消費税増税に反対するブログ

消費税の財源の8割以上が法人税減税に消えている!消費税10%への引き上げを中止しよう!(コメントは、異論や反論も大歓迎です)

消費税増税は法人税減税の穴埋めに過ぎない

消費税収の8~9割が法人税減税に消えている

 安倍政権は「人づくり革命」として、消費税を10%に増税する代わりに企業の法人実効税率を中国並みの25%程度まで引き下げることを明言した。

 希望の党の小池代表もアメリカのトランプ大統領や、フランスのマクロン大統領を見習って法人税減税を推進している。

 

 日本では消費税が導入された当時から法人税減税が急速に行われていて、法人税の基本税率は1984~86年度の43.3%から2016年度の23.4%に引き下げられ、国税地方税を合わせた法人実効税率も、1984~86年度の52.92%から2016年度の29.97%まで引き下げられている。2018年度からは基本税率が23.2%、法人実効税率が29.74%となる予定だ(表9を参照)。

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 1989~2016年度まで日本人が払った消費税は計327.2兆円なのに対し、法人税は国と地方合わせて、税収が29.8兆円であった1989年度と比較すると計272.1兆円も減収した(図41を参照)。

 更に、森永卓郎氏の『消費税は下げられる』(角川新書、2017年)によれば、2014年からの消費税8%引き上げによる増税額(地方消費税を含む)のうち、初年度の増収額は8兆2462億円だった。

 それに対し、法人税は実効税率1%当たり6243億円の税収(法人事業税・住民税を含む)をもたらすため、実効税率を2010年度の40.86%から2016年度の29.97%に引き下げ、復興特別法人税を前倒し廃止したことによって、7兆7991億円もの法人税減税が行われていたことになる。

 つまり、消費税の財源は税収ベースで83.2%、税率ベースで94.6%が法人税減税の穴埋めに消えてしまったのだ。

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 マスコミの多くは「国の借金を返すために増税しなければならない!」「社会保障を充実させるために増税しなければならない!」と煽っているので、消費税の問題に関心を持って増税に反対している経済学者の本を読んだり、個人で講演活動を行っている方の話を聞いたりしない限り、消費税の財源のほとんどが法人税減税の穴埋めに消えている事実について知る機会が少ないは問題だろう。

 

 

法人税を減税しても海外への投資を増やすだけ

 消費税増税の代わりに、法人税を引き下げて企業に余力が生まれたとしても、増税で消費が停滞してデフレに陥るため、企業の利益は需要不足の日本ではなく海外へ投資される可能性が高い。

 例えば、日本の建設企業が海外の工場へ投資すれば、配当金として投資収益が日本に戻ってくるが、そのほとんどは株主に還元されたり、内部留保に蓄積されたりして企業で働いている従業員の報酬や国内建設には向かわない。その結果、国民の所得格差が拡大し、資金の海外流出によって経済効果はむしろマイナスに転じるのである。

 

 実際に、日本は政府による国内への設備投資の額を表す「公的固定資本形成」が1996年の46.7兆円から2016年の25.0兆円に減少する一方で、企業による海外への投資の額を表す「対外直接投資」は1996年の2.9兆円から2016年の18.4兆円まで増加した(図42を参照)。

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 安倍政権は「法人税減税で浮いたお金を内部留保ではなく、設備投資に回すよう企業に呼びかける」と言っているが、それなら内部留保に課税して政府の公共投資を増やしたほうが法人税を減税するより効果的ではないだろうか。

 また、希望の党は消費税増税凍結の代替財源として内部留保への課税を検討しているのは良いが、それと同時に公共事業の削減も推進しており政府の投資を増やすことには否定的なようだ。

 

 経団連などは内部留保について「自由に使える預貯金とは違う」「設備投資や企業買収などで既に使われている」と説明するが、400兆円を超える額には現金・預金など換金可能な資産も多く含まれていて、一部を活用することは可能である。 

 その上、内部留保が増加する一方で、企業や家計の住宅に対する投資を表す「民間住宅投資」の額は1996年の28.1兆円から2016年の15.8兆円まで減少していて、「内部留保の多くが設備投資に使われている」という説明には無理があるだろう。

 

 

企業が海外進出するのは人件費が安いから

 更に、「法人税が高いと企業が海外に逃げ出す」というのも嘘で、日本は80年代後半から法人実効税率を引き下げているが、海外に拠点を置いて活動する企業の数を表した現地法人企業数は1985年度の5343社から2015年度の25233社にのぼっており、企業の海外進出はこの30年間で4.7倍にも増加している(図43を参照)。

 法人税が高くて企業が他国に逃げるなら、今より1980~90年代のほうが企業の海外進出が多くなければいけないが、実際には法人税の高い時代のほうが企業は国内で仕事をしていたのだ。

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 帝国データバンクは2011年8~9月に、海外進出率の高かった製造業七業種の企業のうち、海外への進出が確認できない4306社にアンケート調査を実施した。

 回答のあった1565社のうち、海外へ進出する意向を示したのは245社で、その理由(複数回答)は「海外市場の開拓」が173社(70.6%)、「取引先企業の海外移転」が82社(33.5%)、「円高」が78社(31.8%)、「安価な労働力の確保」が58社(23.7%)という結果になっており、「有利な税制(法人税や優遇税制)」を選択した企業は21社(8.6%)に過ぎない(図44を参照)。

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 また、経産省の「海外事業活動基本調査」(2015年度)でも、海外進出を決定した際のポイントについて企業に3つまでの複数回答で聞いたところ、法人税が安いなどの「税制、融資等の優遇措置がある」を選択した企業は9.1%と一割にも満たなかった。

 「円高」などその時の経済状況に左右される理由を除けば、海外に進出する企業の多くが法人税の安さより「海外市場の開拓」や「安価な労働力の確保」を求めているのが実情のようである。日本とアジア諸国の賃金格差が数倍以上存在する場合、人件費の安い地域に生産拠点を移すのは自然なことだろう。

 もし、企業の国外流出を防ぎたいのであれば、法人税減税よりも海外に進出する企業に対して課税を行うべきではないだろうか。

 

 

