー州の9.46%で、オレゴン州モンタナ州デラウェア州ニューハンプシャー州には州税が無く、アラスカ州地方税のみである(写真を参照)。

 

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 アメリカでもレーガン大統領の時代に消費税の導入が検討されたが、財務省は「現行の所得税制を売上税制度に変えるという案は、分配上の不公平をもたらすという理由からこれに反対する」と報告書で否定した。それから20年経ってブッシュ大統領が金持ち減税の財源に消費税の導入を構想したものの、やはり見送られた経緯がある。

 

 日本は1990年代以降、小さな政府や規制緩和によってアメリカ流の新自由主義経済を模倣してきたが、税制だけは北欧の福祉国家を目指そうとしているように感じる。2019年から消費税を10%に引き上げれば、アメリカの州税よりも高くなり「高負担・低福祉」社会に突入するのではないだろうか。

 

 

<参考資料>

岩本沙弓 『アメリカは日本の消費税を許さない』(文藝春秋、2014年)

上念司 『デフレと円高の何が「悪」か』(光文社、2010年)

田村秀男 『消費増税の黒いシナリオ』(幻冬舎、2014年)

 

主要国の付加価値税の概要

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/108.htm 

軽減税率 消費税8%時に導入を目指せ

http://d.hatena.ne.jp/i-haruka/20130926/1380218153

2015年 国民生活時間調査

http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20160217_1.pdf

通貨と消費税 カナダ・ガイド:生活

http://www.e-maple.net/guide/gst.html

アメリカの州別消費税マップ

http://us.bloomsfun.com/240302102912398280403602731246.html

消費税に滞納金が発生する理由

 「消費税になぜ滞納金が発生するのか?」については、消費税という税制の仕組みを理解する必要がある。

 私たちが買い物をするとき、レジでお金を支払っているため、消費税を納めているのは消費者だと思っている方も多いだろう。だが、これは大きな誤解で、実際に消費税を納める義務があるのは事業者だ。事業者は、決算や確定申告の際に、一定の計算による消費税額を国などに納付する義務があり、そこで消費税を販売価格に上乗せ(転嫁)することが認められている。

 

 しかし、販売価格に上乗せされた消費税を、モノを買うときに消費者が負担するのは事業者が値引きしていない場合で、中小・零細企業の中には少しでも商品を安く売るために、消費税を価格に転嫁できないこともあり、結果的に自腹を切って納税する例が少なくない。

 このことから、消費税は事業者が預かる「間接税」ではなく、事業者が納める「直接税」と言ったほうが正しいだろう。消費税は法人税所得税と違って、年間売上高が1000万円以上の場合、事業者が赤字でも納税しなければならず、滞納税額が減らないのはそれだけ消費税を納められない企業が多いからである。

 

 国税の新規発生滞納税額は1992年度の1兆8903億円をピークに減少しているが、これは主に所得税法人税相続税の滞納が減ったからで、消費税だけは依然として滞納額が多いのだ(図10~11)。ちなみに、図10を見ると「消費税の滞納額も1998年から減少しているのでは?」と思うかもしれないが、国税全体に占める滞納額の割合は1990年度の11.1%から2014年度の55.7%まで増加している。

 更に、消費税の滞納額は1996年から98年度、2013年から14年度へと税率が引き上げられた時期に増えており、増税の影響で消費税を納められない事業者が増加するのは明白である。

 

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 だが、大手メディアは消費税の滞納が増えているのを問題視するどころか、「自営業者=脱税」のイメージを作ることに必死だ。

 例えば、少し古いが2001年5月18日の産経新聞では「消費税は私たち庶民が少しでも日本の社会が住みよい、安定した姿になりますようにとの願いから必死に納めているものです。その義務を果たさず、納税すべきお金を他に使うのは最も悪質な脱税行為と言っても過言ではありません。どうして新聞はもっと大きく報道して国民に詳しく知らせないのですか? 政治を先頭に消費税滞納の根絶方法を早急に確立することが急務だと思います」と読者から怒りの声が寄せられている。

