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消費税増税に反対するブログ

消費税の財源の8割以上が法人税減税に消えている!消費税10%への引き上げを中止しよう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

2月28日発売「消費税の歴史と問題点を読み解く」

本ブログの内容をまとめ、大幅に加筆した新書が2月28日に発売されます。興味を持っていただいた方は、書店やAmazon等で購入してもらえると有り難いです。

 

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目次

第1章 消費税の歴史(近代史から橋本内閣まで)

第2章 消費税の歴史(小泉内閣から安倍内閣まで)

第3章 増税グローバリズムのここがおかしい!

第4章 世界の消費税、軽減税率、所得税の負担率

第5章 消費税は社会保障に使われていない

 

内容紹介

 消費税は身近な税金である。しかし国税のなかで消費税は滞納金が多く、増税をしていくにつれて滞納額が増加するという問題点はあまり知られていない。また、消費税引き下げの議論はない一方で、法人税減税は行われている。

 本書では、消費税の導入から増税が繰り返される日本の歴史、欧米諸国との比較、消費税増税についての問題点を明らかにする。消費税に関して改めて整理し、増税後、国民の生活にどのように影響していくのか考察していく。

 

著者 大谷 英暉  ISBN 978-4-344-91106-2

新書186ページ 価格864円

 

 

消費税の歴史と問題点を読み解く

http://www.gentosha-book.com/products/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E7%A8%8E%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E5%95%8F%E9%A1%8C%E7%82%B9%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%81%BF%E8%A7%A3%E3%81%8F/

 

子どもの貧困・教育格差・自己責任論

59.1%の家庭が教育格差を容認している

 日本の自己責任論は生活保護バッシングだけでなく、教育の問題でも蔓延していることが確認できる。

 ベネッセと朝日新聞が2012年、小中学生の保護者(6831名)を対象に行った調査では「豊かな家庭の子供のほど、より良い教育を受けられる傾向」があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した人が合わせて59.1%も存在し、2008年の調査より約15%も増加している(図30を参照)。

 

 2008年から2012年にかけては、リーマンショック東日本大震災の発生など社会情勢が大きく変わり、不況や災害によって教育環境の変化を強いられる家庭が少なくなかったにも関わらず、教育格差を問題視する声はむしろ弱まっているのだ。

 

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 厚労省が公表している「相対的貧困率」は1985年の12.0%から2012年の16.1%まで増加し、「子どもの貧困率」も10.9%から16.3%に増加した(平成25年国民生活基礎調査)。相対的貧困率とは、全人口の所得階層のうち、中央値の半分未満である世帯員の割合を表し、子どもの貧困率は18歳未満の子ども全体のうち、貧困世帯に属する割合を表している。

 ちなみに、2015年の「相対的貧困率」と「子どもの貧困率」は2017年7月頃に公表予定である。

 

 特に、日本は「ひとり親家庭貧困率」が非常に高く、親が働いていない家庭(47.4%)よりも働いている家庭(56.0%)のほうが、貧困率が高いという特徴がある(図31を参照)。2011年のひとり親家庭は約146万世帯で、そのうち母子家庭が8割以上(約124万世帯)にのぼっており、母子家庭の80.6%は働いているものの、パート・アルバイトと派遣社員を合わせると52.1%と、非正規雇用が過半数を占めている(厚労省平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」より)。

 国税庁の「民間給与実態統計調査」を見ても、女性の平均年収は男性の50~60%にしか満たず、男女の賃金格差が母子家庭の貧困率を増加させる原因になっているのかもしれない。

 

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 また、親の所得に比例して子どもの成績も良くなっていく「学力格差」の問題も深刻だ。お茶の水女子大学が2013年度に実施した小学6年生の全国学力テストの正答率と世帯年収の相関関係を分析すると、年収200万円未満の家庭では算数Aが67.2%、国語Aが53.0%だったのに対し、年収1500万円以上の家庭では算数Aが85.6%、国語Aが75.5%にものぼり、世帯収入の差で学力テストの正答率に約20%の開きが生じていることがわかる(図32を参照)。

 親の所得が高いと子どもを学習塾に通わせるなど、教育投資の額が増えて学力テストで良い結果を出しやすくなるのだろう。

 

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「子どもの貧困」問題に冷淡な日本社会

 しかし、日本の社会はあまりにも「子どもの貧困問題」に無関心だ。例えば、最近でも2016年8月18日にNHKニュースで、母子家庭の女子高生が低所得のため専門学校へ通う学費を捻出できず進学をあきらめてしまったこと、自宅にパソコンやクーラーがないという窮状を扱った内容の番組を放送したところ、ネット上では女子高生のツイッターを個人特定し、アニメのグッズを買っただの、高いランチを食べただの、私生活を徹底的に調べ上げて「NHKの捏造だ!」などと大騒ぎした。

 

 女子高生を誹謗中傷する書き込みの多くが自民党を熱烈に支持しているネット右翼によるもので、実際に片山さつき議員もネット上の誹謗中傷を鵜呑みにしてNHKに説明を求めたようだが、それ以上に問題なのは「先進国の日本に貧困問題は存在しない」「発展途上国に比べればまだまだ恵まれている」と勘違いした人があまりにも多いことである。

 今は海外を見渡しても、アメリカで貧しい人々もいれば、カタールUAEアラブ首長国連邦)でお金持ちの人々もいる。「先進国は豊かで、発展途上国は貧しい」という従来のイメージは崩れつつあるのだ。それに、「日本の貧困は発展途上国に比べれば恵まれている」と思っている人は何故、経済成長が著しい発展途上国の貧困を心配して、デフレ不況が長期化している日本国内の貧困を心配しないのだろうか。

 厚労省の人口動態統計によれば、2015年に「栄養失調」と「食糧の不足」で亡くなった人は合わせて1597名も存在し、「餓死」は決して発展途上国だけでなく日本でも起こり得る問題なのだ。

 

 また、子どもの貧困問題に冷淡なのは政府も同じで、例えば2016年6月19日放送のNHK日曜討論」では、山本太郎議員から子どもの貧困率が過去最高の水準に達していることを指摘された際に、安倍首相は「2012年までの数字しか出ていない。安倍政権とは関係ない」と言い訳した。しかし、子どもの貧困率は1980年代から長い時間をかけて上昇してきたのであって、安倍政権になってからの数年間で解決できる問題ではないだろう。

 その上、日本財団の推計では子どもの貧困を放置すれば、国民所得の損失は総額で42.9兆円、政府の財政収入の損失は総額で15.9兆円にものぼっており、社会的影響が非常に大きいとされている。

 

 

日本の公教育支出はOECD加盟国の中で最低

 日本では親が子どもの学費を負担すべきという意識が強く、教育費の公的支出もOECD加盟国の中で最低レベルである。「対GDPの公教育支出の割合」(2010年)はデンマークノルウェーで8.8%なのに対し、日本では3.8%にしか過ぎない(図33を参照)。この点は消費税が高く、子どもの教育費が安い北欧諸国との大きな違いだろう。

 特に、大学の年間授業料は70年代以降上昇を続けていて、1975年当時であれば東京都の公立大学は1万5000円、国立大学は3万6000円、私立大学は15万3000円と比較的安かったが、2015年には公立大学が52万0800円、国立大学が53万5800円、私立大学が74万5340円まで高騰している(図34を参照)。

 

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 更に、財務省は2015年5月に行われた財政制度等審議会で、「国立大は富裕家庭出身の学生が多い」という状況に甘んじて、文科省が定めている国立大学の授業料(年間53万5800円)を私立並みに値上げすることを検討した。日本では「消費税を上げて、教育費も値上げする」という方向で改革が進められているようである。