法人税率を戻せば消費税増税する必要はない

 安倍政権がアベノミクス自画自賛する理由として、よく「企業が過去最高の収益を上げている」という発言がある。確かに、企業の経常利益は2016年度で75.0兆円と過去30年間で最も多く、バブル期であった1989年の38.9兆円より1.9倍も増加している(図45を参照)。

 消費税を増税して個人消費が大幅に落ち込んでも、景気が悪化したように感じないのはこうした背景があるようだ。

 

 しかし、国の法人税収は80年代後半以降に基本税率の引き下げが繰り返されたこともあり、1989年度の19.0兆円から2016年度の11.1兆円まで減少してしまった。もし、2016年の経常利益に1989年当時の税率(40%)が適用された場合、単純比較で法人税収は36.6兆円にものぼっていたことが予想される。

 これは2016年度の法人税収と消費税収を合わせた27.9兆円より多いため、法人税率を一昔前の水準に戻せば、消費税を引き下げても社会保障費を捻出することは可能なのだ。

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 10月22日の衆院選に向けたマスコミの報道では、どうしても「安倍首相 VS 小池都知事」の構図を作り出そうと必死に感じるが、彼らが法人税減税を推進していることに変わりはない。

 このブログをご覧になっている方々には、是非とも消費税増税法人税減税の両方に反対している政党に一票を投じてほしいと思う。

 

 

<参考資料>

「人づくり革命」推進の企業 減税

https://www.houdoukyoku.jp/clips/CONN00371074

小池都知事会見詳報(1)「日本に足りないのは希望」

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20170925/mog/00m/010/002000c

消費税廃止各界連絡会

https://www.facebook.com/zouzeistop/

海外事業活動基本調査 -2015年度実績-

http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kaigaizi/result/h27data.html

法人企業統計調査

http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/results/index.htm

富裕層に増税して日本の軍事力を高めよう

消費税増税社会保障が充実するとは思えない

 9月25日、安倍首相は記者会見を開き、10月22日に衆議院選挙を実施することを発表した。2014年の衆院選と2016年の参院選では、選挙の前に消費税の引き上げ時期を延期したが、今回は増税延期の決断をせず、2019年10月の消費税引き上げを明確に争点化してきたと言えるだろう。

 安倍首相は「消費税収を全額、社会保障に使う」と言うが、その一方で自民党改憲案24条には『家族は、互いに助け合わなければならない』という条項が新設されており、これを削除しない限りどれだけ自民党が「教育無償化」や「介護離職ゼロ」を掲げても、『家族の問題は家族だけで解決してね』と自己責任論で見捨てる改憲案と矛盾することになる。

 

 また、自民党の中には麻生副総理が医療費負担について「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで、糖尿病になって病院に入っているやつの医療費はおれたちが払っている。公平ではない」(2013年4月24日の発言)と述べたり、山田宏議員が待機児童問題について「生んだのはあなた。育児は親の責任」(2016年3月31日の発言)と述べたり、大西英男議員が受動喫煙防止策について「がん患者は働かなくていい」(2017年5月15日の発言)と述べたりなど、社会保障の問題において自己責任を強要する発言が多く見られる。

 

 更に、『社会保障の充実を阻む「自己責任論」』でも述べたように、日本は先進国の中で最も貧困問題に対して自己責任論が強く、ベネッセと朝日新聞が小中学生の保護者を対象に行った調査でも、「豊かな家庭の子供のほど、より良い教育を受けられる傾向」があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した人が2008年の43.9%から2012年の59.1%まで増加している。

 日本で社会保障が充実しないのは消費税が安いからではなく、経済格差を容認し、貧困問題を自己責任で見捨てる国民の意識の問題なのだ。

 

 そもそも、都議選の惨敗から3ヵ月程度で衆議院を解散したのは、8月頃から北朝鮮の弾道ミサイルがいつ日本に落下してもおかしくないほど、国際情勢が緊迫化してきたことも背景として存在するだろう。

 もし、今後も北朝鮮がミサイルを発射して挑発を続けるようなら、安全保障に対する国民の不安の高まりから、財務省が「軍事費を増やすために消費税を引き上げろ!」と言い出す可能性も否定できない。実際に、明治時代から昭和初期まで税金は戦費調達のために存在していて、消費税の前身である「物品税」や、給料から所得税を控除する「源泉徴収」は戦時中の1940年に導入されているからだ。

 2011年3月に発生した東日本大震災直後の「復興増税」のように、どんな汚い手を使ってでも増税を煽ってくる財務省やマスメディアは許しがたいが、これだけ北朝鮮情勢が緊迫化する中で日本共産党社民党のような「消費税を引き上げる前に、軍事費を削減せよ」と主張するリベラル政党に支持が集まるとも思えない。

 

 

富裕層に増税して軍事費の財源を捻出すべき

 そこで、私は「所得税最高税率引き上げを財源として、防衛関係費を大幅に増額すること」を提案したい。例えば、世界恐慌の真っ只中だった1930年代のアメリカでは、当時のルーズベルト大統領がニューディール政策を行う財源として、所得税最高税率を24%から63~79%まで引き上げ、1950年代のアイゼンハワー大統領の時代には冷戦における軍事費を捻出するために、最高税率を91%まで引き上げている。

 この他にも、不動産に対する相続税率は1920年代の20%から1950年代の77%まで引き上げられ、法人税率も1929年の14%から1955年の45%まで増税された。戦後の高度経済成長期、日本人が憧れたアメリカの豊かな中流階級は、富裕層や資産家に高い税金を課して所得格差を解消したことで生まれたと言えるだろう。

 

 所得税最高税率を引き上げると、企業経営者たちの中には「どうせ税金で取られるなら自分が高額の報酬を受けるより、社員に還元したほうがマシだ」と考え、従業員の給料を上げて社内の福利厚生を充実させたほうが、会社にとってメリットが大きいのではないかという意識が働く。

 実際に、日本は2015年に課税所得4000万円以上の富裕層に対して、最高税率を40%から45%に引き上げた影響で、消費税増税による個人消費の大幅な落ち込みにも関わらず、民間企業の平均年収は2014年の415.0万円から2016年の421.6万円まで、2年間で6.6万円上昇している。

 