 

 2008年4月16日の衆議院財務金融委員会でも、民主党下条みつ議員が滞納された国税の徴収を急げとの趣旨で「釈迦に説法ですけれども、源泉所得税とか消費税というのはいわば中小零細事業主の一時預り金でございますよね。税金を払うのにも、目の前に来ることを先に優先して、お客さんが払った消費税や従業員から取った源泉部分を国に払わない。まず手前の自分のところで処理してしまう。この結果、こういう滞納連鎖が起きていると私は思います」と税金滞納者をけん制している。

 国会では消費税引き上げについて「増税したら景気が悪くなる」という反対意見はあっても、「滞納金が多いから」という反対意見は聞いたことがない。もし、国会議員の方々が「消費税は国税の中で最も滞納税額が多い」という事実を知らずに増税するかどうかの議論を行っているとしたら、あまりにも勉強不足ではないだろうか。

 

 この他にも、国税庁は過去にタレントを起用したポスターで消費税の滞納者を非難したこともあるが、そもそも消費税の滞納額が国税全体の半数以上を占めているのは、どの事業者も売上に対して一律の額が徴収される「消費税」という税制に欠陥があるからだろう。

 消費税増税を批判する際は、景気の問題だけでなく滞納の問題についても取り上げていく必要があると感じる。

 

 

<参考資料>

小澤善哉 『図解 ひとめでわかる消費税のしくみ』(東洋経済新報社、2013年)

醍醐聰 『消費増税の大罪 会計学者が明かす財源の代案』(柏書房、2012年)

 

国税庁 統計情報

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/tokei.htm

日本の消費税は本当に安いのか?

日本の消費税負担はヨーロッパと変わらない

 日本は消費税が安い国だと言われる。確かに、消費税が3%や5%だった時代はそうかもしれない。だが、2014年に8%へと引き上げられ、更に10%まで増税するとなるとさすがに「消費税が安い国」とは言えないはずだ。

 

 全国間税会総連合会が配布しているクリアファイルで、世界148カ国の消費税(付加価値税)を載せたものがある(写真を参照)。

 このクリアファイルを見ると誰しも「まだまだ日本は消費税が安いんだな」と思ってしまう。しかし、発展途上国の中には日本より物価の安い国も高い国もあって、消費税率だけで比較できるものではないだろう。

 

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 消費税を国際比較するなら単に税率だけでなく、国税収入全体に占める消費税の割合も比較すべきだ。2015年7月の財政金融統計月報によれば、日本の「国税収入に占める消費税収の割合」は29.4%で、ヨーロッパとそれほど変わらない。

 また、消費課税に含まれる関税やとん税(外国貿易船の入港に対して課される租税)等を加えると、「国税収入に占める消費課税の割合」は41.1%で、日本はフランスの次に消費税が高い国という見方もできる(表4を参照)。

 

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 更に、税目別で比較すると、国税に占める所得税収の割合は1990年の41.4%から2015年の28.3%に減少し、法人税収の割合は29.3%から18.9%に減少する一方で、消費税収の割合は7.4%から29.4%まで増加しており、25年間で消費税のウエイトが高くなったことが分かるだろう(表5を参照)。

 

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 また、増税賛成派がよく言うのは「日本は国民負担率が低い」という主張だ。国民負担率とは、その国の国民が税金と社会保険料をどの程度払っているのかという指標で、日本は2016年度現在、43.9%である。

 福祉が充実しているヨーロッパの国民負担率はドイツが52.6%、スウェーデンが55.7%、フランスが67.6%、デンマークが68.4%(いずれも2013年)で日本より高い。だが、日本も1970年は国民負担率が24.3%だったので、物品税の時代から消費税8%にまで増税した影響で負担率が上昇しているのだ。

 