 元財務官僚で安倍首相の経済ブレーンとしても活動する高橋洋一氏は「東大を私立化して、裏口入学を認めれば数兆円が国庫に入ってくる」と言うが、東大に合格する学生の多くは中学や高校のうちから学習塾や予備校に通うため、多額の教育投資を行っているのであって、国立大学を私立化して学費が更に高くなれば低所得者や中間層出身の優秀な学生から敬遠され、東大の学力レベルは著しく低下するだろう。

 

 「対GDPの公教育支出の割合」が6.8%で、高負担・高福祉の国の一つと言われているフィンランドでは1991年のソ連崩壊後、経済が危機に見舞われて国家財政がひっ迫した際に、当時の教育相が「このような危機の時こそ、教育に投資することが将来の経済成長を生み出す」と考え、教育費の大幅増額を要求した。その精神が現在まで堅持されているという。

 日本で消費税増税に頼らず、教育費の公的支出を増やしていくためには、政府が教育予算を「負担」だと思わず、「国民を育てる未来への投資」だと考え方を改める必要があるのではないだろうか。

 

 

<参考資料>

大山典宏 『生活保護 VS 子どもの貧困』(PHP研究所、2013年)

高橋洋一 『日本は世界1位の政府資産大国』(講談社、2013年)

田口理穂 ほか 『「お手本の国」のウソ』(新潮社、2011年)

日本財団子どもの貧困対策チーム 『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』(文藝春秋、2016年)

 

学校教育に対する保護者の意識調査

http://berd.benesse.jp/up_images/research/all.pdf

平成25年 国民生活基礎調査の概況

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf

OECD Family Database

http://www.oecd.org/social/family/database.htm

平成23年度全国母子世帯等調査結果報告

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/boshi-setai_h23/

平成25年度 全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究

https://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/hogosha_factorial_experiment.pdf

NHK「貧困女子高生」報道炎上~ネット右翼と融合する政治家~

http://bylines.news.yahoo.co.jp/furuyatsunehira/20160823-00061409/

日曜討論参院選22日公示 各党首に問う(2016年6月19日)

https://www.youtube.com/watch?v=-ajARkkJdvA#t=18m08s

小売物価統計調査(動向編)調査結果

http://www.stat.go.jp/data/kouri/doukou/3.htm

教職員4万人削減…「少子化」着目、歳出見直し案

http://saigaijyouhou.com/blog-entry-6466.html

見直される新自由主義とグローバリズム

2016年、EUからの離脱を決めたイギリス

 イギリスでは、1997年に従来の福祉国家にも新自由主義にも寄らない「第三の道」を提唱した労働党のブレア政権が誕生した。労働党は「政府の医療費支出を1.5倍にして、国民皆保険を再構築する」と公約し、医療システムを立て直した結果、国民が安心して経済活動を行えるようになり、2000年代半ばまで失業率も改善していた。

 しかし、近年ではリーマンショックによる景気悪化に加え、保守党のキャメロン政権が付加価値税増税や福祉予算の削減、大学授業料の大幅値上げなど緊縮財政を断行した。その影響もあって、2015年9月に行われた労働党党首の後任を選ぶ選挙では、最左翼のジェレミー・コービン氏が約6割の支持を得て圧勝している。

 

 コービン党首は、国民のための量的金融緩和をはじめとして、鉄道の国有化や大学授業料の無償化、10ポンド(約1500円)の最低賃金など反緊縮的な政策を掲げており、ブレア元首相が「自分のハートはコービンの理念と共にあるという奴は心臓の移植手術を受けろ」と痛烈に非難していることから、コービン氏の政策が「第三の道」とは全く異なる新しいものだということがわかるだろう。

 

 また、2016年6月23日にはイギリスのEU(欧州連合)離脱を問う選挙で、離脱派投票率51.9%)が残留派(同48.1%)をおさえて勝利した。この結果を受けてキャメロン首相は辞任し、7月13日にメイ首相が就任した。

 イギリスは、国外からの移住者が1980年の17.3万人から2014年の63.2万人まで増加しており、移民に対する国民の不満がEUからの離脱を後押しする形になったのだろう(出典:イギリス統計局 Migration Statistics Quarterly Report May 2016)。

 

 EUの指令では、単一市場の中で加盟各国の競争条件を公平にしようと、付加価値税の標準税率を15%以上に定めている。軽減税率も5%以上とし、適用できる対象も食料品や医薬品、新聞や本など21項目に限定している。

 離脱派ボリス・ジョンソンロンドン市長国民投票のキャンペーンで「離脱すればEU指令が適用されず、イギリスからEUに毎年拠出しているお金を使って、ガス代や電気代にかかるVAT(付加価値税)を引き下げられる」と訴えた。イギリスは2008~09年に付加価値税を17.5%から15%に引き下げていたが、15%より低い税率に減税し、軽減税率の品目を増やすためにはEUから離脱する必要があるのだろう。

 

 更に、フランスで近年議席を増やしつつある右派政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首も、イギリスのEU離脱を「自由の勝利」だと歓迎し、フランスでも離脱の是非を問う国民投票を実施すべきだと主張した。イギリスのEU離脱は、1980年代から続いてきた新自由主義政策やグローバリズムに終止符を打つきっかけになるかもしれない。

 

 

大きな政府」と「小さな政府」が対立するアメリカ

 アメリカでは、1993年に誕生したクリントン大統領が同年8月に「包括予算調整法」を成立させ、所得税最高税率を31%から39.6%まで引き上げ、法人税最高税率を34%から35%に引き上げた。その他にも、高所得者のメディケア(医療費補助)部門に増税する一方で、低所得者を対象とした住宅税額控除を恒久化するなど、第二次世界大戦後のアメリカを繁栄させた福祉型資本主義の復活を目指したのである。

 こうしたクリントンの政策は新保守主義者(ネオコン)から社会主義的だと批判されていたが、冷戦の終結やITバブルが追い風となって、1998年には財政赤字を解消することができた。失業率も1992年の7.5%から2000年の4.0%まで改善している。

 

 しかし、共和党の子ブッシュ大統領が誕生した2001年には同時多発テロが発生し、クリントン時代に黒字を続けていた財政は2002年から再び赤字に陥った。ブッシュはアメリカが福祉型資本主義に戻ってきたことを嫌い、独自の「ブッシュ減税」を提案して、所得税最高税率を39.6%から35%に引き下げ、債券や株式などの取引で譲渡益が発生した場合に課せられるキャピタルゲイン税の減税を行った。

 その結果、住宅バブルに支えられた経済成長が続いて、2004年を底に赤字は解消していったが、2008年にはリーマンショックが発生し、財政赤字は1兆ドル(110兆円)を超えてしまった。失業率も2009年は9.3%、2010年は9.6%と1980年代前半の水準まで悪化している。

 

 2009年には民主党オバマ大統領が誕生し、2月にデフレ抑制策として「緊急補正予算7870億ドル(約87兆円)を2年間で支出する」という法案を議会に提出した。この法案が可決されて財政支出が行われると、2011年からようやく景気回復が始まり、失業率も8.9%から2016年の4.9%まで低下した。また、実現こそしていないものの、アメリカの経済格差を縮小するために富裕層に対する増税が検討されている。

 オバマ大統領は新自由主義に否定的な立場で、共和党議員から「法人税所得税を引き上げると成長が鈍化する」と批判が出た際に、「そうした主張はレーガン大統領の時代に失敗した考えであり、議論の余地はない」と反論していた。

 

 

トランプ、サンダース、ティーパーティーの台頭

 だが、2009年からオバマの福祉政策に反対するティーパーティー運動が台頭し、2010年の中間選挙で共和党が躍進する原動力にもなった。ティーパーティーは、米国の植民地時代にイギリスが課した茶への重税に抗議する人たちが、ボストン湾に紅茶箱を投げ捨てた事件を現代に当てはめた「大きな政府」に反対する運動で、あらゆる新税は悪税というアメリカ人の税金嫌いを象徴する団体とも言える。