 消費税増税の賛成派は「所得税最高税率を引き上げると、富裕層の海外流出を招いて日本経済の活力が失われる」と言うが、年収1000万円以上の給与所得者は2014年の199.5万人から16年の208.2万人まで8.7万人増加し、100万ドル(約1億1000万円)以上の投資可能な資産を保有する人も、2014年の245.2万人から16年の289.1万人へと43.9万人増加しており、所得税増税しても富裕層が海外に逃げるという事態は発生していないのだ。

 

 日本の防衛関係費は、アメリカの同時多発テロ事件の翌年である2002年度の4億9557億円をピークに2012年度の4兆6453億円へと減少していたが、近年は周辺諸国の安全保障環境が厳しさを増す中で2017年度の5兆1251億円まで増加を続けている(下記の図40を参照)。

 更に、防衛省は2018年度における一般会計予算でも、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃に対する防衛強化などで5兆2551億円の軍事予算を要求し、今後も防衛関係費は増加の一途をたどると予想される。軍事費の財源として富裕層に増税すれば、景気を悪化させることなく国防を強化できるだろう。

 間違っても、太平洋戦争中の「ぜいたくは敵だ!」「欲しがりません勝つまでは」といったスローガンで国民の消費を抑制し、経済を疲弊させてはいけないと思う。

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<参考資料>

ポール・クルーグマン 『格差はつくられた 保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦略』(三上義一 訳著、早川書房、2008年)

和田秀樹 『経営者の大罪 なぜ日本経済が活性化しないのか』(祥伝社、2012年)

 

自民改憲案第24条は「家族の問題は家族だけで解決してね。国は保護しないよ」、「結婚する相手や住居を選ぶ自由は無いよ」というトンデモ内容だった

https://togetter.com/li/997432

「格差はつくられた」を読む(1)

http://www.geocities.jp/yamamrhr/ProIKE0911-108.html

平成28年分 民間給与実態統計調査

https://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2016/pdf/001.pdf

アベノミクスの3年で富裕層は1.4倍増と先進国トップ

http://editor.fem.jp/blog/?p=2431

World Wealth Report  Compare the data on a global scale

https://www.worldwealthreport.com/Global-HNWI-Population-and-Wealth-Expanded-Around-the-Globe

一般会計税収の推移

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/010.htm

防衛関係費の推移

http://www.mod.go.jp/j/publication/net/shiritai/budget_h26/img/budget_01_a.jpg

平成29年度防衛関係予算のポイント

http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2017/seifuan29/19.pdf

概算要求、4年連続100兆円超=社会保障、防衛費増-18年度

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017082501140&g=eco

安倍首相はただちに消費税増税を中止すべき

「デフレ逆戻り」こそ自民党が惨敗した原因

 7月2日に実施された東京都議会選挙で、小池都知事が率いる都民ファーストの会が49議席を得て勝利し、公明党追加公認した無所属候補などを合わせて小池氏を支持する勢力が計79議席にものぼった。その一方で、自民党は57議席から23議席に減らして惨敗し、過去最低だった2009年の38議席を大幅に下回った。この結果を受けて、安倍政権は8月3日に再び内閣改造を行った。

 自民党の敗因は国政で追及が続けられた森友・加計学園の問題に加え、豊田真由子議員の暴言や稲田元防衛相の失言などが挙げられているが、果たして原因は本当にそれだけだろうか?

 私は安倍政権のスキャンダルの他にも、消費税増税から3年経って日本経済がどんどんデフレ不況に逆戻りしていることも無関係ではないと思っている。

 

 実際に、NHKが今回の投票で何を重視したか聞いたところ、「景気・雇用」が27%、「教育・福祉」が29%とこの2つで半数を超え、「議会改革」の11%や「築地・豊洲市場への対応」の12%を上回っており、争点が都政だけでなく経済問題にも及んでいたことがわかる(写真を参照)。

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 安倍政権や日銀の黒田総裁は当初、「2%の物価上昇率を目指す」と発言していたが、総務省が発表している東京都区部消費者物価指数を見ると、2016年のコアCPI(生鮮食品を除く総合)は前年比マイナス0.3%で、2017年2~7月にはコアコアCPI(食料〔酒類を除く〕及びエネルギーを除く総合)が6ヵ月連続で前年同月比マイナスとなっている(図35を参照)。

 ちなみに、物価が下落してデフレになると給料も減少するが、厚労省が発表している実質賃金指数を見ると「きまって支給する給与」も2017年1月から6月まで前年同月比マイナスの状態が続いている。

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安倍政権になってから停滞する個人消費

 また、家計の「消費水準指数」も消費税を8%に引き上げた2014年4月から2017年3月までの36ヵ月中、32ヵ月が前年同月比マイナスとなっており、これは消費税を5%に引き上げた1997年4月~2000年3月の36ヵ月中、24ヵ月マイナスと比べても消費の落ち込みが激しいのである(図36を参照)。

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 この他にも、国民経済計算の「民間最終消費支出」(実質額)を見ると、リーマンショックから安倍政権初期までの4年間(2009年4-6月期~2013年4-6月期)では約19.9兆円も増えているのに対し、その後の4年間(2013年4-6月期~2017年4-6月期)では約1.7兆円のみの増加に留まっている。

 特に、安倍政権になってから消費税が引き上げられるまでの1年間(2013年1-3月期~2014年1-3月期)に限れば約9.8兆円増加し、その後は急激に落ち込んでいるため、いかに増税の影響が深刻なのかわかるだろう(図37を参照)。

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バブルの頃と現在では全く状況が異なる

 しかし、政府は「消費税増税による景気悪化」を決して認めようとせず、安倍政権を熱烈に支持する産経新聞の記者は、有効求人倍率がバブル期並みに回復したことを理由に、「アベノミクスは着実に成果を出している」と述べている。

 だが、実際にバブルの終わり頃だった1991年と2015年を比較すると、正社員で働く人の数は24年間で322万人も減少した一方、年収200万円以下で働くワーキングプア層は24年間で420万人も増加しており、いくら有効求人倍率が高くてもバブルの頃と今とでは全く状況が違うのだ(図38を参照)。

 ちなみに、消費税が5%に引き上げられた1997年と比較すると、正社員で働く人は18年間で495万人も減少、ワーキングプア層は18年間で317万人も増加している。

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 更に、安倍政権は当初、「アベノミクス第二の矢(機動的な財政政策)」として公共事業の大盤振る舞いを宣言していたが、政府の公共投資(公的固定資本形成、2011年基準)の額は2013年10-12月の27.0兆円から2017年4-6月期の25.8兆円まで約1.2兆円減少しており、安倍首相がアベノミクス自画自賛すればするほど増税後の景気対策は遅れ、財政も緊縮的になってきているのが現実のようである。