 それに、日本は国民負担率が低い一方で、政策を通して国民のために直接支出される税金の還元もそれほど多くない(図9を参照)。

 このグラフを見ると、アメリカは「低負担・低福祉」で、ヨーロッパは「高負担・高福祉」の国が多いことが分かる。日本の税金還元率はヨーロッパよりアメリカに近いので、法人税を引き下げるための消費税増税が実施され続ける限り、国民負担率が高まっても社会保障は充実しないだろう。

 

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福祉や教育制度が充実している北欧諸国

 世界的にも高負担の北欧諸国では日本と福祉や教育制度が全く異なっており、例えば付加価値税が25%のデンマークは医療費が無料で、例え億単位の治療費が掛かっても請求されることはない。また、教育費も高校や大学まで無料で、18歳以上の学生に対しては生活費が月額約7万7000円支給される。その他にも、育児支援や障害者支援制度が充実していて、例えば子供が障害を負ったために親が仕事を辞める場合、給与の全額を国から支給してもらえる。

 デンマークと同じく付加価値税が25%のスウェーデンでも、教育費が家計から支払われることはなく、授業料、給食費、教材費用などは全て公費に任される。高校や大学への進学のためには学校の勉強だけで十分とされ、子供が放課後に通う学習塾や予備校は存在しない。医療費に関しても、病院や診療所から初診料の請求はあるが、差額ベッド代や特別医療費などの追徴金は取られず、公的医療制度が充実しているので民間保険に加入する人は少ないという。

 

 北欧諸国で「政府がたくさんの税を徴収し、たくさんのサービスを供給する」という国家モデルが成立しているのは、日本より圧倒的に人口が少ないことが挙げられるだろう。北欧諸国の人口はスウェーデンが959.3万人、デンマークが561.4万人、フィンランドが543.9万人、ノルウェーが508.4万人(いずれも2013年)とほとんどの国で日本の10分の1を下回っている。

 また、公務員・公的部門職員の人件費も対GDP比で10%を超えていて、日本よりはるかに「公務員天国」なのだ(『消費税増税と公務員給与は無関係』の図8を参照)。

 

 読売新聞は『消費税25% 北欧は納得』(2012年2月24日)という記事で、北欧諸国の「高負担・高福祉」社会を高く評価し、「増税しなければ、現役・将来世代へのツケはますます膨らむだけに、負担に見合った支援の充実が欠かせない」と結論付けているが、人口が1億人を超える日本で北欧型の福祉社会を目指しても、間違いなく社会保障地域間格差が発生し、国民全員に高福祉の恩恵が行き渡らないと思われる。

 その上、日本では常に「小さな政府」が理想とされ、国家公務員の削減が議論されても「公務員を増やせ」と主張する議員はほとんど存在しない。また、7月10日のブログにも書いたように日本は先進国の中で最も自己責任論が強く、国民が手厚い福祉を望んでいないと言われても仕方がない状況なのだ。

 

 北欧モデルを礼賛している人々が「消費税を上げれば、社会保障も自動的に充実してくれる」と思っているのなら、それは単なる妄想に過ぎないだろう。

 

 

<参考資料>

ケンジ・ステファン・スズキ 『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』(角川SSコミュニケーションズ、2010年)

渋井真帆・大沢育郎 『「目隠しはずし」の税金講座』(PHP研究所、2009年)

竹崎孜 『スウェーデンの税金は本当に高いのか』(あけび書房、2005年)

 

世界の消費税(付加価値税)の税率 平成26年4月版

http://www.kanzeikai.jp/index.asp?page_no=380

財政金融統計月報 第759号

http://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou/g759/759.htm

わが国の税制・財政の現状全般に関する資料

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/

[税と安心 一体改革の行方] 消費税25%、北欧は納得

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20120224-OYTEW51621/

消費税増税と公務員給与は無関係

「官民格差」が広がった理由

 国会で消費税増税の議論になると「消費税を引き上げる前に、徹底した無駄の削減を行うべき」と主張する者が少なくない。自民党の一部や、民進党・おおさか維新の会の議員が特に当てはまるだろう。