 2016年の大統領選でティーパーティーは、共和党の上院議員テッド・クルーズ氏を支持した。クルーズ氏は、2013年9月にオバマケア(医療保険制度改革法)を含む暫定予算の成立を阻止するため、21時間以上にわたって演説を続けるという歴史的な議事妨害を行い、その後の米政府機関の閉鎖と債務上限問題で、共和党の評判を下げた最大の「功労者」として挙げられている(ニューズウィーク日本版、2013年10月22日号)。

 

 それに対し、2015年から同じく共和党の大統領候補に「イスラム教徒の入国を禁止する」「メキシコとの国境に『万里の長城』を建設する」など過激な発言で知られる不動産王のドナルド・トランプ氏が台頭してきた。

 トランプ氏は、法人税減税や所得税減税など従来の共和党と変わらない減税策を推進する一方で、アメリカ企業が工場を海外に移転した場合に、「その企業が米国に輸入する製品には国境で35%を課税する」と表明し、企業にアメリカ国内へ留まるよう貿易の保護主義を主張している。

 

 こうした強気な政策を打ち出せるのは、トランプ氏がアメリカの政治を動かす上位1%の富裕層から政治献金をほとんど受け取っておらず、彼のビジネスで得た収入で選挙活動を行っていたからだ。そのため、過激発言も相まってトランプ氏を支持しない著名人は多いが、政治に対する国民の不満を上手く吸い取っているとの声も大きい(表8を参照)。

 テッド・クルーズ氏は2016年4月下旬に、トランプ氏の指名獲得を阻止するため、オハイオ州知事のジョン・ケーシック氏と選挙協力を行ったが、共和党候補が束になってもトランプ氏の人気を抑えることはできなかった。政治献金をほとんど受け取っていないトランプ氏が、多額の政治献金を受け取っている他の共和党候補に勝ったのである。

 

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 また、民主党の大統領候補でもトランプ氏と同様に、上位1%の富裕層から政治献金を受け取っていないバーニー・サンダース氏が大きな注目を集めた。サンダース氏は、貧富の格差を解消するために、富裕層と大企業への課税強化、連邦最低賃金を15ドル(約1650円)に引き上げ、公的医療保険による国民皆保険制度の導入、公立大学の授業料無償化など、福祉や教育を重視する政策を掲げており、主に若者から人気が高いとされている。

 2016年7月にはクリントン元大統領の妻であるヒラリー・クリントン氏が民主党候補に選ばれたが、サンダース氏の支持者は「ヒラリーよりトランプのほうがマシ」という人も多く、今回の大統領選では反主流派が支持されたようだ。

 

 

世界が衝撃を受けたトランプ大統領の誕生

 オバマ大統領の「富裕税構想」を引き継ぐ民主党クリントン氏と、レーガン大統領以来の大減税を計画する共和党のトランプ氏では経済政策に違いがはっきりしているが、一つだけ決定的な共通点も存在した。それは、TPPに関して明確に反対していたということだ。クリントン氏は、もともと2009~13年の国務長官時代にTPPの旗振り役を務めていたが、2015年7月に経済政策を発表した際には「雇用や賃上げに繋がるなら支持すべきだが、そうでなければ撤回も覚悟すべきだ」と慎重な表現に終始していた。

 更に、トランプ氏はクリントン氏以上の強硬なTPP反対派で「特別な利害関係をもつ奴らが、アメリカをレイプするためにこの協定を結ぼうとしてきた」「自動車産業でどれだけの雇用が失われるだろうか。破滅的だ」などと過激な物言いで批判している。トランプ氏は、NAFTA北米自由貿易協定)にも反対の立場で、アメリカの失業者増加に繋がっているとして交渉から脱退する意向を示した。

 

 2016年11月8日に実施された大統領選では、最終的に306名の選挙人を獲得した共和党のトランプ氏が勝利した。日本では安倍首相がTPPへの参加を「成長戦略の一つ」と位置づけているが、保護貿易を主張するトランプ氏が大統領に選ばれたことで、アメリカはTPP交渉から離脱する可能性が高くなってきた。

 経団連の米倉名誉会長は2010年10月に「日本はTPPに参加しないと世界の孤児になる」と発言していたが、これでは逆に日本はTPPへの参加によって世界の孤児になりそうな状況である。自民党は2012年の衆院選で掲げた「TPP反対」の選挙公約に立ち返って、TPP交渉を破棄すべきではないだろうか。

 

 大統領選の後もTPPを推進している国会議員は「どうせトランプ氏もそのうちTPP賛成に態度を改めてくれるだろう」と軽く考えているのかもしれないが、ウォール街から政治献金をほとんど受け取っていないトランプ氏がTPP賛成に変わる可能性は極めて低いと思われる。もし、トランプ氏が変節するようなことがあれば、間違いなくアメリカでは大規模な抗議デモが起こるだろう。

 

 しかし、泡沫候補と言われていたトランプ氏が大統領選に勝利したことは筆者も非常に驚きだった。歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は、イギリスのEU離脱とアメリカのトランプ現象について「行き過ぎたグローバリゼーションによる疲労」(グローバリゼーション・ファティーグ)が発生していると述べている。この動きは右派政党が台頭するヨーロッパ諸国でも加速し、自由貿易新自由主義を推進する自民党が安定政権を続けている日本も無関係ではいられなくなるのかもしれない。

 だが、トランプ大統領は今後、TPPに代わる「日米FTA」や「二国間貿易協定」を交渉していくとも明言しており、引き続き動向を注視する必要があるだろう。

 

 

<参考資料>

アメリカ大統領選挙研究会 『いまこそ知りたいドナルド・トランプ』(水王舎)

エマニュエル・トッド 『問題は英国ではない、EUなのだ』(文藝春秋

春原剛 『ヒラリー・クリントン その政策・信条・人脈』(新潮社)

萩原伸次郎 訳著 『バーニー・サンダース自伝』(大月書店)

松尾匡 『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、全て2016年の出版)

 

イギリスがEU離脱した理由

https://wirelesswire.jp/2016/06/54327/

英国の「消費税」どうなる? EU離脱で減税説と増税

http://www.asahi.com/articles/ASJ6P3CDRJ6PUHBI00H.html

ティーパーティー」とは何者か

http://www.newsweekjapan.jp/column/ikegami/2010/09/post-229.php

トランプ氏「国外移転なら関税35%」 企業に改めて警告

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM05H15_V01C16A2MM0000/

 

サッチャリズムとレーガノミクスの功罪

失業率が高まったサッチャリズム

 何故、日本で消費税増税の代わりに法人税減税が唱えられるのかについては、1980年代にイギリスを席巻していた「サッチャリズム」まで遡る必要がある。

 

 第二次世界大戦後のイギリスでは「ゆりかごから墓場まで」と讃えられるほど社会福祉が充実していた。その代表的な例として挙げられるのは、1948年に始まった「国民保健サービス(NHS)」である。この制度では、国民全員が健康な生活を送る権利があるという認識に立って、医療費を国が全額負担していた。

 しかし、1970年代に入ると高い失業率財政赤字が問題となり、1979年に誕生した保守党のサッチャー政権は、国有企業の民営化や社会福祉制度の見直しなど、小さな政府による新自由主義政策を推進した。

 

 また、税制改革では所得税最高税率を1979年に83%から60%、1988年に40%まで引き下げ、法人税も1983年の52%から1986年の35%まで引き下げられた。その一方で、付加価値税(消費税)は1979年に8%から15%、メージャー政権での1991年には17.5%へと増税している。

 