 竹中平蔵など、アベノミクスを評価する経済学者は「デフレの原因はマネタリーベースの不足なので、日銀が金融緩和を続けていれば景気対策は十分だ」と言うが、私は金融緩和や財政出動と合わせて消費税を引き下げることこそ、真のデフレ脱却につながると考えている。

 

 

消費税を増税してプライマリーバランスが悪化した

 ところで、消費税増税の賛成派は「プライマリーバランス基礎的財政収支)を改善させるために増税が必要」と言う。例えば、経済ジャーナリストの町田徹氏は「『基礎収支8兆円赤字』でも、バラマキしかしない安倍政権が痛々しい」という記事で、安倍政権になってから消費税10%への引き上げが2度延期されたことを痛烈に批判している。

 しかし、1981年以降のプライマリーバランスの推移を見ていくと、80年代に黒字化していたプライマリーバランスは消費税を導入した翌年の1990年の12.86兆円をピークに悪化を始め、5%を増税した翌年の1998年には金融危機の影響もあってマイナス46.99兆円まで大幅に悪化している。2014年に消費税を8%に引き上げてからも、翌年の2015年にはプライマリーバランスがやや改善したが、2016年になると再びマイナス16.54兆円からマイナス21.56兆円へと悪化した(図39を参照)。

 このことから、消費税増税プライマリーバランスには何も関係がなく、むしろ増税するとデフレ傾向になり名目GDP成長率が下がって、プライマリーバランスが悪化してしまうことがわかるだろう。

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バラマキ財政のほうがプライマリーバランスは改善する

 その上、「政府がバラマキ財政を行うとプライマリーバランスが悪化する」という主張も事実ではない。プライマリーバランスが黒字化していた1981~1990年はまだ物品税や消費税3%の時代で、政府の公共投資(公的固定資本形成、2005年基準)が25.8兆円から30.3兆円まで9年間で約4.5兆円も増加し、公共事業関係費は7.0兆円から8.2兆円まで約1.2兆円増額している。

 それに対し、2001~2010年にかけては消費税が5%で、政府の公共投資を33.6兆円から21.6兆円まで9年間で約12兆円も減少し、公共事業関係費は11.4兆円から6.4兆円まで約5兆円削減したにも関わらず、小泉政権で改善していたプライマリーバランスリーマンショック後の2009~10年で大幅に悪化してしまった。

 つまり、プライマリーバランスを黒字化させるには、緊縮財政ではなく経済成長こそが必要で、そのためには財政出動や公共事業の拡大など政府の「バラマキ政策」を行うべきだろう。

 

 ちなみに、8月14日に発表された2017年4-6月期のGDP速報(2011年基準)によれば、実質GDP成長率は年率4.0%、名目GDP成長率は年率4.6%と比較的高い数値を記録した。消費税を引き上げた直後である2014年4-6月期の実質GDP成長率は年率マイナス7.6%、名目GDP成長率は年率マイナス0.2%だったので、やはり増税を延期して正解だったことが数字にも表れたと言える。

 安倍首相は次の衆院選に向けて今すぐ消費税10%への引き上げを中止すべきだし、都民ファーストの会民進党増税反対を掲げて自民党を追及していくべきではないだろうか。

 

 

<参考資料>

【選挙アナリストが分析する都議選】知事の都政運営はどのように評価されたのか

http://go2senkyo.com/articles/2017/07/10/31146.html

10年前の夏とどこか似てないか? 「安倍降ろし」の裏に見え隠れする「憲法改正封じ」

http://www.sankei.com/premium/news/170703/prm1707030007-n3.html

「基礎収支8兆円赤字」でも、バラマキしかしない安倍政権が痛々しい

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52391

2月28日発売「消費税の歴史と問題点を読み解く」

本ブログの内容をまとめ、大幅に加筆した新書が2月28日に発売されます。興味を持っていただいた方は、書店やAmazon等で購入してもらえると有り難いです。

 

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目次

第1章 消費税の歴史(近代史から橋本内閣まで)

第2章 消費税の歴史(小泉内閣から安倍内閣まで)

第3章 増税グローバリズムのここがおかしい!

第4章 世界の消費税、軽減税率、所得税の負担率

第5章 消費税は社会保障に使われていない

 

内容紹介

 消費税は身近な税金である。しかし国税のなかで消費税は滞納金が多く、増税をしていくにつれて滞納額が増加するという問題点はあまり知られていない。また、消費税引き下げの議論はない一方で、法人税減税は行われている。

 本書では、消費税の導入から増税が繰り返される日本の歴史、欧米諸国との比較、消費税増税についての問題点を明らかにする。消費税に関して改めて整理し、増税後、国民の生活にどのように影響していくのか考察していく。

 

著者 大谷 英暉  ISBN 978-4-344-91106-2

新書186ページ 価格864円

 

 

消費税の歴史と問題点を読み解く

http://www.gentosha-book.com/products/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E7%A8%8E%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2%E3%81%A8%E5%95%8F%E9%A1%8C%E7%82%B9%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%81%BF%E8%A7%A3%E3%81%8F/

 

子どもの貧困・教育格差・自己責任論

59.1%の家庭が教育格差を容認している

 日本の自己責任論は生活保護バッシングだけでなく、教育の問題でも蔓延していることが確認できる。

 ベネッセと朝日新聞が2012年、小中学生の保護者(6831名)を対象に行った調査では「豊かな家庭の子供のほど、より良い教育を受けられる傾向」があることについて、「当然だ」「やむを得ない」と回答した人が合わせて59.1%も存在し、2008年の調査より約15%も増加している(図30を参照)。

 

 2008年から2012年にかけては、リーマンショック東日本大震災の発生など社会情勢が大きく変わり、不況や災害によって教育環境の変化を強いられる家庭が少なくなかったにも関わらず、教育格差を問題視する声はむしろ弱まっているのだ。

 