 「無駄の削減」として必ず槍玉に挙げられるのは国家公務員給与の削減だ。実際に、2012~13年度は、東日本大震災の復興財源を捻出するための特例措置として手当を含めた給与の総額から平均7.8%が引き下げられている。日本の政治家の多くは、財源を捻出する方法が「消費税増税」と「社会保障や公務員給与の削減」の2つしかないと思っているようで呆れてしまう。

 

 しかし、公務員と民間企業の「官民格差」が広がったのは、公務員の給与を決める人事院勧告のせいではなく企業が内部留保をため込んでいるからだ。内部留保が少なかった1990年代前半までは、国家公務員と民間企業に勤める男性の平均年収はほとんど変わらなかったのである(図7を参照)。

 高校生や大学生の就職希望先ランキングで常に「国家公務員」と「地方公務員」が上位に来ているのも、民間企業が内部留保を活用して賃上げすることをせず、業績が悪化すれば整理解雇やコスト削減を行うことばかり必死になっているからこそ、安定した公務員が人気なのではないか。

 

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日本の公務員人件費は少ない

 その上、公務員の多くは中間層で、仮に給与を3割カットしても歳出削減できるのは年間1兆円程度に過ぎない。日本の公務員・公的部門職員の人件費はOECD加盟国の中でも最低で、決して財政を圧迫している原因ではないのだ(図8を参照)。

 民進党江田憲司代表代行は「国家公務員の人件費を2割削減すれば、10年間で10兆円の財源が生まれる」と自慢そうに語っているが、それなら法人税引き上げによる増収のほうがよっぽど期待できるだろう。ちなみに、民進党が選挙で自民党に勝てないのもこうした公務員に対する偏見を持っているからではないだろうか。

 

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 今の公務員バッシングの多くは、政治家や官僚に対する不満をそのまま公務員全体にぶつけている印象を受け、インターネット上では「民間企業は給与も上がらずサービス残業が当たり前なんだから、週休2日でボーナスも貰える公務員は有り難く思え」などの誹謗中傷も見られる。サービス残業は明らかに労働基準法違反なので会社に抗議すべきだろうが、それを公務員バッシングにすり替えるのは理解に苦しむところだ。

 

 また、政治家の「身を切る改革」としてよく挙げられる議員定数の削減にも注意が必要である。日本の「人口100万人あたりの国会議員数」は5.63人(2015年)で、世界188カ国中、168位と下から数えたほうが早い。これ以上、国会議員の数が減らされれば官僚支配が強まり、少数派の意見が排除され自民党民進党といった議席数の多い政党が有利になるだろう。

 本当に身を切る改革を行うなら、まず先に総理大臣のボーナスや政党交付金から削減したほうが良いと感じる。

 

 更に言えば、日本は中曽根内閣が土光臨調の「増税なき財政再建」を裏切って売上税を導入しようとした時代から「小さな政府派」が消費税増税に大きく関わっているのだ。「身を切る改革」という政治家のパフォーマンスに騙されることなく、消費税より先に法人税を引き上げて、社会保障を充実させていくべきではないだろうか。

 

 

<参考資料>

武田知弘 『税金は金持ちから取れ』(金曜日、2012年)

 

公務員給与の削減終了 わずか2年、「身を切る姿勢」はどこにいった

http://www.j-cast.com/2013/11/30190381.html?p=all

公務員白書

http://www.jinji.go.jp/hakusho/

国家公務員のボーナスを知る(2015年)

https://kyuuryou.com/w37-2015.html

民間給与実態統計調査結果

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/jikeiretsu/01_02.htm

世界・人口100万人あたりの国会議員数ランキング

http://top10.sakura.ne.jp/IPU-All-SeatsPerp.html