 サッチャー新自由主義政策は、インフレ不況に苦しむイギリス経済を一時的に立て直すことには成功したものの、企業や経営者が短期的な収益を増加させることで、将来に必要な投資を怠り、生産性と国際競争力が著しく低下した。

 更に、イギリスの財政立て直しと引き換えに、福祉支出を大幅に削減し、国民の医療負担を増やしたために、多くの病院が経営難に陥って、医師不足や医療の質的悪化に繋がった。

 

 所得税減税について、サッチャーは「一生懸命働けば税金を取られることはない」と主張し、国民の支持を確固たるものにした。だが、イギリスの失業率は1980年の7.1%から1984年の11.8%まで上昇し、80年代後半には少し改善したものの、その後は1993年の10.4%へと再び悪化したため、サッチャリズムの代償はあまりにも大きかったと言えるだろう(図29を参照)。

 

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双子の赤字を生んだレーガノミクス

 アメリカで1981年に誕生した共和党のレーガン大統領も、サッチャリズムと同様に富裕層への減税が新たな投資を呼んで、経済を活性化させるトリクルダウン理論のもと「レーガノミクス」を提唱した。

 これによってレーガンは、所得税最高税率を1981年に70%から50%、1986年に28%まで引き下げ、法人税も1986年に最高税率を46%から34%まで減税した。また、軍事費を大幅に増額させる一方で、「財政を圧迫し、労働者の活力を削いでいる」として社会福祉の支出を削減し、運輸や金融など大胆な規制緩和を行った。

 

 しかし、レーガンが想定した富裕層の投資は起こらず、所得税法人税の減税によって税収だけが激減し、財政赤字を招いてしまった。更に、製造業が海外に生産拠点を移していたため、輸入が増える一方で、輸出が減って貿易収支の赤字が拡大し、アメリカでは財政と貿易の「双子の赤字」が発生したのである。

 

 その後、1989年に誕生した父ブッシュ大統領レーガンとは逆に、所得税最高税率を1990年に28%から31%まで引き上げたが、財政支出による景気対策を取らず、税率だけを引き上げてしまったために景気が悪化し、1982年の9.7%から1989年の5.3%まで改善していたアメリカの失業率は1992年の7.5%へと再び上昇に転じた。

 こうした経緯から1992年の大統領選で、父ブッシュは民主党クリントンに敗北している。

 

 

「小さな政府」が持てはやされる日本

 その一方で、日本ではサッチャーレーガンと親交の深かった中曽根首相が行政改革を進め、所得税法人税を減税し、売上税を導入しようとした。1980年代後半の日本はイギリスやアメリカと違い、好景気にわいていて中曽根改革が成功したかのように思えた。

 しかし、行政改革の後にバブルが発生したのは当時の日本がインフレだったからで、逆にバブルが崩壊してからは長いデフレの時代に入る。1990年7月には世界銀行からの借金を完済し、1991年以降は対外純資産の保有額が世界一となるので、この時点で「小さな政府」路線を終了すべきだったのであろう。

 

 だが、バブル崩壊後も日本は小さな政府を目指し続け、1996年の橋本内閣から現在の安倍内閣まで消費税増税に加えて、「規制緩和」や「歳出削減」が唱えられてきた。デフレに苦しむ日本経済はますます貧しくなる一方であるにも関わらず、未だに「日本が不況から抜け出せないのは構造改革が足りないからだ」と主張する経済学者も少なくない。

 1970~80年代のインフレの時代は生産性を向上させるために国営企業の民営化や規制緩和所得税減税などで経済を発展させたが、デフレ不況に苦しむ現代の日本では消費意欲を高めるために、規制緩和などの構造改革より財政出動や消費税引き下げを行うべきではないだろうか。

 

 

<参考資料>

菊池英博 『そして、日本の富は略奪される』(ダイヤモンド社、2014年)

マークス寿子 『「ゆりかごから墓場まで」の夢醒めて』(中央公論社、1995年)

山家悠紀夫 『「痛み」はもうたくさんだ! 脱「構造改革」宣言』(かもがわ出版、2007年)

増税の悪影響は五輪特需で相殺できない

東京五輪の裏で進められる消費税増税

 参院選後の2016年10月に、自民党は総裁の任期を「連続2期6年」から「連続3期9年」に延長することを決定した。安倍首相が総裁に就任したのは2012年9月なので、連続3期9年になると2021年9月まで首相を続けられる。安倍首相本人は、2020年に開催される東京五輪まで内閣を続けることを意識し、佐藤栄作内閣(1964~72年)の在任日数2798日を超える戦後最長の政権を目指している。

 仮に、安倍氏東京五輪まで首相を続け、これ以上増税を延期しなかった場合、在任中に消費税を2段階引き上げる初めての首相となるだろう。

 

 個人的に、安倍首相には消費税増税で景気を悪化させ、公約違反のTPPに参加表明した責任を取って早期に辞任していただきたいが、自民党谷垣禎一氏のような総裁経験者から小泉進次郎氏のような若手議員までほとんど全員が増税に賛成しており、誰が首相になっても「将来的に消費税を10%以上に引き上げる」という姿勢は変わらなさそうである。

 そのため、2019年10月に予定されている消費税増税を中止するためには、次の衆院選自民党を敗北に追い込むしか方法がないのかもしれない。

 

 また、消費税増税の時期を2019年10月にしたのは翌年に東京五輪の開催が控えており、増税による消費の落ち込みを「五輪特需」で相殺できるだろうという思惑が感じられる。「オリンピックを開催すれば必ず景気が良くなる」と考える人は高度成長期の真っ只中である1964年に開催された東京五輪を思い浮かべているのかもしれないが、東京五輪は1964年だけでなく戦時中の1940年にも開催される予定だった。

 1940年の東京五輪日中戦争の長期化によって開催中止が余儀なくされたが、翌1941年には太平洋戦争が勃発し、1945年に敗戦を迎えた経緯から「オリンピックを招致すれば必ず経済が良くなる」と考えるのはあまりにも楽観的過ぎるだろう。もちろん、1940年と現在では時代背景が全く異なるが、2020年の東京五輪は新国立競技場の予算削減やエンブレムの盗用疑惑、競技会場の見直しといった諸問題が相次いだこともあり、1964年当時のような国民的な盛り上がりに至るとは思えない。

 

 東京五輪の経済効果について、招致委員会とスポーツ振興局は2013年から2020年までの7年間で約3兆円と見込んでいるが、これは2015年の日本の名目GDP(約499.3兆円)における0.6%程度に過ぎなく、決して大規模な数字だとは言い難い。その一方で、消費税増税の悪影響について世界銀行が発表している名目GDPの推移を見ると、1996~98年の2年間では4兆7060億ドルから3兆9150億ドルへと7910億ドル(約87.0兆円)減少し、2013~15年の2年間でも4兆9090億ドルから4兆1230億ドルへと7860億ドル(約86.5兆円)減少している。

 5%と8%に増税した時期に、オリンピック開催による経済効果の28~29倍もの名目GDPが失われていることから、五輪特需のプラス効果よりも消費税増税のマイナス効果のほうがはるかに大きいと言えるだろう。

 

 

五輪の経済効果は地方にまで波及しない

 更に、政府は地方創生として2020年までに訪日外国人観光客を年間3000万人へと増加させる目標を掲げているが、東京五輪の開催が本当に外国人観光客の増加に寄与するかどうかは疑問である。例えば、2012年のロンドン五輪で、開催時期の7~8月にイギリスを訪れた観光客は2011年の657万人から12年の617万人へと前年比で6.1%も減少している。