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 厚労省が公表している「相対的貧困率」は1985年の12.0%から2012年の16.1%まで増加し、「子どもの貧困率」も10.9%から16.3%に増加した(平成25年国民生活基礎調査)。相対的貧困率とは、全人口の所得階層のうち、中央値の半分未満である世帯員の割合を表し、子どもの貧困率は18歳未満の子ども全体のうち、貧困世帯に属する割合を表している。

 ちなみに、2015年の「相対的貧困率」と「子どもの貧困率」は2017年7月頃に公表予定である。

 

 特に、日本は「ひとり親家庭貧困率」が非常に高く、親が働いていない家庭(47.4%)よりも働いている家庭(56.0%)のほうが、貧困率が高いという特徴がある(図31を参照)。2011年のひとり親家庭は約146万世帯で、そのうち母子家庭が8割以上(約124万世帯)にのぼっており、母子家庭の80.6%は働いているものの、パート・アルバイトと派遣社員を合わせると52.1%と、非正規雇用が過半数を占めている(厚労省平成23年度全国母子世帯等調査結果報告」より)。

 国税庁の「民間給与実態統計調査」を見ても、女性の平均年収は男性の50~60%にしか満たず、男女の賃金格差が母子家庭の貧困率を増加させる原因になっているのかもしれない。

 

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 また、親の所得に比例して子どもの成績も良くなっていく「学力格差」の問題も深刻だ。お茶の水女子大学が2013年度に実施した小学6年生の全国学力テストの正答率と世帯年収の相関関係を分析すると、年収200万円未満の家庭では算数Aが67.2%、国語Aが53.0%だったのに対し、年収1500万円以上の家庭では算数Aが85.6%、国語Aが75.5%にものぼり、世帯収入の差で学力テストの正答率に約20%の開きが生じていることがわかる(図32を参照)。

 親の所得が高いと子どもを学習塾に通わせるなど、教育投資の額が増えて学力テストで良い結果を出しやすくなるのだろう。

 

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「子どもの貧困」問題に冷淡な日本社会

 しかし、日本の社会はあまりにも「子どもの貧困問題」に無関心だ。例えば、最近でも2016年8月18日にNHKニュースで、母子家庭の女子高生が低所得のため専門学校へ通う学費を捻出できず進学をあきらめてしまったこと、自宅にパソコンやクーラーがないという窮状を扱った内容の番組を放送したところ、ネット上では女子高生のツイッターを個人特定し、アニメのグッズを買っただの、高いランチを食べただの、私生活を徹底的に調べ上げて「NHKの捏造だ!」などと大騒ぎした。

 

 女子高生を誹謗中傷する書き込みの多くが自民党を熱烈に支持しているネット右翼によるもので、実際に片山さつき議員もネット上の誹謗中傷を鵜呑みにしてNHKに説明を求めたようだが、それ以上に問題なのは「先進国の日本に貧困問題は存在しない」「発展途上国に比べればまだまだ恵まれている」と勘違いした人があまりにも多いことである。

 今は海外を見渡しても、アメリカで貧しい人々もいれば、カタールUAEアラブ首長国連邦)でお金持ちの人々もいる。「先進国は豊かで、発展途上国は貧しい」という従来のイメージは崩れつつあるのだ。それに、「日本の貧困は発展途上国に比べれば恵まれている」と思っている人は何故、経済成長が著しい発展途上国の貧困を心配して、デフレ不況が長期化している日本国内の貧困を心配しないのだろうか。

 厚労省の人口動態統計によれば、2015年に「栄養失調」と「食糧の不足」で亡くなった人は合わせて1597名も存在し、「餓死」は決して発展途上国だけでなく日本でも起こり得る問題なのだ。

 

 また、子どもの貧困問題に冷淡なのは政府も同じで、例えば2016年6月19日放送のNHK日曜討論」では、山本太郎議員から子どもの貧困率が過去最高の水準に達していることを指摘された際に、安倍首相は「2012年までの数字しか出ていない。安倍政権とは関係ない」と言い訳した。しかし、子どもの貧困率は1980年代から長い時間をかけて上昇してきたのであって、安倍政権になってからの数年間で解決できる問題ではないだろう。

 その上、日本財団の推計では子どもの貧困を放置すれば、国民所得の損失は総額で42.9兆円、政府の財政収入の損失は総額で15.9兆円にものぼっており、社会的影響が非常に大きいとされている。

 

 

日本の公教育支出はOECD加盟国の中で最低

 日本では親が子どもの学費を負担すべきという意識が強く、教育費の公的支出もOECD加盟国の中で最低レベルである。「対GDPの公教育支出の割合」(2010年)はデンマークノルウェーで8.8%なのに対し、日本では3.8%にしか過ぎない(図33を参照)。この点は消費税が高く、子どもの教育費が安い北欧諸国との大きな違いだろう。

 特に、大学の年間授業料は70年代以降上昇を続けていて、1975年当時であれば東京都の公立大学は1万5000円、国立大学は3万6000円、私立大学は15万3000円と比較的安かったが、2015年には公立大学が52万0800円、国立大学が53万5800円、私立大学が74万5340円まで高騰している(図34を参照)。

 

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 更に、財務省は2015年5月に行われた財政制度等審議会で、「国立大は富裕家庭出身の学生が多い」という状況に甘んじて、文科省が定めている国立大学の授業料(年間53万5800円)を私立並みに値上げすることを検討した。日本では「消費税を上げて、教育費も値上げする」という方向で改革が進められているようである。

 元財務官僚で安倍首相の経済ブレーンとしても活動する高橋洋一氏は「東大を私立化して、裏口入学を認めれば数兆円が国庫に入ってくる」と言うが、東大に合格する学生の多くは中学や高校のうちから学習塾や予備校に通うため、多額の教育投資を行っているのであって、国立大学を私立化して学費が更に高くなれば低所得者や中間層出身の優秀な学生から敬遠され、東大の学力レベルは著しく低下するだろう。

 

 「対GDPの公教育支出の割合」が6.8%で、高負担・高福祉の国の一つと言われているフィンランドでは1991年のソ連崩壊後、経済が危機に見舞われて国家財政がひっ迫した際に、当時の教育相が「このような危機の時こそ、教育に投資することが将来の経済成長を生み出す」と考え、教育費の大幅増額を要求した。その精神が現在まで堅持されているという。