 五輪開催時期に観光客が減るのは、道路の渋滞やホテルの価格高騰といった問題を避けるために、オリンピック以外の目的で訪問予定だった人々が観光を取り止めた可能性が指摘されている(小川勝「東京オリンピック 『問題』の核心は何か」 集英社、2016年)。五輪を開催することによって、自動的に観光客の増加に繋がると思うのはあまりにも短絡的ではないだろうか。

 

 日本では近年、外国人観光客が急増しているが、その行き先が都市部に偏っていることが問題点として挙げられている。世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」によれば、2014年に日本の観光地に寄せられた外国語の口コミ数を都道府県別に見ると、東京は33.6%、京都は16.0%、大阪は10.0%と三県だけで全体の約6割近くにものぼる。

 筆者の住む群馬県では2014年6月に「富岡製糸場」が世界遺産に登録されたが、富岡製糸場の入場者数は2014年度の133.8万人から2015年度の114.5万人へと減少し、2016年度も月別入場者数が10万人を超えたのは10月のみとなっている。この間、外国人観光客は2014年が1341.3万人、2015年が1973.7万人、2016年が2198.8万人(11月まで)へと右肩上がりで増えているにも関わらず、地方の世界遺産入場者は減少に転じたのである。

 

 2020年の東京五輪は当初、東日本大震災の「復興オリンピック」とも言われていたが、外国人旅行者の訪問先は未だ都市部に限定的であり、五輪を開催することで地方にまで経済効果が波及する可能性は低いのではないだろうか。2014年4月に実施された消費税増税でも、新潟市のスーパーが新型レジに買い替えることができなくて倒産するなど、東京よりも地方のほうが増税の影響を受けやすかった。東京五輪の開催に便乗して消費税を再び引き上げれば、地方の衰退がますます加速するだろう。

 

 また、政府が見通さなければいけないのは安倍首相が辞任し、東京五輪が終了した2020年以降の日本経済である。例えば、ギリシャは2004年のアテネ五輪後、付加価値税を18%から23%まで増税して2010年に財政破綻している。日本でも、東京五輪が終わった後に財務省が「オリンピック予算でお金を使い過ぎてしまった」などの理由をこじつけて、消費税を15%や20%まで引き上げる話が出てくるかもしれない。

 野党も安倍政権を倒閣することを目標にするのではなく、安倍首相が辞任した後の政治について本格的に計画を立てていくべきではないか。

 

 

<参考資料>

自民党、総裁任期を延長へ 「3期9年」案が軸

http://www.asahi.com/articles/ASJBM4KGSJBMUTFK00N.html

日本 名目GDP(1960~2015年)

http://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD?locations=JP

東京都は2位東京スカイツリー! 訪日外国人に話題の日本の観光地ランキング

http://news.mynavi.jp/news/2015/04/01/457/

統計データ(訪日外国人・出国日本人)

http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/visitor_trends/

消費税の歴史(2014~2016年)

安保法制成立後も崩れない安倍内閣の政権基盤

 日経平均株価は、外国人投資家がけん引している影響で増税後も緩やかな上昇を続け、2015年4月には2万円を超えることになった。しかし、2013年に日銀の黒田総裁が掲げていた「2年後に物価上昇率2%を実現する」という目標は達成できず、14年度の消費者物価上昇率増税の影響分を除くと0.8%のみの上昇であった。2014年の実質GDP成長率もプラスマイナス0%と、アベノミクスが想定した景気回復には遠く及ばなかった。

 だが、この頃になると山一證券破綻のような大規模な金融恐慌がなく、安倍内閣の政権基盤が安定している影響もあって、増税後の景気悪化から現実逃避しようとする閣僚の発言が相次ぐ。甘利大臣や谷垣幹事長は「消費支出の落ち込みは天候不順が原因」だとし、安倍首相もTBSの報道番組「NEWS23」(2014年11月18日放送)に生出演した際に、「景気が良くなったとは思わない」「アベノミクスを感じていない」という街頭インタビューに対して、「内容が意図的に編集されたのではないか」と言い訳した。

 

 また、麻生副総理は12月8日の街頭演説で、「日経平均株価はこの2年間で17000円まで上がった。その結果として、企業は大量の利益を出している。出していないのはよほど運が悪いか、経営者に能力がないかだ」と自己責任論を強要した。

 安倍首相を熱烈に支持している経済評論家の上念司氏も「ジャパニズム23」(青林堂、2015年2月)の中で、「アベノミクスの恩恵にあずかれないと文句を言っている人は『賃金が上がっていない』と主張して、単に迎合するだけで何の理論的裏付けもない評論家のカモになるのが運命」とこき下ろし、2013~14年に円安倒産が増加したことについては「アベノミクスに対する本気度を疑っていたから倒産しただけの話」と企業側に責任を押し付けている。

 

 上念氏は、民主党政権の時代まで「次に消費税を上げれば、1997年以降に襲った不況より三段階も四段階も上のすごい不況が襲いかかってくるかもしれない」と増税を厳しく批判しており、安倍内閣になってから増税容認に変節したのだ。彼のように「憲法改正に積極的な安倍首相なら何をやっても許される」と勘違いした保守言論人は非常に多いようである。

 

 しかし、2015年5月に「安全保障関連法案」が閣議決定されたことを受け、国会前では連日のように大規模な抗議デモが開催されるようになる。更に、8月11日には川内原発が再稼働され、東日本大震災以前まで原子力を推進していた政府の方針に回帰し始めた。それでも、安倍内閣の政権基盤が大きく揺らぐことはなく、同年9月に行われた自民党総裁選では安倍首相が無投票で再選を果たす。

 総裁選には安保法制に慎重な立場を示していた野田聖子氏と、若手議員として期待される小泉進次郎氏の出馬が取り沙汰されていたが、立候補に必要な推薦人20名を集められないなどの問題で、直前になって出馬を断念している。

 

 

アベノミクスを自画自賛する安倍首相

 安倍首相は、2015年11月に開催された自民党の「立党60年記念式典」でアベノミクスを自画自賛し、有効求人倍率について「23年ぶりの高い水準」「高度成長期やバブル期よりも雇用条件は良くなった」と述べた。だが、有効求人倍率の上昇は2010年の菅内閣の時から始まっており、アベノミクスよりもリーマンショックから回復した影響が大きいと思われる。

 

 また、2015年の有効求人倍率は1.20倍だったが、高度成長期のピークに当たる1973年(1.76倍)やバブル期の1990~91年(1.40倍)には届いていないため、「有効求人倍率が過去最高の水準になった」という安倍首相の認識は間違っていたのである(厚労省「一般職業紹介状況」より)。

 私が大学3~4年生の頃は既に安倍内閣だったが、「就職活動が以前より楽になった」という話は全く聞いていない。今も大学生の多くが就職活動に苦労しているのに、「バブルの頃より雇用条件が良くなった」と自画自賛するのはあまりにも無責任だろう。かつて安倍首相ほど自身の経済政策を過大に評価した総理大臣が存在しただろうか。

 

 アベノミクス第二の矢である「機動的な財政政策」では、国土強靭化として公共事業の大盤振る舞いを宣言していたが、政府の公共投資(公的固定資本形成)は2013年10~12月期の22.7兆円から2016年7~9月期の21.2兆円まで減少している(内閣府「国民経済計算」 2016年7~9月期一次速報値 実質季節調整系列 2005年基準より)。

 安倍首相がアベノミクスを自画自賛すればするほど増税後の景気対策は遅れ、財政も緊縮的になってきているのが現実のようだ。

 

 更に、名目賃金の実質的な購買力を示すために用いられる「実質賃金指数」も安倍内閣になってから下落を始め、特に消費税が8%に引き上げられた2014年4月以降は低迷した状況が続いている(図26を参照)。経済ブロガーの山本博一氏は「実質賃金の低下により雇用者が増える」と述べているが、正規雇用数は第一次安倍内閣だった2007年4~6月期の3490万人から、2016年4~6月期の3367万人まで100万人以上も減少しており、増加したのは今まで通り非正規雇用者のみである。

 アベノミクスを評価する人々は「企業が過去最高の収益を上げている」と自慢するが、全国企業倒産件数が1万件を下回っても雇用は改善せず、消費税増税のせいで景気回復を実感できないのではないだろうか。

 

 その上、民間最終消費支出は東日本大震災後の2011年4~6月期(299.3兆円)から増税前の2014年1~3月期(321.5兆円)まで緩やかに上昇していたものの、消費税を引き上げると急に落ち込み、2014年4~6月期から2016月7~9月期までは305~308兆円で推移している(図27を参照)。

 マスコミの多くは増税直前の2014年3月まで「消費は増税後の4~6月期に大きく落ち込むものの、7~9月期にはそれを取り戻す程度に回復する」と予想していたが、結局のところ増税から2年以上が経過しても消費はまだ回復していないのだ。

 

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増税延期の判断は長期的に見て正解だった

 だが、2016年に入ってからは、2017年4月から予定されていた消費税10%への引き上げについて最終的な判断が安倍内閣に求められるようになった。安倍首相は当初、「リーマンショック東日本大震災級の災害でも起きない限り、予定通り引き上げる」と発言したが、3月にはアメリカから来日した経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授やポール・クルーグマン教授が「まだデフレ脱却には至っていない」と安倍首相に消費税増税の中止を提言している。

 更に、4月14日と16日には熊本県で巨大地震が発生し、死者は157人、負傷者は2300人を超える大災害となった。「東日本大震災の再来か」と言われたこの災害の後、当然のことながら消費税増税について政府の判断は揺らぎ、舛添都知事が政治資金を公私混同していた問題も自民党にとって逆風になりつつあった。

 

 7月の参議院に向けて、多くの有権者がどの政党に投票しようか決めかねている中で、安倍首相は6月1日に記者会見を開き、消費税10%への引き上げ時期を2017年4月から2019年10月に2年半(30ヵ月)延期することを決定した。

 増税の再延期について、経団連の榊原会長は「日本経済を再びデフレに戻さない、経済再生を最優先するという安倍総理の揺るぎのない強い決意を示されたものと理解する」と評価した一方で、日本商工会議所の三村会頭は「消費税を引き上げられないようなら、日本は財政的に破綻する」と批判し、経済同友会の小林代表も「再延期は政治判断だと思うが、納得できるように国民に説明する責任がある」と述べた。

 

 しかし、毎日新聞が2016年5月28~29日に行った世論調査で、安倍首相が消費税増税の延期を検討していることについて、延期に賛成している人は66%と、反対の25%を大きく上回った。毎日新聞と同時期に実施された共同通信の調査でも、増税延期に賛成する人は70.9%と、反対の24.7%を大きく上回っており、国民の多くは政府の説明がなくても増税延期を納得しているのである。

 

 また、財務省は「増税延期による国債の暴落」を懸念していたが、消費税の引き上げ時期が2017年4月に延期されても、2019年10月に延期されても国債が暴落するような事態は発生しなかった。そろそろ国民に嘘をついて、増税を煽るような手法はやめるべきではないだろうか。

 むしろ、2016年の夏から秋にかけて、イギリスの国民投票でEUからの離脱を決定したり、アメリカの大統領選でトランプ氏が勝利したりと、世界に衝撃を与えるニュースが続いたため、日本が消費税増税を延期したのは賢明な判断だったと言えるかもしれない。

 

 

野党共闘が成功したとは言えない参院選

 2016年7月10日に実施された参院選では、安倍首相が消費税増税を延期し、「憲法改正」や「安保法制の是非」といった重大争点に触れなかったことが功を奏して、自民党は115議席から121議席へと6議席増やして勝利した。今回の選挙では自民党公明党におおさか維新の会などを加えた「改憲勢力」の議席が3分の2を超えたため、安倍内閣が目指す憲法改正が現実味を帯びてきた。

 野党では、民進党日本共産党などが安保法制を廃止させるために選挙協力を行い、福島と沖縄の選挙区で「野党統一候補」が現職の自民党議員に勝利するなど一定の成果は表れたものの、安倍内閣に緊張感を与えるまでには至らなかった。

 

 今回の参院選では、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられた後に実施された初めての選挙だったが、読売新聞が年代別に比例選挙をどの政党に投票するか調査したところ、18~19歳は自民党に投票すると回答した人が他の世代よりも多かったという(写真を参照 「自民、比例第1党の勢い…10代の半数与党支持」 2016年7月6日より)。

 参院選での18~19歳の投票率は46.78%で、20代(35.60%)と30代(44.24%)よりは上回ったものの、40代(52.64%)、50代(63.25%)、60代(70.07%)、70代(60.98%)といった中高年層より低いため、「自民党は若者から支持されている」とは一概に言えないだろうが、少なくとも民進党共産党が呼びかけた「野党共闘」のメッセージが若年層に届いていないことは事実のようである。

 

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 2015年の夏には、安保法制に反対するために結成された学生団体の「SEALDs」が話題になったが、NHKが18~19歳を対象にした『政治と社会に関する若者意識調査』(同年11~12月実施)で、「あなたは、政治にかかわる集会やイベントに参加したことがありますか」と質問したところ、「参加したことがある」と答えた人は2.3%に留まり、「参加したことはないが、今後参加するかもしれない」が38.3%だった一方で、「参加したことがないし、今後も参加するつもりはない」は過半数の59.0%を超えていた。

 つまり、国会前で抗議デモを繰り広げていた「SEALDs」は決して若者の代表ではなく、10代や20代の多くは選挙があれば投票に行くが、政治活動までは興味を持っていないのが実情ではないだろうか。

 

 

若者の多くは景気や雇用を重視している

 また、朝日新聞が2016年2~4月にかけて、18~19歳の3000人に「今の政治で力を入れてほしいこと」を複数回答で挙げてもらうと「景気・雇用」(72%)が最も多く、次いで「年金・医療などの社会保障」(61%)が多かった(図28を参照)。

 ちなみに、同じ調査で憲法改正の是非について尋ねたところ、「変える必要はない」が57%と半数を超え、憲法9条についても「変えないほうが良い」は74%で、「変えるほうが良い」の20%を大きく上回った。

 

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 このことから、7月の参院選で野党が勝てなかったのは安保法制廃止のアピールが足りなかったのではなく、安倍内閣に対抗できる経済政策を打ち出せなかったことが原因だと考えられる。特に民進党は、岡田元代表が消費税10%への引き上げについて「予定通り実施すべき」と容認する発言をしており、「自民党増税に慎重だが、民進党増税に賛成している」というイメージを有権者に与えてしまったのではないだろうか。

 

 日本共産党に関しても、6月26日放送のNHK日曜討論」で藤野保史議員が、防衛費について「人を殺すための予算」と発言したことが問題になった。この発言を受けて、藤野氏は共産党の政策委員長を辞任したが、こうした防衛費を敵視する考え方は自衛隊の方々に失礼なだけでなく、日本共産党のイメージ悪化に繋がる可能性が高いと思われる。

 そもそも、第二次世界大戦前であれば税金は戦費調達に使われていたが、現代の消費税収のほとんどは法人税減税の穴埋めに消えているのであって、防衛予算に使われているとは言い難い。日本共産党は今後、改憲反対や防衛費削減といった軍事に関する主張よりも、消費税増税反対、TPP批准反対、原発再稼働反対といったより身近な問題こそ優先して主張すべきではないだろうか。

 