 日本で消費税増税に頼らず、教育費の公的支出を増やしていくためには、政府が教育予算を「負担」だと思わず、「国民を育てる未来への投資」だと考え方を改める必要があるのではないだろうか。

 

 

<参考資料>

大山典宏 『生活保護 VS 子どもの貧困』(PHP研究所、2013年)

高橋洋一 『日本は世界1位の政府資産大国』(講談社、2013年)

田口理穂 ほか 『「お手本の国」のウソ』(新潮社、2011年)

日本財団子どもの貧困対策チーム 『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』(文藝春秋、2016年)

 

学校教育に対する保護者の意識調査

http://berd.benesse.jp/up_images/research/all.pdf

平成25年 国民生活基礎調査の概況

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa13/dl/03.pdf

OECD Family Database

http://www.oecd.org/social/family/database.htm

平成23年度全国母子世帯等調査結果報告

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kodomo/kodomo_kosodate/boshi-katei/boshi-setai_h23/

平成25年度 全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究

https://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/hogosha_factorial_experiment.pdf

NHK「貧困女子高生」報道炎上~ネット右翼と融合する政治家~

http://bylines.news.yahoo.co.jp/furuyatsunehira/20160823-00061409/

日曜討論参院選22日公示 各党首に問う(2016年6月19日)

https://www.youtube.com/watch?v=-ajARkkJdvA#t=18m08s

小売物価統計調査(動向編)調査結果

http://www.stat.go.jp/data/kouri/doukou/3.htm

教職員4万人削減…「少子化」着目、歳出見直し案

http://saigaijyouhou.com/blog-entry-6466.html

見直される新自由主義とグローバリズム

2016年、EUからの離脱を決めたイギリス

 イギリスでは、1997年に従来の福祉国家にも新自由主義にも寄らない「第三の道」を提唱した労働党のブレア政権が誕生した。労働党は「政府の医療費支出を1.5倍にして、国民皆保険を再構築する」と公約し、医療システムを立て直した結果、国民が安心して経済活動を行えるようになり、2000年代半ばまで失業率も改善していた。

 しかし、近年ではリーマンショックによる景気悪化に加え、保守党のキャメロン政権が付加価値税増税や福祉予算の削減、大学授業料の大幅値上げなど緊縮財政を断行した。その影響もあって、2015年9月に行われた労働党党首の後任を選ぶ選挙では、最左翼のジェレミー・コービン氏が約6割の支持を得て圧勝している。

 

 コービン党首は、国民のための量的金融緩和をはじめとして、鉄道の国有化や大学授業料の無償化、10ポンド(約1500円)の最低賃金など反緊縮的な政策を掲げており、ブレア元首相が「自分のハートはコービンの理念と共にあるという奴は心臓の移植手術を受けろ」と痛烈に非難していることから、コービン氏の政策が「第三の道」とは全く異なる新しいものだということがわかるだろう。

 

 また、2016年6月23日にはイギリスのEU(欧州連合)離脱を問う選挙で、離脱派投票率51.9%)が残留派(同48.1%)をおさえて勝利した。この結果を受けてキャメロン首相は辞任し、7月13日にメイ首相が就任した。

 イギリスは、国外からの移住者が1980年の17.3万人から2014年の63.2万人まで増加しており、移民に対する国民の不満がEUからの離脱を後押しする形になったのだろう(出典:イギリス統計局 Migration Statistics Quarterly Report May 2016)。

 

 EUの指令では、単一市場の中で加盟各国の競争条件を公平にしようと、付加価値税の標準税率を15%以上に定めている。軽減税率も5%以上とし、適用できる対象も食料品や医薬品、新聞や本など21項目に限定している。

 離脱派ボリス・ジョンソンロンドン市長国民投票のキャンペーンで「離脱すればEU指令が適用されず、イギリスからEUに毎年拠出しているお金を使って、ガス代や電気代にかかるVAT(付加価値税)を引き下げられる」と訴えた。イギリスは2008~09年に付加価値税を17.5%から15%に引き下げていたが、15%より低い税率に減税し、軽減税率の品目を増やすためにはEUから離脱する必要があるのだろう。

 

 更に、フランスで近年議席を増やしつつある右派政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首も、イギリスのEU離脱を「自由の勝利」だと歓迎し、フランスでも離脱の是非を問う国民投票を実施すべきだと主張した。イギリスのEU離脱は、1980年代から続いてきた新自由主義政策やグローバリズムに終止符を打つきっかけになるかもしれない。

 

 

大きな政府」と「小さな政府」が対立するアメリカ

 アメリカでは、1993年に誕生したクリントン大統領が同年8月に「包括予算調整法」を成立させ、所得税最高税率を31%から39.6%まで引き上げ、法人税最高税率を34%から35%に引き上げた。その他にも、高所得者のメディケア(医療費補助)部門に増税する一方で、低所得者を対象とした住宅税額控除を恒久化するなど、第二次世界大戦後のアメリカを繁栄させた福祉型資本主義の復活を目指したのである。

 こうしたクリントンの政策は新保守主義者(ネオコン)から社会主義的だと批判されていたが、冷戦の終結やITバブルが追い風となって、1998年には財政赤字を解消することができた。失業率も1992年の7.5%から2000年の4.0%まで改善している。

 

 しかし、共和党の子ブッシュ大統領が誕生した2001年には同時多発テロが発生し、クリントン時代に黒字を続けていた財政は2002年から再び赤字に陥った。ブッシュはアメリカが福祉型資本主義に戻ってきたことを嫌い、独自の「ブッシュ減税」を提案して、所得税最高税率を39.6%から35%に引き下げ、債券や株式などの取引で譲渡益が発生した場合に課せられるキャピタルゲイン税の減税を行った。

 その結果、住宅バブルに支えられた経済成長が続いて、2004年を底に赤字は解消していったが、2008年にはリーマンショックが発生し、財政赤字は1兆ドル(110兆円)を超えてしまった。失業率も2009年は9.3%、2010年は9.6%と1980年代前半の水準まで悪化している。

 

 2009年には民主党オバマ大統領が誕生し、2月にデフレ抑制策として「緊急補正予算7870億ドル(約87兆円)を2年間で支出する」という法案を議会に提出した。この法案が可決されて財政支出が行われると、2011年からようやく景気回復が始まり、失業率も8.9%から2016年の4.9%まで低下した。また、実現こそしていないものの、アメリカの経済格差を縮小するために富裕層に対する増税が検討されている。