 自由党の小沢代表は2016年11月26日、大阪で開かれた党府連総会で早期の解散総選挙に備え、民進、共産、社民との野党共闘について年内に道筋を付けるべきだと訴えた。2017~18年に実施が予定されている次の衆院選は、蓮舫代表や野田幹事長とは別に民進党増税反対派議員が憲法改正ではなく、消費税引き上げを阻止するために共産党社民党自由党などの野党と選挙協力を行うべきだろう。

 

 

<参考資料>

安倍首相、TBS「街の声」に異議 「意図的な編集」ほのめかす

http://www.j-cast.com/2014/11/19221293.html

麻生太郎氏「利益出してない企業は運が悪いか能力ない」

http://www.huffingtonpost.jp/2014/12/06/taro-aso_n_6282148.html

立党60年記念式典 安倍晋三総裁演説(全文)

https://www.jimin.jp/aboutus/convention/60th/130961.html

スティグリッツ氏「消費増税すべきでない」 国際経済分析会合

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFK16H26_W6A310C1000000/

ノーベル経済学賞受賞・クルーグマン教授、消費税増税の先送り提言をする

https://www.youtube.com/watch?v=YjHYVA80uHk

本社世論調査 増税延期「賛成」66%

http://mainichi.jp/articles/20160530/k00/00m/010/038000c

内閣支持率55%に上昇 米大統領広島訪問98%評価

http://www.sankei.com/politics/news/160530/plt1605300002-n1.html

国政選挙における年代別投票率について

http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/

自民、比例第1党の勢い…10代の半数与党支持

http://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/2016/news2/20160705-OYT1T50109.html

政治と社会に関する若者意識調査 単純集計結果

http://www.nhk.or.jp/d-navi/link/18survey/img/0125_yoron.pdf

「格差、行き過ぎている」59% 18~19歳世論調査

http://www.asahi.com/articles/ASJ475JFLJ47UZPS003.html

4野党共闘、年内に=衆院選にらみ全国行脚-自由・小沢氏

http://www.jiji.com/jc/article?k=2016112600168&g=pol

消費税の歴史(2012~2014年)

再び増税前の好景気にわいた2013

 政権が民主党から自民党へと戻り、2012年12月に就任した安倍首相は自らの経済政策を「アベノミクス」と題して、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という『三本の矢』を提示した。2013年3月には前年の衆院選での公約に反して、TPP環太平洋戦略的経済連携協定)への参加を表明するなど混乱はあったものの、2012年11月から始まった日経平均株価の上昇に支えられ、7月の参院選でも議席を31名増やして勝利し、「ねじれ」を解消することになった。

 

 しかし、安倍内閣は翌2014年4月から実施される予定の消費税増税について最終的な判断を迫られ、8月26日から31日にかけて有識者60名から意見を聞く政府の「集中点検会合」が開かれた。増税賛成派には、伊藤隆敏氏、熊谷亮丸氏、土居丈朗氏など財務省と関わりが強く、法人税減税を推進している学者がほとんどだった一方で、増税反対派には筑波大学名誉教授の宍戸駿太郎氏や三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛士氏など、ケインズ経済学や応用軽量経済学の観点から「消費税引き上げより経済成長を優先させるべき」と主張する学者が多かった。

 だが、この有識者会議は増税賛成派と反対派が長時間にわたって大いに議論することなく、「反対派の意見も聞きました」というアリバイ作りに利用されただけであった。

 

 また、アベノミクスの弱点は日経平均株価が上昇しても、多くの人が景気回復を実感できないという部分にあった。共同通信が2013年4月に行った世論調査によれば、「アベノミクスで所得が増えると思う」と回答した人は24.1%だったのに対し、「所得が増えないと思う」との回答は69.2%にのぼっており、期待が広がっていないことは明らかだった。

 更に、消費税を5%に引き上げる前年の1996年も好景気だったが、翌年から景気が悪化したためこのまま「社会保障・税一体改革関連法案」の通り消費税を8%に増税してしまえば、せっかくの「デフレからの脱却」も失敗に終わってしまう可能性が高かった。

 

 本田悦朗内閣官房参与は8月11日、安倍首相に「景気は確かに昨年より今年のほうが良いが、デフレ脱却できるほどまだ回復が強くない。消費税を増税するなら、3%ではなく毎年1%ずつ上げていったほうが良いのでは」と直接助言した。

 また、イェール大学名誉教授の浜田宏一内閣官房参与も「デフレから回復しているこの勢いがなくなっても良いのだろうか。日本で15年間続いてきたデフレ経済を直すためには、もう少し時間が必要なのではないか」と消費税増税を思いとどまらせる内容の手紙を安倍首相に送ったという。

 

 2012年に成立した「社会保障・税一体改革関連法案」では、時の政権が経済状況を判断して増税を延期することができる「景気弾力条項」が盛り込まれていた。四半期別実質GDPの成長率は2013年1~3月期が年率4.1%に上昇していたものの、4~6月期の速報値は年率2.6%と回復に遅れが出始めており、世耕官房副長官は「悪い数字ではないが、思ったよりプラス幅が少ない」と不満を口にし、甘利大臣も「安倍首相が増税を決断するほど景気回復は進んでいない」と見ていた。

 だが、2013年9月7日にブエノスアイレスで行われた国際オリンピック委員会総会で、2020年に開催される東京オリンピック招致が決定したことを受け、五輪予算に最低でも7300億円が掛かると報道されると政府は「オリンピックを開催するために増税が必要」という世論作りに躍起になる。安倍首相は「五輪招致決定と消費税引き上げは直接関係ない」と述べたが、東京オリンピックがその後の増税決定を大きく後押ししたことは間違いないだろう。

 

 

デフレ脱却前に消費税増税を決定した安倍首相

 消費税増税は最終的に、安倍首相が10月1日に記者会見を開き、2014年4月から8%へ引き上げることを決定した。記者会見の中で安倍首相は「我が国の経済は次元の違う『三本の矢』によって、回復の兆しを見せている」と強調し、その根拠として2013年4~6月期の実質GDP成長率の改定値が年率3.8%に上方修正され、二期連続で3%以上のプラス成長を続けたことを挙げたが、実際はその後の確定値で年率2.8%に下がってしまった。「二期連続で3%以上のプラス成長を続けた」と景気回復を強調する安倍首相の発言は明らかな嘘だったのである。

 

 また、年間の実質GDP成長率も2012年の1.7%から2013年の1.4%へと伸び悩み、名目GDP成長率は2012年も13年も0.8%とほぼ横ばいだった。自民党員でありながら消費税引き上げに反対している経済評論家の三橋貴明氏は「日本がデフレから脱却し、増税できる経済状況に持っていくには年間の名目GDP成長率が8%以上に達する必要がある」と述べており、90年代後半から15年間続いてきたデフレ不況を第二次安倍内閣が発足してからたった1年で解決できるはずもなかった。

 

 安倍首相は2012年6月のメールマガジンで、当時の野田内閣が「社会保障・税一体改革関連法案」を衆議院で可決させたことを批判し、「デフレからの脱却を果たして、成長戦略を実施する条件が満たされなければ消費税の引き上げを行わないことが重要」と述べていたが、いざ自分が首相になると一時的な景気回復を過信して、デフレ脱却が不十分なうちに消費税増税を決定してしまったのである。積極財政のイメージが強い安倍内閣だったが、この2013年10月1日を境に緊縮財政へと舵を切っていくことになる。

 

 ちなみに、同年12月2日にはアベノミクスを腰折れさせないための景気対策として、政府は東日本大震災の復興財源を捻出するために導入された「復興特別法人税」の前倒し廃止を決定した。復興特別法人税を廃止するくらいなら、最初から消費税増税そのものを中止すべきだと思うのだが、竹下内閣や橋本内閣と同様に今回も「消費税引き上げの代わりに、法人税を減税する」という手法が実施されたと言えるだろう。