 オバマ大統領は新自由主義に否定的な立場で、共和党議員から「法人税所得税を引き上げると成長が鈍化する」と批判が出た際に、「そうした主張はレーガン大統領の時代に失敗した考えであり、議論の余地はない」と反論していた。

 

 

トランプ、サンダース、ティーパーティーの台頭

 だが、2009年からオバマの福祉政策に反対するティーパーティー運動が台頭し、2010年の中間選挙で共和党が躍進する原動力にもなった。ティーパーティーは、米国の植民地時代にイギリスが課した茶への重税に抗議する人たちが、ボストン湾に紅茶箱を投げ捨てた事件を現代に当てはめた「大きな政府」に反対する運動で、あらゆる新税は悪税というアメリカ人の税金嫌いを象徴する団体とも言える。

 2016年の大統領選でティーパーティーは、共和党の上院議員テッド・クルーズ氏を支持した。クルーズ氏は、2013年9月にオバマケア(医療保険制度改革法)を含む暫定予算の成立を阻止するため、21時間以上にわたって演説を続けるという歴史的な議事妨害を行い、その後の米政府機関の閉鎖と債務上限問題で、共和党の評判を下げた最大の「功労者」として挙げられている(ニューズウィーク日本版、2013年10月22日号)。

 

 それに対し、2015年から同じく共和党の大統領候補に「イスラム教徒の入国を禁止する」「メキシコとの国境に『万里の長城』を建設する」など過激な発言で知られる不動産王のドナルド・トランプ氏が台頭してきた。

 トランプ氏は、法人税減税や所得税減税など従来の共和党と変わらない減税策を推進する一方で、アメリカ企業が工場を海外に移転した場合に、「その企業が米国に輸入する製品には国境で35%を課税する」と表明し、企業にアメリカ国内へ留まるよう貿易の保護主義を主張している。

 

 こうした強気な政策を打ち出せるのは、トランプ氏がアメリカの政治を動かす上位1%の富裕層から政治献金をほとんど受け取っておらず、彼のビジネスで得た収入で選挙活動を行っていたからだ。そのため、過激発言も相まってトランプ氏を支持しない著名人は多いが、政治に対する国民の不満を上手く吸い取っているとの声も大きい(表8を参照)。

 テッド・クルーズ氏は2016年4月下旬に、トランプ氏の指名獲得を阻止するため、オハイオ州知事のジョン・ケーシック氏と選挙協力を行ったが、共和党候補が束になってもトランプ氏の人気を抑えることはできなかった。政治献金をほとんど受け取っていないトランプ氏が、多額の政治献金を受け取っている他の共和党候補に勝ったのである。

 

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 また、民主党の大統領候補でもトランプ氏と同様に、上位1%の富裕層から政治献金を受け取っていないバーニー・サンダース氏が大きな注目を集めた。サンダース氏は、貧富の格差を解消するために、富裕層と大企業への課税強化、連邦最低賃金を15ドル(約1650円)に引き上げ、公的医療保険による国民皆保険制度の導入、公立大学の授業料無償化など、福祉や教育を重視する政策を掲げており、主に若者から人気が高いとされている。

 2016年7月にはクリントン元大統領の妻であるヒラリー・クリントン氏が民主党候補に選ばれたが、サンダース氏の支持者は「ヒラリーよりトランプのほうがマシ」という人も多く、今回の大統領選では反主流派が支持されたようだ。

 

 

世界が衝撃を受けたトランプ大統領の誕生

 オバマ大統領の「富裕税構想」を引き継ぐ民主党クリントン氏と、レーガン大統領以来の大減税を計画する共和党のトランプ氏では経済政策に違いがはっきりしているが、一つだけ決定的な共通点も存在した。それは、TPPに関して明確に反対していたということだ。クリントン氏は、もともと2009~13年の国務長官時代にTPPの旗振り役を務めていたが、2015年7月に経済政策を発表した際には「雇用や賃上げに繋がるなら支持すべきだが、そうでなければ撤回も覚悟すべきだ」と慎重な表現に終始していた。

 更に、トランプ氏はクリントン氏以上の強硬なTPP反対派で「特別な利害関係をもつ奴らが、アメリカをレイプするためにこの協定を結ぼうとしてきた」「自動車産業でどれだけの雇用が失われるだろうか。破滅的だ」などと過激な物言いで批判している。トランプ氏は、NAFTA北米自由貿易協定)にも反対の立場で、アメリカの失業者増加に繋がっているとして交渉から脱退する意向を示した。

 

 2016年11月8日に実施された大統領選では、最終的に306名の選挙人を獲得した共和党のトランプ氏が勝利した。日本では安倍首相がTPPへの参加を「成長戦略の一つ」と位置づけているが、保護貿易を主張するトランプ氏が大統領に選ばれたことで、アメリカはTPP交渉から離脱する可能性が高くなってきた。

 経団連の米倉名誉会長は2010年10月に「日本はTPPに参加しないと世界の孤児になる」と発言していたが、これでは逆に日本はTPPへの参加によって世界の孤児になりそうな状況である。自民党は2012年の衆院選で掲げた「TPP反対」の選挙公約に立ち返って、TPP交渉を破棄すべきではないだろうか。

 

 大統領選の後もTPPを推進している国会議員は「どうせトランプ氏もそのうちTPP賛成に態度を改めてくれるだろう」と軽く考えているのかもしれないが、ウォール街から政治献金をほとんど受け取っていないトランプ氏がTPP賛成に変わる可能性は極めて低いと思われる。もし、トランプ氏が変節するようなことがあれば、間違いなくアメリカでは大規模な抗議デモが起こるだろう。

 

 しかし、泡沫候補と言われていたトランプ氏が大統領選に勝利したことは筆者も非常に驚きだった。歴史人口学者のエマニュエル・トッド氏は、イギリスのEU離脱とアメリカのトランプ現象について「行き過ぎたグローバリゼーションによる疲労」(グローバリゼーション・ファティーグ)が発生していると述べている。この動きは右派政党が台頭するヨーロッパ諸国でも加速し、自由貿易新自由主義を推進する自民党が安定政権を続けている日本も無関係ではいられなくなるのかもしれない。