 

 安倍首相が8%への引き上げを決定する直前の2013年9月27日には、大規模な消費税増税反対デモが開催され、日比谷野外音楽堂とその周辺に5000人を超える参加者が集まったが、このような増税反対デモは長続きせず、10月1日にはテレビの街頭インタビューで「仕方がない」「受け入れるしかない」と諦める人々の姿が映し出された。

 翌2014年1月にも大型ショッピングモールが「増税前、最後のお正月」と駆け込み消費を煽る内容のCMを放映し、3月21~23日の三連休には駆け込み消費が起こることを想定した企業側の戦略をマスコミが取材していた。私はこれらの番組を見ていて「企業やテレビ局は何故、増税後に景気が悪化するかもしれないことを心配しないのか」と強く疑問に思ったことを覚えている。

 

 駆け込み消費について総務省の家計調査によれば、2014年3月の実質消費支出は前年同月比プラス7.2%という高い伸び率になった。これは、消費税導入前の1989年3月(同プラス6.3%)、前回消費税引き上げ前の1997年3月(同プラス5.8%)を上回る水準で、大型家電や日持ちする食料品の買いだめなど幅広い分野で消費支出が増加している(「景気見通しの後退で消費者心理は小幅な悪化」 リサーチ総研CSI消費者心理調査 2014年5月)。

 しかし、その後も政治的に大きな混乱はなく、4月1日からとうとう消費税は8%へと引き上げられてしまう。

 

 

4~6月期のGDP成長率は大幅に悪化

 安倍首相は増税後、初めての週末である4月5日に日本橋三越本店で買い物をし、「消費税がだいぶ高くなったという実感があった」と発言した。これに対して、インターネット上では「何、呑気なことを言ってるんだ」と批判が相次ぎ、増税を決めた政府と消費税が上がって節約に苦労している国民との実感の差が浮き彫りになった。

 また、新潟市の地元スーパーでは消費税8%に対応可能な新型レジに買い替えることができないため、2014年3月に4億円以上の負債を抱えて破綻したことも報道された。奈良県の南都経済研究所が9~10月に行った調査でも当時、2015年10月に予定されていた消費税10%への引き上げについて「反対」と回答した企業は51.1%にのぼり、「賛成」と答えた企業の39.0%を上回っている(「第161回地元企業動向調査結果」 ナント経済月報 2014月11月号)。

 このようなニュースや調査から、消費税増税は東京よりも地方のほうが影響を受けやすいことがわかるだろう。

 

 安倍内閣は2014年7月に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を経て、9月3日に初の内閣改造を行った。内閣改造の理由は集団的自衛権の影響で内閣支持率が低下したこともあるが、一番はやはり消費税増税から数ヵ月経過して景気に陰りが見えてきたのが大きいだろう。1997年当時、橋本内閣は消費税引き上げから約半年後の9月11日に内閣改造を行ったが、2014年の安倍内閣増税から半年経った9月3日に内閣改造を行ったことは特筆すべき事項かもしれない。

 

 2014年4~6月期のGDP成長率は年率マイナス7.8%に悪化し、民間最終消費支出は年率マイナス17.8%、民間住宅投資は年率マイナス37.0%、民間企業設備投資は年率マイナス15.6%へと大きな落ち込みを示している。更に、家計消費水準の実質的な向上分を示す「消費水準指数」も2014年4月から2015年4月まで13ヵ月連続でマイナスの状態が続いており、半年後の9月にはプラスの値に回復していた消費税導入の1989年や前回引き上げ時の1997年と比較しても消費の低迷は明らかだった(図25を参照)。

 その上、2007~08年の19位を底に回復していた一人当たりの名目GDPの国際ランキングも、消費税増税後に経済が低迷した影響で2012年の13位から2015年の26位まで再び順位を落としている。

 

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増税延期に対して暴言を吐いた財務省幹部

 1997年の橋本改造内閣ではロッキード事件で有罪となった佐藤孝行議員の起用が批判され、わずか12日間で辞任に追い込まれてしまうが、2014年の安倍改造内閣でも目玉として起用された女性5閣僚のうち、小渕優子経産相と松島みどり法相の2人が政治資金問題などを理由に辞任することになる。また、19人の閣僚のうち、安倍首相を支える右派団体の「日本会議」に所属している議員が15人もいたことが問題となった。

 

 安倍首相はGDP成長率の悪化と閣僚の相次ぐスキャンダルで、10月半ば頃から密かに年内総選挙を想定した早期解散を模索し、日銀も10月31日にサプライズとして追加金融緩和を決定した。この時期に追加緩和が行われることについて、黒田総裁は「2%の物価安定目標を確かなものにする」と説明したが、11月12日の衆院財務金融委員会では「2015年に予定される消費税10%への引き上げを前提に追加緩和を行った」と述べているため、やはり安倍首相が増税実施の判断を迫られていたのと無関係ではないだろう。

 

 その後、11月17日に発表された2014年7~9月期のGDP成長率(速報値)が年率マイナス1.6%と二期連続でマイナス成長となり、翌18日に安倍首相は2015年10月に予定されていた消費税増税を1年半後の2017年4月へと延期し、21日の衆議院解散を発表した。増税延期は財務省にとっても衝撃的だったようで、ある幹部は「社会保障費が膨れ上がる中、消費税率がこんなに低いのは国民を甘やかすことになる」と暴言を吐いたそうだ。

 どんなに経済が不況になっても増税を強行しようとする財務省の姿勢には呆れるが、毎日新聞が2014年10月に行った世論調査では消費税引き上げに反対する人は73%で、賛成の25%を大きく上回っており、国民の多くは増税に反対しているのが実情なのである。

 

 11月21日の衆議院解散から始まった総選挙で、安倍首相は持ち前の憲法改正をあえて触れずに「アベノミクスによる経済再生の達成」を掲げ、マーガレット・サッチャーの『There is no alternative』を意識して「この道しかない」と言い切った。結果は、自民党が295議席から291議席へと4名減らしたものの、ほぼ現状維持となり安倍内閣の人事に大きな影響を及ぼすことはなかった。

 その一方で、野党は「アベノミクス失敗」を訴えた民主党が11議席増やし、消費税増税に断固反対している日本共産党も13議席増やしたが、巨大与党に太刀打ちできずに決して勝利したとは言えない状況だった。

 

 1979年の大平内閣から2012年の野田内閣まで、消費税に関わった政権のほとんどが選挙で敗北していたため、消費税を引き上げて選挙に勝ち続ける首相は安倍氏が初めてかもしれない。政治研究家の中田安彦氏は、2014年の衆院選自民党議席を維持したことにより、かつて小沢一郎氏が目指した「政権交代可能な二大政党制」が完全に崩壊し、55年体制に代わる新たな「2015年体制」が出来上がったと後の世に語られるだろうと述べている(「ネット世論が日本を滅ぼす」 ベストセラーズ、2015年)。

 

 

<参考資料>

消費増税「集中点検会合」備忘リストと舞台裏

http://d.hatena.ne.jp/shavetail1/20130831

「所得増えない」69% 共同通信世論調査

http://ono-blog.cocolog-nifty.com/sikou/2013/04/post-f6c2.html

安倍首相が増税後の買い物パフォーマンス 「高くなった」発言に批判も

http://www.j-cast.com/2014/04/05201329.html

「新型レジに交換できない」消費増税で早くも倒産

http://www.j-cast.com/2014/04/06201351.html

消費税率再引き上げ 財務省「予定通り」に固執し、官邸激怒

http://www.sankei.com/politics/news/141117/plt1411170054-n1.html

<本社世論調査>消費再増税「反対」73% 毎日新聞

http://blog.livedoor.jp/gataroclone/archives/40827622.html