 だが、トランプ大統領は今後、TPPに代わる「日米FTA」や「二国間貿易協定」を交渉していくとも明言しており、引き続き動向を注視する必要があるだろう。

 

 

<参考資料>

アメリカ大統領選挙研究会 『いまこそ知りたいドナルド・トランプ』(水王舎)

エマニュエル・トッド 『問題は英国ではない、EUなのだ』(文藝春秋

春原剛 『ヒラリー・クリントン その政策・信条・人脈』(新潮社)

萩原伸次郎 訳著 『バーニー・サンダース自伝』(大月書店)

松尾匡 『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店、全て2016年の出版)

 

イギリスがEU離脱した理由

https://wirelesswire.jp/2016/06/54327/

英国の「消費税」どうなる? EU離脱で減税説と増税

http://www.asahi.com/articles/ASJ6P3CDRJ6PUHBI00H.html

ティーパーティー」とは何者か

http://www.newsweekjapan.jp/column/ikegami/2010/09/post-229.php

トランプ氏「国外移転なら関税35%」 企業に改めて警告

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM05H15_V01C16A2MM0000/

 

サッチャリズムとレーガノミクスの功罪

失業率が高まったサッチャリズム

 何故、日本で消費税増税の代わりに法人税減税が唱えられるのかについては、1980年代にイギリスを席巻していた「サッチャリズム」まで遡る必要がある。

 

 第二次世界大戦後のイギリスでは「ゆりかごから墓場まで」と讃えられるほど社会福祉が充実していた。その代表的な例として挙げられるのは、1948年に始まった「国民保健サービス(NHS)」である。この制度では、国民全員が健康な生活を送る権利があるという認識に立って、医療費を国が全額負担していた。

 しかし、1970年代に入ると高い失業率財政赤字が問題となり、1979年に誕生した保守党のサッチャー政権は、国有企業の民営化や社会福祉制度の見直しなど、小さな政府による新自由主義政策を推進した。

 

 また、税制改革では所得税最高税率を1979年に83%から60%、1988年に40%まで引き下げ、法人税も1983年の52%から1986年の35%まで引き下げられた。その一方で、付加価値税(消費税)は1979年に8%から15%、メージャー政権での1991年には17.5%へと増税している。

 

 サッチャー新自由主義政策は、インフレ不況に苦しむイギリス経済を一時的に立て直すことには成功したものの、企業や経営者が短期的な収益を増加させることで、将来に必要な投資を怠り、生産性と国際競争力が著しく低下した。

 更に、イギリスの財政立て直しと引き換えに、福祉支出を大幅に削減し、国民の医療負担を増やしたために、多くの病院が経営難に陥って、医師不足や医療の質的悪化に繋がった。

 

 所得税減税について、サッチャーは「一生懸命働けば税金を取られることはない」と主張し、国民の支持を確固たるものにした。だが、イギリスの失業率は1980年の7.1%から1984年の11.8%まで上昇し、80年代後半には少し改善したものの、その後は1993年の10.4%へと再び悪化したため、サッチャリズムの代償はあまりにも大きかったと言えるだろう(図29を参照)。

 

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双子の赤字を生んだレーガノミクス

 アメリカで1981年に誕生した共和党のレーガン大統領も、サッチャリズムと同様に富裕層への減税が新たな投資を呼んで、経済を活性化させるトリクルダウン理論のもと「レーガノミクス」を提唱した。

 これによってレーガンは、所得税最高税率を1981年に70%から50%、1986年に28%まで引き下げ、法人税も1986年に最高税率を46%から34%まで減税した。また、軍事費を大幅に増額させる一方で、「財政を圧迫し、労働者の活力を削いでいる」として社会福祉の支出を削減し、運輸や金融など大胆な規制緩和を行った。

 

 しかし、レーガンが想定した富裕層の投資は起こらず、所得税法人税の減税によって税収だけが激減し、財政赤字を招いてしまった。更に、製造業が海外に生産拠点を移していたため、輸入が増える一方で、輸出が減って貿易収支の赤字が拡大し、アメリカでは財政と貿易の「双子の赤字」が発生したのである。

 

 その後、1989年に誕生した父ブッシュ大統領レーガンとは逆に、所得税最高税率を1990年に28%から31%まで引き上げたが、財政支出による景気対策を取らず、税率だけを引き上げてしまったために景気が悪化し、1982年の9.7%から1989年の5.3%まで改善していたアメリカの失業率は1992年の7.5%へと再び上昇に転じた。

 こうした経緯から1992年の大統領選で、父ブッシュは民主党クリントンに敗北している。

 

 

「小さな政府」が持てはやされる日本

 その一方で、日本ではサッチャーレーガンと親交の深かった中曽根首相が行政改革を進め、所得税法人税を減税し、売上税を導入しようとした。1980年代後半の日本はイギリスやアメリカと違い、好景気にわいていて中曽根改革が成功したかのように思えた。

 しかし、行政改革の後にバブルが発生したのは当時の日本がインフレだったからで、逆にバブルが崩壊してからは長いデフレの時代に入る。1990年7月には世界銀行からの借金を完済し、1991年以降は対外純資産の保有額が世界一となるので、この時点で「小さな政府」路線を終了すべきだったのであろう。

 

 だが、バブル崩壊後も日本は小さな政府を目指し続け、1996年の橋本内閣から現在の安倍内閣まで消費税増税に加えて、「規制緩和」や「歳出削減」が唱えられてきた。デフレに苦しむ日本経済はますます貧しくなる一方であるにも関わらず、未だに「日本が不況から抜け出せないのは構造改革が足りないからだ」と主張する経済学者も少なくない。

 1970~80年代のインフレの時代は生産性を向上させるために国営企業の民営化や規制緩和所得税減税などで経済を発展させたが、デフレ不況に苦しむ現代の日本では消費意欲を高めるために、規制緩和などの構造改革より財政出動や消費税引き下げを行うべきではないだろうか。

 

 

<参考資料>

菊池英博 『そして、日本の富は略奪される』(ダイヤモンド社、2014年)

マークス寿子 『「ゆりかごから墓場まで」の夢醒めて』(中央公論社、1995年)

山家悠紀夫 『「痛み」はもうたくさんだ! 脱「構造改革」宣言』(かもがわ出版、2007年)